2020/09/13 のログ
神代理央 >  
山本と羽月先生の連携は、先ず男に一打浴びせる事に成功した様子。
しかし、男は倒れない。それどころか、返す一手で山本へ"針"を打ち込んだ。
羽月先生も、放たれた光刃をその身に受けている。針は幸いにも小竜が処理した様だが――負ったダメージは、決して無視できないものだろう。

更に、小型の真円を"薙ぎ払い"、上空へ飛んだ男から放たれた紫色の電流。
ダメージは、ない。しかし明確に封じられた己の一手。
それは、異形達へのコンタクト。音無き世界でも火力を投射する為の、己の異能が、止まる。
多脚の異形は次々と彫像の様に停止し、真円はふらふらと彷徨った挙句、文字通り"墜落"した。
己の身を守る為に配置していた大楯の異形も、動かない。指示が、送れない――

「――……っ…!」

そして、己に迫る二振りの光波を、受け止める山本。
それに言葉を発する暇も――尤も、叫んだ所で音は出ないのだが――なく、己に迫る男の姿。
己を庇うべき異形は、最早動かない。
完全に己の異能を理解した上で放たれたあの電流は、EMPと呼称出来る様なものだろうか。己の力の根源が、奪われた。

――ならば、己の身くらいは、己で守らなければ。
庇ってくれた山本にも、申し訳が立たない。

「 (術式二重構築――解放。各魔術詠唱省略。
収奪対象範囲、省略。収奪対象、『熱』エネルギー。
収奪魔力を全て己へ集中。遅延展開魔術解放。
『肉体強化』全魔力を魔力障壁へ展開。強度指定無し) 」

高速詠唱だの、魔術の同時展開など、出来る訳も無い。
だから、無理矢理に二つの魔術を行使する。あらゆる術式の展開を省略し、半ば強引に、魔術は発動する。
あちらこちらで燃え上がっていた焔が、急速に鎮火する。残暑残る筈の周囲の気温も、急速に下がっていくだろうか。

意志の無いあらゆる『熱』を吸収し、魔力へと変換。
それを其の侭、己のもう一つの魔術――『肉体強化』へ流入させる。
集中し、正常に術式が行使された状態であれば男のレーザーブレードを受け止める事は容易かった筈だった。
しかし、不完全に発動した二つの魔術は正常に発動するに能わず――

「―――………っ……!?」

収奪した膨大な魔力を活かせぬ儘、不安定な魔力の障壁は男に切り裂かれる。辛うじて両断される事は防いだものの、皺一つない制服は無残に切り裂かれ、己の躰は肩口から下腹部迄、縦にざっくりと切り裂かれる。鮮血が、吹き上がる。

だが、それでも。一瞬で意識が吹き飛ばされそうな痛みでありながらも。己を切り裂いた男へ、足を踏み出す。手を、伸ばす。
それは唯、男に抱き着こうとするかの様な、攻撃とも言い切れぬ程の緩慢な動作。血を流し、制服を鮮血に染めながら、それでも男の動き程度は封じられればと、男へ腕を伸ばした。

例えその腕が振り払われても、徒労に終わっても構わない。
振り払うだけの『一瞬』で、きっと仲間が何とかしてくれる。
ただ、それだけを信じて。

**** >  
光波の熱量はいともたやすくその人体を焼く。
皮膚を焼き焦がし、人の焦げる悪臭が漂うだろう。
幾ら鍛えて居ようと、等しくこの熱は細胞を焼く。
その痛みを苦痛を、一体どれ程耐えられるか。

『─────』

不意に、己の肩を焦がす炎が消えた。
否、此の反応は魔術か。ならば"吸収"されたようだ。
何かしらの対処をしようとしたようだが、結果は見ての通りだ。
"手応えあり"。肉体を焼き切り、飛び散る鮮血。
声なき悲鳴に合わせて、世界に急速に音が戻り始めた。
異能疾患際限の効力が切れた。騒がしい爆音、戦場の音。
そして、神代理央の苦痛の声が夜風に攫われる。

『時間切れか。そろそろ一人は────……!』

不意に、"人影"の体が大きく揺らいだ。
神代 理央の決死の一手。"自らを犠牲にしてでも、足を止める"事。
これが『鉄火の支配者』のやる事か。司令塔すら、コマだとでもいうのか。
いや、そうじゃない。そうなら恐らく、既に『自分事撃っている』
ならばこれは────……。

『──────此れは、"想定外"だ』

思わぬ、一手だ。成る程、ならば此方の計算不足。
甘んじてそれは受けよう。だが、"動揺"する程愚かではない。
その腹部を、レーザーブレードが貫いた。
神代の胴体を貫き人類の叡智の熱。
内臓を、肉を焦がし、全身を焼く熱を伝導させ、その人体に甚大な被害を及ぼす科学の毒。
確かに宣言通り、『一人はとった』
だが、同時に神代 理央の狙い通り、"戦場において致命的な停止を強いられる事になった"。

山本 英治 >  
羽月さんが光波に打たれた。
この野郎。この野郎………ああ、なんだろう。
なんなんだこの気持ちは。

身体の痛みを打ち消すくらいの衝撃。
あの神代理央が。時間稼ぎのために。
俺たちに、時間を作るために。

神代先輩!!

