2020/08/30 のログ
ご案内:「破壊神の社プライベートプール」にフレイヤさんが現れました。
ご案内:「破壊神の社プライベートプール」に刀々斬 鈴音さんが現れました。
■フレイヤ >
先日聞いたプライベートプールへとやってきた。
自身の身体に消えない恐怖を刻み込んだ彼女がいるかどうか、内心ビクビクしながらの訪問だったが、意外と言うかなんというか、出迎えたのはアルバイトの女性が一人。
一緒に来た彼女にあまり情けない姿を見せるわけにもいかなかったので、バレないようにホッと一息。
「――結構ちゃんとしたプールなのね」
しっかりした造りのプライベートプール。
ジャグジーがあったりサウナがあったり、かなり本格的なそれ。
大きな浮き輪に身体を通し、それを腰当たりで支えながらちょっと感心。
■刀々斬 鈴音 > 先日伝えられたプールの話主人に早速話してみれば主人も知っていたようで早速やってくることになったのだ。
何故か少し、心配されたが問題は無い。鈴音は強い。
「鈴音、プールなんて来るの凄い久しぶり!ありがとうフレイヤ様!」
プールサイドで自らの刀のくぐもった掛け声に合わせて準備体操をしている水着の少女
前に百貨店で買ってもらった水着、いわゆるワンピースタイプの水着。かわいらしいデザインでフリルなどもついてる。
その背中には当たり前のようにいつもの刀が背負われているが…
……流石にプールに入るということで配慮したのかラップフィルムで鞘ごとグルグルに巻かれている。
■フレイヤ >
「良いわ。それよりスズネとは海に行くって約束してたのに、プールでごめんなさいね」
本来は海に行くはずだったのだが、タイミングが合わずに八月がもう終わりになってしまった。
彼女が傷痕を気にしなくていいとか、日焼け対策を多少気にしなくていいとかの利点はあるが、最初の約束を果たせなくて申し訳ない思いはある。
幼い身体を包む、過激な水着姿で彼女の方にぺたぺた歩いていき、準備体操を眺めて。
「ところでチーチャン――チグサレ、だったかしら。プールに持って入って大丈夫なの?」
気になるのはフィルムにくるまれた彼女の妖刀。
フィルムでくるまれてはいるが、それでプールに入るつもりなのだろうか。
水漏れしそう。
■刀々斬 鈴音 > 「ううん!フレイヤ様と行けるならどこでもいいよ!」
他のペットの面倒を見たり、スラム街ウロウロしたり、何かと忙しい主人である。
自分の為に時間を作ってくれたのが嬉しい!
折角買ってもらった水着も着れたのもうれしい!
「ちーちゃんはもうサビてるから大丈夫だよ!!」
『……普段はラップもせずに風呂などにも入ってるから問題は無いだろう。
しっかり、巻いてあるので血がプールに漏れることも無いだろう。』
ラップでくぐもったような無機質な声が聞こえる。
元々、妖刀で刀としての切れ味は既に存在していない。
故に問題ない。
「準備体操もういい?」
『いや、まだだ……いくらしてもし過ぎという事はない注意を払え。』
中々プールに入れない。
■フレイヤ >
「ふふ、そう言って貰えると助かるわ」
犬のような反応の彼女の頭を笑いながら撫でる。
ああ、なんてかわいいペットなのだろう。
「ふうん……? まぁ、チーチャンが良いならいいのだけれど」
それならそれでもっとちゃんとした防水をしたのに。
ラップでは何というか、見た目が貧乏くさいと言うか。
「――私もした方が良いわね」
浮き輪を外し、彼女の横にぺたんと座る。
そして見様見真似で準備体操。
泳ぐつもりはない――と言うか泳げないので必要ないかもしれないけれど、確かに準備にし過ぎが無いと言う彼?の言葉ももっともだ。
■刀々斬 鈴音 > 凄い笑顔で撫でられる。
恐らく犬のような尻尾があればそれをブンブンと振っていただろう。
犬だ。かなり犬だ。
『お気遣いは感謝するぞお嬢。
だが、私は妖刀。何も問題は無い。』
例えば海の底で放置されていたとしても再び地上にあがればもとの妖刀の切れ味を取り戻せるだろう。
それにしてもお嬢…お嬢て。
