2020/08/27 のログ
■鞘師華奈 > 「……うん、何か分かる気がする。睡蓮って、考え事とか没頭したり集中し過ぎると呟いてるイメージがある」
癖というのは本当なのだろう。すんなりと納得できるというか、読書ではないが彼女が思考を纏める時にぶつぶつ呟くのは何度も見ている。
ちなみに、女から見たら睡蓮は読書は好きそうだが文学少女のイメージは無い。
「――うん、そもそも行かないからね?わざわざそんな所に。
そんな所に足を運んでお金を落すくらいなら、料理本でも買ってレパートリーを増やすさ私は」
胸を強調する彼女の水着の胸元。ストラップの一本を指でぱちん、と弾く様子に何か得体の知れないドキドキがある。
「そもそも、私がそういうの見たいの睡蓮だし――ごほん。うん、ごめん何か我ながら変なことを言ってるね。
あーー開放的な空気だと、結構”漏れる”なぁ、と思う。割と自制していると思っていたのだが。
いや、相手が睡蓮だからかもしれないな…と、思いながら一息。
「――睡蓮、癖が思いっきり出てるよ。――別にそこまでご大層な事でもないさ。
ただ、すっきりしないんだよ――死んだはずの自分が生きてるってだけで”不自然”なのにさ。
その時の記憶も曖昧で――って、まぁ確かに死んでただろうから記憶が曖昧なのは当たり前なんだろうけどさ」
溜息。いつの間にかこちらも仰向けになりながらぷかぁ、と。
探しても見つからないかもしれない、分からないかもしれない。
そもそも形ある分かり易いものじゃない。求めるのは自身の現状の理由だ。
「目的の為には、情報とか色々必要だからね。性質が違うにしても同じ”異界”なら、少なくとも通じる何かがあるとは思う。
それで徒労に終わったら――どうしようかなぁ」
その前に命の危険もあるのだけど。だが、空虚さというのか、自分が自分という確信が持てない。だから、それが過小評価にも繋がっている。
■群千鳥 睡蓮 >
「――まあ。 嬉しくないわけじゃないし……」
褒められるのは擽ったい、と思うから。
少し照れくさそうに顔を逸した。
顔も躰も自信はある、が――そう、人に見せなくても良い。
刃を研ぐように磨いていれば良かった。しかし今後はそうも、いかない。
「ん……」
言われると、唇から手を離して、手持ち無沙汰に天井に伸ばした。
―――――。
落ち着かない。唇にふたたび指先をふれる。
いつもの癖だ。それをいつもの癖、と認識されてるのが妙な気分だった。
「何回か言ったよね。 "自由の刑"……、
"本質"はこの際どうでもよくて、どう在るか……"実存"を自分で決めて、
それに責任を持たなければならない、だから――。
……あたしは自分の"本質"が、あまりすきじゃない。
親からもらったものだとしても、あの"眼"の在り方が。
そういう事情もあるからさ、華奈さんのきもち、わかる、とは言えないんだ」
みずからの正体。"本質"、という、過去と現在に目を向けること。
そんなのどうでもいいじゃないか、というのは我儘だ。
こうして接して日常を生きるだけで楽しいと、
他人の生き方に口を出せるほど上等ないきものではないから。
ぽつぽつと口にしながら。 考えながら喋る――悪癖。
睡蓮は病人だ。
「……あたしといる時のあんたも。
"すっきりしない"みたいな感覚あるなら、ちょっと寂しいとは思うけど」
けれども、と少し強めに。
くらげのように流されるままだった躰を正対にして、床に両足をつく。
ざぷり、と水が鳴き、波紋を打ち――そのまま腕を伸ばす。
"飼い主"の証であるチョーカーに指を通すと引っ張って、
自分のほうに引っ張った。胸ぐら掴むみたいにして、顔を覗き込む。
「………ねえ」
