2021/01/17 のログ
ご案内:「神代理央 自宅」に神代理央さんが現れました。
ご案内:「神代理央 自宅」に比良坂 冥さんが現れました。
■神代理央 >
最近、帰りが遅い自覚はあった。
数度の襲撃事件以来、刑事課とのやり取りや部下達へ指示を出す為の書類仕事。己自身が現場に出ての活動など、以前より帰宅時間が遅くなっているのは数字にも表れていたり。
それでも、本庁に泊まり込んだりせずに自宅へ帰るのは、色々と理由はあるのだが――。
「……ふう。日が変わる迄には帰ろうと思っていたけどな…」
がちゃり、と鍵を開けて帰宅する部屋の主。
既に深夜、と呼んでも差し支えない時間。
部屋で『保護』している監視対象も、既に眠ってしまっているだろう。そろり、そろり、と。靴を脱いで室内に足を踏み入れようか。
■比良坂 冥 >
既に遅い時間帯
『保護されている少女』、は
眠っていたどころか…
「──おかえり、理央」
いつの間に準備したのかエプロン姿
煌々と照明がつけられ、いかにもな手料理(と思われるもの)がローテーブルに並ぶ
この時間に少年が帰ってくるのが少女にはわかっていたように、湯気まで上がって…
「……ご飯にする?お風呂にする?」
昏い瞳の少女は微笑みながら、そう問いかけた
■神代理央 >
先ず、部屋を照らす照明の明るさに思わず瞳を瞬かせる。
暗い筈、と思っていた為に、其処には純粋に驚きの表情が浮かんでいるのだろう。
その表情は投げかけられた言葉と、温かな手料理と共に己を待っていたのであろう少女を目にすれば、尚深まる事になり…。
「…ただいま、冥。まだ起きていたのか。先に休んでいても構わなかったのに」
微笑む少女に、困った様に笑いかけながら部屋の中へ。
冷え切ったコートを脱いで、鞄と一緒にリビングのソファへと放り投げる。
「……冥が作ってくれたのか?それじゃあ、折角だから先にご飯から頂こうかな。冷めてしまっては、勿体無いからな」
少女が夜更かししていた事も、それ以上咎める事は無い。
ローテーブルに並べられた料理に視線を向けながら、穏やかに笑ってみせるのだろうか。
■比良坂 冥 >
「……そろそろ帰ってくると思って」
僅かに頬を染めて俯きはにかむ
ご飯を頂こうなんて言葉を返してもらえば、あからさまに嬉しそうだった
「……うん。美味しいかは、わからないけど。
──じゃあ、座って」
海苔の巻かれた卵焼き、簡素ながら新鮮そうなサラダ
マッシュルームとバターのパスタ…、と
やや不揃いなメニューながらも、出来たてらしいそれは食欲をそそる香りを振りまいている
味もそれなりに保証されていそうだった
「……お世話になってるし、たまにしか来ないから。こういうお礼もしないと」
理央がローテーブルの前にかければ、ちょこんとその真横に自身も腰を降ろすだろう
妙に密着して
■神代理央 >
「……ふむ?そうか。最近私も帰りが遅かったし、待たせてしまったのならすまなかったな。
でも、余り夜更かしして体調を崩したら本末転倒だからな。別に無理して私を待たなくて良いから、早めに休む様にする事だ」
"そろそろ帰ってくる"と思われる程、最近の生活リズムを覚えられていたかな――なんて、思考の片隅で一瞬思案しながらも。
はにかむ少女に礼を告げながらも、ちょっとだけ心配そうな声色で言葉を続ける。
「丁度何も食べていなかったからな。温かい食事を食べられるだけでも御の字だよ。それに…うん。本当に美味しそうだ」
深夜に食べるには重すぎず軽すぎず、と言う様なメニュー。
仕事上がりで空っぽの胃を刺激する香り。
ほお、と感心した様に料理を眺めながら――
「別に気にする事は無い。私が好きでしている事だ。冥が気にしたり、礼をする様な事じゃないさ」
よいしょ、とローテーブルの前に腰掛けながら、そんな言葉で締め括ろうとした…のだが。
「……冥?その、少し近く…ないだろうか?」
真横に来るのはまあ、良いとしても。
微妙な距離の近さと触れ合う身体に、僅かに首を傾げて視線を向けるだろうか。
■比良坂 冥 >
「……忙しそうだもんね、理央。──ううん、無理はしてないから。
遠慮せず、食べて。へんなものは入ってないから、大丈夫……」
表情とは裏腹に抑揚の感じられない言葉
嘘をついている様子もないが、どこかちぐはぐな雰囲気で、人によっては不気味に感じるのだろうが
隣に座り、距離に言及されれば首を傾げながら、なぜか更に距離を縮めていく
「……だめ?食べにくいなら離れるけど」
上目遣いで問う様子はいかにも『くっついていたい』という意思に満ちていた
■神代理央 >
「そうか…なら、良いんだけど。最近は急に冷え込む様になってきたからな。風邪とか引くんじゃないぞ?
