2022/09/19 のログ
ご案内:「喫茶店【swallowtail】」に鞘師華奈さんが現れました。
ご案内:「喫茶店【swallowtail】」に黛 薫さんが現れました。
ご案内:「喫茶店【swallowtail】」に黛 薫さんが現れました。
鞘師華奈 > 本日は、先にも話した同じ寮の知人との喫茶店でダベる――ただ、それだけの約束の日だ。
何か深刻だったり真面目な話をするでもなく、本当にただの雑談…気楽に行きたいものだ、お互いに。

「……さて、付いたよ薫……あー、負担は平気かな?」

商店街、その外れに位置する場所にある古びた趣の喫茶店を前に足を止めて振り返る。
お互いの異能については、この前のロビーの一件で把握している。過度の心配はむしろ彼女に余計な気遣いをさせてしまうだろう。
それでも、矢張り気にはなる。何せ寮からここまで、距離は大した事は無いが商店街だ。
賑わいはまだ落ち着いている方だろうが、人の視線もそれなりにあるだろう。

「…で、取り敢えずここが私がチョイスしたお店。喫茶店【スワロウテイル】。
隠れた穴場、というか憩いの場の一つらしいよ。敷居もそんなに高くないしお奨めかな。」

と、小さく笑って告げながら先導するように店内へと足を踏み入れようと。
中は、喫茶店だから当たり前なのだろうが洋風のクラシカルな雰囲気だ。
カウンター席にはマスターとアルバイトの店員が2人程。
ウェイトレスらしき少女が笑顔で声を掛けてきたので、「2名で、それと仕切りがある席でお願いします。」

と、そんな注文を。少しでも『視線』を遮って知人に余計な負担を掛けない様に少しでも配慮したい。

黛 薫 >  
「気ぃ使ってくれてありがと。今はへーき」

入店から席選びまでスマートにエスコートされて
苦笑い。華奈のスタンスを鑑みるに、余計な気を
回し過ぎて萎縮しないようにと考えているらしく。
その上での『最低限の気遣い』がこれなのだから。

「今日に限っては、その穴場も案外賑わぅかもな」

人目から離れた席に腰を下ろしつつ、窓の外に
目をやる。降り頻る雨はしっとりとした店内の
雰囲気を高める落ち着いたBGM……というには
些か強すぎる勢いで窓を叩いている。

幸い商店街の一部区画にはアーケード式の天井が
設けられており、此処まで殆ど濡れることなく
来られたが、1時間もすれば雨風を凌ぐために
避難してくる客が増えそうな空模様。

鞘師華奈 > 「どういたしまして…と、いうかこのくらいはね。
私が提案して連れ出したんだし、責任はきちんと持たないと。」

一応だけど先輩でもあるしね?と、小さく肩を竦めてみせる。
が、別に先輩面なんて全然するつもりも無いのだけれども。
ともあれ、仕切りがある周囲の他の客や店員からの視線が届き難い一角を指定して案内される。
お互い、向かい合う形で腰を下ろしながら、目の前に出されたお冷に軽く頭を下げつつ。

「薫、これメニュー。私も下見で一度しか来てないから、お勧めとかは難しいけど…。」

主に軽食を中心に、一部カレーやら何故か丼モノなどそれなりにヘビーなメニューもある。
ドリンク系はジュース、お茶、コーヒー、炭酸飲料などバランス良く幾つか。
よくあるドリンクバー的なアレではなく、あくまで注文して持ってきて貰う昔のスタイルらしい。

メニューを眺めながらも、彼女の言葉に雨模様の外を眺めて。そう、今まさに台風直下だ。

「あーー大丈夫、客が増えてきた場合は私の『手品』である程度は視線の負担は何とかなると思うよ。」

と、一応人で賑わってきた場合の予備策はあるのだと告げつつ。
取り敢えず、女はクラブサンドイッチ、シーザーサラダ、コーヒーを軽くチョイスする。
彼女の注文が決まった後に店員をベルのようなブザーで呼んで注文をしておこうと。

黛 薫 >  
「ありがと。喫茶店……って割にはしっかりお腹に
 溜まるメニューあんのな。そりゃこんだけ品数が
 ありゃ、1回2回の下見でおススメ絞んのは難しそ。

 ま、客はこれから増ぇるだろーけぉ。
 華奈が良ぃ席取ってくれたから、あんまり
 気にせずに済むと思ぅ」

受け取ったメニュー開き、まずは全ページを順に
流し読み。どのページにどのメニューがあるかを
大まかに把握してからドリンクメニューに目を通す。

「あーし、コーヒーは全然詳しくねーからさ。
 こーやってメニューの横にどーゆーやつか
 書いてあんの、しょーじき助かる。華奈は
 詳しぃの? こーゆーの」

カフェオレとカフェモカって別物なんだ、と
呟いているあたり、話題のフックとかではなく
本当に分からない様子。色々悩んではいるが、
紅茶の頁はスルーしてコーヒーばかり見ている。

しばし悩んだ末に彼女がチョイスしたのは
アイスカフェオレとミックスフライ。

迷っていたメニューの傾向を見るに、複数の味を
少量ずつ楽しめるメニューがお好みらしい。

鞘師華奈 > 「…うん、薫がどの程度食べるか私は知らないから、少食でも大食でも対応出来そうな所が望ましかったし。
まぁ、喫茶店で割とボリュームあるメニューをこれだけ揃えてるのは島でも珍しい方かもしれないね。」

