2020/09/22 のログ
■伊都波 凛霞 >
二人のその時のやりとりや、表情が目に浮かぶようだった
思わず頬も綻んでしまうし、自然な笑い声も漏れてしまう
まだ実ってもいない恋の話
なのにこんなに素敵で、面白くて、楽しいのはなんでだろう
「山本くん、キザ~」
時には少しだけ茶化すようなことを言ったりもしながら、談笑は続く
死ぬまで忘れられない恋
そう、きっとそれが恋をしたものの大きな特権
恋は、希望しか詰まっていない幸せの卵
恋をしたこと…それ自体が既に幸福なのだろうと思う
恋なんてできない、そんな時期を過ごした少女には…それがよくわかっていた
それでも実った、結実した恋は大事にしなきゃいけない
そっと自分の胸に手を当てて、彼の、山本英治の言葉を深く刻み込む
「…そだね。待って待って、ちゃんと実が成った。
腐らせちゃったら、神様にだって怒られる」
キザったらしいのが感染ったかなかな~?なんて、照れ隠し
「私、聞くのも好きだけど話すのも好きだから───」
甘いものでお腹いっぱい、胸もいっぱいなら言うこともなし
ただし、甘すぎて虫歯にならないように注意?
そんな時間は蜂蜜のように、ゆっくりと時間をかけて流れてゆくのだろう──
ご案内:「学生街・とある喫茶店」から伊都波 凛霞さんが去りました。
ご案内:「学生街・とある喫茶店」から山本 英治さんが去りました。
ご案内:「カフェ『Hermit Eden』」に鞘師華奈さんが現れました。
ご案内:「カフェ『Hermit Eden』」に群千鳥 睡蓮さんが現れました。
■群千鳥 睡蓮 >
「よくこんなとこ見つけたねー……すっごい秘密基地っぽくてワクワクするわ……
……"隠者の楽園"、ね、ケレン味あってすきかも」
開幕から上機嫌であった。
調べてくれていたこともだし、誘われたことも嬉しい。
資格課程の修学に部活となると、なかなか時間も作れないからこそ、
こうした時間がずいぶんな癒やしになった。
「フライドポテトにピザよーし、飲み物よーし」
会議をするなら別に場所には凝らなくてもいいのだが、それはそれ。
たまのお出かけなら未開の地に行ってみたくもなるし、
新天地には胸が騒ぐ。こうして好みのスポットともなればなによりだ。
テーブルに広げられた子供舌御用達のメニューを前にして、
壁にかけたホワイトボードにバン!と掌を叩きつけて。
「始めよっか!情報共有!
……つっても、あたしが華奈のこと聞くだけになりそうだけど。
なんかこっちにききたいことあったら質問どーぞ、あ、ちゃんと手ぇ挙げてね!」
伊達眼鏡をくいっと上げて、ペンを手に。
常渋の『裏側』の探訪、そのさきにある目的のための第一歩。
これは作戦会議だ。
■鞘師華奈 > 「まぁ、裏常世渋谷には仕事や学業の合間に出入りしてるからさ。自然と表側のこっちも最近出歩いているんだよ。
…で、そうやってたら、こういう学生もあまり知らない”穴場”みたいなお店を幾つか見つけてね」
これでも、一応は公安の所属なので或る程度の情報収集・調査能力はある。
とはいえ、主に自分の足で調べたのが大半だけれど。”相棒”が上機嫌そうなので自然と口元が緩む。
彼女が教師を目指し、転部していたのも聞いているので忙しいんだろうなぁ、とは分かっているが。
「まぁ、睡蓮の息抜きも兼ねての会議ってやつさ。…頑張ってるみたいだしね睡蓮」
自分はまだ、明確な人生の『目標』が無い。その目標を見つけるには、まず乗り越えなければならない問題が一つだけある。
それに繋がるのが裏渋の探索であり、今回は睡蓮を連れての探索となるので、作戦会議は欠かせない。
とはいえ、周りにあまり聞かれるのもどうかと思い、こういうお店を見つけて来た訳だ。
「――と、いうか部屋入って速攻注文をしたり用意する睡蓮は流石だなぁ」
むしろ、ホワイトボードとか用意が万全過ぎないだろうか。いや、私が準備しなさすぎなのか?
バン!と、ホワイトボードを叩く睡蓮の仕草に我に返りつつ。
「そうだね――まず、裏渋探索についてだけど…基本、探索がメインで戦闘はなるべく避ける予定。
ただ、怪異も跋扈してるのは”体験済み”だから、場合によっては交戦は避けられない可能性もある。
――そこで、睡蓮に確認したい事が一つ。…睡蓮の運動能力の高さは身に染みてるけど…”本気”で動いたらどのくらい行ける?」
と、挙手を律儀にしてから確認を一つだけ。睡蓮を戦わせる気は全く無いが、逃げるにしても怪異の攻撃を回避したり、素早く立ち回る必要性が出てくる。
と、なれば睡蓮の運動能力の”現時点での”上限を大まかに知っておきたいのだ。
■群千鳥 睡蓮 >
「助かるなー……まー、ほんとは一緒に歩きたいんだけど、さ。
時間合ったら誘ってよ。そうそう歩き抜ける狭さじゃないんでしょ。
行ってないとこ色々あるんだろーし、こんどさ」
そういう"普通"の楽しみを、自分はいま強く謳歌している。
別々の時間があるからこそ会えた時楽しいというのもあるけれども、
彼女の歩いた視点で、いろいろ物珍しい発見をしたいという興味もあるのだ。
話題の共有は楽しいことだ。
「ン……いやいや、あたしならこれくらい出来て当たり前なの。
頑張るうちには入らないっつーか、まあ優秀な生徒ですからね。
ただそれでも時間がやっぱりね。 だから、こういうの、すごい嬉しい」
褒められればわかりやすく上機嫌になるが、それも高い自尊心あってこその得意満面。
ほんとは適当なところで行ってもいいことなのに、
ロケーションに凝ってくれるのは素直に感動を覚える。
負担にならない程度に、今後もわがままを言ってしまおう――という程度の信頼は生まれる。
「華奈のあのボワーッてやつ、体力使うみたいだもんな。
ドンパチは避ーけーるー……と……うん? どのくらい……」
活動方針、探索重視、交戦の場合あり――きゅっきゅとホワイトボードに板書していく。
きかれると振り向いて、どう答えたものかな、なんて首をひねる。
■鞘師華奈 > 「そりゃ、誘いたいけどね…ほら、教師になる為の勉強って、私はあまり詳しくないけど大変そうだしさ。
睡蓮の”夢”をあまり滞らせるのはどうかなって――まぁ、でも多分誘うと思うけど」
勿論、彼女が夢を追いかける間、私も私で目標達成の為に頑張らなければならない。
それに、仕事や学業を疎かには出来ない――だけど、なるべくこういう時間は取りたいものだ。
まぁ、作戦会議が本題だが――こうやって一緒に過ごすのも今回の目的なのは間違いない。
「――そうだね、方向性は違うけど私も睡蓮のように頑張らないと、ね。」
彼女の分かり易い上機嫌ぶりに笑みながら独り言のように呟く。そう、彼女が夢なら私は目標を。
――お互い、まだまだ学ばなければいけない事、乗り越えるべきハードルは多いのだろうけど。
「――あれ、出来れば周囲には秘密でお願いね?私の能力は表向きは1つだけだし」
苦笑気味に。”あの力”は消耗も激しいが、何より元々持っていた力ではないので副作用が正直読めない。
もっとも、睡蓮は好奇心は旺盛だが口はしっかり堅いのは分かっている。だからお願いはしたが何処か軽い口調だ。
「うーん、睡蓮が言い辛い所もあるなら無理には聞きたくないんだけどさ?
