2021/07/28 のログ
■神代理央 >
「――………」
訪問者の髪と、顔と、声と。
それらが己の記憶の中で結びついた時、最初に浮かべたのは先ず何より驚愕の表情だった。
確かに、知人と呼んでよい程には交流がある…のかもしれない。
少なくとも、御互い名前を知らない訳では無い。
とはいえ、彼女が己の見舞いに訪れる、という事態は想定外のものでもあった。
「…良く来たな。とはいえ、正直此処にお前が現れるのは正直予想外だったな。
驚かされたよ。良くも悪くもな」
そして、驚愕を隠しきれないという自覚もあったが故に。
彼女の来訪が予想外であった事を素直に言葉にして伝えるのだろう。
隠しても仕方がない。無駄な見栄を張って時間を浪費するのも好ましい訳では無いのだし。
「御機嫌?可もなく不可もなく、といったところだ。
別に貴様が来たから機嫌が良くなる訳でも、不機嫌になる訳でも無い。
怪我も、完治には至らぬが大怪我という程でも無い。
退屈している、というのが近い感情なのかな」
と、言葉を返しながら小さく肩を竦めようとして――響く鈍痛に、顔を顰める事に成る。
■シャンティ > 『少年は、一瞬驚愕の表情を浮かべる。「――」すぐに立て直して言葉を口にする。そこには見栄も虚栄もない。』
謳うようにそこまで口にして……
「あ、らぁ……サプライ、ズ……成功、かし、らぁ……?」
くすくすと愉快げに女は笑った。
「あ、ら、あらぁ……まあ……私が、きて……盛りあがって、くれる、なら……それは、それ、で――嬉しかった、の、だけれ、ど……ざぁ、ん、ねぇん……ねぇ……で、もぉ……正直、なの、は……いい、けれ、どぉ……まぁ、だ……痛む、みたい、じゃ……なぁ、い?ふふ。」
くすくす笑いを続けたまま、女はゆったりと近づいてくる。
「かぁわ、いく……顔、しかめ、ちゃって、ぇ……あは。」
視線があっているのかあっていないのか。お構いなしに、顔を近づけた。
■神代理央 >
「…サプライズ、という事であれば大成功だよ。それが目的で訪れたのなら、驚きも二倍だがな」
態々自分を驚かせる為に訪れたのだろうか。
そんな愉快な趣味を持っているとは思っていなかったが――己とて、彼女の事を完全に理解している訳でも無い。
そういう愉快な一面があるのかもしれないか、と納得した様なしていない様な顔。
「不機嫌にならぬだけマシだと思って欲しいものだな。
マイナスではないだけ、評価が高いとも言えるではないか。
……まだ二日目だからな。先程痛み止めを飲んだところだが、痛むものは痛む」
筋断裂など、過剰な負荷がかかった身体は最新の医療を受けたところで痛むものは痛む。
入院期間が長引かないだけマシ、とでも言うべきだろうか。
そんな言葉を返しながら、此方に近付いて来る彼女にじっと視線を向けて――
「……弱っている私が御好みかね?であれば、今のうちに堪能しておく事だ。
尤も、此の程度の怪我でどうこうなる程柔では無いつもりだがね」
近付く彼女の顔を避ける事も目を逸らす事も無い。
見えていようがいまいが、視線があっていようがいまいが。
己は唯、彼女を見つめるだけ。此の程度で音を上げる事など無い、と強い意志を込めて。じっと。
■シャンティ > 「あ、らぁ……意外……? ふふ。私、これ、でもぉ……エンター、ティ、ナー、の――つもり、なの、だけ、れ、どぉ……?」
本気とも冗談ともつかぬ様子で女は口にする。
「『おもしろきこともなき世をおもしろく』……なん、て……ね?」
強い意志を込めた視線を涼しげに受け流し……否、それはただ流されることもなく虚無に吸い込まれていった。
「んー……別、にぃ……弱って、なく、ても……素敵、よ、ぉ……? あは。で、もぉ……趣味、は……すこぉ、し……考えもの、だとは……思う、けれ、どぉ……」
気づけば、彼女の手には小さなナイフが握られていた。何処に隠していたのか。まるでずっと前からそこにあったかのように……鈍色の光を放つそれは、いた。
「む、し、ろ、ぉ……本題、は……こっち、だ、けれ、どぉ……?」
■神代理央 >
「………エンターティナー?向いていないとは言わんが、イメージがつかんな。大道芸でもするのかね。それとも、企画立案の側かね?
