2021/11/19 のログ
シャンティ > 「ふふ……先、に……大物、釣れ、ちゃ、った、かし、ら?」

くすくすと女は薄く笑う。とても愉快そうに。言葉通りの意味がそこにある。場所的に予期がないわけでもなかったが、本当にそうなるというのは流石に想定外。想定外は、楽しい。


「ちな、み、に……今、まで……は、釣れ、て……ない、わ、ねぇ……ふふ。久遠、は……釣り、得意、な、の?」


指示に素直に従い、しかしどことなくもたついた動作で竿を持つ。加減がわからないのか、だいぶ竿が引っ張られているようにも見える。そんな有様なので、有識者が味方をしてくれるのであれば心強いのは確かだ。少し、女には期待が生まれる。


「これ……もう、引っ張……って、いい、のぉ……?」

少しだけ珍しく……どこか困惑したような顔で、男に問いかけた。竿はだいぶ引かれている。

杉本久遠 >  
「んぉ?
 大物?」

 当の本人は何のことやら。
 しかし、彼女が楽しそうに笑っているので、久遠も笑顔になる。

「得意――ではないなぁ。
 下手の横好きってやつだよ」

 なんて話してる間にも、釣り針に掛かった獲物は、しっかりと泳がされている。
 そろそろだろうか。

「ああ、引いてみよう。
 力任せにならないように、ゆっくりな」

 さて。
 引き寄せられてくる獲物は一体なんだろうか――。

シャンティ > 「そう、大物……ふふ。とぉ、って、も……大き、い……の」

意味がわかっていない相手に、逆に楽しくなる。そして、思考する。気づいたらどんな反応をするのだろうか、と。それを想像するのもまた、楽しい。

「きっと……私、より、ずい、ぶん……大、きく、て……強、そう、な……ね?」

それだけいって、またくすりと笑う。


「さ、て……こっち、ねぇ……ん……ゆっく、り……は、得意、だ、けれ、どぉ……引っ張、る、のは……あま、り……ね、ぇ」

リールを巻く手もだいぶおぼつかない。そもそも竿を支えていられるだろうか。そんな細腕は、それでもなんとか努力しようとはしてみた。右へ、左へ流されながら……さて、その結果は……
[3d6→1+3+4=8]
シャンティ > [1d10→9=9]
シャンティ > 小さい ギラギラした シビレクラゲ
杉本久遠 >  
「――?」

 さっぱりわかっていないのが、この男である。
 ただ、彼女が楽しそうにしているので、久遠としては何も言う事無しなのだった。

「ゆっくりリールを巻いていけばいい。
 っと、危ない――」

 咄嗟に左右に振り回される釣竿を支えるように、彼女の手の上から手を重ねた。
 瞬間、慌てて手を上下にずらして、支えるのを手伝おう。
 きっと顔を見れば少し赤くなっているかもしれない。

「――む、見えてきた、が。
 くらげ、か?」

 なんとか引き寄せられてきた獲物の姿は、魚っぽくはない。
 網を伸ばして掬い上げて見ると、やはりクラゲだった。
 なぜか、やたらとギラギラ輝いているが――。
 網に揚げたクラゲを示しながら、どうする? というように彼女を見るだろう。

シャンティ > 「…ぁ、ん……」

手を重ねられ、小さな声を漏らす。


「あ、ら……上、から、の、方、が……支え、られ、な、ぃ?」

ずらされた手に、少しだけ意地の悪い注文をつける。顔は、見ずともわかるが……あえて顔は向けずにいる。加減も大事だ。


「……クラゲ?ん……食べ、られ、な、さそ、う……よ、ね、ぇ……で、もぉ……この、辺、いる、と……邪魔……か、しら、ぁ……?」

当然、こんな時節に泳ぐのは一部の物好きか、特殊な事情のある存在だけだろう。他にあるとすれば……何かの練習でこの辺りを使う人間だろうか。


「釣り、と、して、は……失敗、ねぇ……多分。そう、いえ、ば……久遠は、する、の?」

そこで、見えない眼を男の方に向けた。

杉本久遠 >  
「む、いや、不用意に女性に触れるのも、どうかと、思ってだな――」

 しどろもどろになるのである。
 この男、女性の友人に対する距離感が掴めていないようだ!