■鞘師華奈 > 「…ん、まぁ嬉しい気持ちがあるってだけで私は満足だよ」
少なくとも不快ではない、という事だ。かといって、あまりジロジロ見るのも――いや、見たいからなぁ。
ともあれ、そういう店に行くつもりは無い。少なくともそんな店に行くくらいなら、睡蓮のこうした水着姿とかで眼福する方が絶対に良い。
(――いや、我ながら何を考えてるんだかね私も)
そう、冷静に省みる余裕くらいはあるのだけど、それを正せるかと言えば――…。
ともあれ、仰向けに浮かびながら一度目を閉じる――寝ては居ない。けれどそうしていると水に浮かぶ死体みたいだ。
――少なくとも、自分自身でそう思ったから。ゆっくりとまた目を開いた。
「――本質っていうかね…本当、シンプルなんだよ。
私は何で生きてるのか。…生きてるから、睡蓮や他の皆とも会えたし、こうしてプールで気ままに過ごせてる。
それはとても有り難い事だ――けど、だからといって、このまま人並みに何事も無く生きれる保証も無い訳でさ。
――私は、この先も確かに”鞘師華奈”でいる為にも、白黒はっきりさせないといけないんだよ」
例え、それがパンドラの箱を開くような愚かな行為だとしても。好奇心や義務感ではない。
私が私である為に――避けて通れない道なのだ。
ふと、その言葉にゆっくりと目を向ける。赤い瞳は炎の色、血の色―ー”命の色”だ。
「――少なくとも、睡蓮と一緒に居ると…私はほっとするかな。何だろうな…私は君に結構甘えてるのかもしれない」
それは行動だとか言動とかではなく、空気というか何と言うか…自分でもよく分からない。
ただ、少なくとも――…
「おっ…と?」
ざぶり、と水音。浮かんでいた体が急に引き寄せられた。
正確には、その首もとのチョーカーを掴まれてぐいっと引き寄せられた。
黄金の瞳に覗き込まれる――真紅の瞳で見返す。黄金と真紅が交錯する。
「―――何だい?」
”飼い主””売約済み””チョーカー”。先の買い物は楽しかったが、一番印象に残ったのは”これ”だろう。
少なくとも、アレから――ずっと、寝る時や入浴を覗いては身に付けている。
■群千鳥 睡蓮 >
「いいたいことは、わかった……理解、できてると思う」
リードでも引くように指に力を込めながら、躰を寄せた。
黄金の双眸で彼女の瞳を覗き込む。死を視る瞳。死神の鎌。
きょう、会った時も視えた。彼女もそれに気づいた筈だ。
それはしかしただの"本質"でしかなく――そう。
鞘師華奈を視ようとする、そう"在ってみせる"という意志でもって。
「でもたとえそれで、あんたが望む結果でないとしても。
あたしがあんたにわがままなこと言うかもしれないってことは、
覚えといてほしいかな。 こう言わないと、あんた気づかなさそうだし」
たとえばすぐ死ぬのかもしれないとか。まともに生きられないとか。
そういう事実が在ったとしても、では関係を解くかといえば。
このようにして首輪を引くような行為をしない確証はなかった。
「甘えてくれていいよ。別に。変な遠慮しないで。
明日も知れぬ身で、それが危険を侵さなければ知れないことなら。
きっとどっかでしんどくて不安なのかもしれないし。
全く頼られないよりは、まあ……うれしいから。
"あぶないことするな"なんて言わないから、さ」
冒険。険しきを冒すこと。それを成さねば手に入らない事実はある。
未踏峰や奈落に踏み込み自分を探すという空想のような在り方が、
彼女の物語の一節、あるいは序章であるならば。
だからこそ自分の存在を確認させるために躰を重ねるのだ。
「――あんたはさ、たまに"自分なんか"みたいな言い方してる。
さっきもそう。 自分の話なんかよりあたしの話を知りたいって。
さっきの――どうせ死人(デッドマン)だからとか?
