2020/08/27 のログ
ご案内:「月夜見邸」に月夜見 真琴さんが現れました。
ご案内:「月夜見邸」に園刃 華霧さんが現れました。
月夜見 真琴 >  
 
 
時計の針は、数日分巻き戻る。
 
 
 

月夜見 真琴 >  
「フム――すこし胡椒が弱いか、な?」

スープの味を見ながら暫し、同居人の帰りを待つ夕まぐれ。
友人と済ませた昼食ははじめて訪う店だったがなかなかのもので、
さっそく真似てみようと思ったのだが――寄らない。
美味しくはなっているのだが、なにか違う。

「話し込んでしまったからな、楽しかったがどうにもこうにも。
 次に誘うとなると別の店となろうし――
 暇なときにひとりで赴いてみるか? いや華霧をつれて――」

随分と多忙な友人だ。毎回同じ店に誘うのも気が引ける。
胡椒を挽いて混ぜてみて、もう一口小皿に取って――首を傾げていると。

「――おや」

帰宅の気配。火を弱める。
見舞い品を持たせて見送ったのが昼のこと。
うさぎスリッパでぽすぽすと歩きながら出迎えにむかった。

「おかえり。遅かったな。夕食はもうすぐだよ」

園刃 華霧 >  
「……」

思えば、定住というのは久しぶりだ。
今まで女子寮、という場があったのは事実だが、
気の向いた時にぽつりぽつりと戻っているだけだった。

普段は、風紀委員会庁舎仮眠室、教室の何処か、
何処か其の辺の泊まれる場所を適当に、
本当に好き勝手にしていた。

しかし、今
そこに足を踏み入れるのがためらわれる。

理由は様々だ。
そして、多くは察しのいい同居人に悟られてしまうだろう。
それが……    。


「……ン、ただいマ」

出迎えられてしまった。
だから――

いつもの、へらっとした笑いで帰宅の挨拶をした。

月夜見 真琴 >  
「――――」

いつもの園刃華霧を見ると、口舌が停まる。
瞬きをひとつ。そして眼を閉じてから、迎え入れた。

「――きちんと手は洗うように。
 なにが飲みたい? コーヒーでもいいし。
 それとも食前だし、レモンでも搾るかな。
 そとは――まだ、暑いから」

彼女を連れて食事用のリビングのほうに。
"いつもの"華霧、であることに、
含まないものがないわけでもなかった。

「スープがな、やつがれの作るものだから佳味なのだ、が。
 なかなか思ったとおりにならなくてな、味をみてくれ」

けれども自分からは問わない。
同居人、ルームメイト、そして。
甘やかで切実な関係かといえば、そうでもない取り合わせ。

園刃 華霧 >  
「はイ、はい。
 細かいナー、もー。
 あ、レモンでいイや。コーヒーはちょっト。」

文句をたれつつも、言いつけには素直に従う。
此処では家主の方が上だ。
逆らっても良いことはない。

まあ、それでも通せる我儘くらいは通す。

「スープ?
 まタ、なんか新しいネタでも仕込ンだの?
 ほんっと、好きだネ。つっきー先輩」

そうは言いつつも、まあ食べるのは嫌いではない。
ふらふらと匂いに誘われて、鍋の側による。

月夜見 真琴 >  
「風紀の先達として、監視役として。
 おまえの面倒をみるのがやつがれの責務。
 それともなにかな、ここでの暮らしは窮屈かな?
 遠慮はしなくていいぞ。直截簡明に申し付けてくれ」

聞くとも――気が向けば。
そう満面の笑顔で彼女に問うてみる。
グラスに柑橘を搾ってレモンスライスを差す。
いちいち見た目を凝ったものを出してやる。

「ああ、すきだよ。料理は気分転換にもなる。
 実際に助かっている。こうやってたくさん作っても、
 しっかり食べてくれる同居人がいるというのは。
 話し相手は日常に彩りを与えてくれる――そうだろう?」

