2020/09/16 のログ
ご案内:「常世学園付属常世総合病院」に山本 英治さんが現れました。
ご案内:「常世学園付属常世総合病院」にマルレーネさんが現れました。
山本 英治 >  
満足な睡眠は取れない。
目を瞑れば親友の幻覚が俺を罵り、苛む。
目の下に濃いクマを残したまま。

退院の日が近づいてきた。

傷は治った。あとは祭祀局の預かり。
呪いは……病院じゃどうしようもない。

病院のベッドに座りながらぼんやりとしている。
昼間だ、カーテンでも空けて気分転換をするべきなのだろうが。
カーテンの影が恐ろしい。

マルレーネ >  
彼女の眼は相変わらず焦点は合わない。
でも、心に一点の迷いも無い。

睡眠はとれないが、眠れないならと本を読み。
そこまで出歩くなと言われても、足は自然と外に向かう。

それでも、ちょっと迷うところはあるわけで。
扉の前ですー、はー、と息を吸って吐き出して。

こんこん、とノックをした。
 

山本 英治 >  
四人部屋なのだが。
風紀が入るところだけあってドアがある病室だ。
返事が億劫なのだが、それでも無視するわけにもいかない。

「はい、どうぞ」

他の人は検査やら何やらで留守だ。
俺も個室が良いな……でも羽月さん…あと入院費…とか考えながら。
ドアの前の誰かが入ってくるのを待った。

マルレーネ >  
「………回診でーす。」

ひょこ、と扉を開いて顔をのぞかせ、斜めの顔の割に真っすぐに髪が流れ落ちる女。
見覚えのある髪型を見れば、やあ、とばかりに片手を挙げて中に入ってきて、ぱたんと扉を閉める。

