2022/06/07 のログ
ご案内:「医務室」に少年さんが現れました。
■少年 > 「――――」
ぼやけた光を感じる。
黒く何もない世界から、ぼぅ…っとそれが染め上げるかのように広がっていき、色彩がついていく。
―――、‐―――ィ
―――――ピッ
ピッ――――
小さな音が聞こえる。
それが心電図の音と気づくのは、広がる色が”景色”だと思考が気づき始めたころだった。
「………」
無機質な、馴染みの薄い天井。
蛍光灯の光、すこし湿った風。
それらを感覚と認識し始め、ようやく少年は、自分がこれまで『眠っていた』のだと気づく。
「……何処、だろう」
頭がぼやけている。
記憶が曖昧で、眠る前の事を思い出すのに時間がかかる。
僕は、一体、何故。
この場所で眠っていたのだろう。
■少年 > 周りを見ようと体を動かせば、節々に痛みが走って動きにくかった。
左手と繋がってる管は……栄養剤の点滴だとわかる。
ということは、ここはきっと病院。
それ以外の事で何かわかる事はないかと、首をゆっくり動かして自分の周囲を見る。
「………これ、は……ぼくの、てか」
ベッドから出ていた、細く白くなった手に気が付く。
目立った怪我は、跡の残ってるもの以外はない。
ただ、やつれたように細くなった腕は自分のものには思えないほどだった。
「……っ」
なんとか腕を動かして、体を起こそうとする。
それだけの動きで心臓がどくんと脈打ち、息が苦しくなる。
まるで長い間埃をかぶっていた機械を急に動かしたかのように、体が軋みを上げる。
「…、……っ、は……っ……」
一体どれだけ眠っていたのだろう。
眼球が光をとらえる度にちくちくとした痛みを感じる。
喉奥が乾いてるのか、息をするたびにかさついた表面が剥がれるような音がする。
少なくとも、とても永い間眠っていた事だけが確かだった。
■少年 > 「……」
覚えている記憶を呼び起こす。
あの頃はもう少し、寒かった。
風紀委員としての仕事を休み、”彼女”と共に心身の療養を過ごしていた時期の記憶。
そうだ……あの頃の僕は、色々なものに耐え切れなくなって。
少しの間、仕事から離れ静かに暮らしていた。
どれだけの時間だったか……
「…、……っ、はー……」
休養期間はそれほど、長くはなかった。
そのうち仕事にも出るようになって、また……風紀委員として剣を握って。
時には戦う事もあった。
とはいえ、前よりは穏やかに……前線からは少し離れていたけれど。
でも。
そのうち段々、体に不調が現れ始めた。
体が時折、思うように動かなくなって。
咳が酷くなって、敵対していた相手に下手を打つ事が増えていった。
自分の周りには……”黒い靄”が消えなくなっていった。
それが何なのか、自分は知っている。
産まれてからずっと、見えて、聞こえて、匂って、感じてきたもの。
自分や、限られた者にしか見えない気配。
人の、命の終わりを予言する合図。
”死の気配”と呼んでる、それ。
「……そ、っか。
命が……尽きてきてたのか」
■少年 > 覚えているのはそこまでで、何時頃ここに入院したのかは、はっきりと思い出せない。
仕事の途中か、それとも部屋でか。
どちらにせよどこかで気を失って、それきりしばらく……数週間か数か月。
目を覚まさなかったのだろう。
ぼんやりとそんな風に思いながら、代わり映えのない天井を眺め続ける。
「――――そうだ、椎苗さん」
彼女は心配していないか。
きっと、心配はしていない。
くるべき時が来たと、思ってるだけかもしれない。
でも僕は違うから。
彼女が心配で、会えない事が不安で仕方がなかった。
数週間、数か月……どれくらいか分からないけど。
それだけの時間を”失った”事実に、焦りから冷たい汗が溢れた。
――――いかないと。
重い体を無理やり起こして、ベッドから這い出た。
ご案内:「医務室」から少年さんが去りました。