小さく笑いつつ。席に関しては、流石に完全に人様の無数の視線をシャットアウトには当然至らない。
それでも、仕切りと比較的奥まった一角のお陰でそれなりにマシではあると思う。
今は人がそもそも少ないから問題ないが、この風と雨模様の中、ぼちぼち客も増えてきそうだ。

「…私もコーヒーは普段は缶コーヒーくらいかな…部屋にコーヒーミルとかあるから、偶に豆から挽いて作るけど。
まぁ、手間が掛かるから滅多にというか休日に偶にくらいかなぁ。
詳しい、とは言えないけど紅茶よりコーヒー派だから、有名な銘柄とか味の特徴とかは大まかに分かるよ。」

あくまで初心者に毛が生えたレベルでしかないのだけども。
料理が特技であり数少ない趣味の一つなので、その延長でコーヒー等もある程度知識は出来た。

「…カフェラテとかカフェモカが『エスプレッソ抽出』、カフェオレは『ドリップ抽出』だったかな。工程に違いがあるというか。
あと、カフェオレは牛乳、モカは牛乳に加えてチョコレートシロップを使うのが違いかな。」

と、説明を簡潔にしながらそれぞれのチョイスが決まった所で店員さんを呼んで注文を。

「…と、いうか薫ももしかしてコーヒー派かな?そうだと同志が出来たみたいでちょっと嬉しいけど。」

身近にコーヒー談義、という程でもないけどそういう話をする相手が殆ど居ないので、ちょっと嬉しい。

黛 薫 >  
「確かにこんだけメニュー豊富なら人を誘ぅにゃ
 良さそーなお店よな。あれもこれも美味しそー
 って目移りしちまぅもん」

注文した後も暇潰しにメニューを眺めている。

各メニューに短く説明文が添えられているのも
あって、喫茶店のメニューは案外読み物として
面白いものだ。

「あー、んー……どーなんだろ、どっちかってーと
 コーヒーよりカフェイン目当てみたぃなトコある。
 んでもエナドリの常飲は良くねーって聞くから。

 あでもこーゆーお店では紅茶よりコーヒーかも。
 紅茶を淹れんのが上手ぃ知り合ぃが居っからさ、
 そっちのがイィやってなっちまぅの」

半分ほど読み終えたメニューから顔を上げて、
貴女の方へと視線を移す。

「だからコーヒーにせよ紅茶にせよ、詳しぃ人、
 拘る人ってすげーよなって思ぅ。あーし全然
 そーゆーの分かんねーもん。エスプレッソと
 ドリップも名前聞ぃたコトあるかもって程度。

 こーゆー、喫茶店? とかやってる人ってやっぱ
 好きで詳しくなってやってんのかな。料理とかも
 その延長線の上にあったりすんのかな?」

ご案内:「喫茶店【swallowtail】」に黛 薫さんが現れました。
鞘師華奈 > 「…私は『バイト』が割りと不規則時間帯だから、頻繁には利用しないけど偶にこういう落ち着いでいてメニューが豊富な店に来たくなるんだよね…。」

ちょっとしみじみとした様子で語る女。ちなみに流石に今回は私服姿である。
ただ、薫にも以前に語った気もするがこの女は女物の服は一部を除いてまず着ない。
なので、本日の私服もパンツルックで見事に男っぽい服装ではある。

「…カフェインはどのみち摂り過ぎは逆効果なんだけどね…あまり人の事は言えないけど。
エナジードリンクはあれ、”寿命の前借り”とか言われるからねぇ一部だと。」

一時的に目が冴えて活力は出るが、その分寿命を縮めるというか。
適量でも積み重なるとやばいのに、常飲していると将来的にやばそうではある。

「紅茶を淹れるのが上手い…か。それはいいね。私も偶には誰かの淹れた紅茶を飲んでみたいな。
…私は拘りは無いんだけどね。どちらかというと、拘りというかハマったのは料理方面かな。」

「コーヒーはそっから派生した延長的な感じ」と、肩を竦めながら告げる。
ちなみに、エスプレッソは”短時間で豆に高い圧力をかけて、少量のお湯で抽出”する方法。
ドリップは”布やフィルターを使ってお湯をくぐらせる事で抽出”する方法だと簡潔に補足もしておこう。

「…で、こういう喫茶店だと多いのがサイフォン式ってやつだね。
蒸気圧を利用してコーヒーの成分を抽出するやり方で、作り手の技能があまり必要じゃない。
その分、誰が淹れても割りと安定した味が出せるっていうのが強みかな。」

何か薀蓄を語っている自分がふと恥ずかしくなったらしく、徐に視線を逸らす。ちょっと恥ずかしい。
だが、気を取り直すように一息零しつつ、店員が二人の注文した物を持ってくるのが視界の端に見えつつ。

「どうだろう?私なんかは料理が数少ない趣味というか楽しみの一つだけど、こういう店を持ちたいとは思わないし。
まぁ、それでも10年くらい自炊とかしているから、それなりに腕前は上がったしレパートリーも増えたかなぁ。」

