2020/06/26 のログ
ご案内:「ヨキの美術準備室」にヨキさんが現れました。
ヨキ > 午後。日が傾くにはまだ余裕のある時刻。
窓と入口を開け放し、サーキュレーターを回している美術準備室は、初夏のさわやかな風が吹き込んでくる。

そんな中、事務机に座って居眠りをする教師がひとり。

「…………、すぴー……」

とても気持ちよさそうに、とても無防備に眠っている。
腹の上で十指を組み合わせ、足を伸ばした格好でオフィスチェアに凭れた格好。

ヨキ > スケジュール管理用の帳面は開かれたままで、その傍らにはスマートフォンと缶コーヒーが置かれている。
ヨキにしてはいろいろな文房具が中途半端に使われたままで、いかにも仕事の途中といった具合。

いつもならきっちりとセットするスマートフォンのアラームも、今は鳴る気配がない。

「……………………」

深く上下する肩と腹の動きから、眠りの深さとすこやかさを察せられる。

ご案内:「ヨキの美術準備室」に宵町 彼岸さんが現れました。
宵町 彼岸 > 音もなく準備室の扉が開く。
ヒエンソウとカンパニュラを活けた花瓶を抱きしめるように持ちながら
そっと人影は準備室に潜り込んだ。

「……」

口の形だけでオジャマシマスと発言し……ゆっくりと眠る教師に近づく。
その衣擦れの音も花瓶の水もミュートにした映像であるかのように音を立てない。
音もなく傍らに立ち尽くし寝顔を見下ろしながら暫くたたずむと身をかがめ……

「……」

慎重に場所を見極め微調整しながら花瓶を机の上に置く。
そのまま音もなく机を通り過ぎ、窓際に置いてあったカバンを拾い、
再び入り口側に少し戻ると床にぺたんと座り込んだ。

僅かに首をかしげながら構図を確かめるとわずかに満足げに頷いた。
実は少し前にこの部屋に来たのだが……そこで眠る教師を見てふと思いついたことがあった。
そのままの構図を保ちたかったというのもあるが気持ちよさげに眠る教師を起こしたくなくって音と気配を完全に消去しつつ花を活けて。
こうしてみると本当に窓がキャンパスのよう。

「……」

視線の先には眠り込む教師と窓から見える青。
晴れ渡る青と逆光の影法師。そして活けた花瓶。
絵画のような背景の中央で微睡む教師の安心しきった表情を白昼夢を眺めるようにじっと見つめる。

ヨキ > よほど疲れていたのか、彼岸が花瓶を置く一部始終の合間も目を醒ますことはなかった。
そよそよと吹き込む風に、波打つ髪がちらちらと揺れる。

ようやく目を醒ましたのは、彼岸がたっぷりとヨキの寝顔を眺めた頃。
ふとした拍子に、徐に瞼を開く。

「…………。ん……」

長い睫毛が小さく震えて、ぼんやりと目の前を見る。
そこに色鮮やかな花が活けてあるのを見て――いちどきに上体を引き起こした。

「おや。これは……」

何事かと振り返ったところで、床に座っていた彼岸の姿が目に入る。
見知った教え子の姿に、笑顔がふっと和らぎ、深まる。

「――やあ、カナタ君。この花は、君が?」

宵町 彼岸 > 以前にもこんな光景を見た気がする。
確かあの時は風鈴がとても綺麗な音を立てていた。
あの頃はもっととげとげしかったような気もするけれど……
ああ、やっぱりこのヒトは藍色が良く似合う。

じっと眺めた後満足したのか座り込んだままゆっくりと目を閉じ耳を澄ます。
部屋に響くサーキュレーターの音、運動部、それか体育系の授業だろうか。
少し遠くから聞こえてくる潮騒のような喧噪と布を流すような風の音。
そして規則的な呼吸の音。
酷くゆったりと時間が流れているような空間で無音のままただただ耳を澄まし続ける。


椅子のきしむ音に衣擦れの音。どうやら起きてしまったよう。
こちらに視線を向けられる気配にゆっくりと目を開け、
お気に入りのソレがこちらを見ていることを認めると
数秒間無言のまま見上げ、じっと見つめ続ける。

