2020/11/26 のログ
■神代理央 >
「…お前の場合は、選んだところで大概ロクな結果にならぬからな。
風紀、公安のお目こぼしが効く相手というものが、早々居る訳ではないのだぞ?」
呆れた様に彼女に注意を促すものの。
その声色は、何処か穏やかで優し気なものであっただろうか。
何というか、憑き物が落ちた、様な。
「……ほう?人斬りより、大道芸人として生計を立てればいいものを。
しかし、本当に器用なものだな。ところで、一つ貰っても良いかな」
喉が渇いたからな、と告げながら。
彼女が皮を剥いた林檎に視線を向けると、何の躊躇いも無くそれを食べたいのだ、と告げるだろうか。
妖刀で斬ったものだとか、そういう事を気にしている様子は無い。
何方かと言えば、自らが口に入れるものに頓着が無い、という様子。
「……帰ったら、隊員達に伝えておけ。
私が不在の間に、下手な事をしなければ最低限生活は保障される。
公安委員会も、特務広報部だからといって手を出してくることはないだろう。
万が一の時は、私に連絡を寄越せばよい。こんな有様ではあるが、異能を使って戦うくらいは出来る」
不安に思う者もいる、と告げる少女に穏やかな声色で告げて。
少しだけ、口元を緩めて笑みを浮かべる。
「確かに私は強い。しかし、一人で成し遂げられる強さというものには限界がある。
現にこうして、私は御覧の有様だ。私は本来、誰かと協力して戦う事によって一番能力が活かされるタイプの異能でありながら、単独行動を続けた結果がこれだ」
「だから、鈴音もそうだが……アイツらにも伝えておけ。
余り自らの強さを卑下するな。鉄火の支配者の首を取る、くらいに息巻いてみせろ、とな。
お前もだ、鈴音。筋は良いのだし、妖刀を使いこなす実力もある。まだちょっと強い、などと言わず、もっと自分の力を誇り、鍛錬に励むと良い」
痛む身体を軋ませる様に、そっと手を伸ばすと。
ぽんぽん、と彼女の頭を撫でようとするだろうか。
「……そうならない様に、しなければならない。
私が死んでも、特務広報部の名が残ればそれでいい。
『鉄火の支配者』にではなく『特務広報部』を犯罪者が恐れる様になればいい。
そうすれば……私がいなくなったところで、島の平和は保たれる」
■刀々斬 鈴音 > 「意外と結構いたよ!
鈴音が今まで捕まってなかったのがその証拠だよ!」
その斬った人数、落第街で過ごしてきた期間は短くない割に一回しか捕まってない。
表の人間を殆ど斬っていない、命を奪っていない事へのお目こぼし。
……目は付けられていたかもしれない。
「鈴音はお金には全く困ってないからね。斬るのは趣味というかライフワーク……?
はい、どうぞ。」
8等分ほどに切って芯をとれば
リンゴを刀の切っ先に突き刺してそちらへと向ける。
「了解だよ。
大抵の人は休みだと思って過ごしたりしてるから羽目を外しすぎないようにちゃんと言っておくね。」
鈴音を含めて割と図太い神経をしている者が多い。
そうでなければ務まらない、落第街全てから憎まれながら弱きも強きも関係なく挫いて正義を名乗るなんて。
「あんなに一人で何でもできそうな異能なのに他の人と協力するともっと強くなるの?」
鈴音にも恐らく他の特務広報部の部員たちにもその認識は薄いだろう。
落第街の住民として鉄火の支配者である神代理央を知る者ならば皆そう思うだろう。
理不尽で圧倒的で広範囲の暴力。一人で振るうのが一番強いように思う。
「そうだね!鈴音も負けてばっかりで自信なくしちゃってたかもしれない!!
鍛錬?とかしたら多分さくって部長もこの前の風紀委員のヤツも倒せるようになるよ!