「ふむ――とりあえず、かわいそうだが釣られてもらおう」

 実際、このイベント中は浜辺にヒトが多いので、うっかり落ちたりしたヒトが刺されると危ないかもしれない。
 なおこのシビレクラゲ、トコヨシビレクラゲというらしい。※1

 そっと海水を汲んだバケツにクラゲを落としておく。

「なあに、クラゲだって立派な獲物だろう。
 ――ん、オレか?
 そうだなあ、君を見ているのも好い時間だが、折角だし一度くらいは挑戦するか」

 そういうと折り畳みの椅子やら、マイ竿やら、しっかりと帽子も被って準備万端。
 ――と、準備する中で、再びハットが出てくる。
 その、目の前の女性の肌より少し明るい色のハットを、少し悩んでから彼女に差し出した。

「あー、そのな。
 釣りをするときは、被り物をするといい。
 頭に針が引っかかったら大変だからな」

 と、照れているのがまるわかりの様子で、顔を背けている。
 ハットのデザインは、凝ったものではないが。
 本の形のアクセサリがワンポイントのように付いている。
 顎下で結べるリボンも付いているようで、風のある場所で被る事も想定されたモノのようだ。

※1
・トコヨシビレクラゲ
 体長10㎝ほどの、ギラギラとした体色が特徴のクラゲ。
 その毒は自分の十倍近い大きさの魚すら動きを止め、捕食するためのもの。
 非常に危険であり、浜辺周辺で見かけた場合、実は駆除対象でもある。

シャンティ > 「あ、らぁ……? そん、な……他人、行儀、ねぇ……さみ、しぃ、わぁ……?ふふ」

くすくすと笑う。其処には微塵も寂しさなどは感じない。此方も、ある意味で距離感が壊れていると言える。


「ん……あら、かわ、ぃ……ふふ。そう、ね……成果、といえ、ば……成果、かし、ら、ねぇ?」


じっとバケツの中のクラゲを見る。女は海洋生物の造詣は深くないが、危険生物はよく知っている。これは、トコヨシビレクラゲ。なぜこんなところにいたかは不明だが、危険種として界隈では知られている。

ひょっとしたら、"いいお土産"かもしれない


「ん……? あら? そ、れ……ハット? 私、にぃ……?」

差し出されたハットに、一瞬、きょとん、とする。これもまた珍しい表情だ。女にも、これはやや意外だった。

「ふふ……あ、り、が、と……」

謹んで、受け取るが……ふと、考えるようにする

「おか、えし……必要、ね、ぇ……」

顔を、急に寄せる

「な、に、が、い、い?」

囁きが耳朶を打つ

杉本久遠 >  
「ぅ、お、お返し?」

 急に近づいてきた顔に、驚いて仰け反る。
 聞こえてくる声は、どうもくすぐったい。
 彼女の声は、耳に心地よいと同時に、奇妙なむず痒さを久遠に与えるのだ。

「――あ、いや、これはなんだ。
 オレの、そう、お節介だからな!
 気にしないでくれ!」

 と、慌てて釣り竿を構えて、動揺を誤魔化す。
 もちろん、ごまかせてなんていないわけだが。

「そ、そうだなあ!
 もし大物でも釣れたら、褒めてくれ!
 それくらいで十分だぞ!」

 そして釣れなかったら、ちょっとだけ慰めてほしいかもしれない。
 まあ、普段の久遠ならば、いつも通り何も釣れない事だろうが――。

 ひょい、っと。
 釣竿がしなって、ルアーが飛んでいく――。
[3d6→1+3+5=9]
杉本久遠 > [3d6→4+5+6=15]
杉本久遠 > 中くらいの ぬめぬめした 冒涜的なナニか
シャンティ > 「ふふ、そぉ、ん、なの、で、いい、の。ぉ……?無欲、ね、ぇ……なぁ、んで、も……いい、の、にぃ……?」