薫も料理とかするタイプ?と、本当に今回の目的はお互いを知る事、親睦を深める事が最大目標なので他愛も無い話をまた振ってみる。

黛 薫 >  
「あー……バイト、バイトなー……。あーしは幸い、
 そんなに忙しくねーバイトにありつけたってか、
 異能と素行の問題で大丈夫な仕事だけ斡旋して
 もらったってか……でも、仕事を選べなかった
 経験はあっから、ちょっと理解は出来るかも」

不規則な時間の労働は思っているより身体にくる。
のんびり休める時間を得て初めて気付くタイプの
疲れに癒しの時間がどれほど沁みることか。

対面に座る黛薫もショートパンツスタイルだが、
黒タイツと動物モチーフのパーカーを含めると
華奈よりは幾分女の子っぽいファッションか。

「そそ、だからエナドリよりはマシだろって形で
 コーヒーに手ぇ出すコトも多ぃなってカンジ。

 あー、コーヒーに合わせるために料理まで考ぇる
 って風じゃなくて、料理やってる延長でコーヒー
 淹れ始めるってパターンもあんのか。自炊10年て、
 料理してねー期間よりしてる期間のが長ぃじゃん」

コーヒーの淹れ方について語る最中、口を噤んだ
華奈の様子には「雑談のつもりで来たんだから」と
軽く笑いつつ、気にしていないことを告げておく。

どうあれ、直後に注文の品が運ばれてきたため、
一度話題は途切れてしまったのだが。きちんと
店員に頭を下げて受け取る仕草は神経質ながら
律儀さと真面目さが伺える。

「あーしは料理全然。小学校の……あ、この島に
 引っ越してくる前の話な。家庭科で習ったのが
 限界ってレベル。レシピがあれば何とか?」

鞘師華奈 > 「まぁ、給料はそこそこだしいい加減に体も慣れて来たから、働き始めた当初よりは肉体疲労的にはマシになったかな。
落第街に居た頃は仕事どころか、普通に違反部活に所属して暴れてたからなぁ…。」

若気の至り(まだ18歳だが)だった頃の事を思い出してちょっと遠い目になりつつ。
少なくとも、薫も少し共感してくれているようなのでそこは理解が通じたと素直に有り難い。

ちらり、と彼女の格好を眺めるが…まぁ、何というか私よりは普通に女の子してるなぁ、という率直な印象。
そもそも、パーカーやショートパンツはまだギリギリ分かるが、黒タイツとか履く自分が想像出来ない。

「うん、私は異邦人街の生まれ育ちなんだけど、8歳頃から2年間、母親に基礎を叩き込まれてね。
その後、”色々”あって落第街に流れ着いたけど、何だかんだ自炊は5年続けたし。
で、こっち側に来て正規学生になってから3年間料理だけはしていたから、計10年。」

薫の指摘した通り、女の生きてきた年月の半数を超えるくらい料理暦がある。
とはいえ、それを誇るでもなく淡々と語るのはこの女らしいかもしれない。

「そうだね、…いや、普段こういう話をする相手が殆ど居ないというか…まぁ、うん。」

何せ、職場の同僚、仲間や大事な人、などは居ても普通に友達は殆ど居ない女である。
なので、こういう薀蓄の垂れ流しみたいな真似は慣れていないし迂闊だった。
まぁ、彼女の言葉と態度に救われたのだけど…少し気分を落ち着けようとした所で。

「…っと、どうも。」

タイミング良く?悪く?互いの注文した料理が運ばれて来た。
女は軽く頭を下げつつ、「いただきます」と律儀に呟いて軽く手を合わせてからサンドイッチを一つ摘んで。
勿論、薫の仕草を仕事柄ついつい観察してしまっていたので、彼女の律儀さや生真面目さ、そして神経質な所を何となく感じ取っており。

「ふーん、レシピか……レシピ…あぁ、じゃあ私が幾つか提供しようか?
なるべく簡単で手間が掛かり難いやつ…『時短料理』みたいな奴とか。」

と、そんな提案をサンドイッチを頬張る前に口にしてみる。
とはいえ、そこは彼女の返答次第だ。余計なお節介かもしれないのは重々承知。

黛 薫 >  
「暴れ……想像出来るよーな、出来なぃよーな……
 あーしも落第街上がりだけぉ、暴れられるほど
 実力無かったかんな……」

落第街で5年、正規学生になってから3年。
料理歴より気になったのはその年月だった。

黛薫が落第街に身を落としていたのは2〜3年ほど。
華奈が落第街を抜ける直前と自分が落第街に逃げた
直後の期間がギリギリ被るかどうかくらいか。

出奔直後は文字通り虫ケラ同然の雑魚だったから、
実質的に自分の噂が彼女の耳に届くような期間は
無かったものと考えて良い。

その事実に、少しだけ安堵する。

弱い癖にしぶとく生き延びていたのが災いして、
黛薫の受けた仕打ちは写真や映像に残されている。
時期が被っていたら見られる機会があったのかも。

まあ、そんな話は友人との雑談中、まして食事中に
触れる内容でもないので、自身も華奈に倣って手を
合わせて、ミックスフライに手を付けた。

オニオンリングフライ、イカリング、太さの違う
ポテトフライ2種、ミニサイズのフライドチキン、
スティック型の白身魚フライにディップソースが
添えられたバスケットは想像より食べ応えがある。

