2022/10/30 のログ
ご案内:「『IVORY』メインホール」にパラドックスさんが現れました。
■パラドックス >
祭りの後の静まり返ったメインホール。
熱狂は思いの外、あっという間に冷めきった静けさだけがそこにはあった。
もう誰もいない。喧騒も人も、何もかもが静寂に包まれたメインホール。
「…………」
その場に似つかわしくない破壊者だけが、そこにいた。
此の祭りの会場、当日に襲撃すればより多くの混沌を生んだだろう。
だが、男は敢えてそうしなかった。情けではない。
男自身でもわからないが、ある種の"敬意"を主催者に持っていた。
月明かりが漏れ、照らされた舞台の上を唯一人佇む男。
■パラドックス >
風紀や各種委員会の動きやそもそもの違反者たちの撤退。
此の場に殆どの物は残っていなかった。
楽器さえ残っていなかったのに、それだけは残っていた。
「…………」
月明かりに包まれたグランドピアノ。
あのロックには似つかわしくない慎ましい黒の光沢。
埃の被っていない椅子へと、男は徐に座った。
何も言わず、喋ることもない。声の代わりと言っては何だが
ボロボロになった指先が、鍵盤を叩き始める。
■パラドックス >
命を握り潰し、文明を破壊する指先が奏でるのは
それに似合わない繊細で流麗。
時に激しく、荒立つそれは脳内に他音を呼び起こし調律させる。
記憶にある中で、男が鮮明に覚えていた曲だった。
何時もの研究室で、これを聞き考えに耽るのが日課だった。
「──────……」
パラドックス自体は楽器に造詣があるわけではない。
全身を巡るナノマシンが、彼の指先を操り
記憶にある楽譜を再現しているだけにすぎない。
終盤に近づけば音の波は激しくなり、最後には月明かりを揺らすほどに強い音が残響になる。
■パラドックス >
別に感傷に浸った訳でもない。
あの時代の出来事は最早望郷にもならない。
学者らしくない方法であろうと、あのどん詰りの時代を覆すにはこれしか無い。
論も方法も講じてるのであれば、今は実行しかないのだ。
成否の問題ではない。正しいとか間違いなどどうでも良い。
"救うと決めた"。"やると決めた以上、どれだけ汚名を被ろうがやり通す決意"。
自らの時代を救うために、どれだけを犠牲に出来る決意がある。
「……これは私なりの礼だ、ノーフェイス」
此の学園の全てを敵に回した。
勿論、男も全てを敵と認識している。
そこに例外はない。それでも尚、ただ一人。
あのノーフェイスだけは男と"デュエット"したのだ。
それはそれは酷い内容だったし、所詮は享楽の中に過ぎないものだったかもしれない。
何れ潰す相手でもあった。だが、それでもこれは多分、性分なのだろう。
此処に来る前から妙に律儀で真面目な、男の性分。
返事をする相手も、拍手をしてくれる観客もいない。
それで良い。誰もいないエンドロールに、静かに席を立つ。
■パラドックス >
<クォンタムドライバー!>
静寂を切り裂く、無機質な電子音声。
破壊者が敵の気配に気づかないはずもない。
騒動があった後だ。連中が周辺にいないはずもなかった。
「風紀委員会か、公安委員会か。
……まぁ、誰であろうと関係はない」
「例外なく、お前達は此処で滅びる」
振り返る破壊者の目には、揺るがぬ決意が光り輝く。
周囲に映し出される数多くのデジタル数字。
時の流れを示すそれは、決して止まらない時計の針。
自らを取り囲む敵対者を一瞥し、腕をクロスさせた。
「……変身」
<クォンタムタイム!>
零れ落ちた刻の砂とともに、周囲は轟音に包まれた。
■パラドックス >
……後日、風紀委員、公安委員から数名の死傷者を出し
『IVORY』周辺の落第街住民も巻き込み多数の犠牲者を出した。
戦いの余波でメインホールは崩壊し、壊れたピアノがその凄惨さを物語っていた。
破壊者に相応のダメージを与えることには成功したが
その装備を破壊することは出来ず、結果としてまた取り逃がしてしまった。
──────破壊者のエンドロールは、まだ終わらない
ご案内:「『IVORY』メインホール」からパラドックスさんが去りました。