2020/08/19 のログ
ご案内:「落第街大通り」にマルレーネさんが現れました。
マルレーネ > 「これでひとまず、傷の手当くらいはできますかね。」

ふう、っと一息つきながら、額の汗を拭う修道服。
落第街にあった修道院の廃墟を掃除して作り上げた、小さな施療院。
造っては壊され、また造ってはまた壊され。
石を積むようなことは慣れっこである。

ようやく、人の治療に使える清潔な空間ができた、と、もう一度汗を拭う。

マルレーネ > 定期的に炊き出しをして、定期的に医療支援も行う。
まだまだ小さいから、大勢を集めることは叶わない。
それでも、一人でコツコツと支援を続ける女。
まあ、それが神の教えですからね。

「……んー、もうちょっと医療品が足りないかなー。
 消毒用の液体が売り切れてたのが痛いですね。」

食材も、医療器具も、まだまだ他者の支援を受けられるわけもない。
目録を眺めながら、むむ、と少しだけ唸る女。
まあ、それでも、あるもので何とかするしかあるまい。

マルレーネ > 「それに何とか、治療もできるようになりましたしね。」

手を当てた場所が早回しのように傷が塞がっていき、といった魔術はまだ使えないが、それでも元々持ち得ていた肉体強化の魔術によって、自己治癒力を促進することはできるようにはなった。

適切な処置と、少しばかりの魔術支援。
………正直、彼女にできるのはそこまでだ。


「本来なら、もっともっとお金が稼げるようになってから動くべきなんでしょうけれど。」

うーん。腕を組んで唸る。
彼女はむやみやたらに働くことは得意だったが、商才は無い。
お金を転がして更にお金を稼ぐ、………は、少しばかり難易度の高い話。

それこそ、香辛料を購入して他の国に持っていく、程度であれば簡単なのだけれど。

ご案内:「落第街大通り」に神樹椎苗さんが現れました。
神樹椎苗 >  
「まさかこんなところに、って思いましたけど。
 本当に居るとは思わなかったですね」

 落第街の通りを抜けて様子を見に行くと、噂に聞いた通り炊き出しや医療支援を行っている施設。
 そして、そこには見知った修道女の姿。

「こんなところでも慈善事業ですか?
 本当に物好きな姉なのです」

 と、声を掛けながら修道女の元まで近づいていく。

マルレーネ > 「…こーら、一人で用もないのに出歩いてはいけませんよ。」

物好き、と言われても怒らずに、むしろここを一人で出歩いていることを怒る。
この辺りを、という言葉こそ口にはしないが、まあ伝わるだろう。

……彼女自身は、ずっしりと重いチェインメイルを修道服の下に身に着けた、完全防備の状態である。


「以前、ちょっとだけお手伝いでこちらに来たことがあって。
 ここに住んでいる少女から、薬が欲しいと言われたことがあったんです。
 貧しさから、辛さから救われるような。」

腰に手を当てて、ふう、っと一息つきながら、思い出すかのように口を開く。

「………だからですかね?」

ぺろ、と舌を出して。

神樹椎苗 >  
「このあたりは、お金さえ渡せば護衛や道案内にも困らないですから。
 歓楽街をうろつくよりはむしろ安全かもしれません」

 なんて、小声で姉に答える。

「それに、用はありましたし。
 修道女が落第街で炊き出しをしてるとか、噂になっていましたから。
 ――しいだって、心配するのです」

 一人で来るなと言われれば、ちょっとだけ拗ねるように。
 姉こそ装備はしていても一人じゃないかと。

「――なるほど、薬ですか。
 この島の医療技術は高いですからね。
 医薬品だけでも渡せれば、助かる人間は多いのかもしれません」

 うんうん、と頷きながら周囲を見渡し。

「でも、あまり備えができているという感じじゃねーですね。
 まだ色々、不足してる感じですか?」

 と、周りの様子を眺めてから聞いた。

マルレーネ > 「ふっふー、私はこの手の経験だけなら誰にも負けないくらいはありますから。
 大丈夫ですよ、心配させたなら申し訳ないですけど……。
 ま、そういう意味ではこれが「やりたいこと」なので。」

