2020/08/22 のログ
ご案内:「落第街-施療院」に山本 英治さんが現れました。
山本 英治 >  
暇だな。そしてこうして入院している間にも風紀の仕事ってあるんだろうなぁ。
俺が寝ている間に人が死んだら……
いやいや、自分を大事にできないやつに救える命なんて一つもねぇ…

思考が堂々巡りしているな。
そして考え事をする時にアフロに触れる癖があるが。
今は直毛だし重度熱傷で手は使えない。

落ち着かない………

ご案内:「落第街-施療院」にキッドさんが現れました。
キッド >  
入院中の山本病室の扉が静かに開いた。
扉から漂うのは白い煙。匂いのしない煙草の煙だ。

「……驚いたな、アフロが本体だと思ってたんだがね、アンタ」

早速冗談一つ、煙と一緒に吐き出した。
風紀委員のろくでなし、クソガキキッド。
山本英治の事を聞き、仕事の合間を見つけて落第街にやってきた次第だ。
温泉で出会った程度の仲だが、キッドも人の心配位はする。
特に山本英治は、"あのサウナでの一件"以来、少しは気になっていた。

「よォ、怪我の調子は大丈夫かい?ブラザー。
 随分と派手にやったみたいだな。ホラよ」

投げ渡すのはミックスジュースの缶。
子ども舌センスだ。

山本 英治 >  
その時、扉が開いた。
同時にちょっと心がざわつく。
人と会話している時が一番無聊が慰められるからだ。

現れたのは、キッド。
以前、世話になった男だった。

「どいつもこいつもアフロで俺を判別してるの?」

喉を揺らして笑いながらミックスジュースの缶を包帯を巻かれた両手で受け取った。

「怪我はまぁ、ぼちぼちだ。再生能力のある異能じゃなかったら三ヶ月コースだったな」
「派手にやられただけだ、一切手は出してねぇよ」

缶を開封しようとして。
まごつく。というか無理だった。歯がゆい。

「すまん、空けてくれキッド」

ご案内:「落第街-施療院」に羽月 柊さんが現れました。
キッド >  
「目立つんだよ、アンタのアフロ。
 風紀委員の大抵の連中が、顔よりアンタの頭を見てるぜ?」

動く直系40cmの黒塊。それを無視できる人間はそうはいない。
真偽はさておき、小粋なジョーク一つで扉を閉めて、病室を一瞥。
そして、英治の付近のパイプ椅子を勝手に広げて腰を下ろした。

「まったく、しょうがねェな。……ホラ」

手の動き、本人は口でそう言うが、随分と深いように見える。
キャップを目深に被れは缶を開け、今度はちゃんと手を差し出して英治に手渡した。

「……で、"一切手は出してねぇ"、か……。
 まぁ、今更何があったとは効かねェよ。
 例の"加害者"の方は、謹慎処分だとよ。詳しくは知らんがね」

英治が此処に入院している経緯は風の噂程度に走っている。
同じ風紀委員同士でドンパチやってしまった結果らしい。
その辺りのいざこざに興味は無いし、キッドも"今は"忙しい。
ふぅ、と溜息を吐いて肩を竦めた。

「アンタのやり方だからな、別に今更とやかく言う気はねェが……
 少しはやり返すべきだったんじゃないか?下手すりゃ、アンタ死んでるんだぜ?
 せめて、俺は"逃げる"べきだったと思うがね……そもそも、アンタ、病院移動とかしないのか?」

羽月 柊 >  
裏を歩いていれば、嫌でも耳に入る。知り合いの風紀委員が病院送りになったと。
とはいえ荒事の多い風紀委員には仕方の無いことではある。

まぁ、色々な意味で目立つ彼だが、
たまたま時間が空いたからと、適当な和菓子を買って訪れた。
流石に落第街の方で、院内で白衣を着る訳にも行かず、小竜たちも置いてきた。
今日の柊はこちら側用の黒いスーツだった。