「あ、レシピ教ぇてもらぇんのは助かるかも。
 つってもあーし自身はあんまり作んなくて、
 同じ部屋に住んでる相手の役に立つかもって
 カンジになんのかな」

指に付いた油気を拭きながら相槌を打っている。
……おしぼりではなく、ぽよぽよした水球らしき
謎の物体で。

鞘師華奈 > 「…今はもうとっくに壊滅してるけどね。中堅レベルの少数精鋭の武闘派組織で一応幹部?待遇。
まぁ、落第街を当事10歳の小娘が生き残るには、そういう過激な所から生き残る術を教わるのが手っ取り早かったし。」

殺しの技、情報収集の技術、薬物、機械の扱い、更に魔術も基礎だけ教わったり。
そういう諸々を習得し、そして未来も見えない闘争に明け暮れ最後には■■だ、そんな5年間。

そして、幸か不幸か入れ違いじみた時期の重なりの少なさと、何より――女は当事は公安所属ではなかった。
だから、彼女についてのあれこれは耳には入らなかった、というのが大きい。
仮に、それを知ったとしても女は下手な同情はしないし、そして避けもしない。
多分、今こうして食事の合間に雑談をしている時と態度は変わらないだろう。
今後、それを垣間見る事になるかどうかはそれこそ不確定の未来だ。

「…あぁ、相部屋というか同居人が居るのか。まぁ、どのみち薫の食生活が豊かになるなら良いかな。
じゃあ、後でメールの方に幾つか送っておくよ。お奨めの料理サイトとかも添えとく。」

と、微笑みながら口にしつつ、サンドイッチを頬張る。食べている間は喋らない辺り、食事マナーはきちんとしている。
ふと、視線が彼女が指についた油脂を拭った物を一瞥する。
おしぼりではなく、ぽよぽよと緩やかに動く水球だ。
僅かにぱちぱちと瞬きをしつつ、口の中のサンドイッチをきちんと咀嚼して飲み込んでから。

「…薫、気になってたんだけどソレは?スライム型の使い魔的な?」

と、ぽよぽよしている水球を軽く指差して。指差すのは失礼だろうか?と、思いつつ。

黛 薫 >  
「うへぇ、あーしとはエラぃ違ぃだな。
 あーし、ケンカも何もからっきしだったし、
 異能も戦闘向けじゃなかったかんな……。

 万年使ぃ走りの捨て駒だったけぉ、何だかんだ
 生き延びてんのよな……運だけは良かったかも」

落第街は弱者に厳しい。弱ければ喰われるのみ。
黛薫は地道に『情報』と『信用』を積み重ねて、
致命に至らない被害は許容して生き延びてきた。

強くはなかったが、強かではあった。
きっと本人がそれを自覚することはないけれど。

苦い過去に想いを馳せていたが、華奈の問い掛けで
思考が現実に引き戻される。此方は此方で、返事を
するのはきちんと口の中にある物を飲み込んでから。

「んむ、そそ。コレ、あーしの使ぃ魔。
 自我はねーからほぼ道具みたぃなもんだけぉ、
 性能は折り紙付き。結構万能なのよな。
 あーしの持ってる技術、全部注ぎ込んでっから」

言及された水まんじゅう……もとい黛薫の使い魔は
テーブルの上でうねり立ち上がってお辞儀をした。
触れられた通り自我はないので単なる人形遊びに
過ぎない仕草だが、操作性及び一定の精密性を
示すには十分。

鞘師華奈 > 「…まぁ、そんな私達がこうやって今は表側のこちらで顔を突き合わせてランチタイムしてるんだ。
…人生っていうのはどう転がるか分かったものじゃないよね…本当に。
あと―――どんなに地獄の環境だろうと。”生きてる”だけマシだよ。」

死ぬより辛い事も沢山ある、地獄が生温く感じるような責め苦だってある。
それでも、少なくとも目の前の少女は自分のように”死んだ”訳ではおそらく無いだろうから。
どんな形にしろ、腕っ節が強くなかろうと何だろうと彼女は生き延びてきたからこそ、今ここに居るのだ。

「技術――この場合、一部機械工学と…後は魔術方面に精通してるのかな?薫は。私は学園の基本的なカリキュラム以外は独学だから羨ましいな。
そういう使い魔を作り出す技術はサッパリ専門外だけど興味はあるね。」

まじまじと、水饅頭――もとい使い魔のスライムを眺めており。
器用に形を変えてお辞儀の仕草をする様子に、楽しげに小さく微笑んだ。
自我は無いらしいので、おそらく薫が操作したのだろう。大した精密操作である。

黛 薫 >  
「……そーな。そーかな。そーかも?」

生きているだけマシ。それは生きているからこそ
思うことかもしれないし、逆に明確に死を意識した
経験があればこそ深く感じ入るものかもしれない。

曖昧な黛薫の返答は何を経験したが故か。

深くは語らない。また、何を以て華奈が死より
生を優と成すかを問いもしない。雨音混じりの
当たり前に得難い雑談にはその程度で丁度良い。

「ん、そこまで分かったか。魔術方面だけとか
 機械方面だけなら気付く人も多ぃんだけぉ。
 華奈は広く浅く色んな基礎を齧ってたりする?」

経歴を考えれば驚くことではない。
違反部活動、特に非合法の物品を扱う組織では
取り扱う品について全くの門外漢であることなど
許されない。広く浅く、最低限基礎の知識だけは
身に付けざるを得ないということもあろう。

