2020/07/05 のログ
紫陽花 剱菊 > 【後日持越し予定】
ご案内:「学生街(大通り)」から紫陽花 剱菊さんが去りました。
因幡幸子 > 【後日持越し!】
ご案内:「学生街(大通り)」から因幡幸子さんが去りました。
ご案内:「学生街(大通り)」に因幡幸子さんが現れました。
ご案内:「学生街(大通り)」に紫陽花 剱菊さんが現れました。
紫陽花 剱菊 >  
「失礼……私のいた世界では、ろけっとなるものは無かった。」

詳しく口からは語らないが、乱世の世。
戦に勝つために多様な技術が目まぐるしく発展していったが
月まで飛ぶようなものはなかったと覚えている。
技術的には可能だろうが、彼女のような大きな夢を追い求める人間は誰一人いなかったのだ。

「ふむ……。」

語る口先は情熱。赤い瞳はたぎる炎。
自分とは対照的ではあるが、男の本質は穏やかなもの。
夢を語る彼女の言葉は、何とも耳朶にしみ込む心地よさ。
一文字の口元も、自然と緩んでくる。

「……夢の在る話だな。此の世界の月には如何なるものがあるのか……。」

「其方の情熱に当てられて、私も興味が出て来たよ。」

うむ、と小さく頷いた。

「嗚呼……此方の世界と天と地の差が幾何か違うのも在るが……成り行きでな。」

「"月まで飛ばされ、稲妻と成りて地上に戻った"。いやはや……お天道様の向こう側は、息苦しいものだったよ……。」

懐かしげに男は語る。
全部事実だ。事実なのだが
鵜呑みにすれば生身で宇宙に飛んだというとんでもない事を話していると気づかない……!

因幡幸子 > 公園を歩いていたら突如開いた"穴"に落ち、気が付いたら別の世界に居る。
全くもって夢のような出来事に見舞われて、さてはて何処に落ちるものかは霧の中。
案外存外、月まで登って落ちる事能わじとなるのかも。ともあれ、
語りながらに埒外な思考を浮かべておりますと──

「少なくとも都市は無いみたいですね。他にも謎のモノリスが出現し云々とかもあるようですが」
「おっと、興味がありますか!それは何より、では早速華やかなりしロケット研究会の御話を──はい?」

なんという事でしょう!目の前の男性から埒外な事が飛び出るじゃあないですか!
思わず鳩が豆鉄砲を集中砲火されたような顔になってしまうのです!

「……成程、つまり、ロケットが無くとも自在に飛んでいける……ということですね?」

何と目の前の男性は人間ロケットだったのです!
つまり、彼をロケットに乗せればロケットが飛びます。おこん先生見ていますか、今ここに悲願達成の手段がありますよ……!
確認しながらに男性の手を握ります。握りました。先程チラシを渡した時とは違い、確とその感触を確かめるように。

「まあまあ、まあまあまあ、立ち話もなんですし、ちょ~っとどうですかね、こうお茶でもしながら!」

視線の先には最近オープンしたばかりの和風喫茶店建っています。その名も純喫茶「あびす」
何でも洋菓子でありながら和を取り入れたスイーツの数々が人気を呼んでいるとSNSでも些かの噂。
勿論私の耳が逃す筈も無くキャッチ済みです!

「……まあ、ちょっと並ぶみたいですけど。立ち話するにしても並びながら~なら、まあアリですかね!」

生憎と結構な人数の人達が並んでいるのはキャッチしていませんでしたが、それは些事だと主張したい。
とはいえ
カップルと思しき学生服姿の男女。
羊のような角が生えた痩躯のお兄さん。
静かに本を読みながら並ぶ老紳士。
お孫さんと思しき女の子と御話をしている御婆さん。
腕が4本ある単眼のお姉さん。
他にもetc.etcと様々な人達が並んでおります。
この世界のヒトと、異なる世界のヒトが整然としている様子は何処となく不可思議かも解りません。

