2021/01/24 のログ
ご案内:「落第街廃ビル地下」に伊都波 凛霞さんが現れました。
■伊都波 凛霞 >
「……また、一歩遅かったかな」
風紀委員が踏み込む前に違反組織、違反部活が先手を打って撤退している
…なんてことが、何度か続いていた
「やっぱり事前に情報が漏れてるのかなー……」
黒い防刃・防弾用クロークを口元までぐっと引き上げ、小さく溜息を吐く
身内を疑うことはしたくないけど、あえて今日は黒い灰被り姫としての格好での、単独行動
それも、普段スリーマンセルで同行している二人の風紀委員…
彼らにやや怪しい噂と素振りがあったからであるが
内通者、とまではいかなくとも何か……
「…やめやめ。抜けない棘だね」
疑い始めればきりがない
とりあえず此処は蛻の空だったと連絡をいれて──
「…あれ?」
通信用の端末に激しいノイズが走る
故障かな、と小首を傾げる
そこまで乱暴に扱ったつもりはなかったが、それなりに戦闘行動も多いため壊れてしまってもおかしくはない
にしてもタイミングが…とは思ったけれど
「しょうがない、此処はもう少しだけ調査してから…」
せめて何か手掛かりでも残っていないかな、と地下のスペースを洗いはじめた
何か残されているだけでも、サイコメトリーで情報を掴めるかもしれない
ご案内:「落第街廃ビル地下」に松葉 雷覇さんが現れました。
■松葉 雷覇 >
カツン、カツン。地下へと続く階段に足音が響く。
ゆったりと、落ち着いた足取りだ。
さながら、自宅へと帰るような安心感さえ足音だけで感じさせてくれる。
少女の異能、記憶の残滓を読み取る最中の集中力を削ぐには十分なノイズだった。
「────……お仕事、お疲れ様です。」
足音が止めば、穏やかな声音が地下に響く。
足音の主、男はそこにいた。
地上へと続く階段を降り切り、彼女の背後からゆったり歩み寄る。
その身なりは至って綺麗であり、落第街には似つかわしくない雰囲気だ。
眼鏡のレンズの奥、青い瞳が興味深そうに右往左往。
そして、少女へと視線を戻し、程よい距離で足を止めた。
「まだお若いのに、懸命に働いておられるようですね。
随分と大掛かりな装備のようですが……嗚呼、ご安心ください。
貴女の事は知っています。伊都波 凛霞さん。私は、異能学会に所属する松葉 雷覇と申します。」
穏やかな笑みを口元に浮かべ、礼儀正しく一礼。
異能学会の学者。端的に言えば教員側の人間だ。
ある程度の役職についている生徒の事はおおよそ把握している。
尤も、全てを知っているわけでもないし、把握しているのも雷覇の"私的"な目的があってこそだ。
「此処には少し、私事で来ています。貴女はまだ……仕事中のようですね。
よろしければ、何かお手伝いでもしましょうか?」
■伊都波 凛霞 >
その指先を壁面に触れさせて、精神を集中させる…
そんな矢先、耳に入るのは階段をゆっくりと下る、足音
「──…?」
今日は単独で此処へ来ている、だから仲間のものではない
十分に警戒、袖口に隠した拳銃を何時でも引き出せるようして、振り返り、その足音の"主"と、対峙する
「と…」
視界に飛び込んで来たのは…見知らぬ男だった
穏やかな喋り口、と深く一礼するその様子に一瞬呆気にとられてしまった
「異能学会の……あ、恐縮です…」
自分のことを知っている、と言われレアb慌てて小さく会釈を返した
おそらくはデータの通り、見たまんまの真面目な性格。目上の人間への礼は欠かさない…といった風情
「お手伝い、ですか…?