「……他の方はいらっしゃらないんですね、うんうん、都合がよろしい。」

あんまり出歩くなと言われている以上、現状がとても都合が良いのか、にひ、と笑顔を見せて。
 

山本 英治 >  
聞き覚えのある声。
そして先に入ってくる髪。
ああ、その人こそ。

「マ、マリーさん……!」

はは、と笑って顔をぺたんと手で叩く。

「よかった、なんかこう……意識とかあるんだな…」
「俺ぁてっきり」

そう言って表情を歪めて笑った。

マルレーネ >  
「何言ってるんですか。」

全くもう、と頬を膨らませながらやってくれば、ぽすん、とベッドに腰掛けるようにして。
黒い検査衣はいつもの服装に近いような気もしなくもない。

「てっきり?」

首をちょっとかしげて、意地悪に笑う。
目の焦点がちょっとばかり合っていないが、それ以外………笑顔に関しては、以前と変わらぬままのよう。
 

山本 英治 >  
隣に座ったマリーさんに両手を広げて言う。

「俺ぁてっきり、今も意識不明だとばかり……」

非道な人体実験に使い潰されて廃棄された。
その文章が今も脳裏に焼き付いている。

「……大丈夫すか? 歩けるにしたって、無理はいけない」

笑って聞いてみる。
お互い、目つきが変わっちまったな。はは。

マルレーネ >  
「いろいろあって、ずっと意識はあったんですよ。
 何、そんなことで私がへこたれるわけが無いじゃないですか。」

全くもう、と腰に手を当てて。

「………。
 ちょっと、何から順番に言うべきか困ってるんですけど。
 まずはこれからですよね。」

その上で、よいしょ、っと立ち上がって。
くるりと正対して向き直る。

「いろいろ、ご迷惑をおかけしました。
 怪我をさせてまで、無理をさせちゃって。
 ごめんなさい。」

頭を深く下げる。
最初は、これを言わなければならない。
 

山本 英治 >  
「確かに、マリーさんなら大丈夫だ……」

俺は後から。
この言葉を言ったことを後悔した。
……後悔したんだ。

頭を下げられると。
にっこり笑ってこう答える。

「いいよ、マリーさん」

こう答えるのは決めていた。
窓から風が入って、カーテンが揺れた。
どこか、秋の匂いがした。

「あとはマリーさんをさらった組織を根こそぎ捕まえてそいつらに謝らせるよ…もちろん、マリーさんにも謝罪させる」

大言壮語を言って冗談っぽく肩を竦めた。

マルレーネ >  
「ありがとうございます。」

穏やかに微笑む。
きっとそう言ってくれるだろうと思っていた。そういうところは甘えているってことになるのかしら。


「あっはっは。………その言葉に答える前に、聞かなきゃいけないことがあるんですよね。」

んー、っと伸びをしながら、何でもないような口ぶりで声をかける。

 ・・・・・・
「見たんですか?」

あえてそれだけ口にする。
 

山本 英治 >  
「見たよ」

視線を下げて言う。

「人体実験で使い潰されたってところだろ?」
「直後に入院したから……全部は目を通してないけど…」

「あいつら……絶対許せねぇ…」

許せなかったら、どうするのか。
殺すのか……捕まえるのか。今の俺にはわからない。

マルレーネ >  
「見たことが分かれば十分です。」

よいしょ、っと隣に座り直す。

「隠せばいいのか、全部話せばいいのか、悩むじゃないですか。
 これで、隠し事は無しで話せますね。
 隠しても知られてるんじゃ意味ないですし。」

ほらほら、こっちを向いて、と右手で顎をもってこちらに向かせる。
ぐい。パワーこそパワー。

「………………。」

しばらくじーっと見つめて。


「貴方は具合、どうなんです?」

尋ねた。 まあ、当然ながら。
見るだけで怪我の具合は分からないが、調子が良くないことくらいは分かる。
 

山本 英治 >  
感傷に浸っていると顎を持たれて首を無理やり向けられる。
ちょっと首がグキッといった。

じーっと見つめられると、少し照れるが。
だってマリーさん綺麗なんだもの。

そして具合を聞かれれば。
相手の目を見たまま。

「異能者を殺して呪われた」
「今は四六時中、死んだ親友の幻影が罵ってくる」
「異能を使うと激しくなるな……」

今は眠れちゃいない、と告げた。
今更、隠し事なんてないよな。だから………

マルレーネ >  
「………。」

相手の言葉に、こちらの言葉が詰まる。
その上で、息を吸い込んで、吐き出して。

「私のために、それだけのものを背負ったんですね。」

一つ、一つを言葉を区切りながら、相手の言葉を確認するかのように。
自分のためにだと、明確に言葉にする。

「呪いを解く力が、私にあればいいんですが。
 ………私にできることは、そんなに多くはありませんが。」

目を伏せる。相手の手を握って、自分の額の前に持ち上げて、祈るような所作。
 

山本 英治 >  
「……俺は俺のためにやった…」
「俺がやったことは、間違っているかも知れない……」
「でも後悔だけはしない。それだけはやっちゃダメなんだよ…」

人殺しにも、作法がある。
そのことを知ったのは三人目を殺してからだった。

決して後悔してはならない、という。ロウが。

たとえ呪われても。
たとえ裁かれても。
絶対に後悔してはいけないんだ。

手を握られると、温かい。
俺が温もりを得ていいのかは、わからない。

マルレーネ >  

「嘘つき。」
隣に座った女は、そう言って笑った。

 