まさか、頭の上にタライを落とされる側ではあるまいし」
ミステリアスな雰囲気を纏った彼女が、エンターテイナー。
プロデューサーとか、そういうものを目指しているのかな、と首を傾げた。
軽口めいた冗談が言える程度には、気を許している――或いは、それなりに歓迎している、という事だろうか。
此方の視線を受け止める…のではなく、呑み込む様な彼女に視線を向け続けながら…ふ、と穏やかな視線へと切り替わる。
「御世辞でも嬉しいよ、とでも言えば満足かね?
趣味については強く否定はしないが、こればかりは人に寄りけりだろう」
と、穏やかな声色と共に視線は彼女の手元に。
鈍く輝くナイフに気付いても尚、彼女に向ける視線は変わらない。
訪問客を迎える患者。それ以上でも、それ以下でも、無い。
「果物でも剥いてくれるのかね。見舞いの品を持って来ている様には見えないが」
彼女の"本題"を問い掛ける様に。
柔らかな笑みの儘、首を傾げてみせる。
己に繋がれた機器から鳴る無機質な電子音が、二人の間に響く。
■シャンティ > 『視線をそらさず、変えず、ただ穏やかに少年は応じる』
「ふふ……ふふ、ふ……あは、あははははは…… だぁい、せぃ、かぁ、い……」
わずか、身を離し女は奇妙に笑い出す。
「冗談、で……本質、を……当てる、なん、て……あは、やっぱり、面白い、わ、ねぇ……ふふ。ねぇ――理央くん、はぁ……なに、が、お好き、かし、らぁ……? 桃、でもぉ、メロン、でもぉ……林檎? 梨? あぁ――柘榴……なん、て……お似合い、で……いい、かも、しれない、けれ、どぉ……?」
くるくると鈍色に光るそれを器用に回しながら、仰々しく身振り手振りを交えて問う。それは、まるで何かの演劇のようでもあった。
「いい、わぁ……あは。今日は、特別……サービス。だいたい……なんで、も……揃え、て……る、わ、よぉ……? 」
多少の付き合いがあるからこそ、違和のような――そう、不思議なはしゃぎっぷりであった。
■神代理央 >
「本質を言い当てた…と言ってよいものなのかな。
単純に、お前が居そうな立ち位置を思い浮かべてみただけだ。
人々を楽しませる、という行為の際に、お前が何処に立っているのか。
舞台の上か、裏方か、観客席か。演者と監督とで、少し悩んだがね」
まあ要するに。其処まで深く考えていた訳ではない、と。
そんな己の言葉に上機嫌に笑うものだから、過剰な評価をされてはたまらない――と、素直に己の考えを伝えるのだろうか。
「柘榴が似合う、というのは嫌味かな。特段嫌いでは無いが。
しかし……何でも、か。それなら、一つ頼もうかな」
彼女を見つめる視線は、愉し気なものだ。
己の取り留めのない言葉と思考を補強するかのような、大振りな動作や仕草。
物静かな雰囲気の似合う彼女にはらしからぬ、快活に見える程のはしゃぎっぷり。
それを"視て楽しんでいる"かの様に。彼女が演者であり、台本を書く者であるのなら、此方は観客として振る舞っている――かの様に――
「……では、そうだな。風紀にも公安にも言えぬ様なお前の秘密を一つ。そのナイフで暗幕を切り裂いて教えてはくれぬかな。
シャンティ・シン。お前を"一つ"、私に寄越してはくれないかな?」
■シャンティ > 「……」
ぴたり、と動きを止める。謳うような言葉も、笑うような声も、ない。まるで静止画のように不気味に固まる。
しかし、それもほんの僅か――すぐに、動きを取り戻す。
