2021/10/16 のログ
ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』」に『調香師』さんが現れました。
『調香師』 > 今日も今日とてお仕事お仕事
しかしその様子は普段と違う...?

(異世界より漂流し、現在量産に成功したこの花は通常の方法では芳香成分の抽出が不可能...)

彼女は分厚い本と向き合っていた。机の上には乾燥した花弁と、すり鉢等の抽出準備道具

(粉末を指定の溶剤に付け込んで1日、そこから魔力を込めた任意の宝石を底に沈めて1週間...)

久々に、新しい材料の購入が出来たのだ
知識という物は常に過去となる
技術に自信があっても、『大変動』は空前絶後
常識は完全に塗り替えられており、それを追う程の余裕が出来たのはつい最近の事


(宝石によって抽出されるオイルの『属性』が変わる為、下記の情報を参考にされたし...)

『出来る事』にはアップデートが必要、彼女は骨董品であるが時代遅れにはなりたくない
書の通りに準備を進める。こりこりこり、挽いていく

そんな最中も相変わらず、店内の香りは歓楽街のそれらと混ざって漂っていく...

ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』」に黛 薫さんが現れました。
黛 薫 >  
思春期の乙女、女学生。華やかなりし肩書きに
反して、謳歌するはずだった青春は手に入らず。
灰色の街の澱んだ空気と埃っぽい汚臭の蟠った
路地で生きるのが不良学生の日常。

そんな枯れた青春に不満がないと言えば嘘になるし、
神経を擦り減らす毎日を過ごせば癒しが欲しくなる。

とはいえ違反学生という立場、周りの視線もあって
年頃の女の子が好むようなSNS映えする喫茶店や
華やかなブティックにはとんと縁がない。

だから、心地良い香りのお店に惹かれるなんて
経験は今まで無く、当然そんなお店に入ろうと
考えたこともなかったのだけれど。

活動範囲が路地裏メインだから、ふっと奥まった
雑居ビルから漂う香りが、疲労で鈍った頭の中に
じんわりと染み込むような感覚があって。

気付けば、お店の扉に手を掛けていた。

(……なんか、あーし……場違いじゃなぃよな……?)

ほんの一欠片の不安を抱えつつ、お店の中へ。

『調香師』 > こり、こり、ぱり
すり潰した花弁がその形を無くした粉末としてすり鉢に残る
僅かな量を小さじで掬って、その素材の香りを探ります

(ローズとの類似項、ジャスミンとの類似項、ミュゲとの類似項
 ...参照不可の香料成分の確認。図鑑の中じゃ、『ジェミユミウム』と記されるそれと仮定)

「お花の香りだけど、フローラルノートとして中心に置くのは難しい印象
 清廉だけど、上で浮いたまま消えそうな根っこのないような軽さ。鉱物が下に来て、この印象も変わってくれるのかな」

分析を言葉に直す。人間的に、通じ合わせる言葉に変える
自身が機械だとしても、その機微を捉えられない様では最も欲しい物を作れない
『それが出来るように』、遥か昔の遺産である私は作られている

すり鉢の縁に小さじを当てて落とし、これからどういった宝石と組み合わせればいいのかなと考えを巡らせ始めた所で...入口のベルが鳴った


「いらっしゃいませ!」

匂いの感覚以外で、彼女が最も大事にする知覚の1つ
顔を上げて、椅子に座った人形のような彼女はお出迎えの造られた笑みをお客様に向けました

黛 薫 >  
店に入って真っ先に感じたのは意識を揺らすような
強い芳香。お店の外に居ても分かるほどの香気に
満ちた店内の空気はアロマや香水に慣れない身から
すると面食らうほど鮮烈だった。

しかしそれらの香りは所狭しと並べられた小瓶や
調合に際して溢れた香りが残った物では無さそうで、
きっと客を迎えるために焚かれた香。自然と鼻が
慣れて、その香りが空間を満たしているのが自然に
思えるような安らぎが訪れる。

それに合わせたように、愛玩用の人形を思わせる
整った容姿の店員が出迎えの声を上げた。

「えぁ……ど、どーも……」

咄嗟に返した挨拶の声は消え入りそうに小さい。
安らかな香りに満ちたシックな空間の中、自分が
異物のように思えて、やや萎縮気味。

『調香師』 > 「どうもどうも、ようこそ!」

椅子から降りて、入り口の貴女の前に立つ。丁度正面から顔を見合わせる高さ
身じろぎ、抵抗感を覚えている隙に少女は滑り込んでくる。彼女の足は、芳香纏う煙の様に

「今日のお客様はどこから?色んな香りを用意してるよ!
 新しく入荷した品もあるんだ。時間はかかっちゃうけど」

香りに満たされた部屋に棲む少女にも当然染み付いている。もっと嗅覚に敏感であったなら、少女の身から出ている物こそが混ぜ物の安らぎ一部を担うと知れたのだろうが...それより、貴女が気になるのは無機質に、じっと見つめてくるその目の方かもしれない

黛 薫 >  
「香り……あ、ええと。ココって……アロマ?とか、
そういうお店……なんすか、ね。なんか、あーし、
何も分かんなぃまんま入ってきちゃって……」

目線の高さは小柄な店員とほぼ同じくらい。
するりと滑り込んできた人形の姿に緊張したのか、
ただでさえフードと長い前髪で隠れた表情の口元を
余り気味な袖で隠してしまった。

ナイーブそうに言葉を返す少女は自分がこの店に
惹かれた理由をいまいち自覚出来ていないようだ。

店員を正面から見返せない瞳、行き場を無くして
彷徨う手に、そわそわと揺れる身体。垣間見える
仕草はストレスの発露か。本人が自覚していない
だけで、きっと心が安らぎを求めている。