……ん。それじゃあ頂きます。しかし、変な物って何だ。可笑しな事を言うものだな?」
まさか毒の類でも仕込んでいる訳ではあるまいし、なんてクスクスと笑いながら頷いてみせる。
その奇妙な雰囲気に内心首を傾げてはいるが…それを、少女に露わにすることは無いのだろう。
精神的に不安定な要素を持っている事は理解していた。それ故に、少女を否定する様な言葉や態度は見せない様に、と。
「……駄目、ではないが。冥はもう少し他者との距離感というか、男女の健全な距離というものを学んで欲しい、とは思うかな…」
だから、彼女が上目遣いで此方を伺えば、結局はそれも受け入れてしまうのだろう。
先ずは情操教育からかなあ、なんて思いながらも、彼女程の美少女にくっつかれれば思う所が無い訳でも無い。
そんな思いを振り払う様に、フォークを手に取って先ずはパスタから食べようと手を伸ばす。
■比良坂 冥 >
「……惚れ薬とか?」
それまで傾げていた方向とは逆方向へこてんと小首を傾げながら、そうのたまう
変なものの中でもトップクラスに変なものの例ではなかろうか
入っていないらしいので安心である
パスタはフォークで巻き取ればまだ湯気がゆわりと上がり、香ばしいバターの香りが漂う
塩気やマッシュルームの歯応えも手伝ってなかなかの出来だと言えるだろう
少女はそんな様子を見つめながら、さぞ当然、とでも言わんばかりに…
「……だって私は理央が好きだから。
いなかったら寂しいし、いるなら、好きな人とくっついていたいのは普通……。ヘン…?」
そう言葉を零す冥の左腕にするりと巻き付く小さなヘビの姿
ペットとして買ってもらった、小さなタマゴヘビだ
ちゃんと世話はしているのか元気そうに首をもたげ、冥と仲よさげ…に見える
「……今はユーリもいるから、そこまで寂しいってほどでもないけど」
どうやら少女はヘビをユーリ、と名付けたらしい
少女に元々ついているはずの監視役の風紀委員…『立花勇利』と同じ名前であった
■神代理央 >
「…そんなもの入れてどうするんだ。全く、冥は冗談が好きなのか」
惚れ薬。毒薬とか体の自由とかを奪う薬なら兎も角、よもや惚れ薬とは。そんな物入れてどうするんだ、と割と本気で思いながら、可笑しそうにころころと笑うのだろう。
まあ、何も入っていないなら安心と言わんばかりに、其の侭パスタを先ずは一口。咥内を満たすバターの香りと、程良い塩梅の塩加減。
「……ん、美味しいよ。冥は料理の才能もあるのかもしれないな?」
もぐもぐ、ごくん。と飲み込んだ後、にこにこと微笑みながら彼女に告げる。
美味しかったのは本当。二口、三口と。続け様にパスタを頬張っていく。合間に、卵焼きやサラダにも手を伸ばしていくだろうか。
「……そう、か。寂しい思いをさせているのはすまないと思っているし、冥が抱く感情は当然のもの…だとは、思う。
だから…うん。そうだな、別に構わないよ。冥」
彼女が、己の事を好きだと告げたのはこれで何度目だろうか。
その度に明確な答を返さぬ儘、取り敢えず保護している自分は中々に人でなしだと思う。
……そんな事を考えていれば、彼女の左腕に絡まる一匹の蛇。
「………ユーリ、と名付けたのか。そうか。そう、か……」
『立花勇利』は、未だ彼女を引き取ろうとする連絡もない。
任務で負傷したとの報告も受けていない。
……一度、彼の自宅を訪ねてみるべきだろうか。
『ユーリ』をほんやりと眺めながら、僅かに灯る警戒と猜疑の心。
■比良坂 冥 >
「……冗談、冗談。入れようと思っても、ないものは入れられないし…」
許可が降りれば、さらにぴとっとその身体をくっつけてゆく
互いの息遣いが聞こえたり、体温を感じられたり…
そういった距離感が、少女は堪らなく好きだった
誰かと一緒にいる、好きな相手と一緒にいる…という実感が得られるからだ
「……理央がしてほしいことならなんでもするよ?