怪異の動きにある程度対応できないと、やっぱり逃げるにしても交戦を避けるにしても、ね。
勿論、色々こっちもアイテム用意してるから交戦の可能性は限りなく減らすつもりだけどさ」
どうしたものか、と考え込む睡蓮を見て補足するようにそう言葉を並べる。
あくまで探索が最優先――相棒を鉄火場に立たせたくないのが偽りなき本音だ。
「あ、それと探索の目標物だけど、大まかに言うと二つ。
一つは”情報”…裏常世渋谷は”異界”だから、その世界で起きる現象そのものが私には必要なんだ。
で、二つ目は”アーティファクト”。これはまぁ、分かり易く言えばアイテムかな。武器とか道具、その他用途不明の物も多いだろうけど。
それら二つを可能な範囲で回収して、使える物を選別しておきたいんだよね」
と、指を2本立てて探索の主目的の二つを睡蓮に伝えておく。
■群千鳥 睡蓮 >
「華奈だって委員会あるんだし、そこはいいっこなし。
……一緒にでかけたいんだーってば。 気分転換はお互い大事じゃん?」
苦笑しつつ、揚げたてのフレンチフライをひとつまみ。
かりっとした衣がなかなか良い。ケチャップの赤さに心を踊らせる子供舌。
「人に言いふらしゃしないってば。
内緒にしとくのは大事。あたしだって華奈にも色々見せてないしね。
表向き、異能はコレだけ……まあ嘘は言っちゃいないけど」
手元に古びた手帳を顕現させてひらひらと振る。
情報の秘匿は大切だ。とりわけ異能戦においては。
そう、自分にもまだ秘密がある。そして相手には交渉カードにする必要はなく。
「いや、どうこたえたものかなーって。どれくらいって言われると。
たぶん――そう、えっと、"実戦経験"はそれなりには……ある、かな。
怪異が出るってんなら、そういうの相手もやったことはあるし、そうだな……。
巻き添えにならないように気をつけてくれれば。
頼りにしてくれていいよ。お荷物になるなら連れてけなんて言わないって」
自衛や応戦程度なら問題はない、と断言する。
あとは彼女との戦場での相性。誰かと組んで戦う時のノウハウはない。
そのあたりは頼らせてもらうとして――ふんふん、と鼻を鳴らす。
「異界で起きる情報は要するに、あれだよな……?
こう……海に潜りたいから、とりあえず水に体を慣らすみてーな……?
……なんかトレジャーハンターみたい。 道具に武器にねえ。
黒い剣を呼ぶ魂喰らいとか、小説で呼んだよーなのも転がってたり」
それで、とホワイトボードをコツンと叩いて。
「行く目的はわかったんだけどさ。
そもそものとこがあたしはわかってないんだけど、聞いていいのかな。
華奈の生い立ちとか、むかしいた違反部活のこと。
あんたが……そう、一回死にかけた、いや死んで生き返った?ときのこと。
動機のそもそもの部分っつーのかな……
今わかる範囲で、あんたが何なのか、ってのをあたしは知りたい」
何の為に行くのか、その根幹が未だに見えてないのだ。
ピザをひときれ取り上げて、食べる。うにょん、とチーズが伸びた。あふい。
■鞘師華奈 > 「―――まぁ、何と言うか…うん、睡蓮とは出来る限りは一緒に過ごしたい、というのが本音ではあるし、ね」
うーん、何かこういうの照れ臭い。ピザを一切れ摘みつつ若干視線を睡蓮から逸らして。
勿論、お互いベタベタするタイプではないけど…一緒に今度は伸び伸びと何処か行きたいものだ。
「――まぁ、手の内を全部素直に見せるのは悪手どころじゃないからね…。
ああ、うん。だから睡蓮の”ソレ”についても私は詳しくは聞かないよ」
と、彼女が出現させた古びた手帳を指差して。きっと、手帳”だけじゃない”んだろうな、とは思っており。
「――巻き添え、というのが”どのくらいのもの”かによるけど…そうなると…ふむ、
睡蓮には”好きに動いて貰って”、私が動きを合わせるのがいいかな。指示は出すかもしれないけど、基本はその方針がいいかな、と」
自衛や或る程度の応戦は十分、と思っていいのだろう。巻き添えに気をつければ、彼女の動きにこちらが合わせる事も多分出来る…筈だ。
ピザをもぐもぐと頬張りつつ、頭の中で或る程度動きの方針を固めておく。
「そう、異界の法則でも特有の現象でも魔術とかの類でも何でもいい。情報さえあれば私の目的達成の助けになるし。私が目指す場所も異界みたいなものだからね。
――で、そんな場所でも使えそうな武器や道具が欲しい。手持ちのカードを増やしておきたいからね」
具体的にどういう物が欲しいか、というのはない。言ってしまえば節操無しに得る物は全て欲しい。
検証や選別はその後。まずは探索の間に入手できるものは全て入手しておきたい、というのが女の考えだ。
勿論、あまりに危険過ぎたり深追いが危険だと判断すれば、即刻撤退もきちんと考えてはいる。
「まぁ、トレジャーハンターであながち間違ってないさ」と、笑ってポテトに今度は手を伸ばす。
「――あーーそっか。…まぁ、そこ話さないと駄目だよねぇ。
まぁ、睡蓮になら別に話してもいいかな…とはいえ、私の生い立ちは別にそこまで珍しいものではないよ」
どちらかといえば、己の人生が激動だったのは違反部活時代とその最後の時だ。
フライドポテトをタバコのように口の端でぴこぴこと動かしつつ。
「まず、私の生まれ育ちは異邦人街なんだ。…あ、両親は普通に日本人だよ」
と、そもそもの生まれや育ちを話し始めて。
■群千鳥 睡蓮 >
「あたしの手ってのも話せるだけは話しておきたいけど……いや、
けっこうシンプルなやつなんだけどね、説明するとなると難しいっていうか……
とりあえず、信じてはもらっていい……と思う。
ただ裏っ側に潜ったことないし、そこらへんは色々と、華奈に教えてもらわないと」
腕っぷしはあくまで拳銃を懐に忍ばせるようなもの、自衛の手段。
探索において自分が役に立てるかというと、少し不安というのは事実だ。
未知は未知として、知に対して向き合わなければならない。
――異界、というものに若干興味をそそられているのも事実ではある。
「まあでも、あの……炎? の異能かな。
あんたがあれを使いこなせるなら、そこまで食い合わせは悪くないと思う。
ヤバいことに遭遇しないのがいちばんだけどね、暴力は――嫌いだし」
どうなるかはやってみないと。
炭酸飲料の刺激の甘みに酔っていると、椅子を引いてボード近くに座る。
真似をしてポテト――揚げたてだからしんなりならない――を銜えて、
「ふううん。島生まれ島育ち。
けっこう珍しいね。あんまり会ったことないかも。
……ってーと、ご両親はここに仕事しに来た人だったとかかな。
正規入島者……なんだよね。そこからなんだって違反部活に?」
頬杖をついて、聞く構え。
名前も、どういう違反部活に所属していたのかも、よく知らなかった。
自分のことをほとんど相手に話していないことに、若干の不公平さを覚えはするが。
■鞘師華奈 > 「――そこはもう”ぶっつけ本番”でいいと思うよ。私は巻き添えにならないように立ち回ればいい、と念頭に置いておくさ。
――まぁ、私も探索初心者だから教えられる事はあまり多くないけど…あ、一つまず大事。名前は呼ばないように。怪異に名前を知られると厄介だからね。言霊みたいなのがあると致命的だし。
私も探索してる時は『猛禽(ラプター)』って名乗ってるからさ。睡蓮も何か適当に呼び名を考えておいて欲しいかも」
勿論、裏常世渋谷の探索の間だけ、だが仮称みたいなものは考えておいて欲しい、とお願いする。
