2020/08/13 のログ
ご案内:「温泉旅館 個室」に神代理央さんが現れました。
ご案内:「温泉旅館 個室」に水無月 沙羅さんが現れました。
神代理央 >  
男子部屋から半ば強引に恋人を連れ出して向かった先は。
『実家』からの連絡に備えて個人名義で予約していた個室。
まさか使う事はあるまい、と荷物も何も置いていない。
使われた形跡さえ無い部屋に飛び込んだ。

「……思ったより…遠かったな…」

彼女を抱えて移動する際に利用した肉体強化の魔術。
しかして、本来己の強化は防御力に特化したもの。
勿論、こうして筋力を増加させる事も可能ではあるが――

何分、不慣れな用途にバランスが狂ったのか、少し息を乱しながら恋人をそっと下ろすのだろうか。

水無月 沙羅 > 「……あのー……理央さん? ここは?
 取ってないお部屋は勝手に使っちゃダメなんですよ?
 いや、どうして入れるのとかいうツッコミを入れた方がいいんですかね。」

唐突に抱えられて連れ出されやってきた先はどうも旅館の個室らしい。
何に使うつもりだったのか甚だ謎ではある。
公然監視の中でここまで彼が行動力を発揮するということにはもっと驚いているけれど。
それにしたって。

「あの、急にどうしたんです理央さん。」

息を乱している恋人の背中をそっと撫でてやる。
この人は相変わらず体力がない、何なら私がお姫様抱っこする方が様になるのではと思うほどに。
お姫様抱っこってかなりしんどいという話は聞くけど大丈夫なのだろうか。

神代理央 >  
「……一応…取っては、いる。使う事は…無いと…思っていたんだが……」

何故取っていたのか、とか。使用用途とか。
そういうのを一切合切かっ飛ばして、取り敢えず此の部屋に飛び込んだ事が問題ない事だけを、彼女に告げる。
きっと男子部屋の面々には後で死ぬほど揶揄われるのかも知れないが――

「……いや、何。最近、ちゃんとお前と時間を取れていなかった事だし。折角こうして温泉まで来たんだから、少しくらい抜け出してもバチは当たるまい、と思ってな」

背中を撫でられれば、漸く一息ついたと言わんばかりに大きく深呼吸。そうして息を整えれば、部屋の奥へと彼女の手を引いて進もうか。

部屋の間取りは至ってシンプル。
座卓が置かれた部屋。その奥に布団が一つ敷かれた寝室。
その座卓にざぶとんをぽい、と放り投げると、彼女に腰掛ける様に促すだろうか。

水無月 沙羅 > 「使う事は無いと思てったのに取ってたんですか……?
 これだからかお金持ちっていうのは。」

若干呆れた目で見下ろし、ちょっと溜息を吐く。
この人の金銭感覚はいずれ強制してあげないといけないだろう。
お金持ちのお坊ちゃん気質が骨の髄まで染みついている感じがする。

「二人でちゃんとした時間をとるのって、病院以来なんじゃないですか?
 買い物はまぁ、そこそこ楽しかったですけど。
 あ。そういえば海も行ってない。
 お互い仕事があるから仕方ないと言えば仕方ないいでしょうけど。」

どんどん夏が過ぎ去っていくことに少しだけ悲しさを覚える。
夏らしいこと全然してない……、何なら血なまぐさいことばっかりだった。

そのまま手を引かれて、部屋の奥へ。
視た感じは一人用の部屋、この人ひょっとして男子部屋から抜け出して煙草吸う用に部屋でも取ったの?
座布団を引かれて座るように促されるから、ぽすんと膝をかけて座っておく。

神代理央 >  
「…いや、まあ。そんなところだ。泊りの旅行ともなれば、何があるか分からんからな。一応、プライベートを確保できる場所を取っておきたかった、という事もある」

呆れてくれているならば、金持ちの道楽、という言い訳が立つ。
彼女の視線に小さく苦笑いを浮かべながら、腰掛けた彼女を置いて部屋の冷蔵庫を物色。
――何にも入ってない。旅館って、こういうものなんだろうか?

「…そうだな。落ち着いて話をするのは久し振りかもしれないな。
海も夏祭りも、お前と行ければと思ってはいるんだけど」

やむを得ず、備え付けのグラスに水道から水を注いで。
自分と彼女のグラスを水で満たすと、彼女の前に置いて自分も腰掛ける。
斜め前に彼女を見る様な、座卓の隣の座布団へ身を落ち着けて。

「……だから、ちょっとだけ我儘をした。本当はお前を女子部屋に送り返して、もっと色んな人と話して貰おうと思っていたんだが。
…やっぱり、二人で過ごす時間も少しは欲しかったしな」