パーカーのフードと陰鬱な前髪の下で神経質に
揺れる瞳は、落ち着かなさそうに店内の様子を
観察している。真っ先に目に留まったのは長机の
上に並べられた実験道具。粉末状にすり潰された
花弁に、きらきらと光る小粒の宝石。

多分溶剤を用いた抽出や芳香成分の合成だけでは
なくて、魔術的手法、或いは錬金術の応用による
芳香の生成も行なっているのだろうと推測する。

『調香師』 > 「何があるのかはあまり分かってなくても、
 何が欲しいのかはなんだか覚えがあるみたいだよね?」

異世界に放り込まれ、気まずそうな佇まいを隠せずにいながらも
彼女が『すぐに引き返す』との選択を選べないでいるらしいのは

細かな落ち着きのなさはストレス症状。この距離で嗅ぎ取った物は排気口の無秩序な配置、詰まり湿った埃臭さ、ここ数日で形成された物ではなかろう


目の前の少女は無自覚ながら、『答え』の1つを欲しがって来てくれたんだ
これ以上嬉しい仕事の動機という物も早々ない事だろう


「そう、ここは香りの専門店。アロママッサージも出来るけど
 まずはお話を聞きたいかな。好きな香り、最近のお悩み

 私に出来る事を教えて欲しいな」

歩幅退いては、机の前に椅子を用意する
まずは正面にお座りくださいとの合図
メニュー表は入り口横のレジカウンターから手渡しです

黛 薫 >  
「す、好きな香り……あんのかな……」

躊躇うような仕草を見せつつ、おずおずと席に着く。
遠慮がちに店員の顔を見返し、また目を逸らす。

楽しげな言動に反して、じっと此方を見つめて
離れない視線はまるで本当に人形を相手にして
いるかのよう。良くも悪くも情緒に溢れた人間の
視線に疲れた身としては落ち着くような、却って
不安なような、よく分からない気持ちになる。

座るのを躊躇ったのは気後れしただけではなく、
店員の身体から微かに香る良い匂いを感じたから。

一応清潔さに気を使ってはいるものの、黛薫は
落第街での生活がメイン。血と泥と灰の匂いに
煙草やクスリの残り香、タイミングが悪ければ
吐瀉物や精の匂いさえするかもしれない。

近付いたり、まして触れたりしたらその美しく
整った香りに汚いモノが混じってしまうような、
そんな気がして縮こまっている。

……例外として、怪異やそれに準ずる存在なら
彼女から甘露か美酒の如き『薫り』を感じる。
芳香成分に由来しないそれを感じ取れるかは
個人差が大きいだろう。

「その、あーし……何となくイィ香りだなって、
そう思って、気付いたら入ってただけで、えっと。
好きなニオイ?とか、意識したコトも無かった、
ってか、ホントに全然、分かんなくて」

『調香師』 > 「分からない、ね。そういう事もあるのかな
 そういう時は、いつもだったら『オススメ!』って何か選ぶんだけど」

感情の籠らなくも粘着的な目線は、ふとした瞬間から途切れてしまう
人間的な理由もなく、ただ相手の事を十分に観察したから以上の動機も存在しない

薄れていながらも、落第街を象徴するような臭いを彼女は知っている
怪異ではない彼女にとって決して好ましい香りとは感じられないが、だからこそ今日の仕事も大切に思えたのだ


「丁度、今から抽出しようかなって思った香りがあるんだよね
 好きが分からないなら今から作る、もしかしたら一番丁度いいかも?」

先程まで使っていたすり鉢と溶剤の瓶、そして小粒でとりどりな宝石達を並べていく

黛 薫 >  
「分からないなら、今から作る……」

言葉にすれば簡単なようで、難しいこと。

何も分からない、真っさらだからこそ先入観を
捨てて好き嫌いを判断出来るのは間違いないが、
逆に何も分からないから二の足を踏みやすい。

けれど今なら……先立と自分を繋いでくれた
偶然の縁がある。任せてみるのも良いのかも。

「じゃあ……今から作るヤツ?の……お試し?
いぁ、この場合だと見学になんのかな。えっと。
その……お願い、します。あーし、見てるので」

新しく抽出するということは、丁度今読み終えた
メニュー表には書かれていないものなのだろうか。
そっとメニューをテーブルの隅に置く。

ハーブ類はしばしばプリミティブな魔術の触媒に
なる。代表的な例はドルイドの執り行う儀式魔術か。
その繋がりでそこそこ程度の知識は得ていたものの、
アロマとしての別名や通称になると初耳。

手渡されたメニュー表に書かれたアロマの名前は
知っているものが約3割、名前だけしか知らない
ものが1割、残りはさっぱり分からなかった。

しかし店員の楽しそうな様子につられたからか、
或いは店内を満たす香気で安心しているからか。
それとも自分の仕事に没頭するあまり、客への
感情が薄い視線が心地良かったからだろうか。

不思議と知らない分野の知らない作業を眺める
時間は苦にならず、むしろ好ましく感じられた。

『調香師』 > 「見学って言っても。暫くは待つだけなんだよね
 その間にお話をしてものかな。選んで欲しい物もあるし」

花弁の粉末をビーカーの中と落とす。その上から溶剤もとろりと垂らして
香りに慣れてきたこの部屋の中でも、つんと刺激を感じる匂いの目立つ材料を使っている。一度立ち上がっては隅のスペース、保存層に入れてはタイマーをセット。戻ってきました