ご飯も作るし…お風呂も沸かすし…イヤなヤツがいたら、邪魔もする。
えっちなことだって、ぜんぜんおっけー…むしろしないの?」
ぴっとりとくっついたまま、視線は理央からユーリと呼んだヘビへと移して
その鼻先をつついたりして可愛がりながら…
「……どうしたの?」
ユーリ、という名前に反応を見せた理央にみたび、首を傾げて見せる
──あれから、冥の監視役の風紀委員は完全に委員会との連絡が途絶
まだそこまで調べの手は入っていないだろうが自宅も蛻の殻であり、
その家族も含めて…その消息が完全に不明となっていた──
■神代理央 >
「…これでも、一応は風紀委員なんだぞ。
家に住まわせているくらいで、そんな家政婦の様な事をさせはしないさ。
イヤなやつ、とやらに邪魔をする必要も無いし、躰を差し出す必要も無い。それに、何時までも風紀委員の…まして、男の家に居るのは良い事でも無いからな。
自宅に戻れ、とは無理には言わないが……同性の風紀委員の世話になるのも、冥にとっては良い経験になるやも知れないけど」
少女の熱、吐息、鼓動。
それらが全て伝わる様な距離感は、特段己も嫌いではなかった。
ただ、少女にはその距離感をもっと多くの人と感じて、仲良くなって欲しい…とも、思う。正直、彼女程の美少女と共に生活していて、万が一――が無いとは流石に言い切れない。
それ故に、つい。他の委員に世話になるのはどうか、と尋ねて、しまう。
「……そう。それこそ、立花は最近どうしているかな、なんて思ってな。元々冥を見ていた委員だろう?ぜひ、話を聞いてみたいと思ったんだが」
かちゃり、とフォークを一度テーブルにおいて。
淡々と、滔々と。少女の『元』監視役の名を、口にするのだろうか。
■比良坂 冥 >
「……私は理央がいいから、此処にいるの。他のヤツなんて、眼に入んない」
視線を戻し、じっ…と真っ直ぐに、昏い瞳が見つめる
「……私は理央が好き。カラダを差し出そうなんて思ってない。もっとたくさん、求めてほしいだけ」
「……だから、隔ててるモノがあるの、寂しいよ? 距離も、空気も、服だってそう」
言いながら、更に身体を擦り寄せるようにして密着してゆく
ヘビはするりと冥の腕をすり抜けて、自身の小さな…冥が用意したのだろう手縫いのベッドへと戻ってとぐろを巻いた
「……他の委員なんて、またすぐいなくなっちゃうだけだと思う」
それは、立花勇利に関する問いへの答えも兼ねているか
「……知らない。気がついたらいなくなっちゃった。どこに、いったんだろうね…?」
そう答える少女の瞳は、どこまでも昏い
■神代理央 >
どうやら、己は何か少女の事を勘違い。或いは、思い違いをしていたのではないだろうか。
此れ迄は、精神的に不安定な少女…程度の認識だった。
それ故に、落ち着いたら監視役の元へ返すか、別の風紀委員へ面倒を見て貰うかと考えていたのだ。
それまでの間は、面倒を見るのもやぶさかでない…とは思っていた。己を頼る少女に、庇護欲を覚えていない訳では無いのだし。
しかし、今の少女は。比良坂冥、は。
「……男の趣味が悪いな。私の様な悪い男を好いても、良い事はないぞ」
短く返す言葉。すぐそこにある少女の整った顔立ちと、昏い瞳を――静かに、見返しているだろうか。
それは、立花勇利に対する答えを聞いても、揺らぐことは無い。
寧ろ、少女の仕草と態度に――何となく。本当に何となくではあるが、そう答えるだろうと、察してしまっていた、のもある。
「……委員会にも顔を出していないし、心配だな。ご家族とも連絡が取れていないと言うし。
そうなると、新しい監視役を決めねばなるまいな。決まる迄の間は、一時的に本庁預かりになるやも知れないが…」
確かに、少女には監視役が必要だ。例え、その異能が封じられていたとしても。
早急に本庁に意見具申するべきだろうか、なんて考えながら、身を摺り寄せる少女の髪を、そっと撫でようとするのだろうか。
■比良坂 冥 >
「……? 趣味が悪い?どうして?
