2021/08/02 のログ
■比良坂 冥 >
向かえてくれた穏やかな笑顔は、すぐに申し訳無さそうな顔になって
連絡がなかったことに、少年としても不本意だったということが伝わってくる
「……事情があったって、わかってる」
少女としてもそれは想像のできたこと
理解だって、当然出来る理由が少年にはある筈
それでも蟠りは、心の奥底から消えない
なぜと問いかけるのをやめられないのは、少女の、自分ではどうにもならない感情に他ならなかった
促されるままに、ベッドの横の椅子へと腰をおろせば、ゆっくりと息を吐き出すようにして、呼吸を落ち着ける
普段、運動をするタイプにはまず見えない
病院内を走ってきたのかと思えば褒められたものでは、当然ないだろう
わずかに汗ばんだ額に張り付く髪を指でなおし、その視線を少年…理央へと向け直した
「……風紀委員の本部に行って、聞いてきた」
疑問に答える少女
しかし、監視対象である少女に、風紀委員の入院先を簡単に教えるとは思えないだろう
少年が監視役である…ということを差し引いても、少女の言葉にはいくらかの疑念が残ろうというもので
「……なかなか、教えてくれなかったから時間がかかっちゃった」
そう付け加えると、その昏い瞳を僅かに細める
■神代理央 >
腰掛けて、呼吸を整える少女を見守る。
言い訳めいた言葉を並べるつもりはなかったし、少女もわかっている、と言ってくれた。
勿論、それが少女の本心であるのか。本当に納得のいく事であるのかは…まあ流石に、その表情を見れば理解出来る。
「…そう言ってくれると、助かる。まあ、大した怪我じゃない。
もうすぐ退院出来るし、今の時点で日常生活にも支障は無いからさ」
だから、少女の言葉への礼と、自身の怪我が今のところ快復に向かっている事だけを告げた。
普段汗をかかない様な少女の額に張り付いた髪に、労わる様な視線を向ける…が。
「……本部に?それはまた…随分と強引に聞き出したものだな。
確かに、あそこなら現場の人間は大抵知ってはいるだろうが…」
はて、と首を傾げる。
まあ、教える者が居てもおかしくはない。おかしくはないが、監視対象の少女が本庁で自分の入院先を聞き出した…というのは、微妙に違和感がある。
公安程ではないとはいえ、それなりに情報管理を徹底している機関だ。まして、監視役と監視対象という関係しか知らない者が、そうそう入院先という重要な情報を伝えるだろうか?
「…ああ、それは別に気にしなくてもいい。来てくれただけでも、凄く嬉しいよ。教えてくれた委員には、今度お礼をしなきゃいけないな?」
本心と疑念の混じる言葉。
時間がかかった、という事を気にしていない事は本心。
そもそも、此方も連絡が碌に出来なかったのだから。
そして、少女に情報を伝えた委員の存在をそれとなく尋ねる様な言葉。
疑う訳では無い。ただ、何となく引っ掛かる。その疑問が、少年の表情にも僅かに現れているだろうか――
■比良坂 冥 >
たいした怪我ではないと口にする少年に、少女のやや鋭い視線が刺さる
「……何度も入院してる。って聞いた」
「……やっぱり、理央は風紀委員…辞めたほうがいい。
理央が死なずに済んでるの、それなりに運が良かっただけ、じゃない…?」
過去の少年の怪我を知る由もない少女は、視線を落とし俯きながら細々とそう語りかける
「……理央がいなくなったら」
「……私どうなるかわからないよ?」
──何をするかわからない、ではなく
自身の行動の行方に不安を感じさせるような言葉を続け、漸く顔をあげる
「……あと、お礼は…いいんじゃないかな。忙しそう、だったし」
やや引っかかる言葉を返す少女
部外者が訪ねていったのならば受付を担当する委員が応対したのだろうが…
──後に本部に問い合わせれば理解ることだが、
本部では受付担当の委員が一人、欠席が続いていた
少女の異能の力、その一片によって口を割らされたその委員は…残酷にも正気を失い、常世の島を彷徨っているのだった
「……とりあえず、良くなるなら、良かった…。
もう、心配させないでね…」
そう言って、顔を近づける少女の首元
その首にかけられたチョーカーは、焼け焦げたようにくすみ、変色していた
■神代理央 > 運が良かっただけではないか、との言葉には小さく苦笑いを零す他無い。
自分でもその通りだと思うし、事実その通りなのだから。
「まあ、こういう仕事で、私は現場…もとい、前線に出る事が多いからな。多少の怪我や入院は、致し方ないところもある」
「それでも、私が前に出る事で違反部活に対して、風紀委員会が決して矛を収めない事を――」
言葉を続けようとして、俯いた少女に視線を向ける。
そして紡がれた言葉に……困った様に、笑みを浮かべた。
