2019/02/03 のログ
ご案内:「コンピュータ実習室」に玖弥瑞さんが現れました。
■玖弥瑞 > この冬より教諭職の任についた玖弥瑞。
しかし学園としてはすでに期末が近いため、春までは臨時講義の形として任意参加のクラスを設ける流れとなった。
玖弥瑞に『教職』を行うセンスがあるかどうかを実地で見定める査定の色合いも強い。
「……よぅし、皆席についたの。では、さっそくパソコンを起動せぃ。
起動の仕方は先週の第1講で教えたじゃろが、わからん者がおったら遠慮なく手を上げるのじゃぞ」
しかし。教室の前方で教壇に立つ者はいない……代わりに、狐耳の童女が無作法にも教卓に座って脚を組んでいる。
冬に目にするにはあまりにも寒々しく、そして場違いな紺色のスクール水着を着ている。
とても尋常の地球人には見えない、どちらかといえば異邦人に分類される出で立ち。実際は地球出身の妖怪だが。
ずらりとラップトップPCが並んだ教室に、隙もなく蒼色の視線を配っている。間違いなく、この童女こそが講師なのだ。
「きょうは、インターネットの使い方を教える。…いや、《常世ネットワーク》と言ったほうが正しいか?
パソコンを起動したことがなくとも、ネットの恩恵に授かっとるものは多かろう。
じゃが、今一度、その成り立ちや仕組み、できること・できないことを見直すのもよかろ」
■玖弥瑞 > 悠然憮然と教卓に跨る玖弥瑞の手元には何もない。
体格に比して大きめのお尻、そのすぐ傍には開かれたラップトップが置かれているが、操作する気配もない。
ただただ、教室の隅から隅まで目配せしつつ、板書もせず、淡々と語るのみ。
「表計算、ワープロ、プレゼンテーション、ゲーム、株取引、チャット……パソコンでできることはさまざま。
じゃが、素人が触れていの一番に恩恵に授かれるのはやはりインターネットじゃろ。
しかしそのネットワークも、とどの詰まりは『ただの情報源』じゃ。
有象無象、真偽の差もなく、そして宇宙の星々のごとくに膨大な量の『データ』。
それらをつなぎ合わせる『アドレス』、そして素早く目的のデータを探し当てる『検索エンジン』。
結局のところ、我々が恩恵を受けるネットワークというのも、細分化して語ればこの3つで終わる。
……ほい、今日の講義おわり」
手でろくろを描きながら、大量の蓄積データを表す円、それらを繋ぐ線、さらにその線を己の頭につないで見せる。
そして肩をすくめながら、開始2分にして講義終了を宣言しようとするも。
「……なんて、そう甘くないのがインターネットじゃな。
とりあえず、皆、思い思いに気になるワードを検索してみせよ。
《常世ネットワーク》は端々に閉じたところもあるが……まぁ、WWWとほぼ同一とみて差し支えなかろうよ」
冗談を撤回しつつ、まずは皆に手を動かすことを求めた。
■玖弥瑞 > 「いまさら検索なんて……と思う者も多かろ。
すまんな、『パソコンの初心者』という括りはあまりにも曖昧にならざるを得ない、雲のような概念じゃからな。
飽きた! という者は別に好きなことをやっておればええ。ゲームでもチャットでもな。ただ……」
ふと、教卓に座る玖弥瑞の蒼い瞳が、くっと鋭く細められる。教室のとある1つの席を睨みつける。
「……22番の卓の生徒。エロ画像を探すのはさすがに後にしてくれんかの」
ドスの効いた女児ボイスが、後方の生徒に向けて凛々しく発せられる。びくりと肩を震わせながら顔を上げる、22番の生徒。
狼狽しつつも、右手はスムーズな動きでマウスをカチリと動かした。ウィンドウを消したのだろう。
そして、キョトンとした表情で玖弥瑞を見つめる。『なんのことですか?』とでも言わんばかり。
実際、玖弥瑞は22番のPCも、それどころか教師用のPCすら覗いていないのだ。なぜわかるのか。
「とぼけるかぇ? まぁ良い。お前さんがお前さんのPCで何を見ても勝手じゃが、ここは公共の場であることを忘れるな。
周囲にも目があり、そして後からそのPCを使う者だっておる。
お前さん以外に迷惑がかかることもあろうが、回り回ってお前さんに災禍が戻ることだってあるのじゃぞ?
