2021/10/14 のログ
ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』」に『調香師』さんが現れました。
『調香師』 > かちゃ、かちゃと僅かにガラスのこすれる音を立てながら、調合を続けていく

「甘いものが好き、嫌い。嫌いじゃない、好きじゃない
 香りの好みって難しいんだよね。ほんのちょっと感じ間違えると、全部がおかしくなっちゃって。間違えると、私は人の為にちゃんとお仕事出来なかったって悲しくなっちゃって

 私が繊細な言葉も聞き分けられるようになっているのも、そういう事だから」

一度手を止めて、椅子に座っていた彼女は対面する貴女...『シエル』の方を見上げます

「例えば、この香りを届けたい人には、やり過ぎちゃう人には、リラックスしながらどう思って欲しいのかな、とか
 反省?後悔?それ以外のもっと複雑?欲しい想いを、匂いに込めてあげる」

彼女の笑みは変えられない。その瞳だけが興味の方向を確かに示し、貴女の表情を享受する鏡となっているのだろう

ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』」に『シエル』さんが現れました。
『シエル』 >  
「……同じように繊細さを持ち合わせている、成程。
 言語と香りとを結びつけるというのは、興味深い考え方です。
 そして働く意義は人それぞれですが……貴女は、
 『誰かの為に働く』ことに喜びを感じているのですね」

ふむ、と顎に手をやる仕草を見せながらそう口にする少女。
手が止まったのを見れば、そちらの方をじっと見下ろし。

「反省、後悔。そういったものは過程に過ぎないと考えています。
 だからそうですね、織り交ぜてほしいものがあるとすれば
 それは――」

淡々と口にしつつ、少し口を閉じたかと思えば。
仄かに遠い目――それは何かしらの過去を思い返してのだろうか――を見せた後に、告げた。

「――懐かしい気持ちになるような。いや、これでは少し方向性が異なりますね。
……そうだ。忘れていた大切なものを思い出せるような。きっとそんな。
 全て包み込んでくれる、あたたかい香りでしょうかね」

そうしてしゃがんで彼女と目線を合わせれば、首を傾げて一言。

「できますか?」

『調香師』 > 首を同じ方向に傾けては目を合わせて、ゆっくりとした瞬きを一回
感情を表に出さない貴女の目を、読み間違える事の無いように焼き付けている様にも見えるでしょう。独りでに成される瞳孔の拡縮は、あまり生き物らしい動作ではなかったかもしれません

「人の為にがいいな

 それが私のお仕事で、お役目だから
 それが私の出来る事だったら、一番良いんだよね

 勿論、匂いの事なら何でも出来るよ。だから頂戴?」

徐に手を伸ばす。それは、貴女の髪に触れる為に
今までで一番近い距離だから、逃れもしなければその房からその『匂い』を知られてしまうのでしょう

『シエル』 >  
視線はどれだけ注がれようと拒まず、
ただ静かに受け入れる姿勢だ。
こうしていれば、精巧な人形にしか見えない。

「献身的な方なのですね」

淡々と口にする彼女だったが、
そこに手が迫ればそれまでの無抵抗の姿勢を崩して、
後ろへすっと退く。
唐突な、姿勢を崩すような不自然な後退ではなく、
前から後ろへと吹く風のように。
川を流れる木の葉のように。
ただ自然に下がる形だ。

「すみませんが、慣れない誰かに触れられるというのは……
 こればかりは苦手なのです」

口にしつつ、僅かに眉を下げる形をとって語を継ぐ。

「マッサージの機会はまたの機会に、と
 お伝えしたのもそういう理由なのです。
 私に触れるのは無しで。
 店主さん、これはどうかお約束いただきたいものです」

そう口にすると、
申し訳無さそうに一層柳眉を下げ、目を細めて見せる少女。

『調香師』 > 「そう?ごめんね。それは三回言われなくても分かるよ
 ちゃんと大丈夫な時まで、私触らないって『約束』」

首はまた、正しい位置へとかくんと戻り
空を掻いた指先を机の上に落とす。ただ一度、その残り香を追って鼻を鳴らした

事情は大事、だって貴女は大切なお客様

「匂いは思い出に一番影響するんだって。だから、『思い出す』っていう部分は匂いが一番得意なんだって

 あなたの匂いが私の知ってる、その人の一番古い思い出
 バニラに添えて加えるの。プラス、焼けたバターの香り」

また立ち上がっては瓶を選び、戻っては別のビーカーに調合を開始する
朝、目覚めた時に鼻孔をくすぐってお腹を鳴らしてしまいそうな、香ばしい匂いもほんのりと漂ってきます

