2020/07/10 のログ
群千鳥 睡蓮 > 「…………………そっか」

煮沸におぼれたかのような悲痛な慟哭にも、強靭なくろがねに護られた言葉にも、
それらをすべて受け止めた上で、ひそやかに頷いた。
穏やかな顔で、肩をそっと落として、冷ややかな仮面を仰ぎ見た。
ベッドに乗せた掌を緩慢ともたげると、その胸ぐらをやおら掴んで――引き寄せる。
自らの肩に、その顔を抱き寄せた。耳元に唇を寄せる。

「みないふりを、するな……あんたが殺してきたんだ。
 無辜の命を、葡萄のように踏みつけてきた」

優しく、甘く、ささやきを落とす。

「ガキが……悪戯を叱られたあたしみたいに、慌てて隠れやがって。
 いつまで『鉄火の支配者(そいつ)』に護ってもらうつもりだ?
 都合の悪いことがあれば、便利な鉄面皮の影に隠れて、
 やり過ごそうとするのが『理央(あんた)』なのか?」

苦悶の色にささやきかける。鋼鉄の鎧に金打声をあてる。
叱る声はしかし、どこまでも穏やかで、しかし無慈悲な色を持つ。

「幻滅だな……あたしはどっちのあんたも好きだったよ。
 しかしまあどうだ。実際は追い詰めてしまえば足掻きすらしない軟弱者と、
 弱みにつけこむしか能のない弱いもの虐め大好きの鉄仮面か。
 ――あの店の守護者さまも、底が見えたな」

やり方がセコいんだよ、と厳然と告げる。
強さへの敬意、愚かさへの称賛、それらがすべて落胆と失望に裏返る。
それでも見捨てはしない。見届けると決めたから。
しかしため息をついて、僅かなり叱責の色を込めた声で、

「……そうなることを、あなたは自分で選んだの?」

神代理央 > 「……何、を……っ!?」

突然、胸倉を掴まれる。
予想打にし得ない行動に、その身は容易く彼女に引き寄せられるだろうか。彼女の肩に収まった己の耳元に、囁かれる言葉。

「……まだ言うか。私は、何も殺して等いない。無辜の命、だと?笑わせて――」

フン、と吐き出しかけた高慢な言葉は。
次いで彼女に投げかけられた言葉に揺らぐ。揺らいで、しまう。
果たして、揺らいだのはどちらの側なのだろう。芽生えてしまった罪悪感に苦悩する『神代理央』なのか。
それとも、苦悩する少年を踏み従えようとする――

「…馬鹿な、事を。俺が、そんな軟弱な真似をするものか。
俺が、何に護られるというのか。俺は、俺自身の選択で、此の疵を負い、苦悩し、導と理想に惑うばかり。だが、その全てが。
それらの全ては俺のものだ。俺が、俺の選択によって得たものだ。正しいか、違えたか。それを決めるのも俺自身だ。他の、誰でも無い――」

ギリ、と歯を食い縛る様な音が彼女の耳元に響くだろうか。
それは『ガキ』だと落胆され、失望された少年の言葉。

「…お前にどう思われようが、知った事では無い。どう侮蔑されようと、構うものか。
しかし、俺は俺自身の決断で、あの少女を救った。何時か、あの少女に再び撃たれようと。少女によって俺の命が途絶えようと。後悔なぞするものか。それは、俺の――」

そして、溜息と共に投げかけられた問い掛けには、矜持と自我を以て言葉を紡ぐ。

「…あの夜の行動も。此の疵も。此の苦悩も。それらは全て俺自身の選択。俺が選んだ事。
……そして、こうして無様な姿を晒したのも、俺の意志の弱さが産んだ選択だ。誰かの所為じゃない。こうして、お前に叱咤された言葉も思いも選択も、間違いなく、俺が選んだものだ。
――それを、選ばなければ良かったとは思わぬさ。選択の積み重ねが、俺を作るのだから。選んだが故の後悔も、俺にとって尊いものなのだから」