くすくすと笑う女。とはいっても目の前の男から飛び出る要求は知れている、とも思う。もし――なにかとんでもないものが飛び出たら。それは、その時、である。

「じゃ、あ……釣れ、た、もの、に……期待、ね……」

そして、竿の先に注意を……


『謌代r驥」繧九→縺ッ菴戊??°』


「あら……これ、は……ふふ。大物、ねぇ……あは。久遠、った、ら……こぉ、んな、の、釣っちゃ、う……なん、てぇ……素敵、ねぇ……」

それは魚と言うには奇態な存在であった。ぬめぬめとした表面は、魚らしくも思えるが。その色は七色に輝くような奇妙な色。そして、ヒレがあるべき場所には……虫じみた節を持つ触覚とぬらりと輝く触腕が蠢く。


『縺ゥ縺?@縺ヲ縺上l繧医≧縺九?ゅ↑縺カ縺」縺ヲ繧?m縺?°縲る」溘▲縺ヲ繧?m縺?°』


『その冒涜的な存在は怨嗟の声を、呪いの言葉を吐き出す。長く触れれば正気を奪い、精気を失わせそうなそれを辺りに撒き散らし――』

「ん……いつ、も……な、ら……放置、して……も、楽し、そう、なの、だ、けれ、どぉ……」

小さくつぶやきながら、いつもの本と違う本を取り出す。

「私、たち……に、お痛……す、る……な、らぁ……考え、ない、と……ね、ぇ……」

くすり、と笑う。


「ね、ぇ……久遠、これ……どう、す、る……?」

狂気に犯されることなく、女は平然と問いかけた

杉本久遠 >  
「むう――君みたいな美人が、なんでも、なんて言うもんじゃないぞ。
 勘違いするやつが出てきたらどうするんだ――ぉぉ?」

 と、また斜め上に心配しつつ。
 早くも感じた手応えに、首を傾げる。
 はて、魚にしては抵抗がないが、ごみにしては動きがあるが?

「――これは、大物、か?」

 そして真剣になって、見事釣り上げて見せたが――。

 ――さて、おさらいしよう。
 杉本久遠は、異能があるとは言え、純粋に一般人である。
 もちろん、精神的にも肉体的にも、アスリートとして健全なものを持っているが、当然、常軌を逸したものに耐性は持ち合わせていない。
 対面したソレが呪詛であり、精神を狂わせるものだったりしたらどうなってしまうか。

 A.一般人はこのような精神的負荷には耐えられません。

「――――」

 くらり、と頭が揺れたと想えば、そのまま後ろにひっくり返る様に倒れてしまう。
 心の防御反応だった。
 まあ、揺り動かせば目を覚ますだろうが。
 どうする、と聞かれても、残念ながら返事は出来そうになさそうだ。

シャンティ > 「ふふ。か、ん、ち、が、い……って、なに、か、しら、ね、ぇ?おしえ、て……ふふ」

クスクスと笑う、が


「あ、ら……気絶……し、ちゃ、った、ぁ……?」

どたり、と音を立てて男が倒れる。女の耳には無論、その音は届かないのだが……しかし、その状況自体は伝わる。倒れ方自体はやや危険ではあったが、頭を強打するなど命に関わるほどのひどい倒れ方ではない、のも分かった。

女はわずか、息を漏らす。


『縺セ縺壹?縺昴?逕キ縺九i謌代′迚ゥ縺ォ縺励※縺上l繧医≧縺』


「……ふふ。だぁ、め。それ、は……させ、て……あげ、ない……わ?」

冒涜的なそれが放つ人の言葉を理解しているかのように、女は対峙する。手には、不気味な材質でできた本。明らかに、紙とは違う材質の……何処か、布のような何かで出来た、それは。奇妙な鈍いぬめるような輝きを持っていた。


「写し……だ、けど、ぉ……ふふ。貴方、程度……な、ら……別に、ね、ぇ? 豸医∴縺ェ縺輔>」

女の口から奇妙な言葉が漏れる。


「悪い、わね……ほんと、なら……可愛、がって、あげ、る、ん、だけ、どぉ……? ね。縺輔≠縲?裸縺ォ鬟イ縺セ繧後※貊??縺ェ縺輔>」

女の後ろの空間が割れる。
黒い黒い闇が漏れ出す。そこから、腕のような何かが溢れ出した。奇妙なことに、その腕らしきものには厚みがなく……しかし、圧倒的な存在感だけがあった。


