2020/07/14 のログ
ご案内:「大時計塔」にソフィア=リベルタスさんが現れました。
ご案内:「大時計塔」に群千鳥 睡蓮さんが現れました。
ソフィア=リベルタス > 時間は丑三つ時、もう夜も更ける頃合い。
教師と名乗る『化け物』ソフィア=リベルタスは大時計塔の屋根の上に膝を抱えて座り込んでいる。
夜、それは町が静かになる時間。
歓楽街に行けば明かりが、落第街にいけば人が動きもするのだが。
今はそういう気分ではなかった。

存在がぼやけている、相変わらずの矛盾した存在の自転車操業。
不安定な自分の存在。 誰かに確認されることで初めてそこに『存在する』という定義が成される彼女にとって、この時間はとても永く感じる。

自分という存在を消したくはないが、自分という存在自体が、存在を塗り替えて生きるモノ。
その矛盾は致命的だ。
今は、『教師』という概念にすがって姿を保っている。
先生でいられないソフィアは、とても脆かった。

輪郭がぶれていく。

「……。」

自分の存在が拡散して消えてしまうような恐怖に、『化け物』は膝を抱えて震えている。
猫のような外見ではなく、人間の少女としての『ソフィア』の姿がそこに、揺らめいていた。

群千鳥 睡蓮 >  
孤月というにはやや膨らんだ輪郭が、まなざしとともに柔らかな光をなげかける。夜。

「先生?」

落としたのは、小さい影の蹲るさまを見かけたからだった。
真夜中。考査も後半にさしかかるなか、
プロフィトロールでは誤魔化しきれない煮詰まりの解消のために、
ふと散歩に出たのだ。そして時計塔の付近を歩いていると、気配を感じた。

だから睡蓮は必然的にそこに降り立った。彼女の背後に。音もなく。羽毛のように。

「……なにやってるの、こんな時間に。
 職員会議で絞られたりなんかしましたー?」

ふたりで話すのは、久々だなあ。と、思う。出会った時以来か。
確か、試験を免除するとかいうとんでもないことをやってのけたと聞いている。
その六識が「認」めた存在を、意志の光がそこに固着せんと促した。
無自覚に。しかし第六の意の識は確かにそこに存在する。

ソフィア=リベルタス > 「んぉぁっ!? あぁ……なんだ睡蓮か、脅かさないでおくれよ。
 気配を消して忍び寄ってくるなんて、怖いじゃないか。」

随分なオーバーアクションで飛び上がる。危うく滑って転げ落ちるところだった体勢を、腕の力のみで屋根に捕まり難を逃れた。

群千鳥 睡蓮。 『知』に溺れ、『識』を求めてやまない少女。
いつか彼女の孤独や、虚無は満たされるのだろうか。
ソフィアが目をかけている生徒の一人だった。

「いや、別に。 職員会議で怒られる事は無いよ、私を叱れる教師が居るのならそれは大したもんだ。
 ぜひ論理的に私の考えを覆してほしいね。
 ん、私はちょっとこの夜の時間って苦手でね。 意外だろ?」

ちょっと苦笑いをして、その場に座りなおす。
眼下の街を覗いて、だれも居ない空白の時間を再認識する。
不思議と、後ろにいる存在のおかげか、『ソフィア』としての存在は安定し始めていた。
が、『化け物』としてのソフィアの象徴、獣人のような特徴は見当たらない。

黄金色に輝く瞳だけが闇に揺らめいて、睡蓮を振り返った。

群千鳥 睡蓮 > 「あー、ごめんなさい。……でも、ぼーっとしてたでしょ。
 ふつーに近づいてきましたよ、あたし」

落ちないように、腕を掴んで、そっと支えた。
軽い――気がする。少女の体くらい、持ち上げるのはわけないけれども。
彼女という存在がそういうものなのか。あるいは――とりあえず、屋根に腰かけた。
なにか飲み物もってくればよかったな。涼しい夜とはいえ、風がないときは少し蒸す。

「口喧嘩つよいタイプ、ですか。 
 ――いろんな先生がいる、んですってね。
 あたし、座学とか異能関係のことしかやってないからな。
 ……会えてない先生、大勢いるんですよね」

