2022/03/25 のログ
ご案内:「Refrain C.B.」にレイチェルさんが現れました。
ご案内:「Refrain C.B.」に月夜見 真琴さんが現れました。
レイチェル >  
「ま……変わったよな。お互いに」

これまで関わってきた中で、
彼女がこの瞳に映した姿は様々だったが、
その根底にある姿の一つを忘れることはない。

そして、それは自身もそうである筈だった。
穏やかに流れる川に身を預けながら、
それでも握り締めているものは、変わらない。揺るがない。手放さない。

「……お前もよく知る誰かさんも、お前が口にしたのと似たようなこと言ってたけどな。
 結局、真面目すぎんだよ。

誰だって、みんなの幸せの為『だけ』には生きられない。

譲れないものがあって、それに従って生きる。
独善的? 結構じゃねぇか。
自分の柱を持たずにふらふらしているよりも、よっぽど良い。
だからこいつも一つ、立派な生き方だとオレは考えてるよ。

風紀委員としての月夜見 真琴は、
確かに立派な道を歩いていたよ。
そいつは、今日の今日まで見てたオレがちゃんと保証する。 

……不十分か?」

そう口にしながらも、笑う吸血鬼の視線に、揺らぎは砂粒一つほどもなかった。

「ま、お前がそういう道を選んで、そいつを正解にしていくっつーんなら……
 オレから言うことはねぇよ。お前の責任で作っていきゃ良いことだ」

無責任な淡々とした語りではなく、
ただ暖かな笑みを軽やかに投げかけるのみ。それは当然のことだ、と。

この道を選べば良かった、ああすれば良かった。
そんな風に『あり得たかもしれない』幻影に悩むくらいなら、
選んだ道を正解にしてやればいい。
その話は、ずっと前に受け売りとして
目の前の元同僚に伝えたことだ。
それも簡単な道では決してないが、
ずっと掲げてきた柱。これからもそうだろうし、
信じて顔を上げて歩ききってやるつもりだ。

そして――この考え方を想起する度、
必ず自問を投げかけていることが一つだけあった。

今度こそ手を握って貰えたことに安堵しつつ、
彼女の続くウミガメの問いかけには迷わず、そのことを問いかけた。


「お前がこれから作ろうとしてる道は――本当にお前の望む形か?」


あまりにも呆気ない、
あまりにも淡々としたここまでのやり取りに、大きな違和感を覚えていたからこそ。
ゆっくり、はっきりとした口調で。
それでいて、威圧感などない、穏やかな声色で。
そう、問いかけたのだった。
それは両者の関係性を踏まえての問いかけでもあり、
また最後にきちんと背中を押す者として、
道を過たぬよう、手を添える問いかけでもあった。

そこに心はあるのか、と。
近頃はよく、眼前の相手に支えて貰っていたからこそ。

月夜見 真琴 >  
「十分か不十分かはともかくとして――
 あなたにそうやって認めてもらえたのなら。
 餞別としては、これ以上ないものだよ」

先達からの掛け値なしの評価は、光栄の至りだ。珍しく、面映ゆくすらある。
風紀委員とは如何に在るべきかの一例として、そう在り続けた相手から賜るとは、
褒められた素行でなかった自分からは考えられないこと。
けれど、けれども、きっと――

「わたしは……」

褒められたくて、やっていたわけじゃないんだろう、と改めて思う。
かつてあんなに並びたかった相手に認められて、嬉しいのは確かだけれど。
その時にしかなかったもの。その時にしか起こり得なかった熱。
嘘を吐き通そうとして、桜の季節に出会った運命が呼び起こしたもの。
言葉は続かず、微笑みを作ったまま少しの間押し黙った。

舞い散る花弁はあの時と同じものじゃない。今年生まれたものだ。
昨日と同じ今日なんて存在しないからこそ。

「その問いは」

顔の前に人差し指を立てた。
よくやる癖だ。


「はい」


餞別をもらったからこそ、臆面もなくそう言えた。
真実だった。僅かに残った未練も、いま桜の根の下に埋めることができた。

「――が答え。

 子供の頃からの夢を叶えて、そのために進んでいく道。
 学生時代にやんちゃをしてつくりあげたもの、縁、それらを抱えて、糧にして。
 わたしにしては上出来なくらい、立派な道でしょう?」