「ま、あーしも専門は魔術方面で、でも素質素養に
 乏しぃから、補ぅために機械方面の技術も模索中
 って感じ。コイツはかなり特殊な例だから参考に
 しにくぃけぉ、学園の講義の中には従魔や使役に
 関するヤツもあるし、興味あるならピックアップ
 するくらぃは出来るよ」

ふと何か思い付いたらしく顔を上げる。

「そーいぇばさ、使ぃ魔に限った話じゃなくて
 ペットとかでもそーだけぉ。契約するなり
 飼ぅなりするときって名前付けるワケじゃん。

 例えば華奈がコイツに名前付けるとしたら、
 どーゆーのが思い浮かぶ?」

テーブルの上で水まんじゅうが折れ曲がる。
首を傾げる仕草のつもりだろうか。

鞘師華奈 > 「――まぁ、あくまで私が経験した事からそう思うだけだよ。
あくまで個人的な見解であって、薫は勿論誰かに押し付けるつもりもサラサラ無いし、ね。」

そう、フォローというか補足をきちんと述べる。薫の曖昧な返答から彼女も何かしら感じる事はあるだろうと察した故に。

死より辛い生は五万とあり、それでも本当に死んだらそこまでなのだから。
死ぬ為に生きるなんて人生は流石に御免だ。ご大層なお題目や理想や夢だって極論入らない。
ただ、生きたいという純粋な欲求でもそれは十分に生きるに足る理由だろう。
なんて、思い乍もそれを口にはしないし、きっとそれを語ることなんて無いだろうな、と。

「機械工学は選択科目で受講しているし、後は錬金術とか基礎魔術理論、応用魔術理論かな。
他にも、私は『特化型』の魔術適性だから、それに合わせた基礎から応用の理論を幾つかって所。」

なので、厳密には少し違うかもしれないが、大まかには彼女の言うとおり広く浅く、だ。
ただし、女の場合は魔術適性が偏っている特化型タイプの為、知識としては兎も角、実技も込みとなると選択肢が限られる。

「…私かい?私は許可貰って、部屋で猫を1匹飼ってるけど…ネーミングセンスはあまり無いよ?
…取り敢えず、参考までに薫の意見とかあれば。カッコいい系とか可愛い系とか。
何か指針があればそれに従って考えては見るけど…。」

と、スライムを一瞥しつつうーん、と考えながらもサンドイッチの残りを考える合間に食べる。

(…見た目のイメージから『水』や『海』を連想する名前がいいかとは思うけど…さて)

正直、連想ゲームじみた名付けや、あるいは神話や伝承から神様とかの名前を持ち出してくるくらいしか思いつかない。

黛 薫 >  
「そーやって付け足す辺り、華奈って誠実よな」

苦笑しながらフライドチキンの上でレモンを絞る。

ポテトやスティック型のフィッシュフライは手で
食べることに抵抗を覚えないのに、チキンだけは
フォークがないと落ち着かない。この境はどこに
あるのか、などとどうでも良いことを考えたり。

「特化……ってコトは属性か系統が絞られてる?
 前者なら炎とか氷とか、後者なら精霊魔術とか
 東洋法術とか? あーしも特化ってほどじゃ
 ねーけぉ、属性に当てはめるなら『水』寄りで、
 だからこーゆーのが相性良ぃのよな」

専門分野に近しい話になったからか、ちょっとだけ
早口になった気がする。水属性だけに水を得た魚か、
それとも立板に水と言うべきか。

「猫? へー、ちょっと意外。華奈ってずっと
 忙しそーにしてたイメージ強かったからさ、
 手のかかるペットとかいなぃのかもって……
 いぁ、むしろ忙しぃ方が癒し欲しくなって
 ペットに助けられたりすんのかな」

テーブル上の水まんじゅうに視線を落とす。
ペット……とは大分違うか。だって自我無いし。

「カッコイィ系、カワイィ系かぁ。猫だったら
 カワイィ名前のが合ぅのかな。コイツだと……
 どーなんだろ、だって水だもんなぁ……」

例えば猫と並んでペット人気が違い犬であれば、
チワワなどの小型犬は可愛い名前、猟犬由来の
犬種や大型犬であれば格好良い名前など、似合う
似合わないがあるだろう。

ではスライムだとどうだろう。見た目は完全に水。
強いて言うならぷにぷに出来る分可愛い寄りか?