紫陽花 剱菊 >  
まさか、この男は埒外な事を言ってるとは思っていない。
異邦人故の"常識"のずれ。何ならあの世界は
有数の武人足れば、地力で月まで飛ぶことも不可能背は無かっただろう。
普通の人にとってそれが埒外なんだぞ?わかるか?わかんないんだろうなぁ。

「……ろけっと、なるものに興味が無い訳では無いが……其方の情熱に惹かれた。」

人間的にはお人好しの部類に入る。
だからこそ、彼女の情熱に一つ、華を添えてやりたいと思うのは必然。
……まさか、ロケットに乗せられそうになっているなんて微塵も思うまい。
男は小さく頷いて、少女についていくことにした。

「然り……私はともかく、女性を立たせ続けるのも宜しくは無い。」

そんなこんなでなんやかんや並ぶ羽目になった。
中々人気の高いお店のようだ。
老若男女所か、異邦人の数をちらほら見える。

「私は並ぶのは構わないが……ふむ……。」

外装は悪くない雰囲気の店だ。
よもや、此処なれば巡り合えるかもしれない。
"抹茶ババロア"。夢にまで見た、あの和スイーツに……!

「……ふむ、ふむ、成る程……。」

心なしかなんか目がキラキラ輝いてるぞ!

因幡幸子 > 「情熱は大事ですよ。いやあ~惹かれただなんて言われるとお恥ずかしい!口が上手いんですから~」
「御心配もありがたく、けれども私はこう見えても足には自信があるんですよ!」

手を離してから自分の腿を叩いて得意顔。脚線美的な意味でも自信があります!そう言外に語るドヤ顔がびかーっ!!
してから並びます。様々なヒトが並ぶ中に私達も並ぶ事で不可思議の一部となります。
"門"なんてものが無ければ実現する事のない光景。何とも奇妙だなあと島民2年目でも思うのです。

「なんでもこのお店。正統派の和菓子も並んで……あ、和菓子というのは、この島の主要文化を構成する国の菓子で──」

並びながらにお菓子の御説明。和菓子の概念は私の世界にはありましたが、生憎隣の彼もそうであるかは判らないので、
滔々と蘊蓄めいた言葉が流れる。そうして一通り述べてから彼を見上げるのですが

「……もしかして甘党さんです?」

呟く言葉に僅かに喜悦が混ざっておられる。瞳が柔和に和んでいるようにも見える。
口端が緩んでいるような、そうでもないような。

「それならこのお店はきっとお気に召すんじゃあないかと!なんせSNSでも話題の人気店!」
「異国同士の甘味を合わせた合体技が中々いい感じだそうで、一番人気はババロアらしいですね」

それなら丁度いい。という訳でもないのですが、文字通りの甘言を推し並べてみせましょう!
今の私はロケット燃料が充填されたようなもの!

紫陽花 剱菊 >  
「然り……人を人たらしめる命の熱……倦まずたゆまず、大変好ましく思うよ……。」

生きる熱とも言い換えるべきか。
かくも珍しくこう言った人間と出会えた気もする。
前向きで、明るく、眩しい。太陽が如き、好ましき光。

「…………成る程。」

顎に指を添えて、じ、と示された足を見る。
確かに中々に健康的。筋肉の均衡も良く大変肌の色も艶やか。
……滅茶苦茶冷静そうに見えて、言われたら言われたでしっかりみてる。
めっちゃみてる。凝視してる。彼も男。ちゃっかりしてるわね!

