2023/06/20 のログ
ご案内:「Free1」に見学さんが現れました。
ご案内:「Free1」から見学さんが去りました。
ご案内:「東山正治の事件簿」に東山 正治さんが現れました。
東山 正治 >  
始まりは突然職員室に来たある女子生徒だった。

『わらわの"みけ"をさがしてほしいのじゃせんせー!』

そんなちんちくりんのちびっ子の探しものを安請け負いしたのが始まりだった。
東山は公安委員会に所属する教員だ。しかし、この常世学園は基本的には生徒が活動をする。
東山自身は半分"趣味"で活動を教員とし手伝い、教師としても活動している。
二足草鞋は多忙の上、何故か教員になる前からこういう依頼を受けることも多かった。

「にしても猫探しなんて……本当に昔を思い出すな」

島の外で、大人のビターな思い出だ。
とある女子生徒の依頼は飼い猫探し。
なんでも、数週間前から行方不明になってしまったらしい。
昼下がりの学生街。授業や部活動に精を出す生徒が多いせいか、大通りに人は少ない。
夏前くらいだっていうのに、今日の気温は真夏日と変わらなかった。
暑さにため息を吐きながら額の汗を強引に腕で拭い、依頼者がくれた手がかりに目を通す。

「…………」

思わず、頬が引きつった。
まぁ、その手がかりというのは猫の全身図なわけだが、別に写真でもなんでもない。
有り体に言ってしまえば依頼者特製の猫の絵だ。
それも、幼児が書くようなかろうじで猫の体を成す色の暴力。

「……適当に返事しすぎたなァ」

ダメだ、全然どんな猫かわからん━━━━!

東山 正治 >  
「そもそも猫なのに青と緑ってマジで言ってる?」

そこは白とか黒とか茶色とかじゃないのか。
紙に描かれたそれは青と緑と実にカラフル。
今の時代、こんな幻想種めいた色が珍しいわけじゃないが、本当に猫なのかよ。
そう思わずにはいられなかった。絵を強引にポケットにねじ込み、手首の電子端末を起動する。
旧世代の単語で言えば、この機械は"スマートウォッチ"と呼ばれていたデバイスに近しい。
小さなモニターには時刻と日付だけしか映らないが、必要なデータは網膜に直接表示してくれる技術の結晶だ。
必要なデータを自分のみが見れるようになっている優れものだ。情報を扱う立場である以上、漏洩には気を使っている。

とりあえず、と適当なオープンテラスカフェの席へのついた。
備え付けのタブレットでブラックコーヒーだけを頼み、端末を操作する。

「…………」

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依頼者:マルグリット・フォン・マーガレット
常世学園:2年生
年齢:10歳
身長:132cm
体重:32.6kg
異能:金と銀<アシュミレーター>

物質を金銭的価値の高いものへと変換できる異能者。
島の外の大企業の祖父に育てられた生徒。両親はすでに他界済み。
異能に目覚めたのは2年前。
所謂金と欲望が渦巻く環境で育ったせいか、苦労したらしい。
祖父の勧めで常世学園へと入学し、今では平和な学園ライフを送っている。
祖父は非常にライバルが多い優秀な企業家。
猫(?)のミケは入学祝に送られたものらしい。
祖父は大変"孫バカ"で━━━━━━━。
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網膜に映し出された依頼者の情報に文字通り目を通していく。
依頼者だろうと情報を纏めて調べ上げるのは趣味、というより昔の癖だ。
たかが猫探しという話だが、こうして見ればかなり大事な飼い猫らしい。

「今時、異能のせいで人生苦労するヤツは珍しくないが、よほど大事なんだな」

だからこそ、頼む相手を間違えてるだろ。
思わず東山は苦笑を浮かべた。配給ロボが運んできたブラックコーヒーを口に含むと、その苦味が更に表情の苦味を深くする。

東山 正治 >  
網膜の情報を消し、軽く瞬き。 

「ま、受けた以上はしっかりとやりますかァ」

相手がどうあれ、教師である以上生徒のお願いは出来る限り聞こう。
ゴクリと冷たいコーヒーを飲み干せば、腕の電子端末で決算を済ませて立ち上がる。
多忙な身故、こういうところからも手早く済ます。そそくさと立ち上がれば、ポキリと首が音を立てて伸び。

「歳かねェ。さて、と。餅は餅屋だな」

動物っていうのは1から探すとそれはそれは骨の折れる連中だ。
なにせ、人間とは行動ルーティーンも何もかも違いわけだし、行動範囲も違ってくる。
そうと決まれば即断即決。野生に飛び出した飼い猫が死んでしまったら後味も悪い。
こうして向かった先は、学生街の一角に店を構える所謂"猫カフェ"だ。
どこぞの異界文字が書き殴られた巨大な魚型の看板が特徴的だ。