それは、ありがたいですけど、此処はもう何も残っていないみたいで…」
そう、何も残っていないのだ
目に見えない記憶の残滓を探れる自分でなければ、こんな場所に用などないと思うのだが
「えっと、松葉先生…でいいのかな…。此処に用って…?」
■松葉 雷覇 >
「そう硬くならないでください。私自身は教師ではありませんし
ご友人程とは言いませんが、どうぞ気兼ね無くしてください。」
それこそ、"先生"等と言う肩書は相応しくない。
講義はする事こそ稀であり、飽く迄島の設備を使って実験を繰り返しているだけに過ぎない。
社会貢献、安定期に入ろうとも未だ混沌とした此の世界に
安寧をもたらす為の研究、すなわち使命だ。
己の口元に人差し指を立てて、片眼を閉じる。
「宜しければ"先生"ではなく、"博士"とお呼びください。
その方が賢く見えませんか?ええ、冗談です。お好きにどうぞ。」
なんて、少し茶目っ気を出して見せた。
彼なりの場の和ませ方でもある。
「それにしても、随分と着込んできたようですね。
それほどの相手を想定しているようですが……確かに、もぬけの殻のようです。」
「差し支えなければ、一体どういった方々を追っておられたか教えて貰えますか?
ああ、勿論。風紀委員としての守秘義務に則ってください。私は、貴女にとって"外部の人間"ですから。」
風紀委員、特に公安の情報規制は厳しいはずだ。
秩序を司る機関である以上、ある程度の情報制限は当然のことだ。
それを野次馬のように言及するほど、落ち着きのない人間ではない。
施設の壁面へとゆるりと歩けば、壁を、或いは設備を興味深そうに見ていた。
■伊都波 凛霞 >
「は、はぁ…わかりました」
気さくな言葉
とはいえ目上の人間に気兼ねなく、というわけにもいかず
「あ…はい。影響のない範囲でしたら…」
どういう連中を追っていた、と聞かれれば一寸、考えて…
情報として問題のない範囲で話しはじめる
違法薬物の流通を追っていて此処にたどり着いたこと
此処を根城にしていた違反組織はそれだけでなく武器の密造にも関わっていたらしいこと
そしてその組織はどうも足切りが頻繁に行われているであろう、こと
そして今日、踏み込んでみれば…
「もぬけのから、と…。
…やっぱりどこかから情報が漏れているのかも…」
視線を落としながら、顎先に指をあて思案
それからふと、視線をあげ
「松葉博士」
「そういえば、よく私が対集団鎮圧用装備で来ているって理解りましたね」
あちこちに装備を隠し持っているが、あくまでも"隠し"持っている
■松葉 雷覇 >
「成る程。随分と手を焼いている相手のようですね。
随分と賢く商売をしているようですが、何れは蜥蜴の尻尾になってしまうかもしれませんね。」
実に違反部活、違反組織としては"模範的"な連中のようだ。
何よりも、組織力は相応に高いらしい。
風紀委員の手が入る前に、上手くその場を飛び去っている。
情報力もそうだが、それだけのフットワークの高さは組織の連携力が為せる業だろう。
しかし、常夜の秩序維持機関は一つでは無い。
何れ追い込まれる時も来るだろうが、それこそ組織力の見せ所だろう。
雷覇が空を掌でなぞれば、ホログラフのモニターが出現する。
何らかの文字の羅列が高速でスライドされていくのが見えるだろう。
「内通者にしては少々手際も悪い気もしますね。
私でしたら、そもそも組織の全貌を掴ませないように情報操作を行いますから。」
その方が、仕事をする側は楽なものだ。
何れバレるものだと分かっていても、それだけの"時間稼ぎ"が出来れば十分だ。
自らの顎に指先を添えて、軽く思案すれば流すような視線で彼女を一瞥する。
「伊都波さん。貴女はお一人のようですし、単独行動をするなら相応の装備をしていると思います。
或いは、己の異能の妨げにならないような装備を。それに、"もぬけの殻"と貴女は言いました。」
雷覇は振り返り、モニターを指先でタッチする。
音を立てる事無く、モニターは消えた。
「あわよくば、その場で"鎮圧"する気だったのではないでしょうか?