「…大丈夫。私はいなくならないさ。入院は多いが、死ぬ様な怪我は今のところしていない……というわけでもないが。
まあ、何とか無事に戻って来れている」
「必ず冥の所に帰ってくるさ。だから、心配しなくても大丈夫」
そっと手を伸ばして、ぽんぽんと少女の頭を撫でようとするだろうか。
心配をかけない…とは言えない。しかし、いなくなる事は無い、と告げながら。
「……そうか。まあ確かに、夏季休暇中は人手も少ないしな」
返す言葉は短く、少女の言葉に頷く。
しかし、僅かな疑念は――後に、より深くなるのかもしれない。
受付を担当している委員の失踪。何時からいなくなったのか。そのタイミングと、切っ掛けは。
その事実を知った時、どう判断を下すのか――
とはいえ、それは後の話。
今は、此方を唯只管に心配する少女に視線を返しながら、それを慰める事に意識が向いている――
「……ああ。その、次はちゃんと連絡する、から。
なるべく、怪我もしないように……」
そして視線は、少女の首元へ。
「…冥、そのチョーカー、随分と古くなったみたいだな。
見た目も、それじゃあ冥に似合わないし…新しいものを、申請しておこうか?」
…そっと、少女の首元に手を伸ばした。
厳密には、その首元のチョーカー…へと。
■比良坂 冥 >
「……………」
大丈夫だと、心配しなくて良いという言葉に
少女はじとりとした視線を投げかけていた
以前、彼に風紀委員を辞めてほしいと懇願した時
彼は自身の大切な部下や仲間の為にもそれは出来ないと、はっきりと口にしていた、なのに
「……死にかけうような、死ぬような危険な目に遭うくらいなら…前線に出ないで」
「……理央の大事な仲間や、部下っていう人達の為にも、死なないことに努めるべきなのに」
「……矛盾してる」
頭を撫でられ、視線を僅かに外しながら、どこかすねた子供のような口ぶりを見せていた
しかしそれでも、少年が約束にも似た…必ずという言葉を使ってくれたことに多少の安堵を得たのか
そのじっとりとした雰囲気が、僅かに和らぐ
「……ぁ、うん…もう長い間、つけてたから」
少年の手が、少女の細い首に巻かれたチョーカーに触れる
ざらりとした質感に変質したそれは、ただ傷んだというよりはなにかの力で焼かれたような…
「……じゃあ、お願いしようかな。効果がなくなると、みんな困るだろうし──」
■神代理央 >
少女の視線が痛い。向けられる言葉も痛い。
困った様な苦笑いは、少しだけしゅんとしたような表情へと変化するのだろうか。
「…ぐうの音も出ないな。それは、その…その通りだ」
「でも、私の風紀委員会での価値は前線に出る事にある。部下達を庇護してやれるのも、その価値があるからだ」
「だから、戦う事を止める訳にはいかない。……怪我をしない様には、するからさ」
しかし、少しだけ嬉しい事もある。
拗ねた子供の様ではあるが…それでも少女は、自分の部下や仲間の為にも、と言ってくれた。
少女の精神面についてはまだ不安要素があるにせよ…他者を気遣う言葉が出る事は良い事だ。
だから、自然少女に向ける口元は少しだけ緩んでしまうのだろうか。
「…そっか。本当は、こんな物つけさせたい訳じゃないんだけど…」
とはいえ、こればかりは私情に流される訳にはいかない。
そっと触れたチョーカーの触り心地は…良くは、無かった。
経年劣化とは言い難いその質感に、ほんの一瞬、瞳を細める。
「……デザインも、もう少し考えて欲しいよな。冥に似合う色やデザインに変えてくれればいいんだけど」
今の時点でこのチョーカーが意味を成しているのか…とは、聞かなかった。
ただそっと、チョーカーから少女の首元を擽る様に指を伸ばして。
茶化す様な口調で、笑ってみせる、だけ。
■比良坂 冥 >
──少年の考えるような、気遣いの念は、少女にはなかった
ただただ、矛盾を指摘するのに都合がよく…あわよくば、風紀委員など辞めてしまえばと
そういった利己的な考えだけの言葉
……それが少年に伝わっていないのは、幸なのか、不幸なのか
否、不幸だったのかもしれない
より強固な、風紀委員という体制への少年の固執と拘りを少女が知ることになったのだから
そんなことは露知らずか、少年…理央は冥のチョーカーに手を触れ、気遣うようにデザイン等の話をしはじめた
「……首輪みたいなものだし、デザインとかは…気にしたこともなかったけど」
触れる少年の指に重ねるように、自身の手指を首元へとやって
「……それに、これはつけていないと。自分自身でも、どうなるかはわからないから」
風紀委員の調べでも不明点の多すぎる少女の異能の力
今現在、このチョーカーが機能していないとすれば…それは大変危険なことなのだろう