PCで閲覧した情報は、すべて第3者に見られうるということを覚悟せい。たとえ検索文1つだろうと、な」
22番の生徒のみならず、全員に言い含めるように淡々と、真面目な口調で語る玖弥瑞。
それでもなお、とぼけた顔を続ける当該生徒に、再び視線を向けて。
「……まぁ、そう肩肘張るな。どーせ誰もお前さん方の個人情報になぞ興味はなかろうよ。検索を続けよ。
それと22番。いまのウィンドウ、最小化しただけじゃろ? もう一度開いてみぃ」
指図すると、22番の生徒は訝しむ顔をしつつマウスを操作し……そして『ひいっ!!』と悲鳴を上げた。
叱られる直前まで覗いていたエロ画像、そこに写っていた裸婦の姿が、玖弥瑞の姿に変わっていたのだ。
背景は一切替わらず、何の違和感も残さず、人物だけが狐耳狐尾・スク水の童女に入れ替わっている。姿勢すら同じ。
水着を着たことで結果的にエロ画像でもなくなり、単に悪趣味な画像へと成り下がった。
「くふふっ。よい画像じゃろ。お前さんには特別に、それをスマホやPCの背景にすることを許すぞ」
目を細め、口元を手で隠しながら含み笑いを向ける玖弥瑞。
周囲の卓からも、クスクス……と笑い声が漏れる。
■玖弥瑞 > 薀蓄を語り、束の間押し黙って生徒の様子を観察、また思い出したように語る……のルーチンを続ける玖弥瑞。
そうして15分ほど経過した頃。
「よぅし、皆きちんと検索エンジンを使えてるようじゃな。それでインターネットは7割方理解したと言ってよい。
では次、実践編といこう」
パン、と手を叩いて生徒の注意を歓喜しつつ、次の課題を申し渡す。
「検索による情報収集の実践じゃ。
題目は『常世島近海の海底深度の傾向と、季節ごとの鮮魚の漁獲傾向』。45分で、分かる範囲でまとめよ。
PCで文字を打つのが苦手なら紙で提出してもええ。さぁ、はじめっ!!」
再び容赦なく手をたたく。
教室のあちこちから『なんだそれ!』『まとまるかよ!』と文句も沸き立つが、他方ですぐキーを打ち始める者も。
そんな様子を、教卓の上からニマニマと眺めながら、脚を組み替える玖弥瑞。
「先にも言うたが、ネットには真なる情報も偽なる情報もまぜこぜに溢れておる。
真と思って発信した情報が実は思い込み・ソース不全で、結果的に偽となることさえ、な。
じゃが、この課題ではとりあえずそれは置いておく。検索という行為そのものの腕前をまずは問う。
……それでも思ったより難しかろ、検索っつーのは。くふふっ」
そう念押しして、課題に挑む緊張を解こうとする。
しかしその後はぷっつりと押し黙り、仏頂面のまま瞳だけを動かして、生徒の観察を続けた。
■玖弥瑞 > 実践編を始めてから、10分。
個人課題なので、皆一様に押し黙り、各々のPCモニターとにらめっこしている。
その様子を、端から端まで舐めるように一瞥。真面目に取り組んでいない者もちらほらと混ざっている。
ふん、と鼻をならす玖弥瑞。実のところ、ちょっと課題が突飛すぎてかつ真面目すぎたかな、と思うところもあったり。
まぁ所詮は臨時講義の2回めだ、この課題を重要視する必然性もない。
「………………」
子守唄のごとく、無数の打鍵音が響く教室。
その中で押し黙ったまま、玖弥瑞は教卓に置かれた教師用PCに目を落とした。
しばし逡巡する仕草をしたのち、キーボードにそっと手を伸ばす。講義開始後、はじめての操作。
静かに5つのキーを押し、ENTER。打ち込まれたワードは『qmizz』。
〈該当記事:0件 (もしかして?:quiz)〉
ほぼ白一色の検索結果画面が、教師用PCのモニタを煌々と色づかせる。
そのモニタに向けられた玖弥瑞の視線は一瞬、忌々しげに鋭く細まる。しかしすぐに、諦めたように目を外し。
(ああ、まったく。検索ひとつ取っても、これほど難しいとはの。
……否。妾が『脚』で駆け回り見つからなかった情報が、検索エンジン程度で見つかるはずもない、がな)
声にならない怨嗟を渦巻かせつつ、再び教室へと目を配り始めた。
■玖弥瑞 > 玖弥瑞が探し求めるは、情報。
己の起源。ふるさと。旧き時代の残滓。愛してくれた者の面影。縁深き者の生き様と死に様。真実。
だが、探れば探るほどに、それらは全て永久に失われてしまった事実という『行き止まり』が立ちはだかる。
かの忌々しき《大変容》によって。
(……否。否! 本当に失われたものか!
現に……現に、妾はこうして形を得ておるというに!)
失われたように見えて、失われてなどいない。それもまた一部は真。
つながりを失い、誰にも到達することが叶わなくなった情報というものが、この世界には無数にある。
そして、今ある《玖弥瑞》という個体も、その辺獄から生まれし情報塊なのだ。
であれば、再びそこに到達することも、きっと不可能じゃないはずで。
おそらくは、この玖弥瑞というアバターを常世学園が接収したのも、同じ目的と結果に至るための施策なのだろう。
(……どうだかね)
再び、ふん、と鼻を鳴らす玖弥瑞。
かの厄災から半世紀以上が経った今、その目算がどれほどにあるのか、それさえも未知数。
……願わくば、そのサルベージを成し遂げる者が、この学園から……あるいはこの教室から現れるかもしれないが。
それがいつになるか、玖弥瑞には見当もつかない。考える気も起きない。
(……まぁよい。せっかくの縁、妾は妾のできることをするだけよ)
「……よぅし、時間じゃ。課題を紙かテキストファイルに残し、できた者から退出せよ!
次の第3講については追って知らせる。……ああ、期末テストがある者は頑張れよ!」
時間だ。パン、とこれまでで一番強く手を張り、退出を勧告する。
パタンパタン……と次々に貸出PCの蓋が閉じられ、生徒たちは退出していく。
その様子を見届けた後、しばし黄昏ていた玖弥瑞であったが、やがて教卓から降りる。
これから各PCを見分し、課題や使用状況をチェックしなければならない。まぁ、大した仕事ではない。
ご案内:「コンピュータ実習室」から玖弥瑞さんが去りました。