2020/07/25 のログ
ご案内:「落第街・あの日のプレハブ小屋」に伊都波 凛霞さんが現れました。
伊都波 凛霞 >  
「はぁ、はぁ…ッ……」

息が切れる、汗も流れた
落第街といえど、かなりの広さ…もう、随分と走り回った

たどり着いたのは、此処
あの日、彼女と出会った場所だ

「………」

ふぅ、ふぅ、と
呼吸を整えながら、立入禁止のテープを乗り越えて、中へと入ってゆく

伊都波 凛霞 >  
中に入ると、当然日が傾ききっていない時間にも関わらず、中は暗い
僅かに窓から差し込む太陽の光に、歩くたび、埃が舞っているのが見える

多分、あれから誰もここには来ていない
たまたま、彼女と出会ったあの日から此処の時間は、止まっている

ボロボロのパイプ椅子の埃をぱっぱっ、と手で払って、腰を落ち着けた

伊都波 凛霞 >  
ギ…と椅子を軋ませながら背を預けて、部屋を見回す
あの時と同じ、何も変わっていない。此処にはなにもない
在ったはずの、違反部活の痕跡も、何も

入り口の近く、使い終わったテープの芯があった
それは自分が此処に来た時に使った、立入禁止のテープ、それを使い切った後のもの
埃のかぶったそれに手を伸ばして、指先を触れる

ゆっくりと眼を閉じて集中すれば…耳鳴りに近いキーン…という音と共に、それに宿る記憶の断片に触れることが出来た

コトン、と小さな音を立てておかれた"それ"が見ている風景
報告のあった違反部活の痕跡がなく、困惑している自分が見える
ほどなくして、彼女がやってきた──なぜこんな場所に現れたのか、彼女は散歩だと言ったけれど、今ならわかる

自分を救ってくれる、守ってくれる可能性を、探し回っていたんだと

伊都波 凛霞 >  
あの時に交した会話を、自分自身の眼で耳で、記憶の断片を通して、垣間見る
彼女は笑っていた
そう、笑っていたから、彼女の別れ際の言葉をそれほど深刻に捉えなかったのだ
なにかの言葉の綾かもしれない
単なる冗談だったのかもしれない
そんな、猜疑心とも言えないような、妥協を許す心

あの時自分が駆け出して、追いかけて、その肩を掴んで…その真意を聞き出そうとしていたら
もしかしたら彼女の行動を止められただろうか…そんなことを、考えてしまう
でもそれは、起こらなかった可能性の話。悔いたところでどうにもならない、ただの懺悔だ

そっとテープから指先を離し、身体を折りたたむようにして、俯いた

伊都波 凛霞 >  
今の自分に出来得ること、やれること
風紀委員として、伊都波凛霞としてできること、それらは全てやりきった

あの後、徹底的に風紀委員の内部から調べられる彼女の情報全て洗い出した
その特徴、その行動の傾向、元違反生徒であるからこそ、得られた情報の数々
その真偽や精度は兎も角として、彼女という人物を多角的に捉え、可能な限りの弁護ができる手筈を整えた

異能制御用のチョーカーを自発的に外したことで、彼女は追われる身ともなっていた
その報告から割り出した時間帯でこの島に起こっていた戦闘の痕跡を割り出し、
青垣山にてそれらしいものを確認すれば、何者かの襲撃による已むを得ない行動であったと
主張・弁明を通すことも一応できた

余計な肩入れ、なぜ今や違反生徒へと戻った彼女にそこまでするのだと槍玉にあげられるかもしれない

伊都波 凛霞 >  
でもしょうがない
あの時あの子に向けられた言葉をそのまま受け止めていなかったから
救って、守って、という言葉が、それを思い出してからずっと纏わりついている

