2020/10/14 のログ
レイチェル >  
「あーあー、そんな風に畏まらなくてもいいって。
 まぁでも、喜んでくれたのならオレも嬉しいよ、貴家」

へへっ、と笑ってレイチェルはその様子を見やる。
小柄な身体からぽんと出た尾が揺れる様子は、まさに小動物の
仕草そのものであるかのように思えた。何とも可愛らしいものだ。

「あ、いいな。ネコマニャンカフェラテ! オレもそいつにしよう。
 でー……そうだな、後はネコマニャンパンケーキかな……」

うーむ、と数十秒の間悩んだ末に、導き出した答えはそれだった。
メニューもそうだが、やはり店内のあれそれにも目移りしてしまう。
この空間に包まれて、椅子に座っているだけで、
風紀の仕事で溜まった疲れも、癒えるというものだ。


「しっかし……こうして話すのもなかなか無かった訳だが……
 どうだ? 貴家。
 風紀委員……刑事部でさ。問題なくやれてるか?
 困ってることとか、ねぇか?」

相手が一年生の貴家だからこそ、そんな切り口で話を始める。
多忙な委員、慣れぬ内はあれこれと大変だろう。
目の前の相手は恐らく、真面目なタイプだとレイチェルは見て取った。
それ故に心配になったレイチェルは、そう口にしたのだった。

貴家 星 > 気兼ねをするなと言う気風を良いと思う。
思うが、はいそうですか。とは言えぬものでもあり、それについては曖昧に笑みを返したのが入店直前のこと。

「パンケーキの方はネコマニャン焼き印が圧されているようでありますな……では」

今は店員を呼び、注文を済ませる。
視界の隅ではステージ上のネコマニャンが小さな女の子と遊んでいる様子が映り、
母親と思しき女性がその様子を撮影しておられた。甚く、微笑ましい。

「近頃は何かと面倒事もあり、中々全体が落ち着いてはおりませなんだが……。
 委員活動の方は概ね恙無く!件の怪異、朧車対処も私の班は人海戦術を用いた御蔭か然程人的被害も無く、
 と言った塩梅でして」

そうしたものを一瞥に留め、ラムレイ殿の顔を視る。
言葉は近頃の事に始まり、一応の機密事項である朧車の段は密やかな小声となる。

「懸念事項……困りごとを強いて述べますなら、行き方知れずが増えていることと──
 ううん、同じ委員のメンバーではありますが部外の人物でもあり、此方が気にする事でも、ではあるのですが」

次には少しばかり悩み声となる。
何故ならば埒外のことであり、本来は然程気にせずとも、と思う所であるから。
けれど、その先がラムレイ殿に並ぶ有名な御仁であるから、やはり伝えておこうかと思った。

「朧車対処の折に、かの『鉄火の支配者』殿にお会い致しまして。
 恐らく杞憂かとは思うのですが、何か気落ちしておられた御様子でした。
 "裏"は滞在をするだけで心身を蝕む悪所。斯様な場所で悠然とき──休憩をされておられたので」

思ったので伝える。
喫煙をしていた、とは一応の秘とし休憩をしておられたと。
通常"一刻も早く脱出をしたい場所"における振舞いとしては奇妙であると、語調が揺れながらに伝え、耳も揺れる。

「数多の勇名を馳せる方でもありますから気苦労もあろうものでしょうし、余計なお世話でありましょうが。
 まあ、気になると言えば気になりまして」

レイチェル >  
貴家が見やる方を、何とはなしに見やるレイチェル。
その微笑ましい光景は、やはり昔懐かしい感じがした。
こうした時にふと、忘れていた筈の郷愁の念を抱いてしまうのだ。
流石にあそこに飛び込んだら、貴家にどう思われるか分かったもの
ではないな、と。そんなことを思ったりしながら、
さて、と貴家の方を向くレイチェル。

「報告書の方には目を通してるさ。
 本当にお疲れ様だ。よく頑張ってくれたよ。
 お前みたいな頼もしい後輩たちが居るから、
 安心して前線を任せられるってもんだ」

朧車ね、と小声で返した後に、レイチェルはそう口にした。
それは心の底から浮かんできたような、穏やかな笑みだった。

しかしその笑みも、続く言葉には少しばかり翳りを見せる。
後輩の前ではあまり、そういった顔は見せたくないと思っている
レイチェルであるが、それでも彼のこととなれば、やはり少し
顔に出てしまうものだ。少し前に、彼とも、彼を想っていた人とも、
話をしたばかりだったからだ。