まだ灰色の時の斜に構えた姿ひきずって。
自分がなんなのか、全くわかってない。あんたの価値を決めるのはあんたじゃない」
どうしても許せなかった。
自分を高く見積もる人間ゆえに、相手が自分を低く見積もることが、だ。
「あんたが"待つ"と言ったとき……、
あのひとは、嬉しかったはずだ。
――こういう言い方よくないな、あたしがその立場だったら、嬉しい」
ほとんど会話もしたことがない、"ともだちになろう"と言ってくれた相手を、
わかったふうに語ることはできない、けれども。
部屋に置かれた写真を見れば、きっと、あのひとは鞘師華奈のことが好きなはずだと。
「あたしはあんたに価値を見出してる。一緒にいたいと思ってる。
……危ないことするなら、あんたの帰りを"待ってる"あたしが居るとおぼえておいて。
本気でしんどいときは、助けを求めて。一緒に傷つくくらいはするから。
――あんたを視てるやつがいるんだ。卑下してないで、もっと自分を好きになって。
知らないところで死ぬようなまね、絶対にしないでよ」
じゃないと、どんどん好きになってる自分がバカみたいじゃん、と。
因縁つけるみたいに鋭く見つめながら、ひとつ釘を差しておいた。
■鞘師華奈 > 「―――…あぁ…。」
指に力がこめられる。これはただのチョーカーではなく…首輪、いや戒めでもあり。
死を見る瞳――それを見返すのは炎…いや、それとはまた別のもの。”命を見る瞳”だ。
――少なくとも。女が思っているほど、鞘師華奈は死人でもゾンビでもない。
ただ、肝心の彼女自身がそれにまだ気付けていない。気付けるのは…ただ一人。今、目の前でこちらの首輪を引っ掴んでいる”死神”だけだ。
「――確かに、私は回りくどい言い回しとか行動は苦手だからね…。
うん、成程――これは肝に銘じておかないと駄目かな」
どうやら、まだまだ”カッコいい女子”には遠いらしい。
少なくとも、目の前の大事な友達のほうが遥かに男前だなぁ、とか。
そんな事をぼんやり思う。
――一つだけ確かなのは、少なくともこの関係を解くつもりだけは絶対に無い。
「私さ――いや、睡蓮は気付いてるだろうけど、甘えたりするのがどうにも苦手というか甘え方が分からない、というか。
睡蓮にはこれでも甘えてるつもりだったんだけどね――まだまだ私の方で遠慮があったのかもしれない。
――と、いうより…少しは前向きになったつもりだったんだけどなぁ。まだまだだねぇ、私も」
あくまで、3年の傍観者気取りを終えてまた前向きになり始めたばかりだ。
だから、加減も速度も何もかも手探りで分からない。だから、ふと寄りかかりたくなっても、どう寄り掛かっていいかが分からないのだ。
――だから、きっと知らず知らず無茶をしてしまう。多分、そのつもりがなくても。
「――私の価値を決めるのは――私じゃない、か。
でもさ、染み付いたものがそうそう直ぐには消えないよ。
少なくとも3年間、こんな調子だったんだ…一朝一夕で改められないさ」
口を出るのは、どうしても弱気というか…素直に自分の価値を認められないもの。
一度死んだという事実は、記憶が曖昧でも女の奥底に傷跡を刻み付けている。
それでも、睡蓮の言葉を否定することは無い。その言葉に思う事はあったからだ。
「――そっか。……嬉しい…か」
言葉少なにそう答えれば、一度目を閉じた――そしてゆっくりと開く。
自分に価値を見出して、必要としてくれている…”見てくれている”人が居る。
その有り難さを改めて感じる――とはいえ、彼女にはまだまだ苦労をかけそうだが。
「――分かった…少なくとも、睡蓮の見てない所で野垂れ死ぬなんて真似はしないよ。
