2020/10/08 のログ
神樹椎苗 >  
「そうです、生きるって凄い事なのですよ。
 ヒトも動物も、こうやって大きくなるのです」

 そう言いながら、青年の顔を見れば、表情が陰っているのがわかる。
 きっと一人で抱えていて、苦しんでいる事が青年にもまだ多くあるのだろう。
 それを全部聞き出そうとは思わないが――。

「ん」

 ころん、と仰向けになって、左手で青年を手招く。
 こっちにおいで、というように。
 柔らかく微笑んで、青年を待つ。
 

レオ >  
「……あぁ、すみません」

また、気を使わせちゃったかな。
この人だって、色んなものを抱えてるのに。
毎回、気を使わせてばかりだ。

少し迷って、ベッドの方に座って、彼女に近づく。
猫を優しく撫でて、それから、彼女の頬も撫でる。
恐る恐る、といった風に……

「……生きてるものに触れると、安心して…すこし、怖くなります。
 僕が触っていいのか、なんて……思ってしまって。」

神樹椎苗 >  
「んふ」

 頬を撫でられると、くすぐったくて声が漏れる。
 自分からもまた青年の頬から首筋を撫でて、腕を広げた。

「――ん」

 青年の言葉に答えるなら、言葉を弄する必要はない。
 静かに笑いかけて、腕の中に誘うように。
 じっと、青年の眼を見つめる。
 

レオ >  
「…、……」

あぁ、拙い、なぁ……
抑えられないかもしれない。
首筋に触れられて、腕を広げた彼女を見て……
気が付けば、蒼い二つの宝石と見紛えそうな瞳に、誘われて…体を近づけていた。

怯えるように、彼女に…助けを求めるように。
少し…震えながら。

神樹椎苗 >  
 近づく青年の身体を、そっと自分の小さな体に抱き寄せる。
 自分の体温で安心させるように、震える身体に触れあわせて。
 湿った髪に、頬を寄せた。

 怖くない、大丈夫だと、しっかり触れ合う事で伝えるように。
 

レオ >  
柔らかい。
温かい。
彼女の温もりが、心地よくて。
少し、怖い。

「……何も、聞かないんですね。」

こんな、急に震えて……それでも、何も聞かなくて。
ただ、抱きしめてくれて。
彼女は何も言わない。
自分の事も、あまり話さない、気がする。

知りたい。
何もかも、知っていたい。
弱い所も、強い所も…知りたいけど。
きっとまだ、僕にはその資格がないんだ。
弱くて、怖がりだから。
だから教えられない。

僕だって……同じ立場なら、きっとそう思う。
自分の事を話して、それで傷つく相手に…自分の事なんて、話せない。
負担になりたくない。
それが凄く、悔しい。

神樹椎苗 >  
「少しずつ、ゆっくり。
 話せるときが来たら、その時でいいんです」

 一度に全部は、お互いに驚いてしまうから。
 一緒に背負うにしても、重すぎてしまうから。
 ゆっくりでいいのだと、椎苗もまた大切なヒトに教わったばかり。

「――しいは、お前なら、全部話してもいいって思ってます。
 お前もそう思ってくれてる、そう思うのは、しいの自惚れですか?」

 優しく青年の身体を受け止めて、細い腕で包み込んで。
 両手で抱きしめてやれないのが少しもどかしく。
 青年の耳元に口を寄せて、囁くように。
 

レオ >  
「……僕だって、知りたいです。
 椎苗さんの事…全部、知りたい。
 知りたくて…たまらない。

 ……焦ってるのかも、しれないです。」

待つ事が、怖い。
迫ってくる終わりが垣間見える度に、心が落ち着かなくなって。
総て教えて、総て知りたくなる。
けど、それはあまりに、身勝手で。

彼女の言う通り、ゆっくりで…良い筈なのに。

「…まだ、僕には……全部聞く資格が、ないとも……思ってるんです。
 聞くには、あまりにも…変われてなくて。

 ……園刃先輩に、会いました。
 …椎苗さんと、とても仲がいいって聞きました。
 ……『自分で選べ』と…言われました。
 
 ……まだ僕には、それが……出来ていないと思うから。」

だから、聞く資格が…無いと思う。
資格がないのに、焦るばかりで。
そのまま踏み越える勇気すら、無くて。

あの人の言った通り、今の自分は流されてばかりの……どっちつかずの半端者だ。

神樹椎苗 >  
「しいはいつでも、お前の話を聞いてやります。
 でも、何も言わなくたって、こうして抱きしめてやる事はできますから」

 焦らなくていいんだと、しっかりと抱きしめて。

「自分を知って欲しい、相手を知りたい――そう思うのに、資格なんていらないんだと思います。
 しいもずっと、自分には資格がないと思ってましたが、そういうモノじゃ、ないのだと思うようになりました。
 だから、お前がそうしたいと思ったときに、そうすればいいのですよ。
 しいはちゃんと、受け止めますから」