「『鉄火の支配者』……理央か。
 部外だろうが何だろうが、同じ風紀委員だ。
 オレとしちゃ、放っておけねぇがな。
 お前も放っておけねぇから、話を出してくれてるんだろうがよ」

そう口にしながら、貴家の様子を見やる。
言葉は震え、その動揺は揺れる耳に現れていた。

「あいつも……色々あるもんな。
 そうだな、オレからもまた話してみることにするよ。
 伝えてくれてありがとうな、貴家」

頷きながら、レイチェルは礼を口にする。
理央も、英治も、沙羅も、真琴も。
そして目の前の貴家もであるが、
部の内外を問わず、風紀委員に属する後輩は、皆大切な後輩だ。
できるかぎり、手を伸ばしたいと思っていた。

「お前自身もさ、困ったらすぐにオレに言えよ?
 同じ部なんだから、距離も近いし……
 これまではあんまり関わって来ることができなかったけど、さ。
 遠慮なく、何でも相談してくれて構わねぇぜ。
 今は前線を任せっきりの情けねぇ先輩だけど、
 話くらいは聞けるからさ」

穏やかに笑うレイチェルは、貴家のことを真っ直ぐに見据えていた。
こうして少し遠くに居る他人のことでも心配してしまう
『良い奴』だからこそ、誰かが支えてやる必要がきっとある。
レイチェルは迷いながら理央のことを口にする彼女を見て、
そう感じ始めていた。

貴家 星 > 「そ、そう仰って頂けると……班の皆も喜んでくれましょう」

褒められると何処となく背中がムズ痒い感じがする。
勿論嬉しいものであり口元が緩んでしまいもするが、私個人の功績では無かったからであり、
何より──前線、例えば、対違反部活の掃討などには迷いが無くも無いのだ。
翳りは、此処にもあったのだ。

「神代殿を御存じでしたか」

閑話休題としたかった。
強大な力を持つ存在には善くも悪くも様々な事柄が付き纏う。
面前で話を聞いてくださるラムレイ殿にも、知り及ぶ所なく様々があるのだろう。とは皮算用宜しく思い行く。
無論、勝手な推察であり甚く失礼なことである。
ゆえに神代殿の事について口にするのは、やはり余計であったやも。
うむ、些か口が滑ったかもしれん。ちょっと気まずく、椅子に座った姿勢で尾がうっそりと揺らめくのだ。
揺らめくが、穏やかな声と、その後述べられる礼には面映ゆくもなり萎れるように垂れる。
所在なく、耳だって伏せられよう。

「いえ、いえいえ。此方こそ。神代殿とは、それ以前にも青垣山の境内でお会いしたりもしましてな。
 袖触れずとも多少の縁はあろうかと愚案するもので……その、この島は善き所に思いますれば。
 治安を司る皆にも、穏やかであってほしいと思うもので……」

様々を飲み込むこの島が好きだから、この島にある誰もが穏やかであれたら良いと思う。
偽らざる本音を零した所で顔を上げると、ラムレイ殿の隻眼が真直ぐに此方を見つめていた。
数度、瞳を瞬いて見返す。

「……承りました。寄らば文殊と古人も仰られようものですし、
 情けない先達などとはとてもとても」

無論、穏やかに。である。
ややあってネコマニャンめいた様相の店員殿が注文の品を運んでくれて、
卓上は一時甘やかで馥郁とした香りが漂った。

「ところで……一先ずの困りごとは──其方のパンケーキも、美味しそうに見えることでしょうか」

言外に「半分こしませんか?と告げながらにフォークを取る。
そんな、きっと穏やかな休日。

レイチェル >  
「ああ、この島は本当に良い島だ。
 オレはこの島に来てもう4年目だけど……本当に、
 色んな奴と出会って、それで見える世界が広がったし、
 今も成長させて貰ってる。だから、守りたいと思える。
 貴家にも、これからの学園生活で、
 そういう出会いが沢山あることを願ってるよ」

きっと素直さと真面目さを感じさせるこの後輩なら、
訪れる様々なチャンスを生かしていけるのではないだろうか。
そんな風に感じていた。

「でもって、そうだな……その通りだ。
 お前の言う通り、治安を維持するオレ達が、まずはしっかりと
 自分のことをそう、穏やかに……皆が安心できるように、
 整えなくちゃいけねぇ」