『繧?a繧阪?√?縺ェ縺帙?√↑縺ォ繧偵☆繧』

腕が、冒涜的なそれを掴み……闇に引きずり込んで……そして、消えた。


「……さ、て。久遠?久遠?」

女は何事もなかったように、男へ近づいていきしゃがみ込んで優しく揺さぶる。
顔を覗き込むように……

杉本久遠 >  
 一般人は知らない方がいいだろう、超宇宙的なやり取りが交わされていたが――気を失っていれば大丈夫。
 何も見えないし、なにも聞こえなかった。
 そういう事だ。

「――ぅ、うぅ?」

 頭の奥に鈍い痛みを感じながら、目を覚ます。
 目を覚ますと、整った顔立ちの――、

「おあっ、シャンティ――」

 慌てて起き上がろうとすると、のぞき込んでいる顔とは必然。
 近づいてしまうわけだが。

「――す、すまん!」

 慌てて、また倒れた。
 いくら久遠と言えど、間近に彼女の顔を見れば戸惑いもするのである。
 顔だって赤くなるのだ。
 

シャンティ > 「ふふ、久遠。どう、した、のぉ?」

くすくすくすくす。いつもの。いつもどおりの女の笑い声。先程見せた超宇宙的な何かは影も形もない。ただ聖母のようにも、魔性のようにも見える笑いを浮かべるだけの女の顔。

「そん、な……あわ、て、てぇ……ふふ。ま、あ……急に、たおれ、ちゃっ、たの……だ、もの、ぉ……びっく、り……しちゃ、う……の、も……仕方、ない、か、しらぁ……」

単なる防御反応であり、ある意味不可抗力であった。ただ、要約すれば確かに言葉通りのことが起きただけなのだ。……原因は突飛であるが。

「もし、かし、てぇ……疲れ、て、た、のぉ? ふふ。休むぅ?」


くすくすと笑いながら、女は自らの膝を軽く、叩いてみせた

杉本久遠 >  
「いや、君の顔が近くて、な」

 そんないろんな顔を持つ彼女にも、素直に全部言葉にしてしまうのが久遠だった。
 距離が近すぎれば、いくらこの朴念仁でも意識しないわけにはいかないのであった。

「そ、そうなのか?
 それは、すまない、心配させ――」

 ほんとに疲れていたのかもしれない。
 頭の奥が鈍く痛み、まだ軽く眩暈がしている。
 冬場の日差しを甘く見たか? なんて、一人で現実的なつじつま合わせをしていたが。

 そんな久遠に、彼女の誘いは良い感じのストレートだった。

「な、いやっ、それは流石にっ――」

 と、慌てて拒否しようとしてしまうが、

「き、君が嫌なわけじゃないんだ!
 その、オレを気遣って申し出てくれてるのも、とてもありがたい、ありがたいんだが――」

 片腕で目元を覆う。

「――それはさすがに、恥ずかしい、じゃないか」

 耳や首元が赤くなっている。
 どうやら、膝枕されている事を想像してしまったらしい。
 それだけで、これだけ動揺して赤くなるのだから、鈍いのか、初心なのか。

シャンティ > 「あ、は……ふふ。ふふ、あはは、ぁ……」

素直、実直、真面目。様々な形容のしようがあろう。間違いなく言えるのは、彼が本心から意識し、照れ。そしてそれを表に発露してしまった、ということ。

そんな感情の揺れ動きを眺めて、女は満足げに笑う。それこそが、彼女の生きる糧。

「で、もぉ……こ、んな、ところ、で……その、まま、横に……なれ、なぃ、でしょ、ぉ……?」

周囲を見回すポーズを見せて、女は首をかしげる。野外。それも岩礁とあっては、横になるだけ辛いかもしれない。そんな風景が広がっていた。

「それ、とぉ……ちょ、っと……しつ、もん……嫌、じゃ……ない、な、ら……いい、の、かし、らぁ……?」


くすくす、と。先程の満足そうな笑いとは別の種類の笑いを浮かべ。小さく小さく囁いて問うた。

杉本久遠 >  
「それは、そう、かもだが――」

 たしかに、慌てて動くのも危ないが、背中は少々痛い。
 このまま休むにしても、少し彼女の方に動いた方がマシなのには違いない。
 が、待っているのは、膝を示して笑う彼女である。

