2020/07/27 のログ
ご案内:「留置所」に山本 英治さんが現れました。
ご案内:「留置所」に園刃 華霧さんが現れました。
■山本 英治 >
留置所。2泊3日。俺も似たような経験があるが。
園刃先輩がどんな気持ちでここにいるのか。
それはわからない。
牢屋にも似た一室に姿を表す。
はっきり言ってこんなの異能者相手には何の役にも立たない。
しかし、園刃先輩の罪の軽重に関わらず。
制服を着てこの場所にいる、というのが彼女の扱いを物語る。
伊都波先輩と、レイチェル先輩が動いたとか。
そうでないとか。
噂されてはいるが、俺のような下っ端の与り知るところではない。
「どうも、園刃先輩」
檻の向こうの彼女に笑顔で手を上げて。
できる限りの爽やかさを追求したオリジナルスマイルだ。
■園刃 華霧 >
こんな場所だから、というわけでもなく。
ただただいつもどおりに、ろくに髪も手入れせずボサボサにして。
別に偉そうでもなく、ただただ、それが楽だからと胡座をかいて。
女は座っていた。
ただ一点、普段と違うとすれば……
首に、チョーカーがついていることくらいか。
「ンー? おー、エイジ。
なンだ、どったン?」
ひらひらと手を振って返事を返す。
うっかり、ここが彼女の自室なのではないかと勘違いしてしまいそうなくらいに
ごく自然体な動きだ。
■山本 英治 >
彼女の髪と姿勢を見て大仰に嘆いてみせる。
ああ、こんな可愛らしい女性が。なんということか。
「ああ、ジュンヌ・フィーユ(少女よ)! 髪と座り方に気をつけてくださいよ」
それから首についているチョーカーを見て、どこか得心がいった。
まだ日ノ岡あかねは生きている。彼女の中にも、あるいは常世島のどこかにも。
日ノ岡あかねの生み出した意伝子(ミーム)は。
この島に確かに根付いたのだ。
「……なんか不便はないすか、園刃先輩」
今まで通りに。特別なんてない。自然体で、飾らない。
そんな空気が、漂っていた。
■園刃 華霧 >
「じゅん、ぬ、ふぃー、ゆぅ?
なニいってンのオマエ? アタシは園刃華霧だろうニ。」
無念、少女には言葉が通じなかった。
仕方ない、その語彙はセットされていなかったのだ。
「ツーか、別にいーじゃン。こりゃアタシのいつもドーリだしー。
手入れとカめんどいシ、座るのハこれガ楽だシ。」
言いながら足を崩したり戻したりしている。
足癖が実に悪い。
「不便、ナー。
ンー……別に? 昔に比べりゃ大体天国だヨ。
ごーもんとかサれてるワケでも無し。」
いやー、それくらい覚悟してたんだけどねー、
などとケラケラと笑っている。
■山本 英治 >
「ジュンヌ・フィーユってのはフランス語で……ああ、いや」
どこか安堵したように溜息をついて。
「そうですね、あなたは園刃華霧だ」
目を細めて微笑んだ。
彼女は彼女であるからして、彼女の物語を止めていない。
失意のうちにデバイスを手放した、という結末でなかったのが見てとれる。
「いつも通りはいいですが、身持ちが減りますよ?」
「園刃先輩は美少女としての自覚が……」
そして、続く言葉に。俺は心のどこかがざわついた。
昔に比べれば、大体天国。
留置所に比べて、の話だ。
それがどういう意味を持つのか。七年間服役した俺にはよくわかる。
「園刃先輩」
「レイチェル先輩とは仲直りできましたか?」
俺の表情は、どんなだったろう。歪んでいたのか、笑っていたのか。
自分ではわからない。
■園刃 華霧 >
「ヒッヒッヒっ、だろぉー?
あと、その笑顔キモいから、外でヤんなヨー?」
ケタケタと笑いながら応じる。
かつてと変わらない、いやどこか更に軽いそんな笑い。
「身持ちィー?
ンなもん、考えたコトもなイんだケど。
幌川のおっさんといい、サー。そンな忠告トかされテもナー。
アタシには、ナイナイ。」
ないない、と手を振ってみせる。
実際、今まで無いのだ。
そもそも想像もつかない。
「そレともー……エイジ、もらっテくれルの?」
少しだけ身を乗り出して、口にする。
んー? なんて小首をかしげてみせたりする。
「……アー、ソレ……アー……
うー……いヤ、うン……
いや、ァー……オう、仲直りは、ァー……でき、タ。」
山本の問いに珍しくたどたどしい答えを返す。
頬をかいたりして、やや挙動不審だ。
「いヤ、ゥー…まァ、なンだ……
っていうカ、ちょっとソの妙な表情やメろよ!
