2020/06/27 のログ
宵町 彼岸 > 「んー」

かくんと首をかしげる。
好きな物と言われると多分、甘い物とかそんなものなのだろう。
あとは、そう。綺麗なもの。
でもそれを上手に言葉にするのは難しい。

「うん」

嬉しそうだなぁ……なんでだろう。わからない。
このヒトのことは本当にわからない。
切っ掛けもその後のことも覚えている。

「たのしそー?」

素直で表情に出るヒト。隠し事なんかできなさそうで
くるくると鮮やかに表情が入れ替わる。
喜怒哀楽が豊かで本来の自分とは正反対かもしれない。
……けれど何故だろう。このヒトに関わる時、いつも自分は不安定だ。
どうしてこんなに不安定なのか感覚の振れ幅が大きくなるのか理解が出来ない。
どうしてここまでこのヒトに執着するのか、分からない。

「わかんない」

……本当に、わからないの。
この花言葉を衝動的に選んだ理由も。

「そ。……よかった」

だからいつも通りの表情を被る。

ヨキ > 「君はまだ、『好きなもの』が定まっていないだろうからね。
ヨキの方から、君にいろいろなものを見せてやりたいな。
その中にはきっと、君が好きになれるものもあるだろうから。
そうやって、自分の世界を広げていって欲しいんだ」

しゃがみ込んだ格好で、間近の距離からぽつりぽつりと語る。

「楽しいよ、ヨキは。教え子と接するときには、いつだって。
別にお返しを期待している訳ではないが、対話をしたり、何かを贈り贈られるとき、より心が通じ合ったような気分になれるからね。

君は言葉少なだから、なかなか本心を打ち明けてはくれないが……。
あの花瓶の花は、君の代わりに多弁で居てくれるように見えてね。
花言葉って、そういうものだと思うんだ」

彼岸の本心を見定めようとするように、瞳を覗き込む。

「花に託す以外にも、いつか君の心が、君自身の言葉でヨキに伝わってくれたら、もっと嬉しいな」

宵町 彼岸 > 「せんせ、は、沢山ありそう」

間近で静かに語る言葉に感情がこもっているような気がする。
このヒトにとって世界は綺麗なのだろうか。
それとも綺麗にするのが好きなのだろうか。
何をどうして好きだと思うのだろう。
どうしてあんなに綺麗な絵をかけたんだろう。

「……ふしぎ」

本当に不思議に思う。
……ああ、知りたい。何故それを知りたいんだろう。
何をこの花に託したんだろう。何を期待したんだろう。
じっと見つめ返した後困ったように首をかしげる。
本当に困っているのだ。自分でも珍しく。
言っていることも、起きていることも理解出来ない事が多すぎて。

「……こんな、ばしょなのに?」

この島には本当に色々な者が居る。
純粋で多彩で、未来に向かうことが楽しそうで仕方がない。そんなものと一緒に
誰かを傷つけ、舐る事が楽しくて仕方がない者やこういう人を騙すことを好むもの
……そして自分のような化け物もいる。
ここはまるで巨大な実験棟だ。
それでもどうしてそう言い切れるのだろう。

「ボクにも、上手くわからない、です
 花だって、気まぐれ。なにもない、のかも」

自分にココロがあるのかすらわからないのに、伝える事なんてできる気がしない。
覗き込む瞳からついと目を離す。こうやって見つめていると何か言いようのない感覚があふれそうで
そしてそれをなぜかこのヒトにだけは悟られたくなくって

「別の子、にじかんかけてあげた方、が建設的、ですよぅ?」

そうやって誤魔化すしか思いつかなかった。

ヨキ > 「それは勿論、たくさんだ。
居眠りは好きだし、花も好きだし、美味しいものも、楽しいことも。
それから、君と過ごす時間もね。

こんな場所でも……ヨキにとっては、大事な家のようなものだからね。
たとえ大変だろうが、くたびれようが、傷付こうが、こういうひとときを過ごせば全部吹き飛ぶのさ」

否定的な彼岸の言葉に、尚も穏やかに微笑む。

「たとえ花に何も込められていなくても、花言葉などというものがなくても、ヨキは構わないのだよ。
あの花を見て、ああ綺麗だ、とか、嬉しいな、と思った気持ちは本当なのだから。

