2020/07/12 のログ
ご案内:「学生街 高級マンションの一室」に神代理央さんが現れました。
ご案内:「学生街 高級マンションの一室」に水無月 沙羅さんが現れました。
神代理央 > 懇親会を終え、結局煙草は吸えぬ儘、気遣う様に己に続く少女と迎えの車に乗り込んだ。
病院には、今日は帰らない旨は連絡済。となれば、一夜を明かす場所は必然的に限られる。
学生街の一角。膨大な資産を無駄な家賃に費やす者達が住まう高層の豪邸。自主自立を謳う半独立国家の様な常世学園ですら逃れられぬ、資本主義社会の上流に居座る者達の巣窟。
学生街を一望出来る高層階の一室が、少年一人に用意された居城であった。

「……すまないな。態々家まで送って貰って。ココアで良ければ準備するが、上がっていくか?」

オートロックとAI搭載型のロボットが鎮座するラウンジを通り抜け。階層毎に分かれたエレベーターを乗り継いで。
辿り着いた部屋の玄関先で、小さく溜息を吐き出して少女に振り返る。
先程迄嗜んでいた酒精がいくらかは残っているものの、何時もの様な理性は取り合えず戻ってきたらしい。

水無月 沙羅 > 「放っておくとどんな悪いことするかわかりませんでしたからね。 お酒に酔って転ばれても困りますし。
 怪我人だってことを自覚してください。 私みたいに先輩は不死身じゃないんですから。」
 
所謂、漫画的表現をするのであれば、プンスカという擬音がまさしく書かれていそうな様相で、相変わらず説教は続いている。
とは言えど、実は内心はかなりドギマギしており、緊張しているのを隠すのが結構億劫だったりする。

「(や、やっぱり理央先輩ってすごいお金持ちだったんですね……送り迎えの車とか、このマンションとか、世界が違うっていうか、そもそもなんで家の前までやってきて……)
 え? あぁ、はいじゃぁお邪魔しま……はい!?」

いま、理央先輩が家の上がっていくかと言ったような気がする、いや、たぶん気のせいだろう、気のせいに違いない。
ひょっとしたら幻聴かもしれない。
とりあえずもう一回聞いておこう、年頃の男女がこう、お酒入ってる中家にいるとかそれはそんな、所謂少女漫画でありそうな。
嫌々そんなまさか。

「先輩? 今何と?」

神代理央 > 「此れでも、肉体強化の魔術だけは自信があるんだぞ。何、多少の怪我くらいなら平気だよ。私を誰だと思っているんだ?」

と、お説教を受けながら答える言葉は尊大ではあるが力は無い。
心配してくれている事が分かるだけに、何も言い返せない。
酒は控えよう、と心に決めながら、何の気なしに尋ねた言葉。

その言葉に対する彼女の返答には、ぱちくり、と瞳を瞬かせて首を傾げる事になる。

「ココアくらいしか無いが上がっていくか、と尋ねたんだが。時間が気になるなら別に無理にとは言わんぞ。帰りの車は直ぐに手配出来るし」

生憎、少女漫画は未履修であった。
暢気な迄の口調と言葉で、彼女に選択を促すだろうか。

水無月 沙羅 > 「肉体強化って……それはあくまで筋力や体力を底上げする程度のもので……。」

何ならその分野は自分の専門分野なのだが、とちょっと困ったように肩をすくめて微笑んで見せる。
普段は風紀の為ならどんなことでもやってしまいそうな雰囲気すら見せるのに、ここ最近はこんな感じですっかり丸くなったような気がする。
それはそれでうれしいのだが、複雑なような気もしないでもない。

「ぁー……そういうことなら。 はい、いただいていきます。」

あ、この人は多分、そういうことに無頓着、というか、たぶん意識してないのだろうと察する。
いや、この場合、『自分が魅力的な女性』に見えていないのではないだろうか、という不安すら降り立ってくるのだが……。
きっとこの鉄火の支配者はそういう色事から遠い世界にいたのだろう。
とも思えば、気にすることでもないかと思えた。

「じゃぁ、お邪魔しますね。」

せっかくなので厚意に甘えておこう。
そっと腕を組むように寄り添ってみた。

神代理央 > 「ふむ。であれば、私の魔術は些か系統が異なるでな。と言っても、譲り受けた魔術故にどう説明したものか…まあ、中で話そう。玄関先で立ち話するのも何だしな」

