2020/06/17 のログ
■日下部 理沙 > 「いや、その!
俺にとってもこれは何というか……吐露みたいなものですから、なんというか。
痛かったのは、お互い様ってことで……!」
取り繕うように笑う。
だが、実際燐の境遇を聞く限り……恐らくはとんでもない無茶をしている女の子だ。
理沙の言葉が少しでも燐の自衛に役立つなら、喜ばしい事である。
……それだけ、一般生徒が気を遣ってくれるだけでも、関係各者の怪我人は減らせるのだから。
まだ空いたままのベッドを一瞥しながら、理沙は軽く目を伏せた。
「……今レントゲン撮りに行ってる彼も、すごい無茶する人なんですよ。
もう入院って一回とか二回じゃなくて、俺が知ってる限りでも……二桁入院してて。
でも、いっつも……綺麗に治されて戻ってきちゃうから、周りも気にしてないんですよあんまり。
いや、『気にしないようにしてる』のかもしれませんけど……」
理沙からすると、それは少し……恐ろしい事だった。
今レントゲンに行ってる彼だって、本来なら死んでもおかしくない怪我を何度もしている。
いや、彼に限らない……理沙の左腕切断だって、死亡してもおかしくなかった怪我だ。
それでも……『ここ』ではあっさり忘れられてしまう。
何でもない怪我で片付けられてしまう。
「なんだか……『死』が遠いんですよね。この街って」
常世学園。
思えば、それになぞらえた名なのかもしれない。
「『いつから、自分が生者だと勘違いしていた?』
……とか、死神にいつ言われても、おかしくないんだなって。
……ついつい、病院に来てないと忘れちゃいそうになるんですよね」
頻繁に理沙が見舞いに訪れる理由。
それは、誰かの為だけではない。
……この常世で長く過ごす為の、理沙なりのメンタルケアなのかもしれない。
恐らく、それも……含まれているのだろう。
それこそ、理沙自身も気付かないうちに。
■戸田 燐 >
取り繕うけど、彼の本質はそうなのかも知れない。
誰にだって傷ついてもらいたくない。
それが、ただ見舞いに来た相手の同室の人であっても。
「ふふ」
ま、妄想だけどね。
「二桁………入院って二桁できるものなんだ…」
二桁*一日三食の病院食を想って泣きそうになった。
それだけ頑張って、まだ守りきれない人だっている。
風紀はその守りきれない人をなくすために頑張っているのだから、頭が下がる。
「死」
常世学園。だから、死が遠い。
案外人は……真っ二つにされない限り、生きているのかもしれない。
そう思ってしまうのは、イビツで。
「日下部さんは忘れてないんです、死せる生も生ける死も」
「だから大丈夫ですよ、きっと」
大丈夫。そう自分にも言い聞かせた。
異能があるから強いとか、魔術が使えるから自衛ができるとかじゃなくて。
人間、誰もが一つだけ持っている鼓動を大事にすること。
それがわかっていれば、大丈夫。
■日下部 理沙 > 「……ありがとうございます、戸田さんは、優しいですね」
真面目な顔で、そう返事してくれる少女に……少なからず理沙は救われた。
彼女の言を聞くには、風紀の誰かが彼女と多少なり関わっているらしい。
その関わった誰かと燐が……命の重みを理解してくれる。
理沙ともこうして、血の通った会話をしてくれる。
そうだ……ここは、死者の国なんかじゃない。
そう、心から思える。
「……あ!」
そう言ったところで、レントゲンから件の彼が戻ってくる。
理沙の後輩らしいが、それでも、先輩である理沙をああだこうだと囃しながら、気安く肩を組んで中指と人差し指を口元に運ぶジェスチャーをする。
まぁ、言わんとすることは理沙もわかった。
入院中一番辛いのはまぁ、「そこ」だ。
景気付けに燻されるのも悪くないと立ち上がり、燐に頭を下げる。
「あの、その、戸田さん! 喋れてよかったです!
ありがとうございました……!
あと、そのフルーツ、同室の皆さんと適当に食べちゃっていいんで……それじゃ、また!」
そういって、後輩にせかされるように部屋を出ていく。
急ぎ過ぎたせいで……大きな羽根が翼から一枚落ちて、病室に舞い落ちた。
ご案内:「常世病院」から日下部 理沙さんが去りました。
■戸田 燐 >
「さて、どうでしょう? 意外と小悪魔系かも?」
冗談めかして返すけど。
今も自分の胸の中には心臓が動き続けていて。
それを何となく、意識してしまった。
そこに帰ってくる風紀の後輩は。
「あ、はい」
どう考えても吸う気満々だった。風紀?
「いえ、私も喋れてよかったです。それでは」
慌しく二人が去っていった後。
つい。彼から抜け落ちた羽根を拾ってしまう。
それは純白で。光の加減で透き通って見えた。
ご案内:「常世病院」から戸田 燐さんが去りました。