「その上で、先程の問いに答えよう。俺は、秩序と体制の守護者で有る事を止めない。俺の理想を叶える為に、此の学園で俺は行動と選択を続ける。
……しかし、護るべきものについては、再定義の必要があるだろう。秩序も体制も、人がいなくては成り立たないのだからな」

返す言葉に、もう苦悩の色は無い。
彼女の叱責は、数多の煩悶と反問の末に、全ての選択を受け入れ、飲み込む事を改めて己に示したのだから。

――思考の片隅で『残骸』が忌々し気に舌打ちした、様な気がする――

群千鳥 睡蓮 > 細いながら、揺らがぬ肩に彼の顔を抱いて。
その骨身にすべての声と激情を受け止めた。
関心を失った表情は凪ぐ。それでも彼を抱く腕は緩めない。
罵倒と決意の応酬の後、締めくくった少年の頭を、
抱いた手が優しく撫ぜた。耳元に届くのは、震えて笑うのを耐える声。

「くくっ、くくく……最初、声すっげえふるえてたな……?
 ……うん、それならよかった。 大事な先輩を、きらいにならないで済みそう。
 あんたはそっちのほうが格好良いよ、理央。
 『選択』と『行動』の果てに、茨の道に裸のかかとをやぶられて、
 どれだけ膝が笑っていても……あんたには笑って死んで欲しいな……ただ」

でも、と言い添えるように、髪の毛を梳かしながら、
そっと顎に指をかけて上を向かせた。
口元を緩く笑ませて、優しげな眼差しで受け止める。

「……社会が赦しても、人が赦しても、法が赦しても――
 あたしが、あんたが、『だれか』と呼べるような相手を殺すのは、
 どうあがいても、罪だ……罪なんだよ。
 それが、大義名分とか、いろんなものが罪ではないといってくれるだけで。
 『だれか』をころすのが、簡単であっちゃいけない。
 だからあたしは自分に幾重にも枷をかけた。いつでも解けるようにして……
 あんたはこれからどうする? だれかひとり殺すにはあまりにも強いちからをかかえて。
 どう、護る? どう戦う?」

問いかけた。 今までと同じ志。しかし、立ち向かい方は今までと同じではいられない。
おそらく――『神代理央』と『鉄火の支配者』、ふたつの仮面は相互に必要としあうもの。

「ゆっくり休んで、こたえを……出していって。
 再定義。それは、机の上でするものじゃない……歩いて、関わって、考えてみて。
 ちょっと、あんたはさ……頑張り過ぎ。頑張りすぎて辛いんだ。今もきっと」

ね、と。治れば、すぐにも出征に向かいそうな彼を制しながらに、
眼を閉じて、柄にもないことを言うけど、と前置きはしておく。

「……なんであんたが撃たれたかはわからないけど。
 あんたがこうしてしぶとく生き延びて、その子を殺人者にしなかったことは。
 きっと……たぶん、すごいことだよ」

だから、再び撃たれるなんて言うなと。
救ったと言うなら、きっとそういうことでもあろう。
手を伸ばし、手つかずのタルトをフォークでとすりと刺すと、
彼の口の前に持ってった。神代理央は、無類の甘いもの好きだったはずだ。
そうだよな、と首をかしげる。

神代理央 > 「……言うな。我ながら、無様な姿を晒した自覚はあるのだ。ああクソ。先輩としての威厳が台無しだよ、全く。
…なら、精々見届けていれば良い。茨に切り裂かれ、矢に貫かれ、剣に切り裂かれ、それでも、俺は笑うさ。俺の決断は、選択は間違ってなどいなかった、とな」

僅かに羞恥の色を滲ませた声色。しかし、その口調は直ぐに尊大――というよりも、自己への矜持に満ちたものになる。
慢心では無い。己という存在を、確固たるものにしたかの様な。
それでも、掻き抱いた己の頭を撫ぜ、髪を梳く彼女の手を黙って受け入れる位には、多少素直になったと言うべきなのだろうか。