と、招きに答えた少女に告げながら手を翳して解錠する。
返答した時の少女の声色が、ちょっと力無く感じたのは気のせい……なのだろうか。

「…もう懇親会は終わったというのに、まるで今から夜会に赴くという様だな?先程も言ったが、そのドレス。似合っているぞ、沙羅」

室内に足を踏み出そうとすれば、己の腕に絡まる細い少女の腕。
御互い礼服とドレスの儘、という事もあって、豪奢な室内へと至る二人は、晩餐会に訪れたかの様な姿。
それを揶揄う様な。それでいて、想い人の纏う装いに改めて賞賛の言葉を告げながら、少女と腕を組み合わせた儘、室内へと至るのだろう。

室内は、広い敷地に金のかかる調度品と内装を投げ込んだ、という様な代物。有体に言えば、金がかかっているのだと所有者や来客に視界で訴える様なもの。
少し長い廊下を経て居間に至れば、使われた形跡の無い革張りのソファやテレビ。ダイニングセットなど。モデルハウスさながらの生活感の無い部屋が、彼女を迎えるだろうか。

「かけて待っていてくれ。直ぐに準備出来るから」

と、彼女をソファに促しつつ。
己はキッチンへと足を進めようとするのだろう。

水無月 沙羅 > 「譲り受けた魔術……ですか。 まぁ、魔術は継承されてきた様々な体系がありますからね……。 はい、そうしましょう。」

流石に、夏とはいえこの格好で外で立ち話するつもりにはなれない、寒くはないが、そもそもこの格好が聊か恥ずかしいというのもある。
叶うのならばいつものパンツスタイルに戻りたい。
組んでいる腕から伝わる熱が、顔に伝わってくる気がする。

「夜会……ですか? あぁ、よく貴族主義の方々が模様するパーティーの事ですね。 似合って……ますかね、こういう、綺麗とかかわいいとか、普段はあまり縁がないですから。
 ありがとうございます、先輩。」

褒められることは素直にうれしかった。 もともと彼にちゃんとした正装を、ということで勧められたドレスだったが、正直身の丈に合っているのかが心配の種ではあったのだ。
想い人だけでもそう言ってくれるのであれば、それは勇気を振り絞った甲斐があるというもので。

「それにしても……なんというか、先輩ってやっぱり住んでる世界が違うというか。 お金持ちだったんですね……あ、すみません下世話なことを。 ちょっとこう、何と言いますか。
 格好も相まってお姫様にでもなったような錯覚がしますよ。」

美女と野獣、ならぬ、美男子と化物かもしれないが。

「じゃぁ失礼します……。」

かけていてくれ、と申されましても……どこもかしくも雅という他なく、なんとなく自分が居てはいけないような気がしてくる。
しかしそんなことは先輩に対して失礼だとも思うわけで、おずおずとソファの上に腰を下ろした。
なんだかすごい弾力がする。

しかし、調度品は豪華だが、人間が住んでいるような気はしない。
普段はここに来ることがないのだろうか、管理人が居るとか、ありえる。

神代理央 > 「そう言った意味では、私も魔術をもっと深く学ばねばならんのだがな。相性が悪い、とは言わんが魔術は余り使わんのでな…」

と言葉を交わしながら室内へと至る。
此方は普段と異なる礼服であるとはいえ、そんな装いは謂わば手慣れたもの。寧ろ、奇妙な程当然の様に礼服は己の身を飾っているだろうか。

「その通り。未だ此の世界には、生まれを数世紀は間違えた様な連中もいる、t言う事だ。
ああ、似合っているとも。正直、他の連中に見せてやるには惜しいくらいにな」

儚げな彼女を包む華やかなドレス。それらが調和したが故の美しさを、明確な言葉として表現するのは己に取っては少し難しいものであった。
だから、単純に、真直ぐに。他の者、他の男に見せるのは勿体無かったと、緩く笑みを浮かべるだろうか。

「ほう?では、責任を持って姫をエスコートさせて頂こうか。
尤も、お前が迷い込んだのは王城ではなく、魔王の居城やも知れぬがな?」

彼女が姫であるならば。己はそんな姫を誑かせる魔物の様なものだろうか。クスクスと笑みを零しながら、ソファに腰掛ける少女を一瞥して。

「ん。何も無い部屋だが寛いでいて構わないぞ」

そうしてキッチンへと足を運べば、カップを機械にセットしボタンを一押し。
30秒後には、磨き上げられた氷が浮かぶココアが二杯。準備されているのだろう。

「ほら、砂糖は好きなだけ入れても構わないぞ。足りなければ、の話だが」

そうして、準備されたココアの注がれたカップを彼女に差し出して。
大量のガムシロップが盛られた籠を、彼女の目の前にある木目のデスクに置くだろう。
生活感の無い此の部屋で、唯一其処だけが人の営みを露わにしている様な気さえするかもしれない。

