2020/06/14 のログ
ご案内:「コインランドリー」に人見瞳さんが現れました。
人見瞳 > 今日は絶好の洗濯日和。
お天気キャスターの人もにっこりと太鼓判を押すような晴天なり。

ぎゅうぎゅうに膨らんだスクールバッグを抱えて向かう先は、寮の近くのコインランドリー。
部屋付きの洗濯機に収まらない洗い物を全部詰め込んで、それでもあまりに多すぎて手分けをして運ぶ。

12人の中のだれが洗濯物係だとか、当番制みたいな仕組みはなくて、動ける「私」が手を挙げるだけ。
何人かの私たちが手を挙げれば、残りの私はほかの仕事に時間を割ける。
誰がしたって同じことなら、押し付けあいが起こる理由がないのです。

「よかった。ふたつ空いてる!」

銀色に光り輝く大型の洗濯機が二つ。
ガランドウになっているのを確保して、お店を広げはじめる。

ご案内:「コインランドリー」に戸田 燐さんが現れました。
戸田 燐 >  
女子寮の洗濯機というのは、基本的に戦争である。
奪い合いがあり、駆け引きがあり、闘争が介在している。
敗北者はコインランドリーに行くのがディスティニー。

コインランドリーに来ると、緋色の瞳をした女子が。
なんとも。
大量の。洗濯物を………大家族?

「小型の洗濯機は空いてます?」

とまぁ、話しかけて。どこかで見たような顔だった。
というか、どこかで見ているのだろう。こんな美少女はそう忘れない。

人見瞳 > コインランドリーは利用者の譲り合いで成り立つ小世界。
声をかけられるということは、なにか差し迫った用件があるということで。

「え? あぁ、そっちにひとつ……」

絶賛投入中の大型機からふたつとなりの小ぶりな洗濯機を指さす。
他のお客さんとふたりきり。邪魔にならないようにスクールバッグを端に寄せる。

「おまちどうさま!」

もう一人の私が追いついてきて、スクールバッグが三つに増える。
シーツが二枚と、夏用のタオルケットが一枚。洗濯機のドラムが二機目までいっぱいになる。

「あれ? もうひとつは?」
「もっかい回せば間に合いそうだってさー」
「そう。じゃあ回しちゃうね」
「あいあい。ヨーソロー!」

硬貨を投入してスイッチオン。あとは50分くらいのんびり待つだけ。

戸田 燐 >  
「ありがとう」

お礼を言って硬貨を投入、洗剤を入れてSwitch on!
暇潰し用に持ってきていた本(例えばから始まる会話術百選/分銅 生醤油・著)を開く。
ぶっちゃけ本の内容はなんでもいい。時間が潰せれば。
私は乱読家でもある。

声が聞こえて、顔を上げる。

目の前の美少女は、二人に増えていた。

「……んん!?」

驚いて上擦った声を上げる。

「…双子さんで?」

もう目の前の本が頭に入ってこない!!
美少女で双子ってすごいなぁ!! 世界が隠した秘密の一つだなぁ!!

人見瞳 > 「まくらカバー!!」

「「えっ」」

三人目の私が枕カバーだけ何枚もかかえて、肩で息をして飛び込んでくる。
寮の部屋からノンストップで走ってきたみたい。

「ほらー! やっぱ無理って言ったじゃん!」
「ご、ごめん忘れてて……っ」
「もう回しちゃったけど」
「うぅぅ……そこをどうにかー!!」

「「ならないよ!」」

途方に暮れる私の前で無情にも注水を始める洗濯機。
私たちの洗濯物が温水に沈んで、ぐんぐんと回りはじめる。

「悪いけどそれ、持って帰ってもらうしか……」
「それも微妙じゃない?」
「いいの……枕カバーだけなんてもったいないよ…」

「サメーーーーーー!!!」

「「「えっ」」」

もう一人の私がサメのぬいぐるみを抱えて飛び込んできた。

戸田 燐 >  
まくらカバーね。まくらカバー。わかる。それはわかるよ。
まくらカバーって定期的に洗いた…三つ子!?

「…………」

絶句した。背景に宇宙が広がった。
美少女が三人いればおトクという部分が頭からすっぽ抜ける。
脳の空隙にダークマターが流れ込んできた。

母親が三つ子をパーフェクト美少女に産める異能の持ち主とか?

