2020/11/29 のログ
日下 葵 > 「私が雑だと言っているのはそう言うところです。
 どれだけの人間が所属しているかは知りませんが、
 自分の所属している組織の有用性を他者に説明できないあたり、
 もう”残念”としか」

彼の言葉を聞いた瞬間、冷たい言葉が出た。
前に見舞いに来た時とは全く違った雰囲気。

「別にいいんですよ、暴れても。
 でも組織の有用性を問われた時に”それは他人が判断することです”ってのは、
 些か無責任が過ぎる。
 そして、そんな状態で危険な任務に従事していることも信じがたい。
 部隊の長なら主張の一つでもできるようになってから砲弾を撃ち込んでください?」

じゃないと、朧車の時の私の様に確認不足による不慮の事故が起こりますよ?

そんな言葉がスラスラと出てきたというのは、
実際に何か不都合を被ったか、何か思うことがあるのか。――あるいは両方か。

「神代君は無能じゃないんですから、
 仕事をするときに目的意識の一つや二つあるでしょう?
 それが個人的なものでも大義名分でもいいですけど。
 機械じゃないんですから、
 そんな状態で”死ななきゃオッケー”なんて思わないで下さい」>

神代理央 >  
「では先輩は、仮に私が滔々と特務広報部の有用性をアピールしたとして、それで納得するのですか?
元々が、多くの理解を得られぬ任務に従事している部隊です。
まして、先輩も既に特務広報部に対してマイナスのイメージを持っている。その先輩に、部隊の長である私が何を言ったところで、先輩のイメージを覆すには至らないでしょう?」

冷徹な空気を纏う彼女に、此方からかける言葉の感情は変わらない。
元々、万人の理解を得られる様な仕事では無いのだ。

「主張なら幾らでも。登壇して発言し、それで皆の考えが変わるなら幾らでも、私は言葉を発します。
けれど、そうはならない。部隊の有用性をどれだけ説いた所で、人は感情論で否定する生き物ですから。
旧世紀、そういった事例は数多く存在していたではありませんか。

だから、順序が逆なんですよ、先輩。
私達は、主張する為に砲弾を撃ち込まなければならない。
どうせ、書類や言葉では賛同を得られないのだから、行動して結果を出さなければならない。
それが、本来。我々の果たす役割だった」

柔らかなベッドに身を預けた儘、小さく微笑んだ。

「ええ、ありますよ。
私にだって、此の部隊を動かすにあたって、理念も目的もあった。
そして、その目的のためなら、別に我が身が傷付く事は厭わない。
本当に、ただそれだけのことです。
先輩だって、それは御理解頂けるでしょう?」

日下 葵 > 「じゃあ聞きますけど。
 実際に砲弾を撃ち込んで、誰かからいい評価はもらえましたか?
 なにか問題が解決しましたか?
 解決したなら結構。
 誰かが正しく評価してそのうち有用性を客観的に評価してくれるでしょう。
 評価してもらうために行動してこの様ですか。
 挙句自身で有用性を説くことの意義も喪失したと」

本当に呆れた後輩だ。
もう手遅れだとすら思える。

「感情で動いているのはどちらでしょう?
 説明でも行動でも評価を得られていないじゃないですか。
 神代君はそこまでの怪我を負って何を得たんです?
 何を成したんです?
 少なくとも、私にとっては邪魔な組織です」

そう、私にとっては邪魔である。
私がここに来た理由は別に大義名分のためじゃない。
神代理央のためでもない。
私のためである。
特務広報課が邪魔なのだ。
 
「順序が逆なのは特務広報課でしょう。
 結果を出さなきゃいけないから行動したんじゃなくて、
 解体されたくないから結果が欲しくて無理に行動したように見えますよ。
 旧来の悪しき組織そのもじゃないですか」>

神代理央 >  
「少なくとも、落第街やスラムにおいて、違反部活の活動は一時的に鎮静化しました。
風紀委員会は、学園の風紀を乱す勢力に対して断固とした対応を取るのだと、内外に示す事が出来たでしょう。