「─────ッ!!」

言葉にはならない。それがもどかしい。
それにしても。

この感情はなんだろう。
声にならない叫び。
心の声に耳を澄ませよう。

そうか。
この心に染み出した感情は。

怒りだ。

至純の怒り。

こいつは羽月さんを傷つけて。
神代先輩を刺し貫いて。
マリーさんを非道な人体実験に使って。
今も我が身を反省することなく戦闘を続行している。

赦せるはずがない。
激情が心を塗りつぶしていく。
燃え盛る怒りは異能を純化させていく。

 
筋力だけじゃない暴力を。
この手に。

サードステージ。
オーバータイラント・サードバースデイ。

 
蒼いオーラが全身を覆った。

俺の姿は蒼の残光を残してその場から掻き消える。
本能の赴くままに掌を手刀の形に変えて振るう。
それは高速の斬撃となってブラオに襲いかかる。

理解できる。これが俺の新しい力。
手ずから斬り殺す暴力。

高速移動と手足の瞬間的硬化、その異能の発露。

高速移動、斬撃、高速移動、斬撃、高速移動。
繰り返す殺害のみを目的としたアクション。
どうした? 周囲の足場を蹴る音が響かないのは、恐ろしいだろう。

 
殺意に満ちた、斬撃が。ブラオを執拗に狙う。

羽月 柊 >  
肩を抑えてたたらを踏む。
焼けつく痛み。痛みがまだ意識を保たせてくれる。

音さえ戻ればなんてことの無い攻撃だった。
自分が無力なことが腹立たしい!

そして……友が傷付く。仲間が傷付く。

子供が、あんなにも小さな子が、
俺や英治の為に、身体を張るというのだ。


──こんな状況下で、冷静になど…なれるモノか!!


その唇は、名を呼んでいた。



『   、    !!!!』



英治の"進化"に共鳴し、境界は揺らぐ。

羽月 柊 >  




 ──それは、安定には程遠い。

 ──遥か"未来"からの、瞬きの顕現。



 

胡蝶の夢 >  

 
  蝶が、飛ぶ。


 

羽月 柊 >  
柊の周りを熱気と冷気が取り巻く。
その時、柊は"音"に頼らずに、小竜の増幅器の役割を行使して見せた。


  胡蝶の夢《レム・カヴェナンター》


柊の異能は、親しいモノの能力を、契約するように"借り受ける"こと。
親しいモノの対象が、己の半身にも近い小竜だからこそ、
この奇跡の一瞬は成し遂げられるだろう。


今この時だけで構わない、奴を止められるのならば。


理央の身体を焼く熱を操って緩和する。

そして英治が狙うブラオの足を凍結させる為の冷気が、襲い掛かる!

神代理央 >  
男の動きは、止まった。
代わりに受けたのは"些細な傷"だ。
腹部を貫かれただけ。灼熱の刃が、己の躰を『中』から焼く、だけ。
ただ、それだけ。

「―――か、ふっ――」

男を掴んだ儘、血を吐き出した。
吐き出す血もまた熱い。口内が、火傷する様に熱い血の味で満たされる。
それでも、男の躰は離さない。単なる意地。『風紀委員』としてではなく『神代理央』としての意地が、男を離さない。


薄れる視界の中で、山本が力を取り戻したのが見えた。
蒼い残光が、美しく戦場を駆け抜ける。

羽月先生が、異能を発動させる。
己の躰を焼く熱は薄れ、男の足元に冷気が迫る。


全てはそれで良い。
盤上では、所詮"キング"であっても所詮は駒に過ぎない。
己がキングであるかどうかはさておき、駒を一つ消化する事で敵の一手が止まるのなら、それは有効に活用出来たのだと、自画自賛して良いだろう。

――それに、此の『ゲーム』はキングが退場しても負けにはならない。優秀な『ナイト』と『ビショップ』が、後は何とかしてくれるだろう。

「――……あと、は、まかせる。わたしは、すこし、つかれた」

男を掴んだ儘、掠れた声で。それでも、しっかりと。
仲間である二人に、笑いかけた。

**** >  
『……!』

山本の姿が、消えた。
刹那、己の肉体に痛みが走る。
鋭利な刃物だ。違う、異能が進化した。
剛力ではなく、鋭利な速さとなって襲い掛かってきている。
それだけならいい。"嬲る"心算なら幾らでも。
この神代理央を"盾"にすればいい。
突き刺した肉盾を使い、致命傷だけは避ける。
素早い動きと成れど、"殺す気"の一撃、急所を常にかばうようにすれば、それだけでいい。
"それだけ"なら……。

『────!』

実験のデータとしては十分だ。
山本英治の進化と言うおまけまでついてきた。
ならばもう、用はない。
離脱直前だが、足が動かない。
冷気だ。足を貫くような冷気がまとわりつき、足元が凍ってしまっている。
これは誰の異能だ。だが、理解する以前にそれは大きな"隙"だ。
そのスピードには、十分すぎる────。

