2019/02/15 のログ
北条 御影 > 拝んだところで急に元気になるわけでもなし。
ソファに倒れ伏した男はピクリともしない。

「ま、急に起きられても困るんですけど」

物音を立てないように静かに教室内へと足を踏み入れる。
ゆっくり、ゆっくりと歩を進めて―

「ハッピーバレンタイン、先生」

空き缶が並んだ机の上に、可愛らしいラッピングの包みを一つ。
『北条御影より、カッコいい先生へ』
と書いたメッセージカードを添えて。

きっと彼は困惑するだろう。
覚えの無い生徒から唐突なバレンタインのプレゼントだなんて、正直ちょっと不気味だ。
これを見つけてどうこう、だなんてことはあまり期待はしていない。

「ま、ただの自己満足みたいなもんですけども。
 それでも、ちょっとぐらいは浮かれてみようかと思ったんですよ、私も」

くすり、と一人呟いて小さく笑う。
ソファの方へと振り返り、寝息を立てている男の枕元へとしゃがみ込み―

「先生が覚えてなくても、誰の記憶に残らなくても、死ぬわけじゃない。
 あんまり深く考えない方が…多分、色々と見えてくるものがあるんですよね。
 貴方が忘れても、私はちゃーんと覚えてるんですから」

床に落ちたスマホを拾い上げ、そっと暁の枕元に置いてから立ち上がる。

「お疲れ様です、先生。頑張ってくださいね」

そう言い残し、来た時と同じく静かに研究室を後にした。


28度という異常な気温でチョコがどろどろに溶けてしまうだろうということに気づいたのは、
とっぷりと日も暮れてからだったとさ。

ご案内:「幻想生物研究室」から北条 御影さんが去りました。