鈴音は天才だから!」
自分を捕まえた風紀委員。
あれから一度もあっていないが今度会ったら……。
流石に斬りかかる事はないとは思うけど……。
「……特務広報部がそこまで強くなるのって絶対大変だよね。
皆、鈴音のちーちゃんみたいに強い武器持ってたらいいんだけど……。」
『……あまりにも人員の質が悪すぎる。
私のような武器を手に入れるのも現実的ではない……。
気長に育成するしかないだろう。』
刀から無機質な声がする。
■神代理央 >
「……成程?まあ、確かに、そう言われればそう取る事も出来るが…」
確かに、彼女は風紀委員に捕らえられるまでずっと自由の身であった、
かくいう己も、彼女を見逃していた側なのだから。
「ライフワークで人を斬るんじゃない。此方から、きちんと"斬っても良い相手"を見繕ってやるから」
林檎を受け取りながら、困った様に笑う。
しゃくしゃく、と林檎を頬張り、喉の渇きを癒す。
「……何方にせよ、もう暫くは面倒を見てやらねばならないだろうし。
大丈夫、お前達を見捨てたりなぞはしない。
その強さを誇れるようになるまでは、めんどうを…みて…」
ふあ、と欠伸を零すと、ぽふりとベッドに身を横たえる。
投与された薬がきいてきたのか、その瞳と声色は何処かふわふわした様なもの。
「……だから、おまえも。不安におもう事は、ない、さ…。
ぜんいんまとめて、ちゃんと……」
薬がきいたのか、気付けば、いつの間にか少年は寝息を立ててしまっていた。
その表情は、痛みを堪える様なものでありながら――穏やかで、美馬に来た彼女に、全幅の信頼を寄せている様な。
そんな無防備さで、やがて少女の見守る中。
深まる寝息と、心電図の音だけが、部屋に響いていた――
■刀々斬 鈴音 > 「だいたいこういう"斬っても良い相手"って簡単に斬れなかったりするんだよね……。
たまには簡単に斬れる人も斬らせてね?」
たいてい斬ってもいいような相手というのは何かしらの罪を犯してたりする。
良く言えば斬りごたえがある、悪く言えば面倒な相手。
弱い相手をいっぱい斬るのが好きな鈴音としては避けたい。
「……結構、鈴音たちの事大事に想ってくれてるんだ。」
……そうでなければあの戦いのときに初めに撤退させたりしない。
最後まで全員で戦っていればもう少し勝ちに近づけていたかもしれないのに……。
「ってあれ?寝ちゃった?」
普段の落第街で皆を導く姿とは全く違う穏やかな姿。
初めて見る神代理央の強くない姿。
「……おやすみ部長。元気になったらまたいっぱい暴れようね。」
起こさないように小さな声で言うとさっき自分がされたように頭にそっと撫でるように触れて……
「……じゃあ、またね。」
来た時が嘘のように静かに病室を去るのだった。
ご案内:「常世学園付属常世総合病院 VIP個室」から刀々斬 鈴音さんが去りました。
ご案内:「常世学園付属常世総合病院 VIP個室」から神代理央さんが去りました。
ご案内:「常世学園付属常世総合病院 VIP個室」に神代理央さんが現れました。
■神代理央 >
無事(?)に入院3日目。
絢爛豪華なVIP個室も、最近は自宅の様な安心感。
治療も進んできたので、本来であれば仕事に精を出す頃合い――であるのだが。
「………参ったな。何もする事が無い、というのはこんなにストレスを感じるものだったか」
特務広報部が一時的に活動停止状態であれば、己がすべき仕事も無い。
厳密には無くはないのだが、先ずは快復してから、との通達が来ていた。まあ、事後処理と吊し上げの準備に忙しいのだろう。
それは構わない。構わないのだが。
「……こういう時、無趣味というのは困りものだな。本当に…」
リクライニングしたベッドに身を預け、ぼんやりとつけっぱなしのテレビを眺めながら呟く。
平和なニュース。常世わんにゃん天国なる動物コーナーが、画面には映し出されていた。
平和な日常の象徴の様な番組が――不思議と、居心地悪く感じる。
ご案内:「常世学園付属常世総合病院 VIP個室」に月夜見 真琴さんが現れました。
■月夜見 真琴 >
「――――」
厳重なセキュリティを抜けられることは正規の手続きを踏んでいるからだ。
そうして病室のドアが音もなくス、と開き、現れたのは一応のところ風紀委員。
病院に見舞いに来たことがないわけではない、が――
物珍しそうにきょろきょろと室内を見渡した。
手には見舞い品らしい箱。
言葉を発さぬまま椅子を引いて、
当たり前のようにベッドの傍に腰を落ち着けた。
「いっそ住んだらどうかな?」