「この香料、お花は宝石によって匂いが変わるんだって
 だから、どの宝石が良いのか迷ってるの

 異世界から入ってきた材料は私もあんまり使えないから
 どれがあなたのイメージに合うのかな、って」

人形の目線が感覚に戻ってきた事でしょう
職人気質と、好意的に捉えれば言えるその目つき
宝石をピンセットで摘まみ上げては、貴女と見比べる動作です

黛 薫 >  
「あぁ、そっか。溶剤に漬けてすぐ出来上がり、
なんてワケにはいかねーものな。溶け出すまで
待たなきゃなのか」

ごく短い作業にぼんやりと見入っていたけれど、
声をかけられると慌てたように返事をした。

思い出していたのは来店時の店員の視線だった。
粘着質に感じられるほどの積極的な観察の視線。
しかし観察が終わればその興味は途端に失われて
人形のような無機質な視線に変わった。

訪れた客に、まして自分に興味がある訳ではなく、
相手に合わせた最適な調合、或いは調香のための
インスピレーションを得るための観察だった。

今の視線も……きっとそうなのだろう。

(調香が……好き?生き甲斐?よく分かんねーけぉ、
そんだけ直向きになれる気持ち?が、あんのかな)

僻みというには眩しく、羨みというには卑屈な
気持ちは、安らかな香りに溶かされて消えていく。

「宝石ってコトは、属性付与か。性質の偏りで
色とか香りが変わる花とか、あるって聞いたっけ。
フツーに魔力込めても上手くいかないらしいけぉ、
宝石に込めてから溶媒経由で抽出すれば、純粋な
属性魔力が取り出せる、ってヤツかな」

理解出来る分野、興味のある分野の話になると
つい口が軽くなりがち。話が逸れそうになったと
気付いて、一旦口を噤む。

「イメージ。……イメージ、なぁ」

丁寧に宝石を選ぶ店員を見つめ返す。
宝石という煌びやかなイメージがどうにも自分に
当てはまらず、似合うものなんてあるのかな、と
ちょっぴり卑屈な気持ちになったけれど。

「……今の石、あーたの目に似てたかも」

天河石越しに店員の瞳を見つめ、ぽつり呟く。
黛薫の右の瞳も、近い色をしていたけれど、
先に浮かんだのは対面にいる貴方の印象。

『調香師』 > 「私の?」

摘まんだまま、自身の観測焦点に合わされた距離の宝石を自分の目に例えられたか

流石に、自分の目を自分で確認する機能など組み込まれてはいないので
『似ている』なんて言われた時に取った行動はそのまま目の高さに合わせては首を傾げ、『どう?』と改めて行動で尋ね返してみるという事


「なるほどなー。溶剤を使うけど、お花はすり潰すって経験としては中々なかったんだよね
『宝石の魔力と香りを取り出す為の素材』って考えてみるのが良いのかもしれないね
 私の知らなかった事、宝石の香りを抽出する為の媒体になるお花」


この時初めて、『貴女の特徴』ではなく『貴女自身』に焦点が合わされたのだろう
片目はアマゾナイトの青緑色の濁りに遮られ、もう片目だけがまた宝石の様に貴女の表情を写す


「詳しいんだね。お話、やめちゃうの?」

黛 薫 >  
「んん……近い、近いんだけどなー……。
色合いは近いけど、イメージが違う、みたいな?

何となくだけぉ、あーたの印象に合わせるんなら
透明感の強い石の方が似合う気ぃすんだよな……。
色の鮮やかさで言えば透き通ってない宝石の方が
それっぽいかもだけぉ……」

方向性こそ違えど凝り性、職人気質という点では
黛薫も近いのかもしれない。『自分の』イメージ
そっちのけで貴方に似合いそうな石を探している。

中断した話についても、本人の中ではネタが尽きて
いなかったようで、貴方に促されれば石を探す傍ら
またぽつぽつと語りだす。

「宝石って、魔術や錬金術の触媒としては勿論、
魔力の蓄積とか特定の属性だけを通すフィルタの
役割にも向いてるらしくて。光や色と同じように
魔力にも……感触?質感?みたぃなのがあるから、
それを別のモノに沈着させて、服飾やら調味やら
……感覚に訴える分野に利用する、っていうお話。
結構昔からあるらしくて……でも、実際に見るの
初めてだったから、つい」

来店時からずっとおどおどしていた彼女も多少は
場の空気に慣れてきたと見える。時々だが視線が
合うようになった。貴方の瞳と宝石を見比べる。

「あ。コレとか、色味はちょっと離れるけぉ。
何となく、さっきよりあーたの印象に近いかも。
透き通ってて、でも冷たくない……みたいな」

直接触れるのは流石に怖いので指さして示す。
きらきらと蒼く煌めくのはブルートパーズ。
微かに緑かかった、鮮やかな空色の石だった。

『調香師』 > 「イメージと違う
 言葉の齟齬、気持ちのほんのちょっとの違和感

 香りは、僅かな差でも大きな印象の違いを生むよね
 オイルの一滴、間違えただけで大きく違う。効果も感情も
 だから、そんな小さな感覚の差を理解できるように、私は出来ている」

印象に残った宝石は、他の石の粒とは違う場所
選別用に用意していたクッションの上に保留される
次にピックしたブルートパーズを同じように目線に上げれば、
その蒼の向こうに幽かながら、彼女の眼の色が混ざっているのだろう


「宝石の属性、フィルターの役割
 私の記録には存在しない項目だね。要学習項目だね
 その言葉の通りなら、本当に宝石と硬さの数だけ違う香りが楽しめるのかも

 その中から本当に欲しい物を探し出すのは、お花の匂いを全部理解する位に難しそうだけれど
 私がより『人の為』に出来る場所が広がったんだって思えるよ。あはは」

下手に笑う声。感情が存在しない訳ではない、との証なのだろうか
この宝石も保留として、優しくクッションの上に置いたなら、双眸できちんと捉える

「それでね。あなたは『私』が好きなの?」

随分とイメージが偏っている様子なので
『私の香りが欲しいのかな?』なんて、想った事を直球に

黛 薫 >  
「あーしは全然分かんねーけぉ、香りって何となく
繊細なイメージあるもんな……。知らない人からは
揺らぎに思えるくらいの、微かな差とか。そーゆー
一滴の差が理解出来て、それを疎かにしなぃから
プロなのかな、あーたって」