背の高い、女子から黄色い声を聞くあの先生とか、あまり絡まない。
この島に来て一ヶ月あまり、自分が知り合えただれかはあまりに少なく。
その尊い『だれか』のひとりの物言いに、意外そうに視線を送った。

「ソフィア先生とも、あの路地に行かなかったら――あれ、そうなの?
 草木も眠るこのド深夜に。 おばけが恐い……だと冗談みたいになりますけど。
 異能――じゃない。あなたという……『存在』のおはなし?」

両手を腰の横につけて足を伸ばしつつ。

「闇にとけていってしまいそう、ですか?」

ソフィア=リベルタス > 「普通だった? 足音消してたような今気がしたんだけど、癖だったりする?
 ふふ、まぁいいさ。 君ならいつ来たってかまわないとも。 そういう約束だからね。」

腕を掴れる、知り合いに助けられるというのも存外悪くはない。
今まで一人で生きてきたソフィアにとって、この『常世島』という環境はいつだって新鮮だった。
自分に関わってくるモノがあまりにも多い。

「口喧嘩……が強いとは少し違うかな。 彼らの価値観に疑問を促し、自分が本当に正しいのかを考えさせる。
 彼らに学びの機会を与えているに過ぎない。 ほら、そう聞くと喧嘩じゃないだろう?」

クスクスと微笑む顔には力がない。
いつもの、だれもを煙に巻くような陽気な『先生』の姿はそこにはなかった。
そこにいるのは、大人びたセリフを吐く小さな少女にしか見えず。

「いろんな人間に逢いたまえよ、睡蓮。 それが吐き気の催すような邪悪だったとしても、それもまた君の糧となるだろう。
 四年という歳月は止まってはくれない。」

人間にとっての時間というものは、存外に短いものだ。
いつか彼女もここを去っていく、自分を残して。

「あはは……、別にお化けなんて怖くないよ。 あぁ、君には言ってないんだっけ?
 うん、私の本当の異能は、死んだモノを操る死霊術の延長上。
 なんなら今だって彼らはそこら中にいる。 私は彼らと交渉することで、サイコキネシスの様な真似を手伝ってもらっているだけに過ぎない。」

無論、異能というからにはそれだけの力というわけでもないのだが……この少女の前で、その力を使うつもりは欠片もなかった。
彼女が悲しむかもしれないから。

「んまぁ……そうだね、あぁ。 僕は……この時間が怖いんだ。
 『教師』としてのソフィアが居なくなるこの時間が。
 とても恐ろしい。 うん、どうしてそう思うんだい? 睡蓮。」

生徒に、答えを出すことを求める様に、教師らしく問いを投げかける。
それは自分への問いかけなのかもしれないが。

群千鳥 睡蓮 >  
「ここに来るまでは――普通に。
 普段から足音消して歩くとか、逆に目立つでしょ。
 ――体重、軽いので……音しなかっただけです。
 ……ふふ、そういうのを屁理屈って言うのは知ってますけど」

苦笑する。弁舌が立つほうだ。
じぶんは口喧嘩が強いほうじゃない。色々と真っ直ぐに過ぎる。
知恵者、というのはこう言う。猫の巧と年の功に真っ向勝負は覚悟が要る。
ゆえに隣り合って座る。尊敬する教師と相争う理由はどこにもない。
論戦をできるほどに、魔術の適性と造詣がないのが少し寂しい。
――こんど、すきな本のことをきこう。

「あなたの隣にいるやつが、一番の邪悪です――って言ったら?
 四年か。ほんとうに早いですよ。時間がすぐ流れてく。学びたいこともいっぱい。
 夏休みもねー。実家帰ったり、色々しなきゃいけないこと多くて、休めるのかなあ、コレ」

ここに来る前のほうが、もっと多くのことをしていた気がするのに。
肩を竦めて笑う様は、ころころと少女のようにはずんで…

「ネクロマンシー……。
 ……いかにも、ですね。異能であり、黒魔術の奥義……真髄のひとついえる。
 ……えっ、てことはあれ、カップとか浮かせて接客してたのソレなんですか?」