上手に言葉にならなくたって、心が揺れ動いているのは事実だ。
カナタ君も、それだけは覚えていて欲しいな。
決して『なかったこと』にはして欲しくないのだよ」

にんまりと笑って、逸らされた瞳を目線で追い掛ける。

「ヨキは教え子みんなに時間を掛ける。
そうしないことこそが、今まで『先生』として培ってきたヨキのすべてを壊すことになってしまうから。
君がどれだけ自分を粗末に評しようと、ヨキは絶対にそれをしない」

宵町 彼岸 > 「……そ」

ちらっと蒼色の瞳を見返しまたすぐに視線を逸らす。
顔なんて認識できないのにどうしてまっすぐ見れないのだろう。

「……ぅ」

意味があると言いたい事に驚く。
どうして期待してしまうのだろう。
なんでこんなにめんどくさいんだろう。
言いたいなら言えばいい。伝えればいいだけなのに。

「せんせ、すき、いっぱい。
 時間どんどん、無くなっちゃう」

それでもこの人は喜んで過ごすんだろうなと思う。想像に難くない。
だからこのヒトは評価が賛否両論にも関わらず、とても多くの生徒に親しまれている。
それはきっと教師としてはとても素敵な事なのだろう。

「……せんせーは、いけず」

ヨキ > 二度目に逸らされると、再び追い掛けることはせずにその横顔を眺める。

「君はヨキの時間のことは気にしなくていいんだよ。
時間を捻出して、作り出せるのが大人なのだから」

大したことはない、とばかり、にっと笑ってみせる。

「……うん? いけずだって? ヨキが?」

穏やかに問い掛ける。

「君は本当に、ヨキが他の子に時間を掛けていた方がいい?
それとも、」

小首を傾いで、声を落とす。

「ヨキを独り占めしたい?」

宵町 彼岸 > 「その点がくせーは不便。
 ……それ以上に、良いことも沢山です、けど」

学生とは基本拘束されるもの。
とはいえこの学園はかなり学生に対して緩い分そこまで制約はないし
以前の扱いに比べれば相当良い身分であることは間違いない。
……研究だって好きに出来るし。

「……ん」

思わず選んだ言葉に自分でも少し悩む
どこかストンと落ちる言葉でもあったのでそのまま頷き
ぼうっと窓へ視線を向けていた。
いつも通りこのヒトは笑っているだろう。
……そう思っていたけれど、少し予想と違う低い声の含みを持たせた言葉についと振り向く。

「……わかん、ない。
 せんせーは、ほしーよぅ?
 けど……理由が分からない、の」

言いようのない戸惑いが少し言葉にのる。
人によっては告白そのものの返事を平然と返し
ゆらゆらと揺れる瞳でじっと瞳を見つめて。

ヨキ > 「そうだよ。学生には学生しか出来ないことがある。
教師には、教師にしか出来ないことがある」

静かに微笑んだまま。
彼岸から返された言葉を聞く。

「そうか。君は、ヨキのことがほしーか」

静かに、微笑んだまま。
目を伏せて、二三頷く。

再び顔を上げ、彼岸を見つめる。

「ふふ。
理由がわからない、では、まだもう一歩だな。

それでは……。
これは宿題にしよう。次に会うときまで、とは言わん。
ずっとずっと考え続けて、答えを導き出してくれ。

どうして君は、ヨキのことが欲しいのか。

なかなか答えが出ないようでは、研究の題材にはぴったりだろう?」

な、と念を押して、徐に立ち上がる。

「さあ、ヨキはもうそろそろ、仕事に戻らなくては」

宵町 彼岸 > 「ん」

こくんと一つ頷き、じっと瞳を覗き込む。
ああ、本当に綺麗だなぁ。深くて、艶やかで。
私なら誰より綺麗に濁せる(アイセル)と思うのに。

「……やっぱり、せんせーって」

きっとこの感覚の答えをこのヒトは分かっているのだ。
何も話さないし、何も伝える気はないけれど
ソレでもこのヒトは……

「……いぢわる」

言葉では詰りつつもふにゃっとほほ笑んで
そのままふらっと立ち上がるとくるりと踵を返す。
何時か言葉にするだろうか。いや、きっとしないだろう。
そしてきっとその事も伝わっているに違いないから…

