2020/08/27 のログ
ご案内:「月夜見邸」に月夜見 真琴さんが現れました。
ご案内:「月夜見邸」に園刃 華霧さんが現れました。
■月夜見 真琴 >
時計の針は、数日分巻き戻る。
■月夜見 真琴 >
「フム――すこし胡椒が弱いか、な?」
スープの味を見ながら暫し、同居人の帰りを待つ夕まぐれ。
友人と済ませた昼食ははじめて訪う店だったがなかなかのもので、
さっそく真似てみようと思ったのだが――寄らない。
美味しくはなっているのだが、なにか違う。
「話し込んでしまったからな、楽しかったがどうにもこうにも。
次に誘うとなると別の店となろうし――
暇なときにひとりで赴いてみるか? いや華霧をつれて――」
随分と多忙な友人だ。毎回同じ店に誘うのも気が引ける。
胡椒を挽いて混ぜてみて、もう一口小皿に取って――首を傾げていると。
「――おや」
帰宅の気配。火を弱める。
見舞い品を持たせて見送ったのが昼のこと。
うさぎスリッパでぽすぽすと歩きながら出迎えにむかった。
「おかえり。遅かったな。夕食はもうすぐだよ」
■園刃 華霧 >
「……」
思えば、定住というのは久しぶりだ。
今まで女子寮、という場があったのは事実だが、
気の向いた時にぽつりぽつりと戻っているだけだった。
普段は、風紀委員会庁舎仮眠室、教室の何処か、
何処か其の辺の泊まれる場所を適当に、
本当に好き勝手にしていた。
しかし、今
そこに足を踏み入れるのがためらわれる。
理由は様々だ。
そして、多くは察しのいい同居人に悟られてしまうだろう。
それが…… 。
「……ン、ただいマ」
出迎えられてしまった。
だから――
いつもの、へらっとした笑いで帰宅の挨拶をした。
■月夜見 真琴 >
「――――」
いつもの園刃華霧を見ると、口舌が停まる。
瞬きをひとつ。そして眼を閉じてから、迎え入れた。
「――きちんと手は洗うように。
なにが飲みたい? コーヒーでもいいし。
それとも食前だし、レモンでも搾るかな。
そとは――まだ、暑いから」
彼女を連れて食事用のリビングのほうに。
"いつもの"華霧、であることに、
含まないものがないわけでもなかった。
「スープがな、やつがれの作るものだから佳味なのだ、が。
なかなか思ったとおりにならなくてな、味をみてくれ」
けれども自分からは問わない。
同居人、ルームメイト、そして。
甘やかで切実な関係かといえば、そうでもない取り合わせ。
■園刃 華霧 >
「はイ、はい。
細かいナー、もー。
あ、レモンでいイや。コーヒーはちょっト。」
文句をたれつつも、言いつけには素直に従う。
此処では家主の方が上だ。
逆らっても良いことはない。
まあ、それでも通せる我儘くらいは通す。
「スープ?
まタ、なんか新しいネタでも仕込ンだの?
ほんっと、好きだネ。つっきー先輩」
そうは言いつつも、まあ食べるのは嫌いではない。
ふらふらと匂いに誘われて、鍋の側による。
■月夜見 真琴 >
「風紀の先達として、監視役として。
おまえの面倒をみるのがやつがれの責務。
それともなにかな、ここでの暮らしは窮屈かな?
遠慮はしなくていいぞ。直截簡明に申し付けてくれ」
聞くとも――気が向けば。
そう満面の笑顔で彼女に問うてみる。
グラスに柑橘を搾ってレモンスライスを差す。
いちいち見た目を凝ったものを出してやる。
「ああ、すきだよ。料理は気分転換にもなる。
実際に助かっている。こうやってたくさん作っても、
しっかり食べてくれる同居人がいるというのは。
話し相手は日常に彩りを与えてくれる――そうだろう?」
小皿に取られた玉葱の煮くたれたスープ。
甘い味を出したそれは、元に戻すことは通常は叶わない。
美味しくしあがっているが、思った通りのものではない、のだ。
「お腹、空いてるかな。主菜は決まっているんだが」
■園刃 華霧 >
「む、グ……ムぐぐ……」
実際、自由に生きてきた自分としては、
此処での色々と言われる生活は窮屈といえば窮屈だ。
しかしまあ、それを言ったところで論戦で勝てるわけがないのは分かっている。
ゆえに、歯噛みするだけで終わる。
諦めて、やたら凝っておしゃれに飾られた液体を口にする。
――酸っぱい
わざわざ酸っぱいって感じの顔をする。
まあ、少しは頭も冴えた。
「ま、食べろって言わレりゃ遠慮ナく食べるケどさ。
話し相手、ネ。
アタシが話し相手に適しテるか、ちょっと謎だナ。」
軽口を叩きながら、味見のスープを取り分けた小皿を遠慮なく手に取る。
ちょっと熱さを確かめて……うん、これなら平気か。
「ン……甘い、ナ。
よクわかラんけド、うまクはあるンじゃナいの?