でもちょっと羨ましいかも知れない。
私には兄がいるけど、髪色と瞳の色が変わってから二人で外を出歩いたことなどない。
というか、家族と出歩いてない。
私のせいで家族が白い目で見られたらと思うと居た堪れない。

そっくりな三人で共に過ごす、というのは、アッ四人目きた。
よ、四つ子ォ!? それはさすがに無理があるよぉ!!
サメのぬいぐるみは大事にしたいだろうけど!!
四つ子は無理があるよぉ!!

息が荒くなる。
畜思議(ちくしょう宇宙の不思議め、の略)空調が効いた部屋なのに汗が流れる。

人見瞳 > 追加の洗濯物が到着して、枕カバーを持って帰る線はなくなった。
小さな洗濯機がひとつふたつ止まって、もうすぐ使えるようになるはず。
感動のフィナーレを迎えるために、残る問題は―――。

「サメくんって洗濯機いけるの?」
「タグに書いてあると思う」
「はぁ……はぁっ…!」
「えぇと……ご家庭の洗濯機で……水洗い…?」
「してもいいけど、洗濯ネットを使わないと」
「使わないと?」

四人の私が顔を見合わせ、渦中のサメが視線を一身に集める。

「サメ台風になっちゃうってさ!!」
「そういう映画ある」
「………ないと思う…」
「はぁっ……馬鹿なことを言うんじゃない…!」
「信じるか信じないかはあなた次第!」

私のひとりがスマホをつついて、12人全員にショートメールを流す。

「手配したぞ」
「でかした!」
「それはいいんだけど、あの子ちょっと引いてない……?」
「……すみませんすみません……!!」
「すまない私たちがすまない…」

うるさくしてごめんなさい。私も頭を下げましょう。

戸田 燐 >  
「ああ、その、いえ……」

視線がサメより早く泳ぐ。
畜混(ちくしょう混乱してきやがった、の意)。
本を閉じて四人に視線を向ける。

「よ……四つ子…なんだ?」

これで五人目が来たら大変だ。
でも四つ子なら洗濯物が大変なのもわかる。
嘘!! わかんない!! 四つ子って何!?
私なにもわからないよ!!

「学校でも……その、やっぱり四人同じクラスなのかなーって…」

年子の兄弟は大抵、別のクラスに入るらしいけど。
どうなんだろうね。
手にかいた汗がブックカバーを濡らしている。

人見瞳 > 「じゃん! これでいいですか?」

今度の私は歩いてきました。
サメのぬいぐるみを洗濯ネットで包んで、空いたばかりの洗濯機に投入。
硬貨を入れて、スイッチオン。

「ありがとー!!」
「わざわざすまないな。まったく非効率なことを……」
「まあまあ。こういう日もあるよ」
「今日は急ぎの用事もありませんし、行きがけの駄賃といいますか」

さほどに広くもない待合スペースで五人の私が思い思いのポジションを確保する。
私は左の洗濯機を正面から見守っていて、二人目の私は壁に寄り掛かっている。
三人目の私は五人目の私にほっぺたをむにむにされて、情けない声を出している。
四人目の私はまだ釈然としない様子で外を眺めて。

「私たちのことが気になる?」
「気にならないといえば嘘になる……という感じかな」
「クラスは同じだ。授業に出るのは一人か二人だけだが」

「あら? 全員で待つことにしたの?」
「お前ら人口過密過ぎんだろ。そら、散れ散れ!」
「そっかーまだ終わらないんだねー」

六人目と七人目と八人目の私が通りがかって、待合室に顔を出す。

戸田 燐 >  
増えた!! また増えた!!
ニブい私にももうわかるよ!!
異能だこれ!?

「……自分が八人に増える異能?」

言ってからちょっと不躾だったかな、と思う。
でもどこかで見たというのは間違っていなかった。
彼女たちが常世にバラバラにいるのなら。
どこかで見ているはずなのだから。

「洗濯物も大変なはずだわ………」

かさ地蔵でラスト地蔵の頭にソーラーパネルが設置されてもここまで戸惑いはしない。
頭の中のダークマターは去り、正当なる思考を取り戻すために脳内でハムスターがカラカラと回し車で走った。

今、言うべきは。

「…じろじろ見てごめんなさい、何年の子? もし、先輩だったらなお無礼ね私」

人見瞳 > 「人見瞳八つ子説。あると思います」
「ナイナイ!」
「もっろ……もうひょっろ…多いれふ……」
「増える異能は大正解だが、あとの半分は大間違いだな」
「いつもこんなに増えるわけではないの。夏用のものとか出したから」