寧ろ問題は此の後、だと思いますけどね。特務広報部の枷が外れた落第街は、既に違反部活の活発化を示唆する情報が昨日から入っています。
結果として、方法が極端であっても我々の活動は意味の在るものではあった。
何より、公安からの訓告という事態に陥っても、特務広報部そのものは健在。その存在を許されている。
少なくともそれは、武力による強硬策、というものが一定の評価を風紀委員会内部で得ている証ではないでしょうか?」

結果として特務広報部は落第街や違反部活に対する抑制にはなっていた。それを達成する為に、過激で、過剰な手段に訴えていた事は問題視されたものの――成果は、あったのだ。
だからこそ、特務広報部は解体に至らず、隊員達は放逐される事なく己の帰還を待っている。

「……ああ、成程。まあ確かに、先輩の様な任務の従事者にとっては、派手に動き回る特務広報部の動きは邪魔だったでしょうね。
それならそうと、早く言って貰えれば良かったのに」

さもありなん、と言わんばかりに苦笑いを浮かべると。
こほん、と姿勢を整え直して彼女に向き直る。

「何を得たか。先ずは"部隊"を動かす際の戦闘教義。
風紀委員会は、チームでの行動こそあれ所詮は警察組織。
なれば、纏まった戦力を運用する機会は乏しい。今回の件では、それを実証し検証する良い機会になったでしょう。
そして、武力による鎮圧活動の有用性。少なくとも、我々が活動している間、違反部活は精力的に活動する事はなかった。
我々が得たのは、モノではなく多くの教訓です。通常の任務では得られなかった、多くの教訓。そしてそれは、我々の様に断固とした対応を取る人員の不足している風紀委員会では、得難い教訓だ」

と、肩を竦めながら答える。
落第街や違反部活に対して融和的な側面の強い――様に思える現在の風紀委員会で、此の教訓を得ることが出来るのは、己の様に汚れ仕事を厭わぬ者だけであったという自負はあった。

「……逆ではありませんよ?
我々は別に、解体や存在意義を疑われていた訳ではありません。
寧ろ、上層部の意向に沿って設立され、公安の訓告を受ける迄は正当な任務を受けて粛々と行動していた。
我々は、別に焦る必要など無かった。焦ったのは寧ろ、我々を止めに入った勢力の方でしょう。
まあ、落第街にとって"悪しき組織"であることは否定しませんが」

「…と、長々と語ったところで仕方ありません。
結局先輩は、自分の任務上不都合があるから特務広報部の活動に異議を申し立てに来たのでしょう?
それは素直に受け入れますよ。何せ"同僚"からの異議や不満は、考慮すべき事案ですから」

日下 葵 > 「言えるじゃないですか。評価とメリット。
 私が聞きたかったのはそういう話です」

なぜ言わなかったのか、という疑問はひとまず置いておくとして、
ちゃんと組織の在り方を長から聞けて良かった。

「ええ、そりゃあもうすっごく邪魔でしたよ。
 おかげでとばっちりを喰らって任務中に頭を吹き飛ばされましたし」

別に吹き飛ばされるのは構わない――とも言えない立場になってしまったが、
何よりも任務に支障が出たのは事実だ。

「そりゃあ、あの場所で仕事をしているのは特務広報課だけじゃないんです。
 いきなり出てきて派手なことされたら方々から目をつけられて当たり前でしょう。
 その上層部というのも、どの程度上層かは知りませんし。
 なんにせよ過激さが売りとは言えやりすぎはいただけません。
 そういう意味で、横槍が入ったんじゃないですか?」

別に落第街で二級学生を砲弾で吹き飛ばそうが、
尋問に掛けようが、お互いが不干渉なら誰も気にしない。
でも今回は違った、とみるのが自然だろう。

「あと、人的損失は何物に代えてでも防ぐべきだ、とだけ。
 せっかく得た教訓も、現場にいた人間がいなくなったんじゃ使い物になりませんし。
 そういう意味で神代くんは入院しすぎです。
 自分のことをどうにも思っていない神代君だからまだいいですけど、
 同じポストに後釜を入れたときに同じ目に遭わせる気ですか?
 悪い前例にはならないでくださいよ」