「……成る程。私の世界では、民草の間では砂糖菓子が主流だった……。
 恐らく、其方たちの言う和菓子とやらは、一部の人間が口に出来る高級菓子だ……。」

敢えて当てはめるとすれば、そう言う事になる。

「うむ……。」

頷いた、力強く。
そりゃあもう、大好き。

「えすえぬえす。」

また聞きなれない単語が出てきたぞ!
不思議そうに首を傾けて復唱した。
未だ自分の知らないものが山ほどあるようだ。

「……成る程……!」

ともかく、ババロアが人気とくれば尚の事期待が高まった。
心なしか声音も強い。
少女の甘言に乗せられて、すっかりババロア熱に火が付いた。

「……此処なら巡り合えるだろうか……夢にまで見た"抹茶ばばろあ"……。」

因幡幸子 > 「異なる世界に落っこちた時は吃驚もしましたけどね。幸い色々"近かった"ので、運が良かったんだと思います」
「言葉なんかも通じますしね。割と翻訳機を着けている方も多いですし、サイズもそう変わりませんし」

好ましいと言われると少し、照れちゃいます。だから視線を彼から逸らしてしまうのです。
その先では身の丈2mは超えていそうな男性が歩いておりました。精悍な顔に立派な口髭、そして茜色の肌。
お洋服のサイズが大変そうだなあ。なんて肩を竦めて、それから彼を視ると視線が下を向いている。

「あ、大丈夫ですよ。スカートの下はちゃんと見えてもいいの穿いてますから!」

やべっスカートが短すぎたかもしれない。
はしたないとか言われると困るので機先を制するように捲ってスパッツを示しました。セーフ!
ついでに甘い物も好きなご様子でダブルセーフ!

「ははあ、お菓子が高い世界だったんですね。成程成程……納得の頷きですね」
「あ、SNSとゆーのは……なんと言いますかね。伝言板?自由に書き込めるニュース……回覧板?」

会話の折に不可思議そうな様子を示されたので、私は鞄から携帯端末を取り出し、開きます。
たちまちホロモニタが立ち上がり、島民向けのニュースサイトへアクセス。
グルメタブを開いて、彼にも見せるように差し向けます。
そこには今並んでいるお店の事を紹介している惹句の数々や写真が煌びやかに並んでおります。

「こんな感じ、ですね!」

そうしている間にも列は進む。入れ替わるように店から出てくるのは常世学園の制服を着た女子グループでした。
口々にアレが美味しかった。コレが美味しかった。次はアレを食べてみよう。なんてかしましく述べておられます。
中々どうして期待させてくれる御様子に私の耳も左右に揺れてしまうと言うものです。

紫陽花 剱菊 > 「……ともすれば。其方も異邦人か……?差し詰め、月か……因幡の白兎か……。」

確かにその立派な兎めいた耳、亜人の類とも見受けられる。
運が良かったともくれば、そんな昔聞いた古話も記憶に過る。
そう聞けば尚の事、自分は余程"運が良かった"ようだ。
言語も近しい、そして一人で生きる術もあった。
怠惰に腐っていたあの頃はやはり、何とも恥ずかしい歴史のようだ。
自然と、自らの情けなさに溜息を吐いた。

「…………。」

「……即ち、見られたがりなのか……?」

ドストレートなセクハラ発言を訝しげにかましました。
スパッツなんて文化が無い弊害だぞ!
もう向こう側に見えるでっかい兄ちゃんもきっと驚くに違いない。
白昼堂々、華のJKにそう言う事言うのが如何に危険な事かわかってないのだ……!

「然るに……言伝の術か。成る程、便利なものだ……。」

立ち上がったホロモニタを一瞥すれば、些か眉を顰めた。
自らの世界との情報伝達力の差、戦場で生きていた人間だからこそ
その情報の速さに畏怖を抱かずにはいられない。

だがまぁ、悪い事ばかりではないらしい。

「……おお……!」

思わず漏れた感嘆の声。
何とも眩き荘厳なるスイーツの写真か……!

「成る程……差し当たって、これらが"ゆるふわきゃぴきゃぴ"たる甘味であると……!!」

あ、なんか変な言葉浸かってる。
お店から出てきた女子グループと言葉をトレースしたっぽいです。
変に学習能力があるぞ!