これデ不満とカ、理想高いナ」
相手の求める味はわからない。
わからないが、とりあえず出来てるスープが不味いということはない。
むしろ旨い部類だ。
何が不満なのか、自分にはよくわからない。
「ン、腹? まア……ほどほど、には」
食欲自体は……まあ、ないわけではない。
気力は少し抜けているけれど、まだ大したことはない。
■月夜見 真琴 >
「思ったのとちがう――と、いうか」
味見する様を見ながら、彼女のグラスを炭酸水で割る。
そのまま飲むと気付けになる。こうすれば飲みやすくなる。
シロップは好きに使え、とポットを示しておいて。
「美味しくできてはいるのだが、理想とするものとは違う。
仕方がないと妥協してしまうことはできるのだが――
――せっかくだから追い求めてみたい。
これは性格だな、まあこれ以上弄るとよくないことになりそうだし」
"理想"。
その言葉を聞くと、重々しく頷いた。
店の味の再現。挑戦的な行為で、これがまた面白い。
大抵は"近づける"程度で終わって、企業努力や秘密までかすれないこともある。
それを楽しめているからやっている。
――楽しめなければ。
「では腕によりをかけて美味しいものを作ろう。
あまり大きくはしないほうがいい、か――席について待っていてくれ。
――定期報告書類はきちんと認めてあるかな、華霧?」
詳しくは、聞かない。
ただ穏やかな日常として振る舞う――事情が事情だから、だ。
好きにさせるまえに、やるべきことをさせる。
そういうことを済ませれば、ほどほどの自由だ。
――どのみち逃げられない虜囚なのだ。どちらも。
■園刃 華霧 >
「ふーン……
上手くデきちゃイるが、欲しイものトちがウ、か……
似テるよーデ、どこカが違ってルってこと、ネ。
そリャまた……微妙ナとこ、だナ。」
これはこれで、と言えなくも無いが決定的に違うもの。
それはどこまでいっても、やはり「違うもの」だ。
それでよしとするかどうかは……確かに本人次第なのだろう。
そして、それを追い求めることが楽しいなら、きっと良いことだ。
しかし、もし――
「……ァー……あレ、な。
ソりゃ、首輪ツきでも割と自由にナるためって言わレりゃ……
やってルよ。めんどッチいけドさー」
せっかく得た自由だ。
それを再び"奪われる"わけにはいかない。
そのためなら、多少面倒くさい作業くらいはする。
少なくとも、それさえしておけばいいんだから。
こんなに簡単で安全な話はない。
「……マ、大して書くコともナいけどサ」
なんか無駄に細かいことを書かされるのが腹立たしくはある。
今日は何をした、とか。最近の気分は、とか。
そんな割とどうでも良さそうなことまで書かされるとか、日記かなにかか!
と思わず叫びたくなる。
実際一回吠えてたしなめられたが
■月夜見 真琴 >
「殊勝な態度で機嫌を取れ。平身低頭が処世術だ。
――虜囚気分はなかなかだろう?
いずれ慣れる。もうひと月も続けていればな」
ぶつくさ言いながらもやれと言われたことはやるといった。
印象よりは律儀な性質の表出を、穏やかに微笑んで見守る。
妹分というほどに近くはない相手だが――そう。
元来話好きで、日常に彩りを感じているのは本当。
たとえ相手が園刃華霧でも。
そうして、書類作成に精を出す彼女をおいて。
フライパンを繰る音を響かせること暫し。
「――と、言うわけで労いの品だ。待たせたな」
そう。
「うまく黄色く仕上がっていると思う」
だから――他意はなかった。
筈である。いくら月夜見真琴であっても。
「きちんと包まっているだろう?」
色とりどりの食卓の、その中核たる主役を。
丁寧に配膳し、差し向かいに座った。
「これは今日頼まなかったものだ。メニューで見て気になって。
食べたくて食べたくて――つい作ってしまった。
パスタのほうにそそられたものでな――迷ったのだが」
そうして両手でとりあげたのは。
赤々とした。
「――なにか書いて欲しいものはあるかな、華霧」
■園刃 華霧 >
「うへ、一ヶ月?