『そう、何事も準備が全てだ戦いもそれ以外も…。』
そんなことを言うこの刀の主が戦う前に準備を整えている事なんてほとんどないが…。
「もういいんじゃない?」『……もういいか。』
あまり準備運動になれてなさそうなご主人と共にそこそこの時間準備運動に費やした。
これなら泳いでる最中に足をつるなんて事もないだろう。
「やったあ!えい!」
容赦なくプールに飛びこめばそれだけの大きさの水しぶきが上がる。
プライベートなプールじゃなかったら怒られてしまう所業。
いや、これは危ないので普通に怒られてしまうかもしれない。
『鈴音、私は良いがそのブレスレットはサビないのか?』
「あっ!そうだった!!」
急いで上がる。忙しない。
■フレイヤ >
かわいい。
ないはずの尻尾が見える。
かわいい。
「私の大事なスズネの相棒なのだから、当然のことよ」
気遣うのは当然だと言うように。
そうしてチラチラ彼女の方を見ながら見様見真似で準備運動を終え、改めて浮き輪を装備してプールへ近付く。
そしたら、
「――わ、ぁっ」
急に彼女が飛び込んだ。
ちょっとびっくりして思わずしゃがみ込んでしまう。
発生した水しぶきをモロに被ってしまった。
「ああ、駄目よスズネ。銀製品付けたままプールに入ったら、黒くなっちゃうわ」
銀がプールの塩素と反応して黒くなってしまう。
そうなると還元が大変なので、一応声をかけておこう。
まぁ常世の技術力や何らかの異能であれば戻るだろうし、そうじゃなくても新しく作ればいいだけの話だ。
■刀々斬 鈴音 > 「そんな…戻る?」
泣きそうになりながらプールの端に置いてあったタオルで必死に拭き取る。
流石にそこまで塩素は濃くないので一瞬で黒く染まるなんてことはない。
見た目は変わらないがこの先、黒くなるのかもしれない。
「ご、ごめんなさい。フレイヤ様…。」
主人が簡単に戻せるとか、最悪新しいの作れるなんて事を考えているとは露知らず。
鈴音は一気に落ち込んでいた。
大事にするって言っていたブレスレット…。
それがもしかしたら黒くなってしまうかもしれない……。
怒られてしまう…。
■フレイヤ >
「大丈夫、ちゃんと綺麗になるわ。ならなくてもまた買えばいいのだし」
近寄ってもう一度撫でる。
この子は感情表現が豊かでコロコロと表情が変わる。
だからペットの中でも一番お気に入りだ。
安心させるような柔らかい笑顔。
「貴女の傷と一緒。黒くなっちゃっても、私はそれを含めて貴女を愛するって言ったでしょう?」
誇りこそすれ怒る理由など一つもない。
ただのペットの証ではなく、それぞれ一人一人がどのように過ごしてきたかの証だ。
黒くくすんだ銀でもカッコいいと思う。
「さぁほら、泳ぎましょ?」
手を伸ばす。
■刀々斬 鈴音 > 「綺麗になるの…?ならよかった。」
不安で泣き出しそうな顔から一転、撫でられれば一気に安心しきった顔になる。
安堵の表情、刀々斬鈴音が自らの主人以外には殆ど見せる事がない表情。
「うん!ありがとうフレイヤ様!」
……多分、これが愛情なんだろう。
鈴音の記憶にない感覚、温かくなって、安心して、なんだか泣きだしちゃいそうになる感覚。
主人の主人と前に話した事を思い出す。
愛情をもって斬れば…斬ってもきっと相手は喜んでくれる。
もし、この感覚が愛情ならば……そんな想いで人を斬ることなど無理だ……。
だって、斬られるのは痛いのだから。
誰だって……きっと斬られるのは嫌なのだから。
でも、それで自分の主人が喜んでくれるなら……
背中の刀を手で触れて……
「うん、泳ぐ!!」
迷うことなく主人の手を取る。
やはり、鈴音には無理だ、この少女を傷つけるのは無理だ。
もし、幾ら望まれてもきっと斬れない。
■フレイヤ >
「ふふ」
笑って手を取り、彼女とプールへ。
彼女が触れた刀には気が付かない。
そこまでのスキルはないし、なによりそこまで彼女を警戒していない。
だって、彼女はそう言う相手ではないから。
「……」
さて。
泳ごう、とは言ったものの、実は自身は泳げない。