深く頷く。全くもって、その通りだと思う。
店内に流れる心を浮き立たせるようなBGMを耳にしながら、
頬を緩めて見せる。こうした時間を後輩と過ごせること。
そのことが、とっても幸せで。

「……オレも、そこんとこがなかなか上手くできねーから、
 色々困ってたんだけど。でも、最近はちょいと光も見えてきた。
 周りの皆が手を伸ばしてくれたお陰でさ。
 今の理央にも、それが必要だと思ってる。
 オレ達が支えに、なれればな」

そう口にしていれば、注文していたメニューがやって来た。
どれもとても美味しそうで、とても可愛い。
食べるのが惜しいくらいだ。
そんな中で、後輩から受けた提案。
それを、レイチェルは。

「ああ、分け合おうぜ」

その笑顔は、この上なく輝いていたことであろうか。

そんな、何処までも穏やかな休日。

ご案内:「とある専門店」からレイチェルさんが去りました。
ご案内:「とある専門店」から貴家 星さんが去りました。
ご案内:「Free1」に水無月 沙羅さんが現れました。
ご案内:「Free1」から水無月 沙羅さんが去りました。
ご案内:「常世学園付属総合病院 入院患者用個」に水無月 沙羅さんが現れました。
水無月 沙羅 >  
新しい勤め先、もとい移動先が決まったことで、沙羅の現場復帰へ向けてリハビリが始まっていた。
異能で怪我や損傷がすぐに修復されているとはいえ、使われてなければ筋肉は衰え続けて行く。
もちろん日常生活に不便があるわけではないが、風紀委員という組織、それも刑事課に異動するともなれば体力が無くてついていけませんでは話にならない。
病院内にリハビリ用のトレーニングルームは存在するものの、入院している間はこの部屋を出てはいけないと言いつけられているため、個室内で最低限の筋力トレーニングに努めている。

そういうわけで、沙羅は現在設置されているテレビモニターを見ながらハンドグリップを握り続けている。
テレビに映っているのは、デカタンと呼ばれている連続テレビドラマの再放送である。
それなりに面白いが、現実に警察組織に身を置いているものとしては、現実と比べてしまう節があり純粋に楽しめてはいない。

端的に言えばとても暇だった。
話し相手でもいればもう少し違うのかもしれないが。

ご案内:「常世学園付属総合病院 入院患者用個」に園刃華霧さんが現れました。
園刃華霧 >  
「んー、んー、んー……んんんー……んー……?」


鼻歌なのかなんなのか。
謎の節をつけて、うめいてるの歌っているのか。
ともかく少女は一室を目指して歩いていた。


「……ッと。よシ、到着。
 さッテ……」


扉の前に立つ。
中の人物はどうやら意識も戻って活動も多少はできるようになったとか。
とはいえ……さてはて、どうするかな……

一瞬だけ、迷う、けれど
まあ考えるだけ無駄だな、といつもの開き直り

「……オーイ」

コンコン、と静かにノック。
寝てたら悪いもんな。

水無月 沙羅 >  
静かに、テレビの小さな音声と少女の小さな息遣いだけが響く病室の中に、コンコンとノックの音が響いた。
同時に聞こえてくるのは華霧の珍しく感じる少々遠慮しがちな此方を呼ぶ声。
病院だからという事もあるのだろうが。
くすりと少しだけ、いつもと違う彼女を想像して笑みを浮かべる。


「どうぞー。」


代えす返事は少しだけ明るいものになった。
暇を持て余しているところへの来客だからという事もあるが、やはり家族のように親しい人間の来訪は売れしいものだ。


「鍵は開いてるよー。」


いそいそとハンドグリップをベッドの中に隠して、来訪した少女を迎え入れる。
わずかにかいていた汗を服の袖で拭った。

園刃華霧 >  
中から少しだけ明るいサラの声が聞こえる。
いつもと比べれば精細にかけるとは言えるが……
それでも、暗いよりはよほどマシだ。

「お、ヨかった起きテるカ。
 ほい、入るヨー」

扉をのんびり開けて病室へ入る。


「ヨ、おヒさー」

ひらひらと手を振り
へらへらと笑って
ベッドまでゆったり歩み寄る。

見舞客用か、医者用か。
とりあえずわからないが、置いてあった椅子をつかんで
ベッドのそばに座り込んだ。

水無月 沙羅 >  
「うん、久しぶり。」


めったに入院しない自分にとって、こうして誰から見舞いに来るというのは新鮮なものだ。
異能の特性上、病気や大怪我でここに運び込まれることはない。
故に、その珍しい状況を少しだけ楽しんでいる。
そんなことを考えているというと怒られそうではあるが。
そういう感情もこみこみで、にへらとしながら手を振り返した。