『……致し方ない……』

レーザーブレードの光が、消えた。
神代 理央の肉体が力なく地面に落ちるだろう。


言葉とは、言霊だ。
それだけで"力"を持つ。
揺らぐ"人影"が、自身の喉を撫でた。

**** >  
『────』

言葉とは、言霊だ。
既に"手"は打った。此れで"止まらない"のであれば
この首が飛ぶか、胴が貫かれるか。
いずれにせよ、己の死は避けられない。
そこに頓着はない。ここまで来たら、後は己の"確率"に掛ける。

羽月 柊 >  

──柊が、眼を見開いて動きをビタリと止めた。

同時に、冷気が消え去った。

 

山本 英治 >  
ああ、ああ。そうか、そうかよ。
親友が。未来がその言葉を言うなら、口調が違う。
こいつは未来の死を汚した。

怒りだ。怒りが満ちる。
心を塗り潰す。
異能侵食率、70%オーバー。

殺してやる。

 
その黒い存在の首を刎ねた。
迷いもなく、慈悲もない。

 
何の感慨も湧かない。死んで当然だ、ザマァ見ろ。
そう思ってしまった俺を、後になって俺はどう思うだろう。

異能を切って荒い息を吐く。

「神代先輩! 羽月さん!!」
「雨夜先輩、今すぐ救急を頼む!!」

そこまで言って、片膝をつく。
俺も限界か……! サードバースデイは、再生能力が強いわけじゃないらしい。

このクソ野郎、死体を切り刻んでやる。
そう考えた頭を、軽く振って正気に戻した。

羽月 柊 >  
金色のピアスが揺れる。

無音の中で唐突に響いた愛しいヒトの声は、あまりに鮮明過ぎて、
瞬間的に引き上げられた胡蝶の夢は消え去ってしまった。

それでも、心の動揺を必死に落ち着ける。

『動揺を、生徒の前では見せてはならぬ』と、友の言葉を…思い出して。

しかし境界を越えて"未来を借り受けた"反動は大きく、
左肩の痛みと共に身体を襲う疲弊に、苦い顔をするのは避けようがなかった。

故に、ブラオの死を止めることも叶わず…。


周囲に音が戻って来る。

「……っ…、ぁ、ハ……ぐ……。」

漸く己から出た音を聞いた。
声の出し方を忘れたように暫く掠れた音を出しながら。

痛みに焼け付く頭から、どうにか言霊の為の言葉を探し出す。


「……『戦乙女の迎えは、…遠退く。現の揺り籠に、未だ我らは……包まれる。』」


癒しの為の魔術だが、自分ひとりすら満足に癒せないそれは、
せいぜい全員の致命傷が避けられる程度でしかない。

神代理央 >  
――どうやら、戦いに決着がついたようだ。
レーザーブレードが光を失い、己の躰は力無く倒れ伏す。

どの様な結末を迎えたのか。男が、どんな最期を遂げたのか。
それは、最早朧気な視界の中にぼんやりと映る程度。

だがそれでも。
仲間達は勝利した。そして、誰も死んでいない。
己の躰を癒し始める温かな魔術の光を感じながら。

――少年は、笑みを浮かべた儘。激痛と共に意識を手放した。

**** >  
死と言うものは、呆気なく訪れた。
そう言うものだ、これは。
黒い"人影"の首が飛んだ。
首が無情にもコンテナの上へと打ち上げられ、残された胴体はそこに落ちる。
科学迷彩は役目を終えた。そこに残るのは"人影"ではなく
一人の男の、死体のみ。


のちにデータベースで調べ上げれば、『ブロウ・ノーティス』と言う男が引っかかる。
異能名は『因果言報─ミスティックスペル─』
言霊を自在に操り、対象を揺さぶる異能。


かつて、此の常世島の教員だった男。
数年前に行方知れずになっていたらしいが、最早その理由を知る者はいない。


騒乱の幽世、常世島。
そんな騒乱の一つが此処に、幕を閉じた。

山本 英治 >  
頭痛がした。
あの声が響いた。

この野郎、最期に呪いを。

その発想に至るより前に、心に声が響く。
頭痛がする。ストレスでその場で吐く。

その姿を、その存在は詰る。

────汚いな、エイジ。

ヒトをひとり殺しておいて、被害者面はやめなよ。

ヒーローなんていなかった。幻滅するよ、エイジ。

何度でも、その声が。
響いた。

俺は精神にかかる過負荷に意識を手放し。

この悪夢が終わらないことを起きてから知ったのだった。

羽月 柊 >  
二人の意識が落ちる。

「山本、"神代"……、良く、頑張ったな…。」

小竜たちに心配されながら、
軽症とはいえないが、一番怪我の程度の軽い自分だけでも、意識を保つ。

向かえに来た救急隊員に説明をし、
応援に来た風紀委員にも状況を僅かばかり伝えた。

そうして、男はその場で『教師』をしてみせた。


戦った三人は、病院へと搬送される。

柊もまた、鎮痛剤などを処方され、
搬送の途中で二人に遅れて──意識を失う。


……久しぶりに聞いた声は、偽物であっても…確かに彼女の声だった。


 

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