2022/08/14 のログ
ご案内:「海の家・夕刻」にノーフェイスさんが現れました。
ノーフェイス >  
青みが薄れ、赤みが増し始めた空――それを映し出す水平線が望めた。
手作り感あふれる木組みの屋根の下に女はいた。

ずいぶんと静かに人もまばらで、さっきがたまでの喧騒が嘘のように。
じきに花火をやりに賑わいますよ――なんて、
部活動(アルバイト)に精を出している生徒にさっきがた教わったばかりだ。

からり、と澄んだ音が間近に響いて、夕焼けのような瞳が、現在に焦点を結ぶ。
頬杖のすぐ横に、ジョッキに満たされた黄金の氷河に視線を落とした。

「――いっけね~、寝ちゃってたや」

見た目通りに重たいそれを口に運んだ。
甘酸っぱい。喉は渇いていたが、よく磨かれた氷はあまり溶けていなかった。
気をやっていたのはほんの一瞬のようだった。
ひとくち、ふたくち、少し喉をお行儀悪く鳴らして――なくならない。

ノーフェイス >  
レモンベースのカクテル――ノンアルコールだ。
表向きの施設だから、行儀の良いものがでてきやすい。
何が入ってるかなんてのは詳しく調べてはいないが、
みずみずしい酸味と苦味も、覿面に眠気を払ってくれた。

美味しい。これで満足しよう。
奇妙な飢餓感を忘れようとして、こうして盛り場に顔を出してはみたのだが。

「みんな元気だよね。
 ……うかうかしてたら夏が終わっちゃう、って気づいたのかな?」

執念深い雨風が去り、ほどけた雲の隙間からは快晴があらわれた。
いまにして思えば、あれは、すこしだけ早い秋の気配だったのかもしれない。

それでも少しだけまどろむだけで汗がにじむほど、夏は重い。
さっきまで見えていた青の濃さたるや、まるで空にされた蓋のよう。
この重さが――心地よい。この島は。

ノーフェイス >  
「ボクも、残り少ない夏を楽しまないとなぁ~っ」

ぐっと伸びをして、一息。
クラッシュゼリーと氷が泳ぐカクテルは、まだまだ残っている。
これを飲み干したら、次はどこへいこう。

そんなことを考えていると、ふと手元に影が落ちた。
傍らに現れただれかに微笑みかけた。

「どこかで会ったかって?
 フフフ、どうだったかな」

ご案内:「海の家・夕刻」からノーフェイスさんが去りました。