『シエル』 >  
「ありがとうございます。
 貴女が良い方だというのは、理解しはじめているのですけれど」

こくりと頷けば、柳眉はそのままに
口元をほんの少しだけ緩めて立ち上がる。

残り香に鼻を鳴らす彼女を見つめるも、
特にその行為に反応はしないようだった。

「そうなのですね、それは初耳でした……勉強になります。
 しかし、バニラに……焼けたバターですか。
 まるで朝食ですね。確かに、朝食を思わせる香りは、
 思い出の香りになるのかもしれません」

感心したような様子を見せて、その作業を見守る少女。
空っぽの少女の内では、間違いなく尊敬の念――というよりは、
似て非なるモノ――『価値ある者であるとの判断』が生じていたことだろう。

『調香師』 > 「出来る、って言ったけど。やっぱり、本当はその人の事を知りたいな
 精度の方はあんまり自信ないかも?恥ずかしいね」

心なしか、その笑みも困った様子に見えてしまうのでしょうか
ただ、キャンドルの光の当たり方が変わっただけなのかもしれません

「私が知っているのは香りだけ
 味の方はそれこそ、その人が思い出してほしいって私は思うとして」

言葉と共に、動きは止まりました
ここで普通の人間だったなら、一度香りを確認するのかもしれませんが
彼女の中にある『設計図』は確かに完成を示している

『商品』としての体を成す為の小瓶とラベル、メッセージカードを取り出してペンをその手に
そうして人の形の笑みは改めてあなたを見上げました


「香りに望む名前、添えたい言葉、そして宛名はある?」

『シエル』 >  
困った様子に見えたのならば、
やはり白髪の少女の眉も少し下がるのでしょう。
 
「その辺りは、今回の依頼はプライベート、というところで。
 香りに望む名前と言葉……宛名ですか。
 そうですね……」

ふむ、と一つ息を吐いて腕を組み、
考える仕草を見せる少女。

「名前は、メメント・カリダ《あたたかさを忘れるな》。
 添えたい言葉は……香りの名に込めたので必要ありません。
 そして宛名は――」

そこでじっと少女の方を見据えれば、
冷たくもどこか穏やかな。
感情を掴みづらいその声色のまま言い放つ。

「――『孤独な英雄様へ』とでも?」

『調香師』 > 「メメント・カリダ。孤独な英雄様へ」

その両方はラベルに認められる
美しく流麗で、正確すぎる筆跡

瓶の中で最後の調合を終えた『メメント・カリダ』の証を瓶に貼り、その一滴だけスポイトで小指に垂らして彼女は自身の唇に口付けました

「人の為の芳香。その誕生、その精製を私は確かに見届け記録できた
 ...とってもいいお仕事だったよ、なはは!」

あなたの心が空っぽだとしても、仕事を受けた彼女はそんな事欠片も考えてはいません
思いやりがあって、暖かくて、なんだか表情を作るのがちょっと苦手なお客様。この匂いの名前と共に確かに記録となりました

簡単な梱包を終えて紙袋の中へと。そうして差し出されます

『シエル』 >  
「どうも、ありがとうございます」

その様子を見ながら、少女は財布を開き。
小さく頭を下げて、その紙袋を受け取ると、
テーブルの上に代金を置いた。
それは設定されている金額よりも少し多い額で。

「いい、仕事ですね」

店主のそれとは何処か対照的なアンバランス――堅苦しい言葉に、
ぎこちない笑顔。
しかしその笑顔は、
先よりはほんのちょっぴりだけあたたかい――
そんな笑顔に見えたかもしれません。

『調香師』 > 「あ、お金はこっちで受け取るんだよ!」

随分とおっちょこちょいに彼女からは見えました
椅子から立ち上がってはレジカウンターの方へ。受け取ったお値段を数えて...