宝石越しに瞳を見つめ返す。ひとつの分野を深く
掘り下げて観察する鮮やかな浅葱色の瞳はきっと
空よりも海の蒼に似ている。水底の砂が織り成す
模様が透けて見えるような、南国の海の色。

ふと、店員の笑い声にそんな思考が破られる。
『人の為』と言いながら拙く笑うその声音には
どんな気持ちが込められているのだろう、と。

人の為に在ることが楽しいけれど、笑みで以って
それを表現するのが苦手なのか。それとも目標は
人の為でも、心の底から笑える目標ではないのか。

貴方の言葉に耳を傾けるたび、思考はころころと
別の方向へ転がっていく。普段ぐるぐると行き場の
ない思考に苦しんでいる彼女にとってその時間は
心地良く、また貴方の言葉を拾い上げて──

「……は?えっ、なん、なんで?」

想定外の発言。思考が現実に引き戻される。
『好き』と思われる素振りを見せたのだろうか。
まったく自覚が無かったので、今までの言動を
頭の中で辿ってみる。

「待っ、いや待った。あーしにそんなつもりは
無かったってか全然そんなコト意図しても無っ、
あ、いぁ。それはあーたに好かれるような魅力が
なぃって話じゃねーですよ?そうじゃねーですが
そん、たまたま入ったお店の店員にいきなり、す、
好きとか、そんな感情抱くほどあーしも尻軽じゃ
ねーですし、ってか同性……同性だよな?だし?
あーしは宝石見てて、偶々色とか雰囲気が近ぃと
思って、もっと近ぃヤツを探すのが楽しくなった
だけで、分かります?いぁ、普段からキレーな物
見られるような生活してねーので、香水?とかに
似合いそうな物と言われてもイメージ湧かねーし、
なら目の前にいるあーたくらいしかイメージ拾う
対象が無ぃとか、うん、そういう、話!だから!」

どうやらこの客は『好き』という言葉ひとつで
ここまで動揺できる程度には初心らしい。
勿論『好き』には幅広い意味があるのだが……
"『私』が好きなの?"という問い方のお陰で
あらぬ誤解をしている雰囲気がある。

『調香師』 > 「あはは、そう?慣れていないから私をなぞる
 ...うん、嬉しいな。それになんだか、かわいいな?」

口を走らせあれやこれやと弁解するその姿に呟く
目線の好意の色はそのままに。異能で判別出来たなら、勿論その言葉に『欲』という物は含まれていなかったと知れるのだろうが、動揺した貴女にそんな冷静さはあったのだろうか?


「液の蒼さを見るたびに、香りを感じるたびに、私の事を想って作ったんだと、思い出してくれるのかな。忘れない限りは、覚えていてくれるのかな」


『勘違い』を深めようとした訳でもない、口調だけは無邪気だから
彼女の言葉遣いが一々、なんだか思わし気な風に聞こえるかもしれないが

遠い景色だった筈のその瞳の色は、身を乗り出して近付いてくる
彼女はより近くで観察して欲しいだけ。そして、貴女の匂いを知りたいだけ

「もっと、私の色を見たらイメージが湧いてくれるのかな」


身を退かねばその距離が最も近くなりそうな所で、
抽出を知らせるタイマーの音が響いた

黛 薫 >  
蒼い瞳が覗き込んでいる。狼狽に揺れて見返す瞳は
貴方より少し暗い青緑色。動揺さえなければ視線に
揶揄いの意図も、まして誘う欲など無いことなんて
すぐに気付いていただろう。

けれど自分の無自覚な発言、触れてしまいそうな
距離にある貴方の瞳に緊張している状況で冷静に
感情を判別出来たろうか。

吐息さえ触れ合いそうな距離。誤解を解くために、
綺麗な物に触れて汚さないためには、離れるのが
1番手っ取り早かったはずなのに……店員の瞳から
目を離せず、距離を取るという選択を忘れていた。

「……っっ」

抽出を知らせるタイマーの音は救いにさえ思えた。
固まっていた思考が解れ、深く息を漏らして脱力。

「……可愛くなんかねーーですよ、ホントにもぅ。
まじまじ見なくても、そんな近づかれりゃ嫌でも
忘れねーですし、思い出すまでもねーです、はぁ。
てか心臓に悪ぃし、あーしはあーたみたいに良ぃ
匂いしてねーんで、勘弁してくださぃっての……」

多少の冷静さを取り戻したことと、何より打算も
欲もなく好意的な扱いをされはしないだろうという
自己肯定感の低さが平常心を呼び戻す。

ほんの一瞬とはいえ、吊り橋効果じみた緊張の中で
かけられた言葉を本気にし、深読みしそうになった
自分が恥ずかしくて、赤くなった顔を袖に埋める。

『調香師』 > 「良い匂いにはなれるよ?みしし
 なりたいなら、なれるようにお手伝いするのは私の仕事だもの」

貴女を、今まで想像もしなかった方法で飾らせるのがこの香りに携わる者の考え方
衣装と同じように、変えられるものであると。当然の様に言うのが彼女

あとはもっと、正しく『情緒』という物を理解出来ていたのならば
今までの行動を今度は反省する番として、新しく朱に染まった表情も見せられたのかもしれませんが


「忘れないって。言ってくれて、嬉しかったよ
 ...待っててね」

自身の異能は、そんなやり取りも約束すらも容易くノイズの中に消せてしまうと知っているのだから、そんな『記録』を滲ませる方向を優先して語ってしまう

ただ、この部屋の隅にある瓶を取りに行くだけの背中だろうに
目を離せばその姿も色も、全部忘れてしまいそうだと思わせたのは、錯覚なのだろうか

黛 薫 >  
「あぁ……そっしたね、そーゆー店だもんな……」

現に、相手は自分を飾る『香り』を整えるための
作業の真っ最中だった。反論など出来ようはずも
なく、言い負かされたような敗北感。

「……、……?」

抽出時間の終わった瓶を取りに行くだけの背中。
一瞬……ほんの一瞬だけ、その姿が右目ではなく
『何も見えない/何も無いが見える』筈の左目に
映ったような気がして。

唐突な不安、喪失感に怯えて思わず立ち上がる。
……が、既に眼前には正常な視界が広がっていた。

(……あーし、まだ動揺してたらしぃな)

