2020/06/10 のログ
鈴木竜一 > あの客,おにぎりコーナーの前でずっと何やってるんだろう。
これは,そう思ったまま見守っていたバイトの青年。
一度バックヤードに引っ込んで,また戻ってきたら…まだ居た。

「……………。」

とっても怪訝な顔をしているバイトの青年。
だが,貴女にとって重要な情報は,そこではない!
この時間にバックヤードから戻ってきたということは,つまり,商品が補充されるということだ!
そこには荷台に積み上げられた補充商品の籠が,確かに聳え立っていた!!

戸田 燐 >  
あり得ない……これは何かの間違いよ…
平穏と静寂を愛する私の心に……こんなトラブルがあっていいはずがない………

その時。

「!!」

青年が姿を見せる、彼はこのコンビニのエプロンを装備していて。
それはつまり。商品補充のタイミング!!
神!! まさに神!! 
この戦(いくさ)、勝った!!

「……あー………昆布のおにぎりあります?」

言ってから恥ずかしくなった。
腹、減ってるのか?と思われたかも知れない。
しかし、補給物資の矢の本数を数えない軍師がどこにいる。

鈴木竜一 > 「……へ?」

まさか,棚に並べるより先に聞かれるとは思いも寄らなかった。
初めての経験に瞬時凍り付くバイトの青年。
けれども,並べる前の商品を売ってはいけないなどという決まりは存在しない!

「っと,少々お待ちください。」

小さく頷いて切り替え,貴女の所望するブツを探す。
だがそれも,長い時間を必要とする作業ではないだろう。
昆布,それはいかなる時間帯でも,いかなる客層でも,安定して売れる…いわば安牌の商品!

聳え立つ籠の,まさに最上段に“それ”はあった。

「……1個で良いっすか?」

4つも!

戸田 燐 >  
勝った!! 私こそがこの世界の勝者!!
勝ち組、リア充、ザ・ウィナー!!

「はい、1個で大丈び………大丈夫です…」

テンションが上がりすぎてちょっと噛んだ。
フッフー!! 昆布とツナマヨに緑茶!!
今まで数多の世界チャンピオンを輩出しながら老いと同時に一線を退いたトレーナー、ツナマヨ!!
名伯楽である彼が見出した黄金の才能を持つボクサー、昆布!!
世界に見せ付けろ、この輝きを……才能を!!

「すいません、陳列前に話しかけて…」

礼節大事。とても大事。
青年に感謝。彼という命を育んだ世界に大感謝。

鈴木竜一 > 事もなく,貴女が求めた“それ”は手渡される。
税込み110円…けっして大きく売り上げに貢献するほどのものではない。
だが,塵も積もればエベレスト山脈という言葉もあるのだ。

「全然おっけーっすよ,他に何か買います?」

そうして,更なる購買意欲を刺激する。
青年の無意識の心遣いが,貴女に更なる出費を強いるのだろうか。

なお,たぶんきっと,大抵の物はこの聳え立つ巨塔の中に入っているだろう!!

戸田 燐 >  
「…………え?」

他に? 待て………私は勘違いをしていた…
昆布とツナマヨという定番サクセスストーリーに目を取られて…
新しい感動を求めることを、忘れていた。

このお兄さん、できる!!

これは彼に恥じない選択をしろという挑戦状。
負けてはいられない。
空の陳列棚を見る。

アビスマートプレミアム・豚トロおにぎり……だと…
この写真を見た感じ、とんでもない化け物だ。
異形で、厳つく、力が強い怪物。
だけどそれに昆布を添えたら………?

異形の怪物と、その存在に心の安らぎを求める可憐な少女のコンビに!!
まさか……この可能性を示唆していたの!?

「……豚トロのおにぎりありますか………?」

鼓動が早鐘を打つ。あったら。あったら…とんでもないことだ。最早事件!!

鈴木竜一 > 無意識,それは完全に無垢な言葉であった。
いや,必ずしもそうとは限らない…全てが策略であったとしたら…

「新発売のやつっすね,ちっと待って下さい。」

…だんだんと口調が砕けてきているのも,貴女に安心感と距離の近さを感じさせるためであろうか。
などと地の文が暴走しているうちに貴女の求めたそれは,2段目から現れた。

“アビスマートプレミアム・新潟産コシヒカリ豚トロおにぎり”

税抜き価格160円,税込み176円。
その差はたかだか66円。されど,パーセンテージで見れば概ね150%である。
単純に計算して1.5倍の戦力。その差は,まさしく,圧倒的!!

「ほい,どうぞ。」

それが今まさに,貴女に手渡されようとしていた。

戸田 燐 >  
「………!?」

あるの!? 豚トロ、昆布!! この出会いは、運命!!
手渡されたおにぎりを掌に載せると、脳内で何らかの物質が分泌された。

花畑で座り込む怪物に、笑顔で花冠を被せようと必死に背伸びをする少女。
いつか別れのさだめが二人を待ち受けていようとも。
別々に生まれた二人の運命が悲劇として待ち構えていようとも。

「ありがとうございます」

今、この瞬間の微笑みは、嘘をつかないし嘘がない!!

アビスマートの店員、恐るべし。
未だ見ぬ境地への到達……怪物(豚トロ)と少女(昆布)を彩る美しい花畑(緑茶)。
この光景を生涯忘れない。
そう誓って私は会計を済ませてコンビニを出た。
 

妄想だけど。

ご案内:「コンビニ『アビスマート』」から戸田 燐さんが去りました。
鈴木竜一 > 会計へ進む貴女を,にこやかに見守る青年。
…そう,最後まで,自分はただただ,善意でそうしたかのように。
やがて,貴女は必要以上のカロリーを手に,必要以上のYENを支払って,店を出ていく。
その満ち足りた横顔を,男はきっと,3日くらい忘れないだろう。

ご案内:「コンビニ『アビスマート』」から鈴木竜一さんが去りました。