最初に発した言葉はそれだった。
■神代理央 >
ノックの音も無く開いた扉。
来客の予定がある旨は伝えられてはいたが、それすらも意識の外に飛んでしまうくらいには、意識が微睡んでいたのだろうかと内心苦笑い。
しかし、珍しい客も居たものだ、と。
室内を見渡しながら当然の様に椅子に腰掛けた彼女に、此方も特に無礼だのという野暮な言葉を投げかける事は無い。
とはいえ、彼女から紡がれた言葉には、幾分辟易とした様な表情を浮かべてしまうのだが。
「……それは嫌味を兼ねているのか。それとも本気なのか判断に迷うところだな。
とはいえ、よく来てくれた。何せ、此処は暇で暇で仕方なくてな。
話相手が来てくれただけでも、大分精神衛生上助かるよ」
辟易とした顔は、やがて小さな笑みと穏やかな言葉へ。
先ずは来訪者を歓迎する言葉が、彼女へと挨拶も兼ねて。
■月夜見 真琴 >
「"前線組"なら、その方が手間も省けるだろう?」
要するところ本気で言っているのだと、
いたれりつくせりの病室で愉快そうに笑顔をみせた。
死ぬことを許してはくれない機材の数々は、駆動音さえそうそう聴かせない。
モニタされた生命が示す数値も、無機質にさえ思う。
「ああ、気にするな。やつがれも暇つぶしだ。
制作も一段落ついてな、いろいろついでにここに来ようと思ったまでだよ。
おまえも暇なら助かった。やつがれの話し相手になってくれ」
箱を開ければ、手製のパイが切り分けられて詰められていた。
カスタードクリームがぎゅうぎゅうに入っていて、ヘーゼルナッツが香る。
それをサイドボードに置くと、魔法瓶があつあつのお茶を蓋に注いだ。
「もうこれ以上、周りに無用な心配をかけさせるな。
――というのは嫌味になるかな?」
■神代理央 >
「……成程。御忠言痛み入る、とでも言っておこうか。
出来れば病室の世話にならぬ様に心掛けたいものだがね。
私はまあ兎も角、前線組の負傷率を上げるのはリクルート活動に支障が出る」
勿論、委員会活動中の負傷については、治療費の心配は必要無いとはいえ。
やはり"風紀委員は負傷し易い"というイメージは払拭したいと思わなくもない。
そう思っているだけで、言動と行動が伴ってはいないのだが。
「構わぬさ。私でお前の暇潰しの相手になれるのなら、喜んで付き合おう。
とはいえ、余り創作意欲を伴う様な言動を私に求めるなよ?
私は、芸術についてはとんと疎い方だからな。
………おや、随分と気の利いた見舞いの品じゃないか」
と、肩を竦めつつ。
取り出されたパイと、香る甘い匂いに思わず相好を崩す。
彼女の料理の腕前は既に知る所。
となれば、パイの味にも期待が持てるというもの。
思わず身を起こしてしまう程には、存外心を撃ち抜かれたらしい。
「……いや、今はそれほど。
自分でも少し驚く程に、心に響かぬな。
勿論『私を心配する者など』と言う様な事を言うつもりは無い。
心配してくれる者もいて、それを無碍にしている自覚もある。
ただ、何というか……」
ぽすん、と起こしていた身を再び柔らかなベッドに預ける。
「……何というか、そうだな。
もう今更、それを変える事も出来ん。
それを自覚してしまうと、案外諦めもつくというものさ」
■月夜見 真琴 >
「安心するといい。刺激は勝手に頂いている。
いまのおまえは確かにそういうものには乏しいが」
ああしろこうしろと、求めることもまたなかった。
どうぞ、とパイは彼に委ねる心構え。
自分はもうひとピースぶん自宅で味見は済ませている。
果実系を煮詰めても良かったが、彼には酸味より甘みをくれてやるつもりだった。
「自分がどういう人間か、少しは見えてきたのかな?」
わからない、のではなく。
彼から、はっきりした自己分析の言葉を聞くと、
少し意外そうに問いをむけた。
男子三日会わざれば、とは言うが、あの時のアトリエからは随分時間がかかった。
「最前線に出て、誰よりも体に傷を負う。
入院の数を勲章と誇れとまでは言うまいが、
前線に出るなとか、怪我をするなとか、そういうことは言わないよ。
むしろこれからもたくさん戦って、傷ついてもらうとも。
おまえから"それ"を取り上げるなんて残酷なことは、しないよ。
――心配っていうのはそういうことではないんだよ、理央」
今回の事件――"急いでしまった"事件。
彼はまた、"急いだ"。
自滅とも言うべき、落第街での一幕。
すでにあらましは聴いているとばかりに。
叱るでも、慰めるでもなく、ただ静かに。
■神代理央 >