睡蓮の事に付いては、もう最初から”信じている”ので、疑う要素は一切無い。背中は彼女に任せる。
「――制御はまぁ最低限は。ただ、どのみち今の私じゃ短時間しか持たないから、アレは出来る限り使いたくないね。
一応、私も魔術とか武器とか独自に集めて手数を増やしているからそっちでカバーできたらいいなって」
まぁ、それでもいざとなったら。例えば睡蓮が仮に危なくなったら躊躇無く使うのだろうけど。
慎重な所は慎重だが、いざとなれば一切のリスクを度外視して突っ込む。この女の”危なっかしい”一端である。
「両親の前職とかは私も実は知らないんだよね。私が物心付いた時は、もう異邦人街で商売をやってたよ。まぁ普通の雑貨店なんだけどさ。
――で、その両親が”事故”で私が10歳の時に死んで――身寄りも他に居なくて疎外感を感じてね。
気が付いたら彷徨って落第街まで流れ着いてたよ。まぁ、そこでそれから5年間過ごしたんだけど…」
そこで、一度言葉を切ってこちらも炭酸飲料を一口。ふぅ、と一息つきながら。
「で、落第街に来てから少し経過した頃に『煉獄世紀(プルガトリオ)』って、違反部活に拾われてね。
…まぁ、ここの連中が凄い好戦的というか武闘派でさ。私も自然と鍛えられたよ。
…しょっちゅう、風紀や周囲の違反部活とか組織と小競り合い起こしてたし…けど、あの頃は楽しかったよ。
――私にとっての青春は多分あの5年間なんだろうね…血生臭い5年間でもあったけど、さ」
懐かしむように目を細める。ポテトをまた齧りつつ、視線と意識を睡蓮に戻して。
「けど、そんな違反部活だったから風紀も本腰を入れてね。…『特別攻撃課』…風紀の精鋭を送り込んできた。
…そこからは地獄だったよ。自業自得だけどね…仲間は誰一人降伏せず、全員戦って死んだ…リーダーも含めてね」
――全員の死に様は今でもはっきり覚えている。仲間…第二の家族だった連中だ。忘れる事は出来ない。
■群千鳥 睡蓮 >
「呼び名………ああ、コードネーム的な?
ふーん。 ……ふぅぅーん」
これは自分のメモに記しておこう。携帯デバイスのほうにだ。
明らかに気もそぞろになる。――単に、コードネームで呼び合うとか、
格好良いじゃん、と思う程度のセンスであるからだ。次までに考えておこう。
「そっちのやり方にケチつけるつもりはないけど、
とりあえずお互い、無事に出るってことは最優先ね。
悪いけど、ガチで危ない時にあんたが前に出たがったら、強引にでも連れて帰る。
土壇場でこれ言うの不公平だとおもうから、最初に言っとく」
これ言って、置いていかれるようなら――その程度の信頼ということだ。
相手からしたらどうなのか、度の入ってないレンズの向こうから、
まっすぐ彼女を見つめて、釘は刺しておく。
増えた手段に頼る。なんでも使う。実に即物的で前向きな思考だが、少しやはり心配だ。
「事故……」
気の毒なことだとは思う。家族が健在な身の上だから、不用意には突っ込まずに。
「プルガトリオ……たしか、罪を償う山、だっけ……」
父の蔵書に、そんな詩があった気がする。確かイタリアの、有名なものだったはずだ。
少し意外そうに彼女を見た。
「あんたが戦いを楽しい、っていうの。けっこう意外かも。
その部活に所属していたこと、そのものが楽しかったのかな……」
自分には理解できない領分だった。今の彼女からも想像はできない。
いま所属している部活は――まあ、楽しい。
本土でのアルバイトとそう違ったところはないが、充実感を感じているとすれば、
あの店の存在も小さくはない。
「……それで、あんたもその時に死んで。
"なぜか"……生き返った? その場で?」
ポテトをはむはむと口のなかにしまい込むようにしながら。
■鞘師華奈 > (…あーーこれ、睡蓮すごい一生懸命考えそうだなぁ)
明らかに気もそぞろになっている彼女を眺めて心の中でぽつり。
まぁ、実際に忠告された事だ――名前を知られれば呪で縛られる。言霊かそれに類する何かか。
元々、怪異に決まった法則や常識は通用しない。それでも、あからさまに本名を呼び合うよりコードネーム、はやっぱり大事だろう。
「――勿論。と、いうより…睡蓮が居てくれないとそういう所も自分の事ながら心配だし。
深追いはしない、形勢不利になれば即撤退。言い聞かせてはいるんだけどね」
つい、前に出そうになる悪癖の自覚は彼女なりにはあるようで。だから、いざとなれば気絶させてでも止めて欲しい。
勿論、そうならないように自分自身を戒めておかなければならないが…。
(…こういう所が私の治さなきゃいけない所なんだろうなぁ)
3年間の傍観者気取りが、その反動で今度は前向きに”なりすぎている”。
表向きは落ち着いているが、割と熱くなり易い所もあれば、不安定な所もある。
そう、目の前の相棒に比べたらこの女はまだまだ不安定な所があるのだ。
――両親の事故に付いては、それ以上は特に語らない。聞かれればあっさり答えるが、逆に言えば聞かれなければ語る事も無く。
「私はそんなに学が無いから、由来とかは正直分からないんだけどさ。
――いや、戦いが好きな訳じゃないよ。仲間たちと戦い以外でバカをやってる時間が好きだったんだ、私はね」
…けれど、仲間が戦いに臨むなら付き合ったし、手も汚した。自然と戦いの場数も踏んだ。
だからといって、血に酔いしれたり戦いにのめり込んだりはしなかったが…本来、戦いに向いた気質ではないのだ。
「…まぁ、そんな部活に最後まで所属してんだから、戦いを楽しんでた部分もやっぱりあったのかもしれないね…。」
少しだけ自嘲気味に笑って。そこを抜けなかった時点で、矢張り私も好戦的だったんだろうな、と。
「特別攻撃課は流石に精鋭中の精鋭だからね。即座に全滅はしなかったけど、あちこち転戦して…最後はスラムの最奥…『黄泉の穴』の辺りまで追い込まれた」
そこで、僅かに沈黙する――思い出すように、記憶に残る死の感触を無理矢理引きずり出すように。
自然と、呼吸が僅かに乱れてカタカタと震える。当たり前だ…私は死が怖くない、と言えるほど達観していない。
「…最後に生き残ったのは私とリーダーの二人だけ。対して連中は殆ど損害なし。
降伏を呼び掛けられたけど、リーダーは徹底抗戦してね…最後は半ば自爆みたいな形で数人道連れにして――…」
そして、
「――私も最後に一矢報いようとして…連中に半身を吹き飛ばされた。そして、そのまま黄泉の穴に落ちて――そこから先は覚えていない」
ただ、明らかに一度そこで息絶えたのは間違いない…だって、自分は確かに一度そこで”死んだ”のだと、最後の記憶と体に残る震えがそれを肯定している。
「…そして、気が付いたら私は病院のベッドの上さ。消し飛ばされた左半身も傷跡一つ無くてね。
…検査結果とかも異常なし…何故か”五体満足”で生還した、と。
…勿論、私も当時は混乱してね…それで、医者とかに問い詰めたものさ。
聞いた話では、私が黄泉の穴に落ちてから数十分後に何時の間にか”穴の外”に倒れていたらしい。
その時点でもう体の損傷とかは元通りだったらしくてね…で、まぁそのまま病院に担ぎ込まれたというのが顛末」
そこからは、3年間を怠惰に過ごして…やがて、あかねと出会って前向きになり…睡蓮とも出会った。
「――所々細かい所は省かせて貰ったけど、大まかに言えばこんな感じ、かな。