質問に顔がアってナいぞ、オイ」
歯切れの悪さを誤魔化すように、
勢いで相手の責を問う。
■山本 英治 >
「ひでえ」
ガリガリと首の辺りを掻いて。
まいったな、と苦笑をして。
今はまだ、非日常だけど。いつかは。
「ないのか………ないのか…」
「あるでしょ、園刃先輩みたいな綺麗目のヒトには…」
思わず説教の一つでも始めようかというテンションの時。
とんでもない言葉が園刃先輩から飛び出した。
「んいえ!? そ、そんな……園刃先輩を、も、もらうってて…」
「か、からかわないでくださいよ……」
赤くなってキョドる。
ああ、経験少し学べよアフロ。
そこで彼女はまだ噛み砕けない感情をたどたどしくも伝えてくれて。
表情を咎められれば、俺はこうだ。
「ああ、そこで山本英治は相手の言葉に満足げに答えた」
「ハッピーエンド! ってね」
今度こそ満面の笑みで言ってやった。
「良かった………本当に」
今回、俺は何かができただろうか。
日ノ岡あかねとは分かりあえず。
トゥルーバイツのメンバーは助けられず。
園刃先輩を説得するのはレイチェル先輩に任せ。
それでも、彼女がこうしているのなら。
俺の行動は絶対に無駄じゃない。そう信じた。
■園刃 華霧 >
「ひひひひ、ほーラな。
ナイナイ!」
キョドるアフロ。
いい反応だ。
こういうの大好き。
ケラケラと笑ってみせる。
けらけらと。
「ン……ま、うン。そコはな。
ハッピー……トゥルー……だナ。」
満面の笑みに答える。
少しだけ、痛みが走る。
しかし、それは此処で言うことでもない。
「ァー……んデ、な……アー、えー……
うー……」
そして、再び。
珍しい口ごもりが再発する。
「アー……クソ!
えーット、な。アレだ。
アタシに、えらソーに言えル資格は無いンだケどさ。
……っていウか、そウだ。」
観念したように一回大声を上げ。
ああ、と思い出したような素振りを見せる。
コロコロと表情が変わっていく。
「……まずは、アレだ。
ごめんナ!」
深々と頭を下げる。
■山本 英治 >
「う、裏切られた!?」
アフロ心を弄ばれた!!
ちくしょう、いつか隙を見てあの髪を梳かしてやる。
ストレートヘアー美少女にしてやる。
そのためにアフロコーム以外の櫛を手に入れなければ。
「……かも知れませんね」
「トゥルーエンド………いや、リグレットエンドかも」
あかねの物語は痛みを伴った。
その痛みは後悔と切なさを呼び、確かなリグレットとして心にしがらむ。
それでも、痛みが削り出す形がある限り。
俺たちは彼女を忘れることはないだろう。
「………謝罪を受け入れる前に、少し昔話をしても?」
風紀委員用の椅子を引っ張ってきて、座る。
安い三本足の椅子は、俺の体重で軋んだ。
「俺の親友、遠山未来は死にました」
「電脳麻薬中毒者に殺されたんです」
「犯人は言ってましたよ……LIB(リブ)をよこせ、って」
LIB。ライフ・イズ・ビューティフル。
人生を極彩色に塗り潰す、悪魔のプログラム。
コピーは基本的に不可能。使えば使うだけ、ディスク自体が壊れていく。
だからジャンキーどもはたった一枚のディスクを求めて人を殺す。
「そのジャンキーを殺して七年間服役しました」
「何もかも失った……家族も、親友も、人間らしさも…」
「それでも、俺がここにいるのは。心に未来がいてくれたからです」
知らずに握っていた拳を開いて、両掌を見る。
「だからこそ、俺はあなたに言わなきゃいけない」
真っ直ぐに園刃先輩の眼を見る。
「許す」
って、言ってから両手を上げてはしゃぐ。
「許さないって言われると思いました? さっきのお返しですよ!」
「それに……未来は許してます。多分……だから、いいんです」
■園刃 華霧 >
「ンー? 裏切りィー?
アタシはいつでもマジの真面目だゾー?」
何に本気なのか、はさておき、だ。
ケラケラと笑う。
そして
黙って山本の昔話を聞く。
相手はきちんと座っている。
こちらは……まあ、いつもの通りの行儀悪さだが。
「マー……大体、は、知ってルよ。
こンでもいちおー、風紀委員だっタらしいカラナ?」
知っている。
なにしろ、調べるだけ調べたのだし。
それもこれも、あの時のためだ。
だからこそ、あんなことも突きつけた。
「で、ダ。ァー……許スってトコ、悪いンだけどサ。」
頭をガリガリとかく。
実にみっともないというか、ガサツである。
ボサボサの髪がさらに乱れていく。
「『誰もいねー家にいるのがツラくてたまんねぇ』だッケ?