小皿に取られた玉葱の煮くたれたスープ。
甘い味を出したそれは、元に戻すことは通常は叶わない。
美味しくしあがっているが、思った通りのものではない、のだ。

「お腹、空いてるかな。主菜は決まっているんだが」

園刃 華霧 >  
「む、グ……ムぐぐ……」

実際、自由に生きてきた自分としては、
此処での色々と言われる生活は窮屈といえば窮屈だ。

しかしまあ、それを言ったところで論戦で勝てるわけがないのは分かっている。
ゆえに、歯噛みするだけで終わる。

諦めて、やたら凝っておしゃれに飾られた液体を口にする。
――酸っぱい

わざわざ酸っぱいって感じの顔をする。
まあ、少しは頭も冴えた。

「ま、食べろって言わレりゃ遠慮ナく食べるケどさ。
 話し相手、ネ。
 アタシが話し相手に適しテるか、ちょっと謎だナ。」

軽口を叩きながら、味見のスープを取り分けた小皿を遠慮なく手に取る。
ちょっと熱さを確かめて……うん、これなら平気か。

「ン……甘い、ナ。
 よクわかラんけド、うまクはあるンじゃナいの?
 これデ不満とカ、理想高いナ」

相手の求める味はわからない。
わからないが、とりあえず出来てるスープが不味いということはない。
むしろ旨い部類だ。
何が不満なのか、自分にはよくわからない。

「ン、腹? まア……ほどほど、には」

食欲自体は……まあ、ないわけではない。
気力は少し抜けているけれど、まだ大したことはない。

月夜見 真琴 >  
「思ったのとちがう――と、いうか」

味見する様を見ながら、彼女のグラスを炭酸水で割る。
そのまま飲むと気付けになる。こうすれば飲みやすくなる。
シロップは好きに使え、とポットを示しておいて。

「美味しくできてはいるのだが、理想とするものとは違う。
 仕方がないと妥協してしまうことはできるのだが――
 ――せっかくだから追い求めてみたい。
 これは性格だな、まあこれ以上弄るとよくないことになりそうだし」

"理想"。
その言葉を聞くと、重々しく頷いた。
店の味の再現。挑戦的な行為で、これがまた面白い。
大抵は"近づける"程度で終わって、企業努力や秘密までかすれないこともある。
それを楽しめているからやっている。
――楽しめなければ。

「では腕によりをかけて美味しいものを作ろう。
 あまり大きくはしないほうがいい、か――席について待っていてくれ。
 ――定期報告書類はきちんと認めてあるかな、華霧?」

詳しくは、聞かない。
ただ穏やかな日常として振る舞う――事情が事情だから、だ。
好きにさせるまえに、やるべきことをさせる。
そういうことを済ませれば、ほどほどの自由だ。
――どのみち逃げられない虜囚なのだ。どちらも。

園刃 華霧 >  
「ふーン……
 上手くデきちゃイるが、欲しイものトちがウ、か……
 似テるよーデ、どこカが違ってルってこと、ネ。
 そリャまた……微妙ナとこ、だナ。」

これはこれで、と言えなくも無いが決定的に違うもの。
それはどこまでいっても、やはり「違うもの」だ。
それでよしとするかどうかは……確かに本人次第なのだろう。

そして、それを追い求めることが楽しいなら、きっと良いことだ。
しかし、もし――


「……ァー……あレ、な。
 ソりゃ、首輪ツきでも割と自由にナるためって言わレりゃ……
 やってルよ。めんどッチいけドさー」

せっかく得た自由だ。
それを再び"奪われる"わけにはいかない。
そのためなら、多少面倒くさい作業くらいはする。

少なくとも、それさえしておけばいいんだから。
こんなに簡単で安全な話はない。

「……マ、大して書くコともナいけどサ」

なんか無駄に細かいことを書かされるのが腹立たしくはある。
今日は何をした、とか。最近の気分は、とか。
そんな割とどうでも良さそうなことまで書かされるとか、日記かなにかか!
と思わず叫びたくなる。

実際一回吠えてたしなめられたが

月夜見 真琴 >  
「殊勝な態度で機嫌を取れ。平身低頭が処世術だ。
 ――虜囚気分はなかなかだろう?
 いずれ慣れる。もうひと月も続けていればな」

ぶつくさ言いながらもやれと言われたことはやるといった。
印象よりは律儀な性質の表出を、穏やかに微笑んで見守る。
妹分というほどに近くはない相手だが――そう。
元来話好きで、日常に彩りを感じているのは本当。
たとえ相手が園刃華霧でも。

そうして、書類作成に精を出す彼女をおいて。
フライパンを繰る音を響かせること暫し。

「――と、言うわけで労いの品だ。待たせたな」

そう。

「うまく黄色く仕上がっていると思う」

だから――他意はなかった。
筈である。いくら月夜見真琴であっても。

「きちんと包まっているだろう?」

色とりどりの食卓の、その中核たる主役を。
丁寧に配膳し、差し向かいに座った。

「これは今日頼まなかったものだ。メニューで見て気になって。
 食べたくて食べたくて――つい作ってしまった。
 パスタのほうにそそられたものでな――迷ったのだが」

そうして両手でとりあげたのは。
赤々とした。

「――なにか書いて欲しいものはあるかな、華霧」

園刃 華霧 >  
「うへ、一ヶ月?
 アタシはデきレば、さっさト開放さレたいンだけど……」

うぇえ……と、うめきながら素直に書類を書く。
なんか、ほんとこれ意味あんのかな……
でも書かないとなあ……めんどくさ……
なにしろ、やらなければいけない最低ライン、は見切っている。
これは"やらないといけない"部類のものだ。