「あ、らぁ……それ、は……『ご注文は、あなた』……に、聞こえ、ちゃう、けれ、どぉ……?」
再び、くすくすと笑い出す。
「それ、はぁ……『貴方の彼女』に、申し訳、が、ない……と、いうよ、りぃ……申し、開き……が、でき、なく、なる、わ……ねぇ?」
人差し指を唇にあて……くきり、と小さく首を傾げる。中空を見る虚無の目は、まるで遠くの何かを覗くようで――奇妙な絵面だった。
「それ、でも……ご、所望?」
■神代理央 >
「別に、お前の全てを寄越せとは言わぬさ」
彼女の動きが止まれば――此方も、元通り。
観客ではなく、負傷した風紀委員。見舞客と語らう患者。
起き上がったベッドの背凭れに身を預けながら、彼女に同調する様に小さく笑う。
「風紀委員が其処まで不貞を働く訳が無かろう。それに、たかが見舞いの品にお前自身を欲する程、私は強欲でも無い」
「一つだけだ。薄皮を剥く様に。薄布を切り裂く様に。
お前が何を欲しているのか。何を求めているのか。私に何を、隠しているのか」
彼女の視線は、瞳は、何を視ているのだろうか。
学園と風紀委員会の資料には、大した事は載っていなかった。
盲目で、聴覚障害を持っていて、読書好きの少女。
それ以外には、何も。犯罪者ではない少女の情報等、流石の風紀委員とて漁れる訳でも無い。
だから――
「だから一つだけ。お前が私に秘している事を教えて欲しい…というのは、見舞いの品に頼むには些か高価な代物だったかな?
それとも…私が所望する、と言えば、差し出してくれるもの、なのかな」
■シャンティ > 人差し指を唇に当てたまま、しばし考える。
「……女の子の、秘密、は……安く……ない、わ、よぉ……?」
これは駆け引きにもならない駆け引き。答える義務など何一つ存在しない。どころか、応えるだけ損しか無い。そんな問答。ただただ誤魔化せばいい。ただただ惚ければいい。いつもの慣れた手口。
「それ、にぃ……悪い、こと……して、る……みた、いな……言われ、よう……ひどい、わぁ……私は、ただぁ……前に、いった、よう、に……ただ、楽しい、世界を……みた、い……だけ、なの、にぃ……?」
くすくすと、笑う。いつものからかうような、愉しむような笑い。
「ふふ……そう、ねぇ……楽し、い……と、いえ、ばぁ……『貴方の彼女』。ふふ。気に、して……あげ、た……方、が……いい、わ、よぉ……と、ても……想い、子……あぁ――とても、とても……そう、オセロー、など……可愛い、もの…… ちゃ、あん、と……見て、ない、と……怖い、わ、よぉ……? もう、遅い、かも……だ、けれ、どぉ……あは。」
いたずらっぽい笑いを浮かべてじっと少年を見据える。
「なん、で……そんな、こと、を……とか。どうして、それを……なんて、いうの、は……無粋、よぉ……それ、とぉ……信じ、る、か……どう、か、も……ね? あは。ただ、の……気が……ふれ、た……戯言……か、もぉ……? ふふ。私は、兎、か……帽子屋、か……?」
再び、踊るように大げさな身振りをし……気づけば、いつの間にか手に持っていた林檎を剥き始める。それも、踊るような仕草の一環として。
「……さ、おひとつ……どう、ぞぉ……?」
丁寧に皿に並べて目の前に差し出しつつ……微笑んだ。
■神代理央 >
「………成程。いや、それならそれで構わない。
安くない秘密を持っている、ということだけ覚えておこう。
何れ手に入れる際の値付けがし易いというものだ」