そういう意味で、身体をいたわってほしいし、
身を危険に晒す要因は排除するべきだと思う。
”危険な仕事”というのは、怪我をしていい理由にはならないのだから。
と、そこまで考えて――

「いや、これは私への皮肉が過ぎますか……」

あまりにも自分のことを棚に上げた考えであることに気付いて、頭を抱えた>

神代理央 >  
「さっきも言ったじゃないですか。
結局、当事者のどうしても私の意見はバイアスがかかります。
それを私は余り良く思っていない。それだけの事です」

部下達の前でなら、メリットも役割も高らかに告げるが。
第三者に語って聞かせるには、自分は特務広報部寄り過ぎるのだと、溜息をついてみせる。

「……それは、申し訳ありませんでした。
味方に被害を及ぼす事は、此方としても本意ではありません。
作戦行動については、より熟考しましょう」

流石に、実害が出ているともなれば此方も言い訳をするわけでもなく。
ペコリ、と頭を下げて、謝罪するだろう。

「結局はそういうことでしょう。
我々の活動は、特段校則を犯している訳でもなければ、風紀委員会の正当な活動だった。
とはいえ、其れを"やり過ぎ"だと判断されても致し方ないものでもあった。
結局は、全てが性急過ぎたのです。今更ですけどね」

と、彼女の言葉にクスリと笑みを零す。
後釜。後継者。それは、己も考えていた事だったから。

「……ええ。そこについては、全く異論はありません。
寧ろ私は、特務広報部は名前だけで畏れられる様な組織にしたかった。
個人の武勇ではなく、その組織そのものが犯罪への抑止力になる様なものにしたかった。誰が其処の長についても。私が卒業するなり、風紀委員会を去るなり、死に至ったとしても。
二級学生やスラムの住民を狩る様な組織ではなく、違反部活に対して断固とした対応を取る部隊にしたかった。
それが叶わず、こういう結果になったのは……まあ、色々と問題があったからなのですけどね」

特務広報部が出る時は、風紀委員会が本気の時だと。
其処まで、とは言わずとも、そうある様な組織にしたかったのだと告げる声色は、若干の疲労が混じっているだろうか。
設立から、こうして活動休止に至る迄。風紀委員としての理念より、様々な思惑が絡み合ったが故の、こういう結果になってはしまったが。

「……精神的に自爆してどうするんですか。
とはいえ、先輩がそう自分で思ってくれているのなら安心です。
少なくとも、そうして頭を抱えるくらいには、負傷を前提とした任務についても問題定義を発するべきだと思っているのでしょう?」

「……少し前の先輩なら、それも仕方ない、みたいに言ったのかなと思わなくもないんですけど。
そうして悩む様な変化なり出来事なり出会いが先輩にもあったのだと思うと、後輩としても安心するところです」

と、穏やかに笑いながら頭を抱える彼女を眺めているだろうか。

日下 葵 > 「別に悪い事じゃないでしょう。
 ”貴方の組織がどんな風に役立っているか説明して下さい”
 なんて、むしろどんな馬鹿でも思いつくような質問です。
 どんなにバイアスがかかっていても、
 そのくらいの主張はして怒られることはないでしょうに。
 むしろ”私にはわからないし言いたくないので第三者に聞いてくれ”
 何て言われた方が印象悪いです」

それこそ、バイアスを正すのが第三者の仕事のような者なのだから。
組織の長は組織に寄った意見くらい言ってもいいだろう。

「私が”仕事が雑”って言いたいのはそういう部分です。
 丁寧にやってれば私の任務が邪魔されることも、
 邪魔されることももっと少なかったでしょうに」

性急すぎた、熟考します、なんて言った段階で、
雑だったことを自白したようなものだ。
とはいえ、過ぎたことを言っても仕方がない。
今後組織の運用方法が多少なりとも”良い方向”に向かってもらえればそれでいい。

「特務広報課が何を目指しているかとか、そういうのはぶっちゃけ興味ないです。
 私が仕事の合間にわざわざここに来たのは単に
『邪魔だからどうにか改善しろ、できないなら出るとこ出るぞ』
 って言いに来ただけですから」

