2019/04/10 のログ
ご案内:「回転寿司店『まろうど』」に竹村浩二さんが現れました。
■竹村浩二 >
今日は春なのにとても寒かった。
寒がりの自分には堪える。
家出中のメイド探しと平行して用務員の仕事をする、というのも心が疲れる。
色々あって心労が重なり、心機一転今日は寿司でも食うかと近場の回転寿司店にやってきた。
まろうど。どんな意味かはわからないけど、ちゃんと満足できるだろうか?
ハンバーグ寿司だの炙ったベーコンの上にマヨネーズが載った寿司だのしか流れてこなかったらどうしよう。
そういうのが嫌いなんじゃない。
そういうのばっかり食べて子供みたいにはしゃぎたくないだけだ。
カウンター席に座る。
見たところ、普通の寿司も結構レーンに回っているようだ。
■竹村浩二 >
こう寒い日には熱いおしぼりが嬉しい。
おっさん臭いかも知れないが、顔まで拭いてしまおう。
ふぃー、と溜息をつくと程よい空調が心地よいことに今更気付いた。
まずは定番の白身から食べるか。
寿司屋の格は玉子でわかるというが、はっきり言って回転寿司に格も何も求めてはいない。
白身からスタートして徐々に味の濃いものを食べて適当に終わりだ。
それにしても回転寿司の白身って何が並んでるんだろうな?
トコヨ・アメリカン・キャット・フィッシュみたいなゲテモノが流れるわけもない。
それでもあまり信用しているわけでもなく。
流れてきたのは、サワラの寿司だった。
サワラ。魚へんに春と書いて鰆。
いいんじゃあないの。チョイスとしてそうそう外しているわけではない。
ただ、皮ごとついて分厚いのはちょっと笑ってしまう。
鯛気取りかっつってんだ。
俺は漁港近くで育ったから寿司には口うるさいぜ?
俺はとりあえずサワラの寿司を取ってみた。
■竹村浩二 >
醤油を皿に出そうとして、醤油にも5種類ほどあるのに感心する。
どれにするか迷って、昆布風味の醤油をチョイスだ。
昆布のうま味がサワラの身肉にマッチしていいかもしれない。
箸でちょちょいと寿司に醤油をつけて一口。
初手から大きな寿司を食ってしまった、という後悔が。
吹き飛んだ。
「……っ!」
口の中に“春”が広がる。
皮つきだから湯霜作りだろうと勝手に決め付けていた味を軽々と踏み越えていく。
サワラの湯霜作り、しかしこれは!
何らかのダシの香りがする!!
そうか、うま味の強い魚を湯引きした時に出るお湯……
それの臭みを消して湯霜作りに再利用しているんだ!!
ならこれは昆布風味の醤油など邪道!!
普通の醤油をもう1貫に垂らして食べる。
舌の上に天上の佳味が広がる。
厚く切っているのも、飾り包丁が入れてあり食感がいや増されている!
食べ応えと味を両立する、これが創意工夫!!
■竹村浩二 >
これは全く気が抜けない。
ただの回転寿司と舐めた態度でかかる客を斬って捨てるかのような強烈な初手。
常世の寿司、恐るべし。
次に流れてくる寿司を見て目を疑った。
ベラ、と書かれている。
ベラぁ?
あの下魚のベラか?
釣ってもカラフルな色合いとヌメりから喰えないだろと思っていつも捨ててる?
あの……?
随分と薄作りの寿司だ。
それに白身を2連続で食べるというのも、なんだかセオリーから外れるようで落ち着かない。
だが、興味を持ってしまった。
名前で釣られたんだ。俺は、ベラに負けた。
そっとレーンからベラの皿を手に取る。
よくわからないが、九州の甘い醤油なら合うか?
醤油にワサビを溶かしながら思う。
さっきのサワラが職人の手による本物の寿司だったとしても。
ベラは美味くならねぇだろ。
恐る恐るベラを口に運んだ。
う、美味い!?
バカな、あのベラだぞ!!
丁寧な下処理が前提としても、こんなうま味とコリコリ弾力ある食感が楽しめるものなのか!?
江戸前の寿司ではない、だが発想が今、ここに客として存在する俺を楽しませている!!
木の芽のような香りが鼻腔をつく。
香り付けの何かをネタの裏に忍ばせていたのか?
