2020/08/01 のログ
ご案内:「常世港」に小桜 白さんが現れました。
小桜 白 >  
静かな港。
お昼は今やごちゃごちゃしているところ。
積荷としてこの島に発着したところ。

そのときと、いま。
どう違う。


「たーまや」


ぽん。

遠景の夜空に小さく花火が咲いた。
一緒にお祭りしてた友達が、きになる男の子を見つけちゃって。
気を利かせて、ひとりの帰り道。


「かーぎや」


ぽん。

夜の港に、浴衣の陰影。
白い浴衣に咲いた、あざみの花々。

ご案内:「常世港」に神代理央さんが現れました。
神代理央 >  
かの特別顧問が訪れた日の夜。
悩みと煩悶を抱えながら黙々と事務処理に励んでいた精神が、体力より先に根を上げた。
気晴らしと。もしかしたら、恋人とばったり遭遇する事が出来ないか、と。あてどなく走らせた愛車の行先。

黒塗りの高級車が、アスファルトを踏み付けて停車したのは常世港。夏季休暇の今、此処から出ていく人の方が多い場所。
結局、居住区の端まで来てしまったな、と思いながら人気の無い港の車内。ぼんやりと外を眺めていれば――

「……花火、ああ。そうか。夏祭り、か」

今回の一件が無ければ、今頃は恋人と夏祭りでも楽しんでいたのだろうか、と思考が煙る。
煙草でも、とエンジンをかけたまま車から降り立てば――ヘッドライトの先に、浮かび上がる浴衣姿。

「……誰かと思えば、小桜、だったか。暗くなってから、人気の無い所をうろつくのは余り感心しないな?」

数日前、カフェで話をした少女。
白い浴衣姿で夜空を見つめる少女。
取り出しかけた煙草を懐に再度仕舞いこみながら、声をかけるだろうか。

小桜 白 >  
「神代くん」


意外な人に会った。
ゆっくり振り向いて、微笑みを向ける。
白詰草の団扇を仰ぐ。


「フラれちゃって」


苦笑い。お祭り帰りの旨を伝えた。


「クルマ、乗れるんだね。ドライブ?」

「大丈夫なの、出歩いてて………?」


桐下駄を、からり、ころりと鳴らして。
近づいて、意味もなく声を潜めながら問いかけた。
微笑んだまま。

今や時の人。殺し屋に狙われる少年。
恋人も一緒になんて、映画のあらすじの様。

神代理央 >  
「…それは御愁傷様、とでも言っておこうか。まあ、此処からでも花火は良く見える。
人が少ない分、此処の方が快適かも知れないな」

苦笑いには苦笑い。
お祭り帰りだと告げる彼女には、慰めと軽口の入り混じった様な言葉を返すだろう。

「ドライブ…ああ、まあ。そんなところだな」

「何、あの程度。私の異能を以てすれば造作もない。異能者を、私を相手取るなら、軍隊でも引っ張り出して貰わねばな」

と、冗談めかして笑いながら桐下駄が発する木の音に耳を傾ける。
からり、ころり。夏を感じさせるその音に、小さく溜息を吐き出した。
水着の次は、浴衣や桐下駄も買ってやりたかった――と、燻る思考の儘視線は遠くで打ちあがる花火へと。

小桜 白 >  
「すごくたくさん、ひとがいたよ………たのしそうで」

「みんな、たのしそうだったな」

「わたあめも美味しかった」


どちらがという話にはあえて言葉を濁した。

自信に満ち溢れた言葉。
花火の遠い灯りが照らす横顔を見る。


「大切なひと」


団扇を、ひら、ひら。
熱帯夜の中で涼風を求める。


「………のことを、考えてますって顔してる」

「当たってる?」


少し悪戯な笑顔を向けた。


「アイスのはね、頼めなかったよ」

神代理央 >  
「…そうか。皆、楽しそうだったか」

「夏祭りは、今だけのものだ。夏は毎年訪れるが、今年の夏は一度しか訪れない。だから小桜も、目一杯夏季休暇を楽しむと良い」

「……風紀委員に目を付けられない程度にな」

最後の言葉は、僅かな苦笑いと共に。
少女の夏が充実したものになるよう、言葉をかけるだろうか。

そうして、ぼんやりと花火に視線を向けていれば、横から投げかけられた声にゆるり、と首を動かす。
己と背丈の変わらぬ少女が呟いた言葉に、困った様な笑みを浮かべるだろうか。