貴女の詳しい戦闘力を存じ上げている訳ではありませんが……多人数を相手にするなら、相応の準備をするでしょう?」
「貴女も風紀委員であり、自惚れや慢心が無ければ万全の装備を用意するでしょう。」
「ましてや、落第街はそう言う場所です。何が起きてもおかしくはありませんから。」
「伏兵、と言う線もあるでしょうが……攻め込む側で張るには些かは不向きですね。
此処は地下ですし、潜入する場所も限られます。鎮圧するなら、"生き埋め"にするか、迅速に鎮圧するのが最も被害の少ない手段かと。」
ある種のやり口、そう言った予測は立てられる。
勿論確証があった訳でもないが、雷覇は相手を過小評価しない。
それ位はする。誰にでも"期待"を以て接する。
これ位、誰でも思いつくと思っている。
何よりも、彼女なら装備を整える理由の裏付けはもう一つ。
「貴女は……そう、一度"痛い目"を見ている。
痛みを以て覚えた事を、人はそうそう忘れません。
そんな貴女が、単独で落第街に赴く。そうであれば、必要な準備を整えるのは当然。」
「……如何でしょう、会っていますか?」
にこやかに、雷覇は尋ねた。
その傷口(トラウマ)を意図も容易く指先でなぞるほどに、躊躇なく尋ねた。
■伊都波 凛霞 >
「…そう、ですね。
違反学生を捕まえても深くは繋がってないことが殆ど、ですから…」
博士の言葉通り、組織の全貌が見えてこない
即ち、賢いやり口というわけである
万が一内通者がいたとして、それも含めて蜥蜴の尻尾の一部である…という懸念が浮かぶ
「追う側が大変とはよく言いますけど、
私のサイコメトリーを使っても追いきれないことも多くて」
言いながら、部屋の隅に雑に積まれた木箱に手を触れる
中身は空箱、目を閉じればその箱に残った残留思念が再生される──が
箱に何かシートでもかけられいたのか、映像の大部分は遮られてしまっていた
こういう捜査をする風紀委員もいる、という情報が多少なり伝わっているのだろう
それから、博士によりこちらの武力の考察
どれもこれも、苦笑せざるをえない程に、的確で
「…お見逸れしました。
私の過去のことまで含めてご存しとは思いませんでしたけど」
もしかして、有名人?なんてこちらもちょっとした茶目っ気
さすがに全ての風紀委員のことを調べているわけではないだろう…と思ってはいるが
僅かな疑念は正論でブロック。これ以上疑うのも失礼かな、なんて
過去に触れられていること自体は最近慣れた。故に内心ズキリとはしたが顔に出さないように努力した
■松葉 雷覇 >
「相手は組織です。一人では限界がありますよ、伊都波さん。
程々に切り上げて、同じく組織として忽然と立ち向かう姿勢が必要でしょう。」
勿論必要人材はその時その時によって変わる。
適材適所と言うか、相手が組織として動くなら、組織として動かなければ到底追いつけはしないだろう。
彼女が如何に有能と言えど、補いきれない部分もある。
「あわよくば一人で解決……と、その装備であれば考えたりしていたのではありませんか?
いけませんよ、伊都波さん。ご自愛ください。心身に傷を残すのは、特に女性として好ましくないでしょう。」
異能者、或いはそれに準ずる力を持つものなら"する"。
力とは、自信を助長する存在であり、何れそれが過信となる。
或いはそれらは気遣い、或いは自惚れ。
理由は何であれ、雷覇はにこやかな表情を崩さずに指摘した。
そう、素直な心配だ。言葉の端々の穏やかさ、優しさもすべて嘘ではない。
心の傷口をなぞる声音の指先も、愛撫のように優しく……。
「……ええ、はい。性分でしてね。調べものをするのは。
貴女もそうですが、活動的な人間は落第街では有名でしょう。
それこそ、何かしらの二つ名で呼ばれるほどには……。」
彼女の場合はそうだ。
その抽象的表現はまさしく、畏怖そのものに過ぎず
その言葉の意味には確かな実績が存在する。
彼女の言葉に小さく頷けば、言葉を更に続ける。
「────異邦人街の、シスター・マルレーネをご存じでしょうか?」
■伊都波 凛霞 >
「異能、サイコメトリーで得た情報ってなかなか証拠として弱くって、
何か物的な証拠を持ち帰られれば風紀委員で組織だって動けたりもするんですけど」