「――それは、だな」

 嫌じゃないなら?
 少し考えるが、答えに迷う要素はなかった。

「それは、嬉しいに決まってるだろう。
 君みたいな女性に、優しくしてもらえて、嬉しくないやつがいるのか?
 少なくともオレは、すごく嬉しいぞ」

 と、至極真面目な調子で答えるのだ。

シャンティ > 「あ、は……ま、あ……そん、な、ところ、で……いい、かし、らぁ……」

生真面目だわ、と笑う。今日はだいぶ可愛がってしまったので、そろそろ打ち止めでもいいだろうか、と思う。そうはいっても性分なので、抑えられるかはわからないが。


「それ、で……本当……どう、する?」

見た感じ、あれ、の影響はなさそうである。流石にそこに言及して思い出させるような愚は犯さない。もし仮に彼が破滅して果てたとして、それはそれで運命ではあるが。それにしても、交通事故のような運命では些か面白みに欠けるというものだ。

だから、聞いた。

「この、まま……ゆっく、り……する、か……それ、とも……帰って、しっか、り……休む、か……ね? ふふ。釣り、は……残念、だけ、ど……今日は、もう、おやす、み……か、しら、ねぇ……?」

杉本久遠 >  
「むう?
 なにか変な事言ったか?」

 笑う彼女に不思議そうに首を傾げるのだった。

「ああ、うん、そうだな。
 君とゆっくり過ごすのも、嬉しいお誘いだが――ここであまりゆっくりしてたら、お互い冷えてしまいそうだしな」

 ゆっくりと、自分の調子を確かめるようにしながら起き上がる。
 まだ調子は悪いが、道に出てタクシーでも呼べばいいか、と思う。

「大事を取って、家に帰ってちゃんと休むよ。
 すまんな、釣りの邪魔になってしまった」

 上半身を起こして、小さく頭を下げた。
 荷物を手の届くところから片付けながら――バケツのクラゲは彼女に任せよう。
 そうして片付けているうちに、ふと思い出す。
 先日会ってから、そのうち彼女に渡そうと思っていた物があったのだ。

「そうだ、シャンティ。
 余計なお世話かとも思ったんだが」

 そう言って、蒼い雫型の石のキーホルダーを取り出した。
 それは、取り付ける物を変えれば、ペンダントやブローチのようなアクセサリ風にも出来る物だ。
 実際は、石の部分がスイッチになっている、一種の発振器のようなもの。

「これ、昔妹が使っていた物なんだが、なんて言うんだ?
 GPSとか、簡易通報装置、か?
 この石の部分を押し込むと、登録した連絡先に緊急通知と、現在地が送信されるんだ」

 そう説明しつつ、

「ほら、この前、何かあったら駆け付けると言っただろう?
 普段の連絡ならいいが、君の体を考えると、緊急の備えは有った方がいいと思ってな」

 これなら、目や耳が働かなくても使えるだろうと。

「今は一応、オレの端末が通報先になってるが。
 例えば警察とか、救急とか、後は家族だったり、信頼できる相手とかか?
 好きなところに設定できるから――気休め程度かもしれんが」

 差し出してはみるが、お節介が過ぎるかとも思い、ぎこちなく落ち着かない様子で頭を掻いた。

シャンティ > きょとん、と
女は予想外も予想外な提案で、しばし止まる。照れたわけでも、焦ったわけでもなく。ただ意外性に、驚いたのだ。

贈り物でも、まさかこんなものが飛び出てくるとは。


「あ、は……ふふ、あは、あはは……うふ、ふふふ……」

忍んだ笑いが、静かに口から漏れ出る。普段の笑いでも、どこかで現れた邪笑でもない。本当に、心から笑っている楽しげな。抑えきれない笑い。

ああ――本当に、楽しい。


「これ、は……ふふ。いい、の、ぉ……こんな、もの……もら、ってぇ……ふふ。じゃあ……遠慮、なく……いただい、て……おく、わ、ね?」

キーホルダーを受け取り、手のひらの上で転がす。
しげしげと……見えない眼で、見つめるようにして


「ありが、とう……よろ、しく、ねぇ……騎、士、さ、ま?」

薄く、囁いた

杉本久遠 >  
「そ、そんなにおかしかったか?」

 彼女の笑いっぷりに、ますます困った顔になってしまうが。
 受け取ってもらえると、少しほっとした。

「騎士さま、なんてかっこよくはなれんさ。
 ただ君の事が心配だっただけで、なにかあればと思っただけなんだ」

 照れ隠しのように、こそこそと荷物を片付けてしまうと、さて、後は立ち去るだけになってしまうが。
 名残惜しく感じてしまうのは、仕方ないだろう。
 彼女と過ごす時間は、どこか不思議な心地よさがあるのだ。

