2020/11/27 のログ
■月夜見 真琴 >
「率先して、自分から戦おう、傷つこうとしているものかなと。
"弱者のために"――うん、それなら。
たしかに、おまえのことをすこし買いかぶっていたかもしれない。
その欲求とやらは、戦争で、闘争以外で満たされるものなのかな?」
眼鏡越しにみた、彼。また瞬きで、自分の見落としを修正しよう。
カスタードパイ、暖かい紅茶。
穏やかな風景を映すテレビ、他人と語らう時間。
"風紀委員"を取り上げられた、退屈そうなひとりの怪我人の肖像。
「――よくもまあ大言壮語が口をついたものだが。
少なくとも今回の件は、おまえの身から出た錆だろう?」
頬杖をついて。
まるで、"自分のやり方"が否定されたような言葉を言う彼に。
少し不思議そうに首を傾いでみせた。
「ずいぶんとまた極端に振れてしまったなあ、まったく。
女を庇い立てして、ごまかすためにやり過ぎたことを咎められただけで、
そこまで腐ってくれるな――腐りたいのはとばっちりを受けた連中だよ。
なんだ、そんなに公安にお叱りを受けたのが効いたのかな」
困ったように眉根を寄せながら、椅子に背を預けた。
「ほんとうに受け容れられていないなら、おまえは生かされていないと思うよ」
■神代理央 >
「勿論、私自身は常に闘争を求めているさ。
しかし、闘争とは何も鉄火場に立つ事だけじゃない。
唯、それが一番私にとって"戦っている"という事を実感させてくれる事ではあったがね。
……だから、戦うことによって、傷付く事を厭わないだけで、別に傷付こうとしている訳じゃないさ。
寧ろ本音を言えば、無傷で完勝したいものだね。
――それが分からぬから、こうしてベッドで腐っているのさ。
私に、戦場で覇を唱え、理想を掲げる事以外、何が出来るのだろうとな」
穏やかな日常を。牧歌的な平穏を。
それらを否定はしない。寧ろ、積極的に肯定する。
しかしそれは『守るべき』対象であって、己がそれを享受する事に、激しい違和感を感じているだけ。
そして、それを守る為に己の行っていた行動は――
「身から出た錆、ということは。私の行動と選択の結果でもある。
…まあ、正直なところを言えば。特務広報部のやり方は私の望むところではなかったさ。
しかし、それが有用であるとも理解していたから、私は鉄火を振るい続けた。
少なくともその考えは、今でも変わってはいないよ」
望んだ手段と目的ではなくとも。
それが必要であると判断したから、無辜の貧民すら巻き込んで風紀委員会の武を喧伝し続けた。
「だから、理由はどうあれ。切っ掛けがどうあれ。
それを選び、行動したのは私だ。選択したのは、私だ。
……まあ、そうさな。というよりも、公安が動いたことを『風紀委員会が飲んだ』方が、私にとっては中々響いたがね。
仲間内からも評判が悪いとは十分理解していたが…」
それを受け止められる程、老成も達観も出来ていなかったのさ、と締め括り。
首を傾げる彼女に笑みを浮かべる。
「かも知れんな。だからまあ、少なくとも。
私のやり方を肯定的にみる一派も、無きにしも非ずといったところなのだろう。
けれど、それは少数派だ。犯罪者へ、断固とした対応と慈悲の無い拳を振り上げる思想は、あくまで少数派だ」
「大衆は"愛と勇気の物語"が好きなのさ。
少数派を弾圧し、多数派を守る様なやり方は、歴史の教科書だけでお腹いっぱいなのだろうよ」
だから己は『システム』足り得なかったのだろう、と。
訥々と告げて、再びお茶を一口。
■月夜見 真琴 >
重症だな、と苦い笑みが溢れる。
それでも饒舌に事を並べられるのは、そうするのが彼なりの思考なのか。
不貞腐れたようにも聞こえる締めくくりを聴いた後、
あからさまに疲れた色の溜息を吐いてやってから、
「それで?」
と問うた。
「やつがれからすれば、"諸々の事情で"思考の柔軟性を欠いていたことと、
はじめて受け持った大部隊の運用の方法や事のさじ加減を、
ついうっかり間違えてしまったただけにしか思えない。
それだけで"私のやり方が~"などと言うところまで振れてしまうから、
心配なんだよ、と言ってるんだ――ああ、違う。
周りに心配をかけるんだ、と訂正しておこうか。やつがれのことは気にしなくていい」
こめかみを押さえて頭痛を耐える。
存外、人と関わることは苦手だ。
錠剤はここにはないので、深呼吸で精神の調子を取り戻した。
「やつがれは、おまえの思想が間違ってるとは思わないよ。
もちろん、正しいとも言わない。
というか絶対的に正しい思想とか、やり方とか。
そういうのは"絶対的に"つまらんからな」
肩を竦めた。
「今回は、やり過ぎただけ。
いい教訓になったな。"やり過ぎるとこうなる"んだ。
戒告処分で済んだのはそういうことだろう?