どんな組織を目指すのか。
それは組織の長である彼が決めることだし、
それを達成する為にどんな手段を取るのかも彼が決めることだ。
しかし、それでこちらが損をするなら抗議はする。
”断固とした組織”は特務広報課だけではないのだから。

「皆揃いもそろってなんで私のことを自殺志願者とか自傷癖持ちの様に言うんでしょう?
 私は風紀委員になってからずっと”死なない”ことにこだわってきたんですけどねえ?」

自分がどうやったら死んでしまうのかも、
どこまでならきれいに傷が回復するのかも、誰よりも正確に把握している。
だから死なないように転移魔法を施して、
消耗しないラインを線引きして戦闘しているというのに。
皆まるで私が「私は傷ついても平気」と思っていると誤解している。
これは誠に遺憾である。

「これでも色々あったんですよ。
 おかげで捨て身の攻撃とか、危険な任務はやりづらくなりましたけど」

私は神代くんとは違うので。
なんて意味ありげにいって見せるが、そこに嫌そうな表情はなかった。
むしろ任務がしづらくなったと言って嬉しそうである>

神代理央 >  
「そんなものですかね。此れでも、なるべく公平な意見を出そうとしてはいるんですけど」

ふむ、と思案顔。
自らの寄って立つ所へ正の意見を発する事は簡単だ。
だからこそ、敵対者以外へは寧ろ己の役割や任務に対して中立的な立場を語る事が多かった。

「先程、焦って行動したんじゃないか、と先輩は言いましたね。
それに対する答えと同様です。焦ったのは、私達ではない。
…いや、此ればかりは風紀委員会の誰が焦ったという訳でも無いのですが、そうせざるを得ない理由があった。
それだけのことです。そもそも、まだ隊員を入れて活動を初めてから1か月ほどの部隊ですから、手探りな面をありましたけどね」

己の望まぬ形で始まった特務広報部の任務。
その切っ掛けは――まあ、今更言葉にするまでもない。
一人の風紀委員の高官が襲撃されたあの夜から、色々と複雑な成り立ちがあっただけのこと。

「…いっそ、先輩も特務広報部に来ませんか?
少なくとも今迄よりは、危険な任務は無い様に……。
……いや、すいません。何でもないです」

負傷し難い組織、にはならないだろう。
そう思い至ったが故に、勧誘の言葉は取り下げられた。
まあ、ならず者の集まりみたいな部隊だ。彼女も別に入隊したいとも思わないだろうし。

「『誰かが正しく評価してそのうち有用性を客観的に評価してくれるでしょう』でしたっけ?
つまり先輩は、"誰か"という不特定多数に客観的に評価されてそういうイメージがついている訳ですから。
"死なない"様にする為の方法が、再生の術を持つ者と持たざる者とで大きく違うが故のものでしょうけどね」

先程の彼女の言葉を諳んじながら、クスクスと笑う。
とはいえ、ついで投げかけた言葉は所謂世間のイメージ、というものを代弁したものだろうか。
普通の人間はどうやったら死ぬか、等と悩まない。
致命傷を負えば、普通に死ぬ。其処で終わりなのだ。

「……へぇ?先輩がそういう顔をするなんて、珍しいですね。
でも、悪いようには見えません。きっと、良い変化。良い出来事があったのでしょう。
それを大事にして貰いたいものです。幸せの形、というのは別に風紀委員で職務に励む事だけではありませんし」

嬉しそうに見える彼女を、物珍しそうに眺めた後。
穏やかな笑みと声色で、そう告げて。
自分はそれが出来ませんでしたから、とおどけた様に肩を竦めるのだろう。
恋人と別れ、弱者に銃を向ける組織の長となり、その試みは半端な所で中断した。笑い話にもなりはしない。

「……と、そろそろ検診の時間でして。もっと先輩の"変化"について御伺いしたいところではあるんですけども。
また退院したら是非、御聞かせ頂ければ幸いです」

無駄に豪華な壁掛け時計へと視線を向けた後、申し訳なさそうに眉尻を下げて時間のリミットが訪れた事を告げて。
また、話をしようと。同僚であり先輩である彼女に、首を傾げてみせるのだろうか。

