2022/03/27 のログ
ご案内:「深夜の学生街」に笹貫流石さんが現れました。
ご案内:「深夜の学生街」に神樹椎苗さんが現れました。
笹貫流石 > ――深夜の学生街。休日の夜とはいえ、家でゴロゴロしたりする事は出来ない。
何せ『仕事』が面倒だ――12…いや、今は11人か。自分と『同類』の連中の動向を監視しなければいけない。
無論、彼ら彼女ら以外にも――リスト外の危険人物・要注意人物は何人も居て。
そういう連中にも気を配りながら、となると自然と肉体も精神もストレスというものが溜まる。

「――ほーんと、のんびり学生らしい生活をさせて貰いたいもんだけどねぇ。」

両耳にイヤホンを付けたまま、音量は控えめに適当な音楽を聴きながら路地裏を歩く。
好き好んでこんな陰気な道を歩いている訳ではなく、単純に寮への最短経路となるとこういう道を通る必要がある。

深夜もそれとなく学生街は賑わう所も少なくないが、今、この少年が通る路地裏を含めてこの周囲は静かだ。
シン…と、静まり返った路地裏に、少年の靴音だけが静かに木霊していて――

神樹椎苗 >  
 ――静まり返った路地で、一瞬月明かりが遮られる。

 直後、あまりにも軽い音と共に地面に突き立ったのは、血のように紅い長剣と、それに貫かれ、貼り付けられた女。
 少年の頭上から降ってきたそれらは、あまりに前触れもなく。
 女は少年の方へ、驚愕と恐怖に彩られた顔を向け――そのままあっけなく、絶命し。

「――む、足元不注意でしたね。
 怪我はねーですか?」

 とん、とやけに軽い音で降りて来た小柄な少女――椎苗は少年に視線を向ける。
 椎苗が現れるとほぼ同時に、命を奪われた女は、黒い霧となって消散していく。
 椎苗は黒い霧を周囲に漂わせながら、赤い長剣の柄に手を伸ばし、軽々と地面から引き抜いた。
 

笹貫流石 > 「――――は?」

イヤホンで音楽を聴いていたから、だとか疲れで注意力散漫だった、だとか。
『その光景』に気づくのがワンテンポ遅れたのも、理解に数瞬の間を要したのは致し方なく。
瞬間的に遮られた月光、そして目の前の地面に突き立ったのは――鮮血の如く赤い長剣。
…だけではない。問題は、武器よりもそれが貫いている女性の顔と表情。
驚愕、恐怖――あとは…そう、”死なない筈の自分が死ぬ”という絶望か。
…呆気なく、目の前で事切れた串刺しの女を呆然と、それでも糸目のまま眺めていたけれど。

「――へ?…いや、えーと、その……うん、まぁ怪我はねーんすけど…。」

別に『死体』を見る事は慣れているし、こういう突拍子もない出来事も初めてではない。
…が、それよりも。軽やか降り立ったゴスロリ衣装の少女と…同時、黒い霧のように霧散する女の死体。

(――あ、コレは”ヤバい”。…多分、本来は俺が接触しちゃマズい現場だわ。)

本能的にそう悟るが、だからといって何時もの『軽い』態度で誤魔化して立ち去る事も出来ない。
少女の纏う黒い霧と――軽々と引き抜かれる赤い長剣。
思わず、半開きながら瞳を開く事で限定的かつ局所的ながら能力を発動し――

「―――…!?!?」

一瞬、混乱したのは今まで『そういう存在』と遭遇した事が無かったからだろうか。
完全に発動していないとはいえ、少年の半端な視界の先――剣を携える少女が纏うソレ。

(――うっそだろ…!?『死の気配』そのものみてーだ…何だこれ…!?)

『彼女』の存在は知っているが、直接対峙するのはこれが初なのもあって、まだ記憶の情報と少女が結びついていない。
だからこそ、戦慄すると同時に疑念も。…何だこの娘さんは。『死神』か何かか?