泳げないと言うか、泳いだことがない。
プールの端っこでしゃがんだままプールの水面をじいと眺める。
■刀々斬 鈴音 > こんどは静かにプールに入る。
二回は飛び込まないし、しっかりブレスレットも外してる。
……鈴音は学習するのだ。
「どうしたの?入らないの??」
鈴音は泳ぎが苦手ではない。
身体能力の高さの為に普通に泳げる。(犬かきではない。)
「入ろうよフレイヤ様ー!冷たくて気持ちいよ!」
主人の想いなど知らずに水中から弱めにくいくいと引っ張るだろう。
■フレイヤ >
「う、うん」
頷くも、プールサイドでしゃがみ込んだまま。
ちゃぷちゃぷと揺れる水面を見つめたまま浮き輪を抱えている。
「じ、実は、泳いだこと、なくて」
困った様な顔。
浮き輪を持っていても水に入るのをためらってしまう。
「……よ、よし!」
そうして意を決したようにプールに脚を入れた。
そのままプールサイドに腰かけ、プールに滑り落ちるように。
「わ、わわ、わ」
ちょっとバランスを崩し、浮き輪にしがみ付く。
ぷかぷかうかぶお嬢様。
■刀々斬 鈴音 > 「フレイヤ様泳いだことないの?鈴音が教えてあげようか?」
『無理だ鈴音。お前には人にものを教えることは出来ない。』
否定が早い。
だが確かに鈴音には無理だろう。
「大丈夫!?フレイヤ様!」
助けようにもどう助けていいのか分からない。
あわわ…と手の前に口をもっていって困る事しか出来ない。
「がんばって!!!!」
■フレイヤ >
「ふぁ、は、――ふぅ」
何とか持ち直す。
地上と違ってふわふわする。
プールの僅かな波で揺れるのもなんだか不安だ。
「ス、スズネ……」
手を伸ばそうとするも、浮き輪から手を離すと落ちそうで怖い。
不安そうに彼女の方を見て、しかし移動もままならず水面で浮かんでいるだけだ。
■刀々斬 鈴音 > 「フレイヤ様、大丈夫だからね!」
近づいて行って自らの主を後ろから抱えるようにして支える。
この辺は鈴音ならば立つことが出来る深さになっている。
浮き輪と鈴音に挟まれてこれなら沈むことはないだろう。
「えと…一回あがる?」
とりあえず浮き輪は付けなおしたほうがいいのかもしれない。
安全はとても大事。
■フレイヤ >
「あ、ありがと」
抱きかかえられて安定する。
身長的に、浮き輪に掴まっているとギリギリ脚が届かない。
浮き輪が無くても脚は付くだろうが、口元ギリギリまで水面は来るだろう。
だから初めて水に入る自分には結構怖い。
「――大丈夫、よ。だって、スズネが支えててくれるでしょう?」
けれども彼女が抱いて支えていてくれるなら平気だ。
冷たい水の中でも人の体温を感じると安心出来る。
一番信頼しているペットである彼女ならば、尚更。
■刀々斬 鈴音 > 「うん!じゃあ鈴音しっかり支えてるね!」
さっきよりも更に体を寄せる。抱きしめているみたいに近い。
大丈夫と言うなら大丈夫なのだろう。
沈むことはないし…もし沈んでもなんとかする。
「フレイヤ様が水に慣れるまでしばらくこのままでいてあげるね。」
後ろから囁く。他に誰もいない屋内プール。
とても静かで時々水が揺れる音が聞こえるだけ。
■フレイヤ >
「ふふ、ありがとう」
後ろの彼女に振り向き笑顔を向けて。
彼女に抱きかかえられながら浮かぶプール。
冷たくて温かくて気持ちいい。
「――ねえスズネ、私泳いでみたいわ。泳ぎ、教えてくれる?」
そのまましばらくただ抱きしめられているだけだったが、先ほど彼女が言っていた言葉を思い出す。
泳ぎを教えてくれる。
彼女はそう言った。
「このままスズネに抱き締められてるのもいいけれど、私は貴女と一緒に泳ぎたいわ。ね、教えて?」
■刀々斬 鈴音 > 「えっ!うん!分かった!!」
人に泳ぎを教えたことは無いが…主人の頼みなら断るわけにはいかない!
絶対に泳げるようにしなくちゃ!!
主人から離れて……
「えーとね!こうやって……」
クロールで遠くに泳いでいく……
帰ってくる……。
「……こう言う感じ!」
何の説明にもなっていない、悲劇的なまでの教え下手!