"次はない"、"次はもっとうまくやれ"。
そうする自信も方策もありません、と言うなら――そうさな。
やつがれに言えることは、ふたつくらいしかないな」
■神代理央 >
彼女の言葉に、穏やかな笑みが僅かに色を変える。
明確に、劇的に変化した訳ではない。
遠目から見ていれば、穏やかに会話を続ける委員会の同僚、という絵面は変わらないだろう。
しかし、間近で言葉を告げる彼女には、己の変化が伝わるだろう。
眠りこけていた獅子が。
或いは、檻に囚われていた獣が、僅かに瞳を開いた様な、そんな変化。
「………その二つの言葉も気になるところではある。
だが、その言葉は必要無い。此の私が、その様な情けない姿を晒す訳もあるまい。…ああ、いや、アドバイスの類なら、喜んで拝聴するがね。
………しかし月夜見。実に不思議だ。私の思い違いでなければ、だが。
まるでお前は、此の私に。燻った焔でしかない私に」
ゆっくりと身を起こす。
豪奢なベッドは、軋みもしない。
「もう一度、鉄火を振るえと。
犯罪者に恐れられる、風紀の武の体現者たれと。
違反部活を刈取るシステムたれと、言われている様な気がするのだがね」
身を起こした少年は、己よりも小柄な年上の女性に静かに瞳を向ける。
「慰められている気もしない。
唯、お前は。本当に"次は気を付けろ"と言っている様に思える。
それは構わない。しかし、お前が其処まで言葉を連ねる理由が分からぬ。
私が再び『鉄火の支配者』として君臨したとして、其処にお前の利が感じられない」
「学園の正義を思っての事なのか。
違反部活への憎悪か。
風紀委員としての義務感か。
私に、もう一度立て、と告げる者は恐らく少数派だ。
お前が"其処"にいる理由が、分からない」
動物たちの愛くるしさを伝える音声が、随分遠くに聞こえる。
「……差し支えなければ、御伺いしたいものだな。
月夜見真琴は、何故私に"再戦"を求めるのかな。
『神代理央』に、何を求めているのかな」
■月夜見 真琴 >
「"正義"のため」
■月夜見 真琴 >
静かに、甘い声で。
しかし決然と言い放った。
それは少なくとも、彼が挙げたどの例示とも違うと主張しながらも、
そこに全く嘘も偽りもないことを、静寂ともいえる語気で証明する。
「――そのために。おまえは腐らせておくにはもったいないからな。
だから、おまえが十全に"駆動"するように助力するのが、
このやつがれの"風紀委員としての活動"だと、弁えてくれて構わないよ。
まあ、市中警備や駐在をやりたいと言うなら止めはしないが?」
肩を竦めて、戯けるように笑みを深める。
「それとも、"愛と勇気の物語の主役(ヒーロー)"になりたいのかな?」
■神代理央 >
「く……ハハハハハハハ!正義!正義ときたか!」
■神代理央 >
"学園の正義"とは、違うと主張した彼女。
であるならば、彼女の告げた正義とは。
「なあ、月夜見。それは誰の正義だ。誰がその正義を正しいと判断する。此の私を"使って"守るべき正義は、果たして大衆に受け入れられるものかね?
お前の正義とは、何を守る為の正義なのだ」
愉快そうに。愉しそうに笑いながら首を傾げる。
詰問する様な声色ではない。
多くの疑問を投げかけながら、答えを求めてはいない。
「…ああ、くそ。笑い過ぎて傷口に響く……。
…いや、笑ってすまなかったな。お前が、そんな愉快な事を言うとは思っていなかった。
愉快、というのも失礼かもしれないが…そうか、正義か」
僅かに顔を顰めるも、未だくつくつと笑みを零しながら。
改めて彼女に向き直ると、その笑みを崩さぬ儘言葉を続ける。
「いやはや。監視対象にしておくのが惜しいな。
本庁で辣腕を振るうつもりは無いのかね。
神宮司がどうなるかは未だ音沙汰無いが、私はお前の下で働くのは吝かではないよ?