――だから、私には黄泉の穴に落ちてから…病院で目を覚ますまでの記憶が完全に無い」
■群千鳥 睡蓮 >
そうして聞いている途中から、意識はそこにはなくなっていた。
より深い部分、みずからの内側に視線を向けるようにしながら、
思索の表情。同情や悲しみ、というものはなく。
唇に指をあてて、とんとん、と叩いている、いつもの仕草を見せている。
壮絶な半生、だとは思う。
けれども、死とはそこに当たり前にあるもの。
戦えば、人は死ぬ。戦わなくなって、死はつきまとう。
生、病、老……死。
避け得ない運命。
彼女が語ってみせたのは、それだ。司法、校則という枠組みのなかで、
因果応報が起こっただけのこと――けれども、指を拭ってから、
彼女の手にみずからの手を重ねて握ってみる。
死への恐怖があれば、まだ、彼女は土壇場で踏みとどまってくれるはずである。
「ごめん。 途中で止めていいのかわかんなくってさ。
……だいじょうぶ?」
顔を寄せて、気遣わしげに告げた。
自分は少しずれているか、共感まではいかなくても理解はできるのだ。
それが辛い思い出であることなど、考えれば当たり前のこと。
自分の家族が失われることを考えれば、仕方ないと割り切る横で、
どうしようもなく哀しく恐い予想が、じわじわと腹部から総身を冷やすようだ。
彼女の語った過去に対する返答は、彼女が落ち着いてからだ。
手を握る……だけでは足りないかな、と、少し不安そうにもなる。
■鞘師華奈 > 自分は確かに一度死んだ――左半身を消し飛ばされて。再生能力や魔術の類は無い。
…つまり、自力での復活は『不可能』。鞘師華奈の死はその時点で確定していた。
で、あるならば――何らかの外的要因で”蘇生”されたに他ならない、が。
(――分かってはいたけど、一度死んだっていう事実は結構トラウマになるものだね…)
思索に耽る睡蓮を見つめる。”あの仕草”が出ているから凄く分かり易い。彼女の癖なのだろう。
体の震えが中々止まらない。割り切ったつもりでいても中々そうはならない。
だって、確かに一度死んだのだ…それが、自分が知らない間に蘇っていた…正直に言えば気味が悪い、違和感しかない。
だから、病院で目を覚まして、医者から事情を聞いて…その後に、色々あって正規の学生になっても。
(――体は生きていても心は死人みたいになった。今はマシになったけれど…)
そして、心がマシになると今度は疑問が再燃する。何で死んだ筈なのに生きている?
今の私は本当に私なのか?本当に真っ当な人間の状態なのだろうか?と。
それを確かめ、真実をハッキリさせたい――そうしないと、私は自分を信じきれないから。
「―――!!…あ、あぁ…うん、大丈夫。私は大丈夫だよ…。」
彼女の手が己の手に重なる。一瞬だけびくっ!と震えるけれど直ぐに肩の力を抜くように息を漏らして。
間近にある睡蓮の顔をゆっくりと見つめる――爛々とした黄金の瞳。眼鏡越しだけど綺麗だなぁ、とぼんやり思う。
「――ごめん、ちょっと軽く抱きしめて貰っていいかな?…ああ、いや。変な意味じゃなくてさ。ちょっと、睡蓮の体温を感じて落ち着きたいんだ…。」
少し躊躇ったが、彼女にそうお願いをしてみる。”すき”な人に抱きしめて貰ったら、この震えや体にこびりついた死の恐怖も少しは落ち着くだろうから。
■群千鳥 睡蓮 >
「……大丈夫じゃないじゃんか」
反射的に返った言葉を翻す様子に、すこし苦笑して。
ちょっと照れくさいものの、求められるがままに、椅子を寄せ、彼女の身体を抱きしめる。
力加減は――まあ、あまり得意じゃない。ちょっときつめだ。
ほんとうに、抱きしめるだけ。慰めることばも、愛撫も知らぬなれ。
「まあ、キツいこと言わせたもんな……気になったっていうか。
聞かないといけないかなと思ったんだけど、そりゃ恐いよね……。
ごめん、ちょっとその……うん、無神経だった……」
もっとうまい聞き出し方、なんてのもあったかもしれない。
まっすぐぶつかって強引に引き出しちゃ、こうなる。
その後悔もぶつけるようにして抱擁を強め……背中は撫でることなく、
掌を添えたまま。そういう色気のあることには、とんと疎いままだ。
でも、こうした接触を許し、そもそも密室に二人になる程度には、
気を許しても、いる。
「……でも。
考えなきゃいけない……たぶん、なんか嫌なこともこれから見なきゃかもだから。
自分の正体、なんて、とっても怖くて、デカい謎だもんな……」
顔を離すと向き合った。
運命を受け容れる心構えは、いつだって必要なのだ。
自分はそう在るべくして全霊で生きている。
彼女にそれを押し付けるつもりはないけれど……甘やかすだけの関係では、
おそらくは、ないはずだった。信頼には応えたい、とおもうのだ。
「…………話、つづけてもいい?なんだったら、このままでもいいけど……。
あ、いや、ちょっとは恥ずかしいけど、ちょっとだけだから、だいじょぶ」
ちょっと顔を赤くして、視線は逸らしながらも。
支えてあげなきゃいけない相手だ。
地に足がついてない感じの相棒をうっかり死なせましたなんて、多方面に顔向けができない。
■鞘師華奈 > 「…いや、ほら…私だって少しは格好つけたいお年頃だからさ……でも、あぁ…。」
”カッコいい女子”になりたい。目標とは違うがそうありたいと思っている。
だけど、実際は相棒のほうが何倍もカッコいい女子を体現しているな、と抱きしめて貰いながら思う。
少しきつめに抱擁されるけど、むしろ震えを止めるならそれくらいの方が有り難いもので。
ぎゅっ、とこちらもあまり強すぎない程度に睡蓮を抱きしめてその温もりと鼓動を感じた。
――彼女は生きている。…私も…少なくとも今は生きている。私は死人なんかじゃあない。
「――いいや、睡蓮に私の事情を知って貰うつもりではあったから、さ。
遅かれ早かれちゃんと話してたよ…それが今だったってだけで、さ」
真っ直ぐでも婉曲でも、話さなければならない事だ…思った以上に死のトラウマはきついけれど。
けれど、因果応報で死んだ筈の自分が、それから外れてまだ生きている違和感。
ずっと、ずっとこの3年間心の片隅にへばりついていた疑念。彼女に語って改めて思う。
無意識にもうちょっとだけぎゅっ、と睡蓮を強く抱きしめる…うん、落ち着いてきた。
「――分かってる。向き合って乗り越える為に…私は自分の死の謎を知る為にこうしているんだから」
黄泉の穴は異界だ――ならば、同じくまた異界である裏常世渋谷で情報と道具を集め、そしてそれを駆使して黄泉の穴を調べる。
それが女の目的であり、日頃からコツコツその為に彼女なりの準備を重ねている。
異界法則には異界法則を――そのくらいしなければ、生身の人間の自分があの穴の探索など出来ないだろう。
だから、顔を離されれば、しっかりと睡蓮と向き合って…静かに頷いてみせる。
情けなくて弱い所ばかり見せている気がするけれど、私はカッコいい女子になりたいのだ。
――何時までも弱いままでいるつもりはない。私は私の死を乗り越えて真実を知りたいのだ。
「ん、大丈夫。続けて……あーーうん、でもくっついてはいたいかな」
…あ、やっぱり駄目だ睡蓮にはちょっと甘えたくなる。相棒には世話を掛けてしまうけれど。
話は勿論続けて貰うとして、軽く抱き合う姿勢はもうちょっと続けたいなぁ、なんて希望するのだ。
■群千鳥 睡蓮 >
「じゃあ、このまんまね。 ……もしなんか怖くなったら、言ってね?