神樹椎苗 >  
「そうですか、怪我がないなら何よりです。
 ああ、目撃者をどうするとか、そんな物騒な事は趣味じゃねーので、気にしねーでいいですよ」

 少年が何に驚いていようと、マイペースに長剣を手に取ると、一度手元でくるりと回せば、手品のように剣もまた霧となって消えてしまう。
 少年の感覚は正しく、本来ならば間違いなく、『最も接触してはいけない』対象の一人だろう。

「――む、お前、『視えて』ますね」

 普通のヒトにはただの霧や剣としてしか映らないものだが――その性質は、純然な死の概念。
 想起した単語の通り、正しく『死神』の力の一端だ。

「――ああ、なにかと思えば、『エセ社畜』じゃねーですか。
 やめといた方がいいですよ。
 お前の目じゃ、見えすぎちまいますから」

 ふわ、と小さい欠伸を左手で隠しながら。
 まるで、なんでもない世間話のような調子で語り掛けた。
 

笹貫流石 > 「…いやー、そちらさんがその気なら、もう俺はとっくに真っ二つになってそーだし、その心配はしてねーすけど…。」

手品のように、彼女の手元で回された剣が忽然と霧のように消えてしまう。
それよりも――良かった、完全に目を開いて能力をきちんと発動していたら、更に深い所まで見えてしまっただろう。
中途半端に、半開きの目線で能力の発動を抑え気味にしているから、まだこの程度で済んでいる。

「――え?あ~…やっぱ分かるんすねぇ、そういうの。
…まぁ、しょーじき俺が今まで『見てきた』中でも、相当にやばーい感じのが。」

ゴクリ、と唾を飲み込んで緊張を紛らわせようと意図的に軽口で答えるが。
純粋な死の概念など――生身の人間が見えて良い事など何一つ無い。
それでも、見えてしまうのが少年の異能の『基本』であり厄介な所だ。

「――って、エセ社蓄!?何そのよく分からん渾名!?…いや、待てよ?…んーー…。」

思わず突っ込みを入れつつも、ふとそこで記憶の引っ掛かりを覚えたのか…半開きは維持しつつも少女を眺めて。
欠伸を暢気に噛み殺す少女を尻目に、こう、記憶にある情報を辿り――あ、と気付いた。

「……あーー…成程、顔と名前と情報は聞いてたけど…アンタが例の『死神』さんか…。
…と、なると――今、トドメさしたおねーさんは『不死者』か何かかな?」

【特級監視対象】に匹敵しかねない■■対象――そして、自分が出会ってはいけない対象トップ3に入る人物。

(いや、これ偶然だからお互い悪くねーよなって…。不可抗力だしな?うん)

と、彼女のマイペースぶりに対して、こちらは内心で混乱気味。まさか接触禁止対象の筆頭と出会うとは。

半開きのままの瞳が、今も目の前の少女から漂う色濃い死の――黒い死神の気配を確実に捉えていて。
…ハッ!?と、我に返れば瞳を閉じてまた何時もの糸目へと戻りつつの。

神樹椎苗 >  
「ええ、多分その例の『死神』でしょうね」

 この島でも、正しく『死神』と比喩される存在は、そう多くはない。
 特に椎苗の特徴と被るような『死神』は他に居ない事だろう。

「そうです不死者――それも、他人の命を喰うタイプのヤツです。
 公安から落ちて来た情報に有りましたからね。
 被害を出す前にちゃちゃっと」

 まるで片手間にこなしたかのような軽い調子。
 たった今、一つの存在を殺したというのに、わずかな負い目も感じさせない。

「しかし、お前もツイてねーですね。
 よりによって、しいと遭遇するなんて。
 今頃、監視役がたこ踊りしてるんじゃねーですか?」

 口元に手を当てたまま、どことなく眠そうな覇気のない様子で。
 黒い霧は徐々に消えていくが――少年にはそれらが少女の背後で大きな人型に集まっていくのが目で追えるかもしれない。
 

