2020/09/27 のログ
■レオ >
一瞬向けられた鋭い視線。
”殺してきた”目だ。
その上での、目。
それを少しだけ見て、訓練する先輩達の方に目を移す。
「……温い、という訳では。
ただ……」
模擬戦をしている先輩たちの動きを見る。
相手の隙を突いて、有効打を与える。
相手を動けなくする動きが多い。
”暴徒鎮圧”に適した動き。
それはつまるところ、殺さずに止める動きだ。
模擬戦で模造剣でも、当たれば痛いし、当たり所が悪ければ死ぬ。
皆それは分かっている。だから模擬戦で過度に急所は狙わない。
首に全力の一撃を入れれば首が折れるかもしれないから、しない。
金的の類はしない。
関節を極めすぎて折る事も、しない。
目、鼓膜、口、鼻、顎への攻撃もしない。するとしても、避けられる前提の、牽制の意味合いが大きい。
自分が教わってきたのはそれら全部で、それらを狙う為のもの。
それらを封じられれば、自分の太刀筋の殆どが使えない。
狙い場所を逐一、考えなければならない。
既に無意識に刷り込まれる程に降ってきたものを、その場その場で修正しながらやれば。
当然、動きはぎこちなく、遅くなる。
そして何より…
「…”死の気配”って呼んでいるんですが。
生まれつき感じるんです。自分が死ぬかもしれないとか、他人が死にそうだとか、そういう感覚。
師匠が言うには僕の魔力の影響らしいんですけど、まぁ…異能のようなものですね。
模擬戦だとそういうのが薄いのも…あります。」
”殺意”を感じとって動くからこそ、”殺意”がない戦いが苦手。
訓練を積んでそういった感覚を鍛える人間もいるが、青年のそれの場合生来のものの分、その偏りが大きいのだろう。
そんな風に返事をすれば、先輩の言葉に反応し…
「……先輩も昔は、”そういう”戦いばかり?」
■レイチェル >
「この学園に来てすぐのことだった。
風紀委員会に入って、間もない頃だったな。
どうにも感覚が掴みきれなかったことは確かにあった。
でも、ま……すぐに気付いたさ。
『殺す』か『殺されるか』、
それ『だけ』だったらまだ『温かった』んだってな。
風紀委員会に入って、色んな奴らと出会って、鎮圧をして……
『対話』もする中で、その重みと厳しさに気付いたよ。
その重みと厳しさは、それまでの『そういう』
戦いが持つそれとは、全く異質のものだった。
……でもって、そいつはオレにとっちゃ、
戦場で背負うもんよりもずっと過酷なもんなんだと気付いたんだ」
殺す為の剣と、不殺の剣は全くの別物である。
長く、殺す為の剣を振っていれば、血錆と共に剣の重みは増していく。
一度それが刀身に染み付いてしまえば、
纏わりついた赤黒い重みは、容易には振り払うことができない。
「しかしまぁ、『死の気配』か……それに頼って戦ってきたのなら、
確かに模擬戦が不得手になっちまうのもしょうがねぇな。
『殺しを目的とする戦い』と、『手を差し伸べる為の戦い』じゃ
――勿論、相互に生かせる技術や知識もあるが――どうしても、
相容れないところがある。切り替えるのは簡単なことじゃねぇ。
まぁ……ゆっくり慣れていくしかねぇわな。
手助けなら、オレで良けりゃいくらでもするぜ」
そして彼が口にする『師匠』という言葉に、レイチェルは少し
だけ目を見開く。
成程、この青年もまた先達に導かれて生死の境目を彷徨う戦いに
身を投じてきたのか、と。
その点、他人の気がしないな、と。レイチェルはそう感じていた。
「お前の言う『そういう』戦いをな、オレも昔はやってた。
オレにも師匠が居てな、剣と銃を教わって、
化け物共を狩って回ってたんだ」
■レオ >
「そう…ですね。
殺すしかできない戦いだと、この先苦労するだろうなというのは、なんとなく。
……命のやり取りだけがここで起きてる戦いじゃないですからね。」
無論、殺す戦いと殺さない戦いは別ベクトルの話で、自分の殺す為の戦い方が、必要になる事もあるのは、先の任務で痛感したが。
先輩の言う事は、間違いなく事実だった。
”殺さず、対話する”
その術が、今の自分には、まだ、ない。
何より……
『そしておまえがもし、大切に想われることがあれば、
おまえみずからのことも、大切にするように』
『お前は――どうしたら幸せを感じられますか』
”変化”を…考えなければならない。
だからこそ、目の前の先輩の言葉は…少しありがたかった。
「…助かります。
この島に来てから色んな人に会って……変えないといけない、と思っていた所ですから。
…師匠と、化物を狩って…ですか。