椅子を掴んではベッドに座る来客者を見るのも、これで二人目か。
レイチェルに、今日は華霧だ。
椎苗を見ていないのが少し残念ではあるが、彼女も彼女で忙しいのかもしれない。
マルレーネのことも、ディープブルーから救い出しただけで終わる事は無いだろうし。

ついつい仕事や、例の彼の関わる事を考えては、少し暗い表情になったのに気が付いて首を大きく振って気を取り直す。


「そいうえいば、これありがとうね? 一つはかぎりんでしょう?」 


そう言いながらベッドに置かれた二つの縫ぐるみの内、一つを抱き上げて見せる。
ネコマニャンはそもそも椎苗が好きで集めているものでるが、彼女がこの大きなものを二つも持ってきては置いていくとは考え難く。
かといって自分がこういったものを身近に置いているという事を知っている人間を他に知らないというのが大きな理由だ。

園刃華霧 >  
にへら、と笑い返してくる相手に
満足気に笑う。

一瞬だけ、暗い表情をするのも見えたが……
それは見ないふり。

一々掘り起こすことでも
ない


「アー……メッセージの一つも書いてオきゃヨかったカって思ったケど……
 バレてたカー」

しまったな、と思っていたが、どうも相手にはわかったらしい。
それならまあ結果オーライってやつかな。
そういうことにした。

「すルどいナ、サラ。
 なカなか、やルな?」

いたずらっぽく笑う。

水無月 沙羅 >  
「んー?ふふ、そう難しいことじゃないよ。
 置いていくのがかぎりんと、しぃ先輩ぐらいしかいないなって思っただけ。」


交流が広い、良く自分に対してつかわれる評価ではあるが、実のところ沙羅自身はそうは思っていない。
仕事上付き合いのある同僚や、裏側に精通している知り合いなら確かに多少なりとも、多いのかもしれない。
だが、こういう緊急時の時見舞いに来るようなほどに仲の良い知り合い、『友達』は数えるほどしかいなかった。

その友達も、自分が入院しているとは知らない。
だから、此処に来る人は自分が家族と称する人間、もしくは風紀委員内の誰かという事になる。
見舞客が多ければいいというものではないとはわかっているが、それが少しだけ悲しくも思う。
そういえば、あの大型犬の様な後輩は自分が入院したことは知っているのだろうか。
レイチェルに聞きそびれたのをふと思い出す。


「最近どう? 元気?」


それは其れとして、家族の近況の方が気になった。


「レイチェル先輩は構ってくれた?」


ああいう会話をした後だったし。

園刃華霧 >  
「そーオ?
 ひひ、観察力だか判断力だかッテのハ大事らシいヨ?」

けたけたと笑う。
なにが、どう、とは言わない。


「ン、最近?
 最近も何も、いツも元気だヨ?
 ほラほら、見てノとーり」

腕をブンブン振ってみせる
勿論、危なくない範囲で。


「レイチェル?
 なんで、アイツ?
 まー……ちっと話とかハしたケどさ」

なんだろ?とちょっと首を傾げる。
この相手から出てくる名前とは思わなかったので少し不思議だった。

水無月 沙羅 >  
「観察力かぁ。 あんまり自信ないよぉ。」


あの人が置いて行ってしまった理由が、今でも理解しきれていないから。
きっと何かを見逃してのであろうと、今でも考える。
自分に何が足りなかったのかを、こうしている間も考えている。


「んー……。
 かぎりんって、こういう時って元気なようにみせて、本当は元気がないっていうか。
 考え事しているのを隠してるっていうか。
 寂しかったり悲しかったりするのを見せようとしないところ、あるなぁって思ってたから。
 レイチェル先輩がこの前お見舞いに来てくれた時に、家族の話をした時に、かぎりんと仲が良いみたいだからお願いしますねって。
 そういう話を。」


したのだ。
自分の事をもうちょっと考えろと言われそうなものだが。
今自分にとって最も大事なのは、華霧と椎苗のことだ。
他の事はほとんど考えていないと言ってもいい。

