2020/12/11 のログ
■月夜見 真琴 >
「あのとき、"面白ぇ"って、笑ったでしょう?
視えたのはそのとき」
隠すことでもない。桜の木の下のやり取り。
秘密を垣間見せた時にも、ずっと視ていた。
そう感じた理由を伝えて、それからもつぶさに観察してきた。
「その鎖の正体までは視えなかったけれど。
常世島と、風紀委員会。そしてあなた自身のそのスタンス。
そう考えると――風紀委員会に拾われなかったあなた、なんて。
ifの可能性にも、すこし妄想を逞しくしてしまうけれど。
そうやっておとなしくさせてれば、そのうち飼い馴らせるか。
もしくは野生を忘れちゃうってことも、あるかもね」
わんちゃんみたいに。
なんて、笑う。
「気に食わない奴をたたくためにも、牙は抜けないように」
――。
「意地が悪いっていうよりは、意地の話かな。
"素直に受け取れないひと"っているから。
いろんな事情とか、感情とか」
甘やかな笑みの裏で。
ひとつずつ、吸収する。
救いたい、という感情が、指標。
――覚えておこう。
「――うん、ありがとう。概ね纏まった」
ココアを飲み終えると。
■月夜見 真琴 >
「誕生日や、クリスマス――いや、クリスマスプレゼント、ってわかんないかな?
とある宗教の、聖人の生誕祭でね。12月25日。そこでプレゼントを贈る風習があって」
話題は急に方向を変えた。
並列して考えていたことだ。
「欲しい、とおねだりすると、特別な日に、家族が贈ってくれる。
もちろん、あくまで現実的なものだ。
でも、お金が自由にならない子供の頃だと、それがすごく嬉しい。
反面、こうも思うんだよね」
人差し指を立てた。
「"お金で買えないもの"が欲しくて欲しくてたまらない時、どうする?」
■レイチェル >
「ったく、大した観察眼だぜ」
その点においては、舌を巻くしかない。
確かにそんなことを言ったな、と思い返しながら。
あれは間違いなく、自身の自然な感情だったことだろう。
「はっ、牙までは抜けねぇさ。
そんなのレイチェル・ラムレイじゃねぇっての」
誰がわんちゃんか、と。鋭い視線を向けつつも。
そう口にして、頬杖をついていた手を離せば、軽く手を払うように振って見せる。
自分を見失うだなんてことは無いようにしたい。そう考えてはいるが、
未来ばかりは分からない。レイチェルは内心そんな風に思いながら、
メロンソーダを口に流し込んだ。しゅわしゅわと弾ける感触が口の中で踊る。
「ん? ああ、まぁ……何よりだ」
まんまと事情を話してしまった訳だが、悪い気分ではなかった。
話すことで、自分の考えや気持ちの整理もついたからだ。
■レイチェル >
「……ああ、クリスマスな。
去年にその風習は実際に見聞きしたから、そいつは分かるよ。
12月25日……こっちの世界に合わせて考えりゃ、ちょうどオレの誕生日だ」
レイチェルは透き通った夏空を見上げる。
クリスマス。ずっと遠い未来の話に思える。
「どうする? って……金で買えないもの……人間関係……友達、とか?
何にせよ、誰かに簡単に貰えねぇもんなら、自分で何とか手に入れようと、
頑張るしかねーんじゃねぇの?」
■月夜見 真琴 >
「えっ、そうなの?
それは大変。まとめて一つのプレゼントでお祝いされちゃう。
やさしい後輩はちゃんとふたつ、お返しを期して贈ってあげますけど」
"レイチェル"が出てくるのは旧約のほうだな、と。
そんなことを考えながら、遠い明日のことを考えるのが楽しい。
――充実しているのだろうか。
追いつけるかもわからない背中に、どうにか追いすがろうとするこの毎日が。
「ちなみにわたしの誕生日は、あなたと出会ったあの日。
今年のプレゼントは、差し詰め――」
あの詩かな、なんて、視線を明後日の方向に泳がせてわざとらしく言葉を濁して。
「お金で買えるともだちも居るかもしれないけど、そうだね。
そう、何とか手に入れようと頑張るしかない」
立てた人差し指が指揮棒のように踊った。
「世界に三冊しかないから、欲しい人が四人以上居たら、どうしてもあぶれてしまう。
子供の頃に見た四億の本は、もう四億では売ってくれない人の手に渡ってしまった。
一冊は競り落とした富豪、一冊は刷った本人の子孫、最後の一冊はこの島の教員」
そして、レイチェルに指先がぴたりと向けられた。
彼女が言っていたんだ。金目当ての犯行ではないかもしれない。
「まんまと盗み仰せる能力があるんだったら、
この島でならもっとローリスクに稼ぐ方法はある。
盗まれたことがわかった時点で、買い手側もガサ入れされやすくなってるから、
裏サイトで提示される金額より安く買い叩かれる筈だ――だから。
犯人は、この島に持ち主がいることを知っていて。
自分で噂を流して、金目当ての犯行であるかのように見せかけた。
大規模な捜査班が組まれないことを見越して……被害者の知己かも。
こっちの動き方も、ある程度は知ってるひとだ」
指をくるりと回した。
「卒業生――元風紀委員、とか?