扉をノックしようとすれば、病室の中から話声が聞こえる。


――加害者なのに謹慎処分とは。



そう内心独り言ち、手の背で扉を鳴らす。

山本 英治 >  
「なんてこった、俺が目立とうとしてアフロにしてるのに」
「アフロのほうが目立っているのは本末転倒」

パイプ椅子に座る彼にへへへと笑って。
なんだかんだ言ってこうして見舞いに来てくれるとは。
脳内にある山本ランクを上げておこう。

「サンキュー、キッド……」

ジュースを飲めば、自然と笑顔になる。
けど相手が謹慎処分と聞けば表情を歪めて。

「逃げたくもやり返したくもねぇ事情があったんだよ」
「大病院に入らずにここで治療して目立たないようにしてやってるし、被害届も出してねぇのに」
「風紀の枠組みってのも、面倒だな……」

彼が吸っている煙を見た。
ああ、そういえば強制禁煙の真っ最中。

扉がノックされれば、声を張って笑う。

「はいはーい、山本英治の病室へようこそー」

誰かわからないけど、とりあえず元気にあいさつ。

キッド >  
「せめて後20cm小さければな……いや、アフロの時点で大分だな」

逃げられないアフロの呪縛。
多分これから先彼より目立ち続けるかもしれない。
目の上のたん瘤ならぬ、頭の上のアフロと言う訳だ。

「ツケにしといてやるよ」

ふ、と鼻で笑ってやった。
要するに、さっさとよくなれと言っているらしい。

「"組織"だからな。そもそも、目立たねェ所で寝ようってんなら
 正式に入院することだけ伝えればよかっただろうによ」

「まぁ、どのみち時間の問題だろうな…公安の連中が知ってる事実だ。
 アンタがだんまり決め込んでも、何時か糾弾される事だ」

「まぁ、何よりアンタは有名人みたいだからな。風の噂は流れてくるさ」

なんだかんだ、組織の情報網よりその辺のが早かったりする。
特に彼は、言った通り"目立つ"。
例え彼が波風立たない様に此処に居ても、お節介や何やらは付きまとってくるものだ。

「悪いが、俺の煙草<コイツ>は特別性だ。アンタにはやれ……」

そう言った時、扉へと視線を向けた。
随分と来客が多い、そりゃ噂にもなるはずだ。

羽月 柊 >  
「…まぁ、裏も噂は良い感じに広まっているな。
 とはいえ大抵尾ヒレ背ビレがついているが。」

扉が開き、静かな声がそう告げる。

コツ、と質の良い革靴が音を立てる。
紫髪の長髪に桃眼。英治やキッドに比べると歳を重ねた顔。


「さて、病室はここで合っていたか?
 色んな意味で別人に見えるがな、山本。」

まぁ、見舞いに来るのだから、彼の知り合いには違いない。
とはいえ黒スーツの今は割と怪しい雰囲気がある。

「思ったよりは元気そうには見えるが…邪魔をしたか?」

キッドの方を見ながら僅かに首を傾げた。

山本 英治 >  
「アフロじゃないと俺じゃないのかなぁ……」

ああ、アイデンティティの危機。

「お高いミックスジュースだな」

破顔一笑、両手で包み込みながらジュースを再び飲む。
甘酸っぱい味がした。
こうして気遣いの言葉までかけられると、完全に治してしまおうという気になる。

「そこまで判断できるような怪我じゃなかったんだよ…」
「仕事熱心なただの一般風紀なのに随分と名が売れちまったなぁ」

ちびちびと大切にジュースを飲みながら、表情を歪める。

「わかってるよ、キッドの吸ってるものについては前に聞いた」
「それにこっそり煙草を吸ったのがバレたらマリーさんに叱られる」

まず声が入室してくる。
ちょうど良く外で鳴いていた蝉も黙りこくっていて。
そして扉が開かれ、羽月さんが入ってくる。

「尾鰭は煮込んでダシとって、背鰭は外してエンガワ取っちゃうぞ」
「はは、ご無沙汰してます羽月さん」

ぺこりと首が可動する範囲で頭を下げて。

「ここで合ってますよ。髪型がこうなっても俺ってば伊達男だから問題ないかと…」

ニヒヒと笑って迎え入れる。

「色々とお見舞いが来てくれて、不幸ド真ん中ハッピーを噛み締めてるみたいな?」
「運良く尾てい骨のヒビも異能で治せて寝てるのも楽になりましたしね」

キッド >  
「それは、違いないがね」

尾ひれ背びれ、実際真相に興味なければ乗り放題だ。
その結果、悪評ばかりが広がっていく。
キッドはどっちにも興味は無い。
ただ、今回の処分にはやや不満が無いと言えば、嘘になる。
ふ、と鼻を鳴らせば入ってきた羽月を一瞥した。