と、不意に持ち上げる己の視線。
顎に感じる柔らかな感触で、彼女の指が己の顔を動かしたのだと認識した時には。彼女の穏やかで優し気な眼差しが、己に向けられていたのだろう。

「…私の力は、他者を従える強さ……だったのだろう。踏み躙り、蹂躙し、焼き尽くす様な力が、根源なのだろう。
だから、俺はそれを否定しない。俺の力は、所詮護る力では無い。振るうべくして、振るわれる力だ。
…それが生み出す罪、いや、『生み出した』罪を否定するつもりもない。開き直るつもりもない。きっとこれからも、必要な犠牲を否定せず、俺は砲火を撒き散らす。
誰かを守る為に、誰かを殺す。10人を救う為に、1人を殺す。11人を救えるヒーローが現れないのなら、俺は1人に恨まれ、蔑まれ、そして、犠牲にした1人の大切な人に呪われながら、それでも戦うさ」

無辜の住民を手にかけて来た事を。己が殺めた者達にも、大事な人がいたのだと。今迄『支配者』が目を背け、嘲笑ってきた事を認めて、飲み込んだ。
それでも、多くの人を救うために、己は力を振るう。枷をかけない。『鉄火の支配者』が犯した罪を『神代理央』は受け入れながらも、それを繰り返す。
ただ――

「……そうだな。何時か。何時か俺にも。10人と1人を救える様に。必要な犠牲を、割り切らずに済む様に。俺の行いを、救い様が無い罪だと、皆が糾弾する様な、平和な世界に至るまで。考えて、悩んでみる事にするよ。
――頑張り過ぎ、か。どうだろうな。辛いかどうかなんて、考えた事も無かったよ」

と、穏やかに。透明な声色で。僅かな吐息と共に、彼女に言葉を紡いだ。

「……聞きたいか?きっと笑うぞ。俺はな。俺を撃とうとした少女を殺せず、その場で抱き締めてしまったんだよ。その時撃たれて、この有様だ。その選択を間違っているとは思わない。でも、なんでそんなことしたのか。今でも、ぼーっと考えているよ」

すごいことなどじゃない、と小さく笑う。
本当に、何故そんな事をしたのか。己にも分からないのだから。それを褒め称えら得ても、不思議な違和感しか感じ得ない。
そして。差し出されたタルトと彼女の顔に交互に視線を向けた後。
クスリ、と面白そうに。悪戯を思いついたかの様に笑みを浮かべて差し出されたタルトを頬張る。

もぐもぐ、と。甘ったるいタルトに交じる程良い酸味に頬を緩ませ、こくりと飲み込んで。

「出来れば、こういう事は誰もいない時に頼む。大切な――彼女が出来たからな」

群千鳥 睡蓮 > 「安心しなよ。威厳なんて元からなかったから。
 あたしとしては敬愛すべき先輩であり、徹頭徹尾『おもしろいやつ』。
 ……うん、そうじゃなくなりかけてたけど、今のはもっといい」

こういう気易い間柄だ。容赦なくいろんなことが言える。
彼に強さを感じたからこそ、強くあってほしいというのは自分のわがままでもある。
少し安心した。強烈な歪みを抱えたままでは、すぐに消えてしまいそうで。
満足行く死を願いながら、死んでほしくないのだ、殺したくないのだ。

「だぁーから、そういうの。
 力っていうのはさ、けっきょく、制御して、自ら戒められるのなら、
 お箸や爪楊枝と変わらないんだって。使うやつ、使い方次第。
 だから努力して、学んで……在り方を考え続けなきゃいけない。
 ……『鉄火の支配者(あんた)』がたとえ災禍を広げる獄炎なんだとしても、
 それを11人救うために使いこなせたなら、とんでもなく痛快だよ、きっとね」

力をふるい続けなければならないなら、そこに諦めを持ち込まないで欲しいと。
ある意味では重たい期待を向ける。
すでに自分が武力でもって戦う舞台からは降りた身で。
信じさせて欲しいと、それでも願うのだ。だって。