一人で解決するつもりだったのでは?という問いかけには少々バツの悪い顔
そう、大抵のことは『一人』でどうにかなってしまう
むしろ実力的に劣る人間が近くにいると本領を発揮できないことだってある
今日単独で動いているのは、内通者の影を感じたからでもあるけれど
「──…はい」
優しく、堪らなく優しく、傷口に触れてくる
悪意は感じられない、だからこそ…ズキンとまた、胸の奥が痛む
「…二つ名…あ、あー…あれは、非公式です、ハイ…。
そういえば私用って言ってましたけど、こんなところにどんな…」
と、問いかけたところで、思わぬ名前が出てくる
「マルレーネさん…?ええ、キャンプなんかでご一緒したこともありますし、数ヶ月程前だったかな…
大変な事件に巻き込まれたみたいで…彼女がどうかしたんですか?」
該当の事件に自分は関わっていなかった
風紀委員の仲間が怪我をしたりと、小規模ながらも大きな影響を与えた事件だと記憶する
自身が落第街のスラムで単独活動をはじめたのも、その事件で負傷した鉄火の支配者の穴埋めとして…がはじまりだった
■松葉 雷覇 >
「"状況証拠"。再現性が見受けられないから証拠として弱い、と……。」
一理ある。
結局の所、当人のみ閲覧できる映像を抽出出来ないのであれば
暴論だが、"妄言"の一言で片づける事も可能だ。
さて、だがそれは少し"困った"。
余り乗り気ではなかった。必要以上に"目立ちたくはない"。
だが、どの道認知はしてもらうつもりだった。
……"彼"へのメッセージとして考えれば、一段階駒を進めるのも、悪くはない。
「ええ、はい。そのシスターで間違いありません。彼女には色々"協力"して頂きました。
主に、耐久実験ですがね。彼女の肉体は、此方側の人間と構造が変わらず、尚且つとても頑丈です。」
「おかげで、良いデータが取れました。」
雷覇は一切の姿勢を崩す事は無い。
穏やかな物腰も、優しげな声音も。
何一つ変わらず、ことも無しげに"語る"。
「負荷を掛ける都合上、同志は精神面を責め立てる言葉を使ったようですが……いけませんね。
そこはとても後悔しています。彼女の精神は、壊れ続けて破片を支えているような脆さです。」
「彼女自身に支えが必要だというのに、嘆かわしい……。」
知っている。
雷覇は知っている。
彼女に何が起きたのか、知っている。
それを"実行"したのが己であるため、当然だ。
そして、それをさも思い出のように語り、嘆き、憂いの溜息が漏れた。
「彼女にはもう一度、お詫びをしていきたい所ですね。
さて、私が何をしに来たと言えば……伊都波さん、貴女に"興味が在ります"。」
雷覇の言葉の端々に、一切の悪意はなく
それらの言葉は、至極自然だった。
だからこそ、常人であればこそ感じる違和感。
理性、所謂"タガ"としての人間の心。
「サイコメトリーの能力……そして、貴女自身の精神の容量がどれだけ持つのか。」
「"試してみたいと思いませんか?"」
──────"決定的な何かが、外れている"。
■伊都波 凛霞 >
「そういうコトです。残留思念を映像として出力可能なものがあればいいんですけど…──。
博士はマルレーネさんともお知り合いなんで──」
言葉を交わしながら、振り返り、投げかける言葉を詰まらせる
その博士はまるで同じ調子、同じ表情のまま耳を疑うような言葉を連ねていた
何を言っているのか理解できないわけもなく
"こんな人がたまたまこんなところに来るかなあ"なんて淡い疑念の種は、一気に芽吹く
灯台下暗し──というほどでもないが、
当人の言葉を信じるなら異能学会の人間が、あの事件の関係者──否、口ぶりとしては
「………」
一瞬とはいえ、気を許しそうになった自分を戒める
直感での、悪意への反応感度が強く、
生真面目な性格が災いしているのか、正論での崩しに弱
言い換えれば"悪いことをしているという自念のない"人間に対してそれは働かない
…と自己分析はしているものの、今は気持ちを切り替えなければならない
「……──お断りします」
周囲の空気が張り詰める、強く、ピリピリと
「私に興味がある、というなら…色々と試してみたいのは博士、貴方ですよね──」
手早く、素早く。袖口を滑らせるようにその手に拳銃が握られる
銃口は一息で眼の前の男、松葉雷覇へと向けられた