アタシはデきレば、さっさト開放さレたいンだけど……」
うぇえ……と、うめきながら素直に書類を書く。
なんか、ほんとこれ意味あんのかな……
でも書かないとなあ……めんどくさ……
なにしろ、やらなければいけない最低ライン、は見切っている。
これは"やらないといけない"部類のものだ。
まあ、それでも
一人でやるよりは、口うるさい隣人がいたほうが捗る。
実際助かっているといえば助かっている。
さて、そんな間にメインの料理ができたらしい。
いつもなにやら凝ったことばかりしてきて、
正直、新鮮というかよくわからない料理も多い。
今日は一体、なんだろう――
「……ァ?」
思わず、声が出る。
身体が、硬直する。
黄色い黄色い……明るい色
目の前に差し出されるのは
赤い赤い 調味料
それは 赤と黄が織りなす洋食
定番といえば定番の
卵とライスで できた
・・
それは――
■月夜見 真琴 >
「―――ん」
銀色の瞳を瞬かせて。
まじまじと彼女を見つめること僅か。
少なくとも食の好みにおいて。
彼女は本当に悪食且つ健啖。
なにを作っても食べてくれる彼女との食卓は、
実際のところ――心地よかった、のだが。
「あまり、好みではなかったかな?」
立ち上がり、どうしようか、と語りかける。
冷蔵庫にいれて、明日自分の昼食にでもすればよい。
――思い出の一品。
そんな風に見えた。恐らくは、――青いほう、の。
「なにか一品、作ろうか?」
手を伸ばし、彼女の皿を示しながら、だ。
それくらいの手管はある。
気遣わしげに問いかける――問いかけるようには。
なってしまっていた。当初の予定とは、大きくずれて。
■園刃 華霧 >
「あ……いや、ウん……いイ……」
だいじょうぶ
たべれないわけじゃ ない
ただ すこし
これは とくべつ
「きらい、じゃ……ない、から、さ。
ちょっと、予想外、だった、だけ。」
それは本当。
割と凝ったものを作ってくる相手が、
こんなにも平凡で普通のものを作ってくるとは思わなかった。
つまりこれは――
不意打ちなのだ
不意打ちなので、対処が遅れただけ、だ
「気に、しなくて、大丈夫、だから」
手を上げて、気にする相手を制する。
そう、平気
平気……なのだ
■月夜見 真琴 >
「―――直截簡明に」
今後は控えよう、と思ったけれども。
出されたものは食べてくれる様子には、却って強く出はしない。
対面に座って、ほら、と調味料を渡してみせて。
「"こんな形"ではあるが。
いちおうは同居人だ。言ってくれれば気をつけるよ」
必要十分に。
――多少、十二分くらいに優しい声になっていた。
自省せねばな、とレモン水で喉を潤した。
「――"何があった"とは、聞かないよ」
含んだ言い方になった。
彼女が手を動かすなら、どこかぎこちないまま。
こちらも食べ始める。小食だが、ゆっくりだ。
■園刃 華霧 >
のろり、とスプーンを手に取る。
嫌いではない。
食べられないわけでもない。
「ん……」
掬う
スプーンにのった卵とライス
おそらく、これは美味しいのだろう
――世界、取れるぜ
ただ、これは決意の証だ。
じゃあ……何を?
また、手が止まる。
「……聞かない、の……?」
何があったか聞かない、と言われて思わず聞き返す。
思えば、今日何があったか、すら聞かれていない。
興味がないはずがない。
どうして、聞かれないのか。
思わず疑問を抱く。
■月夜見 真琴 >
ゆっくりと咀嚼して嚥下する。
出来は良い。子供っぽい味も、好きだ。自分は。
好きなものだとばかり思っていた――というのは。
結局、短絡的な思い込みだった。
「聞かれたくないこともあろうさ」
華霧にも。
そして見舞われた者にも。
それはプライベートであり、たとえば"聞き耳を立てる"ようなまねは。
――寝顔を盗み見るようなまねは、尊厳の侵犯である。
必要とあらばそれをするのが風紀委員である自分でもあるものの、
下世話な興味、といえばそれで終わってしまう話だ。
「気遣いならば無用だよ。
話の種ならいくらでもある――今日の昼のパスタの話、とか」
少しふにゃりと柔らかな微笑みを向けて。
話題をそっととりかえる。
いつもの食事。いつもの光景。それで良かった。
――良い筈がないからこそ、あえてそうする。
■園刃 華霧 >
何でも食べてきた。
悪食、などと揶揄されることもあるが、それはそうだ。
そもそも、選り好みなど赦されない生活をしていたのだ。
何だって食べてみせる。
それこそ、腐ったパンだろうと。
それでも……今は、食べづらいものも、ある。
「……」
改めて、スプーンの上のモノを眺める。
赤と黄
きれいな色合いだ
とても 綺麗だ
「……そう」
これは 決意の証
「……ン。
パスタ? また、おしゃれっぽいの、たべてきたの?」
むしゃ、匙の上のソレをと口にして。
変えられるままに、話題に乗っていった。
■月夜見 真琴 >
口に含む。
ふわふわに焼けた卵は随分出来が良い。
彼女が食べてくれれば嬉しいが、しかし。
僅かに踏み込んだことを知った気にもなる。
「赤も黄色も"とまれ"だな」
注意して進め、ではない。
そんなことをぽつり、と益体もなく呟いた。
無理に進んでも良いことはないのだ。
――そうすることでしか手に入らないものがあるなら話は別だが。
彼も、彼女も。
それをやろうとしているのではないか。
「そう――トマトソースで、海鮮の。
大皿で出てくるからふたりで、な。本土では食べられない味だ。
美味しかったよ。こんなスープが出た。少し味が濃すぎたかな。
こんど、行こうか。おまえと一緒なら、もう一品くらい食べられそうだ」
食べてくれた。
を、見ているようで。
どこか胸がちくりと痛む。