けっこーあたし、ずけずけ行くと思うんだ……いまもぐるぐる考えてる」
弱いところを見せられるとどうしても弱い。
自認のうえでみずからは強者であるがゆえに、支えるのが当たり前だ。
無茶な要求ではないはずで、顔を寄せたまま目を閉じる。
あらためて黄金の瞳をひらくと、二枚貝を開くようにして思考を解き放った。
「……。 すんごい、直球な話するんだけどさ」
彼女に抱き返されたまま――このまま誰かはこの部屋には入れたくない。
おもわずないしょばなしのように、ひそめた声音になりながらも、
視線はじっと真紅の瞳を覗き込んだ。
髪の色、そういえばメッシュは染色ではないとかいったっけ。
「あんたにはまた、あたしの知らない別の異能があるんだよね」
そっちを聞いたことはない。手帳に鞘師華奈の名前は記されていない。
そのため……でもないが、前提として聞いておく。
更に顔を寄せる。レンズが壁になる。瞳を覗き込む。
「あの炎、もともとは他のだれかの異能だったりとかしない?
……生き返った後に使えるようになったとか、そういうのは?」
■鞘師華奈 > 「――いや、甘えておいてなんだけど、私も流石にこれ以上はみっともない姿は見せたくないよ。
…分かってる。むしろ睡蓮みたいに切り込んでくれないと私も踏ん切り付かない所があったから、さ」
強者を自認する彼女と違い、女は自分を強者とは思っていない。弱者…とも言い切れないが。
だからこそ、不安定な面が拭いきれず、危なっかしい面も見え隠れする。
おそらく、彼女が一番そういう面を見ているだろうから語るまでも無いだろう。
(――けど、歯痒いな…支えられてばかりで、私は睡蓮に何も返せていない。支えられていない)
強者だから支えが必要ない?そうは思わない。だからこそ、睡蓮を支えたいが…この有様だ。
一方的に支えられるのは御免だ。私は、私なりに睡蓮を支えてやりたいのだ。
――顔を寄せられて己も目を閉じる。…私は、まだ何もかもが足りないままだ。
「――…うん?直球?」
赤い瞳をゆっくりと開いて。目の前の黄金の瞳と交わらせる。彼女の口から出た言葉に、少し瞬きをする。まるで内緒話みたいな秘めやかな言葉の音量。
「――ああ、アレか…正直分からない。さっき話したリーダーが強力な炎熱系の能力者だったけど。
…けど、多分それとは”別物”だと思う。少なくとも、リーダーの能力が私に宿った、とかそういうのではないかな。まぁ…。」
一度、睡蓮を軽く抱きしめていた手を片方離してから、己の髪の毛のメッシュじみた赤と、瞳の赤を交互に示してみせて。
「この髪や目の色は私が”死んで”から変化したもので間違いない。
私は元々完全に黒髪で染めたりはしていないし、瞳の色も元々は”青”だったんだ。
――あと、あの炎の力は…私が”目覚めた”時には何となく使い方がわかってた。
…推測するに――私の蘇生とあの力は関連性があるかな、と思ってる」
あの力を使う時は、黒髪は完全に赤くなり瞳の色も更に爛々と赤く輝く。
女の元々持っている能力はそんな事は全く無い――後天性なのは間違いない。
「つまり――蘇生後に使えるようになった、って事だねあの炎の力は」
――そう、告げる女の赤い瞳。黄金の睡蓮の瞳に一瞬、ではあるが”不死鳥”…火の鳥の幻影がちらついたかもしれない。
■群千鳥 睡蓮 >
顔を離して、示された「変化」を見守る。
死と再生によって目覚めた眠り姫は、ひとみの奥にはばたく、
不死鳥を伴って現世へ返り咲いた。
まじまじと、瞳を覗き込む――なぜ?なぜ?……なぜ?
「ちがったか……なんか継承したり、混ざったり。
そういうことがあったのかと思ったんだよね。
要するに華奈が"死んで、生き返った"ことに、
なんらかの作為があるんじゃないの、って」
その仕掛け人を、彼女の恩人たる違反部活の首魁とするには、
若干直球にも過ぎる物言いだったかもしれないが――わりと。
そういうところは、ある。考えて、吐き出す。
そうした一連の動作を、思い切り溜めて、一気にしてしまう。
すこしばかり、睡蓮という人間の欠点だ。
「いま見えてるものだけで考える……のは材料足りなさ過ぎるけど……。
すべては必然の連鎖。 華奈の蘇生……"転生"?
それにだってなんらかの因果関係は在ってそうなっている。
偶発的な事象、奇跡的な現象……という名前でも、"必然"は存在している。
死の運命を拒否する出来事が、ほんとうに、
"ただ、その場で殺されたから起こった"――のかな?
……って、あたしは考えてる、なにか他にも知らなきゃいけないことがあるような。
プルガトリオが危険な、強行的な、武装集団……
リーダーが"強力な炎熱の異能"を持っていることもふくめて、
華奈はいろいろおしえてくれたけど、そもそも。
その部活って、ただ『周りと戦うこと』を目的にしてたの?