……と、そんな話をしているのではなかったな」
「良いとも。どのみち、猟犬達を放っておくわけにはいかなかったからな。
あいつらは、私の部下だ。私の庇護下にあるものだ。彼等には、約束を果たさなければならない。
………それが済めば、風紀を引退しようかとも思っていたのだが」
ふう、と漸く落ち着きを取り戻すと。
彼女に向けるのは、挑戦的とも。挑発的とも表現できるような眼差し。
「先輩の御意向とあれば、此れからも喜んで鉄火を振るおう。
やり方を変えて、限度を見極めて。紅蓮の鉄火を撒き散らそう。
しかし月夜見。お前が使おうとするものは。私の正義は。
お前と相容れないものやもしれぬぞ?
『一人の死は悲劇だが、集団の死は統計上の数字に過ぎない』
『一人殺せば悪人だが、100万人殺せば英雄だ』
共に、私が是とする言葉だよ。皮肉交じりでもあるがね」
そして、緩やかに口元を歪めると、彼女の言葉に小さく首を振った。
「"正義の英雄(ヒーロー)"など、願い下げだ。
正義を押し付ける者に、碌なやつはいないからな」
■月夜見 真琴 >
「それは秘密だ」
何を守るための正義なのか。
満面の笑顔で、それは秘した。
秘することは"力"だ――胸に秘めた野望のように。
笑われても、何ひとつ揺らぐことはない。
指さされても、嗤う妖精で在り続けているように。
すくなくとも抱えた"正義"に対して、なにひとつゆらぎは見せない。
「いたぶるつもりはなかったのだが、なかなか洒落が効いているだろう?
ああしかし、すまないがやつがれはもう本庁に戻るつもりはない。
ないし、まあ、ひとの上に立つ、なんて柄ではないかな。
うまくやれる気もしない。面倒になってポイ、だ。
戻るなら刑事課で犯罪捜査をしたいが、まあ、いろいろあるからな」
ハイネックに隠された白い細首を指で横一文字になぞった。
"監視対象"の首輪は外れない。
――否、外さない。
だから、刑事課に戻ることはないし。
「後輩の仕事をとってしまうし?」
と、指を立てて目を伏せて、得意げに笑ってみせる。
「ああ、当然。
その"正義"は、否定するつもりはないが。
そのままではまた、同じことの繰り返しをするだけだ。
そういう部分で、おまえ個人への信用は絶無に等しい。
なぜか――とは言うまいな。"失態続き"だからだ。
だからまず、そこから挽回して欲しいのだよ。
やつがれはおまえとて、ただ便利に使い捨てるつもりはない。
使えるなら使うだけ使い倒す。
正常に駆動させ、十全に性能を引き出させた上でだ。
ただ、そういう用兵もな、やつがれの本領ではないので。
先程いいそびれた、"ふたつの助言"にとどめておく。
が――構わないかな?」
最終的にはほとんど投げっぱなしにするつもりだった。
■神代理央 >
「ふむ、残念だ。いや、此れは本心だよ?
何も、お前の人徳や理想に惹かれた、などと感動のワンシーンを演じるつもりはない。ただ"面白そう"だと思っただけだ」
実際、彼女が本当に戻れるとも。戻ってくるとも思ってはいない。
だからこその戯れの言葉と冗談ではあったのだが――残念に思っている事は、本心であるが故に。
首元をなぞった彼女を見つめ、大袈裟に肩を竦めてみせた。
「私自身が言えた口では無いが、此の島は"若い"。
良く言えば変化に富み、悪く言えば保守的な思想を忌避しがちだ。
私が体現する正義"のようなもの"の有用性は、歴史が証明している事なのだがね。
自分達ならば変えられる、救える、未来をより良いものに出来ると思うのは、学生主体だから…というより、此の島にその正義を必要とした歴史が無いからだろう。
だから、私の行動が批判を浴びる理由もまあ、理解は出来る」
「その上で、助言を頂けるというのなら是非とも拝聴したい限りだ。
若い、と言っておきながら、私自身もまあ、子どもという部類に入る年齢だ。
一つの思想と一つの正義にのめり込んでいる節は自覚している。
それを何とかしたいとは、思っていたからね」
二つの助言を、と告げる彼女に"何時もの様に"尊大で鷹揚な態度で頷く。
聞いてやる、と言わんばかりの傲慢な態度は、彼女が病室を訪れた時には纏っていなかった『神代理央』としての雰囲気だろうか。
■月夜見 真琴 >
「まずはひとつ」
ひとさし指を立てて、いかにも注意を引くように。
目を伏せて告げるのは、あまりに簡素な助言だ。
「"よりよいシステムとなれ"」
双眸を開いて、銀色の瞳で見据えた。
「まあ、おまえが言ったことの補足になるな。
今回おまえは"やり過ぎた"ことで、失敗をした。
それを"システムの欠陥"で終わらせるのではなく、
"改善のためのフィードバック"を行うという動きもできるだろう?