日下 葵 > 「自分の口から言う言葉に公平もくそもないと思いますけどねえ?
 どうせどう頑張ったって自分というフィルタがかかるんです。
 なら自分の立場が有利になることを言えばいいんですよ。
 過激で、断固とした組織ならなおさら」

むしろ敵対者を黙らせるくらいに言えばいいのに。
なんて言うと、どちらが組織の長なのかわからなくなってしまいそうだ。

「さっきも言いましたけど、私はその辺の話はどうでも良かったりします。
 私の仕事に差し支えなければ、ですけど。
 今回は私の仕事に差し支えて、今後も差し支える可能性があった。
 だから活動の止まっている今、話に来ただけです」

そもそも報告書もまともに読まない性なのだ。
さっきの押し問答は半ば彼を黙らせるためのもの。
内容にさほどの意味はない。

「私は遠慮しときますよ。
 私は今の任務で手一杯ですし。
 なによりもそんな誰から恨みを買うかわからない組織、
 いくら神代君が工面してくれたとしても願い下げです」

恨みを買う相手の顔は、全員覚えているし覚える。
それが私の信条だ。
一発の砲弾で、一回の任務で不特定多数を相手にするような任務は御免だ。

「私は相当死に難い存在ですけど、
 自分の死に難さに慢心して死ぬような真似だけはしない。
 そう肝に銘じているだけです。
 そこに一般的かどうかは関係ないでしょう」

「できなかったのか、やらなかったのか。
 神代くんは、私には後者の様に見えますけどねえ?
 大事にしてもらいたいものです、なんて先輩に偉そうに言う余裕があるなら、
 二度と入院するような状態にならない欲しいものですよ。
 ほんと、次に入院したら冗談抜きで尋問しに来ますからね」

私なんかよりもずっと、彼の方が化け物じみている。
普通これだけ痛い目に遭って周囲からボロクソに言われれば考え方の一つでも変わるものなのに、
良くも悪くも――いや、悪い意味で何も考えが改まった感じがしない。
正直、彼を見ていると疲れてしまう。
そこまで考えて、それ以上の思考を放棄した。

「おっと、私も次の仕事(尋問)がありますから、そろそろお暇しましょうかね。
 ここにいても嫌味しか出て来そうにありませんから」

そんな皮肉を言って立ち上がれば、ゆったりとした足取りで病室を後にするのだった>

神代理央 >  
「寧ろ、過激で断固とした組織だからこそ、本来は中立的な意見を持つべきかもしれませんよ。
長たる私が、表だってその活動を礼賛し、その有用性を高らかに喧伝しようとするのなら。
……それが必要になるのは、此の学園の風紀が危機的な状況に陥る時でしょうね」

特務広報部は、謂わば準軍事組織だ。
その活動を、長である己が否定する事は絶対に無いが、他者に対して有用性を訴えては、武力の方向性が偏ってしまう。
歴史がそれを証明している。かの芸術家崩れのどこぞの総統は、そうして一つの武力を国防軍に匹敵する軍事組織に至らせたのだから。

「そういうと思いましたし、だから私も先輩を勧誘したりしませんよ。
恨むつらみを買ったところで、それを売り捌くのは大変な苦労がかかりますからね」

それに、己の部隊は所謂"派手"な戦い方を好む。
それも、彼女とは折り合いが合わないだろうし。

「先輩がそう肝に銘じている事を、先輩を見ている人々が知っている訳でもなし。
私は、何故先輩がそう思われているのか、という疑問に一般的な人々の思考を提示しただけです。
別に、先輩の在り方や信条に意見するつもりはありませんよ」

「……それは約束しかねますね。私は方法はどうあれ、鉄火場に立つ仕事を好みますし、そうありたいと思っています。
やらなかった、と言うのは反論したいところではありますよ。これでも、相応に努力したつもりです。
努力が足りなかった、と言われればそれはまあ…否定は出来ませんけど」

生まれてから施された教育、環境、己の根底を支えるモノ。
それが一朝一夕に変わる訳でも無し。
今回も、是迄も。己は、自身の選択と在り方に矜持を持ち続けるだけの事。
それを変える、改めるというのは難しい話ではないだろうか。