まあ、それでも
一人でやるよりは、口うるさい隣人がいたほうが捗る。
実際助かっているといえば助かっている。

さて、そんな間にメインの料理ができたらしい。
いつもなにやら凝ったことばかりしてきて、
正直、新鮮というかよくわからない料理も多い。

今日は一体、なんだろう――


「……ァ?」

思わず、声が出る。
身体が、硬直する。


黄色い黄色い……明るい色

目の前に差し出されるのは
赤い赤い 調味料

それは 赤と黄が織りなす洋食
定番といえば定番の

卵とライスで できた 
・・
それは――

月夜見 真琴 >  
「―――ん」

銀色の瞳を瞬かせて。
まじまじと彼女を見つめること僅か。

少なくとも食の好みにおいて。
彼女は本当に悪食且つ健啖。
なにを作っても食べてくれる彼女との食卓は、
実際のところ――心地よかった、のだが。

「あまり、好みではなかったかな?」

立ち上がり、どうしようか、と語りかける。
冷蔵庫にいれて、明日自分の昼食にでもすればよい。

――思い出の一品。
そんな風に見えた。恐らくは、――青いほう、の。

「なにか一品、作ろうか?」

手を伸ばし、彼女の皿を示しながら、だ。
それくらいの手管はある。
気遣わしげに問いかける――問いかけるようには。
なってしまっていた。当初の予定とは、大きくずれて。

園刃 華霧 >  
「あ……いや、ウん……いイ……」

だいじょうぶ
たべれないわけじゃ ない
ただ すこし
これは とくべつ

「きらい、じゃ……ない、から、さ。
 ちょっと、予想外、だった、だけ。」

それは本当。
割と凝ったものを作ってくる相手が、
こんなにも平凡で普通のものを作ってくるとは思わなかった。

つまりこれは――
不意打ちなのだ

不意打ちなので、対処が遅れただけ、だ


「気に、しなくて、大丈夫、だから」

手を上げて、気にする相手を制する。
そう、平気
平気……なのだ

月夜見 真琴 >  
「―――直截簡明に」

今後は控えよう、と思ったけれども。
出されたものは食べてくれる様子には、却って強く出はしない。
対面に座って、ほら、と調味料を渡してみせて。

「"こんな形"ではあるが。
 いちおうは同居人だ。言ってくれれば気をつけるよ」

必要十分に。
――多少、十二分くらいに優しい声になっていた。
自省せねばな、とレモン水で喉を潤した。

「――"何があった"とは、聞かないよ」

含んだ言い方になった。
彼女が手を動かすなら、どこかぎこちないまま。
こちらも食べ始める。小食だが、ゆっくりだ。

園刃 華霧 >  
のろり、とスプーンを手に取る。
嫌いではない。
食べられないわけでもない。

「ん……」

掬う
スプーンにのった卵とライス
おそらく、これは美味しいのだろう

――世界、取れるぜ

ただ、これは決意の証だ。
じゃあ……何を?

また、手が止まる。


「……聞かない、の……?」


何があったか聞かない、と言われて思わず聞き返す。
思えば、今日何があったか、すら聞かれていない。
興味がないはずがない。

どうして、聞かれないのか。
思わず疑問を抱く。

月夜見 真琴 >  
ゆっくりと咀嚼して嚥下する。
出来は良い。子供っぽい味も、好きだ。自分は。
好きなものだとばかり思っていた――というのは。
結局、短絡的な思い込みだった。

「聞かれたくないこともあろうさ」

華霧にも。
そして見舞われた者にも。

それはプライベートであり、たとえば"聞き耳を立てる"ようなまねは。
――寝顔を盗み見るようなまねは、尊厳の侵犯である。
必要とあらばそれをするのが風紀委員である自分でもあるものの、
下世話な興味、といえばそれで終わってしまう話だ。

「気遣いならば無用だよ。
 話の種ならいくらでもある――今日の昼のパスタの話、とか」

少しふにゃりと柔らかな微笑みを向けて。
話題をそっととりかえる。
いつもの食事。いつもの光景。それで良かった。
――良い筈がないからこそ、あえてそうする。

園刃 華霧 >  
何でも食べてきた。
悪食、などと揶揄されることもあるが、それはそうだ。
そもそも、選り好みなど赦されない生活をしていたのだ。
何だって食べてみせる。

それこそ、腐ったパンだろうと。

それでも……今は、食べづらいものも、ある。

「……」

改めて、スプーンの上のモノを眺める。
赤と黄
きれいな色合いだ
とても 綺麗だ

「……そう」

これは 決意の証


「……ン。
 パスタ? また、おしゃれっぽいの、たべてきたの?」

むしゃ、匙の上のソレをと口にして。
変えられるままに、話題に乗っていった。

月夜見 真琴 >  
口に含む。
ふわふわに焼けた卵は随分出来が良い。
彼女が食べてくれれば嬉しいが、しかし。
僅かに踏み込んだことを知った気にもなる。

「赤も黄色も"とまれ"だな」

注意して進め、ではない。
そんなことをぽつり、と益体もなく呟いた。
無理に進んでも良いことはないのだ。
――そうすることでしか手に入らないものがあるなら話は別だが。

彼も、彼女も。
それをやろうとしているのではないか。

「そう――トマトソースで、海鮮の。
 大皿で出てくるからふたりで、な。本土では食べられない味だ。
 美味しかったよ。こんなスープが出た。少し味が濃すぎたかな。
 こんど、行こうか。おまえと一緒なら、もう一品くらい食べられそうだ」

食べてくれた。
  を、見ているようで。
どこか胸がちくりと痛む。