「ほう。お褒めに預かり、と言うべきかな。
それとも、手厳しいなと言うべきかな。
私の在り方は、少なくとも英雄譚には不向きだと思うがね」
ベッドに身を預けた儘、小さく笑う。
パイを促されれば、一度彼女とパイに交互に視線を向けた後、再び身を起こして先ずは一切れ。一口。
噛り付いたパイから口の中に広がる甘味。カスタードクリームの濃厚な甘さが心地良い。
心地良いのだが――今は、それが己の表情を崩すに至らない。
「……ん、美味い。相変わらず、料理の腕は見事なものだな。
料理の腕も、と褒めそやすべきか」
パイ生地をシーツに零さぬ様、少しずつ咀嚼し、飲み込んで。
何だかんだ年頃の男子故。怪我人とはいえ軽く一切れ食べ終えれば、素直な感想を。
己も彼女も、あの日アトリエでの邂逅以来色々と変わってしまったかも知れないが――彼女の料理の味は、変わらず美味であった。
「どうかな。見えてきたのか、見ざるを得なかったのか。
まあ、色々と考えなくてはならない出来事が多かった、とでも言っておこうか。
……しかし、まあ。予想はしていたがはっきりものを言う。
戦えと。傷つけと。いやまあ、別に構わないがね」
穏やかな声色。傲慢さも尊大さの色も薄れた物言い。
「しかしそれでは、お前は一体何を心配しているというのかな。
少なくとも、暫く風紀委員の尊厳だの、評判だのを下げる事は、私はしない――というか、出来ないと思うがね」
■月夜見 真琴 >
「寒々しい言葉を重ねるのはよせ。
そのまま食べていてくれて構わないさ」
世辞や褒め言葉で得意げになるのは常なれど、
それを欲しがる時と場合、そして相手を選ぶことはできる。
彼に言葉を尽くさせようとするのは酷だな、と思うところはある。
「"戦うな"、"傷つくな"。
おまえにそう言って戦いから遠ざけて、
ひとりの少年の人生を救ってやった気になるとしよう。
おまえはそのとき、自分の代わりに誰かが前線に出て、
戦って、傷つき続けていると考えた時、耐えられるのかな。
こうして穏やかな時間のなかで、"自分は何をやっているのか"と、
自問自答の袋小路に迷い込んでしまうのではと。
後のことまで考えずに、ただ"在り方が気に入らないから"と
他人を変えようとするのは、無責任だろう、それは。
やつがれに"新しい人生"なんて、用意してやれないから」
肩を竦めて、笑った。
子猫同士が仲良くじゃれあっている映像は、
とある視点からすれば、別世界のように見られるのだろう。
「おうちにゃんこのように生きられないのだとして。
まあ、同僚の精神を気遣う者は在るだろう?
こうやって難しい話をすると。
"じゃあこうすればいいのだろう"って、極端なふうに振れてしまう、
そういう神代理央という困った後輩のことを心配しているのさ」
今回のこともそうだ、と。
懇切丁寧な教師のような穏やかな語り口で、苦笑い。
■神代理央 >
「美味い、というのは本心なのだがな。
精一杯の感情を伝えられぬのは悲しい事だ」
と、大して悲しがってもいない様子で。
言葉は笑っていても、その表情にさして変化は無く。
「……さて、どうだか。
月夜見、お前は私を買い被り過ぎだよ。
私が其処まで、高潔な思想を持っている様に見えるのかね。
私が、自分が戦わない事で、他の誰かを戦場に立たせる事に気を病む様な、そんな男だと思っているのかな。
私は唯、私が一番善かれと思える事を実行できるのが、私自身が戦場に立つことだから、そうしていた迄だ。
謂わば、私自身の欲求から来るものだ。他の誰のためでもない」
大画面のテレビに映し出される、無垢な子猫がじゃれ合い、それを微笑んで眺めるコメンテーター達の姿。
己にとっては、裏常世渋谷よりも余程異世界に見える。
「そしてそれは、明確に否定された。
世論は、大衆は、私が護るべき『体制』は、私の戦いを望まなかった。
……一つだけ、訂正しようか、月夜見。
私に"戦うな""傷付くな"と言って、それで救われるのも、救ったと実感を得られるのも、私が狩っていた者達だ。
私が戦場に立つ事によって、命を奪われかねない者達を、弱者を。
世間は、悪辣な風紀委員から護ったのだと評価する。
其処に、私の介在する余地があるかね?」
魔法瓶の蓋を手に取る。
ほかほかと、湯気の立つお茶を口に含む。
ほう、と吐き出した吐息には、確かに溜息が混じっていただろうか。
「自分を或る程度理解したからこそ。
私の在り方を受け入れたからこそ。
私のやり方が受け入れられない事にも、気が付いた。
それだけのことだよ。月夜見」