笹貫流石 > 「あー…やっぱり…。実際に遭遇するとは思わなかったなぁ…いや、本来接触しちゃマズいんだろーけど…。」

状況はもう飲み込めたが、だからこそ乾いた笑みを浮かべるしかなくて。
こちらの気の緩みもあったかもしれないが、まさか接触しちゃいけない筆頭存在とバッタリ遭遇とは。
あちこち怪我だらけの小柄な少女。名前は――神樹椎苗。
下手すれば、リスト入りしてもおかしくない――少なくとも、第一級か特級クラスの人物だ。

「――ああ、公安からの…と、なると…うわぁ。」

これは、公安の一部と風紀の一部で今回の不幸な接触については揉めそうだ。
お互い落ち度は別に無いのだが、このようになってしまったからには多少なり責任問題が生じる。

マイペースで気負いの無い、軽い調子の『死神』さんとは対照的に、少年は何とも悩ましい表情で。
彼女が、一つの存在を殺した事には――思う事が無い訳ではないが、抗議は述べない。
――この少年だって、そもそも下手をすれば殺される側でしかないのだから。

「うん、それ言われるとマジでこの後が頭が痛くなるから勘弁して欲しいよ本当。
…まぁ、そちらさんと遭遇したのは偶然だし、お互いに落ち度は無いと思いたいけど。」

本来、こうして面と向かって会話するのもアウトだが…まぁ、これも良い機会だろう。
ふと、彼女以外からの視線を感じたのか再び半開きに瞳を開けば。
――口元に手を当てて眠たげな彼女の背後、黒いモノが人型の形を取っており。

――『死神』と『死線』が交錯する。ドクン、と。鼓動が鳴り視線を『閉じれない』。

「――いやいやいやいや…マジですか。」

目を閉じれない、なんていうのは初めてだ。まだ見開いていないだけマシではあるけど。
そのせいで、彼女の背後の黒い人型をした”何か”と睨めっこするような構図になっていて。

神樹椎苗 >  
「でしょうね――まあもう今更ですが」

 一度出会ってしまえば後は同じ――とまではいかないものの。
 こうして遭遇してしまったのは、どうすることも出きまい。
 こうなってしまえば精々、トラブルが起きないようにするしかないのだが。

「――ふむ、引っ張られてますね。
 こちらはなにもしちゃあいませんが」

 恐らく同じ属性を持つ同士、より性質の『濃い』方が影響を与えてしまうんだろう。
 
「目、塞いでやりましょーか?」

 一歩、とりあえず近づいて様子を見てみる。
 

笹貫流石 > 「…始末書とか反省文書かされるの面倒だなぁ…。」

まぁ、自分は兎も角、この『死神』さんにペナルティーが科せられない事を祈ろう。
”自分より他者を重んじる”気質のせいか、自然と本来接触禁止の相手であるがそう考えてしまう。

「――え?そういう事?『見える』だけでもやっぱ違うんかな…と、いうか――」

段々、視界の端から『黒く染まって』来ている様な錯覚。
よく言えば『共鳴』や『同調』、悪く言えば『汚染』や『侵食』だろうか?
同系統のモノであるならば、より『濃い』性質の方が影響を強く与えるのは道理だ。
そもそも、少年は『こんな力』を持っているだけで、体は正真正銘の生身の人間である。

「…そりゃ、有り難いんすけどね…何か、視界の端が黒く染まって来てるし…。
これ、多分、純粋な『死の概念』すよね?認識出来てるから、まだ『同じ』に見られてこの程度で済んでるんだろうけど。」

『人間』だが『死神』すらきちんと認識出来る、というのは流石に稀有であろうか。
だからこそ、『あちら』――勿論、少女ではないー―が、こちらに興味を示したようにも思える。

神樹椎苗 >  
 少年に頷きつつ、背伸びをして左手で目隠し。
 状況としては、蛇に睨まれてしまっているようなもの。
 一度視線を切ってしまえば、後は自由が利くだろう。
 本人が『惹かれ』無ければだが。

「『視える』ってのが本来ありえねー事ですから、難儀して当然ですね。
 どこまで見えてるかは知らねーですけど」

 伸ばした左手で、少年の瞼を落とすようにしつつ。
 こういう時、自力では思ったように動けないものなのだ。

「今しいといるのは、死の概念、かつてそれを司っていたモノですよ。
 零落したとはいえ、かつては正真正銘の死神でした」

 隠す事でもない――というより、少年はすでに目を通しているはずの情報だ。
 別の世界で、正しく『死』そのものを司っていた神格。
 力を失っていても、人の身で認識しようとしたら、なんらかの不具合が起こっても仕方がない事だろう。
 

