2022/03/13 のログ
ご案内:「病院の中庭」に皋嶺 冰さんが現れました。
ご案内:「病院の中庭」にさんが現れました。
皋嶺 冰 > ――――暖かい陽気が、春風と共に中庭を吹き抜ける。
色鮮やかに咲いた花壇の花々、風は木々から、葉の芳香を浚って広げる。

穏やかな場所、その中庭の一角に、少女はいた。


「……」

傍らに置いた歩行補助用の杖、ベンチに腰掛けて、虚ろに、何かを見るまでもなく。
淀んだ眼が揺れているだけ。薄く開いた唇。
思考をしている様子もない。本当にただ、そこに座っているだけ。

――患者服の隙間から見える範囲、その頬等には治療の痕があって。
眼の下の隈が、輝かない瞳が、ぼさぼさになった冰色の髪が。
身体の傷よりも、心の傷が深いことを映す。

……失われた何かが、与えられた傷が、とても、ただ、深かった。

> 「あーした、ふるほし、はー♪」

歌いながら歩く幼女、今日は異能に伴う身体の検査日で、病院に来ていたのだが、見た目にも痛々しい少女を見つけ。

「おねーさん、どうかした?」

じ、と視線を向けて

皋嶺 冰 > 「……」

耳を、声が擽った。声の主が自分に意識を向けてきている。
そこで初めて、少女が少女らしく、人間らしく反応する。

ゆらりと、揺れの動作の一環のように振り返って、目の前の――自分より、ずっと幼い少女の姿を見遣って、

「…………ぁ」

――第一声は、酷くしゃがれた声で、それから。
……眼を細めながら微笑んで、首を少し傾いだ。

「……ん。ごめんね、少し……眠くて、ぼんやり、していたんだ。
……こんにちは」

ぎこちない笑顔と、枯れた声の、それらがせめて繕おうとする優しい姿。
張子のような、歳下の相手への、せめてもの笑顔。

> 「んー、えと」

昔の私みたいな、目だ、何か大事なものを失った声だ、わたしには分からないけど、幼女なりに、放っておけなかった

「おとなり、大丈夫?おねーさん?」

出来るだけ明るく、丁度に眼を合わせて、にこーって微笑んで

皋嶺 冰 > 「……ん、うん。いいよ、……ああ、少し待って」

――傍らの杖を退けておく。歩くのが困難な患者に貸し出されるそれだ。
……足を怪我しているようには見えないが、地面に足を付けないように庇う仕草もある。

場所を空けてから、傍らをぽんぽんと叩いた。
努めて微笑み、優しく、暖かさを繕う。

「……今日は、とても天気がいい。きっと、良い昼寝日和だろうから、さっきまで眠ろうかと、思っていたんだ。
あまり、眠れないから」

> 「お邪魔します、何か、ケガでもしたの?」

じぃ、と、無垢な瞳が労わるように杖を見て

「いたい?歩けない?」

それとも

「怖いこと、夢に見る?」

自分もそうであったから

皋嶺 冰 > 「――――。」

ふ、と、瞳が暗くなって。
……その瞬間だけは、化けの皮がはがれてしまったらしい。その奥にある、苦痛、苦悶を思い出したような、"紅い淀み"があった。

「……歩くと、痛むんだ。足を、怪我したわけでは、無いんだ。
……それに、そうだな……うん。夢は、怖いもの、ばかりで」

――陽射しに溶け消えそうな色をしている髪を、ひと房。
自分の手で掴んで、指を強く通しながら揺らす。
春からは最も遠い出で立ちが、陽気な、花色の空間の中に不気味に浮いているようで。

「とっても……怖い夢だよ。だから、あんまり、眠れないんだ。
……でも大丈夫だよ、凄く、凄く眠くなれば、そういうのも見ずに、眠れる、はずだから。きっとそのうち、善くなるから」

だから大丈夫。と、微笑んだ。微笑みというには、悲壮なものだが。

> 「私も、怖いこと、あったから、わかるよ」

遠い、幼女のような彼女がしてはいけない、後悔と、澱みと、罪悪感を込めた目で

「だいじょーぶ?」脚に触れれば、優しく安心させる、青い、空のような光が見えて

「うん、大丈夫じゃない、よ、絶対、大丈夫じゃない」

じ、と、心配そうに、顔を覗き込んで

「わたしじゃ、わからないかも、だけど、おねーさんが大変だって言うのはわかるから、えと」
辿々しく、会話しようと

皋嶺 冰 > 「    」

どうして。と、見開かれてから歪んだ。だってそうだ、自分の目の前にいる小さな女の子が――どうして、そんな目を知っているんだって思ってしまったから。
剥がれ落ちた張り子の笑顔も優しさも、込められたものが粉々に砕いた。

優しく凪いでいた風が止む。音が消え去ったのは、ほんのわずかな一瞬。

同じ目線で、同じ暗さで、同じぐらいの苦しみを知る等身大の感情が聳え立った。

「……っ、っ……」

触れられた足は震えている。痛む、じゃない。ずっと痛んでいる。
足より、少し上。腹部から、大腿部までが、痛みの根幹にあるらしい。そこより上が、強く強く力んだままで居る事は、あっさりと。


「……だいじょうぶ、って、言わないと、駄目だろう……?だって、私は、君より年上なんだ……っ」

触れる手に、返して触れようと手は伸びる。
歯噛みした、くしゃくしゃの顔が、髪の中で、春色の背景から隔離されて感情を吐露している。

「……君くらいの、小さな子がね……そういう、目をしているとき。
私は、私みたいな位の、人は……強がって、笑いかけてあげなきゃ、いけない。だってそうしないと……そう、しないと」

どれくらい歳が離れてるとしても、抱えた痛みが大きいなら、
その重みの差は、生きた長さがそれを受け止める梁になる。
少女の梁は、幼い女の子より、少なくとも丈夫でないといけない。
そういう、そういう強がりのようなものがあった。

「……今の私は……君に、この苦しさを、分けてしまう。それは、駄目なんだよ」

だから、微笑み続けてしまう。笑い続けてしまう。

> 「ん、でも、辛いことは分け合って、楽しい事も、分け合わないと」

にこーっと笑い。

「だいじょうぶ、だいじょうぶ」

優しく、頭に手を伸ばして、撫でるようにして。

優しく、手当てする、ように

皋嶺 冰 > 「……っ」


手が届く。触れられた。その頭は、少しひんやりしていて、色彩のままの印象。
だけど、その少し下で、瞳が熱を孕んで、目尻から雫が伝った。

「……っ、ごめん、ね。本当は、泣いちゃ、だめなんだ……っ」

「私は……だめ、な……」


……雪解けのように、溢れ出して、零れていく。

> 「ダメじゃないよ」

大丈夫、大丈夫だから

「ん」ぎう、と頭を抱いて