「どーも、やってる?」

店前に立っていた木人の生徒に声をかける。
生い茂る葉っぱを揺らしながら『どうも、先生』とにこやかに生徒は一礼した。

「早速で悪いけど、オタク等はこの辺の猫事情?ってのにも詳しいワケ?
 ちょっと飼い猫が逃げちゃってさ。こんな感じの猫……っつってもわかるかどうか……」

そう言って見せるのは例の子どものらくがき帳。
木人生徒のぎょろり、と木々の隙間から視線を落とす。
ちょっと不気味だが種族の特性上仕方ない。
ギョロギョロと舐め回すように瞳が蠢いていると、ニコリと木人生徒は笑顔になる。

『この子ならあっちの裏路地でみましたよぉ~?』

「……コレだけでわかんの???」

思わずそっちに驚いちゃった。

東山 正治 >  
本当かよ、と疑いたくはなるが百聞は一見にしかず。

「そうか。ま、行くだけ行ってみるわ。今度は冷やかし以外で来るよ」

手をひらりと振って、東山は踵を返した。
生徒とすれ違い、大通りを抜け、コンクリートの隙間を抜ければ、昼間だというのに周囲は徐々に暗くなる。
幾ら治安の良い学生街と言えど、人が住む場所にはこういった場所も生まれてくる。
人気のしない、妙に湿っぽい裏路地。悪さをするには最適だ。蒸し暑さも加わって最悪だ。

「アイツが行ってたのはこの辺か……あっつ……」

まだ本番じゃないっていうのに裏路地でこの暑さ。
最近の夏は一体どうなっているのやら。汗だらけの気だるい顔を強引に拭い、歩を進める。
流石に落第街と比べればいきなり襲われる事は少ないだろうが、灯台下暗し。
軽犯罪や所謂"半グレ"連中はこういう場所にいることも少なくはない。
警戒しながら進んでいくと、やがて東山は開けた場所に出た。

「……お」

薄暗い裏路地に確かにそれはいた。美しく輝くエメラルドカラーの毛並み。
幻想的にほのかに光る青の双眸。子どものらくがき帳も案外侮れない。
多分、無駄に高級そうな首輪が飼い猫である証だ。

ただ、問題があるとすれば……。

東山 正治 >  
「……猫、にしちゃァ。デカくねェ~……?」

思わず引きつった笑みが溢れた。
なにせ、例の"ミケちゃん"ったら、素人目で見ても全長3メートル近い大きさだ。
それはもう猫というよりトラ。エメラルドブルータイガーだ。
唸り声こそ上げやしないが、悠然とした佇まいに鋭い視線。

「そりゃァ、知らんヤツは警戒するわなァ……、……」

請け負っておいてなんだが、どちらかというと動物には好かれない方。
賢そうな気配はするが、言葉が通じるかは不明。
両腕を上げて、まずは敵意がないことを猫と、"背後"に示した。

「……おいおい、ただでさえ他人の飼い猫刺激したくねーんだ。
 人様のことを追っかけておいて、そんな怖い気配出さないでくれない?」

気配からして数は三人。
いつから付けられてたかは知らないが、半グレとは違う。
荒くれ者というよりは、もっと鋭い気配だ。背中に目があれば楽なんだが、生憎持ち合わせていない。
やれやれ、とわざとらしく肩をすくめ、目の前のミケは警戒するような唸り声を上げる。
刺激するなって言った傍からこれだ。思わず苦笑が漏れる。
背後の気配の一人はただ一言、『それをおいて去れ』と告げる。

「(……爺さんは敵が多い、ね。わざわざこんな島までやってくるなんて御苦労なこった。)」

動物探しが、とんだアクシデントに巻き込まれてしまったようだ。

東山 正治 >  
さて、どうするべきか。
自分の異能が反応しないということは連中は曲がりなりにも純正地球人。
此の法はそれ以外にしか機能しない。絶賛、ただの中年男性というわけだ。

「(さぁて……と、なると……)」

”やることは一つだ”。
此の状況で選り好みは出来ない。最善手となり得る手段を用いるのみ。
気だるげな視線をミケに向ければ、へらりと笑ってアイコンタクト。

"じっとしてろ"。

刹那、東山が手首を曲げれば勢いよく霧状の液体が背後に飛んだ。
強力な催涙液だ。公安という職務の関係上、こういうものは仕込んでいる。
背後から男たちの短い悲鳴が聞こえると同時に、素早く身を翻した。
ジャケットが風を切り、即座に一番近かった"それ"に掌底をねじ込んだ。
顔面モロだ。ねじ込んだ手のひらが鼻先を潰し、真っ赤な液体がぬるりと手のひらで弾ける。

黒ずくめの男たち三人。生徒や教員、ましては落第生でもない雰囲気。
おそらくは島の外の連中。いいところ不法入島者という所だろう。

「人様を脅かすな、よ!」

続けざまに掌底を打ち込んでおいた男に更に飛び膝蹴り。
全体重を載せて地べたへ這いつくばらせた。足裏から嫌な音が聞こえるが無視だ。
未だ視界がおぼつかず、悶えるもう一人には"貫手"。
指先が野仏にめり込み、全ての空気を吐き出すような苦悶の声を男は上げる。