「……ともだちがブラック企業に就職してたとき、どうすりゃいいのか。
 こんどソフィア先生にでも教えを乞うか――
 ――あんたほんと、休んだほうがいいよ。こわれちゃうよ」

ともだちだから。この島でありのままの己を見せられた、大事な人だから。
自らの醜悪さの一端を晒しても、揺るがなかった『馬鹿者』だから。
続く言葉にも、楽しそうに笑って。

「そりゃあまた。 そりゃ笑うよ。
 こーんなやつがねえ、ついうっかり抱きしめちゃったんだ。そっか。
 ――あんたが、そういう奴だから。それ以上の答えなんて出ないと思うけどね」

手からタルトの重みが消えると、椅子の背もたれに体を預けて、
彼から離れた。少しぬるくなったグラスを傾けて喉を潤す。
さらっと言われた言葉には、そうなんだ、と穏やかに聞き流してから盛大に吹き出した。

「ぶっっ………あんたそれ最初に言えよ!いま言われても気まずいでしょーが!
 えー、彼女できたのー? そっかー、物好きというか、おめでとうっていうか……」

口元を拭いつつ、じっとりと見つめた。二人きりの時ならいいのか。
同性の友達のような距離感で接してきたけども、顔も知らない彼女さんを思う。
そうか、目の前の男の彼女か。 顔をそむけて、小さく、率直な感想を口にする。

「………かわいそ……」

神代理央 > 「…敬愛はしてくれていたのか。それは何より。
なら、精々お前を退屈させない様に。『おもしろいやつ』でいられる様に、みっともなく悩んで、足掻いてみるとしよう」

あんまりと言えばあんまりな言葉の応酬も、互いに素の姿を見せあったからだろうか。
彼女の抱く内なる想い。内なる願いには気付かぬ儘、それでも己の存在と選択に強い自己と自信を抱いて。笑ってみせる。

「……随分と気楽に言ってくれるな。とはいえ、後輩からの期待に答えるのも先輩の役目というものだろう。
…簡単に出来る、とは言わぬ。だが、まあ、見ていろ。お前が敬愛する先輩とやらが。『鉄火の支配者』たる俺が。出来ぬと諦める事など、あるものかよ」

己を縛る様な二つ名も、己自身には違いない。
だから敢えて。その名を告げて彼女の言葉に頷いた。
その口調に、最早諦観や無色の感情は無い。『神代理央』は『鉄火の支配者』と共に力を振るい、彼女の願いに応えるのだ。それは――

「…風紀委員会をブラック企業とは、中々言うではないか。色んな奴が泣くぞ。多分。
…しかし、休む。休む、か。休むと言っても、どうすれば良いのか分からんしな。入院中も暇すぎて、結局仕事に励む有様だし」

――ともだちだから。こうして、悪態の交じる会話を楽しみ、吐き出す弱音を戒め、それでも互いを認め合った友達だから。
御互いに隠すべき自己を曝け出した仲。だからこそ、友達の"頼み事"くらいは、応えてやらねばなるまい。

「それ以上の答えは出ない、か。そうか、そうだな。そういう選択をした事も。答えが出ない事を悩んでいる事も。それ自体が答え、なのかもしれないな」

と、穏やかな笑みを浮かべて頷いた。
嚥下したタルトの甘さに舌鼓を打ちながら、椅子に身を預けた彼女に視線を向けるだろう。
何気なく零した言葉に、はて彼女はどんな反応を見せてくれ――

「うわ、噴くな。汚いな。いやまあ、物好きというか。うん、まあ…未だに、俺には勿体無い子だと思わなくも無いんだが…」

奇襲は成功したが、ちょっと成功し過ぎた。
吹き出した彼女に悪戯が成功した子供の様な笑みを浮かべる――のだが。
次いで投げかけられた言葉に、ピシリとその表情は固まる。