「いいや?アフロの旦那が大層暇しててな、アンタみたいなのを丁度欲しがってたらしいぜ?」

相変わらず口からは適当ばかり。
煙と一緒に言葉を吐き出し、ニヤリと口角を吊り上げた。

「仕事熱心だから、だろ?悪い所も良い所も、人間みてるもんさ。
 この千客万来っぷりは、紛れもなくアンタの徳だろうしな」

少なくとも、彼が悪評だけの人物なら
自分を含めて見まいなんて来るはずもない。
そもそも、見舞いの多さで風の噂が広まってしまったようなものだ。
もう少し、自分の事を大事にすべきだと思う。
彼だけではなく、周りの大勢が、だ。
キャップの奥で英治を一瞥し、軽く首を振った。

「まったく、どいつもこいつも、少しは自分の事省みれないのかね?」

だから思わず、ぼやいてしまった。
自戒に意味も含めて、、だ。
煙草を口から離し、煙を天井へと吐き出した。

「……で、そっちのスーツの旦那は山本の知り合いかい?
 まさか、主治医ってわけじゃねェよな?」

羽月 柊 >  
「生憎と人間医学は専門外でな。」

持って来た和菓子の紙袋を片手に、
軽く肩を竦めるように隻手を横に掲げる。

右耳の金のピアスが揺れる。

「風紀委員の離反、仲間割れだの弱体化だの囁かれたりな。
 まぁ、どれも眉唾に過ぎんと思って聞いてはいるが。
 一部の悪い話が大々的に取り上げられすぎて、普段の働きが見えなくなっているだけ。

 夏季休暇中の今とはいえ、君たちは良くやってくれている。
 ……こんな一介の研究者『教師』よりも、君の方がよっぽど情報的価値があるように見えるがな?」

教師。

「俺は羽月 柊(はづき しゅう)。研究者で教師をしているモノだ。
 山本とは何かと縁があってな。たまたま時間が空いたから見舞いに来たんだが。」

とはいえ成り立てだ。
まだ教師らしいことはほとんど出来ちゃいない。
それでもまだ、ただの研究者と言うよりは英治とも関係性を付けやすい。


「人望も含めてキミの能力とも言える。

 全く異能というのは千差万別だな。
 そういう面で便利なのは、羨ましい限りだとも。」 

山本 英治 >  
「美男子が入院してるって噂も流れてくれねーかなぁ……」

ビシ、と包帯で指まで固定された両手を使って羽月さんを指す。
ミックスジュースをこぼしそうになって慌てて両手で持ち直した。

「そうそう、待っていました羽月さん!」

冗談を言って笑った。

「そうか……徳があるのなら、なおのこと人に心配かけちゃいけねぇなぁ…」
「苦節22年……人を心配して、人に心配される立場になったか、俺も」

しみじみと語ってジュースを飲み終えて。
缶を枕元に置いた。
そして羽月さんが名乗り終えるのを見たタイミングで。

「羽月さんとは色々あって、友人関係というかなんというか」
「てか、羽月さん信楽屋の和菓子持ってきてくれたのぉ? 俺の好みバッチリだよー」

金のピアスを横目で見て、口元を緩めた。
ああ、知り合いが来てくれるってのは、良いなぁ。
そして離反や仲間割れの噂を聞くと。

「ああ、トチったなぁ……もっと頑丈に鍛えておけばよかった」

と冗談めかして言った。
教師。教師か。って羽月さんが教師ィ!?