そうするのが"遅かった"今となっては、できることなんてそれくらいが精一杯だった

「──だから…ホント、お願いしますよ。紫陽花さん…レイチェル先輩」

目を瞑り、重ね合わせた手に額を押し付けて、そう呟く
願いごとを、するように。──祈るように

伊都波 凛霞 >  
祈るように俯いて、ほんの数分。顔をあげる

「ううん…もうこの際、誰でもいい……。
 彼女達に追いつけた人、触れた人、見つけられた人──」

そう、大事なのは結果。望むのは、結果だけだ
自分は、見つけられなかった。出会えなかった

あちこちを走り回ったけど、救いと助けを求めたあの背中に手が届かなかった

"死"は、人間にとって、明確な終わり、最後、終幕である

だから縋るしかない
既に失われた命をないがしろにするつもりはない、けれど
──もう一度みんなと、彼とも、彼女とも、話をしたい。

伊都波 凛霞 >  
だって、せっかく"出会うことができた"のだから
それは薄かったり、濃かったり、長かったり、短かったり、良かったり、悪かったり、色々だけど
それらは変化もすれば、それによって自分が変化することだってある

でもそれは未来があってこそのもの
人として生きる、というのはそういうことで…
"死"を迎えてしまっては、それら全ての可能性を失われてしまう

利己的でもなんでも良い。中途半端なお膳立ては結果の前では意味を為さない

「──よし、もうひとっ走り」

パン、と頬を両手で張って、立ち上がる
やりきった、と祈りながら待つことは簡単
やりきった上で祈りながら更に動けば、その分確率は0.1%であろうとも、上がるだろう

つまり自分は、まだやりきっていない

伊都波 凛霞 >  
彼女と出会った場所からドアを開け踏み出す
あの時、別れの言葉の後、彼女に向けて伸ばした手は届かなかった
なぜなら、走り出さなかったから

ならば今度は、その建物から走り出る
色んな人が、彼らに、彼女達に手を伸ばしている

どれか一つの手でも、救いの手としてそれらをとってもらえれば…
──絶対に、未来は繋がる!
 

ご案内:「落第街・あの日のプレハブ小屋」から伊都波 凛霞さんが去りました。
ご案内:「輝く星の下、罅割れた路地の上で」にレイチェルさんが現れました。
レイチェル >  
友を探して、どれだけの時間が経ったことだろうか。
息をきらしながら、レイチェルは走り続けた。
昨日から、走り通しだ。
それでも彼女は足を止めることがない。


捲れた路地に、足が引っかかって、大きくバランスを崩す。
転んで、汚れた地面に倒れ込む。
身体を大きく震わせながら、大きく息を吐いて。
無様に転がる彼女のその拳は、それでも勢いよく地面に突き立てられる。
路地を割る勢いで。めり込む勢いで。

「オレは……伝えなきゃならねぇ……」

俯いたまま、レイチェルはゆっくり立ち上がる。
何度でも立ち上がる。

それはただ、己の過ちを正す為に。

それはただ、友の過ちを正す為に。

自分勝手な我儘を、振り回す為に。

自分勝手な彼女を、取り戻す為に。

「何処に居るんだよ、華霧……っ!」

レイチェル > 「……そう簡単に、会わせちゃくれねぇか」

これはドラマではなければ、御伽噺でもない。
手に届く場所にあるものは守り抜く為に走ると決めた。

しかし。
走ったその先に、
守りたいものが居てくれると。
取り戻したいものが居てくれると。

誰が決めた。


「畜生――」

体力の限界など、とうの昔に通り越して、
屍のような身体に鞭打って、走って、転んで、求めて。


「――会いてぇよ、もう一度……」

壁に背を預ける。
俯いたその表情は、影に隠れて。
震える肩を押さえる腕も、また弱々しく。
そのか細い声は、路地裏に響いて、消えていく。

ご案内:「輝く星の下、罅割れた路地の上で」に園刃 華霧さんが現れました。
園刃 華霧 >  
物陰に姿を潜ませて佇んでいる。
落第街は古巣。
逃げも隠れも自由自在。