笹貫流石 > 接触禁止の令を出されている少女だが、こうやって体の一部が触れる程度は特に問題も無さそうだ。
実際、背伸びした少女が左手で目隠しをしてくれれば、特に何の問題も無く視界を閉じる事が出来た。
ただ、完全に逃れたとは言えないのか――幻覚のように、僅かに黒い霧が視界の端にちらついているような感覚。

「…あー、完全に”目は開いてない”んで、こう、発狂したりとかは大丈夫っすね。
まぁ、死神の姉さんの後ろに黒い人型の霧が見えたのと、多分『目が合った』かな、と。」

瞼を彼女の手で落として貰えば、能力はオフの状態になり何時もの調子に戻る。
死の概念――零落した死神の成れの果て。それを能力を通してとはいえ『見える』存在。
死神や死の概念と、本来全く関係の無い人間がここまで認識出来るのは最早異常だろう。

(…半信半疑だったけど、やっぱ俺の力は『神格』も認識出来るのか…うーむ)

『死』に関わるものに限定されるとはいえ、それに特化している故に見えてはいけないものまで見えてしまう。
――そもそも、ついさっき『あちら』ととこちらで相互認識が発生したのならば…。
知らず知らず、こちらがもう影響を受けていても不思議では無いと思える。

「…と、なると…今は平気だけど俺は『引っ張られる』可能性あるなぁ。
うーん、死神の姉さんとはこうして喋れるけど、概念や零落した存在とは意思疎通出来ないし…。」

「あ、瞼閉じてくれてどうもっす」と、きちんと礼は述べつつの。
そう、認識は出来ても高度な意思疎通や過度の干渉は出来ない。それが能力の制約だ。

神樹椎苗 >  
「そいつは運がよかった、って所ですね。
 もう少しよく見えてたら、数段くらい飛ばして異能が増幅されてたかもしれません。
 まあ、そんなもんに人間が耐えられるかどうかはしりませんが」

 恐らく、脳や精神が正常を保てないだろう。
 ただ『見える』のと違って、本質を認識できてしまうのだから、その影響がどこまで出るか、わかったものじゃない。

「引っ張られるだけならいいですけどね。
 ああ――本当に『視える』だけなんですね」

 なるほど、と言いながら、背伸びしてじっと、ほぼ閉じられている目を覗いてみる。
 身長差51cm。
 背伸びしても物理的に遠かった。
 哀しいね。

「――礼を言われる事じゃねーですよ、言うなればこっちの不始末ですし。
 今、とても申し訳なさそうにしてますから、許してやってください」

 今の自分を認識できる相手に興味を持ってしまったのだ。
 かつて『神』と呼ばれた存在は、椎苗の後ろで居心地悪そうにしていた。
 

笹貫流石 > 「…そりゃあ、やばいっすね…俺の異能は、視覚と脳味噌がセットなんで負担が。
つーか、俺、精神や肉体は普通に人間なんで多分、あっさりと精神崩壊するんじゃないかなって。」

能力が能力なので、常人に比べたらそれなりの『死』への耐性はあるだろう。
が、耐性があるだけで無効化したり影響をゼロにする事は出来ない。
いわば、少年の能力は『認識』に特化した受動的なものであり、異能で『死』の概念に働きかける能動的なものではない。
――少なくとも、1stStage…『死線』の段階ではあくまで認識するのが限界だ。
そして、認識する当人を防護するような防御機構はこの死線の能力には無い。

なんだか物理的なあれこれを感じたので、こちらからも少し屈んである程度は『死神』さんと目線を合わせるように。
今は何時もの糸目に戻ってしまったが、覗き込めば薄っすらと『虹色』の瞳の色彩が見えるだろう。
その色だけを見れば、明らかに人外というか魔眼や浄眼といった類のものに近い。