おまえはもう、問題を起こすことができない。
公安に一度戒告を受けている以上、もう後がない。
すなわち、次にやらかしたらもうそこで"終わり"だ。
捨て鉢も投げやりも許されない。
だからこそ、まずはおまえがより優れたシステムになること。
多くの思想を聞き、多くの意見を聞くことだ。
おまえの理想を、正義を完遂するためにはどうすればよいのか?
時間をかけて構築していきなさい。
古臭く、歯車を軋ませた固着化したものではなく。
要するに、"うまくやる"ことをできるようになれ、ということだな。
これが、おまえが再び戦場に出る大前提だ。
異能を暴走させて起こった不祥事があるなら。
まず、自分の異能についてふかく知る、だとか。
特務広報部の運用のさじ加減を間違えたなら、
自分の部下たちについてよく知り、会議の場を持ってみるとか。
風紀や公安におまえに反発する者があるのなら、
さて、どのようにすれば"自分の正義をうまく通せるのか"。
同僚も部下も同業者も"敵"も、意見を聞く相手には事欠かないだろう?
対話してみろ。言葉でだぞ。
多角的に物事を見て、"最適なシステム"の神代理央を模索すること。
これが当面の、おまえを運用するための課題だな。
見切り発車はご法度だ。おまえのことだ、どうせやらかす」
これがまずひとつめだ、と、相手の理解があるかを確かめるように。
指をふって視線を向けた。
■神代理央 >
彼女の"助言"に、静かに耳を傾ける。
先ず、一つ目を聞き終えて、感想を告げようとして。
彼女からの助言はもう一つあったのだ、と思い返して。
此方からの言葉は、短めにとどめようと思い至る。
「……全員に受け入れられる様なシステム。
皆がその存在に何ら疑問も疑念も抱かない、理想的なシステムとなり得る事か。
その為の知識、理解、対話。成程、言うは易く行うは難し、だな」
ふむ、と納得した様に頷いて。
「しかし、それが必要であることは十分理解出来る。
今の私は、一人ではない。私を頼る部下を持つ身だ。
その忠告は、しかと心に刻もう」
何だかんだ猪突猛進な所を持つ己だからこそのアドバイス、といったところだろうか。
些か耳が痛い部分もあるが、それもまた彼女からの真摯な助言だと思えば受け入れる事も容易い。
小さく首肯すると、二つ目はなんだ?と言わんばかりに首を傾げる。
■月夜見 真琴 >
「"全員に受け容れられる"というのは、いささか極端かな。
そこまで拘りたいというなら止めはしないが。
ただそれこそ、ひとつふたつの視点ではまるで足りないことはわかるだろう?
そうまでやっても。
完璧なんて存在し得ないものだ。
完成なんてしてしまったら後は淀むだけ。
常に代謝し続けることだ。これはお互いに必要なことだな。
引きこもっているとどうしても鈍ってしまうし」
硬く考えがちな彼の頭をほぐしたあと。
それではふたつめ、と中指を立てた。
片手はピースサインを描く。
「これはおまえにとって、最初のもの以上の難題になるだろうな」
■月夜見 真琴 >
「"快くシステムであれ"、だ」
■神代理央 >
「……ふむ。常に代謝し続ける。柔軟な思考を持て、ということか。
中々に難しい事ではあるが、努力しよう」
ふむ、と思案しながら。
ピースサインと共に助言を告げる彼女を見つめた儘――
「…快くシステムであれ?
…私は、風紀委員会のシステムであることに、殊更否定的な感情は持ち合わせていないつもりだが…」
幾分困惑した様に。不思議そうに。
彼女の言葉を真意を図りながら、尋ねて見せるだろうか。
己は未だ、システムであることに否定的な様子を見せているだろうかと思案しつつ――
■月夜見 真琴 >
「楽しそうにやれということだ。
極論、それが周囲に心配をかけないコツなのさ。
システムであることの負担――可視・不可視を問わず。
そういう部分を見て、気をもんでいる者がいるのさ」
だれとは言わないが、と二本立てた指をくいくい、と曲げて見て。
「システムを乗せるための優秀なハードウェアになれ。
それが、快くシステムで在る、ということだ。
私生活を充実させるなり、なんだったり。
"人間としての神代理央"を、あらためて"探す"ことだな」
それは。
かつてアトリエでした会話の延長、でもある。
どう在るのか、なんてすぐに答えは出ない。
探して見つかる保障もないのだとしても。
「どちらにせよ、時間のかかる課題ではあるが。
それらが十全に成された時、おまえは非常に優秀なシステムとして。
戦場への再臨を果たすことができるだろう、と思う。
ま、どのみちしばらくは部隊を凍結された冷や飯喰らいだ。
部下と親交を深めがてら、いろいろ休暇を満喫してみろ。
こういうのがないと、やることがないー、ってなるタイプだろう?」
なんて、にっこりと笑ってみる。
夏冬の休みに、どっさり宿題を出すようなものだ。
■神代理央 >
それは――随分と難しい課題だった。
楽しそうにやれ。何を――仕事を?任務を?システムとしての機能を?