「……ハァ。」

小さくため息。

戻って話せ

端的に言えば、そんな話をされたわけで
そんな話を受け入れたわけで
だがしかし

「……やっぱ、こウ……切り替え、むっつカしーナぁ……」

ぼやく。
気持ちの整理はついたつもりでいた。
しかし、まだこの中に渦巻くものは自分でも理解できていない。

実際にあってしまったら……
何が飛び出してしまうのか、自分でもわからない。

それは――怖い

だから、隠れてしまう。

レイチェル >  
距離は近い。
二人を隔てているのは、
ほんの小さな曲がり角。ほんの小さな心の隔たり。

双方が、胸に思いを込めながら、それでもあと一歩が踏み出せないでいる。
もうあとほんの少しで、手が届きそうな場所に求めるものがあるというのに。


「……謝らなきゃ、いけねぇのにな」

ぽつり、とレイチェルが呟く。
それは、ただの独り言だった。
すぐ近くに、相手が居ることなど全く知らない。


「あいつは、その場に居ただけだった。
 オレは……あいつを置いていっちまった」

そう、それは浜辺で見送ったあの日もそうだ。
背を向けて、彼女から離れていったのは、レイチェルからだった。
彼女は、ただそこに居続けていたのに。
そこで、その背中を見送っていたのに。

「……あいつの空っぽな心を、オレが、オレ達が、
 満たしてやるべきだったのに。手を差し伸べて、
 一歩踏み込んでやるべきだったのに……
 見送るなんてこと、しちゃいけなかったってのに……」

腕を押さえる手に、力が籠もる。
ただでさえ白い指が、更に白さを増して。


「……すまねぇ、華霧」

ぽつり、と。
こぼしたその言葉と共に流れたのは何だったか。
それはレイチェルの足元で弾けて、薄汚れた路地の底を
仄かに輝かせる。


――答える者など、居ないとわかっているのに。

園刃 華霧 >  
「……………」

ああ……聞こえた
聞こえてしまった
聞きたくなかった
聞きたかった

その、言葉

足が、勝手に動く
動いてしまう

踏み出してしまえば
届いて、しまうのに


「……」


手にデバイスを呼び出す
あかねちゃんは まだ健在

なら――

足を、踏み出した

レイチェル > その姿を認める――園刃 華霧。

驚愕。
困惑。
後悔。
そして、幸福。
その全部をひっくるめて、
レイチェルはぎこちない笑みを浮かべる。


「……なんだよ、居たんじゃねぇか」

こんな近くに。
こんな、手の届く場所に。
そしてその手に、デバイスがあることを確認すれば、
レイチェルは問いかける。

「……端末。真理、まだ掴む気で居るのか?」

責めるような口調ではない。
ふっと笑って、それでも悲しそうな瞳を見せて。
ただただ、穏やかな調子で、レイチェルはその語を紡いだ。

「それでもオレに姿を見せてくれたってことは……
 まだ、迷ってるのか、華霧」

園刃 華霧 >  
「……アタシは、聞きに、来た。
 レイチェルちゃんの言葉を。
 こいつを使うかどうかは、それから決める」

デバイスをこれみよがしに持って
起動スイッチを見せつける

そんなつもりは、毛頭ないのに
そんな言葉が出てしまう
そんな行動を見せてしまう

まだ――怖い

こんなものを使わなければ、まともに質問もできない
まったく、情けない
いつものアタシはどうした


「聞かせて、くれ。
 レイチェルちゃんが、なんでこんなトコまで、来たのか」

本当は、自分から言わなければいけないことが、あるのに
紡ぐのは、そんな言葉ばかり

レイチェル >  
「……分かったよ」

深く頷く。
彼女とは真正面から、ぶつかりたかった。

だからこそ、一歩近づいて、距離を寄せる。


「オレが、ここまで来た理由か……」

その言葉を、繰り返す。噛みしめるように、繰り返す。

「オレは――」

友達だから。
命を失わせたくなかったから。
取り戻したかったから。
もう一度会いたかったから。
一緒に浜辺に行きたかったから。
謝りたかったから。
許したかったから。
本当の気持ちを聞きたかったから。
そして、そして、そして。