誰にも師事したことのない人間が人に何かを教えられるわけがないのだ。
『鈴音、初めは水になれるところから始めたほうがよいだろう。
顔を水につけてみるとか……。』
背中の刀からの真っ当なアドバイス。
■フレイヤ >
「……それは流石に難しいわ」
浮き輪に掴まったままぷかぷか浮いて。
刀の言うことも最もである。
けれど彼女の泳ぎを見て、何となく進み方はわかった。
浮き輪を頼りに脚を動かして、ぎこちなくも彼女の方へ寄っていく。
「ねえ。手、持ってて。進んでみるから」
そう言って彼女へ片手を伸ばす。
両手を離すことは難しいが、片手ならば離すことが出来るようになった。
柔らかく微笑んで、手を掴んでくれ、と。
■刀々斬 鈴音 > 「ごめんね…。」
一瞬しゅんとするものの手を伸ばされれば嬉しそうに掴む。
片手ずつ手をつかんで両手をつかむ。
「これだったら行けるね!」
相手の足の動きには合わせて少しずつ手を引いて……
しっかりと泳ぎの練習をしてるっぽい光景になった。
「流石フレイヤ様!もう泳げてる感じがする!」
笑顔で自らの主を褒める。初めてでここまで動くのは凄い!多分凄い!
……実際はこの手を離せばすぐに息継ぎできずに溺れるだろう。
■フレイヤ >
「スズネは運動が得意なのね」
にこりと笑う。
そうして彼女と繋いだ手をしっかりと握り、浮き輪と彼女に頼ってバタ足を始める。
ばたばたと不格好なバタ足は、いかにも初めて泳ぐ、と言った感じで。
「ふ、ふう……結構、疲れる、わね……」
握った手は必要以上に強く握られているし、両手の離れた浮き輪からずり落ちないよう身体にも無駄な力が入っている。
その状態で慣れないバタ足をしているのだから、当然すぐに疲れてしまう。
それでもばちゃばちゃと不格好なバタ足を続けている。
だって、こうして誰かと遊ぶのは楽しいから。
■刀々斬 鈴音 > 「鈴音、運動すごく得意だよ!ちーちゃんのおかげ!」
本来の鈴音が持つ身体能力はまあ……普通の女子高生よりも低いくらいではあるが。
この妖刀が鈴音の力を引き上げている。
……だが急に高められた身体を十全にいかせてないというのはある。
「頑張って!フレイヤ様!もうちょっと…いや、あと向こうまでついたら一回休もう!」
ご主人と一緒にこうして遊んでいるのはとても楽しい。
普段からもっと、いつでも一緒にいたい。
……でもきっとそれは迷惑になってしまう。
でも今はもっと一緒に手を握って遊んでいよう。
疲れてるかもしれないけど……それでも付き合ってもらおう。
■フレイヤ >
ふう、はあ、と荒い息を繰り返す。
彼女の言葉に応えている余裕がない。
向こうまで。
あと、十メートルほどだろうか。
一度顔を下へ向けて必死に足を動かす。
初めて感じる水の抵抗、慣れない姿勢、全身に入った無駄な力。
何もかもが元々少ない体力を奪っていく。
そうして自身の腕を引く彼女の身体がプールの壁に付き、
「――あっ」
バランスを崩す。
浮き輪がぐるりと回り、その浮き輪が上半身へ伸し掛かるような。
そのままざぶん、と水に沈んだ。
「――っ、――!!」
がぼ、と空気を吐き出してしまう。
水を飲むことはなかったが、ぎゅっと目を瞑って何も見えない。
ばしゃばしゃと脚を暴れさせながら、繋いだ彼女の腕を手繰ろうと。
■刀々斬 鈴音 > 「フレイヤ様!!!」
手を握っていた、浮き輪に乗っていた、完全に油断していた。
でも、溺れてるわけじゃないこれはパニックになってるだけだ。
二人の手は離れていない。
「落ち着いて、大丈夫だよフレイヤ様!鈴音がいるから!」
浮き輪を払いのけ…腕を手繰り返して沈まないように体を支える。
今度は正面から、落ちつけるように抱きしめる。
「大丈夫、大丈夫だからね。鈴音がいたらフレイヤ様は危ない事なんて何もないから。
何があっても鈴音がついてるからね。」
いつも自分がされてるみたいに頭を撫でる。
■フレイヤ >
上下がわからない。
息が続かない。
苦しい。
ばたばたともがいていれば、急にぐいと引き上げられた。
ざば、と顔にまとわりついていた水の感覚がなくなる。