「おしごと、……ふぁいと」

後ろを向いたままぐっと両手でガッツポーズを作った後
振り向くことなく部屋を後にする。

ヨキ > 「ヨキは教師である以前に、大人だからな。
多少は意地も悪いものさ」

腰に手を当てて、にっこりと彼岸を見下ろす。

「……ふふ。そればっかりは、まさか褒め言葉ではなかろうな」

参った参った、とでも言いたげに。
部屋を出て行く彼岸の背中へ、声を投げる。

「――綺麗な花、ありがとう。
次は何かお返しするよ」

花瓶を手に微笑む。

それを机の隅に据え――絶えず眺めながら、己の仕事へと戻ってゆく。

ご案内:「ヨキの美術準備室」からヨキさんが去りました。
ご案内:「ヨキの美術準備室」から宵町 彼岸さんが去りました。
ご案内:「『裏切りの黒《ネロ・ディ・トラディメント》』地下拠点」にエルヴェーラさんが現れました。
エルヴェーラ > 廃ビルの地下、青色の電子光によって描かれた
地図が展開されるテーブルの上を、白髪のエルフ――
エルヴェーラは見つめていた。

暗闇の中、無機質な光を放つそれは、立体的な落第街の地図である。
少女が細指を横へと動かす度に、小さな落第街はくるり、
くるりと回っている。
テーブルの上には所々に傷や破れの見られる色褪せた紙が
広げられているのみである。
これは機械装置を用いたものではない。魔術である。



エルヴェーラはその中のビルの一つに向けて手を突き入れると、
中指と人差し指で押し広げるかのような『操作』を行う。
一瞬にして拡大される立体地図。
エルヴェーラは人差し指を、そこへ突き入れる。

同時に青白い光で、ぎっしりと羅列された文字が
エルヴェーラの顔の前に生成されてゆく。
エルヴェーラは目を滑らせる。
文字を追うその無機質な昏い紅は、さながら整った顔立ちの人形
の眼孔にはめ込まれた二粒の宝石である。

彼女の瞳はどこまでも昏く、儚く。
目の前の青白く無機質な光を映し出していた。

エルヴェーラ > 「死体を操る異能者、白川 赤司、通称『セクト』。
落第街に住む二級学生を拉致、殺害後に異能で生ける屍と
変じさせ、手駒を作り出す計画――」

氷の如く無色透明で、冷たい声が地下に響き渡る。
青白い光の羅列を撫でるようにすすす、と掌を払う動作を
行えば文字が次々と上から下へ流れていく。
組織の一員……フェイスレスタイラントが調査した白川 赤司の
個人データである。
それから、アリソンの名。今回の計画で発生することが
予測された証拠を『消滅』させる為のキーとなる人物であった。
大量の死体を用いた戦術を展開することは
火を見るより明らかであった為、
それら全てを跡形もなく消滅させる力を持った者が必要だったのである。

高い能力を持つ彼女だが、制御し辛いのが玉に瑕だ。
作戦を変更せざるを得なくなってしまったのは事実だが、
それでも彼女の力に助けられた所は大きい。

「――無力化」

エルヴェーラがそう口にしながら、突き立てた指を
数度動かすと、羅列の最も下、何も無い空間に新たな文字が現れた。

同時に、文字の羅列の横に青白い線で描かれていた
『セクト』の顔の輝きが失われ、弱々しい光となる。

それを確認した後、エルヴェーラは立体地図へと
突き入れていた指を静かに引き抜く。

同時に、立体地図のあらゆる場所に
青白い光で描かれた顔と様々な文字が一斉に現れる。
それを見て、エルヴェーラは目を細める。

エルヴェーラ > 「いくら此処が淀んでいるからといって、
毒を投げ込めば川が腐るだけだというのに……」

エルヴェーラは思案する。
ここ、落第街にはあまりにも悪が多すぎる。
それは、良い。それは良いのだ。問題ではない。
殺しも、人身売買も、違法薬物の取引も、好きに行えばいい。
それが、落第街の日常だからだ。
その全てを救うことなど不可能であり、そもそも救う理由もない。
悪事によって救われている者も居るからだ。
ここで『そうすること』でしか居場所を確保できない者達が数多く
居るからだ。