理央は私に優しいし、怖がったりしない。素敵な男の子」
髪を撫でられ、その頭を理央の…男性としては少々頼りなさげにも見える肩へと預ける
「……新しい監視役なんて、いらないよ。理央が私のコト、見ててくれればいいと思う」
そう零す少女は頬を赤らめ、期待するような視線を向ける
昏い瞳に、ほんの僅かな光を覗かせて
「……理央は応えてくれないの?
私はこんなに理央のことが好きなのに。
付き合ってる人だって、いないって言ってた。
だったら邪魔にならないようにするから、試しに付き合ってくれてもいいと思う…。
もっと近くで、もっとお互いの相性…心も、カラダも、知ってほしい……。
………離れるのは、ヤダな…」
喋りだしの遅い少女の、連なるような言葉
饒舌に、つらつらと、とはいかないが…胸の内を全て吐き出すような、そんな言葉
■神代理央 >
「…いや、まあ。冥の様に可愛い女の子を怖がったり、邪見に扱ったりはしないさ。それが素敵かどうかはさておき、な。
ただ私は、仕事…もとい、委員会活動や公務に重きをおくタイプだ。
その公務が冥と最初に会った時の様なものばかりだからな。趣味が良いとは、言い難いのではないかな」
基本的に己の仕事は"人殺し"であり、その為に精力的に活動している。今日の様に帰りが遅い事も続く。
その事実だけでも十分趣味が悪いんじゃないか、と、己の肩に頭を預ける少女に小さな苦笑いと共に囁いた。
「…私が?……それは…いや、無きにしも非ず…なのか…」
例え、立花勇利の失踪に少女が関わっていなかったとしても。
そういった事例が起きてしまえば、次の監視役を決めるのは難儀するだろう。
図らずも、新たな監視役として己はもしかして適任、と判断される可能性は、零では無い。或いは、その方が都合が良い、のかも知れないが。
少女の期待する様な眼差しに、つい肯定的な言葉を返してしまうのは――何だかんだ、未だこの少女に甘いところがあるということなのだろうか。
「…そう言う事では無い、のだが…。
私は、恋愛事に関しては相当に不器用な人間だ。
冥の感情に応えられるのかどうか、という点に、強く肯定出来る自信があるとは言い切れない。
もしかしたら、冥を傷付けてしまうかも知れない。
そう考えれば、おいそれと気軽に返事をするのはどうか…と、思っている…のだが」
少女の言葉に、嘘偽りは感じられなかった。
だから己も、素直に正直にその言葉に応えるのだろう。
『鉄火の支配者』として力を振るえど、"こういった事"には存外自信が無いのだと。ただ、それだけ。
それだけの言葉を返す為に少女に向ける表情と声色は、ほんの少しだけ力無いもの、だったのかもしれない。
「……だからといって、別に冥を離そうとは言わないさ。
まあ、その、なんだ。私も健全な男子であるから…少しばかり距離感、というものを考慮して欲しいとは思うが…」
そんな空気を振り払うかのように。
少しだけ冗談を交えた様な声色で、小さく微笑んでみせた。
■比良坂 冥 >
可愛い、と言われれば頬に差す朱は色を深める
気恥ずかしそうにもじもじとする様子なども、それだけを見るなら年頃の女の子、と言える
が──
「……ううん。すごく素敵。
だって他の男の子はみんな私を邪険に扱ったり、怖がったりして逃げていくもの。
仕事だって、どっちが重くたって大丈夫。今日みたいに、私は待てるんだから」
苦笑する理央に、趣味が悪いという言葉を真っ向から否定で返す少女
その表情はどこか、陶酔したようなとろみを帯びている
「……理央が私の監視役になってくれたら…一緒にいれるし、丁度良いと思うな…。……ん」
言葉の途中で、何かに気づいたように傾けていた姿勢を戻して、少年と向き直る
「……」
「……誰も、自信なんてないと思う、よ…?