――だから――今度、裏常世渋谷に行く時に――”一緒に来て欲しい”」
彼女の鋭い瞳を静かに見返す。釘を刺されたのは勿論理解している。けど、人間そう簡単には変われない。
だけど、変わろうと少しでも前に正しく進もうという努力は出来る。
■群千鳥 睡蓮 >
「まぁ……いっつもベタベタひっついて、とかは。
性に合わない感じではあるから、さ。
たぶんお互いに、そうでしょ。 あたしだって甘え上手かはわかんないし」
いっつも一緒に居てどろどろに甘えるとか。
甘えて相手に望むなにかを引き出すとかは、たぶん。
お互いに不得手なほうだ。自分は家族に甘えて生きている。
彼女は――家族を遠い思い出にしている。だから、自分が現在に、未来になろうと。
"待つ"ことくらいは、許される筈である。
「ちょっとずつでいいよ。お互い、残された時間はまだあるんだからさ。
あたしだってほら――一緒にいるうちに。
華奈さんの気に入らないとことかきっと見せると思うんだよ。
そのときはがんばるけど……すぐにはうまくできないかもしんないし。
だから、そのときは長い目で見てよ……ねえ、」
だめなとこまで含めての相手なのだ。
ただ、想う人の愛までを、否定するような自己への過小評価は、
彼女の心を未だ孤独の灰に埋めてしまう気がするから。
「――すきだよ、華奈」
これを、評価とする。鞘師華奈の価値とする。
まっすぐに伝えた。
あの時、彼女の炎を見据えた時、焦げるのがこわくて顔をそむけてしまっていたから。
彼女が望んでくれる"すき"かは、わからない。自分にも未だ。
睡蓮は、おおくのひとのことが"すき"で、それぞれが全く違う色をしていた。
「……いーよ。 超強いあたしがついてってあげる。
でもま、人探しとか失せ物探しは得意じゃないからついてくだけになるかもだけど。
言ったからには責任持ちますよ。それが"おとな"だそうだから。いつでも連絡して?」
躰をそっと離すと、肩をポン、と叩いて。
真っ直ぐ求めてくれたのが嬉しい。
いや、以前も求められた気がするが――思い出さないようにしよう。
「まぁ学校も部活もあるし、これから忙しくなりそーだけどね。
学部っていうかちょっと変わって、これまで以上にいろいろ知らないといけない。
その、裏側っての?もさ、たぶんいい経験になると思う。
――あんたには言っとくか。
あたしは自分の"物語"、ひとまず見つけられたと思うんだ」
ぐっと伸びをしてから、ふう、と。
これはまだ、背中を追いかけると決めた先達にしか伝えていなかった。
この前もちょっと言ったよね、と。先日ほのめかしたこと。
しかし目指すなら秘めてばかりではいられない。
「――教師。 目指すから。 それがあたしの物語」
指先にて、売約済み証。猫のチャームを指で撫でつつ。
「先に見つけちゃったからには、パートナーは精一杯、サポートしますよ」
■鞘師華奈 > 「――うん、それは私も遠慮したいかな。付かず離れず…も、何か違う気がするけど、まぁそれに近いのかな」
少なくとも、常に一緒に居たりとか、そういうお互いを縛るような事はお互いが好まないだろう。
――けど、ふとした拍子に寄り掛かれる、甘えられる相手は欲しい。今までの自分には居なかった。
――きっと、この間までの自分はそういうのを我慢して、堪えて、避けていたから。
――鞘師華奈にはもう家族は居ない。記憶と思い出だけに残るそれ。だから、もう家族というのはおぼろげだ。
――指針が欲しい。今と、そして未来を示す指針が。――それが睡蓮であって欲しいと思うのは我侭だろうか?