先に行くよ、と。
いま、レイチェル・ラムレイが居る場所もまた、
いつまでもいられるわけではない――いてはいけない場所なのだと、
降り積もる時間に望まざるまま英雄にさせられた女性に対して、穏やかな笑顔を向けた。

「さて、あとひとつ。
 なんでも答えてあげるけど、だからこそ慎重にね。
 あのとき聞いておけば良かった、なんていうのは、結構もやもやするものだから」

レイチェル >  
「そんなら、良い」

先から向けていた視線を、ここに来て外す。
穏やかに細められた瞳は、
何よりも満足したように閉じられた。

「望む道に、後悔なく進めるっつーんなら、それで良い。
 オレからは何も言うこたぁねぇよ。
 風紀委員としての月夜見 真琴には、
 オレからはもう、何も言うこたねぇ」

笑顔を受け取り、頬を掻く。
こちらの身の振り方について、
心配してくれている所もあるのだろう。
だが、その気持ちを受け取る気は毛頭ない。

自分を必要としている者が居る限り、この場に立つ。
投げ出すことならきっと、
やろうとすれば何時だってできるのだろう。
けれど志半ばで投げ捨てるだなんて、以ての外だ。

まだ、ここに立ってやりたいことが残っている。
一歩一歩を着実に、歩いて進んでいきながら。

いつか、『やりたいこと』を語る時が来るのかもしれない。

「イエスかノーかで聞けることなんて、
 限られてるだろ。ったく、面倒な制限つけやがって。
 ……なんて言えば、
 お前はあれこれ理由をつけるんだろうけどな」

はあ、とため息をつく。
彼女らしいと言えばらしいところであるし、
今となってはこういうのも嫌いではない。
出会った当初は、クソくらえと思っていたものだが。
色々ぶつかり合って互いに丸くなったのかな、とも思う。
それでも、げんなりした顔は出るものだ。

「そうだな、それでも……もう一つ。
 あるとすれば――」

根掘り葉掘り聞き出そうとも思わない。
この場で聞くこと――問いかけることなんて、
たった一つ。
たった一つだけあればそれで良い。


「大人ぶってるお前に一つだけ言っとくけどな。
 いくら教師になるったって、
 お前はオレと同い年なんだから。
 だから――」

ふと空を見れば、
小さな桜色が大仰な風に吹かれて枝から
離れ落ちる瞬間が瞳に映った。

その花弁の向かう先は――

レイチェル >  
 
「――困ったら、いつでもいい。
 
 ちゃんと頼れよ?
 
 風紀委員である月夜見 真琴の先輩じゃなく、
 レイチェル・ラムレイって奴をな」

改めて真琴へと視線を向けて、
満面の笑みを寄越した。  
先輩じゃなくたって、添えられる手はある。
先達じゃなくたって、渡せる暖かさはある。 
それが、この場で彼女に贈れる最大の餞別だ。 
そうして、言の葉で背中を押した――。

月夜見 真琴 >  
「風紀委員として……」

視線が外れたので、桜を見上げた。

「不思議だね。
 あなたに、風紀委員として言って欲しかったこと、
 数え切れないくらいたくさんあった気がするのに。
 いつの間にか要らなくなってたんだ。
 やっぱり変わるもんだ。ううん、変えたのか」

伸ばした手には見えない鎖はもうなかった。
自分から外した枷は、鎖は、風紀委員会との薄弱な繋がりでもあって。
それがなくなったいま、通り過ぎていった昔。

「これが正解……いまここが……」

それは覚悟の形でもある。
選んだことに対しての責任だ。
世界に正解など存在しないのだからこそ、結局のところは納得の話。
手を降ろした。舞い降りた花弁を指先にとらえて。