「……ほお。中々に言うじゃないか。確かに、確かにな。俺の様な悪辣非道の男に捕まってしまったのはまあ他者からの評価が複雑なものになる事も認めよう。普通の…まあ、知識としてしか知らないが。一般的な恋愛、という点での幸せについて俺が疎い事もまあ認めよう。
しかしな、群千鳥。俺はアイツを可哀相だとは思わせぬぞ。必ず幸せにしてやると決めたのだ。此の俺が、どんな手段を使っても、アイツを幸せにしてみせる。可哀相だとは、言わせぬさ」

フン、と何時もの様な尊大な口調で朗々と。捲し立てる様に告げた。告げてしまった。
しかし、はた、と自分が今何を言ったのか反芻して――みるみるうちに頬を染めると、ぼふり、とベッドに身を預けた。
なまじ背もたれが起き上がっているばかりに、完全に寝転ぶ事は出来なかったが。

群千鳥 睡蓮 > 「ではまず卒業式まで頑張れるか見ててあげましょう、楽しみだなぁ……?
 突っ張り続けてくれたなら、その時はチョコレートの噴水にでも投げ落としてあげちゃう。
 ……がんばって、とはもう言わない。 でも、応援してるよ」

強い言葉で自らを鼓舞する彼が立ち向かうものは恐らく難行であろう。
しかし、『それしきのことが出来ずして』と考えられるのが、彼という男でもあるはずだと期している。
――自分もそうだからだ。自己への妥協を赦さない子供のプライド。
さて、とバスケットを片付けた。長居しすぎた。色んな意味で、変な噂が立つとよくない。

「一切皆苦。悩むことが人生だ――ってお釈迦様が言ってたらしいよ。
 悟りなんてお互い柄じゃないしな。
 自分なんていう最大の謎を、死ぬまでずっと考えてよう」

そんな彼の肩をがしりと掴んで、揺さぶってやろう。うりうり。

「どーりで今日最初にあった時デヘヘって顔してたわけだわ……。
 そーんなこと言って実は口説かれた側だろー?そういうのわかっちゃう。
 理央が自分から行けるわけないもんな。
 あたしの体にひっそり欲情しつつガッつけないヘタレ坊やだもんねえ?
 忠誠と金よりは見れるものがある……だっけ?
 あんたが言ってきた恥ずかしい台詞ぜーんぶ彼女さんに教えちゃおうかなあ……?
 フフン、しかしこの美少女には食いつかなかったわけだ。
 幸せにしてあげたくなるような子かあ……いいね、いいんじゃない」

かわいそうではあるが、間違いなく彼を変えた一端である子。
想像するとなかなか楽しい。誰とは聞くまい。運命がめぐれば必ず会える。
驚かされたので反撃してやろう。立ち上がりつつ、お掃除もして。
証拠隠滅。水筒は回収です。糖分を過剰摂取させたなんてばれたら何を言われるか。

「つーか、彼女いるくせに休みにやることがないとか言ってるからカワイソーなんだよ!
 お店のほうはあんた居なくてもなんか回ってるから、そこらへんちゃんとしてやんなよー?
 ――っふー……、ああ、笑った、笑った。
 じゃ、暗くなってきたし……そろそろ戻るよ、彼女さんにわーるーいーしー」

隠滅完了。そのまま出口のほうに戻って、ああ、と去りがてに振り返ると。

「またね、理央。 お幸せにぃ~」

にやついて笑って、するっと廊下に出ていった。
まさか弄られてくれる「弱点」が生えてくるとは、今後の部活も楽しくなりそうで何より。

神代理央 > 「意外と悪くない、んだろうか。チョコレートの噴水。ふむ。
…有難う。可愛い後輩に応援されているとあれば、奮起せざるを得ないな」

自己への矜持。己の選択の結果へのプライド。
それは誰にも譲れないし、誰の介在も得るものではない。
だから、見届けると告げた彼女に示さねばならないのだ。己の選択の結果と、その果てを。
少なくとも、卒業式までは、必ず。