僕も同じようなものです。」
そう言いながら、少し昔の事を考える。
自分の、剣術の師匠の事。それと共に生きた日々を。
「…‥‥…師匠かぁ
…あんまりいい思い出ないですけどね、僕の場合。」
少し苦笑した。
師匠は今何をしているだろうか。
あの人が死ぬのだけは、想像がつかないけれども。
■レイチェル >
「無論、時にはオレ達が経験して来たようなやり方が、必要になる
こともある。まぁ、お前もきっと分かってるだろうが……」
数多の戦いを経験してきたのだ。世の中が甘ったるいものでない
ことくらいは、きっとこの青年も十二分に知っている筈だ。
それでも、彼自身が歩んできた道を決して否定して終えることの
ないようにレイチェルは静かにそう口にした。
そして、続く言葉は少しばかり語気を強めて紡いでいく。
「でも、やっぱりそれは本当に最後の手段だ。
ただ屍を築き上げた先に残るのは、負の感情だけだ。
オレ達が風紀委員である以上は……
道から外れちまった奴らに寄り添うべきだと思ってる。
手を差し伸べるべきだと思ってる。未来へ目を向けてな。
とはいえ、こいつはまさに、言うは易く行うは難しってやつだ。
悩むこともなく傷つくこともなく、手を差し伸べることなんて
できない。差し伸べた手を切りつけられることだってある。
でも、もしそうだとしても……『受け皿』になる為に、
オレ達はずっと苦しんで、足掻き続けなきゃいけねぇと思ってる。
風紀委員である以上は、な」
重々しい口調だった。
レイチェルの目線が少しだけ、床に向けられた。
しかしそれもほんの一瞬のことである。
すぐにレオへ向き直れば、満面の笑みを見せて明るい声色で
語を継いでいく。
「なに、苦しいことばかりじゃねぇ。傷つくことも多くあったが、
風紀やってる中で嬉しいことだって沢山見つけてきたからさ。
大丈夫だ、『オレ達』は、諦めない限り変わることができる筈
だからな。慣れない分をオレが、オレ達が支えてやるから。
一緒に、進んでいこうぜ」
レイチェルとて、まだ『向き合う』ことに悩んでいる最中なのだ。
否。これからも、ずっと悩み続けていくのだろう。
しかし、そうやって悩み、藻掻いている中にも救いは、喜びは
あるのだということを、レイチェルは伝えたかった。
まさに今、青年は変化に『向き合う』中で悩み、藻掻いている
のだから。
「師匠に関しちゃ、まぁ……オレもよく蹴っ飛ばされたり、
ぶん殴られたりしたもんだが、今じゃ感謝してるよ。
お陰でいくら殴られても蹴られてもへこたれなくなったからな」
レイチェルもまた冗談っぽく口にして、苦笑するのだった。
■レオ >
「……」
レイチェル先輩の言葉が、重くのしかかる。
『屍の先には、負の感情しかない』
…そうだと思う、という気持ちもある。
それと共に、自分のやってきた道が。
”そう思ってはならない”とも囁く。
それは多分、自分のしてきた”殺す”という事の意味が。
単純に命を奪うだけに留まらなかったからなのかもしれないが……
「そう…ですね。
そうなれれば…良いと思っています。」
だからこそ”そうなるつもり”とまで、言う事はできない。
この先に変わる為の物であり、今直ぐに変われるものでは、ない。
その変化を、口を開けてただ待つなんて時間が無い事は、重々承知しながら。
「ははは……
僕も大体、同じですね。師匠に関しては。
空と繋がってて無限に落ち続ける滝壺に蹴落とされて『自分で這い戻ってこい』とか……
草も生えてない魔物の巣に鉄パイプ一本渡されて『1か月生き延びろ』とか……
大型トラック拾ってきて角材渡されて『それでコイツ二つに割るまで殴り続けろ』とか……
……良く生きてるなぁ、僕……」
ははは、と乾いた笑いが漏れた。
目は笑ってない。
■レイチェル >
「……ま、そこに関しちゃ、以上。先輩のお節介だ。
こいつは、一つの考え方でしかねぇからな。
でもまぁ、全部が同じじゃねぇにしろ……少なくとも、
ちょいとばかし似た道を歩いてきたオレからの、ちょっとした
アドバイスだと思ってくれ。
なんつーか……他人の気がしなくてな、放っておけねーんだ。
ほんと、しけた顔……してたしな」
胸の下でレイチェルは腕を組む。
そして細指を顎に沿わせれば、そう口にした。
「鬼畜だな、お前の師匠は。
まだオレの師匠の方が人間味あったかもしれねぇ」
とはいえ、目が笑っていないのはレイチェルも同じであったが。
そして
「あ、そうだ。もうひとつだけ。
最近、鉄火の……代行者、だっけか?