鞘師華奈 > 「誠実というか――自分の意見を押し付けるのが嫌なだけさ。
あくまで、私の意見であって、薫には当然薫なりの考え方があるんだし。
まぁ、そういう考え方があるんだ、って感じで聞き流してくれればいいかなって。」

と、肩を竦めて口にするが、律儀に答える辺りは誠実?さが隠せていない。
女はどうやら意識していないようなので、完全に無意識の性分なのだろう。

こちらは、サンドイッチを平らげて今はシーザーサラダをフォークで突いて口に運んでいる。

「ん…あぁ、系統は一言で言えば『補助系』かな。代わりに攻撃や防御、回復系統の適性が著しく低い。
つまりは…有利な状況を作り出したり、絡め手に近い魔術系統への適性が異常らしい。
属性に関しては、『火』と『闇』の二重属性寄りだったかな。
系統が絞られてるから、正直言うと折角の二重属性も実はあまり役立ってない感じ。
私は独学で幾つか魔術覚えてるけど、それを属性にするなら殆ど闇属性かな。」

自信の手の内のカードを晒すような情報だが、常日頃から彼女なりに魔術系統を色々合間に勉強しているので問題ない。

「あ、あと精霊魔術も初級レベルとその応用くらいなら。」

等と答えつつ、スライムの動きを眺めながら薫の言葉を聞いており。うーん、とやっぱり唸りつつ。

「いや、まぁ知り合いが当事仔猫数匹の里親を募集していてね。
偶々知り合って事情を知ったから、まぁ1匹は私が引き取ろうかなって。
ちなみに、キジトラ猫の雄で名前は「ティガ」。虎模様から連想して名付けた。」

と、言いつつスマホを取り出して待ち受けの画像を薫に見せておこう。
生後1年ちょいくらいのキジトラ猫が椅子の上で丸くなってすやぁ、している画像だ。

「…で、そのスライムの名前に話を戻すけど…単純だけど分かり易い名前だと、そうだな。
…クラゲみたいなイメージもあるし、ジェリーフィッシュから取って「ジェリー」とか?ちょっとゼリーっぽいけど。」

シンプルな連想ゲーム的な名付けだとそういう感じになっていくが。

黛 薫 >  
「補助……なるほど?」

思案する。魔術とは『現象』である。
例えば『雷という現象』が人に命中すれば死に至る。
従って落雷を起こす魔術は『攻撃』に分類されるが、
自然現象の雷は攻撃の意思の下に生ずる物ではない。

では『攻撃』に分類される落雷によって生ずる
光と音で行う目眩しは『補助』と呼べるのか。

味方を守る盾とて鉄の塊、それで殴りつけることも
出来るのに『防御』の道具と成すのは何に因るか。

『補助』への特化、攻撃や防御、回復としては
扱えない方向性は何に起因し、境界は何処に?

魔術師の端くれとしては如何にも興味を唆られる
テーマだが、一度口にしたが最後『雑談』からは
遠く離れることが目に見えていたので自重する。

「火と闇の補助特化……ウィル・オ・ウィスプや
 鬼火、狐火辺りを使ぃ魔にしたら面白そーだな。
 意外と調理のための火も『補助』に含まれたり?
 もしそーだったら便利かもな」

ひとまず前の話と繋げて余計な脱線をしないよう
楔としておくことに。

「ティガ? あ、なるほど……カタカナで読むと
 どーしてもタイガーってイメージだったから。
 でもそっちのが確かに名前って感じする」

待ち受け画面でぐっすり眠る猫の姿に頷く。

なるほど、これが部屋で待っているとなれば
仕事人間でもきちんと帰ろうと思えるな、と
変な深読みをしている。

「ジェリー……なーる、由来がゼリーと一緒でも
 表記変えるだけでそれっぽくなんのな。
 タイガーがティガになんのとおんなじ、と」

「よし、じゃあコイツは今日からジェリーだ」

即決。決断が早いのは良いのか悪いのか。

鞘師華奈 > 「例えば――まぁ、こういうの。」

見せた方が早い、とばかりに軽く右手を振るジェスチャー。
女の魔術は詠唱を無くした無詠唱(ノーキャスト)。
代わりに、身振り手振りなどのジェスチャーを発動のトリガーとしている。
忽然と、女がサラダを食べる為に持っていた右手のフォークが彼女の目の前で消えて。
数秒後、もう一度手を振れば忽然とフォークが姿を見せる。
発動が瞬間的ならば、その魔力の発露も瞬間的だ。
『速度』と『正確性』に女の術式比重は傾いている。
彼女の考察がまた明後日に逸れてしまいそうだがそれはそれ。

「――まぁ、ほら。連絡先も交換してるんだし、魔術談義とかはまた別の日にでもいいんじゃないかな?
まぁ、薫の気が向いたら、って前提条件があるんだけど。」

彼女の心や思考は読めないが、会話の『間』や『空気』から彼女の思考が魔術師寄りに傾いていたのは気付いたようで。
折角同じ寮で連絡先も交換していて、友人…くらいにはそろそろなれただろうか?まぁ、兎も角。

「…個人的にはそれなら鬼火とか狐火が面白そうかな…私の戦術の幅も広がりそうだし。
あー、それはどうだろう?私は基本的に、能力は勿論、魔術も一部以外は殆ど使わないからね。
ただ、私が目指す魔術の理想系は『日常』でも『戦闘』でも応用出来る『汎用性』なんだ。
だから、ぶっちゃければ、威力やら物凄い副司効果とかはあまり重視してない。」

『特化型』ではあるし、魔力の質も量も中々だが優れた魔術師、とはお世辞にも言えない。
知識だけなら、薫の方が遥かに上だろうし――女は、殆ど独学というか昔の仲間の複写に近い。
まぁ、その辺りも魔術談義をする時に話す事もあるかもしれないが。