「――まぁ、焦ってどうにかなるものでもないしね…。
ああ、きっと、お互いそういうのは見えてくるだろうし、その時は――まぁ、その時かな。少なくとも嫌いになるって事はないと―――……え?」
その言葉に――虚を突かれた。きょとん、と赤い瞳を丸くして。……あ、ヤバい。少し顔が赤いかもしれない。
すき、というのは色々な種類や意味があるだろう。変に誤解しては行けない。
だけど、あれこれとグルグル回る思考。――ゆっくりと深呼吸。あれこれ考えず、すんなりと浮かんだ言葉を返そう。
「――私も”すき”だよ……睡蓮」
価値だとか、そういうのは鞘師華奈には分からないから。
だって、睡蓮とは当然ながら価値観も考え方も何もかも違うのだ。
――違うからこそ、”すき”という気持ちを大事にしていきたいもので。
「構わないよ。単純にサポート戦力と知識――と、いうか分析とかお願いしたいし。
あと、あくまで調査というか探索だからね」
無駄に目立つ立ち回りをする気もないし。ともあれ、そっと体を離されればぽんっと叩かれる肩。
まぁ、求めるといっても、アレとこれではまた意味合いが違うからしょうがないだろう。
「―――睡蓮の物語、か。それは――知りたいかな」
どういう物語なのだろう?私は、まだその物語を歩み始めたばかりで、はっきりとした形にすらなっていない。
ぐっと伸びをしながら語る彼女の言葉に――女は一瞬沈黙して――そして笑った。
「――いい女教師になれそうだよ、睡蓮は」
だったら私は――何になりたいんだろう?なれるんだろう?いや、焦る事は無い。何故なら。
「じゃあ、未来の素敵な女教師さん。サポートを頼むよ…私にはきっと君が――群千鳥睡蓮という女の子が必要だから」
いや、むしろ君じゃなくては嫌だ、と。口にして微笑もうか。
■群千鳥 睡蓮 >
「ふっ―――あはっ!あははは!
いや、いま、すごく"勝った"感あったわ……!
やられっぱなしは、性に合わないし、うん」
赤い顔を見て、ああ、可愛いところやっぱりあるんだなって。
そういう弱いところを見せてくれた嬉しさに破顔して。
「――よかった。
華奈が同じ言葉返してくれなかったら、ちょっと泣いたかも」
あの時に拒んだことが正解だったのかはわからずに。
相手の望む自分になれるかはわからないが、その気持ちは大事にしていく。
すぐにもなにかを決める必要はない。結ばれるのは末でも良い。
「ま、資格課程って四年だけで終わらないかもだから。
本土に戻るまでにはまだ時間かかるかもだけど――目指しがいのある夢だ。
あんたが言ってくれたならそう、"善き先生"となれるように」
そうして応援してくれるひとがいるから、
「もちろん。 必要としてくれるなら。
こうしてお互いに"すき"を言える関係になったのも、きっと運命だ。
あたしとあんたがそうする必然性がきっとある――拒む理由はない、ね」
こちらも応援するのだ。
奪うだけのものにはなるまい。多くの人に手を引かれながらどうにか生きるから、
誰かの手を引けるものになりたい、恩を返していきたいという気持ちはうしなうまい。
「――ではまず学生の本分! きょうはたくさん遊ぼ!
勉強漬けになるかもしれないからさ~、泳げるだけ泳がなきゃ。
競争しよ競争。休みも残り少なくって、うかうかしてたらすぐ過ぎちゃう気がするし」
苦楽を共にできる相手。パートナー。様々な関係性の名前が浮かぶが、
まあ、どうあっても大事なのは間違いないので。
いまどうすればいいかは、とてもわかりやすかった。
おそらくは鞘師華奈にだけ向ける笑顔をみせて、手をさしのべる。
■鞘師華奈 > 「――私は、何かすごく”負けた”気がしたよ…。」
赤い顔を隠すように一度ざぶんっ!と、頭まで潜ってから思考を冷やそうか。
本当、睡蓮には何かついつい色んな面を見せてしまっているなぁ、と思うのだ。
「――流石にこの期に及んで嫌いとは言わないし、途惑いもしないよ。このキモチは本当だからね」
そもそも彼女に惹かれたのは最初のときからだったから。
結果的にあの時に拒まれたのは正解だったかもしれないけれど。
だから、今は焦らず自分たちのペースでやっていこう。
「――じゃあ、私は…そうだね。まずは胸を張って私の人生を送れるように」
その為に、自分の身に起きた事をきっちり知っておきたい。それがどんな内容でも、だ。
今と未来を見てくれる人が居るのだから、その思いに迷いというものはない。