しかし少女の様子は、まるでいつもと変わらなく見える
少年と出会い、同じ屋根の下で過ごし始めてから、不安定がナリを潜めた…その姿のままだ
■神代理央 >
そう。少年は、少女に対して信頼…というより、庇護の念が著しく強かった。
元々、自分の身内には甘い節がある事も要因の一つだろう。
故に、少女の利己心には気付かない。時折不穏な要因を見せる事に気付いてはいるが…自分と過ごす中で何とか出来れば、と期待を抱いている。
だから、穏やかに微笑んだ儘…少女との会話は、続く。
「首輪、か。確かにその要素が強い物であることは否定しない。
だからこそ、外してやりたいとは思うんだが…」
重なる少女の指先。
その感触に、細めていた瞳は緩やかに元に戻る。
「付けていた方が良い、と冥が思うならそうしよう。
新しいチョーカーの申請は早めに上げる。何時までも煤けたチョーカーを冥につけさせておくわけにはいかないしな?」
結局、信じているだけなのだ。
不安定な少女も、きっと独り立ち出来るのだと。その手助けが、少しでも出来れば良い、と。
…少女の内面を少しでも知る者からの忠告は、目の前の少女の様子によって否定される。
そして、本当に少女の脅威を知る者は…少年に言葉を届ける事は叶わない儘、きっと――
「…退院を午前中に合わせて、その日は一日休みにしようか。
そうしたら、その日は冥と一緒にいられるし」
「……何なら、今日は泊まっていくか?此の部屋なら、それくらいの我儘は通るけど」
だから、少しでも一緒に居られる様に。
未だ少女の常闇を知らない少年は、クスリと小さく笑って首を傾げてみせるのだろうか。
■比良坂 冥 >
外してやりたい、という言葉には小さく首を横に振る
得体の知れない異能の力、というのは少女にとってもそうなのだろう
もっともそれはコントロールできないというよりも、底の知れなさが知れないといった類のものだったが
そして新しいチョーカーの申請を約束してもらえばこくんと頷く
どこか素直な子供にも見えるような、この少女の様子が少年の庇護観を引き寄せ…
そして、眼を曇らせているのだろうか
自分といる時間を可能な限り増やしてくれようとする少年の言葉に、冥は眼を丸くする
そんなことまでしてくれるとは思っていなかったのだろう。しかし…
「……嬉しい。け、けど……」
「……うん。退院、してからで、いい……病室で、我慢できなくなったら……怒られそう」
ほんの僅かに頬を染めて俯く少女
何を考えているのかは、一目瞭然
それを隠すように、少しだけ慌てて立ち上がる
「……今日はもう、帰るね」
「(理央にこんなことしたヤツを探さないといけないし──)」
そんな心の声は聞こえる筈もなく
少しだけ足早にドアの方へと移動し、スライドしたドアの陰からもう一度だけ顔を覗かせると
「……お大事に、理央」
いい忘れたようにその言葉を残し、少女は病室から姿を消すのだった
■神代理央 > チョーカーを外す、という言葉には首を振り。
新しいチョーカーを、という言葉には子供の様に素直に頷く。
己から見た少女は縋る相手を求めるが故に"少しだけ"不安定な少女。
何れは、自分の庇護が無くても生きていける。真っ当に学生生活を謳歌する事が出来る。
…そう信じるに値する、愛おしい少女でしか無いのだ。
「…そっか。いや、我慢出来るのは偉いぞ、冥。
それなら、退院してから…だな。私も正直、我慢出来る自信は…その…あんまりない、し」
眼を丸くする様も、僅かに頬を染めて、慌てて立ち上がる様も。
年相応…いや、少し幼く見えるくらいのもの。
だから決して少女を否定しないし、拒絶しない。
自分にとって少女は、庇護すべきものであり、守るべきものであり、自分を好きだと言ってくれた愛しい少女なのだから――
「……ああ、気を付けて。遅くならない内に寝るんだぞ。
中々家に帰れない私が言うのもなんだが、ちゃんと栄養のあるものを食べてな。夏バテには気を付けて。空調を強くし過ぎたらいけないぞ?」
細々と少女を心配する言葉を投げかける。
少女の秘めた内心に、気付かぬ儘。
「……ああ、今日は来てくれてありがとう。
退院の日は、連絡するから。それじゃあ、また」
ひらひら、と手を振って少女を見送って――ドアの陰から顔を覗かせた少女に、クスリと微笑んだ。
やっぱり何処か子供っぽいよな、なんて思いながら、少年もまたベッドにその身を預けて、微睡み始めた意識を手放すのだろうか。
無垢で無邪気。今はまだ、そういう認識。そう思っている。
それが覆る日は、来るのだろうか――
ご案内:「常世学園付属総合病院 VIP個室」から比良坂 冥さんが去りました。
ご案内:「常世学園付属総合病院 VIP個室」から神代理央さんが去りました。