水無月 沙羅 > 「ふーん……。」

急な運動で喉でも乾いたんだろう、とりあえず近場にある給湯ポッドを引き寄せて、備えてあるティーパックと湯のみでお茶を入れた。
グラスのお水もいいけど、汗で冷えたらいけないし。
すでに全部用意されていると思うあたり普段の甘やかされ振りがよくわかる。
自宅だって家政婦さんが居るし……。
グラスよりよっぽど小さい湯のみをそっと差し出す。

「我儘って……、そこ我慢する必要あったんです?
 そう思ってるなら今度休みでも取ってください。
 わたし、結構待ってたんですよ? 誘ってくれるの。」

見るからに怒ってます、という風体で頬を膨らませて見せる。
このくらいしないとこの人はどうにも意図を理解しないみたい。
何度言ったって我慢だと仕事だのっていって、結局こっちのことを見ちゃくれないのだ。

神代理央 >  
テキパキとお茶の準備を始める彼女を、きょとんとした様に見つめる。
――というより、ティーパックを「なんだそれ」みたいな視線で見つめているといった方が正しいか。
差し出された小さな湯飲みを眺めて、其処にお茶が満たされているのを見れば。便利なものだな、と感心しきり。

「……休み、か。無論、そのつもりではいる。
抱えている案件が一段落すれば、休みも取りやすくなるだろう。
そうしたら、二人でゆっくり、何処かへ出掛けるのも良いかも知れないな」

『抱えている案件が一段落すれば』とは、一体いつになる事やら。
それを微妙に理解してない儘、頬を膨らませる彼女に言葉を紡ぐ。
前のめりに突き進む己は、一つ片づければ二つ仕事が降ってくる様なもの。それを少し、軽く見ているのかもしれない。

水無月 沙羅 > 「理央さん……それ、年中無休に等しい私たちにとって、永遠に来ないって言っているに等しいんですけど。
 どうして今まで二人で休みが取れなかったかもう一度考えてください。
 抱えてる案件、私に隠してるのも含めて一体幾つあるんですか。」

ここまで来るともう呆れから諦めに近くなってくる。
思わず目を細めて目の前の愛おしい筈の恋人を見る。
あ、なんか無性に殴りたくなって来たぞ?

「私より仕事の方が大事なんですね。」

皮肉たっぷりに、いつかのテレビドラマで見た一言を言い放ってやる。
あの時は彼女たちの気持ちはわからなかったし、養ってもらっているのにそこまで言わなくても、と思った記憶も新しいが。
なるほどどうして、言いたくなる気持ちは痛いほど理解できてしまった。
なんなら私は別に養ってもらっているわけでもないし。

神代理央 >  
「…流石に年中無休、という事はないだろう。……ああ、でもお前も女の子だし、買い物とか行くには休日が足りないか?それなら、多少上に掛け合ってみるが。
…そんなに大した数は無い。3……4つ、くらいだよ」

足りないのは『二人の時間』であって『恋人の休み』では無いのだが。最近友達も増えてきた様に見える彼女には、もう少し休みが必要だろうかと思案顔。
抱えている案件の話には、ちょっとだけ言葉を濁した。

「そう怒る事も無いだろう。それに、私だって其処まで仕事人間という訳じゃ………」

仕事人間だった。
というか、休日の過ごし方を知らないから休日も仕事をしている訳で。
彼女の言葉に黙り込めば、気まずそうにお茶を啜るのだろうか。

水無月 沙羅 > 「ふーん……否定しないんだ。 ふぅぅん?」
水無月 沙羅 > 全くこの人は何もわかっていないというのがよくわかる。
二人で休みって私言いましたよね? 言いましたよね?
ひょっとしてこっちの話を聞いていないのかな?
聴いているふりをしているだけなのかな?
ふくれっ面だった笑顔はニコニコした笑顔に変わっていく。
もちろん本当に楽しい訳ではない、なんなら後ろに効果音でも入りそうなオーラが出ている事だろう。

「そーいう事なら私にも考えがあります。」

プツンと頭の奥の方で何かがちぎれた音が聞こえた気がする。

神代理央 >  
「……沙羅?何というか、その…怒って、いるのか?」

聞く迄も無い。怒ってる。めっちゃ怒ってる。
笑顔とは本来攻撃なもので云々とは、誰から聞いた言葉だっただろうか。

「いや、ほら。休みが取れない訳では無いのだし、風紀委員会も其処まで無情な組織では無い、から。
……何なら、沙羅のシフトも俺が出るから。ほら、友達と休暇を楽しんでくるのも良いんじゃないか?」

嫌な予感というものには従うものだ。
本能の訴える儘にじりじりと。ちょっとだけ彼女から離れる様に後退るのだろうか。

水無月 沙羅 > 「そうですね、怒ってます。 なんで怒ってるのかわかってない先輩に怒ってます。」

すっくと立ちあがり、目の前の狼狽する少年を文字通り見下して。

「風紀委員がどうこうとか、私の友達がどうこうとか、今関係ありませんよね?
 そういう話してませんでしたよね?
 二人の時間が欲しいって話をしてたはずですよね?
 そんなこともわかってもらえないなら。」