「運命、というかは分からないけど――意味はあると思っているよ。いや、あるさ――私は信じてるよ」
意味の無い出会いなんて無い。無駄な出会いは何一つ無い――きっと、そうであってほしい。
運命論者ではない自分は、そう願い強く思うしかない。
「ああ、私もそろそろ進路あれこれとか色々始まりそうだし…ずっと公安に所属している訳にもいかないかもだしね」
割と今の職場は気に入っているのだけれど。ともあれ、彼女の言うとおり、今は遊ぼう。
競争は――もちろん負けない。多分、お互い譲らずに、もちろん遊びの範疇で思い切り競争しただろう。
自分と睡蓮の関係は――分からない。パートナーというのが一番しっくりきそうだが、色々な意味がそこに含まれる気もする。正直、お互いまだハッキリとは分からないだろう。
――それでも、”私”と”彼女”の第二幕はこうして夏の終わりの間近に始まるのだ。
ご案内:「破壊神の社プライベートプール」から群千鳥 睡蓮さんが去りました。
ご案内:「破壊神の社プライベートプール」から鞘師華奈さんが去りました。
ご案内:「夢莉の自室」に夢莉さんが現れました。
ご案内:「夢莉の自室」に227番さんが現れました。
■夢莉 > 「~♪」
夜。
珍しく早めに帰れた夢莉は、そのまま持っていたエコ袋をキッチンに置き、買ってきた食材から使わないものを冷蔵庫に放り込んだ。
まだ帰ってきていない同居人も、今日は日暮れ前に帰るといっていた。
今の内に夕飯を作っておいてやろう、というのは昨日の時点で予定していた事だった。
「色々買ったしなー。今日はカレーでも作るかっと」
猫の耳の生えている同居人の事を考えて、玉ねぎは入れないカレー。
玉ねぎが猫によくないというのはつい最近になるまで知らなかった。というか、普通は常識なのだろうか。
そんな事を考えながら、まだ慣れない手つきながらも食材を切っていく
沢山の量が作れて、大体目分量でも味が失敗しないカレーは、夢莉の数少ない得意料理の一つだった。
■227番 > 日はだいぶ沈んでしまっていて。
ちょっと帰るのが遅くなってしまったかな。
でも、ご飯の時間には、間にあってるはず──。
ドアの音がして、少女の声が部屋に届く。
「ただいま!」
この生活になってもうすぐ2ヶ月、といったところ。
流石に挨拶にも慣れたようで、すっと出てくる。
鍵を閉める音。靴を脱ぐ音。
いつもならゆっくり歩いてリビングへ……なのだが。
ばたばたと足音がして、帽子も脱がずに、荷物も持ったまま……
少女はキッチンに現れた。何やら興奮さめやらぬ様子。
「ゆーり!」
■夢莉 > 「おう、おかー…」
同居人は、普段から元気いっぱいという訳ではない。
子供の割に物静かな方…というのは、勿論まだまだ物事をあまり知らないが故に探り探りな所があるからだろうかと思っているが
それでも思い切りはしゃぐタイプではない。少なくとも夢莉の視点では、そう。
そんな同居人。ニーナと夢莉が呼んでいる少女が、今日はいつにも増して興奮ぎみだ。
「うわっ、あぁ、メシもうちょっとで出来るから待ってろって。」
同居人に起きた人生の転機など知る由もなく。いつも通りに、手洗って来いよーなどと言って。
■227番 > 「ぁ──えっと」
見れば料理中だ。それはそうだろう。
この時間にキッチンにいるのだから。
邪魔をするのは良くない。
失敗してゆーりがしょんぼりするのも見たくないし。
落ち着いて、冷静になろう。
一度深呼吸。息を整える。
とりあえず伝えたいことを話して待つべきだろう。
他の話は、ご飯を食べながらでも、出来るはずだ。
「わたし……名前、思い出した。……て、洗ってくる」
そう言って、洗面台の方へ向かっていく。
■夢莉 > 「へー、そんな事あったのk…って、あ!?」
料理に集中していて一瞬聞き流しかけ、はっとする。
なまえ、おもいだした。
名前を思いだした。
記憶喪失だった彼女の、目下の目標。
「ニーナそれッ、ホントk熱っつぅ!!」
思わず、煮込んでいた鍋の取っ手に間違って触る程にびっくりした。
勿論、熱々に熱せられていたので、反射ですぐに手は離すが
■227番 > 手を洗って、うがいもして、ついでに部屋着に着替えて。
なにか手伝えるかな、と戻って来たら。
なにやらミスをしたっぽい様子が目に入る。
後で話すべきだった……かも?