「ん」

否定とも肯定ともつかない声を返したあとゆっくりと笑みを形作って。

ヨキ > 「ああ、有難う。手土産に持ってきてくれたのかな?
君は前にも職員室で、ヨキの机を飾ってくれたっけ」

花瓶を眺める視線は柔らかで、嬉しげだ。

「これは何という花だったかな。
知っているようでいて、なかなか名前が出てこないものだね。
ふふ、綺麗な青色だ」

写真を撮らせてもらうね、と。
言うが早いか、スマートフォンのカメラアプリを立ち上げて、机上の花瓶を取る。

「もしかして、素敵な花言葉がある花だったりするのかな?」

なんてね、と。くすくす微笑む様は、まるで写真に大事な宝物を収めたような顔。

宵町 彼岸 > 「……きがむいた、から」

園芸部に知り合いがいるというのもあるけれど
この部屋にとても似合うと思った。それだけ。
やはりパズルのピースがはまったかのように綺麗に収まった。

「しらべるの、たのし、です?」

写真を撮る姿をじっと見つめる。嬉しそう、に見える気がする。
花を写真でとるのが好きなのだろうか。それとも花が好きだったのかもしれない。
もう夏の盛りが近づいてきているからだろうか。なんだかふんわりポカポカした感触を覚える。

「……ん」

かくっと首を傾げ数秒固まり、にへらっと笑みを浮かべた後
うつむいて前髪をくるくると指先で遊ばせる。
花言葉は勿論覚えているけれど……なぜか口にするのがはばかられる。

ヨキ > 「ふふ。気が向いた先がヨキの部屋、というのは嬉しいね。
まるでプレゼントみたいではないか。
花を贈られる、というのはいつでも気持ちのいいものだよ」

調べるのが楽しいかと問われて、迷わず頷く。

「ああ。
花の色から引く図鑑、というようなのもあってね。
それを一ページ一ページ、繰っていくのも楽しいものさ。
知らないことが少しずつ、自分の知識になってゆくのが楽しいのだろうね」

花言葉を言い淀む彼岸の様子に、ふっと吹き出して。

「何だ、そんなに恥ずかしい花言葉なのか。
他に誰も聞いてはいないのだし、教えてくれてもいいだろう?」

はにかんで、席を立つ。
彼岸のもとへ歩み寄り、子どもを見下ろすように傍らへしゃがみ込んで。
教えてくれよ、とばかり、笑い掛ける。

宵町 彼岸 > 「……きがむいたから」

違う意味で同じ言葉を繰り返す。
実際贈り物というのも間違ってはいないから。
花を選ぶとき、確かにこのヒトと部屋に合いそうな花と
考えていたのは確かなのだから。

「そ」

ああよかった。花の名前を答えなくって。
内心そっと胸をなでおろす。
危なく調べるのを邪魔するところだった。
言わない方がいいかもと思いついてよかった。

「えっと」

こちらを覗き込む瞳をじっと見返していると
思わず手を伸ばしそうになるけれど思いとどまる。

「……清明、と、共感、感謝」

花言葉に複数の意味があってよかったと思う。
思いついたものはもっと言いようのない物だったから
それを伝えたらモヤモヤしてしまったかもしれない。

「画材、とか使わせてもらって、ますし」

そう、これは感謝と気まぐれなのだから他に意味なんかない。

ヨキ > 「ふふふ……。何だかくすぐったいな。
次はヨキの方から、君に贈り物をしたいね。
君はどんなものが好きかな」

彼岸の、癖毛の中に垣間見える緑色の瞳を真っ直ぐに見つめる。
ヨキの目は笑みの形に細められ、さながら真正面から教え子の顔を覚え込むかのよう。
相手の中に、手を伸ばしそう、などという衝動があることにはついぞ気付かず。

「…………。ふふっ。ふ……、そうか」

花言葉を聞いて、どこか照れ臭そうに顔をくしゃくしゃにする。
目尻には笑い皺が薄く浮かんで、口元を手のひらでごしごしと拭った。

「それは嬉しいな。有難う、カナタ君。
ヨキにそんな花言葉の花を贈ろうと思ってくれるだなんて。
先生をやっている甲斐があるというものだよ」