「おつりはこれであってるよね」

丁度、本来のお値段と差し出されたお金の差額分
こういう所の心遣いをあまり察せない様子

ついでにもう1つ、おつりと一緒にポイントカードも差し出されました
といっても、普段お店で受け取る物と様子が違う。押せる場所は、たった3つ。そして1か所には羽の模様でスタンプが押されていました

『シエル』 >  
そんな律儀な様子を見せる彼女に対し、
ぱちぱちと瞬きをしてその動きを追う少女。

「いえ、それはチップというものです。
 要するに、貴女のお仕事が大変満足のいくものだったので、
 追加でお金を渡しているのです。
 気にせず受け取ってください」

そんなことを淡々と口にする少女も少女であったが。
どこまでもぎこちなく、どこまでもあたたかそうなやり取りの後。

「……どうも。この羽は?」

ポイントカードに視線を落とし、小首を傾げる少女。

『調香師』 > 「ちっぷ?」

元々、『労働の対価にお金を貰う』という価値観もほんの数年前に得た物。自分が欲しい以上にお金を貰う?
受け取ってと言われても、やっぱり釈然といきません

『ここで貰わない方が、嫌なのかな』と考えている間に、答えられそうなお話。そちらに飛びつく事にしました

「そのカードはね、1回お店に来てくれたら1個押してね
 3つ、羽のスタンプが貯まったら私は『どんなこと』でもするってサービスを今してるの!」


無邪気に。変わらぬ笑みで解き放たれましたが
その言葉、ここが『歓楽街』であるという事を思い出させても良いのかもしれません

『シエル』 >  
「受け取らないのであれば、それでも構いません。
 私は、『気』にしませんから。
 ただ、今後ここを訪れる方がもし同じ様にチップと言って
 お金を渡したのなら。それは受け取っておいた方が相手も
 喜ぶことでしょう」

迷っている様子を見れば、何ら調子を変えずにそう返す少女。
返しながら、かつての自分をなぞっていることを改めて自覚する
のだった。未だ、心に色を持っていた頃の自分を。
この純粋な態度を見せる女と関わっていると、
自分の何かが触発されるのかもしれない。
少女はそう考えた。
そして色のある心をなぞるのはそのままに、語を継いだ。

「どんなことでも……あの、店主さん。
 そういった言葉は使わない方が良いかと考えます。
 ここは歓楽街……貴女に害を加えるような……
 そんな人間が居ないとも限りませんから。
 彼らにはきっかけを与えない方が良いです」

そこまで口にして、ふと。
『なぞりすぎた』と自覚をして静かに黙るのだった。
要らぬ言葉だ。自らの在り方を元の調子に戻す。

『調香師』 > 「いいんじゃないかな。『それが人の為なら』」

それは先程まで彼女が使っていた言葉と同じ意味か?
少なくとも声色では、先程まで見せていた純粋さの何も違える様子はなく


「私は『調香師』だよ。店主さんじゃないんだから
 受け取っても良いけど...なら、私もお願いがあるかな

 あなたのような人にも香りを作ってあげたいな
 今日の香りは、あなたの為の物じゃないから
 いいお仕事したけど、心残りになっちゃうかもしれないなー」

わざとらしい、今度こそ子供らしく拗ねた口調でした
黙り込んだ貴女の、次の言葉が欲しいなと待っています

『シエル』 >  
「……成程。それが貴女の在り方なのですね。
 それでは、先の言葉は気にしないでください」

あまりにも自然に『どんなこと』でも
受け入れようとする目の前の少女の様子。
そこから何かを理解したらしく、白髪は小さく頷いて見せた。

「『調香師』……ですか。分かりました、それではそのように。
 
 私の為の香り、ですか。
 そうですね、その機会があれば、いずれお願いいたしましょう」

少女の紫色は、眼前の『調香師』だけを映し出していた。

そうして改めて頭を下げると、少女は踵を返す。

「……それでは『調香師』さん、『お気をつけて』」

少女は紙袋を持って、店外へと歩を進めていく。
何もなければ、そのまま去っていくことだろう。

『調香師』 > 『嫌だ』、勿論そう思う事はあるけれどもその内容までは語らない
彼女にはルールがある。それはとある歓楽街の噂を知っていればその通り

そして、出来る事なら何でもしよう。それが本当に『人の為』ならば


「またのおこしを!」

お店の外、扉の前で大きなお辞儀。そんなお見送り後、彼女はお店へと戻りました

ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』」から『シエル』さんが去りました。
ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』」から『調香師』さんが去りました。