因幡幸子 > 「ですです、私も異邦人です!この島は今年で二年目なので、慣れているように見えるかもしれませんが」
「あはは、因幡も良く言われます。私の名前、因幡と書いて『ちなみはた』と読むので」
「常世学園の一年生。ロケット研究会の因幡幸子です!最近の趣味は──」

憂いげに溜息を吐く様子からして兎、御嫌いなのかな?と思うのですが、それはそれ。
私は漸くに遅れて自己紹介をし、次には趣味でも開陳致しましょうか。なんて所で言葉が止まる。

「最近の趣味は露出狂──ってそんな訳あるかーっ!?」

そして叫びました。口角泡になんとかと腕を振り上げて叫び、そして衆目の視線を頂きます。
見回すと呆れたような顔をしている先程の大柄な男性と目が合います。
違う。違うんです。これはちょっとした事故。そういう意志を込めて頷く私。
YESともNoとも判らぬ味わい深い笑みを浮かべそっと目を逸らす男性。
おお、なんと無力な私!瞼を手で多い天を仰ぎ、耳が萎れる。
それは恰も芝居がかったような所作で、ぶっちゃけわざとらしい。
ですから周りも然して大事とは思わずに、列は直ぐに整然となります。

「まったくもう、なんという勘違いをするんですか……と、そうそう。そういう甘味です!」
「いやあ楽しみですね!ちなみにお誘いしたのは此方なので御支払いはお任せください!」
「ちゃーんと日々アルバイト──労働に身を窶しておりますので、ばっちりです!!」

学業に身を入れない学生が此処にいた。
お気づきでしょうか?島内二年目なのに一年生と自己紹介をしている事に。
そう、私の正体は留年生……!と、多分にゲスったらしく笑み崩れて支払い話をペイした所で漸く店内に入る運びとなる。
窓際の二人掛けに案内され、対面する形で着席。そしてメニュー表を二人で見れるように横向きに開く。
すると其処にはSNSに掲載されていたのと同じように、煌びやかな甘味の写真と名前とお値段と、後カロリーが明記されていました。
最後の要らなくない?

紫陽花 剱菊 >  
「因幡……成る程。良い名だ。名は体を表すとは言うが、幸運の白兎……。」

「私は紫陽花 剱菊(あじばな こんぎく)。異邦の身、乱世より誘われし一振りの刃。……如く無き身では在るが、どうか……。」

よしなに、と一礼する。
相応の礼節を弁えている。
弁えているのに、少女の叫び声に首を傾げた。

「……見られても大丈夫とは、そう言う事ではないのか?……否……。」

「健康的な四肢であり……大変張りも良く、撫で心地が良さそうに見えた。
 所感では在るが、肉付きも程よく、男子足れば蠱惑の白兎かと……。」

めっちゃ真顔でツラツラ言っている。そう、本人はいたって褒めている。
何かとコッチよりはそう言う事情にややオープンだった世界だったから
世界だったから……公衆の面前で言ってしまう……!
公安、拙いぜ公安。警察はお前だ。
なんだか周囲からひそひそと妙な声が聞こえ始めたぞ……!
公安の悪印象はフルスピードだぜ!

「……が、違うのか……。」

勘違いだったらしい。もう勘違いで終わらない事言ったの覚えてる???

「……否、此方は仮にも男で在れば……些か其れは忍びなきかと……。」

男が奢るのが相場である。
隣り合わせで座れば、徐にメニューに目を落とした。
どれもこれも中々どうして、美味しそう。

「……二百六十……八百九十九……。」

何故カロリーを読み上げてるんだい???
急に現実に引き戻してくるじゃん。

「……私は……抹茶ばばろあを頼もうかと思うのだが、其方は……?」

因幡幸子 > 「あじばなこんぎく……あじばな、が苗字でしょうか?乱世、刀……ああ、それでそのようなお荷物を」

変わった名前の響きでした。少なくとも御名前を聞いただけでは文字が想像出来ないくらいに。
乱世から誘われた刀。との仰りようから、携えた長物包みの中身を想起する。
何処となく純和風の店内と合っているように思えました。
そんな思考の横合いから剛速球で言葉が飛んで来て吹き飛ばしていく。思わず足がよろめく。まだだ、まだ倒れんよ。です!