「まあ、変わらなければならないと思う次第ではありますけどね。
……偶には、もう少し穏やかな会話を続けたいものですが。
とはいえ、こんな場所ですから。嫌味だって、退屈しのぎにはなりますよ」

「それではまた。風邪など引かないように気を付けてくださいね。
病院で再会したくないのは、私だって同じですから」

と、苦笑いの混じった笑みで彼女を見送って。
彼女が立ち去れば、検診までの僅かな時間、彼女から投げかけられた言葉に思いを馳せる事になるのだろう。

「………そうだな。自愛しろ、だなんて誰かに偉そうに言える程、出来た人間でもない、か。
むずかしいものだ。色々と」

手元で弄ぶ禁煙パイポ。
それを塵箱に放り投げて――深く深く、溜息を吐き出すのだった。

ご案内:「常世学園付属常世総合病院 VIP個室」から日下 葵さんが去りました。
ご案内:「常世学園付属常世総合病院 VIP個室」から神代理央さんが去りました。
ご案内:「常世学園付属常世総合病院 VIP個室」に神代理央さんが現れました。
神代理央 >  
さて、そこそこ長かった入院生活も取り敢えず今日で終わり。
といっても、厳密には今夜までは此の病室が己の寝床となる。
明日の午前中の退院は、まあキリ良く週末までは入院していましょうというくらいのもの――という訳でも無く。
再生治療を施された傷口の、所謂術後経過の観察期間が今日までだった、というだけの話。

退院の準備だのなんだのも、特にすることはない。
元々私物は仕事用のタブレットくらいしか持ちこんでいないし、着替えだの消耗品の類は全て病院から提供されている。
VIP個室の大きなメリットは、着の身着のままで快適な入院生活が送れる事にあるのだ。
従って――退院前の夕方。特に片付けに追われる事も無く、のんびりと眺めているのは休んでいた講義の教科書。
委員会活動で単位を得ている、とはいえども、勉学を疎かにする訳にもいかない。

「……遅れた分は、何処かで取り戻さなければならんな…。
学園祭前に小テストを行う講義も多いし…うーむ…」

完全に分からない事は無くても、理解が追い付いていない講義もちらほらとある。
休み過ぎたかな、と溜息を吐き出しながら、教科書とノートを拡げて困り顔。

ご案内:「常世学園付属常世総合病院 VIP個室」に幣美奈穂さんが現れました。
幣美奈穂 >  
なんかお知り合いの方が怪我で病院にいるそうです。
それを聞きました美奈穂、お見舞いしたいと知り合いの方に頼みまして。
そして、なんやかんやあったようですが許可がおりました。
病院なんて行った事がないので、興味もあったのです。

能力を抑え込むようにじゃらじゃらと色んな封具を身に付けさせられて。
勝手に人を癒したりしないようにと抑え込もうと対策。
「いたいのいたいのとんでけー」とかしないことをお約束しまして。
そして、進む経路に怪我人や機械がどけられる仕様。
そんなところを、風呂敷包みを背負いましてとっことっこ。

「へぇ~、病院ってこんな感じなのですね」

きょろきょろしながら危なっかしく歩く美奈穂です。
・・いろんな封具がなんかぴかぴかしたり、びびびっと震えていたり。
1人なのに賑やか。
階段を使い、言われたところへ向かいます。
後で隠れて追いかけている職員さんは、まるで「初めてのお使い」を見る気分かもしれません。

「あっ、ここです!」

見つけました、確か、理央お兄様の上の名前は神代さんです。
プレートを見つけて扉に手をかけて・・がちゃがちゃ。
あれ?あれれ?、開きません。

・・と、その頃。扉を手がふさがっていても開けられるようになっている、
電子装置がびちびちばちばち、青い光を立てています。
ぽしゅんっ、という小さな音で電子光を消すと共に。

「あっ、開きました!」

元気なお声で、両手で扉を開けた美奈穂なのです。

神代理央 >  
何やら、扉をがちゃがちゃと揺らす音。
はて、こんな時間に何用だろうかと頭を捻る。
次いで、小さな警告音と共に、備え付けのタブレットにアラート。
病室の自動扉の開閉装置の故障だそうだ。退院前に縁起が悪いな。