ツカツカと扉の方へ歩いていく。

「わたし、あの部屋を出て行きますから。 一緒に居る時間、要らないんですよね?
 ここに居る必要も、無いですね?
 じゃぁそういう事ですから。」

感情のままにドアノブに手をかけた。

神代理央 >  
立ち上がる彼女を、少し驚いた様な視線で見上げる。
見上げた儘、彼女の言葉を聞き入れれば、その表情は茫然と。
そして、焦りと否定の色を浮かべていくのだろうか。

「…それは…!分かっている。分かっているさ!
それでも、お前が寂しい思いをしない様にと、思っただけで――」

彼女が其の侭扉へと歩みを進めれば、慌てた様に立ち上がる。
其の侭、速足で彼女の後を追いかけて――

「――…あ……」

思わず、強く彼女の腕を掴んで、引き留めようとしていた。
何故そうしようとしたのか、飾り立てる言葉も無い儘に。
寧ろ、彼女の意見や行動を最大限尊重する己が何故こんな行動を取ったのか分からない、と言わんばかりに。
それでも懸命に、彼女を引き留めようと腕を、伸ばす。

水無月 沙羅 > 「……何がわかってるんですか?
 何もわかってないでしょう。
 先輩、私にとって何が一番寂しいのか、本当に分かってるんですか?」

言い訳のように並べ立てる言葉にも、やっぱりそれは感じられなくて。

「ねぇ先輩、私の事、視ろって、言ったはずですけど。
 結局自分しか見てないじゃないですか。
 あなたは、貴方の罪滅ぼしを私に押し付けているだけ。
 違いますか。」

腕を叩いて退ける。
どこまでも冷たい目で少年を見る。
結局、この人はどこまでも自分の事しか見えていないのだ。
本当の意味で私のことなど考えてはいない。
 

神代理央 >  
「……分かっていれば、きっとお前を傷付ける事も無かったのだろう」

分かっているのか。
その言葉に、惑う様に視線を揺らがせる。

「……いや、違わない。俺は、結局お前の事をちゃんと見る事が出来ていなかった。
罪滅ぼし、か。そんなつもりなど無かったが…いや、主観の問題だな。お前にそう捉えられていたのなら、それを否定するのは言い訳だ」

「……引き留めてすまなかったな。余り遅くなると心配する者も、妙な噂を立てる者も出るだろう。皆と仲良くな」

払いのけられた腕を、暫く眺めた後。
緩慢な動作で首を振ると、もう彼女に手を伸ばす事はしない。
見送るのも野暮か、と。身を翻して室内へと戻っていくのだろう。

水無月 沙羅 > 「……しばらくよく考えてみるといいいです。
 私がどうして『コキュトス』へ赴いたのか。
 なぜ『殺し屋』騒ぎの時に貴方を守ったのか。
 どうしてさっきの部屋の中で怒ってたのか。」

扉を開いて。

「次逢う時ぐらいには答えが出てることを願っておきます。」

そう言い残して個室から出て行った。
少しだけ零れる涙を置き去りにして、扉は静かな音を立てて二人を別つだろう。

後に残されたのは、冷たいい空気と沙羅が淹れた暖かいお茶ばかり。

神代理央 >  
彼女が立ち去った後。
部屋の中央の座卓に再び腰掛けると、未だ湯気の上る湯飲みを一瞥。
手に取ってみると、少し熱い。

「……上手くいかぬものだな。色々と」

原因は己にあるので、誰を責める訳にもいかないのだが。
お茶を一口啜る。――甘味が欲しくなる様な味だ。
 
「……いや、違うか。それに思いを馳せるのは今更な話だ。
後は、アイツが幸せであれば、それで良い事なのだし」

少し疲れてしまった。
ごろん、とだらしなく寝転がる。

「………明日からまた頑張れば良い。明日からまた、何時もの様にいれば良い。簡単な事だ。造作もない事だ。今迄、そうしてきたのだから」

やがて、湯飲みの温かさも消え失せた頃。
床に転がる様にして、少年は静かに寝息を零していたのだろうか。
もう微睡む事は無い。泥の様に眠り、機械の様に起き上がる迄。
仮初の休息を、貪っていたのだろう。

水無月 沙羅 > 「……このままここに居るのも、ね。 帰ろうか。」

預けていた大部屋に衣服を取りに行き、みんなが寝静まる中で制服に着替える。
温泉旅館をそっと後にする。
誰にも気が付かれないように一人でこっそり。

翌日、旅館には沙羅の姿だけがなかった。

「あぁ、明日からどこで寝泊まりしようか。」

ご案内:「温泉旅館 個室」から水無月 沙羅さんが去りました。
ご案内:「温泉旅館 個室」から神代理央さんが去りました。