水無月 沙羅 > 「先輩なら、魔術を己の異能にかけ、攻撃能力を底上げすることもできるでしょうに。 いわゆる付与魔術のような。」

例えば、弾丸に重力の概念を負荷すれば激的に威力が底上げされるように。異能に魔術を付加する、という発想自体今しがた思いついた代物ではあるが。

「良ければ私が、あー……いえ、わたし自身も肉体の強化と治癒しか使わないんでした。」

教えて差し上げようか、と言おうとも思ったが、流石に差し出がましい。己の使わない魔術を教えるなど危険この上ない。

「あら、魔王であるなら、見せるに惜しい目など全て撃ち落としてしまっていそうなものですけどね。
 そうなさらないからこそ、貴方は理央先輩なのでしょう?」

普段着る事のない礼服に、その様な評価をしてくれていることは素直に恥ずかしかった。
……と、同時に、『俺の女』と懇親会で話していたのを思い出す。
この人は臆面もなくそんなことを言う人だったのかと、少々顔が熱くなった。
いけない、意識しないようにしていたのに意識してしまうではないか、やはりこの男、女をたぶらかすのが得意なのではなかろうか。

ちょっとお姫様を気取った口調で、自らを魔王という人物の言を否定してみる。
私からすれば立派な王子様だ。 少々暴君かもしれないが。

「正直落ち着かないですよ、露出の高い服、スカート、次いで高級そうな一室、おまけに……、気になる男性と二人きりと来たら猶更です。」

そもそもココアに砂糖は入れるものだったか?
そう思いつつ口に運ぶ。
甘い。 それは砂糖のせいだけではないかもしれないけれど。
ここに更に砂糖を入れるとしたらもうそれは甘いもの好き、と言うより甘い物狂いだ。

「先輩、糖尿病には気を付けてくださいね。」

冗談ではなく、本当に。

神代理央 > 「…ふむ。付与魔術、か。考えた事も無かったな…」

異能と魔術の組み合わせ自体は、己も攻撃手段として取る事が出来る。しかしそれは、魔術と呼ぶには余りにお粗末なもの。召喚した異形に魔力を流し、魔力をそのままエネルギーの奔流として放つ魔術。

「おや、それは残念だ。沙羅が教えてくれると言うなら、喜んで受講しようと思っていたのだがな?」

本当に残念、と言いたげな口調で。魔術に関する熱意を彼女に伝えるのだろうか。

「…そうなさらないから、私は神代理央、だと?そうか。お前は、そう思っていたのか」

彼女の横に腰掛け、グラスを呷る。
どろりとした糖分の塊が喉を滑り落ち、酒精が仄かに残る脳内に染み込んでいく。
その思考の中で。二人の会話以外に音のしない静かな室内で、首を傾けて彼女に視線を向ければ。

「お前を自慢したい思いもあれば、本当にお前に声をかける連中を薙ぎ払いたいとも思っていたさ。いや、それを押し隠せるからこそ、お前の言う所の良き先輩であるのかも知れないが――」

少女に向けるのは仄暗い独占欲。社交性の仮面で偽装していた醜い感情。
そして、己の言葉を否定する少女に、小さく笑いかけて。

「……ほう?何がどう落ち着かないのか、是非聞かせて欲しいものだな。そういった装いで。私の部屋で。二人きりで。何故、落ち着かないのかね?」

少女漫画は、確かに未履修である。
そんな微笑ましさを残す様な男女の機微に疎い事は事実。
己が持っているのは――縄張りに迷い込んだ得物を前に舌なめずりする様な、獣の様な本性なのだから。
そうして、グラスを置いた手が少女へと伸びて――