しかし、時折『度を超えた者』が現れ、街の
システムごと破壊しようとする。これは、大きな問題である。
彼らの多くは、法で裁けぬ者達だ。
そういった者を断罪するのがエルヴェーラの所属する
『裏切りの黒《ネロ・ディ・トラディメント》』の行動原理である。

『法の外に在ってなお目に余る者』を刈り取る。
それが、彼女らの仕事だ。


何よりエルヴェーラには、彼らから力を奪い取る異能もある。
『私刑』の執行者にはうってつけだった。
『廃忘の霧《ホワイトアウト》。
『約束を違えた者の異能を消し去る異能』である。

無論、彼女らの行いは法に認められている訳でもなく、
誰に支持されるものでもない。
悪を裁く悪。法の外に在る『私刑』の執行者。
悪の矜持など、幻想に過ぎぬのかもしれない。


もし、そうだとしても。


我々は幻想と踊り続ける。
踊り、狂い続ける。
たとえ血を流しても、反吐を撒き散らしても。

狂ったように幻想と、踊り続けてみせよう。

それが、『悪の矜持』だ。

エルヴェーラ > 懐から出したメモ用紙を、左手の人差し指と中指で挟みながら、
視界の端に配置するエルヴェーラ。

それは、組織の一員であるヴラドの手によって収集された情報である。
ヴィランコード、ヴラド。
落第街で野菜を売る好青年、武楽夢 十架。
その裏の顔は、落第街の情報を組織へと流す優秀な情報屋である。

立体的な地図上に表示される情報に目を滑らせながら、
逐一指を尽き入れ、動かすことで追記してゆく。
追記し終われば、ふぅ、と一つ息を吐くエルヴェーラ。

その額には汗が滲んでいた。いつの間にか、肩も上下していた。
魔術に適性があるエルフとはいえ、
ここまでの数多な情報を術式で制御するのは、負荷が大きいのだ。

しかし機密性において、これより優れた手段を
エルヴェーラは知らない。あらゆるネットワーク上に存在せず、
エルヴェーラの指一つで保存している全ての情報を管理することが
できるのである。自らの命を削る行為と組織の情報を守る行為。
どちらを優先するか。それは彼女にとって愚問である。

そして、彼女は最後にメモ用紙の一番最後に書かれた情報に
目を細める。そうして、もう一度地図に指を突き入れると、
数多の重ねた情報を取り払い、その奥に在った情報を取り出す。


そこには、一人の首輪付きの少女の顔が映し出されていた。


『日ノ岡 あかね』の、その顔が。

エルヴェーラ > 「『日ノ岡 あかね』――トゥルーサイト最後の生き残り
……ぜひ、お会いしたいものですが」

エルヴェーラは立ち上がる。
しかし、今夜は日が悪い。

噛み砕かれ、貫かれ、抉られ。
『セクト』戦で負った傷は未だ深く、彼女を蝕んでいる。
簡易的な治癒の魔術ならば使うことができる。
しかし、気休め程度だ。
少し治りが早くなる程度である。
少なくとも今夜は、安静にしなければならないだろう。

「またの機会に、とっておくとしましょう。
お互い、『また』があれば、ですけどね……」

青白く光る『日ノ岡 あかね』に目をやった後。
エルヴェーラは立ち上がり、部屋を出た。

ここは落第街。
混沌渦巻く街。自由が暴力を振るう街。
誰であれ人の命など、いつ失われてもおかしくないのだから。

靡く黒コートは、闇の中に紛れて消えていった。

ご案内:「『裏切りの黒《ネロ・ディ・トラディメント》』地下拠点」からエルヴェーラさんが去りました。
ご案内:「日ノ岡あかねのいる場所」に日ノ岡 あかねさんが現れました。
日ノ岡 あかね > どこか。
少なくともベンチがあって、自販機があって、屑籠があって、街灯があるどこか。
そんなどこかに……日ノ岡あかねはいた。
鼻歌を歌いながら、月を見上げながら。