「どうぞ、もう一度と言わず何度でも彼女に、マルレーネさんに謝罪してください。
松葉博士…いえ、松葉雷覇。貴方の目的はわかりませんけど…
あの事件の容疑者としてこの場で拘束させてもらいます」
「逃げようとはしないでくださいね。実弾ですから、腕や脚を狙うにしてもすぐには治りません」
■松葉 雷覇 >
「…………」
雷覇は彼女の返答に満足している。
天才肌の優等生。その期待を自他共に応え様としているのかは定かではない。
こうして今も、己の語った事に敵意をむき出しにし、凛然とした"正義"を語る。
彼女の口からであれば、己自身も、ディープブルー自体もいよいよ以てマークされるかもしれない。
黒光りする銃口。わかりやすい殺意を向けられても、動じる事は無い。
雷覇は一切、その融和な態度を崩したりはしない。
「ええ、貴女は貴女の職務を実行してください。
私は私で、初めさせて頂きます。どうぞ、貴女に引けるのであれば……。」
────…"ご自由に"。
青い瞳は、そう語る。
彼女に撃てるのか、と。
脅しは通じない。そう言わんばかりに一切の動揺さえ、見えない。
さも、彼女の敵意と緊迫した空気でさえ受け止めるかのように
雷覇は、仰々しく両腕を広げていた。
一見、無防備にも見えるその姿。
よもや、雷覇が何の準備も無く彼女に会いに来たわけではない。
さて、此の男に彼女はどう、行動するのか……。
■伊都波 凛霞 >
「………」
男の言葉をただただ、聞いていた
言葉の調子も、その態度も、表情も
先程までと何も変わらない
多少なりとの感情の乱れすらも感じられない───
普通の人間ならば、罪悪感
悪徳を是とする人間ならば、高揚感
そうでなくとも、我関せずといった空気
何かしらの波打ちが現れる
それがない、ということは
彼は、彼自身の語る言葉も、自分自身から向けられる敵意も
当たり前のように、受け止めている
つらつらと、自然体のままに述べられた数々の言葉と、銃口を向けられて尚乱れないその佇まい
目の前の男、松葉雷覇が何処か大きくズレていること…若しくは、壊れていると推察するに値する
「……逃げないのなら、撃つ必要は本当はないけど」
応援は…そういえば通信が死んでいた
決断できるのはこの場の自分一人、ならばその決断は即座に下し、行動に移らねばならない
ここで両手を後ろに回して膝をつけ、などといっても聞かないだろう
彼は銃に対して怯えていない
「─……撃たないと思っているなら」
銃口をほんの僅かに逸し、トリガーを引く
一発、二発
鋭い炸薬の音と共に、男の頬と肩を掠める軌道の弾丸は二発
これで揺らぐ様子を見せなければ…──次は膝を撃ち抜いて逃げ脚を奪う
──生真面目といえば生真面目な、算段
もし彼がこの場に、自分を何らかの手で害するつもりで準備をしに来ているなら
直接仕掛けるよりは飛び道具で様子を見るのが常套手段だろう
■松葉 雷覇 >
地下室に炸裂音が響いた。
無慈悲に命を奪う発砲音。
銃とはまさしく、わかりやすい武器だ。
命を奪う機能美。それに特化した分かりやすい武器。
単純明快だからこそ、銃を持てばやる事は一つしかない。
「──────……」
銃を撃つ事。
当たり前だが、それだけだ。
銃口を見て、銃弾の軌道を見切る。
────等と、そんな殊勝な動体視力も身体能力も持ち合わせていない。
ある程度、自信の肉体には"手を加えて"あるが、アニメのような格好良さなど持ち合わせていない。
銃で撃たれれば死ぬし、足を撃たれれば動きが制限される。
何処にでもある人の肉体と変わらない。発砲される直前でさえ、雷覇は態度を崩していない。
ある種の余裕だ。その余裕は何処から湧くかと言えば……自身の"異能"他ならない。
「これはこれは……。」
放たれた弾丸は二発。
牽制の弾道だが、雷覇にそれは見切れない。
超人的な動作など持ち合わせていない。雷覇はもっと、"大雑把"だ。
空を裂き一直線に飛ぶ鉛弾が、雷覇の目前に来た途端急カーブした。
軌道を変え、それらはUターンして凛霞へと返っていく。
重力操作の異能。なんてことはない。
重力を使って"押し上げ、反対に弾いた"だけにすぎない。
手を動かす事は無く、そこに見えない壁があったかのように弾かれたそれに、彼女はどう対処する…?