「…そうだな。気を付けるとしよう。幾ら好きだと言っても、限度を知らなければならないとは、承知しているからな」

そっと、彼女の頬を軽く撫でた後、直ぐに離れる事になる。
己の言葉が告げたのは、果たして甘味についてなのか。それとも。

水無月 沙羅 > 「それこそ、魔術学の講師に学ぶべきでしょう。 ……まぁ、どうしてもとおっしゃるのであれば、考えないこともありませんが。」

好いた男にそうまで言われれば嬉しくもなる、ついでに言えば鼻も高くなるというもの、少しぐらいなら、それもいいかもしれない。

「えぇ、そうでしょうね。 己の中の野獣を隠すのが得意だと思っていましたから。
 私は好きですよ? 先輩の野獣の様な姿。
 美女と野獣、ふふ、私は美女ではありませんけどね。」

戦場の中の野獣は学校では鳴りを潜めている、ここ数日付き従っていて分かってきた事の一つだ。
そうは言っても懇親会の直前の事件、あの一件を見るにあたり、その野獣性も薄れてきているように感じる。
おそらく、あの公安の剣士はそれを私に託したようにも、想えた。
私は……彼が野獣だとしてもかまわないけれど。 悪鬼でいてほしいとはまでは思わない。

「……それ、冗談で言ってます? それとも言わせたいんですか?」

もう、とでも言いたげに、少しだけ頬を膨らませて見せる。
もし本当に分からないのだとしたらとんだ鈍感男か、若しくは誘惑する悪魔化のどっちかだ。

「獣が女に手を出すかもしれないでしょう? あなたは野獣なんですから。」

冗談っぽく、顔を赤らめて呟く。
ちょっとした意趣返しのつもりだったが、これは思った以上に心臓に悪い。
脈拍が一気に上がったように顔が熱くなる。
撫でられた頬はあっという間に紅に染まった。

神代理央 > 「違いない。ソフィア先生辺りにでも聞いてみるか。……とはいえ、お前に教わるというのも新鮮そうだ。私は、真面目な生徒には成り得ぬかも知れんがな?」

と、ゆるり口元を緩める。実際、本格的に魔術を学ぶなら当然教師陣に教えを請うべきだろうが。彼女と二人で学ぶというのも、魅力的な提案であったが故に

「野獣に恋をしたところで、待ち受けるのは幸せな結末とは限らんさ。それに、かの物語の野獣は、その精神が高潔であるが故に野獣と化した身形でも紳士足り得た。
では、私はどうなのだろうな?お前は美しいさ。可愛らしいさ。そんなお前の眼前にいる男は、間違いなく見た目は人間だ。なら、その中身が獣畜生であるなら――美女と野獣、という美しい物語には、ならないのかも知れないな」

物語の美女と野獣の様な、初々しさと高潔さを持ち合わせた獣では無い。貪欲に、猛然と。獲物に牙を突き立てる様な獰猛さが、己の中にあるのだから。

「……何方だと思うかね?少なくとも私は、言葉にされぬ事を全て知り得る様な賢者では無い。そして、対面する者が。好いた女が何を伝えたいのか、察する事が出来ない程には愚鈍でも無い」

頬を膨らませる少女に、クツリ、と口元を歪める。

「だから、なあ。沙羅。お前の口で。お前の言葉で。言って貰わねば分からぬし、言わせてしまいたいとも思う。両方だよ。私は、我儘だからな」

紅に染まる頬。そんな少女を眺めながら再び腕を伸ばす。
伸ばされた腕は少女の髪へ、手櫛を通す様に撫でる掌は、そのまま彼女の耳元へと下り、緩く擽るだろうか。

水無月 沙羅 > 「不真面目な生徒、ですか。 いったい何をどうしたら不真面目になるんでしょうね。」

魔術を教え合うのに真面目も不真面目もあるのだろうか、と若干に首を傾げた。
沙羅は自分が人より少々生真面目だという事への自覚がなかった。
勉強するときは勉強を、運動す時は運動を、というように。

「高潔ですとも、私の知っている野獣は、高潔で、冷血で、傲慢で、時々優しくて、それでいて美しい。
だから私はここにいるんですから。」

おかしなことを言いますね、と笑って見せる。
そんな理央だから恋をしたのだと、真っすぐに瞳を見据えて微笑んで見せる。
真紅の瞳の視線が混じり合う。

「女の口から言わせたいだなんて、随分意地悪なんですね。 それとも、そうして自分に縛り付けたいんですか?
 お前は俺のものだって、自覚させるみたいに。」

悪い人ですね。
小さな声で呟いて。

「んっ……。」

肌をなぞる掌に、くすぐったさを訴える様に小さく呻いた。

神代理央 > 「何をどうしたら、とな?教師がお前であるならば、講義の合間につまみ食い、してしまうかも知れないだろう?」

何を、とは言わずに。生真面目な想い人に向けて笑う。
己は彼女に比べれば、随分と不真面目極まりないのだから。

「…過大な評価だな。だからお前は馬鹿なのだ。だからこうして、獣の巣に足を踏み入れる。いや、分かっていて踏み入れたのやも知れんがな?」

交じり合う紅。そこに映るのは、どんな感情なのだろうか。
少なくとも、己の側は碌なものでは無い筈だ。だって此処ではもう取り繕う必要が無い。此処では、仮面を被る必要が無い。