「――ぷあ! はぁっ! っげほ、ごほっ!」
思い切り息を吸い込む。
口の周りの僅かな水を吸い込み、咳き込む。
抱きしめられている感覚。
「はぁ、は、はっ、スズ、スズネ、うぁ、スズネ、スズネぇ……」
疲れもあってぐったりと彼女の身体に寄りかかり、荒く呼吸。
先日出会った少女に与えられた死の恐怖がにわかに蘇り、ぶるりと全身が震える。
思わず彼女の名前を繰り返しながら強く抱き締める。
水でちょっと下がった体温を、彼女のぬくもりで温める様に。
母親にしがみ付く子供の様に。
■刀々斬 鈴音 >
「……うん、怖かったね。鈴音はここにいるからね。
大丈夫だよフレイヤ様、鈴音が一緒にいれば何も怖くないからね……鈴音は強いから。」
刀々斬鈴音は勝てない。
昨日も負けたし、その前も負けたしなんなら今抱きしめているこの少女にも負けている。
人を斬った回数と同じくらい人に勝てずに逃げ出して。
でも、それでも刀々斬鈴音は自分の事強いと言う。
「……だから、大丈夫だよ。フレイヤ様怖くない、何も怖くないよ。」
再び頭をなでる。
自分がされて一番安心できるようにやさしく。
『とりあえず一度上がってはどうか?このままでは冷えてしまうぞ?』
間にはいるのは無機質な刀の言葉。
「プールあがろうかフレイヤ様?」
抱きしめたままでそう尋ねる。
■フレイヤ >
「は、はぁ、ふぅ……」
落ち着いてきた。
人の温もりに触れていると、落ち着く。
水に体温を奪われて少し寒い。
先日の体温を奪われたときのことを思い出し、ぶるりと身体が震える。
「――うん」
頷く。
しかし浮き輪もなく、プールの底に足も付かない。
泳ぐことも出来ないし、そもそもそんな体力は残っていない。
彼女の身体を強く抱きしめたまま顔を上げ、不安そうな顔。
「スズネ……」
今にも泣き出しそうな顔。
■刀々斬 鈴音 > 「うん!分かったフレイヤ様!」
スズネと名前を呼ばれれば身体を抱えて持ち上げる。
少女の身体は軽くてプールの中なら簡単に持ち上げられる。
リフトアップしたそのまま歩いて近くのプールサイドに揚げる。
そのまま自分も上に上がれば…
「大丈夫だった?フレイヤ様?」
恐らく大丈夫じゃなかった自分の主人に近くに置いていたタオルを渡す。
先ほどブレスレットを拭いたのと同じタオル。
■フレイヤ >
水の中と言うこともあろうが、軽々と自身を持ち上げる彼女。
運ばれる僅かな間、彼女の首に腕を回し、ぎゅうと抱き着く。
プールから押し上げられるときに一瞬彼女の身体から離れるのに抵抗しかけるが、すぐにやめてプールサイドに腰かける。
「――ええ、大丈夫。……ごめんね」
タオルを受け取り、それを抱きしめるように。
怖かった。
水がこんなに怖いなんて思わなかった。
ぶるり、と震える。
「……ねぇ、スズネ」
少し震える声。
近くにいるであろう彼女の身体のどこかをその震える手で触れて。
あの温かさが、欲しい。
■刀々斬 鈴音 > 「フレイヤ様が大丈夫なら良かった。」
もしも、この人に何かあったらとてもじゃないけど耐えられない。
剣で斬っても、銃で撃っても多分、無傷で済むだろうけど水に溺れれば死んでしまう。
人は死ねば死ぬ。
「うん…フレイヤ様。大分、身体冷えちゃってるね……冷たかったね…。」
名前を呼ばれれば近づいてまた抱きしめる……水中よりも抱きしめやすい。
同じ時間水の中にいたのに鈴音の方は温かい。
普段から運動してるというのもあるだろうがそもそも体温が高めなのだ。
■フレイヤ >
「ん……」
抱き締められる。
こちらからも彼女の背中に手を回し、抱き締める。
ああ、温かい。
人の体温の温もりが、とても心地良い。
「――こんなに弱いご主人さまで、ごめんね」
自分は弱い。
力も無いし、泳げもしない。
落第街で身を守る力も無い。
強い強いと自慢していたが、異能のおかげで死ににくいだけの弱い人間だった。
彼女に失望されないだろうか。
あれだけ偉そうにして見せた自分がこんなに弱くて、彼女に見捨てられたりしないだろうか。
ペットを辞めると言うのなら躾をして考え直させる、なんて考えはもう出来なかった。
