2020/08/03 のログ
園刃 華霧 >  
満たされているのか、か

正直、あれから色々考えた。
今までの流れ、反省、出会いのこと。
アタシには、まだ残されているものがある。

そして、実際に何人か此処まで来てくれた。
わざわざこんなところまで……ありがたいことだよ、ホント。


だから、勿論

園刃 華霧 >  
「……わっかンね。」
 

園刃 華霧 >  
口から出たのは、それだった。


「本当に、ソれは……わかンない。
 や、今度のは隠そウ、とかそういンじゃナくてネ?
 本当のマジで、アタシには、わかんナい。」

かろうじて、それだけをつなぐ。
なんでこんなこといってるんだ。

ハッピーエンド?でいいじゃないか。
なんだって、こんな……

「……アタシはサ。『欲張り』なンだってサ。
 まタ、いつ……馬鹿するカ、正直わかンない。
 なにを、どうしてもらえば、いいか、も…」

わからない
だって、アタシは馬鹿だったから。
なにしろ、アタシは馬鹿なんだから。
自分のことだって言うのに、自分の保証ができやしない

レイチェル > 「もう間違えねぇさ。自分を偽ったりしねぇ。
 今度は、お前が馬鹿する前にオレが、オレ達が止める。
 
 勿論、それで止められる保証はねぇ。
 オレは、神様でも何でもねぇからな。
 でも、手を伸ばすことだけは、保証する。 
 お前に寂しい思いなんかさせたくねぇ。 
 止めようと走ってみせる、いや精一杯止めてみせるさ」

口調は重く、意志を十二分に湛えた声色であった。
自分にどれだけの力があるだろうか。
目の前の少女一人、救うことのできる力があるだろうか。
今回の件でレイチェルは、人を一人救うことの重みを痛感していた。

しかし、だからなんだ、と。レイチェルは思う。
重みなど、背負ってきた。多くの人たちと同じように、自分だって
自分なりの重みを背負ってきた。
だからこそ、彼女は約束を口にした。
それが、重みを伴うものであったとしても、構わないと。

そうして。


 「だから。だから、さ。
 もしオレが馬鹿しそうになったら――
 その時は、オレを止めてくれ、華霧」

ぽつりぽつりと、最後にレイチェルはそう付け加えた。
自分だって、いつ馬鹿をするか分からないのだ。
医者の男の声が脳裏を過るが、それを振り払うようにして、華霧へと
向き直る。いつか彼女には伝える。
伝えるとしても、まだそのタイミングではない。