「……?大丈夫?」
とりあえず声をかけて、首を傾げて見上げる。
どうやら、去り際に呼ばれたのは聞こえていなかったらしい。
■夢莉 > 「だいひょーふだいひょーふ…」
火傷した指をちょこんと咥えつつ、大丈夫だと返事をする。
ひりひりするが仕方ない。兎も角、ふぅ、と息をつき
「あー、直ぐメシ用意するから、詳しい話は飯食いながらでいいか?
すぐできっからさ」
と
自分もだし、ニーナも話す事を考えるのに一息いるだろうと思い。
■227番 > 「……そう?」
少し心配そうに見るが、大事では無さそうだ。
ふぅ、と一息。
「ん、わかった」
手伝えることは特に無さそうだ……というか、背が足りない。
おとなしくテーブルについて待つことにした。
■夢莉 > 待つ事10分程…
カレーのスパイシーな匂いが漂っていき…
「ほれ、できたぞっと」
と、夢莉が2人前のカレーライスを用意してくれる。
「…で、思い出したって、何があったんだ?」
■227番 > カレーはスプーンで食べる。
箸は苦手だが、スプーンは流石にもう扱えるようになった。
「いただき、ます」
何も言われなくても、手を合わせる。
「んと……。ゆーり、ほっきょくせい、知ってる?
ポラリスって、名前の、星。
えいご?でポーラ、スター、って、いうんだけど」
■夢莉 > 「いただきますっと…ん、あー、えっと、いつ見ても動かねえ星だったけか?何か授業でちょろっと小耳にはさんだ気すんな」
勿論、マトモに聴いてはいないので詳しくはしらないが。
北極星くらいは知っている。
「にしてもポーラねぇ…人の名前みてえな名前なん…
あ?」
はっと察する。
そういう事?というようにニーナを見るだろう
■227番 > 「うん、その星」
すでに星だけに関してはこっちの方が詳しいのかもしれない。
それはさておき。
「ゆーかに、本、読んでもらって。それ、聞いた時に、思い出した。
誰かが、わたしの名前、ポーラとも、読めるって」
ポーラそのものが名前ではないが、ほとんど合っている。
じっと相手の目を見る。
■夢莉 > 「ポーラとも読める……って、じゃあほんとの名前は他にあんのか……
……なんて、名前なんだ?」
なんとなく、訊くのに勇気が必要だった。
ニーナ、と呼んでいた少女の、本当の名前。
それを思い出した事を、その名前を
自分は受け入れれるのだろうか。
■227番 > 「うん」
一拍置いて、匙を止めて。
もう殆ど食べてしまっているが。ペースが早い。
「パウラ。その誰かは、みょうじ?も言ってた……エストレーヤ。
パウラ・エストレーヤ。わたしの、ほんとの、名前」
Paula Estrella。
小さな星、と解釈できる名前。
■夢莉 > 「パウラ…」
パウラ・エストレーヤ。
ニーナと今まで呼んでた少女の、本来の名前。
「…まぁ当然だけど、ニーナとは一ミリも被っちゃいねぇな」
少しだけ苦笑した。
当然ではある、が…
しかし、親しくなり過ぎた相手の名前が、別の名前だったというのは
なんとも難しい感覚だった。
「でも…そっか。
…じゃあ、どうする?名前。
オレもパウラって呼んだ方が…いいか?」
■227番 > 「名前、ちょっと考えてた」
正直、そう呼ばれても、自分もあまり実感がない。
自分の名前のことを言っていた誰か以外で、その呼び方をする人も居ないのだ。
だから。
「わたし、名前、ニーナにしたい」
ゆーりが、皆がそう呼んでくれるから。
……他の呼び方する人も、そのまま呼んで欲しい。
「でも、パウラも、残したい」
そうは言っても、自分の名前だから。
なにか方法はないだろうか。
■夢莉 >
「…」
”ニーナにしたい”
”でも、パウラも残したい”
静かに、その願いを聞いた。