こういう小技でも手を抜かないのはポイントが高い。
■竹村浩二 >
すっかりこの回転寿司に魅了されてしまった。
徐々に味が濃いものを食べていきたい。
しかし、見れば海老が流れていない。
何故だ、さっとボイルした海老は回転寿司でも人気メニューのはず。
タッチパネルから探して、そわそわと落ち着かなく海老を注文する。
この際、なんでもいい。
この店の出す海老が食べたいんだ。
そして待つこと数分。
専用レーンを流れてきた海老の皿を見て目を見張る。
寿司が輝いている。
目の錯覚か? いや、違う。
普段食べている海老の寿司は恐らく、殻を剥いて時間が経過したもの。
これは食べる直前に海老を剥いたものなんだ。
だからパサパサしていなくて、瑞々しい色合いを魅せている。
本物の海老の寿司は、縞模様がくっきりと分かれているものなんだ。
軽く感動しながら醤油につけて寿司を口に運ぶ。
口元を押さえた。
感嘆の息が漏れそうな自分を律したのだ。
美味すぎる。
これが海老だというのなら、今まで食べた海老は海老ではなかったのか?
海老のうま味が凝縮されたそれは、口の中でプリプリと踊った。
そうか! これは海老を茹でる時に塩を入れているんだ!!
だから海老の甘さやうま味がお湯に逃げ出さない!!
これが最高の海老の寿司なんだ!!
拍手を打ちそうになる心を必死に押さえ込み、次のメニューを探す。
回転寿司に腹を満たしに来ているという心持は完全に消え去っていた。
■竹村浩二 >
塩気ある海老の寿司と甘い醤油の組み合わせに魅了されながらも、次に流れてくる寿司を見る。
赤身だ。マグロと書いてある。
コストの関係上、マグロといってもメバチマグロやキハダマグロだろう。
そこはわかっている。
見たいのはその先だ。
この回転寿司を作っている職人が、素材を活かしてどんな寿司を握るか。
見たいのはそれだけだ。
しかしこのマグロの寿司。
手にとって見てみると、なんだか玩具のそれを見るような違和感がある。
違和感を探り当てると、赤身にスジが入っていないのだ。
スジと平行に寿司ネタを切るのはご法度のはず。
それだけ素材に無駄が出る。
しかしこの工夫が見せる味の地平線を俺は見たい。
マグロと一緒に流れていた説明書きには、醤油をかけないで食べてくださいと書いてあった。
何故だろう。
ネコに食わせるわけじゃあるまいし、寿司に醤油をかけない理由とは?
覚悟をして寿司を口に中に入れる。
まず、驚いたのは滑らかな口当たりだった。
スジを外して包丁を入れた赤身がこれほど素直にうま味を見せてくれるとは思わなかった。
そして、この赤身。
ヅケだ。しかし色が醤油に染まっていない。
恐らく、白醤油を使って赤身を漬け込んである。
白醤油は小麦をメインに作り上げられた醤油。
寿司の新鮮な色合いを損ねず、味をつけることができるというわけだ。
見事ッ!!
■竹村浩二 >
続けて煮込んだツメが見事なアナゴ、最高の食感を保ったタコと食べて。
名残惜しいが締めの一品を食べるタイミングになった。
ここまで楽しませてもらっておいてなんだが。
寿司の流れにおける締めの一品を微妙に感じてしまう。
巻き物で舌をさっぱりさせよう、なんて考え方自体が気に入らない。
舌をさっぱりさせたいなら、そもそも寿司なんて食べに来ない。
でも、〆におすすめと書いてあるかっぱ巻きを手に取った。
かっぱ巻きか。
はっきり言って言いたいことは山ほどある。
牛乳より水分が多く、世界一を集めたギュネス・ブックに栄養の無い野菜トップ1位で載ってる不毛な野菜、きゅうり。
そんなのどう調理しても……どうでもいい一品だ。
だが。
食べて舌を疑った。
美味しい。野趣溢れる香味としっかりとした野菜の味わいが舌に伝わってくる。
そうか、自然農法で作られたきゅうりは野菜としての味わいが濃いと聞く。
それを浅漬けし、細切りにしてかっぱ巻きにすることでこの味と食感を出しているのか!!
見事、見事見事見事ッ!!
素晴らしい寿司だ。回転寿司と侮った自分の見る目のなさに笑ってしまう。
精算を済ませて入り口の自動ドアから出る。
常世グルメ、まだまだ奥が深い。
ふと、入り口を見ると。
『七月末に閉店します』
と書いてあった。
そりゃな!! 回転寿司で手間隙かけすぎだよ!?
ご案内:「回転寿司店『まろうど』」から竹村浩二さんが去りました。