「……そうだな。ああ、そうだよ。その通りだ」

「恋人と、夏祭りに行ければな、などと。浮かれた事を考えていた」

「大当たりだ。残念ながら、景品は何も無いがね」

悪戯っ子の様に笑う彼女に、訥々と告げて。

「…そうか。まあ、ファリゼーアは家でも簡単に作れる。
部屋を冷房で思い切り冷やして、贅沢に飲んでも良かろう」

遠くで、また花火が打ちあがる。

小桜 白 >  
横目でちらりと伺った。

風紀委員の、きみ。

カフェテラスのあのときよりも、どこか、弱ったような姿。


「恋人さんは………?」


たしか、水無月沙羅さん。
同じ風紀委員さん。

きっと、色々あったカップル。色々頑張ってきた男女。
まるで遠い夢を見ているような彼の物言いにすこしだけ、
どうしたのかな、なんて。

微笑みのまま。


「おさけ、ラムだっけ………買えないよ」

「そうなんだよね、クーラーついてるの」

「なんか買わなきゃいけないなって思って、これ買ったんだ」


ひら、ひら。

少し顔を仰いであげる。


「いまの」

「きみの、『願い』は、それ?」

神代理央 >  
「……喧嘩中でな。ちょっとだけ、距離を置いている」

厳密には違う、のだが。
それでも、彼女が出ていった理由を作ったのは間違いなく自分なのだから。
困った様な笑みの儘、緩く首を振ってみせた。

「…あー、そうか。そうだな。確かに、未成年では酒は買えないか」

「夏祭りの思い出、というものか。良いじゃないか、風情があって」

少女が緩く此方を仰ぐ。
柔らかな風に、夏夜の熱気が籠る皮膚が撫でられていく。

「『願い』などという大したものじゃないさ」

「唯の感想。そうだったらいいな、とでも言うべきもの」

「そんな些細な事を『願い』などとは言えないよ」

小桜 白 >  
「あー」


苦笑い。思ったほか素直に教えてくれた。

でも、こんな状況で喧嘩なんて。
きっと、だから教えてくれてる。
弱っているのかな………視線をちらりと見せる。
慰めるのは彼女さんのお仕事だ。


「思い出………思い出か」

「思い出って、色あせちゃうんだよね」

「ずっと、そこにいないと………」


ひらり。自分の顔を仰ぐ。
前髪がふわ、と仰がれた。


「仲直り、できたらいいね」


微笑みを向けて。


「じゃあ、きみの『願い』は?」

「『ぜんぶ棄てて、大切なひとと逃げたい』」

「みたいなのかと思ってた」

神代理央 >  
「永遠などあり得ない。永劫など在りはしない。神でさえ何時かは死に至るのだから、人間の思い出なんて、色あせ、消えていくのが寧ろ自然な事だろう」

此の世に永遠に続くものなど在りはしない、と。
再び夜空へ視線を移して、呟くように。

「……そうだな。何れはきちんと。話をして"仲直り"したいものだ」

その機会が果たして訪れるのかどうか。
見つめる夜空には、未だ花火は上がらない。

「…私の願いは『人々が幸せでありますように』」

「此れだけ。これだけだ」

「それだけ、だよ」

嘗て、短冊に願った言葉。それは間違いなく己の理想。
それを叶える手段を迷っているだけ。理想は変わらない。
『願い』は、ずっと同じもの。

小桜 白 >  
夜風は生ぬるい。
時間は緩やかに。

時は止まらないまま。

時の歩みが、人の歩みと同じ歩調とは、限らないだけ。


「だいじょうぶだよ」


根拠はないけれど。
安心させようとするような柔らかい声音で。
花火を見上げたまま語りかける。


「いまちょっと、自信なさそうだったけど?」


自分に言い聞かせるような物言いに聞こえた。
それだけだと暗示するように。
視線は花火。いまもまた、ぽん、と遠い空に咲いて散る。

ひらり。団扇で仰ぐ。涼しい。


「立派な『願い』だね………そうだとしたら」

「さっきいったお祭りみたいに、みんなが笑ってるみたいな………?」

神代理央 >  
駆け抜ける者。歩く者。立ち止まる者。
時間は等しく過ぎるが平等ではない。
1秒を惜しんで生き急ぐ者もいれば、怠惰な時間を堕落して過ごす者もいる。
等しく与えられているだけで、その価値は、平等ではない。