いや、正確には頭の中を絞めている一人の男はいるが、それを除いてはという意味合いで。

園刃華霧 >  
「そーカい?
 ま、少なくトもアタシらのコトは見てテくれテるしナ」

たまに手を伸ばし、なでようとする。

「だから。
 サラが言うナら、アタシはソうなノかもナ。
 あンま自覚、ってーノかな。そうイうのはナいんダけど」

くす、と笑う。


「あンがとナ、心配してクれて。
 サラは、いいヤつだ」

本当に、いい『妹』を持ったものだ。

「そーイや、そッチのレイチェル話のお返しじゃナいけど。
 レオのやつ、来た?
 ……アー……その、教エちゃッタんだけドよかっタよネ……?」

まだ意識を失っているときのことだから勝手に教えてしまった。
そういえば許可もとってなかったのでどうだろう、と気づいてしまった。
どうせ調べればわかることだから、自分が教えなくてもわかるはずだが。

それでも、確認しないと気がすまなかった。

水無月 沙羅 > 「ん……。
 自分から見た自分と、他人から見た自分は違うっていうもの。
 私がそう感じただけだし、でも、かぎりんがそう言ってくれるなら良かった。」


髪を撫でられる。
その行為は心地よく、つい目を細めて、もっとしてほしいと言うように寄りにすり寄らせらせる魔力がある。
そこまで心地よく思うのは私が特別なのかもしれないが、たぶんこれは誰にでもそうというわけではないという事は分かる。
少なくとも、見ず知らずの人にされてもうれしくはない。


「いい奴……なのかな、そうだと、良いんだけど。
 そうだったら、あ、いや、ううん。
 なんでも、ない。」


本当にいい奴なら、いや、今は考えるな。
考えると泣きそうになる。
今はここにある幸せでじゅうぶんだろう? そう自分に言い聞かせる。


「レオ君?
 あ、かぎりんとも知り合いなんだ。
 ううん見てないけど、病室の事?
 全然かまわないけど……なにかあった?」

妙によそよそしい感覚に、さては何か書く仕事でもあるのかなと勘繰る。
実際は単純に勝手に教えたことに対する心配なのに、そう考えるのは心配性ゆえか。
それとも。

園刃華霧 >  
「ン……」

しばし、黙って頭を撫でる。
どうにも、傷つけてしまってるようで……
言葉は難しい。

少なくとも、この行為だけは……彼女を傷つけない。


「ゆっくり、ナ」


一言だけ、ぽつりと口にして


「まァ、レオは最近会ったンだけドさ。
 サラに世話にナった、ミたいナこと、言ってタかラさ。
 入院しテる話とカ、此処の話、勝手に教えチゃったカら。
 知らせたくない、とかアったラ悪かっタなッテ。」

ごめん、というポーズをとる。
ふざけているようにも見えるが、至って真面目なのがこの少女らしい。


「あ、そうソう。なンか欲しいモんとカある?
 菓子とか、本とカ」

ちょっと思い出したように聞く。

水無月 沙羅 >  
「ゆっくり……。」


ぽつりと零された言葉を繰り返した。
急いでも何も良い事は無い、ゆっくり歩めばいい。
そう言っていたことを思い出す。
本当にゆっくりでいいのだろうか。
休むことも、ゆるされはしないのではないかと疑いたくもなる。
自分は、これからどうすればいいのか。
未来が見えなくなっていた。


「んー……。
 確かに風紀の仕事は教えてるけど、お世話をするようなことは別に。
 理央さんの代わりになるみたいなことを言ってたから、叱り飛ばしたりはしたけど、それくらいかなぁ?」


もう其れも随分懐かしい昔のことに感じる。
怒られた犬の様に州としていた彼は、立ち直れただろうか。
もう風紀委員の仕事には慣れただろうか。
飼い犬がちゃんといい子でお留守番をしているかと少しだけ心配になる。
いや、彼は飼い犬では決してないのだが。


「いいよいいよ、かぎりんが教え当たって事は、教えてもいいやつって思ったんでしょ?
 なら大丈夫だよ。かぎりんの事なら信じられるから。」


この人のすることなら、無条件で信頼できる。
それが自分にとっての彼女への特殊性でもあった。
もちろん例外は存在するが、彼女の他者への評価はそれなりに信頼している部分だ。
なぜかと言われるとうまくは言えないが、華霧と自分の感覚はよく似ている、そう思うからだろうか。


「欲しいもの……?
 うーん……。 温もり?」


少しだけ冗談を言って。
二へラと笑った。