2021/03/31 のログ
ご案内:「常世総合病院・ロビー」に伊都波 凛霞さんが現れました。
■伊都波 凛霞 >
早い場所では桜が咲き
暖かな春風が髪を撫ぜる
色々なものが移り変わる…そんな季節の変わり目
「──大変お世話になりました」
病院のロビー、その一角で深々と頭を下げる凛霞
背後には長身の壮年男性が背筋を正し、立っている
同様に、その傍らには同年代の女性と…その後ろに少しだけ隠れるように、もうひとり少女の姿
『おうちでもごゆっくり静養なさってくださいね』
担当の看護師は笑顔で、そう言葉を贈ってくれた
■伊都波 凛霞 >
回復は、驚異的なスピードであったらしい
まともな状態には戻らないかもしれないと言われた手足も、今は自在に動く
顔や、身体の擦過傷も魔術医の治療のおかげでほとんど跡がわからないレベルにまで回復していた
運動能力に関しても…問題はないだろう
リハビリとも言えないようなリハビリをこっそりと続けてきた凛霞だったが、
実はそれは看護師にはバレバレだったらしい
お医者の先生に怒られるだろうと気づかないフリをしてくれていたそうだ
退院間際、それを話してくれたが…凛霞自身はバレていないと思っていたので素直に驚いた
どうしてわかったんですかと問えば
『患者さんのことですから』
とだけ答えてくれた看護師の女性がとても印象的だった
■伊都波 凛霞 >
壮年の男性は荷物を車に乗せてくる、と言って一足先に病院を出ていった
最後に看護師、お医者さんの先生へと深く一礼し『娘が世話になりました』と告げて
父、そして母に次ぐように妹もお辞儀をして、それに続いてゆく
「……───」
ふう、と小さく息を漏らす
色んな人に迷惑や心配をかけてしまった
それは委員会や、友人だけでなく、当然のように家族にまで
■伊都波 凛霞 >
それでも快復した
元気になった
桜の舞う新しい季節には、ギリギリだけと間に合った
委員会への報告業務しかり、休んだ分の補講しかり
色々と考えると気が重い、とかなんとかは言っていられない
「──それじゃあ」
「本当に長い間、ありがとうございました!」
もう一度、大きく腰を追って頭を下げた
病院にいる間は結わなかったポニーテールが流れるように揺れる
長くなりすぎたので少しだけ毛先を切ったけど、実に気持ちよく『いつもの自分』に戻った気がした
■伊都波 凛霞 >
ほんの二ヶ月程度の入院だったのに、すっかり見慣れた院内
まともに歩けるようになったのは最近なので、実際にはこのあたりの景色はそう見慣れたわけでもないはずなのに
不思議と寝食過ごす場所というのは、すぐに馴染んでしまう
さすがに病室が恋しいなんて思うこともないけれど
くるりと踵を返し、病院の出口へ
大きなガラスの自動ドアの先から差し込む春の陽光は、やや眩しい
白い逆光の中に、何よりも見慣れたシルエットが見える
微笑んで、一歩一歩、しっかりとした足取りで待ち構える影へと向かってゆく
仲間、友人、家族、だけじゃない
ある意味一番心配をかけちゃった人へと、真っ直ぐに歩いて
病院の外へと踏み出すと、春風が体を撫でる
咲いたばかりの桜の花びらがどこからか舞い込んで、白く光って見えた
「──お待たせ」
一言だけそう言葉を向けながら、その手を伸ばした──
ご案内:「常世総合病院・ロビー」から伊都波 凛霞さんが去りました。