■伊都波 凛霞 >
凛霞のある種常人離れした──本人曰く、いい眼──は、
撃ち出された弾丸二つが軌道を捻じ曲げられ、屈折し"跳ね返される様"をはっきりと視界に捉えた
そこから0.3秒
平均的な人間の反射神経の伝達速度では回避は間に合わない
──が、引き金を引いた瞬間
そしてその瞬間までその余裕を乱さない雷覇を見て
銃を撃った、その刹那に真後ろへと飛んだ
二発の弾丸がむき出しの床を破砕し、埃が舞う
「──とんだペテン師。
最初から銃なんて驚異でもなんでもなかった、ってコト」
左の腿に薄く赤い線が走る
跳ね返された弾丸のうち、一発が僅かに掠めた程度
咄嗟の対応としては上出来だろう
──思索する
概念的に攻撃を跳ね返す力、か
それとも別の、斥力など物理法則を操作したのか
そうでなければミサイルガード、カウンターマジック…いわゆる魔術の類か
魔術が働いた気配はなかった
ならば、おそらく異能者──
「ともあれ…」
「大人しく捕まる気はない──と…」
ふぅ、と大きく息を吐く
それは溜息ではなく、次の行動のための、呼吸
データの割れていない異能者相手の戦闘は、トライアンドエラー
ただし可能な限りリスクを減らして、が定石
取れる手札は多ければ多いほど良い
ただし、今日は自分は一人、単独である
装備も対集団用のそれと限られる
ならばここは、大胆に動いて一気に力を見極める──!
「…力づくになりますよ」
おそらく、捕まえてしまえばどうにでもなる…と、踏んでいた
話し合いはその後でも出来る
姿勢を低くし。銃を捨て、代わりにその手に握られた楕円形の物体
ピンを引き抜き叩きつけるようにして床へ──
瞬間、音と閃光の奔流が地下室を満たす
フラッシュバン、そして同時に駆け出す
自身の閃光防御は目を閉じるだけ、防音は気合、その影響には慣れ、というある種の力技を行使する
距離を詰め、その腕を掴んでしまえば数瞬でその動きを封じることができる
あとは『痛み』を条件に、異能の行使を阻害することだって可能だ
それがこれまで戦闘用の異能をもたないにも関わらず、異能者相手に渡り合ってきた上での少女の一つの結論である
■松葉 雷覇 >
「とんでもない。銃の脅威は理解しています。」
恐ろしいからこそ、大雑把でも確実な対処をする。
撃たれれば死ぬ。自明の理。
脅威だからこそ、全力で対処する。
そして、彼女の装備はおおよそ理解した。
見立て通りなのは間違いない。防御性能も恐らくは……。
「……では……。」
多少、"大雑把"でもいいらしい。
白い手袋に包まれた手が、軽く掲げられる。
「どうか、死なないように。貴女にはまだ、やるべき事が在りますので。」
懇願に近い言い回し、優しさは本心だ。
雷覇の善意に一切の偽りはない。
だが、それとは裏腹に行う事は"暴威"だ。
雷覇の周囲が僅かに"歪む"。
刹那、周囲の壁に、天井に亀裂が入ると同時に
辺りの元を引きつぶし、天井を、壁を砕く見えない力の本流が迫る。
轟音を立ててまさに、此の地下そのものを押しつぶす重力の波。
見えない力の津波が、全てをあざ笑うように迫りくる。
力場、なんにせよ力である以上同程度の力で抑え込むことも可能ではあるが……。
呑まれれば最期、壁に、床に埋まるか、或いは瓦礫に圧し潰されるか。
何にせよ、無事では済まないだろう。
「───────……」
そんな中、迫った破裂音と閃光には"目を背けなかった"。
目論見を理解した訳では無い。ただ、雷覇にも覚悟が有る。
実験に立ち会う以上、失敗し自ら命を落とすのは科学者の性。
即ち、"如何なる結果であろうと受け入れる"歪んだ覚悟である。
確実にその目は、耳は、音に蝕まれた。