私は、過程で傷つけられたって全然構わない……。
ただ、怖がられて、逃げちゃって、いなくなって……」
「……私のことを忘れちゃったり、いらなくなったり、関心がなくなっちゃうことのほうが…怖い、な…。
その距離だって…丁度いいのがわからない、でしょ…?」
言いながら、床に手をついて、顔を近づける
止めなければ、その鼻先が触れる程にまで──
「……不器用なら、それこそ試してみないと…何もわからない、んじゃ…ないかな……」
■神代理央 >
容姿を褒められて、照れた様に身を捩る少女。
本当に、それだけなら十分に年頃の、そして普通の女の子、だ。
風紀委員会の監視対象であったり、抑制の首輪を用いられる程の強力な、そして危険な異能の持ち主であるとは、とても思えない程に。
「…それは案外、唯照れているだけかも知れないぞ?
冥は可愛いからな。年頃の男子というのは、得てして可愛らしい女子に弱いものだ」
まあ、本当にそうであるのか。彼女の言う通り、本当に怖がっているのかはさておき。
己が少女に対してきちんと接する事が出来るのは、庇護欲を感じさせる様な危うさを放っておけないこと。そして、己自身に対して強靭な矜持を持っているからに過ぎない。
それは、単純に己の強さと立場に比類するものでしかないので、恋愛だのなんだのという面についてはからきしではあるのだが。
「……今度、委員会にも掛け合ってみよう。私も、その方が色々と利便性があると思うしな」
此れは、少女の為でもあり、公務を兼ねたものでもある。
他に監査役に立候補する者がいなければ、己がやった方が効率が良いだろうという風紀委員としての判断も含めてのもの。
とはいえ、蕩ける様な表情を浮かべる少女に押し負けてしまった――というのも、否定は出来ないが。
「……冥が構わなくとも、私が構うさ。好き好んで、人を傷付けようと思う訳では無いのだからな。
………だけど、冥の恐怖が。傷付く事が。私から離れるという事であるのなら。そういう事はしない、と約束しよう。
出来れば、私以外にも交流を深めて、もっと友達を作って欲しいなとは、思う所だけど」
少女が此方に向き直れば、その瞳を真直ぐ見返して言葉を紡ぐ。
少女から離れる様な事はしない、と。見捨てることはしないと。
どちらにせよ、少女を一度保護したのは己の選択なのだ。
それを放り投げる事は、したくなかったし――
「……だから、まあ。試す、というのもこの際構わないさ。
だけど…あまり無防備が過ぎるのも、どうかと思うけどな、冥?」
顔を近づける少女を、止めることはしない。
其の侭、軽く鼻先を振れさせれば、その耳朶を擽る様に手を伸ばすだろうか。
己の吐息は、帰宅前に吸った煙草の所為で、タールと甘ったるい紫煙の混じったものであったかもしれない。
■比良坂 冥 >
「……ううん。みんな怖がって、嫌がってた。気持ち悪いって言われたこともあるもの」
ホラ、と少女はその細い手首を見せる
そこに無数に刻まれた傷跡は、少女が何度も何度も裏切られ、逃げられ、果てには自分自身をこの世から消そうとした刻印
「……理央は優しいから。私の言葉だってちゃんと聞いてくれる。
傷つけようとして傷つけるのは悪い人だけ…傷ついたって、拒絶されなきゃ…仲直りできるもの。
………他のともだち?…うーん……」
「……それは、理央ともっと、仲良くなってからでいいかな……──」
漂う香りに、更に昏い瞳をとろんと蕩けさせ…
「……むぼーびなのは、相手が理央だから」
耳朶に触れられ、僅かにこそばゆそうに目を細め、そのまま…飛びつくようにして唇を奪おうとするだろう
■神代理央 >