全く頓着しない。
危険であることは分かっていて、それに対する準備もしているが、それでも止まらない。

「……そうですね、手が届かないだけではなく、手に入らない、ということもあります。
 予備として配ることはできませんけど、実際に怪我をしたり病気にかかっている方を収容することくらいならできるかな、と。

 備えに関しては………まあ、そうですねー。」

苦笑を一つ。
自費では賄えるものも賄いきれない。今後の問題点でもある。
んー、と少しばかり困ったように微笑み。

神樹椎苗 >  
「姉のやりたい事、ですか。
 それならしいがとやかく言う事じゃねーですね」

 やらされているのではなく、やりたい事だというのなら。
 それはどうこう言える事ではない。

「――物もお金も足りないってところですか。
 多少の援助ならしいも出来ますが」

 金銭だけなら支援できる。
 財団や学園に『利用されている』だけの正当な対価として、相応の金額は得ているのだ。
 とはいえ。

「出来ることが他にないのも、もどかしいですね。
 姉のやりたい事なら、しいも手伝いたいのですけど」

 むすっとした表情で、悔しそうに言う。
 せめて両手とも満足に動くなら、雑用でも何でもできるだろうが。
 片腕しか動かないとなれば、むしろ迷惑をかける事の方が多いだろうと。

マルレーネ > 「ええ、………本来やりたかったこと、とも言えますかね。
 あはは、そうですね。 本当に困ったらお願いしようかな?」

にひ、と笑いながら医療品を順番に片付ける。

「……なるほど。
 私はいいんですよ、こうやって身体を動かしていないと落ち着かない、ってとこもありますし。

 そういう意味なら、椎苗ちゃんはやりたいことはないんです?
 どこかに行きたい、何かを見たい、知りたい。

 姉は頼られるものです。姉は手伝うものです。
 らしくいさせてもらっても?」

なんて、頭をそっと撫でる。

神樹椎苗 >  
 本当に困ったら、と言われれば。
 これは、頼られる事はなさそうだなあと、仕方なさそうに笑い返す。

「しいのやりたい事ですか――。
 なんでしょう、ね。
 この間まではずっと、『死にたい』とばかり思っていましたが」

 撫でられれば、心地よさに目を細める。
 今は何をしたいのだろうと考えると、娘のために世話を焼きたい――くらいだろうか。
 けれど自分がやりたい事かと言われると、悩ましい。

「もちろん、頼りますし、手伝ってももらいます。
 でも、妹だって姉を支えるのが役目だとおもうのです。
 だから、しいにだって支えたり、助けたりさせてほしいのですよ」

 と、自分も姉のために何かしたいのだと、そう伝える。

マルレーネ > 死にたい、と考えていた少女を思えば、少しだけ胸がつきり、と痛む。
痛むからこそ、表情には出さずに撫で続けて。

「どうして、そんな風に思っていたんです?」

そっと手を離せば、荷物を整理しながらそんなことを問う。
踏み込まない選択肢もあったが、それはそれ。
不思議な力を持った少女であっても、少女は少女だ。

安易に頼らないし、何よりも……今ある笑顔を守ることが最優先だ。


「………であれば、助けると思って。
 私に姉らしいことの一つもさせてくださいな。

 困ったときには協力し合えばいいんです。
 そうでない時は、思い切り甘えてしまってもいいんですよ?」

神樹椎苗 >  
「――むう。
 姉はしいを甘やかそうとばかりするのです」

 それでも、それ以上は言わない。
 本当に姉が困ったときや、弱ったときに助けられるように備えておけばいいのだ。

「そうですね――説明するのも、難しいのですが。
 生きる事は、死ぬ事。
 死ぬ事が出来ないならそれは、生きているとは言えない」

 ううんと唸りつつ、首をかしげる。

「しいの教義のようなもの、でしょうか。
 死を想い、死を尊ぶ事でこそ、生はより輝くものだと。
 だから、死ぬ事が出来ないしいは、本当の意味で、生きていると言えないのです」

 きっとこの感覚を伝えるのは難しい。
 死を貴び、生と死を同様に想う考え方はあまり一般的ではないのだ。

マルレーネ > 「そういうものでしょう?
 間違っていたら、叱りますけどね。」

ふむ、と顎に手を当てて、相手の言葉を聞く。
目を閉じて、相手の言葉をゆっくりとかみ砕いて。
相手の過去をただ思う。詳しいわけでもない。
根掘り葉掘り聞いたわけでも、調べたわけでもない。
ただただ、言葉から思いをはせる。