甲高い音とホワイトアウト視界。
雷覇の耳に、自らの暴威は聞こえない。
少女が如何なる対処を取ったかもわからない。
■伊都波 凛霞 >
「(銃弾の軌道を逸らすどころか跳ね返す…)」
脚に力を込めながら、高速で思考する
斥力操作…というのを第一候補に動く
物理的な影響ならば何かを跳ね返した以上、それが本命となる
問題はそれが全方位に働くのか、正面など方向が限定されるのか──
故に視界を奪い、更にポイントムーヴを利用した高速の移動で四角から…という寸法だった
……が
「──え」
突如、壁が、天井が崩壊する
僅かに白いだ視界に映った、男の姿はまるで空間が捩れたように、歪んで見えた
急激に押し戻される──、否、引き戻される?流れに囚われる
「(引力…──違う、重力操作…ッ!!)」
──数日前、重力操作の異能の違反生徒との交戦があった
その時は、思うように動けず、かなりの苦戦を強いられた
けれどこれは、その学生の異能の力とは"桁"が違う
あの学生が力を行使したところで、壁が引き潰れたりなんかはしなかった──
普通の人間の力では抗えない
「──っが、はぁっ…!」
そう悟った直後には壁に背中を強烈に叩きつけられる
肺の空気すら押し潰され、大きく咳き込み…悲鳴となって漏れた
「っ…う……!!」
身体を引き剥がそうと腕に、脚に力を込める
しかしまともに動くどころか、更に圧壊する壁へと押し込まれ
身体全体が押し潰れるかのようにミシミシと悲鳴をあげ、意識が遠のく──
「…ッ松葉、雷…覇…!」
それでもまだ、活きた眼で睨めつける
必死に可能な限り腕を動かし、通信用の端末を取り出し──すぐにそれは壁に突き刺さるようにひしゃげ、壊れてしまったが
■松葉 雷覇 >
苦悶の悲鳴も、破壊音も聞こえない。
ホワイトアウトした視界の中、重力を攻撃に使ったが故に無防備だ。
仮に此処に、あの因縁の相手がいれば力で重力を押し返し、ひしゃげていたのは自分かもしれない。
徐々に取り戻す視界が見えたのは、壁にへばりつく少女の姿。
「……山本君程の剛力の持ち主ではなくて、少し安心しています。」
存外、何を隠し持っているかわからないものだ。
異能に限らず、この世界の人間は、或いは異邦人は
ふとした拍子に力の"タガ"が外れている事が多い。
彼女の武術の達人とも聞いた。物によっては、大地を裂く程の物もあると聞いた。
彼女のものは、そうではないらしい。
「ええ、よかった。貴女が無事で。」
そう、決して命に別条がない。
とても安堵している。雷覇は胸を撫でおろし、ゆるりと歩み寄った。
何よりもその"目"。諦めない正義感と、活力。
それだけの精神力に、感嘆せざるをえなかった。
場合によっては拍手を送っていたが、今は"時間がない"。
指先を軽く曲げれば、"圧力"が籠る。
少女に押し付けられた重力に更に圧が掛かり
特にその手足の肉を、骨をゆっくりと咀嚼するように砕いていく。
敢えて、一度に力を掛けない事により、その意識を決して途絶えさせない為の痛みだ。
「では、始めましょうか凛霞さん。」
そう、まだ雷覇の実験はこれから始まるのだ。
その左手には、いつの間にか細長い筒状の何かがあった。
青銅色をした謎の筒状の存在。
「これは、私の活動拠点から見つけたものです。
今で言う記憶媒体のようなものだと判明しています。」
空をなぞる指先に合わせてホログラムモニターが出現し
モニターには量子体のケーブルが伸びていた。
「私の目的はこの中身です。ですが、私の技術では中身を見る事は叶いません。
ですので、凛霞さん。貴女の協力が必要です。おそらく、強力な負荷がかかるでしょう。」