「楽しい世界、か。愉悦の感じ方は人それぞれだと思うがね。
お前の中で、その楽しい世界とやらが完結するなら別に何も言わぬが……それが他者を巻き込むものなのかどうか。
私が気にしているのは、そこだけだよ」
答えは得られない。謡う様に、惑わす様に、はぐらかされる。
そんなところだろうか、と緩く首を振るに留めるのだろう。
「…そういうところだよ。私がお前の秘密を知りたいと思うのは。
いや、敵に回したくない…と言うべきなのかな。それは今のところ叶っていると信じたいところだが。
とはいえ…忠告は素直に受け入れよう。私はどうにも、その辺りが鈍いところがあるのは否定しまい。
怖い、というのは些か引っ掛かる物言いではあるが…」
此方を見据える視線に返すは、口許を緩めただけの小さな笑み。
彼女を敵に回したくはない。忠告も受け入れる。
そういった同意を示す、小さな笑み。
尤も、比良坂冥への違和感、或いは異常に対しては僅かに首を傾げてしまいはするのだが。
「無粋で結構さ。世の中は、お前が望む様に楽しい事ばかりではない。
シェイクスピアが居た様に、マキャベリもアダム・スミスもマルクスも書を認め、世に残した。
彼等の書物は決して文学作品では無い。しかし、それを元に始まった歴史は、後世の我々から見れば悲劇にも喜劇にも繋がる台本の様な物だ。所詮は、観客の気分次第。或いは、書物を手にした為政者達の気紛れ。
であれば。お前が兎だろうが、帽子屋だろうが。戯言と嗤うか真実と見做すか。不思議の国を、鉄火の焔で焼き尽くすのか。
……全ては、お前というエンターテイナーを観た私の主観で決まる事だ。演劇なんて、そんなものだろう?」
少し喋り過ぎたかな、と吐息を一つ。
其処で差し出された林檎。踊り子の様に優雅に。何処からともなく現れた林檎を剥いて、皿に並べた彼女に向けるのは、小さな苦笑い。
「……御丁寧な事だ。だからお前は嫌いにはなれぬよ。
……面会時間は間もなく終了だ。それまで寛いでいくと良い。
駅前に出来たクレープ屋を知っているか?最近、風紀委員の間でも評判が良くてな――」
皮の剥かれた林檎を一つ。二つ。
微笑む彼女から受け取って、咀嚼する。言葉を交わして幾分渇いた咥内に、林檎の果汁が染み渡った。
そこで、小難しい話は終いだという様に。
他愛のない話を――こんな話を彼女に振るのは初めてかもしれない――投げかけながら、豪奢な病室には奇妙なまでの穏やかな時間。
彼女が立ち去る迄、敵意も悪意も無く。唯、知人との会話を愉しむ少年の姿が、あったのかもしれない。
■シャンティ > 歓談の時は過ぎ、ついに閉幕が訪れる。女は優雅に立った。
「……ふふ……風紀、委員……なら、まだ、しも……せいぜい、が……図書、委員……そして、ふふ。今は――ただの、一般、学生……」
くすくすと謳うようにつぶやく
「そん、な……女が……ああ――どうして、でしょう……なぜ、そんな、ことを……口に、でき、るの、か――」
大仰であるが何処か自然と天を仰ぐように腕を開く
「あな、たは……それ、に……ふふ……いい、ぇぇ……これ以上、は……神様、に……聞かせ、ても……無粋、だ、わぁ……?」
くすくすとした忍び笑いだけが後に残った。彼女のつぶやきは果たして、誰の耳に届いたものであろうか――
ご案内:「常世学園付属総合病院 VIP個室」から神代理央さんが去りました。
ご案内:「常世学園付属総合病院 VIP個室」からシャンティさんが去りました。