「羽月さ………っ」

驚いてる間に次の言葉が来て。

「……確かに、自分で思ったより人望があったみてーだ」
「そして大勢に心配かけちまったとも……無茶は、するもんじゃねぇなぁ……」

キッド >  
「ふぅん、獣医ってワケでもなさそうだな。
 …で、教師ねェ。見ない顔だな。まぁいいさ。
 俺ァ、キッドだ。宜しくな?羽月"先生"。」

こう見えてキッドは授業などは真面目に出ている。
学生の本分だ、そう言う所は真面目な性分。
見ず知らずの教員だが、言葉に嘘は感じれない。
帽子のツバに指を添え、ピッと弾くキザなポーズ。

「ま、ともかく、だ……」

煙草を咥え直し、煙をゆっくり吸い上げる。

「結果としては今風紀がゴタついてるのは間違いじゃねェ。
 どれも今は個人の範疇だが、あんまりデケェ噂になんのもな。
 ……特に、教師のアンタにも耳に届いてるとなれば、痛いモンだ」

眉唾と言っても、火の無い所に煙は立たない。
どれもこじんまりとしたボヤではあるが
何かの拍子に瞬く間に燃え広がる可能性も無くはない。
杞憂で終わるなら、それに越したことは無い。

「アンタの人望で止まってくれる相手なら、入院する事もなかったんだがな、山本。
 なっちまったもんはしょうがないけど……アンタ、仮に今より"鍛えて"おいて……
 止まる相手かい?向こうさんに手傷とか負わせたのか?当事者じゃねェから知らねェが」

「アンタが入院、向こうは謹慎処分。随分と差、ついてるじゃねェか」

割に合わない、理不尽と言ってしまえばそうだ。
山本を一瞥すれば煙を吐き出し、羽月へと視線を向けた。

「なぁ、先生よ。アンタもそう思わないかい?
 人一人ぶっ殺しかけた奴が、謹慎処分でのうのうと表を出歩くっていうのは
 ちょいとばかし、あんまりとは思わないかい?俺は思うね」

「場合によっちゃァ、その行いは『悪』だと糾弾されるべきだと思うんだがね……」

どういう経緯かはわからないが、処分が余りにも軽いとは個人の感想。
権利はく奪くらいあっても然るべきだとキッドは思っている。

「何より、山本。アンタそれでいいのかよ?
 こんな場所に転がされてるより、向こうに苦汁位飲ませた方が溜飲でも下がるんじゃねェのか?」

羽月 柊 >  
「まぁ、それもそうだろう。
 "今月"教師になったばかりの人間でね。これから君と逢うこともあるだろう。

 山本には研究者として、風紀委員関係で何回か共闘や協力をしたことがある。
 …まぁ、友人……といえばそうなのかもしれん。」

相も変わらず"友人"と言われると素直にはいとは言えないのである。
和菓子の箱を脇に置く。開けるか? と英治に聞きながら。

「……聞こえた話では山本からは"手を出していない"、か。
 
 なに、教師とはいえ、この常世島では強権がある訳じゃあない。
 情報は精査の為にあるに越したことは無いがな。
 眼を逸らしても耳を塞いでも、『起きた事実』を変えられることは出来んのだからな。」

男の言の葉は多い。
ただ言葉は選び抜かれ、対峙や敵対、または頭ごなしな説教という意味合いは無い。

「全く、君は本当に俺と良く似ているな。
 自分を『犠牲』にし過ぎて周りに心配をかける……俺もつい最近怒られたよ。

 そうだな、確かに違和感はある。
 『加害者』が『謹慎処分』のみで済んでいる所は違和感の最たる所だ。
 委員会に何かしらの思惑があると疑えてしまう程度にはな。
 "日ノ岡あかね"や"葛木一郎"が入った懲罰系の所に一定入ってもおかしくは無い気はするが。
 あれは風紀委員そのものには、適用されないのか?」