園刃 華霧 >  


「……そッカ。うん。
 そう、言ってモらえるナら……きっと、大丈夫、ダ」

やや伏し目がちにした顔をあげ、改めて見据える。
紐の切れた、つなぐものがない、そんな自分を。
無理矢理にでも捕まえて、引っ張ってくれる。

そうしようと言う人間が居れば、きっと、大丈夫……

「ソー、だネ。
 アタシばっかもらッチゃあ女が廃ルってネ!
 だから、そっちモちゃんト必要な時にハ、言葉にして、ナ」

そこまで言ってから、少し口をつぐむ。
心当たり。
思い当たること。
それを、思い出し。

「……………」

ひとしきり、考える。
今、口にしてもあの時と同じできっと駄目だろう。
でも、何も言わないで済ませたくはない。
なら……

「……あン時、話したコト……アタシの、餞別。
 あのコト、忘れてナいかンね」

気になったから、最後に残そうと思った。
気になったから、最後に喧嘩別れになろうと、無粋をしようと思った。

いま、言うのはこれで十分。

レイチェル >    
「……そいつはどうも、だ。気持ちは受け取っておくぜ」

ああ。
目の前の友達もまた、友達として。
自分のことを、考えてくれているのだろうと。
その言葉をレイチェルは、ありがたく受け取った。

――しかし、ダメだ。

既に生き血を啜らなくなって久しい。

もし今、一度牙を突き立ててしまえば――
きっと昂ぶったまま、相手を殺してしまう。
相手が骨と皮になるまで、貪ってしまう。

異能で弱った己の身体が、一度目覚めてしまった獣を、
果たして御しきれるだろうか。

吸ってしまえば、楽だ。甘えてしまえば、楽だ。

しかし。
その先にあるものはきっと、取り返しのつかない喪失。


自分で、頼って欲しいなどと言っておきながら、これだ。
やっぱりどうしようもねぇ馬鹿だと、レイチェルは自嘲する。

自分で自分が情けなくなるが、それでも。
これは、目の前の友を守る為だ。
己の過ちで、彼女を失いたくはない。
それだけは、絶対に。
だから。



――ごめん。
 
 

レイチェル > 「それじゃあ、これで話はしまい……かな」

ほれ、と次元外套から紙袋を取り出して、格子の間に置いて、
レイチェルは立ち上がった。
そして、そちらから他に話はないか、と首を傾げて確認する。

園刃 華霧 >  
「……ま、ソ…だ、ネ。
 言うべきコトは、言ったヨ。
 …………」

いや、と。
まだ、最後に言うべきことが、多分、ある。
胡座を崩し、こちらも立ち上がる。

「アタシは、園刃華霧。
 命を賭けて馬鹿シた天井知らズの馬鹿ダ。」

淡々と情けなくなる事実を口にして。

「つまり、アタシは馬鹿も無茶も上等ダ!
 必要なときハ、みっとモなく泣いテでも
 アタシのトコ、絶対、来いヨ……!
 いいナ!忘れるナ、レイチェル!」

声高に宣言し……
そして……表情を崩す。

「そンだけ。じゃ、またネ」

へらり、と手をふる。

レイチェル >  
救われた。
救いに来た筈だったのだが、最後に救われたのは自分だった。
情けない話だ。

ならばと、
滲み出る弱さを包み隠さず、レイチェルは言葉にする。


「……ありがと、華霧。自分でも、色々手を尽くしてみるさ。
 オレだって馬鹿じゃねぇ。どうしようもなくなる前に、
 きっと頼れる友達に相談するさ」

馬鹿じゃねぇ、なんていう言葉は強がりであったが。

それでも、そんな危険な賭けをする前に、きっとやれることはある。
この衝動と上手く向き合うやり方が。
その為に、研究する努力は惜しまないことくらいは、馬鹿だってできる。

この衝動に、この爪に、大切な皆を傷つけさせなどしない。
絶対に。
彼女の瞳は、確かな理性と意志を灯して、目の前の友を見つめていた。
じっと、見つめていた。


「……ああ、またな」

そうして。
何事もなかったかのようにそう口にすれば、レイチェルは
次元外套を翻して去っていく。髪で隠れた目元は見えなかったが、
その口元は、穏やかに緩んでいた。

紙袋の中には、可愛らしい猫を模したクッキーと、
山本から受け取ったメッセージカードが入っていたことだろう。

園刃 華霧 >  
瞳に力が宿るのを確認して、
あとはそれを信じて送り出す。

なんだかんだで頑固なトモダチは、
上手いことちゃんと結論を見つけるんだろうか。

「……
 アタシみたいナことにナったら、マジぶっとバすかンな……?
 馬鹿はアタシの仕事、真面目はレイチェルの仕事って、役割なンだからサ」

角に消えていく後ろ姿を見つめながら、つぶやく。
そして残されたのは、紙袋だけ。

何気なく、手にする。

「……ったく、あいっかワらず、かっわイーいクッキーだこト……
 ホント、このギャップ可愛すギだヨね。
 それに……ア」

紙切れが、一枚。
それを大事そうに取り出して

「……おかエり。
 いヤ……たダいま、かナ。」

微笑んだ。

ご案内:「留置所」からレイチェルさんが去りました。
ご案内:「留置所」から園刃 華霧さんが去りました。