「紫陽花さんストップ。それ以上はいけません!お外ではそういう話題はちょ~っと宜しくないんですよ……」
「いえ、店内でしていい訳もないんですが……いや、その、褒めてくださるのは嬉しいんですけど……ね?」

倒れず、背を伸ばして紫陽花さんの御耳を拝借とささやきます。ひそひそ話です。
公共良俗にうんたらかんたらで、あまり声高にすると宜しくない。そういった事を入店前にささやきました。

「あの、読み上げなくていいですから!罪悪感が!罪悪感が!」

そして今。ああ、メニューに!メニューに!
落ち着いた抑揚で読み上げられる、ともすれば無慈悲な数字の羅列に頭を抱えます。
呪いの言葉だ二週間後に(体重に)効いて来るぞ! Voo!doo!

「こうなったらこの罪は人気メニューで洗い流すしかありません。私も抹茶ババロアです!」

ともあれ折角の人気店。列に並んでまで入ったのですからお目当ては人気No.1の『究極のババロア(抹茶)』です!
なんと抹茶の濃さまで選べる恐ろしい仕様。これが人気店のやる事か!と思わず慄くばかりです!
早速とチャイムを連打して給仕のお姉さんを呼び!二人分の抹茶ババロアを注文し!

『申し訳ありませんお客様。本日品切れとなっておりまして──』

豪快にテーブルに崩れ落ちた。ずしゃあ。

紫陽花 剱菊 >  
「然り。私の家に代々伝わる家紋故に……。」

大きな家でも無かったし、名を残すようなものでもなかった。
其れでも好きな花に上げるとすれば、紫陽花だと応えられる。

「……此れは、刀では在るが、刀に非ず。"雷様"だ。」

自らの背負う竹刀袋を一瞥して答えた。
深くは此処では語らない。言葉通りではあるが
場に相応しくない事は、自らが弁えている。

「…………。」

「……成る程?」

成る程、いけない事らしい。
成る程って言ったけどあんまり顔がわかってないぞ。
何のために成る程って言ったんだコイツ。
人は同じ過ちを繰り返す原因がよくわかるね!

「……?……では、此の数字の意味は……?」

無知の暴力、カロリーの意味を知らない……!
何と言う事だ、彼のいた世界ではそんなものは些末なものであり
女性が気にする数字だとはわからない……。
無知故の暴挙……!寧ろ数字が大きければいいとか思ってる節がある……!
甘味の前に気にするのがダメ、というのは余り間違いじゃないが。

ともかく、これで漸く夢見た抹茶ばばろあに在り付け──────。

「…………。」

人の夢と書いて儚いってよむんだなぁ。
崩れ落ちた少女と共に、そりゃもう顔に虚無を浮かべている。
もう虚無も虚無。ハニワも真っ青な穴ぼこ顔。

「左様か……。」

そっかないかぁ。無かぁ。何もないのかぁ。
辿り着けないかぁ。未だ頂き、高根の花。
無いのであれば、そう。

「…………腹を切って詫びるか。」

なんて?????????何に詫びるんだ???????

因幡幸子 > 燃料の切れたロケットは落ちます。
宇宙空間であるならば制御を失いスペース・デブリの仲間入りです。
今の私もそういった状態に近く、耳だって水に濡れた紙を自然乾燥させたかのように萎れています。
ああ、でも初対面の方の前。しかもこれからロケット研究会についてお話をしなければなりません。
へこたれている場合では無いのです。うっそりと顔を上げ──たら何やら不穏な言葉が耳に入る。What?