ケーブルが青銅へと刺さる。
「"耐えてください"。」
その一言と同時に、冷たい青銅が凛霞の額へと押し付けられる。
■伊都波 凛霞 >
「か、は…っ…──うあッ」
凛霞は決して非力ではない
しかしその力は理合、技巧を経て増幅・発揮されるもの
異能で増強される常識外の力のようなものではなく──
「──ッ、ぎ…」
ぐわんぐわんと耳鳴りの奥から、骨が圧し砕ける嫌な音が響く
脂汗が浮かび、苦痛の表情を浮かべて尚…凛霞の口から叫ぶような悲鳴をあげることはなかった
耐え難い激痛を噛み殺し、押し殺した苦悶の声が僅かに漏れるのみ
涙を流しながらも眼の光は消えず、男を…雷覇を必死に睨んでいた
少女に纏わる数々の逸話は、その異常な精神の強さが培ったもの…と言っても信じられたかもしれない
しかし、男は異様な行動に出た
何をする気なのか、それを額に当てられるまで、理解はできなかった
目の前が一瞬で別の世界へと変わる
それが、己の異能であるサイコメトリーが強制的に発動したのだということに気づくまで、そう時間はかからなかった、が──
「あ……──」
時間は、ほんの一瞬だっただろう
凛霞は糸の切れた人形のようにだらりとその身体から力を失う
男の目論見通り、かどうかはわからないが
その装置の齎したものの全てを、凛霞は読み取った
結果──
「……………」
──少女の瞳から光が消えた
心臓は動いている
が──一瞬で流れこんだその情報の濁流は、一人の人間の脳の限界を越えていた
そして人間としての防衛本能が脳を強制的にスクラムさせたのか、あるいは…
破綻し、"壊れた"のだろう
結果的にその情報の殆どを読み切った、それ自体は…雷覇の期待通りの結果だったのか、どうか──
■松葉 雷覇 >
────────……プツン。
■松葉 雷覇 >
ホロモニターが消えた。
目的は達成し、確かに抽出する事は出来た。
己の目的、選択肢。だが、どれも思う以上に"時間がない"。
「…………」
雷覇の表情は、険しいものに変わっていた。
自らの技術、あらゆる知識を使ってこの理想に達成できるだろうか。
"此の不安定な世界に安寧と幸福を与える手段"を……。
「……ご協力に感謝します。伊都波さん。」
既に力の本流は収まった。
意識無き少女に深々と頭を下げて、踵を返す。
少なくとも、彼女の意識が戻れば自分は違反者としてマークされる。
"これでいい"。既に、異能学会で出来る事は終えている。
後は、学園側がある程度動いてくれなければ達成できない。
耳元に人差し指を当てれば、耳元に内蔵された通信量子回線がオンラインになった。
「────風紀委員の方ですね?はい。落第街で風紀委員の方が……はい、早急に回収してあげてくださいね。」
飽く迄彼女は"協力者"だ。
これ以上無碍には扱えない。
此処は落第街、無法地帯。
応援の部隊が来るまで、彼女の傍で雷覇は見守る。
そして、目が覚める頃には、異能学会から雷覇の姿はなかったという……。
■伊都波 凛霞 >
ゆっくりと、壁から剥がれ落ちるようにして床へ倒れ込む
完全に意識を失っているのか、ピクリとも動かない
手脚は用を為さないレベルに破壊
ポニーテールを結んでいたリボンも解け、長い髪が血と共に床へと広がる
見る人が見れば、死んでいると判断されてもおかしくな
そんな状態の凛霞が駆けつけた風紀委員に搬送されるのは、十数分後の話
命に別状こそはなかったものの、その意識が戻ることはなく
当面、風紀委員の刑事部の机は一つ空くことになるのだった───
ご案内:「落第街廃ビル地下」から松葉 雷覇さんが去りました。
ご案内:「落第街廃ビル地下」から伊都波 凛霞さんが去りました。