いつもはこんなに集まらなくて、今日は特別。
八人の私が集まることなんて月に何度かある程度。
ましてや十二人の私が集まることは、年に一度もあるかないかで。

この子もきっとどこかで私たちと出会っている。
見かけにはまったく同じ私たち。よく会う子だなって思っていたかも。

「わた「俺「僕「あた「私の名前は人」人見」ひとみ」瞳!」瞳」

「うわっ「やめろいっぺんに「おっと!?「ちょっとあたしが「待って待って!」」」」」

「誰か一人が代表して名乗ったらいいんじゃない?」
「さんせー」
「どうやって決めます?」
「ナポリタン早食い対決」
「「「何て??」」」
「こういう時は僕に任せろ!」
「あっずるいあたしが言うのー!!」
「二年生の……人見瞳です…よろしく……」

「「「「「あーっ!!」」」」

戸田 燐 >  
増える異能。なるほど、そういうこと……
つまり彼女は偏在していて。
それをどこかで見ているから、印象に残っていると。

「ちょっと待って、一度に喋られてもわからないから!?」
「って……二年生、なの?」
「それなら人見先輩ですね。重ね重ね申し訳ないです」

先輩後輩はきっちりするほう。それが私よ戸田燐よ。

話す間に自分の洗濯物が終わって。
籠に洗濯物を入れながら。

「私は一年の燐です、戸田燐。名乗るのが遅れてすいません、人見先輩」
「いやぁ、さすがに驚きますよ。宇宙の神秘……とか」

謎の言葉を口にしながら見た時の驚きを表現した。

人見瞳 > 「戸田さんですね」
「リンリンの方がかわいくない?」
「呼び捨てにしても構わないと思うが」
「私は戸田ちゃんかな」
「燐って…呼んでもいい……?」
「好きに呼べばいいんじゃないかしら。そうよねクリスティーヌ」
「横文字は止めてやれよ!!」
「まあまあ」

それぞれの判断で好きに呼ぶことになりました。
今日ここで起きたこと、残りの私たちにも共有しておかないと。

「私たちが怖くはない?」
「いやドン引きだろ。初見殺しだ。無理もねーと思うが」
「大丈夫。怯えてる感じはしないわ」

熱々ふかふかのシーツを引っ張り出して、手分けして小さくたたむ。
残りの洗濯物も八人いれば一瞬で片付きました。

「君と知り合ったことは、ほかの僕らにも伝えておく」
「どこかで会ったらー仲良くしてあげてねー」

戸田 燐 >  
「ちょっと待って、大体何て呼んでも構いませんけど!」
「クリスティーヌは止めてくださいね!?」

そもそもどっから出てきたの、クリスティーヌ!?
戸田・クリスティーヌ・燐。
ラノベにも出てきそうにない。

「怖くはないです、驚いただけ」
「まぁ……初対面で驚きリアクションしてガン見したのは失礼かなぁとは思いますが…」

本をポケットに入れて。

洗濯物を籠に入れると、乾燥機は使わないことにした。
お金がもったいないため。干す分には問題ないでしょう。

「ええ、仲良くしてくださいね」
「それではまた会いましょう、人見先輩たち」

奇妙な複数形を口にすると、コインランドリーを後にしていった。
晴れやかな青空が私を出迎えた……せいで一瞬で汗をかいた。あつい!!

人見瞳 > 「はいはーい、戸田さんもお元気で」
「また会おうねー」
「クリスティーヌは不服かしら?」
「ねえよ!!」
「忘れ物はない?」
「さようなら…燐……」
「僕はもう行く。用済みだからな。あとは任せた」
「じゃあ、洗濯物持って帰る人!」

私も含めて一人二人の手が上がる。
だいたいのことは即決できるのが私たちのいいところ。
よくある脳内会議みたいに、ひとつの議題をめぐって紛糾することはない。
ないかも。そんなにない。時々ある。少しはあるけど、おおむねいつも平和です。

「……そうだ。同期しないか?」

こんなにたくさんの私が集まるのは珍しいこと。
私の提案に私たちがめいめい賛意を示して、頷きを返す。

「ん」
「りょ」
「おう」
「そうね」
「いいけど」
「……うん………」
「いいよぉ」

戸田ちゃんが去って、私たちだけが残された待合室がつかのま静かになる。
誰も言葉を発せず、ただ密やかな物音だけがして―――。

初夏の日差しの下へと、八人の私たちがバラバラに出ていく。
今日も一日、それぞれの仕事を果たすために。

ご案内:「コインランドリー」から人見瞳さんが去りました。
ご案内:「コインランドリー」から戸田 燐さんが去りました。