伸ばしかけた手を引っ込め、椅子に座り直す。

『調香師』 > 「?」

丁度、ビーカーを手にしたタイミングで立ち上がった貴女に、首を傾ける
それ以上の動作もないだろう。両手で持って、上機嫌で戻ってきた彼女です

「この溶剤は揮発が遅いんだね
 花弁からの抽出、宝石からの抽出。二段階を想定してるからかな」

傾ければ、ほんの微かにピンクかがって見える程度の透明色の液がドロっと動く
それを改めて、一回り小さいビーカー3つに分けては保留していた宝石2つをそれぞれに加える
残り1つはまだ、手を付けていない様子

「あとはこれをね。ロウソクみたいに硬くなるまで待ってから、アルコールで溶かすの
 これまた時間がかかる作業でね、今度は数日とか見ないとダメかも?」

『飲んだり液を指で触ったりしたらダメだよ?』と伝えて、それ以外はご自由にとビーカーをそれぞれ机に並べます

黛 薫 >  
「数日、ね。……ってコトは日を改めてまた来る
必要があると考えて良ぃんすかね。『香り』って
作るのに時間も手間暇もかかるのな。それでいて
目には見えず、慣れたり薄れたりして消えていく。

そりゃ瓶入りの香水とか、アロマキャンドルとか。
形にしようと思えばどうにか出来るんだろーけぉ。
何つーか……儚いもんだな」

横から透かし見るようにビーカーの中身を観察する。
ごく薄い桃色の溶液は緩めのシロップを思わせる
粘度を持っているようだった。抽出に使った溶剤の
刺激臭を思うと、完成前に匂いを確認したいとは
思えなかったが……何となく甘い香りを連想する。

「……いちお聞いときたぃんすけぉ、完成する日に
きっちり時間合わせて来ないとダメだったりします?
例えば、置いとく時間で香りが変わったりすんなら
決まった時間に来なぃと完成するまでの作業とかは
見えなぃのかな、なんて」

『調香師』 > 「んひ。やっぱり作っているのは気になる?
 私だったらいつでもいいよ、ちゃんと技術があるから、って言いたいけど

 やっぱり出来た頃に来て欲しいな?一番いい時を感じて欲しいのは、本当」

口頭で指定した日数。その時に丁度訪れてくれないかな、と


「目には見えなくて、でもそこには居るし必要な物だよね
 たとえ思い出の奥に沈んだとしても...『匂い』は一番、記憶と結びついてるからふとした時に蘇ってくるの

 だから、薄れてもちゃんと印象に残ってるんだって
 消えたように見えて、記録にちゃんと残ってるんだって
 儚いようで、とっても強い繋がりだよ。私がそうして覚えてるみたいにさ」

勿論貴女の事も。彼女の眼は、まだそうして伝えてきました

黛 薫 >  
「気になるってか……こうやって目の前で作るの
見てて、仕上げっつーか、完成の瞬間っつーか?
時間を逃したみたいな、そんなつまらない理由で
見ずに終わんの、勿体ねーって思った、かな。

だって、真剣に向き合って出来る物なんだろ。
それを単なるひとつの商品として、お金払って
買うだけってのは……何か、違う気ぃしたから」

ビーカーを倒さないように慎重に椅子を引くと、
忘れないように指定された日付をメモした。

「記憶に結び付く感触、か。良い香りが良い記憶と
結び付いたら、思い出せるたびに楽しくなんのかな。
逆に、嫌な記憶を上書きしてくれたりとか、さ」

物思いに耽りながら店員の瞳を見つめ返す。
いつも視線に怯えてばかりだったから、誰かと
こうして目が合うのは珍しいような気がした。

この記憶も覗き返した瞳も、いつか香りと一緒に
思い起こして、振り返る日が来るのだろうか。

「……んじゃあ、今日はお暇しますかね。
完成する日、忘れずに来るんで。絶対に。
そんときは、また宜しくお願ぃしますよ」

棚に並ぶ数多の小瓶も、きっと今日垣間見たような
試行錯誤の末に作られた物だ。慎重過ぎるくらいに、
瓶を揺らさないように、静かに頭を下げてお店を
後にした。

ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』」から黛 薫さんが去りました。
『調香師』 > 「うん、勿論。そうして出来る様にお手伝いするのも私のお仕事」

それは自分がそうだから
楽しい匂いと記録を繋げて、そうして赤い記録の上書きが出来るように、と

「今日も良い仕事をありがとう
 またのお越しを!」

立ち上がって、彼女はお店の外までお見送り
変わらぬ笑みであっても、大きく下げた頭には、感じさせる感謝の形が確かにあった事だろう

『調香師』 > ---

「...あ。ポイントカード、渡し忘れちゃった」

そう気づいたのは、2つのビーカーを保存層に入れた後
次に来た時に渡すとしよう。そう考えながら戻ってきて、残り1つのビーカーに入った溶剤を手に取ると、口元で傾け、喉を何度か鳴らし、通す

「ん...っぷ、ふぁ」

思い出す彼女の目。落ち着きなく揺れ動き、それ故に光の角度の移りが本来以上の姿を見せて
また、その知識の色は多彩。それに似合う宝石を探すとしよう

迷ったピンセットが最後に摘まんだのはオパール
目の前で翳して、光の具合を確かめて頷けば。同様に、それもごくんと

---

営業時間はまだ残っている。他のお客様が来るかもしれない
今日の残りはお客様が来るまで、片付けと新しいローズオイルの調合の時間にしようかな?