などと思案していると、開かれた扉の先にいる少女に目を丸くする事になる。
何やらけったいな魔具だの封具だのを身に着けた、巫女姿のあの少女は確か――

「幣……か?どうしたんだ。その……そんな恰好で」

ぱちくり、と目を瞬かせて、予想外の来訪者に驚いた様な表情。
ついでに、そのじゃらじゃらと身に着けた色々なあれこれに再度目を丸くするだろうか。

「いや、まあ……取り敢えず、どうぞ。かけたらどうだ?」

拡げていた教科書を閉じて、取り敢えずベッドの上から少女を部屋の中へと招き入れようか。
入院するのに此処迄豪華にする必要ある?みたいな絢爛豪華な病室が、彼女の視界に広がるだろうか。
中央にでん、と構えた巨大なベッドに横たわる己は、その体躯もあって小さく見えるかも知れない。

幣美奈穂 >  
「理央お兄様!
 お見舞いにきてみました!
 へぇ~。病室ってこんなのなのですね・・」

ほわわっと笑顔でお見舞い宣言です。
そして興味深げに、きょろきょろと病室を見ます。
来た事がないので、見たことがないのです。
病気知らずで怪我も勝手に治る美奈穂、医療保険は払ってますけど病院とは無縁なのです。

「道で転んだのですか?、階段で転んだのですか?
 それともわんこさんのお散歩で引きずられたのですか?
 お身体、大丈夫ですか?・・わっ!?」

美奈穂、神代様を見つけまして。嬉しそうなお顔。
三大擦り傷要因をあげながら笑顔で少し早歩き・・と、すぺんっ!
何もない所で勢いよく転びます。
ぺかぺか光って震えている封具がちょっとジャマなのです。
そして背負っていた風呂敷、小物がはみで零れながらひゅるりとお空を飛び、神代様の方へ・・。
何かのカバーが取れてきらりと光るものを見せながら、5㎏ぐらいの重さはあるそれが落ちてきます。
落ちたら、ずしゅっ、となんかがベッドに刺さる音がするかもしれません。

香ばしい匂いがする包み。
そして零れててんてんと転がるりんご。
転がるりんごを両手で捕まえますと起き上がってお座りです。

「お見舞いの品も持ってきたしたのよ?」

リンゴを両手で持ってこてり、ちょっとお顔を傾けます。

神代理央 >  
「ああ、いらっしゃい。お見舞いありがとう。
まさか、幣が来てくれるとは思っていなかったから、ちょっとびっくりしちゃったよ。
病室…というか、病院には慣れていないのかな?寧ろ、それは良い事だからこれからも健康で過ごして欲しいな」

ほわほわとした笑顔を浮かべる少女に、此方も穏やかな笑みを返そうか。
興味津々といった感じで病室を見渡す少女には、その方が良いよ、と小さく苦笑い。

「あー…えーと…まあ…ちょっと、任務中にね。
流石に、わんこに引き摺られたりはしな――」

入院する理由が中々にアレ。いや、平和というか牧歌的な理由なのは宜しいことなのだが。
流石にそんな理由じゃ入院出来ないな、と笑いかけて――

「っと、大丈夫か………ぷあぁっ!?」

突然転んだ少女に気遣う言葉を投げかけようとして、素っ頓狂な悲鳴を上げたのは己の方だった。
何せ、突然空中から結構重めの荷物が降って来た。刀に刺されても立っていられる自信はあるが、流石に不意打ちの此の一撃は中々効いた。
痛い、というか何というか、めっちゃびっくりした。

「………こほん。
えーと…怪我とかは大丈夫…みたいだな。
ああ、わざわざお見舞いの品まで…ありがとうな」

先輩としての威厳、守れてるかなあ。
なんて思いながら、ちょこんと座り直した少女に咳払いを一つ零した後お礼の言葉を告げて。
己に振って来た荷物もそうなのかな、と取り敢えず振って来た物を両手で抱えてみようか。