「二人目……!」

東山 正治 >  
綺麗に不意打ちを決めたが、相手も"プロ"だ。
二人のしてる内に一人は立ち直ったのか既に東山の懐。
思わず表情が強張り、嫌な汗が全身を吹き出す。

「あれま」

ただし東山は狼狽はしなかった。
若い頃の喧嘩自慢の名残だ。真正面から連中を倒せるほど超人じゃない。
きっと、目の前の一人とまともに戦えば勝ち目はない。
それを自覚した上で"覚悟"は当に決まっている。

「らァッ!!」

雄叫び。膝一閃。
男の下腹部をかち上げれば悲鳴を上げ、続けざまに顔面に思い切り拳をねじ込んだ。
何かが軋む音と血液が飛び散り、三人の男が地面に転がることになった。
その光景を認識すると同時に、脇腹に走る灼熱の激痛。

「いっつ……ギリ、内蔵まではイってねェな……」

まともにやり合えば勝てない。
肉を切らせて何とやらの、相打ち覚悟の一撃は上手く功を成した。
深々と脇腹に刺さったナイフを一瞥すれば、ため息だ。
とは言え、やることはたくさんある。痛みにかまけていられない。
苦痛に口元を歪めながら、震える手で携帯端末を取り出した。

東山 正治 >  
「アー……オレオレ。詐欺じゃねェよ。とりあえず、容疑者三名。
 学生街の裏側で寝てるからなるはやで確保よろしく」

手早く公安委員の生徒に連絡だけ済ませ、返事も待たずに切った。
脇腹から徐々に痛みが全身に広がっていくみたいだ。
意識を失うのは不味い、と舌ごと奥歯を噛みしめる。

「ッ……悪いね。オレも人外ばかり相手にしてるわけじゃないんだよ。
 おとなしい気性でもねぇし、な……たた……!教員一人ガチでヤりにきやがって……」

若い頃は島の外で喧嘩自慢。
そのせいか、自分で言うのも何だが割と喧嘩っ早い。
ついつい苛立ちに身を任せて蹴飛ばした机は数しれず。
今はそんな事はどうでもいい。ちらりとミケの方を見やれば、先ほどとは違って随分と穏やかに見てくれる。

「もしかして、連中はオタクを狙ってたの?
 あの子を巻き込ませないように家出したワケね……」

東山の言葉にミケは頷きもしない。
そもそも言葉が通じてるかも分からないし、聞いてもしょうがない。

「しっかし、孫娘の方じゃなくて、オタクを狙うってのも妙な話だな。……ん?」

東山 正治 >  
東山はミケの目をじっと見据えた。
輝くブルーは宝石のように煌めいている。いや、”宝石そのものだ”。
それがわかってしまった途端、思わず吹き出して肩を竦めた。

「成る程な。オタクがプレゼントされたのは”生前贈与”ってワケだ」

金と欲望が渦巻く環境だったらしい。
だからこそミケにはそれだけの価値があるようだ。

「ま、あの子にゃそれ以上のモンだろうがな。
 ……おいミケ、安心しろよ。常世学園はヤワじゃねェ」

「生徒の事は、オレ達教師がしっかり護ってやる。
 勿論、オタクもな。だから、傍にいてやれ。心配してたぜ?」

此の学園には年齢性別種族さえ問わず、多くの生徒が在籍している。
教師は立場上、そんな生徒たちを導き先に立つもの。
そんな老若男女、十人十色の環境で"教師"でいるのは並大抵のことではない。
それでも教師である以上、生徒を護るのは責務だ。
東山は異能者も、人外も忌むべき存在と思うのは変わらない。
だが、教師という立場を超越するほど自らの人間性を捨ててはいない。

そんな真剣な言葉が響いたのか、悠然とミケは歩みだし、東山の脇を通り過ぎていった。

「……可愛くねェ猫」

ため息混じりに吐き捨てれば、思わずその場にへたり込んだ。
脂汗に霞む視界。そろそろ立っているのも限界だった。

東山 正治 >  
━━━━…そうこうしている内に、辺りが騒がしくなってきた。

どうやら、応援が来たようだ。
安心して目を閉じれば、次に目が覚めたのは病院のベット。
久しぶりにしくじったが、ミケは無事に飼い主の所に帰ったようだ。
もう、家出することもないだろう。自分たち教員がしっかりしていれば、だが。

東山にとっては大金が渦巻く世界など縁のない程遠い世界だ。
だが、少女の笑顔は100万カラットにも勝らない輝きだと、思うのだった。

東山 正治 >  
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東山正治の事件簿.CASE4


『100億の瞳を持つ猫』


File END
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ご案内:「東山正治の事件簿」から東山 正治さんが去りました。