「いやいや、むしろ謝るのは俺の方っすよ。死神さんにちゃんと挨拶出来ないのは申し訳ないっす。
いや、まぁ挨拶してどうすんだって話なんだけど…。こっちは『見えるだけ』っすからねぇ。」

おそらく、申し訳無さそうに佇んでいるであろう、少女の背後の零落した存在に軽く苦笑いで頭を下げて。
滑稽かもしれないが、能力が能力なので少年的に『死』に関連する存在への敬意はあるらしい。

「あと、いちおー、俺には笹貫流石っつー名前があるんで『エセ社畜』は勘弁してほしいかなーって。」

と、苦笑いで申してみるが――確か、情報だと彼女は特に悪意はゼロでも毒舌気味とか書かれていたような。

神樹椎苗 >  
「ふむ、なかなか感心な態度ですね。
 つーか二人でペコペコしあってんじゃねーですよ」

 椎苗が振り返りざまに虚空を蹴る。
 恐らくその辺りにいるんだろう。

「知ってますよ、『エセ社畜』
 こんな時間まで働いてんですから、世の中的には立派な社畜ですね。
 おめでとうごぜーます、社会の歯車ですよ。
 文明社会を回す一員ですよ」

 勘弁するもなにも、悪意はないのである。
 いや、今の発言にはさすがに意地悪さが出ているが。

「それにしても、難儀な仕事をさせられてますね。
 自分よりずっとやべーやつらの尻を追っかけるなんて。
 ちゃんと正当な報酬は出てんですか?
 安く使われてるなら、きっちり委員会に報告した方がいいですよ」

 労働者は守られねばならないのだ。
 大事な歯車なのだから、メンテナンスは欠かしてはいけないのである。
 

笹貫流石 > 「そりゃー、ガキの頃から『死』の概念とかが見えてましたからねー、俺なりに畏敬の念?みたいなのはあるっすよ。」

と、答えつつも死神の姉さんが何やら虚空を蹴って。
今は能力も発動していないから感じ取れないが、多分”そこ”に居るのだろう。

「うわーーありがたくないお褒めの言葉どーも!
まぁ、監視対象なんてそういうもんすよ、どいつもこいつも。」

とは言うが、現状『同類』の監視をやらされているのはこの少年だけである。
ある意味で荷が重いというか貧乏くじであり、そもそも物理的に人が足りない。
その辺り、何度か抗議もしているが結局「お前がやれ」というブラックな返答のみ。

「いちおー、『バイト』の給料はそこらの学生よりは貰ってんじゃーないすかね。相場は知らんけど。
あと、俺も労働環境改善は訴えてますけど、こっちも『監視対象』すからね。
どこでまた面倒な『制約』されるか分かったもんじゃねーんで。」

正当な抗議はきちんとするが、あまりやり過ぎると自分の首を絞める結果になりそうで。
そういう意味では、まぁ扱き使われている歯車でも間違いはないのだろう。

――見方を変えれば。それだけ『危険』な要素を持っているという事でもある。
飼い殺しにして、その本領を発揮できない、自由意志をなるべく持たせない。
そう仕向けられた立ち位置なのは、さすがに本人が一番理解している。

「ともあれ、まぁ死神の姉さんに遭遇した事は黙っておくっすよ。どーせバレバレなんすけどね。
あと、そっちも俺と遭遇した事をもしとやかく言われたら俺に丸投げしていいっすよ。」

と、苦笑いで肩を竦めて。『損をするなら自分がすればいい』。それで無難に収まるなら。

神樹椎苗 >  
「なるほど、こうして社畜は産まれんですね。
 よく覚えておきましょう」

 とても不憫そうに同情に溢れる視線を送ってあげよう。
 餌に釣られて、滑車を回し続けるハムスターを見るような視線だ。

「別にしいの方はなんともなりませんよ。
 まあ――しいをその『監視対象』にするだのどうだの、って話も持ち上がってきてますが。
 『監視対象』になると、今度はしいの『人権』を認める事になっちまいますからね。
 その辺で随分と揉めてるみてーですが」