「椎苗ちゃんは、そうやって思ってるんだね。」

深い言葉だ。
おそらく、何かしらの強い思いがあっての言葉だろう。
安易に分かるとも、安易に否定もできない。

「……旅を続けてきました。ずっと、ずーっと。
 毎日毎日準備をして、心を削るくらいに準備をして。

 きっと、それは死ぬのが怖かったからかな。」

死ぬからこそ、生が輝く。
……彼女もまた、死んだら死んだ時、という価値観の持ち主。 口にはしないが。

神樹椎苗 >  
「そうです。
 しいは、しいを救ってくれた神様に、そういう命の在り方を教わりました」

 それが椎苗にとって、自我を得た最初の一歩だった。
 だからこそ、椎苗の根幹として価値観の大本になっている。

「死を怖がるのは普通だと思います。
 それこそ、死なないために準備に力を尽くすのも当然です。
 人間の命は、一つしかないのですから」

 それは、言葉の外で自分を人間扱いしていない台詞。
 色んな人に出会い、言葉を交わして、世界も大きく広がった。
 それでも、いまだに椎苗は、自分の事を人間としてみる事は出来ていないのだ。

マルレーネ > 「そっか。」

相手の言葉と、その意味。
彼女の価値観と、その意味。
それを程々に理解して、その上で、にへ、と微笑んだ。

感情で、言葉で、相手の今まで積み重ねたものを修正することなんて、できるわけが無い。
だから、何も言わずに椎苗の小さな手を取って、軽く握った。
それだけ。

何も言わないし、何もしないけど。
一緒になって医療品を数えて。


「で、で、姉らしいことをしたいんですから、ちょっとくらい我儘を言ったり、やってみたいことを言ってみてくださいよ。
 私が自分で考えてもいいんですけど、センスがちょっと独特かもしれませんよー?」

ころころ、と笑う。

マルレーネ > 妹は知らない。

この女が、穏やかに見えて苛烈な人間であること。
この女が、己の決定について腹を括ることが、極めて迅速であること。
この女が、今の言葉でスイッチが入ったこと。

相手が自分を人間扱いしないのならば。
相手が己の命を軽んじるのであれば。
自分がその倍、大切にすればいい。 己がどうなろうとも、だ。


女はまだ、悪戯っぽく微笑んでいた。

神樹椎苗 >  
「そうですが――?」

 その姉の笑みに不思議そうに首をかしげる。
 姉と慕ってはいるものの、まだ知らない事の方がよほど多い。
 その優しい表情に隠れた激しさなど、知る由もなかった。

「我儘――難しいです。
 ああでも、えっと」

 姉の隣で少し口ごもり。
 そっと、その袖を摘まむ。

「――お姉ちゃんと、もっと仲良くなりたいです」

 そう、ほんのり赤く染まった顔で言い。

「うー、てれくせーです」

 恥ずかしそうに唸った。

マルレーネ > 「仲良くなかったんです?」

あはは、と笑いながら後ろから抱きしめて、ひょい、っと持ち上げ。

「じゃあ、今日はこのままでいましょうか。
 薬を欲しがる人も、もういませんし。」

抱っこをしたまま、ん、っと身体を伸ばして。
にひひ、とちょっとだけ意地悪に笑って、歩きだす。

地面に足が付かぬ状況にしながら、抱きかかえ。
相手を、"全てを預けなければならない"状況にして、それを全部受け止める。


もう少し、その状況にも慣れましょう。
そんな思いだけを、笑顔の裏に込めて。

神樹椎苗 >  
「ひゃ――っ」

 突然、軽々と抱き上げられれば、小さく声を漏らす。

「こ、こんな子ども扱いしなくていーのです!
 仲良くって、そういう意味じゃ――」

 じたばたと。
 足をばたつかせるが、それでも離れないようにしっかり姉に左手でつかまって。

「もう、姉はちょっと強引なのです」

 少しむくれながらも、このふれあえる距離が心地よく。
 嬉しさは隠せていないのだった。

ご案内:「落第街大通り」からマルレーネさんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」から神樹椎苗さんが去りました。