いヤ、アタシが言うこっちゃ無イけどサ。
アタシにさんザ説教くれタ分、聞くけドさァ。
エイジ。」
はぁ、とそこでため息一つ。
なんとも言えない複雑な……
困ったような、悩むような、戸惑うような
色々なものがない混ぜになった表情。
「そレこそ。その分、アタシらじゃ駄目なノかイ?
アタシなンかは、それコそエイジが『引っ張り上げ』た『命』ダ」
本人がどう思おうと、結果的に、それは叶っている。
山本英治が園刃華霧を救った一人だ、と言っていい。
だからだ。
■山本 英治 >
「それって……────」
園刃先輩は。言ってくれているんだ。
自分は俺に。山本英治に救われたんだと。
その時、どうしてだろう。
俺は両目から流れる涙に気付いたんだ。
「あれ? なんだこれ……ちょ、待って…」
自分の感情がわからない。
嬉しいのか?
悲しいのか?
何故、このタイミングで泣く?
「いや、その………」
ああ、わかった。俺は。
「俺、園刃先輩を引っ張り上げられたこと、嬉しいです」
「ダメなんかじゃない、全然」
そう言って必死にハンカチで顔を拭った。
止まれ涙。かっこわりいだろ。
「ったくもー、歳を取ると涙もろくなっていけない」
冗談を言いながらも。
俺は。
今までの出来事が幾重にも心に傷をつけていたことにようやく気付いた。
それが報われた気がして、嬉しいんだ。
■園刃 華霧 >
「ちょ……」
驚いた。
いきなり泣き出す男、山本。
ちょっと前ならさんざんからかったんだろうなあ、と思う。
でも今は、流石にしない。
空気くらいは読む。
それにまあ……泣くって気持ちは、少し前に理解したし。
「ァー……ま、いいンじゃナい?
人間、泣きタい時だって有るサ。」
だから、それだけを言葉にした。
それ以上、かけられる言葉を自分はまだ知らない。
しばらく間を持って……
「……ン、でな。
マジで、アタシが言えタ話じゃナい、けどサ。
エイジも、だいぶ、アレだゾ?」
何もかも無かった自分と
何もかもを失った相手と
どちらも歪を持っている。
さんざん歪を見せつけられてきて
思い知らされてきたから、感じたこと。
■山本 英治 >
「アレですね………歪んでます」
自分の歪みを認めた。
それでも。人に問うだけで。
自分にだけ問わない理由なんてない。
「歪んでいても」
「苦しくても」
「辛くても」
「未熟でも」
「格好悪くても」
「悩んでいても」
「絶対に前に進みます」
胸に手を当てて。自分に問い続ける。
悩み続けろ。自分なりの答えを出せ。
「痛いのは嫌で、苦しいのは嫌で」
「それでも戦い続けます」
戦うのは悪だけじゃない。
人の心を守るために。
街の人々を安心させるために。
自分の戦いを続けるんだ。
立ち上がって、椅子を片付ける。
「それでも……お互い、歩けなくなったら」
「また話す機会をください。今度は、どこかで飯でも食いながら」
泣いてしまったから。少しだけ赤い眼だろう。
それでも、笑って。笑って。笑って見せるんだ。
「ありがとうございました、園刃先輩」
■園刃 華霧 >
「まー……うン。
だかラ。謝ったけド、訂正はシないカんな?」
自らの決意を語り、立ち上がった男を眺める。
何を訂正しないか。
そこは今、みなまで言うこともないだろう。
まあどうせ、もし今は意味がわからなくても
いずれたどり着くんだろうし。
「ヒッヒっ、そーネ。『話し合い』は大好きサ。そんときゃ付き合うヨ。
まだアタシが此処で、留置所でクサイ飯デート、とかナんなキャいーけドな!」
ひひひ、と笑う。
正直、あかねちんの仕込みもあったし他の……こりゃ多分リンリンだろうな。
其の辺の仕込みがあったから割と楽っちゃ楽なんだけど。
アタシ自身は温情とかイラね、とかいう態度してるから、どうなるかまったく読めない。
ま、マジでブタ箱の中のままだったら本気でクサイ飯でもお互い食べてみようか。
「おウ、こっちこそ。あんがとナ、エイジ」
ひらひらと見送りの手をふって……
せっかくだ。投げキッスとやらも見舞ってやろう。
ひひひ
■山本 英治 >
「話し合い………か」
確かにあかねさんの意思が、園刃先輩に存在していた。
「ま、後は取り調べの担当官と話し合いしてくだぁさいっと」
しらーっとした表情で立ち去ろうとして。
そして投げキッスを見れば、鼻白み。
「ったくもう、心配して損したなぁ」
と、心にもないことを言って。
俺はその場を後にした。
あんがとな、か。
ま、悪くないな。