興味深げに聞いて、手帳を開いてみたはいいものの。
それを閉じて思案する羽目になる。唇に指を滑らせる。

「夜の黒猫は、こちらをみてくれていないと、時々みうしなってしまうから、かな……?
 印象論、ですけどね。仕事をしてなきゃつらいとは、なんとも子供にはわかりづらい話だけど……
 ……ん、今は、どーなの? あたしが『先生』を認識してるから、大丈夫?」

ソフィア=リベルタス > 「ふふ、本当に「屁理屈」だ。 でも、君がそういう冗談を言うようになったのは、実に好感触だよ。」

節々に少女の成長が見て取れる。 肉体的なそれではなくて、きっと精神的な余裕ができたのではないかと推測する。
ひょっとしたら、自分や仲間の前でしか見せない側面なのかもしれないが、その一縷にでもなれたのならばそれは教師として喜ぶべきなのだろう。

「……君は邪悪ではないよ、過去の行いがそう見せることもあるのかもしれないが。
 君はひどく純粋なだけだ。 白く、鋭くて、それが恐ろしいものにはそう見えるだけに過ぎない。
 僕にとってみれば、寂しがりの唯の女の子だ。」

そんなことを言うものではないよ、と髪を優しく撫でる。
この少女は少々、自嘲が過ぎる。

だが、未来のことを楽しげに語る彼女に、あぁ、ソフィアは安心する。

「良かったよ睡蓮。 君は、ちゃんと未来に希望を持てているんだね。」

以前の彼女なら、きっとその言葉を語る表情は、暗く、ナイフの様に鋭かったに違いない。
未来を、どんな形であれ笑って語れる、それは「生」を楽しんでいることの証だ。
退屈な、「知ったかぶり」の生徒はいつの間にやら居なくなっていた様だ。

異能への質問は、「さぁ、どうだろうね。」とはぐらかしておく。
彼女の異能にすべてを悟られるわけにも行かない。

「仕事をしていないと辛い……ね。
 当たらずとも遠からず。黒猫は、うん、確かに夜には認識しずらいね。」

くふふ、と少しだけ笑った。 実際、今の自分の黒猫は闇に消えてしまった。

「……恐ろしいことに変わりはないさ。 君が居る、それは確かに今の僕を安定させるけれど……。
 睡蓮、僕はね。 きっと四年後には消えてるだろう。」

おそらく、と付け加えて、彼女は告げた。
それがきっと自分の寿命だろうと。

群千鳥 睡蓮 > 「あんたがそう視てくれているから、あたしがそう在れている。
 ……おなじだよ。先生と。あたしは誰かのなにかになりたい。
 どこにでもいるような、ふつうの――あんたの生徒。
 に、なれていれば……いいんだけどね……寂しがりなのかな?」

からかわれている気がするけど、大人の含蓄は素直に受け取っておく。
彼女から視た自分という存在。彼女が認識している自分――彼女のなかの自分。『識』。
そこに映るものに、みずからを目指す途の標がある。

「あんたが望む『そう在りたい自分』が、教師であるソフィア=リベルタスであるなら――
 オフの時間がつらい、っていうのは論理的にも理解しやすいところではありますね。
 ……じゃあ、オフの時にも『だれかのなにか』で在れるようにすればいいんじゃないですか?
 こわがって、ひとりになるよりは。 さみしいなら、だれかと一緒に居たいもんでしょ」

あたしだって、あなたが言うにはそうなんじゃないんですか、と。
ざっくりした解決法を、見えてる情報から拾うのだ。
ぽつりと告げられた言葉には、顔をそちらに向けてから、そうなんですか、と。
寂しそうに目を細めて、夜空を見上げた。

「いまのソフィア先生が消えてしまって。
 四年後のソフィア先生がそこにいる。
 ……とか、そういう話じゃなくて、ですか?」

ソフィア=リベルタス > 「誰かの何か……か。 確かにそれは一つの解決方法だ、依存という形ではあるけれど。 いや、教師という立場に依存しているのだから変わりは無いのかもしれないね。」

確かにそれはその通り、と頷きながらも。

「それはもう、教師としてのソフィアではないからね。 誰かにとっての理想的なソフィアかもしれない。
 君がいつか望んだ、ソフィア先生。 ではなくなってしまうだろう。」