なにかこう、創立の理念というか、共通の意志というか。
――そういうの、なかった? なんか……なんかさ。
違反部活・煉獄世紀とは何なのか、っていうか。
変に引っかかるんだよ、ね……、なんか……
まあ、あたし……ここでちょっとお世話になったひとに言われた通り。
あたまわるいのに考えすぎて、ぎゃくに"節穴"になることも、多いんだけど――」
どうなの、と。
胸を重ねて、じっと見つめてみた。
■鞘師華奈 > 黄金の瞳に覗き込まれる。こちらの全てを覗き込まれそうな、そんな黄金色。
――見返す真紅は揺るがない、怯まない。相棒のその見透かし見抜くような視線も受け止める。
――瞳の奥、不死鳥の幻影が死神に囁く。”オマエは何だ”と問い掛けるように。
「…少なくとも、リーダーは髪の毛が赤くなったりしないし、破壊特化の力だったしね。
…あ、睡蓮には言ってなかったか。あの炎の力…浄化とか再生の概念も内包してるみたいなんだよね。」
彼女の加速する思考に、更に加えられる1ピース。
そもそも、炎というのは破壊のイメージしかないように思われがちだが、神話や伝承には浄化や再生のイメージの側面も内包しているものが少なくない。
いわば、鞘師華奈のあの力は、炎を基点とした破壊と再生、そして浄化の力――と、いう事になるが…。
「――創立の理念、というか…基本はそこらの好戦的な違反部活と変わりなかったからなぁ。
あと、馬の合う連中が偶然集っただけのように……いや」
少し言葉を切って。何かを思い出すように目を閉じる。リーダーが言っていた言葉で何かあったような。
「不死鳥……輪廻……記憶と経験の引継ぎ…扉……人柱…陣は黄泉路の穴を基点に……贄…新生……私は…ワタシは…。」
思い出すように考えていたのも束の間、”何か”に触れたのかブツブツと独り言のように呟き始めて。
不意に赤い瞳を見開く。真紅の瞳が爛々と輝く。目の前の夢見る死神を見つめる。
『踏み込むか死神の娘―――それも良かろう』
鞘師華奈の口から、彼女の声で、彼女ではない何かの言葉。
爛々と輝く瞳は、真紅でありながら”底が見えない”。
…不意に瞳の輝きが消えて――…
「……っ!?……あ…。」
そして、何時もの女が”戻ってくる”。瞬きをしてから、やや呆然としていたが。
「…ごめん、何か少し意識が飛んでたかも……けど、何か少し分かった気がする。
――多分、私のあの炎の力には”意志”みたいなものがある、そんな気がする」
今しがたの記憶は全く無い。けれど、何か確信を得たのかそう口にする。
その瞳は既に何時もの鞘師華奈のものだ。睡蓮を見つめる瞳も、しっかり意志のあるもので。
■群千鳥 睡蓮 >
ちらつく不死鳥の翼が、声が、おそらくは"鞘師華奈の謎"ならば。
すくなくともそこに、引き下がるという選択肢はなかった。
深い真紅は、炎より血の色彩に見えた。けれども。
赤い闇に臆することはなかった。ただ、むしろ、ぐっと顔を寄せた。
みずからに問うものに、こたえてまた問い返すのは、
群千鳥睡蓮という人格の性質であり、
そもそもの――睡蓮の"人付き合い"の、根幹。
「死神なんて、よく言ってくれたもんだ。
……しょうがないでしょ。すきなひとのことなんだから」
失せてしまった輝き。巣に戻った不死鳥に、大きく息を吸い込んで、吐いた。
緊張感はあった。華奈が戻ってこなかったらどうしよう、というのは、
あの寝姿をみたときから常々抱いている不安だ。彼女に見せていないだけ。
すこしだけ頬を軽く撫でて、正体をうしなっていたパートナーの様子を伺う。
「いま、あんた違うだれかの言葉を喋ってた」
うなずいて、彼女の推察を肯定する。
「人柱だとか生贄だとか、そういうことばもいってた。
どうにもきな臭くなってきたけども、死んじゃった人のことは――まあ、
言っちゃえば、あたしからしたら"どうでもいい"……、
それらの因果がいま、あんたにどうやって絡みついて成しているかだ……。
まあ、要するに、あれだ……。
"燔祭"……生贄の儀式だ。どこまで仕組まれてたかはわからないけど。
あんたは"煉獄世紀"を贄として生み出された"なにか"みたい。
あるいはその"なにか"がなかにいる……かな。
あんたをつくるための組織だった、というのは――
陰謀劇とかエンタメ小説の読みすぎた、ちょっと読書してるだけの、
あたしの飛躍した妄想かもしんないけど……」
実感はあるんだ、っておでこをくっつけて体調を確かめた。
あるいは、"事故"の時からなんらかの作為があったかもしれない。
それは――しかし、現状は問うても応えのないこと。
「………情報、情報か。
外側でも調べられるかもしれないけど――、そう、ね。
"裏側の常渋"って、本屋……図書館とか、ある?
いや、情報がある場所ならなんでもいい、本のかたちをしている必要さえない。
なにかを成すために、おそらく無意識に――
"物語"は、生贄を求めている。
それは多くの"物語"が、類型的にやってきたことのはずだ。
しかるに――必然的に。
その"物語"を成した仕掛け人は、どこから情報を手に入れたのか……?」
なにか、聞いていなかったかなと。
そもそも……"なんとなく"であれ、常世渋谷を華奈が無自覚に"求めている"ように見えることに、
裏があるのではないか。思索の瞳でもって、どう思う、と問いかけてみる。
■鞘師華奈 > ――死神に対する不死鳥…死を司る者と死して蘇る者。似てるようで全く非なる者同士。
だが、彼女たちは死神でも不死鳥でもない。”人間”でありただ一度の今を生きる者たちで。
『オマエならば真実に辿り着こう――努々、この娘から目を離さぬ事だ』
最後に、睡蓮の脳裏にそんな”誰か”の声が語り掛けたのを最後に不死鳥は再び赤い闇の奥へと完全に消える。
…そして。我に返る鞘師華奈に今しがたの短くもハッキリとしたやり取りは記憶に無く。けれど…。
「――何となくだけど…うん、少し分かった。私自身がそうなのか…私の中に”何か”が居るのか。どちらともまだ言えないけど。」
きっと、相棒だからこそソレが出てきたのだろう…少なくとも、今までこういう事は多分無かった。
全く。死の謎どころか、どうにも自分はおかしな事になっているようだ。
「――全く、人の体を勝手に使われるのは困るんだけどね…私の相棒に何を言ったのか、私は分からないけど」
記憶に無くても、己の体の事だからか薄ぼんやりと分かる。けれどまだ根幹が見えない。
それはこれから解き明かしていくしかないが…。
頬を軽く撫でられていた事に気付き、「睡蓮、くすぐったいよ」と、仄かに笑って。
「――生贄、かぁ。そうなると…リーダーは自分や仲間たちの死も織り込み済みだったのかもね。
…何で私がソレに選ばれたのかはさっぱり分からないけど…つまり、私の目や髪の毛の一部が赤くなってるのは…その儀式の”結果”の名残か」
あくまで睡蓮の推測と、自身の感覚でそう思ったに過ぎない。結論にはまだ早計だろう。
睡蓮の言葉を聞きながら、少し考え込む……両親の”事故”…。