「人となりが出るから」

戯けたように笑った。
なんでも答える。本当の事を言う。
条件をつけた時、どう動くか興味深い実験。
でもそれはこの時だけだ。

もう封じられた過去のことだって、問われればこたえるつもりだった。
でも、彼女がそれを選ばないなら、墓まで持っていくこととしよう。

「ん」

視線を向けて、彼女の問いかけを待つ。
伝えられた問いでない言葉に、すこし考えてから、
薄桃色の唇は笑みをつくった。

月夜見 真琴 >   
「――あなたが、わたしと対等な、頼れる大人になったら?」

肩を竦めて、そう笑った。

「これは大人の余裕、気遣いだと思って?
 だいじょうぶ、わかってるよ。
 言われなくても、むかしみたいなことにはならないし。
 ――ああ、たまにこうやって二人でいたり、
 ツーリングなんかも面白いかな、そういうので、いまは十分」

関係性は名状し難く、そもそも、カテゴライズも無粋な気がするので。
ただ彼女に、スタートラインから一歩を踏み出したばかりの彼女に、
込み入った相談――というのは、そう、"まだ早い"。
ミラーから覗くすぐ後方にかけられる言葉は、若干気取ったもの。

追いついてきて、と言うのだ。自分のペースで良いから。
飲み込んで、ひとりで悩んで迷うなんてことは、
結局は過去の繰り返しになるから、そこは戒めておく。

「こっちも。
 アミィ、あなたに"選ぶ時"がやってきた時は。
 頼ってくれて構わないからね」

"風紀委員会の亡霊"になるつもりはないのだろうと。
未だ、彼女を必要としてしまう、ぬかるみの地面を思えども。
古巣、過去、他人事――余計な口出しは、もうできない。

終わりだ。
けじめはつけた。
おせっかいたちのおかげで、もともとの想定より、
だいぶ良い卒業式になってくれるだろう。

「――帰り、どこか寄る?
 せっかく"単車(あし)"があるんだし、普段行かないお店とか、どう?」

道をさだめられた桜に背を向けて。

レイチェル >  
「ったく、いっちょ前に『大人です』って。
 格好つけやがって。
 お前も教師やるにはまだまだ頼りねーっつーの。
 当分は……オレにとっちゃ、『大切な友人』だ」

こちらもまた、その言葉に肩を竦める。
そうして新たなカンケイを告げる。
相手が己を大人と語るように、
こちらもこちらでしれっと告げてやる。

後輩だとか何だとか、そういうのは全部取り除いたって、
月夜見 真琴という人間が
大切な存在であることに、何の変わりもありはしない。


大人の定義だなんて当然、人それぞれ。
それでも、『こいつ自身が信じる大人の道』を行く。
そう言うのなら。

「ま、それでも……
 形《ことば》からってのも悪くねーか。
 あぁ、悪くねぇ」

呆れつつ、ちょっとした肯定を送る。
それ以上は言わず、
後はそいつを気持ちよく見送ってやるだけ。

新たな覚悟に水を差すつもりは毛頭なかった。

真琴が自分の歩める道を信じることが
できるようになったこと。
迷っていたあの日から、ここまで歩き出していること。
先輩としてでなく、大切な友人としてそれが、
一番嬉しいことだからだ。

ここまでの道で、
得られたものは互いに大きかった筈だ。
ここで再び桜の下に言葉を交わし、
そして互いに歩きだしていくだけ。
互いに足を止めることは、ない。

「構わねぇよ、寄っていくとするか」

再びの桜へと、背を向ける。
この春、再びの桜は。
夜風に吹かれて、二つ分の足音と共に
新たな音を奏でていく。

あの春とは違う桜。
あの春とは違うカンケイで。

あの日とは違う風。
あの日とは違う朗らかさで。

そうしてやって来た道を戻り。
愛馬のハンドルに手を添える。
その方向を、行く先へしっかりと向けて。

レイチェル >  
「じゃ、行くとするぜ。
 しっかり捕まってろよ――センセイ」

誂うようにそう呼んで、笑う。
これもまた、青春の一頁だ。
これからも、頼り頼られていくのだろうけれど。
少し形を変えた関係性で、それでも明日も続いていく。

それはただ単調に繰り返しているようで――
それでも少しずつ進んでいる、新たな日々。

常世学園に、新しい春がやって来る――。

ご案内:「Refrain C.B.」からレイチェルさんが去りました。
ご案内:「Refrain C.B.」から月夜見 真琴さんが去りました。