2021/11/30 のログ
ご案内:「空き家」に藤崎 藤香さんが現れました。
藤崎 藤香 > 人が住まなくなった建物は傷むのが早い。
扉を開けて先ずそんな言葉を思い出した。

「う"っわ今回のは殊更に……なんつーの?荒んでる感じだな。いやあ如何にも空き家でございって感じでこれは結構ポイント高いんじゃないか?」

舞う埃になんだか解らんが饐えた匂い。背より差し込む陽光を受けて扉の先は暗がりを色濃くする。
そうした様子や匂いに、どこかで猫か鼠でも死んでるんじゃなかろうか?と自然と眉も訝し気な形になったりする。

「これは中々打点も高そうなんじゃないか?ってことで、はい、今日も常世学園オカルト研究会行ってみるぜー」

手にしたビデオカメラに話しかけるように独りごちて建物の内側へ。
何故そんな事を?と問われたら、それはあたしがオカルト研究会に所属しているからである。
こうして曰く有り気なスポットに赴いてなんやかんやすると、何故かそれが活動記録として単位に計上されるのだ。
そしてその評価基準は動画投稿サイトにおける閲覧数であるとか、高評価であるとか、チャンネル登録数の伸びなのであった。
とは言え強制じゃないし、なんというか自由だ。一日ウィジャボードとお話してても多分叱られは発生しない。

藤崎 藤香 > 今回のお宅は数年前まで魔術師が住んでいたとの触れ込みの家。
魔術師──大変容以前だったら奇人変人の類に違いなかっただろう肩書は今現在では一般的だ。
この世には魔法は存在するし異世界人は存在するし幽霊もいるし悪魔とか妖怪もいる。
じゃあオカルトもへったくれも無いんじゃね?となりそうなものだが、所がぎっちょん何とやら。
意外とこうした探索動画はウケが良かったりする。
ちなみに住んでいた魔術師とやらは或る日突然と大声を上げて家から飛び出してしまったきりだとか。

「一体な~にがあったんだろな、と……生放送とかならコメントでな、募集したりもできるんだろうけど今回違うからな~」

元の家主に何があったのかは魔法に縁が無いので解る筈も無し。動画用のコメントを残して玄関を経て廊下を進む。
で、肝心の室内の様子は、なんというか今のところ普通の家だ。いわゆる魔術師っぽい感じゼロ。
埃やらよくわからない塵やら凄いが、立地を考えると結構立派で中流以上を思わせる室内調度もそのままになっている。
現在の管理は何処の誰がしているのかはサッパリ解らんが、少なくとも家の鍵は会長が用意してくれたものだ。

「……」

ポケットから鈍色の鍵を取り出してみる。
なんで会長が持ってんだよ。とか思うが気にしてはいけない。
確か会長の異能って物品の複製だったな?とか思うが気にしてはいけない。
そういうことになった。鍵をポケットにしまう。
もし会長が風紀委員に怒られたら一応弁護はしてやろう。
そんなことを思いリビングへの扉を開けた。

藤崎 藤香 > 「おっと元の家主は結構ズボラか~?食事を終えたまま片付けてないぜ」

リビング。そしてダイニングキッチン。
壁にはオシャレ~な絵とか掛かっているし、かつては観葉植物が茂っていただろう鉢植えなんかもある。
テーブルの上には皿やらフォークが散乱している。
流石に食べ物の痕跡は無い。皿の汚れに見えるくらいだし、もし食べ物が残っていたならもっと凄い匂いがしているに違いない。

「家主が慌てて家を飛び出してっつーのも本当かもな……そうなると冷蔵庫の中とかひでえことになってそうだけど」

饐えた匂いは未だ続く。多分きっと、冷蔵庫の中なんじゃあねえかなあ。なんて視線をキッチン奥にやり、それとなく壁の電灯スイッチを押す。
勿論つく筈も無い。

「いやあこれで冷蔵庫を開けたら人間のバラバラ腐乱死体がーなんてあったらめっちゃホラーだけど」
「流石にそんなもん見つけちゃったらこの動画公開できなくなっちまうなー」

笑い声交じりに冗談めかした発言をしキッチン側へ向かう。
なに、幾らなんでもそんな本気(マジと読む)でヤバいのはこの島の風紀委員がほっとく訳も無いし見過ごす訳も無いだろう。
曰く付きの物件が放っておいたら不味いものだったら、それは放っておかれないに決まっている。
大変容以前の不可思議事件であったなら対処法が解らんからどうしようもなかった。
なんてのは往年のホラームービーあるあるだが、この島は生憎とその辺は最先端。
だからまあ多分平気平気。へっちゃら。口笛だって諳んじていざ冷蔵庫の前だ。

「特に前に立っても匂うとかは無いな……にしてもいい冷蔵庫だな~これ買ったら幾らするんだろ」

いざ、オープンセサミ!

藤崎 藤香 > 冷蔵庫の中には何も無かった。
生活感ゼロである。流石に家主が失踪後に誰かが整理したんだろう。

「──はい、と言う訳で何も無し。いやーやっぱり冷蔵庫に死体とかレトロ過ぎるよな」

つまるところ安全が保障されているようなもの。なんだがそれでも薄暗い室内は怖いっちゃ怖い。
家主の魔術師はなんで突然家を出て行ったんだ?なんてのも解らんので怖いっちゃ怖い。
未解明である。ということは神秘的だし好奇心を刺激するし、そして怖い。
でもロマンがあるな。とあたしなどは思うのである。

「リビングは特に他に見るべきものは無さそうなんで次はバスルーム辺りかね」
「バスルームといやあたしんちの風呂すっげえ狭くてさ、マジ困るっつーかなんつーか──」

与太話をビデオカメラに吹き込みながらにリビングを出た直後に言葉が止まる。
階下、地下から物音がしたからだ。いや、物音じゃねえ、ありゃあ何かの声だ。

「──あー、なんか、聴こえたなあ。地下……そういや地下ってのも色々お約束だよな」

一応。
一応確認だけするか?と思い予定を変更して地下への階段を探す。
電気も通っちゃいねえから昼でも薄暗い室内だが、それでもビデオカメラのお陰で視界に不便は無い。
だから見落とす筈なんかないんだが、何故か地下への階段は何処にもありはしなかった。
結果。

「えー見つからないし尺の関係で一旦動画切るわ、うん。今のところ面白いとか役立った……いや役立つんかなこれ」
「まあいっか。ともかくいい感じだったらチャンネル登録と高評価宜しくな!」

動画用の発言を残しビデオカメラの録画を切る。
よし、何も見なかったことにして帰るか!

後日この家の前を通ったらキープアウトのテープ線があったり、
中に人が入らないように風紀委員の腕章をつけた奴がいたりしたが……まあ、そういうこともあるだろう。
ちなみに動画は録画していた筈なのに全部砂嵐になっていたのだった。

ご案内:「空き家」から藤崎 藤香さんが去りました。
ご案内:「Free2」に藤崎 藤香さんが現れました。
ご案内:「Free2」から藤崎 藤香さんが去りました。