少女の手首に刻まれた、無数の傷痕。
じっとその傷を見つめた後、再び少女に視線を戻す。
「……してしまったことを、今更どうこういうつもりもない。
冥が悪い、とも言わない。けど、私が傍に居る間は、こういう事はするな。
自分を傷付けるくらいなら、その刃は私に向ければいい。
……自分の躰を。自分を大事にしろ、ばかもの」
そっと、その傷を撫でる。
そして、自分と共に居る間は、こんなことをするな、と。
幾分強い口調で、少女に告げるのだろうか。
「……そうだな。仲直りすればいい。それは、どんな人付き合いでも………冥…?」
うんうん、と少女の言葉に頷いていたのだが…己ともっと仲良く、と告げた少女の瞳と言葉に、一瞬不思議そうに瞳を瞬かせて。
――其の侭、少女に唇を奪われる。
飛びついてきた少女と共に床に倒れ込まなかっただけ、偉かったと自分を褒めてやりたい。
少女の熱と体温に唆される様に――その唇を、軽く甘噛みして、口づけに応えようか。
■比良坂 冥 >
柔らかなもの同士が押し合う心地よい感触
互いの熱と、吐息を交換するように、その口吻は二人にとって初めての接触とは思えない程に深く
心を許した相手に甘えるように、少女…冥は何度も何度も、それを求める
そんな少女に少年がどれくらい応じてくれたのかは、兎も角──
互いの唇が銀の糸を引いて離れた時には、冥の昏い瞳は潤むような光が揺れていた
「……約束、する。
理央が側にいてくれるなら…こういうコトは絶対にしない、から…」
そう言って、微笑んだ
ばかもの、と叱ってもらえたことが嬉しい
身体を大事にしろと心配してくれたことが嬉しい
強い口調で窘めてくれたことが嬉しい
「……だから、私から逃げたりしないでね……?」
そう言って、再び、甘えるように…
その華奢な胸元に頭をうずくめるようにして、背へと両手をまわして抱きしめるのだった
■神代理央 >
暫くの間、室内に響いていたのは互いの唇が触れ合う音ばかり。
無駄に広々としたリビングには、時折零れ落ちる御互いの吐息と、絡み取られる様な口付の音が妙に大きく響いた。
甘える様に己を求める少女を唯受け入れて。何度も何度も、その唇は触れ合い、僅かな水音すら響くのだろう。
そうして、二人の唇がゆっくりと離れて。互いの唇を結ぶ銀色の糸が自然に切れるまで、その余韻に浸るかの様な、暫しの無言の後。
「……ん。なら、良い。冥が自分を傷付けるところを、私も見たくはない、からな。約束…だからな」
己は何処迄、少女の想いに応えられるのか分からない。
けれど少なくとも、共に居る間、少女は自らの躰を傷付けないと約束してくれた。
これからどうなるかは分からないが…今は、それで良し、としよう。
「…私を誰だと思っている?そうそう簡単に逃げ出す様なら、冥と一緒に住んでいないさ。
大丈夫。大丈夫だよ。決して、逃げ出したりなんかしないさ」
己の胸元に頭を埋める少女をそっと抱き締め返して、幼子をあやす様に、穏やかな声色でその言葉に応えるのだろう。
そうして、ひと時の間互いの体温を交えた後。
少女が用意した食事を綺麗に平らげて。
「……後片付けは、明日私がしておこう。だから、今日はもう休もう。夜更かしは、風邪の原因だからな?」
流石に、少女と別の部屋で…とは、今夜は言わなかった。
先ず鍛えるべきは己の自制心かな、なんてちょっとだけ悩まし気な表情を浮かべながらも。
今夜はきっと穏やかに。一人では大きすぎるが、二人では少し手狭なベッドで、共に眠りに落ちるのだろうか。
ご案内:「神代理央 自宅」から比良坂 冥さんが去りました。
ご案内:「神代理央 自宅」から神代理央さんが去りました。