正直に。親としての「こうすべき」という理性を抜きにした感情で
何処かでニーナが思い出した名前の方で生きたいと言ったらどうしようと思っていた。
ニーナと呼びはじめ、ニーナとして共に過ごしていた相手。
それをいきなり別の名前の存在として認識して欲しいと言われて、そうかとすんなり受け入れれるかは、正直……不安だった。
何処かで、それが嫌だったのかもしれない。
それはニーナと出会ってから今までの事が、忘れた名前よりも軽い事になってしまうのではないかと思って。
大人気ない感情かもしれない。小さい事かもしれないが…
だから今の言葉に、少しほっとしている自分がいた。
そんな事、目の前の少女には言う事はできないが。
そんな思いを飲み込んで、彼女の言葉に、少し考えてから、こう返す。
「…そっか。……なら、ミドルネームってのは…どうだ?」
■227番 > 前にうどんを食べていた時に、考えといてと言われて。
それからずっと考えていたが、答えは決まらなかった。
わからないものを考えても、正直なにもわからないままだった。
ただ、名前を思い出した時。
それは自分の物とは思えなかった。
その場で、自分の考えは決まったのだ。
それはそうと。
「みどる、ねーむ?」
知らない概念。みょうじの他に、名前に部品があるのか。
■夢莉 >
「名前と名前の間にもう一個名前を入れんだよ。
ホントは親の名前とか入れるらしいけど……そういうのも、アリだと思う。
例えば…パウラ・N(ニーナ)・エストレーヤとか
ニーナ・P(パウラ)・エストレーヤとか…な」
どっちの名前ももっていたい、そういう方法と言われて、思いついた方法。
どっちも自分なら、どっちも併せて自分の名前として登録する。
それなら、常世の戸籍登録システムでも十分に出来る筈だ。
「それならパウラも自分の名前になるし、ニーナも自分になるからさ。
並びはどっちでも、ニーナの好きな方でいーよ。他の奴らも、好きな方の名前で呼ぶだろうし。
…どーかな?」
■227番 > 「……もう1個、名前をいれる」
どっちも自分の名前になる。十分だ。
名乗るのは、ニーナにするつもりだし。
それなら。それが出来るのなら。
「じゃあ、ニーナ、パウラ、エストレーヤ、にしたい」
少女は、真剣な表情で。
■夢莉 >
「ん、そっか」
じゃあ、そうすっか、と優しく言って。
ニーナの名前を大事にする彼女の姿に、喜びを感じているのは、そっと隠して。
「じゃ…こんど名前登録しにいかねぇとなぁ……
にしても、エストレーヤ、か……苗字……
家族、どっかにいんのかな。お前にも。オレじゃなくて……生みの親が」
ご案内:「夢莉の自室」から227番さんが去りました。
ご案内:「夢莉の自室」にニーナさんが現れました。
■ニーナ > 「うん。ありがと。……あと、おまたせ?」
大変待たせたものだ。名前登録。
困らせるのも、今日まで。
いまから、わたしは、ニーナ。
227という番号は持っているが、それはもう名前ではない。
「家族……わかんない。そこまでは、思い出せなかった」
■夢莉 >
「…いい親だったら、いいな」
いい親だったら。
それに越したことはないのだから。
色々言ってやりたい事はあれど、良い親であるなら…
でも、淡い期待だとも思っている。
いい親だったら、捨てる訳ないのだから。
何より
「(…親、か)」
”いい親”というものを、夢莉は、しらなかった。
ご案内:「夢莉の自室」から夢莉さんが去りました。
■ニーナ > 「……わたしの、おやは、ゆーりだけ」
小さく応える。それが相手に届いてるかはわからない。
「ごちそうさま、でした」
カレーをきれいに完食して、手を合わせた。
ご案内:「夢莉の自室」からニーナさんが去りました。