仮にも身体強化系の異能者とはいえ、英治にここまで手傷を負わせたのだ。
相手のことは把握しきってはいないが、それでも確かに、否を唱えられる部分は大いにあるだろう。
 

山本 英治 >  
「……相手さ、知り合いなんだ………」

キッドの目を見て少しだけ語る。
あんまり情報を出しすぎるのも、なんだかな。
しかし、言わなきゃいけないことはある。

「暴走したそいつを止めるために相手に縋り付いたら怪我しただけだ」
「暴行を受けた、と考えてもいない……」

「本当の悪に挫かれたわけじゃないから、笑っているのさ」

苦渋と辛酸を舐めさせるのは、俺の本意じゃないと笑って。

「開けちゃってくださーい、栗まんじゅうがあるなら今すぐ食べたぁい」

カラカラと笑って羽月さんに厚かましい要求。

「風紀委員だからとかじゃなくて……俺は相手に罰が相応しいと考えてないだけですよ」
「魂が迷った相手に、頭ごなしに懲罰なんて愛がない」

「そんなことより和菓子食べさせてくだーたい」

なんてことない、と言わんばかりだ。

キッド >  
白い煙を、ゆったりと吐き出した。
二人を交互に見るキッドの碧眼は、鷹の様に鋭い。

「風紀委員もこの島にいる以上は、同じ法は適応されるさ。
 寧ろ、"そう言う組織"だからな。やらかした事にもよるが
 場合によっちゃぁ、一般生徒や教師より重いかもな?」

それこそその時の度合いによるとしか言えないが
風紀委員だからと言って例外は無い。
羽月の言うように、その"違和感"は正しい。
事実、彼の言うような懲罰が最低、そして風紀委員除名だってあり得る話だ。

「だから、先生の言う所が尤もだよ。山本が手を出してなかろうと、やられかけた事は事実だしな。」

おまけに身内の風紀委員。起きた現場が落第街
一般生徒が立ち入らない場所とは言えど
これが学生通りのど真ん中なら大問題だ。
身内同士で争ってる事自体が問題だというのに、例の査問、一体どんな内容やったのやら。
帽子を目深に被り直せば、何処となく冷ややかな目線が英治に向けられる。

「……アンタが何言おうが、『罪』には『罰』なんだ。
 『罰』を受けない人間はそれが『正しい』と増長し
 『間違い』に気づけない。……中途半端な甘さは、人を犯罪者に育てるだけだぜ?」

それこそ虫唾が走るような甘さだった。
"暴走"だの"知り合い"だの、甘すぎる。
異能者である以上、"暴走"なんてありえない話じゃない。
だったら、それに対処すべき"鎮圧"が正しい対処法だ。
"知り合い"で引き金を鈍らせていたら、被害が広がった時に生まれるのは"後悔"だけだ。
山本英治の言う言葉は、秩序を守るうえで実に不適切な発言だと思った。

「アンタだけなら良かったが、落第街の連中にまで被害が及んでいたらどうする気だ?
 迷うぐらいなら、前線に出るべきじゃねェ。これは『必要』な事だ」

「甘い事言った結果がコレだぜ?救えないな……」

必要ない。断罪されるべき所に、判断を鈍らせる感情は。
煙草を手に取り、ゆったりと天井へと吐き出した。
そうだ、不必要なものだ。だけど……。

「……だが、山本。アンタの言う事を"間違い"とは思わない」

饅頭の箱を開け、手に取るのは栗饅頭。

「『罪』には『罰』だ。だが、その後『愛』がなけりゃ
 ソイツはまたきっと犯罪に走る。……『受け皿』、って言うのかい?
 俺には"まだ"理解しかねるがね。アンタの考えは否定しない。
 誰かに寄り添う事の出来るってのは、きっと人を正しい方向へと導ける…らしいぜ?」

「アンタは、今の風紀委員会にとっては必要な人材なのかもな」

罪を憎んで人を憎まず、と誰かは言う。
そんなものは嘯くなと前までなら吐き捨てていただろう。
これも"人の受け売り"ではあるが、過激派と言われたキッドも
こうしてまた、犯罪者との向き合い方も変え始めていた。
本人は実に、何とも言えない表情をしているが
放送を開けた栗饅頭を、少し勢いをつけて英治の口へと投げつけた。
エイムはばっちしり、ホールインワンだ。