「……それは、その。何というか。
風紀委員としてではなく、私自身を。
"神代理央"を充実させろ、ということか?
風紀委員としてだけではなく?」
此れ迄、己のアイデンティティは風紀委員である事が大半を占めていた。
正確には、成すべき事がある、という事に重きを置いていたということだろうか。
それを失った時。或いは、それ以外の何かで。
己自身を探す、と言うのも――
「……今迄に無く難しい課題だし、時間がかかりそうな気がするよ。
言っている事は分かる。言わんとする事も分かる。
それでも、いざそれをやってみろ、と言われても…」
休暇になればやる事が無い、というのもどんぴしゃであるが故。
先程までの尊大な雰囲気は一気に消え失せ、困った様に頭を悩ませる一人の少年の姿があっただろうか。
「……まあ、悩んでいても仕方あるまい。お前の言う通り、時間だけは無駄にあるのだ。
どうすれば良いか、というのも分からん。
部下と語らうのか。あちらこちら出掛けてみるのか。
思いつく事も少ないが……」
にっこりと笑う彼女に、困惑と若干の恨み言を乗せた視線を送りつつ。
深々と溜息を吐き出して。
「……まあ、やってはみよう。
色々な出会いと知識と経験を求める、というのも学生らしくて良いだろうし。
ちょうど、学園祭も近い。自分を見つめ直す切っ掛けだと思って、楽しむ事にしよう」
うあー、と言わんばかりに呻きつつ。
それでも、きちんと彼女の助言に従う、と頷くだろう。
そして、小さく欠伸を噛み殺しながらぽふり、とベッドに身を預ければ。
「……しかし、まあ。なんだかんだと、気をつかってくれたのは、助かる。
それがどんな理由であれ、まずは、おみまいに来てくれただけでもうれしいよ。
暇と退屈、というのは、ヒトの尊厳をころすものだ………」
急速に、呂律の怪しくなる少年。
繋がれた機器に異常はない。
単に、話し込み過ぎた上の疲労と、点滴で投与され始めた薬の作用によるものだろうか。
「………まあ、これからがんばることに、する。
……じゃない、と。ついてきてくれたぶかたち、に。しめしが――」
最後迄言い切らぬ内に、ぱたり、と辛うじて掲げていた腕が落ちた。
来客中に失礼である、と堪えていた眠気が一気に意識を刈取っていく。
「………すまない。ちょっと、つかれてしまった。
ちゃんと、みおくり、したかったんだけど。
こんど、ちゃんとおれいを――」
其処で、少年の意識は途切れた。
規則正しい電子音と、少年が立てる小さな寝息だけが、広々とした豪奢な病室に小さく響くばかり。
■月夜見 真琴 >
「――まるで睡眠薬でも盛られたような寝入りっぷり。
ふむ、相当に疲れが溜まっていたか。
だからこそやつがれの千慮一得の甘言に耳を傾けてくれたのかな?」
寝入った様子を見ると、紅茶をパイを片付けて立ち上がる。
時間を前に進ませなければ、なんていうのはエゴの押し付けではある。
「同じ失態を繰り返させないのは、先達の役目、かな」
それもこれも、すべては"正義"のため。
月夜見真琴の風紀委員としての活動は、それに終始している。
だから、まあ――
「期待しているよ、理央」
極端なことは、求めない。
私利私欲ほどわかりやすくはない。
ただ、"良き風紀委員"であり、"充実した学校生活を送る"。
それだけでいいのだ。
いまは穏やかに眠る少年に、そうやって無責任な言葉をかけて。
照明を薄暗くすると、そのまま病室を後にした。
ご案内:「常世学園付属常世総合病院 VIP個室」から月夜見 真琴さんが去りました。
ご案内:「常世学園付属常世総合病院 VIP個室」から神代理央さんが去りました。