「――私の両親は”焼死”だった。詳細も犯人も不明。多分、風紀か公安かに記録程度は残ってるかもしれないけど。
一応、異邦人街で起きた事件だからね…落第街やスラムと違って、記録は残ってると思う。…探ってみるかなぁ」
どうも、自分の両親の事故死も偶然ではない気がしてきた。
思ったより、自分は誰かの作為的な何某かに乗せられているような気すらしてくる。
睡蓮の言葉に、「まぁ、君から見れば赤の他人だからね」と笑う。仲間やリーダーの死を悼むのは自分だけでいい。
それよりも、だ。睡蓮の問い掛けに少し考え込むように――あ、距離が近い。額と額がくっついていた。
「――裏常世渋谷は、基本的に常世渋谷の街の形をしているけど、まったく違う場所になったりもする。
――もしかしたら、本屋か図書館に該当する場所もあるかもしれないけど、こればかりは探索しないとね。
…どちらにしろ、現地に直接赴いて情報収集しないと、だ。
「――仮にリーダーが仕掛け人と仮定して。私に何らかの理由で目を付けたとしたら。
――その儀式で得られる”何か”の器に私はされたのか…仲間や自身の命さえ贄にして」
はぁーー…と、深い溜息を漏らして俯く。暫くはそのまま俯いて黙っていたけれど、やがて顔を挙げて。
「――取り敢えず、睡蓮に変な危害を加える感じじゃなくて良かったよ」
それだけはちょっと安心した。自分の中の何かは己の大事な人を傷つける存在ではない…少なくとも今は。
■群千鳥 睡蓮 >
「……あたしはあの手帳を"持って生まれた"んだ。文字通り」
あれを抱えて生まれてきたんだよ、と、語り終えた彼女に対して、静かに胸襟を開く。
聞かれてもいないことだが、語らせてばかりは申し訳無さが立つ。
自分の人生は、だれかに借りを返すための、恩返しの人生だ。
瞬く。黄金の瞳。それこそ猛禽のように鋭く眼力を秘めた瞳だ。
「この眼の色も家族であたしだけ。
――まあ、疑うよね、あんたに気取られた眼も。
"人の死がはっきり視える”……なんてのも、あたしだけだった。
この眼に、美しいもの、輝くものを見ろと。
とある先生が、言ってくれて……正直、すごく救われた」
強者を気取ろうとはしても。じぶんはまだこどもだと。
あの大きな胸に、力強い腕に抱かれた時、はっきり自覚できた。
認めてもらおうという奮起に繋がり、生徒である誇らしさを胸にしながら。
恥を覚えるとすれば。
DNA鑑定は、過去に比べればだいぶ手軽になった。
小学生としては"多少頭が回る"程度ではあったまだまだランドセルを背負ってた時分に、
ツテを辿って"よくないこと"をした――調べてもらったことがある。
「まあ、両親には……気づかれてない……気づかれてるのかな……。
……しらべた結果はまあ、ふつうに血の繋がりがあって。
けっきょく疑うだけ疑って、あたしがなんでこうなったのかは謎のまんま。
罪悪感、抱えたまんま、それでもわるいことたくさんして。
"なぜこのように生まれたのか"――その必然性を求めてるとこはある。
苦いもんだけ、のこって……でも、やっぱ気になるよね」
ふたたび背中に腕を回し、少し強めに抱き寄せた。
たとえばもし、じぶんの家族になにかの作為があったとして。
じぶんはきっと――苦しいはずだ。だから少し真に迫った声で。
「……じぶんが"何"なのか。
なにを礎として、いまそこに立っているのか。
でもね、華奈。 ちょっと垣間見せたうえで言うのもあれだけど。
……『見て見ぬ振り』、したっていい問題だと思う。
煉獄世紀もご両親のことも、綺麗な思い出のままでも。
けっきょくすべては、"運命を受けいられるかどうか"
――"納得して死ねるかどうか"だ。
あたしはあんたの"真実"には、興味がない。
あんたが安心して、まっすぐ立てるなら、あんたが"何"でもいい。
……あのひととだって、あんたはまた会えるかも。
それを調べなくったっていっしょに遊ぶし。
華奈のことが"すき"なのは、変わんないよ。
……それでもこれ以上、調べる?」
憐れみから、納得を薦めたわけではない。
ここから先は苦難の道になろうと、誠心で伝えただけだ。
――『見て見ぬ振り』、という言葉を使うのは。
卑怯な物言いであると、自覚はしているのだが。
「けっこうハードな"物語"になるかもよ……?」
少し離して、あらためて見つめた。
眼を離すなと言われた。保護者扱いは業腹だが。
仕組まれて生まれたかもしれない、天にむかう焔に対して。
問いかける言葉は少し強い語調になって、黄金の双眸で射抜く。
どっち選んでもついてくよ、という、意思表示だ。
■鞘師華奈 > 「――手帳を?」
睡蓮の言葉に、僅かにきょとんと目を丸くする。あの手帳は彼女の異能…なのは間違いない、とは思う。
それを”持って”生まれてきた…それにどういう意味があるのか、女にはわからないが。
今は正しい光を取り戻した赤い瞳が、猛禽の如く鋭い黄金をしっかりと見る。
「――人の死が見える、っていうのは…多分、私なんかでは想像も付かない世界なんだろう、っていうのは分かるよ。
…その先生は、死だけじゃなく、もっと別の…素晴らしい多くのものを睡蓮に見て欲しかったのかもね」
訳知り顔で語る事は出来ない。その出来事は彼女の”物語”だから。
それでも、彼女が救われたという言葉にはほっとして…同時に少し悔しい。
私は、大事な人を救えても支えてもいない。無力感ではない。嘆くくらいならもっと、強くならないと…そう思って。
「――私にとって両親やかつての仲間は”家族”だ。血の繋がりや過ごした時間は関係なく。私がそう認めてそう願って、そう思ったから。
――ただの推測で、実際は違うのだとしても…自分の人生が、存在が、誰かを贄にして創り上げられた器だったら…もし、仮にそうだったら――嫌になる」
ぽつり、と。睡蓮の言葉に答えるように。そう、自分の人生が誰かの操り人形みたいで。
それが天命だとか運命だとか、それならまだしも…作為的で人為的ならば、憤りの一つくらいはあろうというもの。
――不意に、強く抱きしめられた。そのまま、しっかり背中まで腕を回されての抱擁。
少し戸惑うように両腕が宙を掻く様に泳ぎ…やがて、そっと睡蓮を抱きしめ返して。
「――うん、見てみぬ振りもいいさ――抱え過ぎることもない、深追いすることも無い。
きっと、その気になれば少なくともこの先も普通に、かは分からないけど…ちゃんと生きて行けるのかもしれない。
――だけど、それは私が無為に過ごした怠惰の3年間と同じ事なんだよ。
私はもう無駄な時間を過ごしたくは無い。その無駄な時間に意味を見出したい。私は”前を向いて歩きたい”んだ」
そう、傍観者のように…少し前の自分みたいに、見て見ぬ振りをして”大事なものを取りこぼす”。
――最高の友達に指摘された事だ。あの一言が無ければ、今の私は怠惰なままだった。
そして、今の私は怠惰な自分ではない。危なっかしくても先が不透明でも、足元が覚束なくても。