「おや、知らなかったのか?私は意地悪だし、独占欲の強い男だ。牙を突き立てて、痕を残したいと思う程度にはな」

呟く彼女の言葉に、愉快そうに嗤う。
そして、耳元を擽る掌は更に滑り落ち、彼女の頬へと。
まるで陶磁器を撫ぜる様に丁寧に。そっと触れる様に。しかし、離さぬ様に。彼女の頬を、蛇の様に指先が滑り、撫でるだろう。

水無月 沙羅 > 「つまみ食い……ですか。」

頬を撫でられるたびに、鼓動が激しく脈打っていくのがわかる、この人は全部わかっていて揶揄っているのだと思うと、それは余計に。

「わかってて踏み入れたら、いけませんか? 私だって、もっと理央先輩のことが知りたいですから。」

その野獣性の奥に、隠れた何かがあるのかもしれないのだとしたら、それを知ろうと虎穴に飛び込むこともあるだろう。
男が独占欲を現すように、自分にもそういった感情はある。
仮面の下の素顔を知るには、巣穴へ飛ぶこむ他ない。

「なら……突き立てて見ますか? 牙。 痕を残せるものなら……ですけど、すぐに消えてしまうかもしれませんよ?」

貴方にその度胸があるんですか? と試すように、肌を撫ぜる指に鼓動を早めて、吐息を呼吸に混ぜる。
獲物を見つけた獣の様な瞳を見つめ返して、撫でる指に掌を重ねた。

神代理央 > 「ああ、つまみ食い、だ。私は、甘いものが大好きだからな。お前も、さぞかし甘く、舌触りが良いのだろうな」

とん、とん、と。彼女の呼吸に合わせる様に指先が軽く彼女の頬を叩く。それは彼女の柔らかさを愉しんでいる様な。或いは、牙を突き立てる得物の、堪能している様な。

「構わぬよ。それがお前の望みなら。それは、巣穴に招き入れた私の望みでもあるのだから」

結局、全ては彼女を此の部屋におびき寄せる為の。
帰宅途中の他愛の無い話も。招き入れる前の朴念仁の様な会話も。
得物に喰らい付く為の。全てを理解した上での。熱を帯びた、罠。

「…ほう?此の私を挑発するか。此の私に、牙を突き立てろと言うか。良いとも。それがお前の望みなら、何度でも、何度でも。お前に残す痕が刻み込まれるまで、突き立ててやるとも」

指先に重なる彼女の掌。
やおら、その掌を掴むと、彼女の躰を此方に抱き寄せるかの様に引っ張るだろうか。
己の腕の中に。己と言う檻の中に。彼女を捉えようと言わんばかりに、無遠慮に引き寄せる。

水無月 沙羅 > 「私はスイーツじゃないですよ? 先輩。 いえ、ある意味スイーツと言えなくもないかもしれないですけど。」

自分で言っていて恥ずかしくなる。 そろそろお姫様の仮面がはがれて、幼い自分の羞恥心が顔から噴き出そうだ。

「それは、魅力的な話ですね、本当に。 先輩、窮鼠猫を噛むって、ご存知ですか? 私も、先輩に痕、残したくなっちゃうかもしれませんよ?」

物理的な痕は、自分には残らない。 どんなに甘い言葉を彼が囁いたとしても、牙を突き立てたとしても、自分の体には残らない。
確実に、この胸に突き立てて消えない痕はあるのだが。
それはそれとして、相手にも同じように自分を刻み付けたいと思うのは我儘だろうか。

「わっ……せ、せんぱい……?」

引き寄せられる、腕の中に包まれるように抱きしめられる。
胸にうずまる様に、体を預けて、理央の鼓動を聞く。
相手は自分をどう思っているんだろう、そんな風に胸に期待を寄せて。