マルレーネ >  
「大人に、そして先達に、嘘はダメですよ。
 特に、経験をしてきた人間には分かっちゃいます。」

「後悔はしてはダメです。
 でも、理由付けはしたってかまわない。
 ただただ真正面から受け止めなければいけないわけではありません。」

「私のためにやったんです。
 そのおかげで助かったんです。
 聞こえますか?」

囁きながら、よいしょ、っと引き寄せて身体で受け止めながら、頭を抱こうとする。
 

山本 英治 >  
「嘘なんか……」

頭を抱かれると、ふわりといい匂いがした。
目尻に涙が浮かんでしまう。

泣いていいはずがない。
泣いていいのは遺族で、殺した側じゃない。

だから…………

「うっ………」

結局、泣いてしまって。
ダメだな……俺、やっぱマリーさんの前じゃガキだ…

マルレーネ >  
「嘘です。」

「私のために怒って、私のために戦った。」

「それを一番知っているのは私です。」

「私が許します。
 この私が許しているんです。
 他の誰が、貴方に泣いていいって言えるんですか?」

囁くように言いながら、頭を撫でる。


「貴方も怪我をして、私も傷ついた。
 半々です。

 貴方が呪われたなら、私もそれを受け止める。
 半々です。」

本当に弟みたいになりましたね、なんて悪戯っぽく笑ってウィンク。
 

山本 英治 >  
俺は。そのままでいた。
反論することもなく。逆らうこともなく。
そのままで。
窓から入る風がいつまでもカーテンを揺らしていた。

 
少しして、離れて。

「……治るかどうかはわかんないけどさ…」
「俺…風紀に戻りたいんだ………」

赤くなった目を擦って。

「だから…………」

って……これじゃダメだ。
俺のことしか話していない。

「……マリーさんはどうなんだい?」
「焦点、時々合ってないぜ……なんかあるなら、話してくれよ」
「半々、だろ?」

マルレーネ >  
「そうですね。 一緒に治るまでがんばりましょうね。
 それまでは、他のことを考えないままで。」

額に手を当てて、熱を測るような所作。
まあ、頭を撫でてもちょっとその手の感覚が伝わらないかな、なんて思っただけなのだけれど。


「……私ですか?
 そうですね。まあ、………全部覚えてませんって言ってますけど、本当は全部覚えてますよ。なんでもかんでも、ぜーんぶ。」

「今はちょっと視界がぼやけたまま。
 色も時々分からなくなるので、白黒になったりならなかったり、ですかね。
 あとはまあ、私も眠れてはないんですけど。……どちらかというと、眠くならない方、ですかね。」

ゆったりと話す。
苦しいとか、悲しいとか、そういった表情がまるで見えないまま、あっけらかんと。
 

山本 英治 >  
「全部………」

そして、違和感は唐突に訪れる。
ゆったりと。あっけらかんと。
まるで当然あるべきものが抜け落ちているかのように。

彼女は話す。

廃棄。廃棄って言葉を……思い出して…

山本 英治 >  
「……マリーさん?」

背筋を冷たいものが走る。
おかしい。おかしい。こんなこと、あるのか?
冗談でそんな風に言っているようには見えない。

マルレーネ >  

「あ、今、ちょっと怖いと思いましたよね?」

くすりと、見透かすように笑う。

 

マルレーネ >  

「『あんなことがあったのに明るすぎる』……って、思いましたね。」

目を細めながら笑う。
雰囲気だけは、ずっと変わらない。

 

山本 英治 >  
「どうしたんだよ、マリーさん………!?」

喉が渇く。違和感は加速する。

大丈夫だって? いつものマリーさんなわけない!!
あんなことされて、笑って人のことを慰めて!!
それはマリーさんの一面であって、全部なわけがないんだ!!

アンタは誰だ……?

マルレーネ >  
………ふー、っと一息ついて。

     ・・・・・
「それは、心配し過ぎてす。」

少しだけ笑いながら、よいしょ、っと立ち上がる。
黒い検査衣を翻して振り返りながら。


「まあ、いろいろされたんですけど。
 最後にちょっといろいろあって。 言われたことを全部信じてしまうくらいにまで追い込まれたところで。

 神はいないと。
 この世界に神はいない、と言われたんです。

 ああ、もうどうしようもないな、って思ったんです。」


見上げながら、声を漏らす。
一つ、二つ。 間を置いて。


「さらに、この世界の人たちに疎まれていると。
 外からやってきた人間だから。 邪魔だから。
 だから、こんな目に遭っていると。

 他の方の姿まで見せられて、たくさん罵倒されて、ひどく、苦しい思いもしました。
 あんなに辛いと思ったのは、二回目です。」


穏やかに、目を閉じたまま。
思い出すように語る。

神を拠り所にしていた彼女の芯を砕いて。
その周囲から削り切る。そんな責め苦を語る。
 

山本 英治 >  
彼女を抱きしめた。
そのまま両目を固く瞑る。

「………もういい」

もう、話さなくていい。
そう言った。お互いの長い髪がさらさらと揺れた。

 
「誰もマリーさんを否定しない……」
「大丈夫………大丈夫なんだ…!」

神様。ああ、神様。
聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな。
全能者である神、主。
かつておられ、今おられ、やがて来られる方。

どうして……俺たちを救ってくれない…!!