わたしたちの目が、"金目当ての犯行"に向いているうちに――
素知らぬ顔で入ってきて、それをしれっと島外に持ち帰るつもり、だとか?
たしか、違法入出島を斡旋してるヤミ業者の捜査もしてたよね」
そう、どうしても欲しいなら。
なんとしてでも手に入れるように、頑張るだけだ。
犯人も、そういうやつかもしれない。
腰を上げた。もしかして、のんびりしてる暇なんてなかったんじゃないか……?
■レイチェル >
「はいはい。優しい後輩のプレゼント、期待して待ってることにするぜ」
軽く笑いながら、後輩の言葉には感謝の言葉を述べておくレイチェルであった。
どんなプレゼントを用意してくれるのだろうか。
ちょっとだけ楽しみだと、そう感じていた。
「……そうかい」
わざとらしく言葉を濁している後輩に向けて、
レイチェルは優しい声色でそう放つのみ。
消しておけ、と言った筈だが、そう言われては強く出ることはできない。
「おっと、風紀の探偵様のご登場って訳か。
そいつは良い線いってるんじゃねぇのか?
オレとしても、
金目当ての犯行って決めてかかるのに、
どうも引っかかりを覚えてたもんでな。
だからお前の考えにゃ納得だ。
とはいえ、そいつはまだ未完成、机上の推測に過ぎねぇ」
そう口にして、レイチェルも腰を上げる。
そうして、このカフェに来る前に行おうとしていたことを
後輩の推測の上に乗せて、既に今から行うべきことを脳裏に思い描いている。
「……そういった推測のピースを埋めて、
真実に近づけていくのがオレ達の仕事だ。
お前の鋭いその推測、オレが仕上げてやる」
そいつが先輩の責任だ、と。
後頭部に腕を回しながら、レイチェルはそう口にして不敵に笑った。
「さぁ行くぜ。暴れるだけじゃねぇ、刑事課の仕事ってもんを見せてやるよ」
そうして、クロークを靡かせながら、歩き始める。
■月夜見 真琴 >
「……いいの? "わたしならそうする"って考えただけだよ」
子供の浅知恵、素人の直感。
正直、付き合ってくれるとは思っていなかった。
というのはたてまえで、どこか期待していたかもしれない。
メニューに書かれていたパフェやケーキの数々は、
少しばかり後ろ髪が引かれるが――糖分は十二分に摂った。
きっと、また来れる。忙しいなかでも、そういう日はきっと来るはず。
なびく金髪とクロークの裾に、少し急いでどうにか隣り合った。
ひとりで行くつもりだった道行きに、導光がある。
「わたしの進退もかかっているし。
稀覯本の内容も気になるし。
盗んだ者が、いったいどんな"悪"なのかも。
はい、はい。ありがたく、勉強させて頂きます」
眠気も何も後を引いていて、まさかこの事件、
ここからが本当に忙しいのだ――とは思いもしなかった夏休み前の一幕。
まさしく月夜見真琴は、青春の只中にあった。
"レイチェル・ラムレイ"を追いかける日々。
それがそこに居るものと信じて、陽炎を求めて彷徨った日々。
太陽のまばゆさのなか、少しずつかけ違えつつある想いを抱えていた。
これが最初の事件。
最後の事件までは、まだ時間がある、暑い一日のこと。
ご案内:「2年前、夏休みの少し前。」から月夜見 真琴さんが去りました。
ご案内:「2年前、夏休みの少し前。」からレイチェルさんが去りました。