幣美奈穂 >  
「うんっ。病院って初めてです・・。
 あんまり人が居ないのですね?」

歩いてきた間も、全然人を見かけなかったのです・・先に連絡があり、人がどけられていたのです。
そう、美奈穂が勝手に変なところに入り込まないように。

「お仕事でわんこさんのお散歩代行ですか?
 あれは過酷ですものね・・。
 え?、違いますの?」

うんうん、頷きます。
美奈穂、お願いされたらするのですけど。
大体、犬に引っ張られてしまいます。
と、転んだのは意識がそれたのが悪かったのかもしれません。

中にはがさごそと言うなにか紙包みに入ったものが幾つもと、
そしてすり鉢状のものや筒状の固いものなどもあります。
そして、ベッドの向こうにてんてんてんっと落ちていったのは、包丁の木のカバーです。
そのカバーの中身は・・。

「はいっ。
 あっ、今から作ったりしますから。
 飲んだら元気になれるのを作りますから!」

ぱぁ~っと明るい笑顔でこくりっ、頷きます。
立ち上がっててこてこと近づきますと、神代様の腕にある風呂敷の中に両手をずぼっ!
そしてがさごそしますと。

「じゃじゃ~ん!
 これ、大体効くってききました!」

と、つかんだものを取り出します。

神代理央 >  
「あー…まあ、此の部屋は警備が厳重ということもあるし、きっと幣に気を遣ったんだろう。
とはいっても、人がそんなにいない、っていうことも無い筈なんだけど…」

少女の能力に対して、病院側が注意を払った、などと言う事は露知らず。
あまり人がいない、と告げる少女に、此方も不思議そうに首を傾げる事になるだろうか。

「……えーと、うん。まあ、犬の散歩はあまりしたことないしね。
ペットを飼っている訳でもないから。
今回は、本当に任務中の負傷なんだ。とはいえ、もう退院出来るから心配はいらないけどね」

そう言えば、最後に動物と触れ合ったのっていつだったかな、なんて思いを馳せながら。
己が手に抱えた荷物の中身は一体なんぞや、と覗き込もうとして――

「……今から作る?」

え、今から此処で調理するのだろうか。
と、不思議そうに少女の動きを眺めている。
手に持った風呂敷の中に両手を差し込み、がさごそと漁る少女。
確かに、中に入っていたのはすり鉢状の何かや、擦り棒の様にも思える何か。
ベッドの向こうに転がっていったのは、きちんとカバーに収められた包丁。
えーと……つまり…?

「……あ、え?これ、って…?」

と、疑問符が頭の上で優雅に踊り始めた時。
少女が掴んで取り出したものに、釣られる様に視線を向けるだろうか。

幣美奈穂 >  
「そうなのですの?
 あっ、でも・・ここのお部屋の扉。建付けが悪かったです」

なかなか開かなかったのです。
噂に聞く、欠陥住宅というのかもしれません。

「?。理央お兄様ってどこでお仕事してますの?
 わたくしは霊的予防係なのですけど・・」

風紀委員4年。それでも組織はよく判っていない美奈穂です。
「?」ときょとんと首を傾げさせてしまいます。

少し背伸びをしながらがさごそ。そして取り出しましたのは。
大体効くという征呂丸とマスロン消毒液。
美奈穂は使ったことありませんけど。人に聞いて買ってきてみました。

「これで、少し待っていてくださいませ」

と、のこのこ。取りづらいのでのこのことベッドに上ってきます。
そして端っこでにこにこ正座。
征呂丸、さらに取り出したお皿にざらざら開けて入れます。
小さい丸いのです。なんか効きそうな匂いですね・・。

「はい、お飲み物を準備するまで摘まんでおいてくださいませ」

おツマミの小鉢感覚で神代様の前に上に置きます。
次はマスロン消毒液です。これはかけるものだそうですね。
青いキャップを回して取ります。キャップの蓋を開けたのではありません。
キャップを取っちゃったのです。
えと、これはかける、と・・躊躇いも邪気もなく。
身を乗り出して、怪我してるらしいおなかにとぽとぽとぽ・・とかけちゃうかもしれません。