お前のそんな呼び名もちらっと聞いてるが……。
そっちもあんま、一人で抱え込みすぎんなよ。
理央の奴もだが、まぁ心配でしょうがねぇし」
少し前までは自分が抱え込みすぎていたのであるが、
今では負担を分かち合うことで随分と視界も広がってきた。
こちらも今すぐにとはいかないだろうが、レイチェルとしては
必ず彼に伝えておきたいことだった。
■レオ >
「もう一度修行時代をやり直したら間違いなく死ぬ気はします…
……他人の気が、ですか?
……レイチェル先輩と僕、あんまり似てないと思いますけど…」
まさしく”虚無”という顔で師の事を想い出しながら、他人の気がしないという彼女の方を見る。
自分が目の前の先輩と?
そうには、とても見えない。
自分のかつての、”先輩”とは…纏う雰囲気のようなものが、似てると思ったが。
「あー……そう、ですね。
いつのまにかそんな風に呼ばれてしまって……
沙羅先輩にも言われました。『貴方は貴方』『他人にはなれない』『鉄火になる必要は、ない』って。
まぁ…神代先輩に泥を塗る訳にはいかないので、それだけは気をつけないとなぁ…って。
あんまり、気負いはしてませんよ。今は。
……僕はそれより、元の『鉄火の支配者』……神代先輩の方が、心配です。
…ちょっと違うな。
神代先輩の心配をする、沙羅先輩が…心配ですね。」
■レイチェル >
「そうか?
これまで歩んで来た道への考え方も、
これから先に思い描いているものも、
色んな価値観も違うのかもしれねぇ。
でもな。
『変わること』に、向き合おうとしてるじゃねぇか、お前。
訓練での動きが、お前の語った言葉が、そいつを示してる。
だったら、やっぱり他人の気がしねぇ。
オレも今まで、そして今も。
『変わること』に向き合おうとしてる奴だからさ」
当然だ、という顔でレイチェルは返す。
何から何まで似てるなどということを言うつもりはない。
それでも在り方に戸惑いながらも向き合おうとしているその
一点において、レイチェルとして思うことがあったのだ。
似ている、と思うには今の彼の姿を見るだけで十分だった。
「沙羅の言うことは最もだな。
風紀も『個』の集合体だからな。
それでもあいつは、
風紀委員という『組織』の脅威を体現しようとしてる。
システムで在ろうとしている。それも、一人でな。
あいつの頑張りは認めてるし、あいつの存在に助けられている所は
大いにあるが、それでもやっぱり個人がシステムを担うなんざ、
無茶な話だからな。だから、その点に関しちゃ、
オレもあいつと色々話しているところだ。
だが――」
そうして、彼の口から出た『沙羅先輩』という名を聞いて、
そうだな、と小さく返す。
「――沙羅か。あいつとは……まだ、あんまり話せてないな」
ふむ、と。顎に手をやったままレイチェルは思案する。
温泉で少し見かけてからさっぱり顔を合わせていないが、
近々連絡を取ってみねばなるまい。
■レオ >
「‥‥…
変わらないと、不幸にしちゃう子がいますから。」
”変わる”という事を受け入れたのは、あの二人の少女が切欠だ。
一人は水無月沙羅。もう一人は……月夜見真琴。
あの二人の言葉が、結果的に自分の背中を押して、引くことの出来ない所まで進む事になった。
そこまで踏み込んでしまって、自分が変わろうとしない”怠慢”は、許される事ではなかったから。
変わる事を目指していくしかなくて。
だからこそ、余計に。
あの二人の事が気がかりでならなくて。
「―――――――僕と神代先輩は、ある意味似ているんです。