マルレーネ >  

「気がはやーい。」

そっと抱きしめてくる相手の額を、つん、っと突いて。
にひ、と笑った。

 

マルレーネ >  


「でも、そうはならなかった。」

くるりと腕から離れて、胸に手を当ててくるりと回る。


 

マルレーネ >  

「あれは、在り得た未来です。
 起こすことができた未来なんです。

 この世界にあるパイの数は変わらないのだから、もっと、もっと貧しかったら、他からやってきた人に対してそうあっても不思議ではなかった。

 貧しくなくたって、いくらでもそうできた。」

「でも、そうはならなかった。」

「輝も、明さんも、そして貴方も、理央くんも。
 一度であったばかりの人も。 一度も出会ったことが無い人も。

 私を助けるために動いてくれて、傷ついてくれて。」

彼女は笑う。
壊れていない、変わらないままの彼女で。

 

マルレーネ >  

「こんなに美しい世界に対して、感謝以外の気持ちを、どうして持つんですか。」

「神はいないと言ったなら、なぜ神は私を"お救いになった"んですか。」

「もしいないのならば。
 神もいらっしゃらないのに、助けてくれる人がいる世界は、なおのこと素晴らしい世界じゃないですか。」

 

マルレーネ >  

「この世界にもっと感謝したいんです。」

「この世界の人に、もっともっと幸せになってもらいたいんです。」

彼女は過酷な実験を経て。

シスターとして、更に強くなってしまった。

しゃ、っとカーテンを開いて、日差しを浴びながら振り向いて、笑う。

 

山本 英治 >  
カーテンを開いて笑う彼女に。
俺の想像なんか軽く踏み越えていったと。思って。
俺もつられて、思わず笑ってしまった。

「それがアンタか……シスター・マルレーネ…」
「そうなんだな…マリーさん」

寝不足の眼に。太陽の光は眩しかったけど。
今日はまぁまぁの青空だ。

「ああもう、今日は全く格好つかねぇよぉ」

頭の後ろに手を載せてベッドにぼふんと倒れて。

「早とちりばっかりだ……」

そう言って。満足気に笑った。

マルレーネ >  
「………私の信じる神はもういないかもしれません。
 だからこそ、最善を。 ………最善を、尽くすことしか私にはもうできませんからね。」

隣に座りながら、ゆったりと語る。

「……それもまた、心配した結果ですよね?」

にひ、とちょっとだけ意地悪を言って、相手の頬をつつく。


「………いいですか。」
「治るまでは、戦ったらダメですよ。」

言葉を落とす。

「血はそのうち落ちます。
 事実は消えないけれど、血は落ちる。」

告げる。
 

山本 英治 >  
頬を突かれると、不貞腐れたみたいに顔を背けて。

「知りませーん、最善を尽くしててくださーい」

全くもってみっともない。そんな態度の後、笑った。

 
戦ってはいけないという言葉に、起き上がって首を左右に振る。

「それは約束できねぇよマリーさん」

自分の手を見る。汚れた手を。
それでも、誰かの手を掴めるかも知れない手を。

「俺は弱っていってる。時間がない」
「……決着をつけたいヤツがいる」

口元を歪めて。

「なんて、死ぬつもりはないけどな………」

マルレーネ >  
「決着をつけたい。
 ………それは一体、誰なんですか?」
「弱っていってる中、勝算はあるんですか?」

一人を殺して、苦しんでいる青年。
もう、手を汚さない方が良いと思った。
だから、死ぬつもりがないという相手の言葉を聞きながら、眉をひそめて、問いかける。
 

山本 英治 >  
「……悪魔だよ」
「興味次第で誰だろうと害を成す」

「本物の悪魔だ」

ふぅ、と溜息を吐いて。
億劫そうに座り直す。

「勝つさ……知らないのかいマリーさん」
「風紀は勝つ、って言葉をさ………」

傍にいる親友の幻影が語りかける。
『キミにできるわけがない』『このまま弱って死んでしまうといいよ』
『僕は赦さない』『キミのために死んだこの生命は……決して』
目を瞑って。

「許しが欲しいなんて、言ってねぇだろ」

マリーさんではない誰かに語りかけたように見えただろう。