砂埃に塗れた制服はそのままに、
レイチェルは彼女のいつになく真剣な、
そしてどこまでも弱々しいその眼差しに、真正面から応える。

「――オレとお前の間違いを、正す為に来た」

そう口にすると、レイチェルは頭を小さく振って、
思い切り袖で目を擦った。

園刃 華霧 >  
「へぇ……?」

・・ ・・
オレとお前の間違い
そう、か……
そう、だな

お互いに、間違ってたんだよな
あの時に


「面白い、じゃん。
 続き、聞かせてよ?」

へら、と……
いつもの笑いを浮かべる
浮かべた、つもりだ

レイチェル >  
「本当なら、止めるべきだったんだ。最初から、お前のことを」

ため息をつくレイチェル。そうして目を閉じれば、そのまま語を継いでいく。

「友達が死ぬかも知れねぇってのに……オレは、お前を見送っちまった」

そこで目を開き、再び華霧を正面から見つめる。
そうして、次の言葉は紡ぐのに少しばかり躊躇して、
それでもと、口を動かして、ぽつりと呟く。

「我儘を言うのが、怖かったんだ」

それは、己の弱さの吐露だった。
己の醜さを曝け出す言葉だった。

「オレは、お前と一緒に居たかった。これからも、ずっと一緒に居たいと
 思ってた。なのにオレは、そんな簡単な気持ちすら、口にできなかった」

ただ、求めればいいだけ。大切な人なら、ただ、一緒に居たいと
口にすればいいだけなのに。それが、できなかった。

「自分の我儘で、お前の覚悟に立ち向かうなんてできないって、
 諦めてた。それは失礼だって、申し訳ないって、そんな権利はないって。
 勝手に、思い違いをしてたんだ」

歯ぎしりの音が周囲に聞こえるような勢いで、レイチェルは奥歯を噛みしめる。それは、自らへの怒り。
心を殺して、己を殺して、偽りの強さに甘えていた、自分への憤怒。

「諦めてばかりだった。ここ最近は、何もかも。
 立場が上になる度、大人になる度、
 自分を表に出すってことが、自分が自分で居続けるってことが、難しくなってきて。
 それが、正しい姿だと思ってて」

『あの時』、浜辺で掬った白い砂を思い出す。
掬った砂は、浜辺に落ちて、他の砂と一緒になって、やがて見失われた。


「今までは、簡単に否定してきたんだ。誰もかれも。
 『違反部活』。『犯罪者』。
 目についたものは何だって首を突っ込んで。
 気に食わねぇ、気に食わねぇってな。
 それで結局最後は、『己』すら否定して……
 その結果、本当に大切なものを失いかけていたんだ」

それが、オレの過ちだ、と。
レイチェルははっきりとした口調で告げる。
その上で再び、告げる。

「だが、オレはもう迷わねぇ。親友のお前に、オレは我儘を言ってやる。
 バカみたいだろうが、幼稚だろうが、構わねぇ。
 格好悪くたって、形振り構わず言ってやる。
 お前の覚悟に対して、精一杯足掻いてやる。思いっきりぶつけてやる。
 オレの我儘は――」

そこで、レイチェルは深呼吸をして、華霧に伝える言葉を紡ぎ出す。
それは見送ったあの時から、彼女にずっと、ずっと、伝えたかった言葉。

「――華霧。お前と一緒に未来を生きたいって、我儘だ」

オレは、お前と一緒に居たい。
たった一言の為に長い時間を要したが、それでも。
レイチェルは目の前の少女へ向けて、そう、口にした。

園刃 華霧 >  
「……」

静かに、言葉を受け止める
全てを聞いた
ああ、もう……本当に……っ
本当に、この……っ

「……ふざけんな!
 じゃあ、あの時のアレはなんだったんだよ!
 つまり、本気じゃなかったってーことか?!

 なーにが、怖かっただ!
 なーにが、思い違いだよ!

 そんなヌルいきもちでアタシを送り出したのかよ!
 そんな、そんな……変わっちまうような気持ちで……!
 あの時の、アタシがどんな気持ちで……ッ」

デバイスを落とした
幼稚に、醜く叫ぶ
渦巻くものが吹き出してくる

「その上、今度はわがまま?
 好き放題いっちゃってさ! 

 だいたい、なんだよ!
 それなら、アタシは間違ってないじゃん!
 間違いを正す、はどこいっちゃったのさ!」

子どものような論理
子どものような言い草
子どものような……