「……先生の奢りだ。良く味わいな」

なんて、気取って言ってやった。

羽月 柊 >  
「……当人同士はそれで良いのかもしれん。
 だがな、詳細を知らない外面から見た印象として、そう見えてしまうんだ。
 俺や彼が言ったようにな。

 君の人となりをある程度知っている我々ですらこうと考えれば、
 『山本英治という風紀委員』と『同じ風紀委員が対峙した』という情報から付加されるモノは…君にも分かるな?
 上だけを掬いあげれば、全体的な『風紀委員という組織への不信感』に繋がりかねん。
 だからこそ、どちらかに然るべき罰などが必要になる場合がある。例えフリであろうともな。」

英治の素直さや正義感には己も影響を受けるほどな所はある。
しかし、純粋だからこそ、大人から言わなければいけないことはある。

普通に暮らしているだけなら見なくて良い汚い部分だ。
しかし、『組織』に属している以上、これは必要な部分だ。

現実は、残酷だ。

「俺は君が馬鹿という訳ではないのは分かっている。
 だが、俺と同じく自分の考えをそう曲げないのも知っている。
 最終判断は君自身にあるのは確かだ。

 俺たちはただのガヤに過ぎない。当事者ではない。
 だからこそ進言出来ることがあるし、逆を言えば余計なお世話とも言える。」

あくまでも表と裏の両方を歩く側から、
教師としての言になるかはまだ分からないが、柊はそう話す。

「ただ、君のその素直さや正義感、
 彼の言うような甘さ…それは、諸刃の剣になる。
 使いどころだけは……誤るなよ。山本。」

栗饅頭って結構咥内の水分を奪う。
飲み物は大丈夫だろうかと、ホールインワンの傍らジュースの残りをちらりと見た。

山本 英治 >  
二人の言うことは、確かに正しかった。
俺の甘さで風紀委員というシステムに狂いを生じさせるのは、本意ではない。

口の中に栗饅頭を放り込まれ、咀嚼しながら考える。
自分にとって、風紀委員というのはただの枠組みなのか?

違う。

だったら、風紀委員の規律を守りながらでないと。
優しさや愛も意味を持たないとはっきり理解するべきなんだ。

二人の言葉は、確かに俺の甘さを許容させてくれて。
でも、それに甘えるのは……正しくないんだな。

ゆっくりと栗饅頭を食べ終えて。

「すまなかった、俺が間違えていた」
「ちゃんと証言台に立つ」

そう言って、口を開いた。

「水もください……」

キッド >  
「先生の言う通りでもあるが、生憎ソイツは俺も耳が痛いな」

外面の印象の話をすれば、恐らく自分も余り欲は無い。
"過激派"、容赦なく犯罪者に引かれる引き金。
例え些細な罪でも容赦なく放たれる弾丸が規律を破った者を裁き続けた。
そこに一切の慈悲は無く、言うなれば『恐怖』の象徴。
……風紀委員という伝統の上に、“爪弾き者”という言い訳で胡坐を掻いている。
あの教師の言葉が、何となく今は理解出来る。
きっと、羽月から見れば自分もその不信感の一つだったんだろう。
なんとも、恥ずかしい話だ。キャップを目深に被れば、肩を竦めた。

だからこそ、自分なりにやれる事を、考える事を、今実行する。
煙草を口から離せば、静かに首を振って英治を見た。

「もう、結論は出たらしい。一足遅かったが……なんだ。
 いったろ、アンタみたいなのが必要だって、さ」

適当に備え付けと冷蔵庫を開ければ水の入った瓶を取り出した。

「どうせ、こっちの決定は表には見えちゃいねェし、他の生徒に被害が出たワケじゃねェんだ。
 波風立てないなら、まずアンタは何もせずに、まずは回復する事だな。」

ピン、と親指を蓋で弾き飛ばし、ビンを山本へと差し出した。

「……アンタが立つのは証言台じゃねェ、"現場"だ。」

「次は、"ヘマ"なんてしないでくれよ?」

「アンタの"優しさ"で、真っ当な道に戻れる犯罪者もいるかもしれねェ、ってな。
 だから、その"優しさ"の使い方を間違えないでくれ。正しく『罰』を受けた奴に
 アンタみたいな奴がいてくれた方が、再犯率が激減するかもな。」