神代理央 > 「私が甘いと言えば。私が好きだと言えば。それは全て、私にとっての甘味だよ、沙羅。その中でもお前は極上さ。本当に、さぞかし、甘いのだろうな?」

仮面に罅が入り始めた少女に、それを揶揄する様な口調と声色で囁く。
仮面を纏う姿も、その奥にある幼い本性も。全て己の物だと言わんばかりの、傲慢で尊大で、穏やかな笑み。

「ほう?私に痕を残したいのか。私に、お前の痕跡を残したいというか。構わぬ。構わぬが――其処に至る迄に、何度お前に牙が突き立てられるのだろうな?」

彼女の能力も異能も魔術も。全て理解し、知り得た上で、それでも尚その躰に牙を突き立てようと。痕を残そうとするのは、傲慢か慢心か。或いは独占欲か。
それと同じ想いを彼女が抱いているのなら――クツリ、と笑みを零し、それを受け入れる様に頷いた。

「…なら、先ず一つ。痕を残す前に。牙を突き立てる前に。味見くらいは、させて貰おうかな」

彼女の耳に響く己の鼓動。それは、早鐘の様に鳴り響いている訳では無い。しかし、どくん、どくんと脈打つ鼓動は、明らかに大きく。響く様な力強さ。血液を循環させ、体温を上げて、獣欲と理性の狭間で彼女を喰らう為に、脈打つ鼓動。
そんな彼女の顎に手を添えて持ち上げると、揺れる深紅の瞳を静かに見下ろした後。その唇を奪おうと身を屈めて――

ご案内:「学生街 高級マンションの一室」から水無月 沙羅さんが去りました。
ご案内:「学生街 高級マンションの一室」から神代理央さんが去りました。
ご案内:「落第街・スラム廃施設前」に武楽夢 十架さんが現れました。
武楽夢 十架 >  
今日は少し出遅れた。
梅雨明けして天気はいい。
出遅れたのは、炊き出しに向かう時間だ。

昼が近い。

この時間になると色々なヒトが増えて中々面倒だ。
止められることはないが、風紀や公安っていう手合と遭遇すると大荷物の一人ということで面倒だったりする。
事情を知ってる人が相手だと楽だが、そうでないとただひたすら面倒だ。

今日も一人で荷車引いていつもの場所を目指す。

「……こう暑いと一人でやるのにも限界を感じそうになる」

梅雨は明けたが、カラッとした陽気かといえばそうでもない。
愚痴の一つも出る。

ご案内:「落第街・スラム廃施設前」に幌川 最中さんが現れました。
幌川 最中 >  
――本日は快晴なり。熱中症には気をつけよう。
――星座占い、本日の一位は蟹座。ラッキーアイテムは茄子の馬。

ありきたりな占いを垂れ流す学生街の液晶ビジョンの横を通り過ぎて。
もっとおすすめするなら、縁起のいいものを選びなさいよと笑って。

欠伸混じりに、昼の落第街を歩く。
風紀委員会の隊服を腰から引っ提げたまま。
片手には、甘ったるいフレーバーの違反部活謹製の葉巻。

ギイ、と何かが軋む音がした。
瞬き数度、視線を音の主へと向ければ、手押される荷車。
ああ、そうか。そういえば、このあたりはそうだった。

一般学生による炊き出しが定期的に行われているという話。
おかげで飢えない二級学生も多いと聞く。
風紀委員などの公の力を借りることはせず、落第街内での自助を行う。

幌川最中という風紀委員は、ありがたいな、と思っていた。
ゆえに。

「よ、そこの。荷物、半分くらい運ぼうか」

気安い調子で片手を挙げてから、十架の背後から声を。

武楽夢 十架 >  
いつもと違ってしまった日だと思ったが、
こうも違ってしまうと何かあるのでは良くも悪くも期待をしていなかったか、
と問われればノー。

しかし、これは想定外。
あまり関わりはないが知らない色ではない赤。

だから、悪いことをしているわけではないが場所が場所。
条件反射で出る声は「げっ」と小さな声。

振り返って。
その赤をツナギのように気軽に扱う男―――幌川 最中に対して一瞬見せた顔は大凡この場で一般生徒が見せるだろうよくある反応だろう。

しかし、あまりそういう反応はもし自分がされたら嫌だとは思うから一瞬顔を見て一呼吸してから表情を和らげ返事する。

「……えっと、まあ、お手伝いしていただけるなら」

まだ大通りから見えるこの場所で見つかったのは運が良かったのか悪かったのか。

「目的の場所は、ここから幾つか道を曲がってのところですから
 そこまで手伝ってもらえれば」

比較的歓楽街よりも異邦人街寄りのその場所。
元々は教会だったと思われる廃施設前。

幌川 最中 >  
あくまで職務質問らしきテイで――
といってもこの島は職を聞いたところでほとんどが学生であるものの、
風紀委員会が落第街にいる生徒に声を掛けるときは声掛けの三文字で済むのだが。