繁華街にまた、新しい香りが漂いつづけている...

ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』」に神代理央さんが現れました。
神代理央 >  
根を詰めたくなるのは分かるが、偶には息抜きしてこい。
良い店を、知っているから――

…と、上級生に勧められては断りにくい。
ましてそれが、部署違いとはいえ役職も上となると猶更。
確かに休息を取るのは大事だが、今はそういう時期でも無い。
しかし、断るのも居心地が悪い。純粋に気を遣ってくれているのだから。

というわけで。疲れた身体を引き摺って、歓楽街の路地裏まで。
落第街じゃなかったのは幸運だったというべきか。
確か、香水とマッサージの店、だっただろうか。
そういう事は疎いので良く分からないのだが。

「……こんばんは。まだ、店はやっているかな?」

雑居ビルの佇まいに、ちょっとだけ不安を覚えつつも。
まだ営業していれば良し。駄目なら駄目で、勧めてくれた先輩には
そう言えば良いだけのこと。
扉を開けた少年は、ひょこり、と顔だけ店内に突き出して
声をかけてみるだろうか。

『調香師』 > 丁度、隙間からはローズの香りが漂っている
扉を開けばベルの音。そして、慣れない人間ならば圧倒してしまうだろう、嗅覚よりの情報量

椅子に座り、スポイトを片手にビーカーと向き合っていた少女は顔を上げて、そこから認識した人間の顔の高さに目線を合わせる

「いらっしゃいませ!まだ大丈夫だよ」

一旦作業を中断し、貴方の方へ駆け寄ってくることだろう
明らかに、その体躯は幼い

神代理央 >  
大丈夫、ということなので店内に足を進めてみる。
良い香りだ。『あの店は本当に落ち着く』と言っていた先輩の
言葉は、強ち過大評価でも無かったらしい。

「ありがとう。と言っても、人伝に聞いて来てみただけでね。
初めてなんだ、こういう店は。だから、良く分からないんだが…」

もう一度、鼻を鳴らす。
ローズの香り。普段自分が纏っている、紫煙や硝煙、血の匂いとは
全く異なる。
闘争心すら抑制してしまうような、精神を微睡ませる様な香り。

「……ええと、香水を売っている、のかな?
とても良い匂いだね。落ち着くよ」

現れた少女は、受付嬢か何かだろうか?
幼い少女に合わせる様に少しだけ屈んで、首を傾げてみる。

『調香師』 > 店内に踏み入れた時、顔を覗かせただけでは分からない特徴も露わになる
則ち、貴方は『風紀委員の腕章を持った生徒』として確かに認識されよう

当然表沙汰にはなっていないが、彼女自身は蜥蜴下部組織『梟』の構成員
彼の間柄は、関係性で言えば『敵対』と言えるのだろうが...


「えへ、ありがとう。香水も、インテリア用の香りも、お手入れに使える香油も、香りにまつわる物なら何でも扱えるよ
 何か気になる事はある?あなた、なんだかとっても大変そうね」

彼女、全く気配に出さない。或いはそもそも『全く気にしていない』
目線を合わせても、まず反応を見せるのは嗅覚なのは普段通り

染み付いた煙の匂い、奥には嫌いなあの臭いも感じられよう
あくまでそれは匂いの分析であり、貴方に対しての印象はニュートラル


「ここに来てくれたなら、一番いい香りの経験を持ち帰って欲しいから
 まずは、あなたの事を聞いても良いかしら?

 好きな香りに最近のお悩み。それをどう解決したいか、或いはどう絡めて静めたいか
 どうぞ座って、お話をしましょ?商品の香りは、言葉の様に繊細なんだから」

この部屋の匂いを纏わせた。更に言うなら、香りの発生源の1つになっている彼女は、貴方を案内して机に向かい合って座る様に促すだろう

神代理央 >  
大変そう、という言葉は風紀委員の腕章を見たが故なのだろうか。
とはいえ、此処は歓楽街。落第街ならまだしも、此方も少女に
過度な警戒心を持つ事は無い。
営業そのものも数年前から問題なく行っている、と先輩も
言っていた。だから少女の言葉もセールストークの様なもの
という認識だろうか。

「……私の事?今時の香水屋というものは、中々顧客の
情報収集に熱心なのだな」

促される儘に、少女の対面へと腰掛ける。
机の向こう側から漂う濃厚な"匂い"
ぎしり、と椅子を軋ませて腰掛けた少年は、その香りに
溜め込んだ疲労を押し流す様な溜息を一つ。

「そうだな。最近はこと忙しい時期が続いている。
寝る時にでも焚いて、疲れが取れる様な香りである事が望ましい。
好きな香り……?…ぱっと思いつくものが出てこないな。
香りで落ち着く、というか。そういう休息を取ろうと思った事が
少ないのでな。…扱いにくい顧客で、すまないな?」

少しだけ苦笑いを浮かべて。
休息という行為そのものに不慣れな少年は少女と視線を合わせる。
金を払えば、相応のモノが提供され続けた少年にとっては
そもどうすれば自分が安らぎを得られるのかという事自体に
今一つ関心と理解が薄い様子。