だって、自分より彼女の方が強い。
自分より弱いものに従うペットなんていない。
「――ひとりに、しないで……」
そう考えるとつらくてかなしくて。
彼女の背中に回した腕に力を込めて、離れたくないと言うように強く強く抱き締める。
■刀々斬 鈴音 > 「……鈴音はね。今はフレイヤ様が強いから一緒にいるんじゃないよ。
初めのころは鞭で叩かれるの嫌だったからあれだったけど……。
えーとね…美味しいものも食べさせてくれるし…服だって好きなの買ってくれる…お金もいっぱいくれるし……。
家だって凄いところに住ませてくれてるし……。」
鈴音が求めているのは強さではない。
それよりも実益だ、何故なら鈴音は初めからとても強いのだから……。
強者の庇護を求めてるわけではない。
「後はね!鈴音はフレイヤ様がいつも撫でてくれるのが好き。
フレイヤ様が撫でてくれてるとね。本当にうれしくてあったかくて…。
フレイヤ様がご主人で良かったなって思うの。
だから、フレイヤ様一人になんてしないよ。
鈴音もフレイヤ様を撫でてあげるから……またいつもみたいに鈴音を撫でてね?」
自らの主人を抱きしめ返して彼女の頭を撫でる。
……自分がされて嬉しいように優しく撫でる。
……自分が主人を守らなくてはならない。
…前に守ってやって欲しいと言われていたがそんな事は言われるまでもなかったのだ。
「……ずっと一緒にいるからね。」
■フレイヤ >
彼女は自分が良いと言ってくれている。
こんなに弱い自分が良いと言ってくれている。
自分は、自分はただ、自分がペットにしたいと思っている者をペットにしていただけだったのに。
「――っ、ごめん、ごめんね、スズネ……っ!」
撫でられる。
温かい。
彼女の身体が、頭を撫でてくれる手が。
何より彼女から与えられる心が、とてもとても温かい。
「うんっ……いくらでも、撫でてあげるっ……スズネ、良い子だもんっ……いくらでも、撫でてあげるわっ……!」
彼女はきっと自分と同じように、愛を求めているのかもしれない。
誰かからの、自分を愛してくれている者からの愛を。
「わたしも、わたしも、スズネと、いっしょに、いるよ……!」
関係というのは一方的な価値観で勝手に与えるだけじゃ成り立たない。
いつか言われた言葉が、今更わかったような気がした。
■刀々斬 鈴音 > 「謝らなくていいよ。鈴音は強いから痛くても大丈夫。」
許している。もう、怒ってもいない。
未だに前聞いたみたいに痛みを求める事は理解できないけど……痛みは痛みのままで受け入れている。
「本当?嬉しい!じゃあ、鈴音もフレイヤ様が撫でてほしい時いつでも撫でてあげるね。
フレイヤ様もいつも頑張ってるもんね。鈴音は知ってるよ。」
頭を撫でる。
強くあろうと頑張っている彼女を……
ペットの主であろうと頑張ってる彼女を褒めて、認めて頭を撫でる。
「じゃあ、ずっと一緒だねフレイヤ様。これからも可愛がってねご主人様。」
ペットと主人。
あまりにも歪な関係、でもそれくらいでなければ元々歪んだ二人を合わせることなど出来なかっただろう。
プライベートの屋内プール他に誰もいないプールは静か。
■フレイヤ >
「っ、ぅ、うぁ、うあああああ!」
とうとう耐えきれずに泣き出してしまう。
温かい。
こんなにも温かい。
その温かさを受け止める器が小さくて、すぐにあふれ出してしまう。
「うん、うんっ……! ふ、うあぁ、わあぁあん!!」
温かい彼女にしがみ付いたまま、子供の様に――そもそも十二歳の子供なのだ――大声で泣く。
彼女が求めてくれるのならば、与えよう。
たくさんたくさん与えよう。
彼女からもらった、この小さな身体に収まりきらなかった愛を、零れた愛を全て彼女に与えよう。
本当に彼女が――彼女だけではなく、自分のペット全員が望むものを与えよう。
歪んでいるからこそ、ピッタリくっついたのかもしれない、二人。
プールはただ静かに波打つ。
ご案内:「破壊神の社プライベートプール」からフレイヤさんが去りました。
ご案内:「破壊神の社プライベートプール」から刀々斬 鈴音さんが去りました。