「いつもおつかれさんだな」

その赤色は、手伝うにしては邪魔すぎる。
この場所にとってこの赤色は、明確に「邪魔者」の証。
して、このあたりで慈善活動を行っている学生がそれと一緒に並べば。

「……リバーシブルになったら便利なのになあ、これ」

面倒そうに呟いてから、隊服を丸めて荷車の荷物に放り込む。
あくまで風紀委員としてではなく、一個人としての行いである、と相手にも、
周りにも無言で示す。こういう「気遣い」なしに、風紀委員は落第街を歩けない。

「はいよ」

荷車に積まれていたダンボール箱を二つ重ねて持ち上げる。
口の端に葉巻を咥えたまま、世間話のように。
どうにもこの少年のことが、頭の隅に引っかかっている。どこかで見た。

「キミさあ、なんか昔悪いことして風紀に捕まったりしてない?
 ……これは俺の脳が通常の3倍の速度が老化しているのか、
 もしくはメチャメチャ下手クソなナンパをしているだけかの二択だから。
 もし後者ならナンパだと思って諦めて不審な年上の男に手伝われてほしい」

武楽夢 十架 >  
てっきり、何をしてるんだとかなんだと聞かれると思ったものだから
投げられた言葉もまたこの出会いのように想定外。
しかし、逆に……ああ、いやこれは素直に受け取っておこう。

「……ありがとうございます。
 ま、趣味みたいなもんですから」

赤を脱ぎ捨てる彼に本当に気軽に扱う噂通りの人なんだな、と笑みを浮かべた。
風紀委員会生徒指導課・課長代理、四年の幌川 最中。知ってる『噂』で彼を表すなら『変わり者』。
特徴的であるが故に、分かりやすく誰であるか推測は出来る。
というか、数年もこの学園にいれば何度か顔くらいは見たことがあるだろう。顔と名前が一致させられるかはともかく。

「はは、先輩みたいな風紀もいるんですね
 すみません。野菜ばっかりなんで結構重いかと思いますがお願いします」

風紀だけあって日頃から鍛えているんだろうな、と思う豪快さだ。
最近まじめに鍛えはじめた自分では、ああ気軽にはいかない。

「さて」

―――なんの事でしょう、ととぼけて続けるのは楽であるがこの先輩はとても勘がいいと情報提供をしてくれた二年T氏も言っていた。

「悪いことはしてないと思いますが……
 そうですね、農業系部活動なんで風紀とか各委員会には結構顔を出してると思いますよ」

納品書とか報告書類の提出、トラクターなどの農業機械の使用するので運転免許登録だとか。
真実を言うに限る―――全てとは限らないが。

「あ、そこを曲がったらですね……」

目的地へと到着する。スラムの中でも比較的に明るくにぎやかになっている場所へ。

幌川 最中 >  
「……あ、すまん一個だけ。
 一般学生がこんなところで何してるんだ?
 落第街なんて君のような普通の学生が近寄るような場所じゃあないぞ。
 オッケ。これやっとかないと仕事してましたって言えなくなるから。悪いね」

おおよそ二行くらいを一息で言い切ってから、ワハハと笑う。
あくまで見回りという割り当てられた仕事が嫌で暇を潰そうとしただけなのを、
少しも隠す気もなく頭の上にダンボールを置いて、左右に揺れながら歩く。

「悪いことしてないならそれでいいや。じゃあ俺のナンパね。
 俺、幌川。4年の……6回目? 大体そんな感じ。
 まあ、こっちまで出張るような風紀委員はみんな血の気が多いからなァ。
 もし不当な扱いを受けた場合は申し立てれば謝ってはもらえるだろうから」

これを、このあたりで活動している彼に言うことは。
「このあたりで活動している」誰もに言っていることと概ね同じだ。
落第街における過剰な活動について、懐疑的な風紀委員もいるというのを暗に伝えて。
あくまで幌川最中という男のスタンスをわかりやすく示した。