「いやいやいや切っちゃダメですから!あれですか、ブシドーですか!雷様の出番はありませんよ!?」

虚無を表情で表せ、と言われたらきっとこんな顔なのでしょう。紫陽花さんの御面相にほら、店員さんも慄いていらっしゃる。
私は慌てて紫陽花さんを制し、ついでに店員さんも制します。ノット通報プリーズオーケー?ってな具合です!
入店前にご紹介された、何やら相当に大事そうな包みの出番は此処じゃあないんです!多分!
私は店員さんを宥め、とりあえずと抹茶のミルクレープを二つ頼みました。嗚呼、ご注文の復唱も無く足早に去って行く。
この店二回目来れるんでしょうか私。SNSになんか書かれたら大変だなあ。なんて他人事のように思いました。

「──で、その数字はですね。平たく言うと……大きければ大きい程、太ります」

そんな店員さんを見送り、改めてブシドーめいた世界からの男伊達、紫陽花さんを真っ赤なお目目で見るのです。

「男の人は……どうなんでしょうね。少なくとも私は気にします」
「気にしますが……いざ甘味!って時は忘れたいじゃないですか~。見ないフリしときましょう。フリ」

め、と人差し指を立てて怒るような注意するような、ちょっとおどけた態度と共にカロリー談義をお送りします。

「それでええと……何処まで話したっけ……ああ、そうそう。ロケット研究会!」
「もし興味がおありでしたら一度部室まで御足労願えれば──あ」

そして次にはロケット研究会への勧誘話!なのですがこの時私に雷鳴の如き閃きが訪れるのです。

「……紫陽花さんってそもそも学園の生徒さんじゃなかったりします?」

大前提。生徒さんかどうか、が大事です。
最初に確認しないといけない事を、ついつい忘れて今に至って魅力的な眉を当惑気に歪めてしまいます。

紫陽花 剱菊 >  
こうまでして巡り合わせが悪いのは何かの呪いか。
或いは、好みの宿業か。
初めて出会った(出会ったことは無い)あの甘い名前の響き。
魅惑的な農緑。薫風と共に漂う渋い甘み。
まさしくして、出会うべくして出会ったアダムとイブだというのに(※一度も対面した事が無いので、これは全て紫陽花剱菊の妄想である。)
この仕打ち……!

「…………己は無力だ。我が宿業を呪い、自刃を以て清めればせめて、幸子だけは巡り合えよう…………。」

めっちゃ二人に静止されながらなんとか止まりました。
お前が腹斬った所でお前の血肉は抹茶ババロアにならないんだよなぁ。
無念にぎりぎりと奥歯を噛み締め乍ら、なんとか妥協の抹茶クレープで頷きました。
そろそろ公安の威信が地に落ちかけると思うんですけど大丈夫ですか?

さて、とりあえずあとは座して待つのみ。
漸く落ち着いたようで、話の続きに戻ってくる。

「ふむ……。」

即ち、栄養素を数値化したものらしい。
真っ赤なお目目を、不思議そうに暗い黒が覗いている。

「然れど……幸子よ。脂肪が気になるので在れば、食べた分動けば良いんじゃないか?」

はいでたー!フィジカル系特有の脳筋発言!
摂取した分動いたら燃えるからいいよね、とか本気で思ってらっしゃる。
全国の女子、ききましたか?
見てください、このとぼけたように首をかしげる男の姿。
今、この店にいる女性は一瞬でこの男を敵視しました。
仕方ない、この男がすべて悪い。

「……勉学で在れば、既に我が国にて修めた。」

はい、その通り。生徒ではない……!

「……そも、私は成人している。今更入学するのが度台、無理な話……。」

学園の事を知らぬままに外部組織に身を置くが故の発言だ。

因幡幸子 > 見つめ返す紫陽花さんの眼は死すら死を望む暗闇。魚に似ず獣に非ず鳥に無く、されど虫とも惑う何かを思わせる。
何故?それはその口からド正論が飛び出すからです!
幾ら詭弁を並べても絶対に勝ちえぬ約束された勝利の言葉。「食ったら動け」に勝てる者などいないのです!