『調香師』 > 「んへへ、大丈夫だよ。そういう曖昧な言葉から、欲しい物を探すのもお仕事だから
 でも香水屋じゃなくて、もっと手広い事は覚えていて欲しいな?
 ほら、さっきも説明したから。色々なもの、取り扱ってるよ」

例えばと、彼女が戸棚より持ってきたのはガラス入りのロウソク数本
香りのお店の商品、これがアロマキャンドルと察するのも難しくはないでしょう

「夜に焚く、って話なら一番用意しやすいのはこの形だと思うな
 コレが欲しい!っていう物がすぐに思いつかなさそうなら、意識しない『あなた』に聞いてみる?
 リラックスしながら火を見ると、なんだか自然と言葉が出てくるんだってさ」

キャンドルの隣に、マッチも並べる
ようは、簡単な催眠のススメである

神代理央 >  
へえ、ほお、みたいな感じで。
取り出される商品に視線を移していく。
アロマキャンドルというものがこういうものか、と
使った事が無いからこそ、感心した様に小さく頷くのだろう。

「ああ、すまないな。香水屋…という言葉でしか表現できなくて。
本当にこういう事は疎くてな。恥ずかしい限りだ」

本庁へのお土産か、自分の執務室用に買うのも良いだろうか。
なんて、香りに包まれた儘ぼんやりと思案していれば――

「意識しない『あなた』……?
…何だか良く分からないが、それで好みが分かるものなのか。
まあ、君のお勧めならお願いしようかな――」

と、そこではたと思い付く。

「……そういえば、この店は君一人で営業しているのかな?
他に店員を見かけた覚えは、無いのだけれど」

『調香師』 > 「私以外?表には出てこないかなぁ
 私は『調香師』、このお店の殆どは私のお仕事なの」

若干の誤魔化し。実際はその全てが彼女の仕事なのだが
...見た目がお子様で学生でもないので。『社会的な摘発』にどうにも弱い

そしてこの場所が奪われれば、自身の存在意義の喪失にも繋がる
このお店を気に入ってくれた人は、確かに居るのだから
曖昧な言葉で、この楼閣を守ろうとするのだろう

話を先に進める為に、マッチを擦る。白いアロマキャンドルに火を灯す

「元々小さな、昔の思い出を導き出すような物よ
 香りって、一番過去と繋がった感覚なんだから」

部屋の照明を1段階下げて、その炎の揺らぎが目立つように

このロウソクから漂う煙の匂いは、特別何と特筆するのは難しい
貴方の記憶の中にある様な、けれど全くの未知のような
複雑でありながら純粋な白の色を持つ、意識に入り込んでくる香りが次第に二人の間を包み込んでゆく...


「例えば。貴方が『お休み』だと思う時に
 真っ先に思い浮かぶ場所はどこなんだろうね」

ぽつり、と。質問が幼い声で囁かれる
人によっては森であり、海であり。それは家でもあるし、街中でもある
静かでも、騒がしくても、様々な回答を待っている

神代理央 >  
「そうか…小さく見えるが、良く頑張っているな。
とはいえ、君の様な子供が殆どの業務を賄っているというのは
少し大変そうに見える。
別に店の経営方針に口を出すつもりはないけど、余り根を
詰め過ぎないようにしてほしいな」

ふむ、と少しばかり考える素振り。
流石にそれだけで摘発だのなんだのと頭の固い事を言い出す
つもりはない。そもそも、その辺りは自分の業務の範疇外だし。
とはいえ、少女が多忙であるのなら気に留めておく必要は
あるだろうか、と頭の中に書き留めておく。
よもや、違反部活と繋がっている事は無い――とは思いたいが。

「昔の思い出、か。
まだ、思い出に浸る様な年齢でも無いんだけれど」

と、ちょっとだけ苦笑い。
とはいえ、少女の言葉も理解は出来る。だから、炎が灯された
蝋燭に視線を移せば、少女の言葉に静かに耳を傾ける。
不器用ながらも、ぎこちなく身体の力を抜いて。
なるべくリラックス出来る様に心掛けてみたりする。

「………休み…御休みで、思い浮かぶ、場所…?」

元々疲労していた事もあり、身体の力を抜いて蝋燭から漂う
香りに包まれていれば。少女の言葉に応える言葉からは
容易に力が抜け落ちていく。意識と理性が、微睡んでいく。


「………やしき、屋敷だ。父様と、母様が、いる。
父様は忙しいから、偶の休みの日しか、会えないんだ」

そうして、少女に返される言葉は――少年自身の休息、ではない。
幼いあの日。父親の休日を待ち焦がれた日。
家族で過ごせる日。
それが、少年にとって一番の休息"だった"と、ぼんやりした口調で答えようか。

『調香師』 > 「心配しなくても大丈夫よ。私は今、幸せだから」

尤も返答は、香に飲まれた意識に通り過ぎる程度の物なのだろうが


「お屋敷。お仕事が忙しいお父様
 ...大きな場所だったのかな」

それを真に受けても良いのだろう。しかし、彼女は言葉の機微を知る
思い出したものが遠い物である様に語られるさまを、表情を見つめる

「今はもっと、忙しいのかしら
 それは思い出というより、夢のような
 もう届かないお話にも聞こえるな

 それに近づければ、あなたの心は休まるのかな?」

聞いた内容を再現するのは、容易い
しかしそれが本心であるかどうかは、また別のお話

神代理央 >  
少女の言葉に、少しだけ言葉が止まる。
微睡む意識の中で言葉が止まる、と言う事は。
少女の言葉に頷くべきなのかどうか、欺瞞無しで悩んでいる
とでも言うかのように。

「………今は、いまは、違う。
父様は、父様の期待に応えなければ、私を見てくれることは、ない。
だから、だから………」

ぼんやりとした紅瞳が、少女の蒼い瞳を捉える。

「……私の心が、休まるのは…私は、認められたいんだ。
皆に。社会に。世界に。……父様に。
だから、私は戦わなければならない、んだ。
私は、私の敵を、全て倒さなければならない。
その為に、効率良く戦う為に……」