「――こりゃ予想よりも多かった。
 なるほどこれだけ野菜が必要になるわけだ。
 ……人手が邪魔じゃないってんなら、手伝わせてもらっても?」

興味深そうに目を細めてから、十架に視線を向ける人々を見た。
「余所者」の姿に訝しげな視線を向ける者も少なくないが、
恐らく見慣れた十架と同行しているのであれば、という妥協でもって見なかった振りをされた。

ありがたい。「見ない振り」をしてもらわないと、
自分も「見ない振り」をしなければいけない街を覗き見ることはできない。

深淵を覗くために深淵と目を合わせるわけにはいかない。
深淵が別の所を見ているうちに、深淵の居ぬ間に深淵のつまみぐい、一つ。

武楽夢 十架 >  
ああ、なんて今さらな。
狙ってやってるとしたら中々の曲者だが、どうにもそういう感じはしない。

「ナンパ、俺として一般学生の不審な行動を監視とされない辺り
 こういう行動に変な絡みが今後もなさそうで助かりますよ、幌川先輩」

警戒はするに越したことはないと考えるが、
警戒をしないのであれば相手は風紀だ知り合っておくのは今においてベストか。

「先輩のことは長年風紀にいる人って有名ですからなんとなく察してました。
 俺は農業学科三年、武楽夢 十架です。
 あ、ここでは『ヤサイノヒト』で通ってます」

 改めてどうぞよろしく、と笑顔で悪手を求めて手を差し出した。

「何時もそれなりに多いは多いですけど、今日はそうですね
 少し初見が多いですね……最近の『活動』で暮らしてる人の生活圏が少し変わったのかな」

――事が起きれば、ヒトは流れる。
風紀や公安にとって、処罰せねばならないとなる大きな行動を起こす組織の支配する地域、その庇護下で暮らすヒトもいる。
そういったヒトは、支配者が居なくなれば別の支配者が暴力やなにか面倒事を引き連れて来る前に逃げる。
ここは偶然にもこの炊き出しを都合が良いとする複数の小さな違反部活と組織が作り出した空白地帯。
この炊き出しによって得られている仮初の楽園とも言える場所だ―――故に、ヒトが流れ着くことが多い。

「手助けは非常に助かりますが、ちょっと時間かかりそうですけど大丈夫ですか?
 男と二人で共同作業なんて」

と笑って茶化した。

周囲には幌川の事を知るものもいるだろうし、逆に幌川―――風紀委員だとを知っているが見逃している『アイテ』もいるだろう。
ここは争う場所ではないと相手も幌川の対応に合わせることだろう。

幌川 最中 >  
「『ヤサイノヒト』」

重かったダンボールを地面に置けば、ちらりと彩り鮮やかな野菜が覗く。
なるほど、たしかに彼は「ヤサイノヒト」であることだ。
握手の前に少しだけ目を丸くしてから、へらりと軽薄な笑いを浮かべて握り返す。
ごつごつと角張った男の手が、十架の手を握った。

「やることっつったって料理するくらいだろ?
 この間に違反部活……食品系部活に風紀の手が入ったって聞いたけども、
 こんだけ新鮮で出来の良い野菜に文句つけるほうが難しかろうよ。
 ナンパしながらご相伴に預かれたらそっちのほうが俺もありがたいからなあ」

度量の広い受け皿だ、と胸中で少しばかり思う。
落第街の住民を風紀委員会に、というどこかの黒猫の活動よりも、
一般的な風紀・公安委員会の引き上げ活動よりも、どこか自然に見える。
「変化」がなさそうに見えるからだろうか。「現状維持」を選んでいるように見えるからだろうか。
文字なき法。誰が決めたわけでもない、暗黙の了解。いい場だな、と小さく呟いて笑う。

「どうせ働きたくな……暇だから。
 そう、仕事の一環。仕事の。そういうことにしといてくれる? くれるね。
 おおよそ今の荷運びが俺を使って『どうも』を言える最低ラインだけど、気楽に言ってくれ」

ある風紀委員がいた。
その風紀委員は、肩で風を切って歩くような、凛とした男だった。
ある事件で発砲許可を待たずに対峙していた相手を射殺してしまった男がいた。
その男はいっときから姿を消して、どうやら落第街に居場所を移したということを風の噂で耳にした。
「こういう」場に、「そういう」委員はいたのかもしれないな、と、ほんの少しだけ思いを馳せる。