日ノ岡あかねは、上機嫌に笑っていた。

日ノ岡 あかね >  
ホットの紅茶のペットボトルを片手に。
ただただ、月を見上げて笑う。
これで、賽は投げられた。

結果は――どう転んでもいい。

少なくとも、これで誰もが『自分自身の在り方』について考える。
『自分自身の今後』について考える。
目の見えない敵に吠える時間は終わった。
目に見えない誰かのせいにする時間は終わった。

『自分自身にとって何が良くて何が悪いのか』を考える必要が出た。

考えないなら……それはそれでいい。
その他大勢になる事を自分から選ぶことも賢い選択だ。
考えるなら……それはとてもいい。
自分がどういう物語を紡ぐか考えられる。
『悪』が『悪』だから『悪』を行う話をするように。
『日ノ岡あかね』が『日ノ岡あかね』だから『日ノ岡あかね』を行う話をするように。
誰もが『自分』が『自分』だから『自分』を行う話を考えるなら、それに越したことはない。

だって、それはきっと……『楽しい事』だから。

「みんな……どんな役割(ロール)を欲するのかしら、自分の役割(ロール)をどう定義し、どう展開してくれるのかしら……?」

クスクスと、笑う。

「『勿体ない』わ、折角役割(ロール)を与えられるのなら……自分の役割(ロール)が何なのかくらい、答えられるようにならなきゃ」

あかねは……笑う。

「それをするために……みんなこの島にいるんだから」

日ノ岡 あかね >  
「さぁ……『楽しみ』ましょう。自分一人で『楽しめる』なら、私は何もいわない……だけど、そうじゃないからきっとみんな……この島にいるんでしょう?」

あかねは笑う。
あかねは笑う。
日ノ岡あかねは――慈しむように笑う。

「アナタの物語に私が使えるのなら……遠慮なく使っていいのよ、タダで使われるつもりなんてないけれど、『面白い物語』なら……私はいつでも大歓迎」

遠くを『視る』ように。
静かに……笑う。

「切っ掛け(フック)があるんだから……あとは自分で何とかしなさいね? 誰にだって、そう誰にだって」

日ノ岡 あかね >  
 
「――運命を塗り替える権利があるわ」
 
 

ご案内:「日ノ岡あかねのいる場所」に持流 童男さんが現れました。
ご案内:「日ノ岡あかねのいる場所」から持流 童男さんが去りました。
ご案内:「日ノ岡あかねのいる場所」に武楽夢 十架さんが現れました。
武楽夢 十架 > 先日出会った女の子が主催のイベントに行った帰りに
凄いことをしたなと思ったその子にまた会えるとは思いもしなかった。

だから、少し目を丸くしてから、親しい友人に声をかけるようにして口を開いた。

「やぁ、こんばんは」

日ノ岡 あかね > 声を掛けてきた少年……十架に緩やかな笑みを向けて、あかねは嬉しそうに片手を振った。
まるで、『待っていた』とでも言わんがばかりに。

「こんばんは、トカ君」

そういって、ベンチの隣を軽く叩いて勧める。
相変わらず、満面の笑みで。

「さっき、来てくれてたわよね? ありがと、御話聞きに来てくれて」

そう、何でもないように御礼を言った。
放課後、普通の男女がそうするように。

武楽夢 十架 > 手を振替しながら歩み寄って、返礼を受けると少女の隣に座る。
あの日は、彼女が隣に寄ってくる方だったか。

来ていたのが見られたかな、と思ったのは自意識過剰かと思ったが
そこまでではなかったようだ。

「名前を知った女の子がやる催しがあれば、ちょっと気になるからね」

少し照れつつそう返す。

「場の空気とか凄かったね……あかねさんには悪いけど俺には『関係がない』から、ちょっと舞台を見てる気分だったよ」

そう素直に称賛の意味で言葉を口にした。