「そりゃあそうなんですけどね!いえ、私も運動は嫌いじゃあないんで動きますけど」
「脚力とスタミナには些か自信がありますし、でも紫陽花さん。それも女の子には言ったらダメですよ」

私が運動に嗜んでいなかったら危うく即死するところでした。
危ない危ない、心の内で安堵して紫陽花さんに再度甘くないご注意を飛ばすのですが、不思議そうに首を傾げてしまわれる。
何だか癪なので手を伸ばしてその頬をつついて差し上げようと思ったので、そうします。つんつん。
何やら感じる視線については知らないフリをします、認識してしまったら私まで巻き込まれかねません。アーアーキコエナーイ!

「……………」

そして出来れば次の彼の言葉も聞こえないフリをしたかった。
生徒ではない。何ということでしょう。
しかし常世学園の門徒は広いのです。望めば年齢の区分無く入学できる事は広報にもあることです。
なので私は携帯端末を再び開き、常世学園のHPを立ち上げます。具体的には入学案内とかそういう御説明の記載されたページです。

「ところがどっこい紫陽花さんが望むなら入学できるんですよ……」

まるで悪徳商法か、新興宗教に勧誘する人のような顔で声を潜めてページを見せる。
丁度抹茶クレープを運んで来た店員さんがまたもや怪訝そうな顔をしていましたが、別にやましいつもりは無いのです!

紫陽花 剱菊 >  
事実、男の瞳は暗く底の国へ繋がる常世の門。
多少の光は宿せども暗い底にはカロリーも真っ青の正論パンチ!

「……何故?女性(にょしょう)で在れど、頭で在れ体で在れ、動かさねば減るものも減らぬのは事実……。」

「驕りと怠惰に甘えるので在れば……其れは自明の理……。」

そうだけどそうじゃない。
真っ当な事は時に人を傷つけるんだよ!刃だからわかんないかぁ、刃人を傷つけるしかないもんなぁ。
しかも、そう言う事言っておきながら来た抹茶クレープは普通に食べるんですよ。
恐ろしい男ですね、畏れ知らずですね。
口内に一杯に広がるふわふわとクリーム。
抹茶の渋みがより一層それを引き立てる相乗効果。
齧りたてるクレープの生地が良い歯触りとなり、食が進む進む。
まさにこれぞ甘美の一時。

「……失礼……苺くれぇぷ、ちょこくれぇぷ、もんぶらんとやらも頂こう。」

丁度クレープを運んできたタイミングで追加注文しました。
すっかり甘味に胃袋を掴まれた。
店の空気は苦味でギスギスしてるのに。

「…………むぅ。」

なんか唸ったぞこの男。
モニターに映る常世学園のホームページ。
幸子の言葉に気難しそうな顔でモニターとにらめっこ。

「……確かに私は、此の世界の事情に疎い。だが、修めるべきものは修めた。
 復習に至っても、些か二十歳を越えた身には応える……。」

あ、結構面倒くさがりらしいぞコイツ!

因幡幸子 > 結論から言うと、彼──紫陽花剱菊は生真面目な人なのだろうと思いました。
同時に、失礼な話ですが少し不器用でもあるような。そしてお菓子に心を弾ませる子供のような。
この島には色々な方がいらっしゃるのですが、好悪で分けるなら好ましく。今が愉しいのだと思考が俯瞰する。
本来ならば出会う事も無い異世界同士のヒト同士。"門"に巻き込まれた不幸の先にあるものなのに、
どうにも幸良いものに思えて相好が崩れてしまいました。序に姿勢も崩れます。どしゃあ。

「これは中々手強いじゃあねーですか……いいですか、詳らかにしない方がいい事実という物がこの世にはあるんですよ……」

再度姿勢を戻し、御満悦そうに和洋折衷の菓子を食べている紫陽花さんに嘆息す。
手にはフォークを持ち、綺麗に盛りつけられたクレープの縁をつつく。多分にきっと、私の顔は呆れ笑い。
不満そうに唇だって尖ったかもしれません。傍から見るなら他愛の無い、微笑ましい光景かもしれません。
店内の視線と空気さえ、もうちょっと柔らかければですが!