自分を”物”と捉えてる節があって……レイチェル先輩の言う通り”システム”で在ろうとしていて。
風紀の先輩――――月夜見先輩に、こういわれたんです。
『そしておまえがもし、大切に想われることがあれば、
おまえみずからのことも、大切にするように』
…って」
自分の背中を押す事となった言葉。
だからこそ、思う事。
「……大事にしている人がいるなら、自分も大事にしなくちゃいけない。
僕も…そう思います。
それが出来ないと、相手を不幸にしてしまうので。
……神代先輩が負傷して生死の境を彷徨った時、沙羅先輩は……泣いてました。
前に公園で見かけた時も…泣いていました。
………だから。」
ぎゅっ、と…拳を握る。
それは、他の人に比べて沙羅先輩に”思う所”があるからこその、小さな”怒り”
■レイチェル >
「……そうか。なら、頑張らないとな。
傷つきながら、足掻きながらになっちまうかもしれねぇけど。
お互いにな」
ただ一言だけを返した。
今までレイチェルは、想い人を――園刃 華霧という少女を、
自らを蔑ろにすることで、
そして本質を見ぬまま想いをぶつけることで、傷つけてきた。
だからこそ自らの在り方を変えることで今、
彼女を少しでも傷つけないように、
そして何より安心して貰えるように、努めているのだから。
「……真琴が、ね。ああ、真琴ならそう言うだろうな。
そうだな。オレも、そう思うよ、本当に」
小さく、静かにレイチェルは頷いた。
頭に思い浮かべるのは、痛々しい傷痕の残る華霧の顔だった。
その顔を思い浮かべると、耳が少し垂れ下がる。
「……偉そうなことばっかり言って、弱いとこ見せないのは
フェアじゃねぇ。だからお前に伝えとくんだけどな。
オレも、かつて自分を――『レイチェル・ラムレイ』を
大切にしていなかったことがあった。
自分よりも、風紀《システム》に重きを置いていた。
この島を、皆を、守りたいと思ってたからな。
けど、『皆』なんてのは、一個人であるオレにとって、
形のないものでしかなかったってのに。それで、な。
本当に身近な、『大切な人』に手を伸ばすことすら、
忘れかけてたんだ。それで、『大切な人』の命が失われかけた。
実のところ、そんな情けねぇ先輩さ。
でも、そんな情けねぇことをやらかした奴だからこそ、
言えることもある。
理央には伝えたよ。『鉄火の支配者』としてのみでなく、
『神代 理央』の価値を信じろ、ってな。
その価値をよく知ってる沙羅と一緒なら、きっと『神代 理央』
として立てる日が来ると、そう伝えた。
オレも、あいつの価値を信じてるからな。
もしお前もそうなら、『神代 理央』に価値を見出すなら、
先輩も後輩も関係ねぇ。一緒に支えてやろうじゃねぇか」
――『神代先輩が負傷して生死の境を彷徨った時、
沙羅先輩は……泣いてました。前に公園で見かけた時も…泣いていました。』
その言葉は、レイチェルの胸にぐさりと突き刺さる。
そうと悟られぬように、彼女は静かに、
しかし力強く奥歯を噛み締めた。
その、悔しさも、悲しみも、全て受け容れる。
受け容れて、前に進まねばならない。
だから、レイチェルは視線を落とすのでなく、
レオの方を見据えたままに、言葉を紡いでいく。
「……お前、沙羅のこと大事に思ってんだな」
そうしてレオの拳を見た後に、しっかりと彼を見据えて
レイチェルははっきりと口にするのだった。
■レオ > ~一旦中断~
ご案内:「風紀委員専用訓練フロア」からレオさんが去りました。
ご案内:「風紀委員専用訓練フロア」からレイチェルさんが去りました。