「でも、そうだな。
 今度は少しくらい、かっこいいところを見せたいもんだ。
 だから、じゃないが、ええと――」

 なんと言えばいいのだろうか。
 次の約束をしようとするのは、軽率じゃないだろうか。
 また会いたいという気持ちは本心だが、そう簡単に女性を誘うのも不躾じゃないだろうか。
 去り際の文句も思い浮かばず、言葉に詰まってしまった。

シャンティ > 「ふふ、ごめん、なさ、ぃ?楽しく、t,うれし、くて、ね?」

ようやく、笑いが落ち着いて女は優しく応える。なだめるように、優しく。

「ん……」

女もささやかな荷物を片し、バケツを持つ。中には釣果のクラゲが悠然と、しかし、どこか狭そうに漂う。


「なぁ、に?どう、した、のぉ……?いい、たい……こと、ある、の、なら……いって、いい、わ、よぉ……? ふふ。そん、な……いうの……迷う、こと……か、しら……? それ、でも……言う、なら……言った、方が……かっこ、いい……かも、しれ、ない、わ、よぉ?」


最後は、ややいたずらっぽく……くすり、と笑って促す。
このまま去ってしまってもいいだろうが、しかし。詰まってしまった言葉の先を確かめもせずに行くのは、信条に反する。でき得るなら、聞いてみたい。そう、女は思った。

杉本久遠 >  
「――そう、だな」

 迷ってうじうじしている方が確かに格好悪いだろう。
 それなら、思い切って思うままに言葉にした方が、いくらかいいかもしれない。
 促されると、一度小さく咳払いして、仕切り直そう。

「また会いたい。
 もっと、君が楽しそうにしているのを見ていたい。
 だから、うむ、また会おうな!」

 言葉にしてしまえばなんてことはない。
 自然と浮かんだ笑顔のまま、右手を差し出した。

シャンティ > 「あ、ら。そんな、こ、とぉ……?いい、わ、よぉ……ふふ。」

縁が切れるのであれば別であるが。縁があるうちはつないでいく。
些細なことであろうと、小さな縁であろうと。そこで出来上がるのも、一つのささやかな劇。


「ま、た……会、い……ま、しょう……?ふふ。」

差し出された右手に、右手を差し出す。お互いに手を握って……くすり、と笑う。


「で、も……ふふ。コン、なもの……渡し、て……ただ、会う、約束、だ、なん、て……あは。いや、でも……会う、かも……なの、にぃ?で、も……それ、が……らしい、の……かも、しれ、ない、わ、ねぇ?」


くすくすと、キーホルダーを掲げて薄く笑った。

杉本久遠 >  
「やめてくれ、それを使う機会がないのが一番なんだ。
 君が元気でいてくれないと、なんだ、困る」

 しっかりと、小さな手を握りながら、まさに困っていますという顔になる。
 見えていなくても、きっと手に取る様に伝わってしまうだろう。

「それじゃあ、また元気で会おうな。
 オレは念のため、タクシーでも呼んで帰るよ。
 君も、体には気を付けて、風邪を引いたりしないようにな」

 そんなお節介を付け加えて、握った手を放すと手を振って立ち去っていくだろう。
 次も彼女の笑顔が見れると良い、そう思いながら。

シャンティ > 「あら、あら……それ、は、そう、ねえ……ふふ」

くすくすと笑う。全く道理だ。できれば、使う機会がないほうが、彼には。彼らの世界には、よいのだろう。


「気を、つけて、おく、わぁ……じゃあ、ね。また、会い、ま、しょう?久遠、くん」

いよいよお別れ。また後日。

女は、去っていく男の背中に、小さく手をふった。

ご案内:「浜辺の片隅」から杉本久遠さんが去りました。
ご案内:「浜辺の片隅」からシャンティさんが去りました。