「私の物語は…きっともう始まってるから。今まではまだ始まっていないと、スタートラインなんだと思い続けてきたけど。
…そうじゃない。これは私の物語の一部。私の身がどうなっているのか、真実がどうだとか…うん。正直私もそこは重要だと実は思ってないんだ。
だけどさ――納得できないんだ。運命とか天命だとしても、今の私は否定しないけど…自分の事をハッキリさせないと気が済まない。
真っ直ぐに――睡蓮の目を見つめながらそう告げる。元より、茨の道が如しは覚悟もしていた。
それに、相棒を――すきなひとを付き合わせる事に躊躇が無いと言えば嘘になる。
…そりゃそうだ。大事な人を己の業に付き合わせて何かあったら、私は死ぬほど後悔する。
そう、それを分かった上で、
「――ハード上等、私は”進む”よ。だから…、
――私の大事で、大切で、すきなひと。…”アンタ”には最後まで付き合って貰う」
――ああ、少し昔の口調になってしまったが。少し感情が乱れているのだろうか。
彼女の身に何か危害が及ぶかもしれない、災難に巻き込むかもしれない。
それでも、それでも――だ。私は彼女に付いてきて欲しいと思ったのだから。
真っ直ぐに睡蓮を見つめる。その黄金の瞳を見据える。奥の奥まで、静かに揺ぎ無く。
■群千鳥 睡蓮 >
「………わかった」
意思確認を済ませると、ひとつ重たく頷いた。
みずからの"運命"のために、胸を張って死ぬために。
苦難の道を進むというなら、その選択は尊重しよう。
善悪の別はもとより興味もそれを語れる資格もなく、
判断は目の前の相棒に任せることとした。
「いいよ。せっかく立ち上がったのに、もとに戻るのはヤだよね。
物語の主役になりたいっていうなら、きっと痛い思いもすると思う。
身体だけじゃなくて、特に心に……でもまあ、そんな時のために一緒に行くから。
たとえ持ちかえるのが、骨だけになった巨大なカジキだとしても……
挑まなければ、あたしたちは獅子にはなれない。
自由の刑に処された罪人には、しかし……罰を受けるのは贖うため、だ」
立ち止まることが敗北だ。実存を自ら求め、行動するべきだ。
では、背中をばんっ、とホワイトボードにしたように叩いて。
離れた。傷のなめあいはひとたび終わり。
「ピザもポテトも、まだ暖かいや。食べよ食べよ。
腹が減っては戦はできぬ! ここのフード美味しいし。
今後もなんか事あるごとに来たいなー、あ、でも他のお店もいきたいなー」
食べながら。
ホワイトボードに、今後の方針を書き込んでいく。
華奈が登録している、「裏側」への手引をしてくれる部活へのコンタクトと登録。
欲する「情報」の道筋は経った。そこから、必要は「武器と道具」も導き出せるだろう。
不死鳥を喚ぶ儀式。
探すものは、すなわち"鞘師華奈"の存在のルーツ。
煉獄世紀、鞘師夫妻、あるいはもっと別のなにかが展望した不死鳥の存在。
みずからの内側の海に潜っていくような静かな旅路の始まり。
鞘師華奈の物語の一端。物語とは往々にして、「行きて帰るもの」だろう。
すくなくともこの場のふたりを、元型の求める贄と捧げる気はない。
運命とは抗いぬいた先に、結末として手にするものだ。
――ならば。
"そういうものだ"と、弁えていたもの。
"それでいい"と、思っていたもの。
家族の愛を受け、人間として在りたいと願った時点で、
終わった話だと思っていたひとつの事柄。
――『見て見ぬ振り』は、できない。
「あたしのことも、ひょっとしたらなんかわかるかもしれないし」
立派な大人に、善き教師になるためには。
直視せねばならぬ現実があるはずだ。そのうえで。
「――群千鳥睡蓮で、"在ってみせる"ためには。
消極的じゃ、いられないよな……、
そんじゃ、いつ行こっか!」
休日に出かける約束をするように、呵呵と談笑しながら。
そっと、あの手帳を取り出して。明日の予定を問いながら。
■鞘師華奈 > これは私の物語――主役になるつもりもないけれど。
相棒には付き合って貰おう…そう決めて、彼女も了承してくれた。
後悔はしない、撤回もしない、妥協もしない。それは相棒に失礼だから。
「――別に主役とか脇役とかはどうでもいいんだけどね。これは私の物語で――睡蓮から見たら君の物語の1ページだ。
まぁ、要するに――私は何なのか?って事を探る為の探索になるんだけど」
重苦しく頷く相棒に、僅かに笑みながら…物語の主役、とかそんな事より。
私が重きを置きたいのは――どう進み、どう向き合い、どう清算するか、だ。
前に進むと決めた。ならば後戻りは出来ない。鞘師華奈は元々そんなに器用に立ち回れはしないのだ。
――勢いよく背中を叩かれた。少し前のめりになるが、確かに何時までもこんな調子ではいられない。
「…ここは一応、事前に予約しといた方がいいかなぁ。割と知る人は知るお店だし。密会とかに都合がいいからね。
他の店か…食べ歩きとかなら、幾つか候補はあるんだけどね…。ああ、そういえば空中水族館だっけ?あれ、興味あるんだよね」
なんかそんな水族館が確かオープンしていたような気がする。小耳に挟んだだけで詳細は調べてないが。
中断していた飲み食いを再開しつつ、ホワイトボードに纏められていく道筋と方針。
(――不死鳥…私と一体化している…もしくは宿る何か)
生憎と、私は人間で満足だ。それ以上にも以下にもなるつもりもない。ホワイトボードを睨むように見つめながらそう思いつつ。
両親の事、煉獄世紀の事、そして黄泉の穴の事。まだ分からない事も多い。
それを探り、解き明かし、己の根源を見つけ出す――頼れる相棒と共に。
その結末が、例え苦しい事実だとしても…もう、怠惰に無為に過ごす事はしない。
「――運命を勝ち取る為に、というのは大袈裟だけど――まぁ」
少なくとも、己の事をハッキリさせる為。色々と簡潔に纏めればそれになる。
相棒の言葉に、「睡蓮の事かぁ…」と、呟く。彼女の事ももっと知っていきたい。
私は知りたがりではないけど――大事な人の事を出来る限り知って行きたいと思う程度には貪欲だから。
「いいね、じゃあ睡蓮の求める何かもきっとあるかもしれない…それも探しに行こうか。
あれやこれやと欲張るのもあれだけど、そのくらいはしないと辿り着けないし見えてこないものもあるだろうし」
そう、お互いがお互いである為に、行きて戻る為に。人たる死神と不死鳥は往くのだと。
多くを知り、多くを学び、夢を追い掛け、物語を紡いでいく為に。
「うーん、流石に明日いきなり!とかは私も睡蓮も学業や仕事があるしなぁ。色々と前準備ももう少ししておきたいし」
とはいえ、先延ばしにするつもりも無い。或る程度整えば躊躇無く彼女と共に赴こう。
手帳を取り出しながら問う睡蓮に楽しげに笑う。ああ、前に進む事は苦しい事も多いけれど。
――夢見る死神と、再起の不死鳥が異界に臨む日は、きっとそう遠くない先の時間に――…
ご案内:「カフェ『Hermit Eden』」から群千鳥 睡蓮さんが去りました。
ご案内:「カフェ『Hermit Eden』」から鞘師華奈さんが去りました。