 個人的にはどちらでも構わない所である。
 『人権』はあっても困らないが、今となってはもう今更な話だった。

「道具を道具のままにしておきたい連中と、しいを人間扱いしたい連中の小競り合いですね。
 しいとしては、『監視対象』にされると、今日みたいに『使徒』の役目が自由に出来なくなるんで困りどころですが。
 『人権』もまあ、あって困るもんでもねーですしね」

 どちらでも構わないが、面倒だからさっさと決めてほしいとは思っている。
 もちろん、この時点で椎苗の意思は関係ないのだった。
 権利がないとはこういう事である。
 

笹貫流石 > 「これでも俺はまだ『マシ』っすよ。他の監視対象の連中より行動制限とかは緩いし。
まー、もう遭遇しちゃったけど、死神の姉さんとか、接触禁止なのが何人か居たりはするっすけど。
どのみち、『自由』だとか『平等』とか、そういうありがたーい単語は俺には無縁すね。」

とても不憫そうな同情ありありの眼差しも、肩を竦めるようにして苦笑気味に流し。
餌なんていうものは『最初から無い』。ただ、使い道のある駒として盤面をあくせく動かされるだけだ。

「あーー、死神の姉さんはなんつーか、微妙な立場みたいっすねー、俺も正直詳しくは聞いて無いすけど。
まー、人権云々なんて、俺ら監視対象も正直あるのがどうか。表向きはそりゃあるんでしょーけど。」

肩を竦める。所詮、そこは風紀や公安の上層部…一部の裁定次第でどうとでもなってしまう。
結局、役割や方向性が違うだけで、自分も彼女も駒みたいなものだろうに。

「…と、いうか死神の姉さんが監視対象になったら、俺の仕事が増えるんだよなぁ…。
あーまぁ、そうなったら接触禁止は解除されて代わりに姉さんの手伝いとかバックアップさせられそう。」

死に関する能力持ちというのは稀少だ。特に普通の人間がそういう能力を持つ割合は少ない。
少年のように、『基本的には』認識できるだけでもかなり稀少で得難い力ではある。

(まぁ、俺にとっちゃ重荷でしかない能力なんだけどな…ハァ。)

と、小さく吐息を零してから気を取り直すように。あまり立ち話してもお互い都合が悪いだろう。

「じゃ、俺はそろそろ帰るよ死神の姉さん。『エセ社蓄』呼びはそのうち止めてくれよー。」

と、『軽い』態度で笑いつつ、彼女と零落した”ソレ”に軽く頭を下げたりしつつ歩き出そう。

(そのうち、また話してみてーもんだけど、厳しいんだろうなぁ。)

とはいえ、こういう力を持っている以上、彼女と遭遇する可能性はあるだろう。
――何故なら、『死の概念』を認識できるものは、それに引き寄せられるのだから。

神樹椎苗 >  
「接触禁止、って言われると余計な事したくもなりますが。
 そのうち過剰に接触してみたら、お目付け役が顔色蒼くするんですかね」

 などと、可愛げのない悪だくみをしつつ。
 この可哀そうな社畜少年でどうやったら遊べるか、悩みどころだった。

「立場に関しては何とも言えねーですね。
 まあ所詮は『道具』ですから」

 監視を勧めたい連中としては、椎苗の不死殺しが面倒なのだろう。
 そして『道具』扱いする事で椎苗の自由を守っている連中としては――。

「――ふむ、それはそれで面白そうですね。
 もしそうなったら、誠心誠意バックアップしてもらいましょう。
 もちろん公私ともにしっかりとですね」

 椎苗としても、少年の能力――素質を見極める意味でも接触機会が増えるのは悪くない。
 とはいえ。
 それだけを理由に監視されたいとは思わないが。

「ええ、精々『死に惹かれないよう』気を付けて。
 待遇が改善されることを祈ってやりますよ、エセ社畜」

 そう返して、椎苗もまた街の暗がりに消えていく。
 次会ったらどうしてやろうか、そんな事を考えながら。
 

ご案内:「深夜の学生街」から笹貫流石さんが去りました。
ご案内:「深夜の学生街」から神樹椎苗さんが去りました。