「悩む事が人生、か。神仏を信じる方では無いが、中々含蓄のある事をいう。……自分という最大の謎、か。随分とロマンチストな言葉だが…嫌いじゃないよ。そういうの」

と微笑んだ。微笑んでいた。
しかして、肩を掴まれ揺さ振られれば、かくかくと揺れる視界の中で思考は右往左往。

「そ、そんな情けない顔はしていない!というか口説かれた側………では、あるが。うむ。うん。
待て、それを言うのは卑怯だろう!お前だって結構ノリノリで返してきたじゃないか。御互い様だ、御互い様。何ならもう一発顔面に銃弾ぶち込むぞ。というか、揺らすな。怪我人だぞ、労われ。敬愛する先輩を労われ。
――…む。うん。ああ、良い子だよ。本当に。俺には勿体無いくらいにな」

あうあう、と揺らされながら反撃してみるが、まあ大体は失敗だろう。分が悪い戦いは此れだからしたくないのだ。
漸く解放され、片付け始める彼女を手伝おうとして――その手際の良さに何もできなかった。
そういえばラ・ソレイユでも随分とテキパキ動いていた。意外と得意なんだろうか。

「……む、そうか。そうだな、休日はアイツと過ごせば良いのか…。楽しませてやることが出来るかは、分からんが…。
――ん。引き留めてしまった様で悪かったな。それと、有難う。色々話を聞いてくれて。
……彼女に悪い、とはどういうことなんだ?」

朴念仁という訳では無い。寧ろ、向けられる敵意や感情には敏感であると自負していた。恨みつらみばかり買い込んでいるし。
ただ、致命的にこと恋愛、という事象への理解が薄かった。その点に関しては、同僚達の方が有能なのだろう。
天空を睨む砲塔も、色恋沙汰には役立たない。

「……ああもう。さっさと帰れ。遅くなる前にちゃんと帰りつくんだぞ」

幾分げんなりした様な、それでも、少し楽しそうな。
そんな笑みでひらひらと手を振って彼女を見送る。
静寂が戻る病室。ポツンと一人残された広い部屋。

「……賑やかなのも、悪くはないのかもしれないな」

取り合えず、リハビリも兼ねて明日は外出申請を出してみようと。
小さく欠伸を零しながらベッドへと倒れ込み、微睡んでいくのだろう。

ご案内:「常世総合病院 VIP個室」から群千鳥 睡蓮さんが去りました。
ご案内:「常世総合病院 VIP個室」から神代理央さんが去りました。
ご案内:「ソロール:女子寮の一角にて」に園刃華霧さんが現れました。
園刃華霧 >  
「サーて、と……」

目の前の荷物を見る
そこには

僅かながらの着替えと、ガラクタのような小物が少々
本当に、なにもない

「……いヤ、こリャ要らンな……」

着替えだけを持ち、ガラクタはそのへんに雑に転がす
ルームメイト、なんて面子もいるはずだが……
まあどうせ、適当にどうにかしてくれるだろう

元々、滅多に帰ってきていないし
その上で、荷物は雑多にそのへんに転がしていることが多かったのだ

園刃華霧 >  
「あとハ……と」

ン―……と、考えて
書きかけたメモを破り捨てる
どうせこんなモノは必要ない

どうせ、あってもなくても
此処は変わらないだろう、と思う

「さ、テ……時間が近イかナ……
 そろソろいかナいとカ。」

よいしょっと、と立ち上がる。
その拍子に、目に入ったもの

「…………………ァー」

ぼそり、とつぶやいてソレを拾う

「……ドーすッカな……」

しばらく、考える

園刃華霧 >    
園刃華霧 >  
「……ハ」

しばらくの後
それだけを口にして、その場に背を向ける

「ンじゃ……いっテくラぁ」

誰も居ないその場に、ひらひらと手を振って
立ち去っていった

あとには なんでもない 小物が残った

ご案内:「ソロール:女子寮の一角にて」から園刃華霧さんが去りました。