「確かにハタチ越えで学生、ちょっとお辛そうですね……」

それらをさておき、彼の言い分には尤もだなあと頷くのです。
種族や年齢に差別無く学園の門は開かれておりますが、御自身の主観というのも大事です。
こたえる、と仰りながらにカロリーのカの字も気にしない注文ぶりにビビったりもしますが、それはそれ。
彼がブシドーめいたサムライであるのなら、如何程に動きカロリーを消費するかなどは私の知る所ではないのでしょう。

「ん~そうなると……どうしましょうか。いや、所属よりも興味の方が多分大事でしょう」
「何れにせよ、気が向いた時にでもお声がけ頂ければ!……ところで電話番号とかあります?」

気を取り直して紫陽花さんに御話を勧めます。連絡先、お持ちなんでしょうか?

紫陽花 剱菊 >  
「…………。」

明るみにしない方が良き事実。
何らことない世間話の一つではあるが、男は大層生真面目だ。
その考察は実に的を得ている。だからこそ、少しばかり引っかかった。

「……其の方が幸せで在る、と言うものが在るのは理解はしている。
 だが、其れで良いのかと言う疑問が自分には残る。」

知らぬが仏と言う事もある。
だが、何時までも事実を知らぬままでいる事が幸せなのか。
其れは、偽りに過ぎないのではないか。白黒つける事が全て良しとは言わないが
男には今一、その裁量を上手く酌量出来ないのだ。
顔には出さずとも、もくもくと甘味を口へと運ぶ。

「……公安より賜った端末で在れば……。」

そりゃもう公安付くまで浮浪者だったからそう言うのしかない。
プライベートでも使っていいタイプで良かったね。
ぺろりとクレープを食べ終えると、徐に携帯端末を取り出し、硬直。

「…………。」

「…………。」

「……失礼、電話番号とは何処に……?」

……こんな便利な機械なかったからね、しょうがないね。

因幡幸子 > 冗談めかした会話の折に、何だか奇妙な抑揚で言葉を重ねられました。
おや?と思い瞳を瞬き紫陽花さんを視る。互いの視線が舐め合うように擦れて、一時の沈黙。

「…………ん~……例えば、なんですけど」

フォークでクレープを刺す。中のクリームが歪にはみ出る。それを掬って、舐めて、言葉に迷う。

「このクレープに使われているクリーム。この白い奴ですね」
「本来は牛の乳から作るものなんですけど、実は全然別のものから作られている真っ赤な偽物です」
「……なんて知ったらどう思います?紫陽花さんは怒ります?」

勿論無論で例え話です。
雑談なので雑な感じに御話します。視線は外れ、窓外を観ているかのようにありましょう。

「私個人のお返事ですと……そうですね。程度問題なので、十把一絡げは無理ですし、無茶です」
「例えこのクレープに使われているモノが偽物でも、美味しいならそれはそれでいいかなって思います」
「あ、有毒なのとかは嫌ですけどね!」

視線を戻し、肩を竦めてHAHAHAと笑ってみせると何だか店員さんの目が怖い、気がした。
気のせいと言う事にしたい。序に、紫陽花さんの明かされる身分にも。
いえ、別に悪い事はしちゃいねーんですが、流石に緊張します。

「これが例えば~……そうですね。誰か悪い人が、そうしているのなら話は別ですよね」
「公安の方なら特に。あ、ちなみに私は無害な一般学生なので──」

ひょい、と携帯端末を手にし、番号を確認。手早く自分の端末に入力し無事に連絡先交換と相成ろうもの。

「よし、これでオッケーですね!いや~これ、何かあったら御連絡すればよかったりしますかね!」

公安のコネをてにいれたぞ!みたいに晴れやかな顔、ついでにウィンクもばちこーん☆とお送りします!