「……使い所間違えたら、俺みたいになっちまうって言ったはずだぜ?
  ……アンタの友人は……未来だって、そうは望まないだろうさ……」

「俺が言う資格は、ないだろうがね」

正しくきっと、レイチェルの言っていた『受け皿』は彼のような優しさなんだろう。
まだ、自分はその"優しさ"を理解すれど、実行しようとは思わない。
何よりも殺人者の自分を許せないからだ。
だけど、何時かコレが必要になる事もあるかもしれない。
……何時になるかはわからないが、此の引き金の意味も変わってくるかもしれない。

「(……レイチェル先輩。こう言うのでいいんですかね……)」

胸中独り言ちても、答えは返ってくるはずもない。
何より今は、あの人に無理をさせちゃいけない。
あの人がいない分の仕事は、自分がやらないと。
視線を羽月の方へと向けた。

「……さて、と。先生はコイツの世話でもしてくのかい?
 俺の方は、実は風紀の方がゴタついててな。仕事が"山積み"だ。先生、後の事は任せてもいいか?」

羽月 柊 >  
栗饅頭で奪われた水分が補充されるのを眺めながら。
 
「……同時に、内部からの不信感も考慮した方が良いかもな。
 白アリが、家を喰い壊すかもしれん。」

"決定が表に出ないこと"というのには目を伏せる。
ヒトの口に戸は立てられない。

自分が他言しないかというのも分からない。

緘口令が敷かれず、今こうして自分が見聞きしてしまったのが証拠だ。
今のこの会話を"誰かが"聞いているかもしれないのも確かだ。

帰り支度を始めたキッドの方をちらりと見ては

「まぁ、『風紀委員同士の戦い』から、
 今の彼の情報だけでも、俺がこれだけ言えたわけだ。
 俺以上に頭が回る奴も、ずる賢い奴も…ごまんといる。

 君ら二人とも、油断はせんようにな。
 気を付けて帰ると良い。任されようとも。」

どう足掻いても、年齢によって思慮に差は出る。
ならば、先を歩く自分からの言葉を。 

山本 英治 >  
飲ませてもらった水を嚥下し、考える。
現場に戻る、その言葉の意味を。
俺には俺にしかできないことがある。

それは現場にしか転がっていないものだ。

「……未来は…俺に失敗しながら後悔と共に生きて欲しいなんて言わないだろうな…」

「ああ、現場に出るさ。ちゃんと復帰する、今度こそ間違えない」

シロアリ。いてほしくはない。
だが羽月さんの言葉通り、いるかも知れないのだ。
家を食い荒らす、それが。

「風紀委員同士の戦い、私闘……確かに聞こえは良くねぇな」
「だから……考え………」

眠気が来た。
来客中なのに、意識が飛びそうなほどの眠気だ。

「すまねぇ、羽月さん………異能を小刻みに作動させてた疲れが来たみたいだ…」
「少し、眠るから……羽月さん、マリーさんに………」
「ここの責任者に、」

ふぅ、と溜息をついて両目を瞑る。
すると、言葉も出ないほどの眠りに落ちていった。

キッド >  
「……だろうな。悪かった」

憶測で死人の名前を出して口にする。
卑怯な事だ。素直に謝罪を口にし、踵を返した。

「ああ、俺はそろそろ帰るさ。それじゃ、先生。後は任せたぜ?」

今を凌ぐには頑張れる奴が頑張るしかない。
簡単な挨拶だけを済ませ、軽く片手を上げて去っていくだろう。

羽月 柊 >  
「………未来、か。」

桃眼を伏せる。
恐らくは彼の言う"大切な人"。
そう呟く男にも、金色のピアス。

「任されよう。
 とはいえ、責任者とやらを探してこないといけないようだがな。」

適当に食べたモノや飲んだモノに蓋をして、
マリーとやらを探しに行こうとする。

似た彼らはそれぞれ、今は別々に。

ご案内:「落第街-施療院」から羽月 柊さんが去りました。
ご案内:「落第街-施療院」から山本 英治さんが去りました。
ご案内:「落第街-施療院」からキッドさんが去りました。