「……精神を落ち着ける香りを、寄越して、くれ」

休息に繋がる香りや香水では無く。
『戦い易くなる為の』香りを、少女に望む。
少年の精神が昂っているとか、闘争心に火が付いたとか。
そういう事では、ない。
『戦い続ける事』が当たり前だと思っているから、それを効率良く
行う為に。宛ら、睡眠薬を求める不眠症の患者の様に。

少女に、香りを求める。

『調香師』 > 彼の声を、真意を。過去と現在との隔たり
彼の心は歪んでいる。それは容易く、あまりに容易く察せられる

その方向に進んで得られる物に、彼の望む平穏はある訳がない
最後に安らぎを得るために、通過する全てを敵と認めて戦う

彼のこの言葉は、精神の悲鳴なのではないだろうか
彼の内で、この道に疑問を叫ぶ内面があるからこそ、それを鎮める、黙らせる『モノ』を欲しているのではないだろうか

宝石に例えられた双眸は、一度瞼に閉ざされる
十秒。キャンドルに微睡むこの空間の中では、きっとそれよりもっと長く感じられる時間


「わかった。それが、人の為になるのなら」


彼女は肯定をした。求められれば『処方』する
既に彼に必要な香りの設計図は描き出した

必要な物は『鎮静剤』ではなく『鎮痛剤』
端的に言えば、『存在の知られていない麻薬』という物を作れば良い


答えは聞いた。そのキャンドルが自然に消えるまで、彼を静かに、『本当の安らぎ』に微睡んで貰おう
彼女はその状況に、二度と戻れなくなるかもしれない香りを調合する

僅かでも胸中に、痛むものはあるのだが。それでも彼女は実行をするのだ
静かに立ち上がり、戸棚の瓶を選び始めた。彼の意識が覚醒するまでの熟考の猶予

神代理央 >  
疲労による睡魔と、香りによる疑似的かつ簡易的な催眠と。
微睡む精神と身体は、蒼玉の様な瞳が閉じられ、再び開かれるまで。
ただぼんやりと、少女の顔を見つめているだけ。

そうして、少女が分かったと頷いたのなら。
安心した様に瞳を閉じて。椅子にその身を預ける事になる。

「……面倒な注文で、すまないな。
疲れた儘では、戦い続ける事もできない。
今は、少しでも多くの、違反部活を………」

寝息を立てる、と言う程でも無い。
しかし、意識明瞭という事でも無い。
正しく、香りに微睡んで。夢見心地の儘、少女に礼を告げる。
その謝礼の言葉すら、風紀委員としての責務を果たせるから、と。

其の侭、少年は微睡んだ儘。
少なくとも、キャンドルの炎が掻き消えてしまうまでは。

『調香師』 > そうしていつか、火が消えた

---

「おはよう。あなたの注文にぴったりだと思うものを作ったよ」

待ち構えていたように声を出す『調香師』
キャンドルを他所に移動させて、2人の間に用意されたものは6本の紙巻き煙草だった

「...匂いで分かるんだ。あなたも、悪い人だね?」

首を傾げて、変わらない笑みも眉の角度と光の当たり具合できちんと困った風に見えるのだろう

神代理央 >  
目が、覚めた。
…という表現は不適当かもしれないが。
兎も角、微睡んでいた意識は急速に覚醒へと向かう。
まず最初に思い浮かんだのは、迂闊な姿を晒してしまった事への自責。

「…あ、ああ。何と言うか、ぼんやりしていて何を言ったか良く
覚えていないんだが…。失礼な事を、言わなかったかな」

幾ら疲れているから、とは言え。初めて訪れた店で、意識朦朧など
風紀委員として相応しくない。
警戒心も解き過ぎてしまっている。これは、店内に入った時から…いや。
この香りに包まれた時から、かもしれないのだが。

「……其処まで分かるのか。流石は、香りの専門家と言った所だな。
しかし、態々煙草の形にする、と言う事は…焚くのではなく、
吸引するモノ、なのか。これは」

"困った様な"表情の少女を、疑う素振りも見せず。
此方もまた少女と同じ様に、困った様に笑ってみせる。

「ストレスの多い仕事だからつい、ね。
だから、煙草の形をしているのは有難いんだけど…」

視線を6本の紙巻煙草へ落とす。

「…どんな香りがする煙草なのかな。余り目立つような匂いだと
ちょっと困ってしまうんだけど」

『調香師』 > 「あなたにとって、一番都合のいい形かなと思ったの
 あなたの『安らぎ』の香りは、寝る時にお部屋を満たすのには向いてなかったから

 安らぎたい、気を落ち着けたい。その時にいつでも使える
 あなたにとって、それはそういう形だよ」

『本当に気を休める必要がある時しか使って欲しくないけれども』
彼女はそう付け足しました

「香りはね、ベースの葉っぱは特別だけどタバコの種類だから
 慣れてる人には『変えたかな?』と思われる程度だと思う
 そこに、吸えば分かる程度に樹の芯の深い香り、ナッツを砕いたような油の交じる香ばしさ、微かな蜜の甘さ、プラスエトセトラ

 香りって、ただ綺麗で甘いだけじゃないんだよ
 だから、あなたが突然お花畑に包まれる様な事はないから、安心してね」

その効能は、まず最初に五感を失うような脱力感
時間と共に取り戻し、それが不自然な程に冴えわたる

まるで、『感覚を捨て、新しい物と入れ替える』と形容すればいいのだろうか
心機一転、問題に向き合う心持となるには都合がいい。無論、捨てられた部分は考慮されていない