 青年を抱きしめたまま、そのままでもいいと。
 そのままの青年でも大丈夫だからと、大切そうに腕の中に抱えて。

「――こうして触れ合っていれば安心できるのなら。
 いつでも触れていいのですよ」

 そう甘く耳元で囁いて。
 青年の身体を優しく受け止める。
 

レオ >  
「…‥‥」

資格なんていらない。
そうなのかな……
まだ、分からない。
分かるのは、彼女の事を聞いてしまったら……彼女や、色んな人が言ってくれた言葉を…

『自分』の事を考えるのを…捨ててしまう気がして。

「………安心、なのかな……
 …触れたいと、思います。すごく‥‥…」

触れたいと、思う。
思う事すら苦しいけれど。
でも、思う。

どうすればいいんだろう。
”我儘”を言う自分を責め立てる自分と…
それでも”我儘”を、彼女の前では通そうと思ってしまう自分に。

どう、向き合えば良いんだろう。
その方法を、探りながら……

「……僕の事を、少し……話してもいいですか?」

変わる方法を、探したかった。
変わらないといけない。
このままでいる事を……許したくはない。

神樹椎苗 >  
「ん、もちろんです。
 ちゃんと、聞きますよ」

 青年の髪に触れながら、言った通り、どんな話でも受け止める気持ちで。
 少しでも安心できるのならと、体を触れ合わせ。
 

レオ >  
「……ありがとうございます。」

そう言って、体を起こした。
そして、マシュマロ……子猫の方を見て、すこし、撫でた。

…やっぱりまだ少し、怖い。
この怖さを…‥
無視しちゃいけない気がして。


「……何から話そうかな…
 
 ……聞いてって言ったのに、後から何を話すのか考えるなんて…我ながら変ですね」

少し苦笑する。
そういえば、何時だって考え無しに動いてる気がする。
彼女に好きだって言った時も、その後の事も。

そう思いながら、少し自分の髪をかき上げた。

「じゃあ、そうだな……
 
 ”死の気配”っていうのが見える…いや、違うな。
 感じるって話は…しましたっけ?」

神樹椎苗 >  
 青年と一緒に体を起こすと、恐る恐る子猫に触れる様子を見守る。
 話し始める青年に、薄く微笑みを返して。
 聞かれればすぐに頷いた。

「そう、ですね。
 そのような事は聞いたと思います」

 とはいえ、それらしいというだけで、実際にどうなのかは聞いていなかったが。
 

レオ >  
「……」

触れる子猫の死の気配は、出会った当初より随分と遠くなって。
その命がもうしばらく続くものだと、悟らせる。

”これ”を見るのは、いや…
”これ”が生き物の死を”伝えてる”のだと気づいたのは、何時だったろうか……

「生まれつきなんです。
 生まれた時から、これが…見えてました。
 師匠は、僕の中の魔力が普通の人と違うから、そういうのを感じ取れるんだって……

 あぁ、師匠っていうのは、僕の武術の師匠で…
 まぁ……ある意味父親みたいな人です。
 随分、破天荒というか……人を振り回す人でしたけど。」

自分の軌跡をたどるように、話を続けていく。


「…僕、死体から生まれたんですよ。
 丁度…マシュマロと同じように。
 僕の母親は、僕が生まれる前に、死んでた…らしいです。
 
 話を聞いただけで、覚えてはいないですけれど。
 本当の親の顔も…知りません。

 ただ、師匠が言うには…そのせいで、僕は”死”っていうものに近いらしいです。
 それが、死の気配を感じる理由。

 ……椎苗さんの信仰する神様とも、近いのかもしれませんね。」

目の前の子猫を拾い上げた時。
ぽつりと…口をついて出た言葉を思い返す。
自分の生まれを悲しいものだと思った事などないけれど…
自分と、目の前の小さい命を重ねていたのは、確かだ。

神樹椎苗 >  
「――ああ」

 話を聞いて、近くに居て心地よさを感じる理由が分かったような気がした。
 青年もまた、『死』というモノを身近に感じていたのだ。
 『黒き神』も、青年を見るときはいつも穏やかだから。

 ただ――椎苗にとって『死』はどこまでも遠く、他者に与えるモノだったが。
 

レオ >  
「…悩んでるんです。

 マシュマロは……生まれてきて良かったのかな、って。
 この子も、僕も…死体から生まれた。
 似てるから……この子の命を繋いでしまったのが、良かったのか、悪かったのか……分からない。