つまり依存とはそういうことなのだ。 相手の都合の良い解釈に自分の存在を寄せて『化け』ている。
それが『ソフィア』という存在なのだから。

「……四年間、『私』が此処の教師になって、そして君たちが卒業するまでの年月。
 この数か月、僕という存在は、君達生徒に向かって『ソフィア=リベルタス』という教師としての存在を植え付けた。
 あぁ、別にこれは異能とかそういう話じゃない、認識としての話だ。」

洗脳まがいのことはしてないぞ? と慌てて注釈する。
そんなことしたくもない。

「……教師っていうのはね、時間制限があるのさ、睡蓮。
 卒業、って、そういうことだろ?」

それは、先生が先生ではなくなって、生徒が生徒ではなくなる。
それぞれの門出を表す言葉。
ソフィアが、誰かの先生ではなくなる日。

群千鳥 睡蓮 > 「ん、ん……?」

少し話が複雑化してきた。唇を指でとんとん、と叩く。
考えている時のクセだ。誰かのものがうつったのか、自分独自のものなのか。

「いや――逆じゃないですか? 先生、って、いつまでもそこにいるでしょ。
 だってあたし、卒業したって先生のこと、先生だって思ったままだと思うよ?
 ああそりゃ……転勤とかあるか……いやでも怪異とかがここの外の学校に行くかな」

時間制限があるのは、むしろ学生のほうだ。
指を立てて、「生徒」は、そう考える。

「あたし、中学行ってないんで――あれなんですけど……小学校の時。
 いい先生もいましたし、悪い先生もいた。
 病院で、診てくれてたひとはいい先生だったな、イケメンで――これはいいか。
 まあ嫌な先生のことは、思い出したくもないけど、あたしがそいつの生徒だったのも事実で。
 いい先生とは、まあ……、このまえ、久々にメールとか、しましたし」

率直な疑問だったのだ。思い立ったことを告げていく。
賢しらに、彼女を測ることはしない。概念的な問題であれば。

「あなたはあたしを導いてくれた恩師であって、
 その恩があるからあたしが卒業できるなら、
 『生徒』……ちがうな。『教え子』と『教師』って続いてくもの……じゃないんですか?
 そりゃ近くにはいられなくなっちゃうでしょうけど、新しい生徒さんも入学してくるし。
 …………ソフィア先生が、『良い先生』でいるなら、なおさらなんじゃ……?」

どうなんですか、と彼女に、まっすぐな疑問をぶつける。
できの悪い生徒は、そうして思う様をみつめた。
『先生』を、認識する。まっすぐに、信頼と敬意の瞳。
――識。それが世界。自分が認識するから、世界はそう在る。
ゆえに、見つめれば、そこに存在は成り立つ――群千鳥睡蓮は、すなわち、そういう『存在』である。

ソフィア=リベルタス > 「そうだね、『良い先生』とはそういうものだ。
 君たちが卒業し、たとえ島の外に行ったとしても、『忘れる』事は無いだろう。
 うん、何かの拍子に思い出したり、そういうこともあるだろう。」

それは事実で、そうなれたのならば至上の喜びだ。 ソフィアは笑って頷く。

「睡蓮、君は今、思い出そうとして、思い出したんじゃないか?
 その、小学生の先生や、例えば友達、例えば、殺した相手の顔。」

別に、確信があるわけじゃない。 彼女が自分を邪悪と呼びだすのなら、きっと、この学園に来る異能の子供たちは少なからず、そういったトラウマや過去を抱えている。

「その全てを、君は明確に、はっきりと、今すぐに思い出せるかな?
 あぁ、勘違いしないでほしい、意地悪で言ってるんじゃない。
 あくまでも人間の記憶能力の話だ。 そこまでできるのなら、絶対記憶能力と言ってもいいだろうからね。」

時間制限というのはつまるところ。

「君が『教え子』で私が『恩師』でいられるのは、君がそう思いだしたときだけなんだよ。 睡蓮。
 人間にとってそれは、記憶であって『いつも』そこに在るものじゃないんだ。
 思い出、そう、私は思い出になる。 君たちにとって、『過去』になるんだ。」

ここまで言えば、この聡明な少女なら或いは答えにたどり着くだろうか。
『シュレディンガー』は、認識したその時にしか、現れない。