2020/09/19 のログ
ご案内:「帰り道」に阿須賀 冬織さんが現れました。
阿須賀 冬織 > 彼と別れた帰り道。陽すっかりと沈み、辺りはすでに暗い。

「……ほんと、この島に来てよかったなあ。」

思わずそう呟く。つい先ほど思っていたことが次々と浮かぶ。

阿須賀 冬織 > ここからそう離れていない島国の田舎で自分は育った。母以外、周りの人はみな黒髪黒目だった。
髪色が違った、瞳の色が違った。そして何よりも、自分以外に超常の力を使える者は誰一人としていなかった。

父の家系は、今時政略結婚を行うような所謂名士で。だからこそ直接的に虐められるということはなかった。
ただそれだけだ。田舎の小さなコミュニティ。触らぬ神に祟りなしとでもいうのだろうか、そこに己が入る場所はなかった。

阿須賀 冬織 > この島では超常が日常だ。少なくとも自分の異能は超常ではなかった。オンリーワンではなかった。
それこそさっき一緒に飯を食べた彼も同じような力を持っている。他にも探せばいるだろう。
……アレの方はわからないけれど。

確かにそういったものを持たない人もいる。だが異常ではないのだ。
近づけば人が逃げていくことがなければ腫物のように扱われることもない。
本で見た普通の人々。この島でなら自分はそれになれた。

阿須賀 冬織 > この島に来て、できるだけ明るく振る舞った。お陰かは知らないがクラスの中や学年の中で話せるようになった人はそれなりにできた。
数か月もすればそうやって振る舞うのがいつの間にか普段の自分になっていた。

……普通になった自分は気が付けば特別でありたいと思うようになっていた。
目立ちたいとかそういうのではない。誰かの特別にだ。

阿須賀 冬織 > あの時、図書館で悩みを打ち明けられた時。心配だとかそういった感情があるなかで、どこか思ってしまった。
もしかしたら、特別になれるんじゃないかと。
それから、ことあるごとにその考えがよぎり、自身を嫌悪した。
彼が望んでいるのはそうではないと、分かってはいた。

彼が彼女の為に戻ってきたと聞いたときに心が揺らいだ。
そっか、なれなかったかと。でも、同時になぜかすっきりした気がした。
……今なら自分は、彼を何も装飾の付かない友達と言える。

阿須賀 冬織 > 考え事をしていたら気が付けば部屋の前。
思考の海から這い上がって扉を開けた。

ご案内:「帰り道」から阿須賀 冬織さんが去りました。