「ん、ドイツ語読みだとタイガーは「ティーガー」になるから、それを縮めた感じ。
雄だし、虎模様だから安直だけど割りとシンプルにいい名前なんじゃないかなって。」

待ち受け画面を引っ込めつつも、「そのうちティガを見に来てよ。同居人さんが一緒でもいいし。」
と、少しだけ上機嫌ぽいのは、何だかんだ矢張り猫に気分的に癒されているからだろう。

「…うん、私が提案しておいて何だけどそんな即断即決でいいのかな…。
君の初めての使い魔だろうに――まぁ、薫がそれで良いなら私は何も言わないけど。」

まさか、海月(ジェリーフィッシュ)が採用されるとは思わなかったので、思わず赤い双眸を丸くして。
まじまじと薫と水饅頭、改めジェリーを交互に眺めていたけれど…。

「薫って…結構じっくり考え込むタイプに見えたけど変な所で即断即決ぽいよね…。」

と、苦笑気味に。馬鹿にしている訳ではなく、彼女のそういう一面を見れたのは素直に嬉しい。

黛 薫 >  
「そだな、そっち側に逸れ始めたら『雑談』で
 済まなくなる自信あるもん。まったくホントに
 面白ぃモノ見せてくれちまって」

魔術師は探究心をくすぐられるのに弱い。
わざとらしく口を尖らせ、アイスカフェオレの
ストローに口をつける。

「にしても『汎用性』ね、なーるほど……」

正直、魔術談義に興味はあれど、根掘り葉掘り
聞くばかりになってしまっては気が引けるところ。
しかし華奈の目指す物を聞くとにんまり。

「じゃ、こーゆーの、どーかな?」

瞬間、テーブルの上で丸まっていたジェリーが
張力を失う。ただの水の如くテーブルに広がり、
しかし皿は避けて、床に滴ることもない。

するりと元の形に戻った頃にはストローやお絞りが
入っていた袋を取り込んでおり、それらのゴミを
あっという間に『消化』してしまう。

次に、身体を数本の細い触手状に変形させる。
内1本の触手でフライドチキンを持ち上げると、
別の触手を振るって切断。切り口は滑らかで
攻撃にも使えると見て取れる。

水の身体で触れていたにも関わらず濡れていない
チキンの片割れを華奈の皿に置くと元の形に戻り、
立ち上がってお辞儀をひとつ。

「あーしって素質が低ぃ分、特化しても出来るコト
 限られてて。だから『汎用性』って点に関しちゃ
 丁度重視してるんだわ、役に立てるかもな?」

一仕事終えたジェリーはまたお手拭き代わりに戻る。

「いぁー、実は名前付けなきゃなって思ぃ始めて
 既に何ヶ月か経ってる。じっくり考ぇ過ぎんのも
 良し悪しってこったな」

即決に見えたが、実は引き伸ばしに引き伸ばしを
重ねた末だった。悩み過ぎた所為でこれはいつまで
経っても決まらないと結論が出てしまったが故の
決断だったようだ。思い切りが良いように見えて
優柔不断というちぐはぐさ。

鞘師華奈 > 「…と、いうより多分知識量は君の方が確実に上だと思うよ。
私は、落第街時代に当事の仲間から教わったのと、その仲間の魔術のパターンや技術を盗んで自分流に昇華したものだから。
だから、正直知識面で考えると魔術方面はまぁ、平均より若干上程度かな。
何と言うか、脳筋ではないつもりなんだけど、実践重視というか…。」

素養、実力はあれど知識量がそれにまだ十分に追いつけていない、というべきか。
なまじ独学とはいえ、知識や理論より実践で感覚的に身に付けてきた弊害でもある。
言うならば『理論派』ではなく『感覚派』の魔術師とでもいうべきか。

「まぁ、今回はあくまで普通の雑談という事で、魔術談義はまた折りを見て――…え?」

彼女がジェリーで行った所業をまじまじとした視線で眺めて。
やっている事は奇妙奇天烈、という訳では無い。
特定の物体…ゴミだけを選別しての消化吸収。
更に、水を触手の形にして即席のナイフのように。
切り口の断面図は鋭利なもので、成程…確かに汎用性が高い。

切り分けられたチキンの片割れを右手に取りつつ、それを一口頂く。咀嚼して飲み込んでから一息。

「――正直驚いた、というか色々と参考になるかも。
…うん、やっぱり別の日に改めて魔術談義をしたいな…。
日時の摺り合わせは、またメールなりでするとして…どうだろう?」

彼女の知識量と、同じく『汎用性』重視という共通点。
少なくとも、自信の魔術の手札を増やして幅を広げる意味では大いに参考になる筈だ。
逆に、こちらからも特化型で独学魔術が大半とはいえ、薫の魔術研究に役立つ何かを提供出来るかもしれない。

気を落ち着かせるように、サラダの残りを一気に平らげてからコーヒーを一口飲んでほぅ、と息を零した。

「……むしろ、知識方面は薫から教わるのが最善な気がしてきたなぁ。」

ぼちぼち、薫も食事は一段落する頃だろうか?ともあれ、思わずそう呟いてしまう。

黛 薫 >  
「あー……いるよな、実践と感覚で掴んでくタイプ。
 感覚で出来ちまぅ時点である程度素養があっから
 自分にとっての最適まで辿り着くのは早ぃけぉ、
 その分変な癖付きやすかったりとか……」