 もしかしたら、マシュマロも…自分と同じような性質を、持ってしまったのかもしれない。
 だからって、僕と同じようになるかなんてわからないし…そもそも、猫だけど。
 
 でも、もしもこの子がこの先苦しむなら…その責任は、僕にある。
 そう…思うんです。」

目を伏せ、眠る子猫を撫でる。
寝ながらも撫でられているのが分かるのか、子猫はその手に心地よさそうに頭を摺り寄せてきて。
生えそろった白い毛の感触と、確かにある温度が、生きてると…”生かしてしまった”と、実感させる。

神樹椎苗 >  
『「――生に是非はなく、故に産まれぬべき生など存在しない。
  命の是非が問われるのは、天秤に掛けられた後の事。
  生も死も、全ての命に平等に与えられる、機会に過ぎない」』

 胸に手を当て、祈りを捧げるように瞼を閉じる。

『「あらゆる生には、苦しみが伴うもの。
  しかし、その苦しみに立ち向かうからこそ生は輝き、尊きものとなる」』

 その言葉は、神官が告げる神託のよう。

『「どのような生を送ろうとも、それはその命が選択すべきものだ。
  そしてその選択はあらゆる生に、命に与えられるべきものである。
  貴様は、与えられるべき選択の機会を与えたに過ぎぬ。
  その是非を問うのであれば、それは是でなければならない」』

 そして、ゆっくりと瞼を開けて、視線は子猫へと向けられる。

「――命に責任を持つのは、当然の事です。
 お前としいは、マシュマロが生を、どのような選択をしても、全うできるようにしなければなりません。
 果たす責任があるとするならば、この子が生を送れるようにする事ですよ」

 左手で子猫に触れる。
 子猫は十分に寝たのか、触れられた事に気づいて目を覚ますと、小さな声を上げてあくびをする。
 青年と椎苗を見て、子猫は青年の方へひょこひょこと歩いて甘えるような声を出した。
 

レオ >  
「―――――」

少女の方を、見る。
口調の違う、普段の雰囲気と違う声。

あぁ――――
あれが、椎苗さんの言う…神様か。
椎苗さんの信仰する、椎苗さんに寄り添う…神様。

…ちょっと、悔しいな。
確かな死への価値観をもって、彼女を…椎苗さんを導いて。
今だって僕の悩みに、一つの道を示す。
だからこの神様を、この人は信仰するんだ。
悩んでばかりの僕じゃ、そういう風には…まだなれない。

「そう、ですね…。
 この子を、マシュマロを……親として、どんな道を選んでも……
 生きるって事を……全うできるように、支えてあげないといけない。

 ……」

死があるからこそ。
”それまで”が……生きる、という事が、在るという事。
それを、支える事。自分で選べるまで、育みを、見守る事。
それが責任。

…彼女は死ねないから。
だからこそ…人よりもそれを、大事に想うんだろう。
僕なんかよりずっと……その事を、考えている。

でも、考えても、得られない。
”生”を得られない。
今ここにいて、考えて、慈しんでいる筈なのに。
死もなくて、生も、ない。

僕でも…神様でも、それを、与える事はまだ、出来ない。

「…生きるって、何なんでしょうね。」

目を覚まし、甘えるような声を出しながら近づくマシュマロを片手で構いながら、もう片方の手で、彼女の手を握る。
どっちも同じように、温度を感じる。
柔らかさを感じる。

生きている事総て苦しくなる自分と…
生きてすらいない彼女と…
今生き始めている目の前の子猫と…
一体何が、どう違うんだろう。
どうして違うんだろう。

神樹椎苗 >  
「『死を想う事』、考え続ける事――しいは、その答えしか持っていません」

 生きるとは。
 椎苗にとってのその答えは、常に決まっている。

「けれど、それはしいの答えです。
 お前が自分の内に問いかけ続けて、生きようとし続ければ。
 別の答えも見つかるのかもしれませんね」

 握られた手を優しく握り返して。
 子猫を見ながら微笑んだ。

「ふふ、どうやら、お父さんが好きみたいですね」

 青年の手に一生懸命じゃれつく子猫に、胸が温かくなる。

レオ >  
「…そうかも、しれませんね。」

問いかけ続けて、生きようとすれば…
答えも見つかるかもしれない。
僕が殺してきた存在達も、そうやって……その答えを見つけていたのだろうか

『生きて』

そう僕にいった、あの人たちは――――
その意味を、持っていたのかな。

心臓が動いてる事も……
脳が指示を出す事も……
それだけじゃ生きてる事じゃないと、僕は思う。
けど、じゃあ…何が”生きてる”事なのか。
椎苗さんの『死を想う事』か……
それとも僕には、別の答えがあるのか……

目の前の子猫は、何をもって”生きて”いるのか……
まだ僕には、その答えは見えない。

けど”生きてる”
そう、想う――――









「……生きれるように、頑張りましょうね。」

目の前の子猫を慈しむように。
隣にいる大事な人に、語りかけるように。
自分の……心に、響かせるように。

微笑んで、言った。

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