学問としての魔術が成立する前はそれが常識で、
だから魔術は素質がある者しか使えないという
論調は長らく払拭されなかった。

とはいえ、完全な的外れという訳でもない。
足の速い人、遅い人がいるように得意不得意は
あるし、細分化された素質、素養は人それぞれ。
補助特化の華奈はその好例と言えよう。

「あーしとしちゃ大歓迎。あーしの知り合ぃって
 完全に雲の上の、議論じゃなくて教わるしか
 出来なぃ人だったり、同じ理論派学問派の人に
 偏っててさ。実践派の人の話聞ける機会って
 案外貴重なんだわ」

「それに、今日みたく友人と待ち合わせて話すの、
『学生』って感じがしてちょっとワクワクするし」

黛薫の注文した品はバスケット1つ分。
1品でのボリューム的には大きめだが、2品頼んだ
華奈より総量は少なめ。食べ終えるタイミングは
丁度同じくらいで済んだだろう。

「あーしは華奈と逆で、魔術の適正得たの自体
 最近だったから、まず実践にまで届かなくて。
 だから知識ばっかり蓄えるしかなくってさ。
 丁度互いの足りてねートコ埋め合えたりして?」

食事を終えてからコーヒーを飲み干した貴女とは
逆で食べ終える前にカフェオレを飲み終えていた。
注文前に運ばれていたお冷に口を付けてひと心地。

鞘師華奈 > 「まぁ、その昔の仲間も学問に精通してる訳ではなかったからね。
私と同じ『感覚派』というか、まぁその人から技術を盗んだから私が感覚派になったんだけど。
実際、癖みたいなものはあるかなぁ…と、いうか詠唱を完全省略している時点で、それがもう癖というか。」

詠唱を完全に省略した代わりとして、一定の決まったジェスチャーで魔術を発動する。
先にやったフォークを消したり出したりも、右手を振るという単純なジェスチャーがトリガーだ。
そして、補助系それそのものは珍しくは無いが、それに特化しているのは流石に数も少ない。

「…そうかい?実践派の意見って、自分で言うのもアレだけど感覚的なものだからさ?
理論に落とし込むのが難しいから、相手の理解力が必要になるんだけど…。
いや、でも薫は私とは正反対に近いタイプだから、むしろ逆にそういう意味では好相性か?」

少なくとも、薫の周囲には自分のように感覚派――実践で成果を積み上げた者はあまり居ないようだ。
――ふと、薫の言葉にきょとんとした。ああ、もうあちらは私を友人と認めてくれているのか、と。

「――そうだね、私は友人が少ないから何とも言えないけど…いや、良いと思う、こういう空間というか。ね。」

一度目を閉じて何かを思い浮かべれば、やがて小さく口の端に笑顔を浮かべてゆっくりと納得したように頷いた。
再び目を開きつつ、丁度お互い同じ頃合に食べ終えたようだ。
名残惜しいが、天候の荒れも気になるしぼちぼち様子を見て店を出るべきだろう。

「――じゃあ、魔術談義は真面目に検討しようか。お互い何かしら得る物はあるだろうし。
…それはそれとして、そろそろ店を出た方がいいかも…客が増えてきたし、見た感じ――今は雨脚がちょっと収まってるぽい。」

この隙に寮まで戻るべきだろう。残りの雑談は、ロビーか何かでゆっくりするのもいい。
この店の空気は好きなのだけど、人間やっぱり慣れ親しんだ自室や寮の施設が落ち着くものだ。

ちゃっかり、彼女の分の伝票もささっと手にして勘定の為にカウンターへ向かおうとする女である。

黛 薫 >  
「ん……そだな、今のうちに帰っとかねーと
 流石にマズそ。風も強くなってきてっし」

と、一瞬窓の外を確認している隙に華奈の手は
レシートに伸びていて。しかしその手は見えない
むにむにした物に阻まれる。

「しょーーじきやるかやんねーかで言えば
 やるだろなって思ってましたけぉ??
 雑談に託けてお店選んでもらったのって
 あーしが華奈に『疲労』取ってもらった
 お礼だかんな。あーしが払いまーすー」

ステルス化していたジェリーに伝票をガードさせ、
したり顔でレジへと向かっていくのであった。

鞘師華奈 > ―――失敗した、と気付いたのは明らかに何かむにむにした物に阻まれた感触がしたから。
ちらり、とそちらを一瞥すれば透明な何か――おそらく、ステルス化したジェリーの仕業だろう。
まぁ、操作したのは薫なのだろうが…ちゃっかり奢ろうとする魂胆はバレていたらしい。

「……いやいや、せめてそこは割り勘くらいにはしとかないかい?」

どちらかといえば、人様に奢る事の方が多いので完全に奢られる側は慣れていない。
せめて割り勘というか、自分の食べた分は…等と、地味に食い下がろうとしつつ彼女の後を追い掛けてレジへと。

――尚、支払いは結局リーズナブルな値段設定なのもあり、見事に奢られてしまったのである。

ご案内:「喫茶店【swallowtail】」から鞘師華奈さんが去りました。
ご案内:「喫茶店【swallowtail】」から黛 薫さんが去りました。