「……そうだな。いやはや、皆を守る風紀委員が慰められるなど、みっともない様を見せてしまったな」

と、彼女を横目で眺めながらちょっとだけ苦笑い。
その苦笑は声色となって、彼女にも伝わるだろうか。

「……そんな事は無いさ。その『願い』は、必ず叶えてみせるとも」

こんな少女にまで己の弱さが伝わる程、参っていただろうか。
深く吐息を吐き出すと、今度は先程よりもはっきりとした口調で、願いを叶えるのだと告げる。

「そうだ。皆が笑っている世界。平和で、穏やかな世界」

「それが幸せだ。"日常"を何の不安もなく過ごせる世界」

「それが、私の望みだ」

遠くで打ち上る花火が、二人を照らす。
吹き抜ける夜風には潮の香りが混じっている。

小桜 白 >  
「腕章をつけたらつよくなれる」

「っていうわけじゃないから………良いんじゃない?」


もともと強い人間には見えてない、きみ。
必死に強くあろうとしているみたい。
おせっかいや心配に見えない程度に、団扇を揺らす。


「でも、いまは………」

「きみがみんなの笑顔を曇らせてしまってる」


団扇が止まった。

あの動画のせいだ。
神代理央という存在が引き金を引く姿。怒りの感情。

守護者をただの人間に堕す悪意の風聞。
溜息がこぼれる。だれが、なんのために………?


「つらそうだった、あの動画のきみは」

「いまも………そう言ってなきゃ、立ってられないって」

「言っているみたい………おおきい『願い』だから」


顔を向けた。
微笑みのまま。


「願いに、やっぱり格差はあるよ」

「神妻さんだけじゃない、きみをみてると、本当にそう思う」

神代理央 >  
「……つけるだけで強くなれるなら、どれだけ良かった事か」

私服姿故、身に着けていない風紀の腕章。
己の恋人が置いていった腕章。
立場と権威を示すソレも、唯の布切れでしかない。

「――…そうだな。ああ、そうだ。
私が、皆を不安にさせている。風紀委員への信頼を、貶めている」

凪ぐ風が止まる。
呟く己の言葉にも、無意識に力が籠る。
己の失態を、顔見知り程度の少女ですら知っている。
改めて突き付けられる事実に、僅かに溜息を一つ。

「…あの動画内で、多少なりとも精神的に不安定だった事は、まあ、認めよう。小桜の様な一般生徒に言うには、些か言い訳めいてはいるが」

「だが、辛くはない。立っていられなくもない。私の『願い』は、私が叶えなければならないのだから」

「だから、私は平気だよ」

此方に顔を向ける少女。
視線を合わせる様に、此方も顔を向けて視線を合わせようか。
変わらず微笑んだ儘の彼女に、静かに視線を向けた儘。

「……どうかな。私はそんな事は無いと、今でも思うがね」

「人の幸せも、不幸も。全ては相対的なものだ。どんな些細な事であれ、本人にとっては世界が揺らぐ程の出来事だったのかもしれない」

「だから『願い』の格差など無いさ。皆『願い』を叶えて――幸せに、なりたいんだから」

小桜 白 >  
「なんていうか、さ」


少しだけ声のトーンが落ちる。

彼を励まそうとしていたというわけじゃないけど。
楽しいおはなしには少し塞いだ声。


「わたしの『願い』って………つい最近できたことでさ」


神妻円歌との縁故によって。
トゥルーバイツに誘われるような欠落。
真理を求める動機。

またひとつ花火が咲いて、散った。
咲いて、散る。


「それなのに、もう」

「『願う』ことに………つかれちゃってるから」


肩を落とした。

その先に"幸せ"があるらしいが、手を伸ばし続けるのは大変だ。


「たいした『願い』でもなくて」

「わたし自身、たいしたことないやつだって言われてるみたい」

「『願い』に格差がないなら、そういうことなんだろうけど」


花火のように散るのが正しいのか。
神代理央の生き方が正しいのかはわからない。

ただひどく、疲れた彼に聞かせるには疲弊した声を溜息に混じらせる。

微笑みの、ままで。

神代理央 >  
少女の独白。
今迄ずっと、微笑みながら話続けていた少女の声色が、僅かに"落ちる"
少女に向ける視線は変わらぬ儘。
唯、少女の言葉を受け入れ続ける。

「『願う』ことに疲れた、か。
諦められる訳でもなく。しかし命を賭ける程の情熱を持つ訳でも無く。ただ抱え込むだけの『願い』か」

「それはそうだろうさ。抱え込むだけなら疲れもする。手放す事も出来ず、成就も出来ず、お前の中でただ腐りゆくだけの『願い』であるなら、疲れもするだろうさ」

己の紅の瞳が、静かに少女を見つめ、訥々と言葉は紡がれる。
その視線は、再度花火が打ち上る夜空へと。

「そも、『願い』の大小で自らの存在価値を図ろうとするのがどうかと思うがね」

「『夢』『理想』『願い』様々な言葉に置き換えられる事が出来るだろうが、大層なモノを持っている者の方が稀有だろう」

視線は、夜空に向けた儘。

「疲れたのなら、願いを手放せばいい。手放せぬなら、思い出にすればいい。
好きにしろ。選択するのはお前自身だ」

疲れた様に微笑む彼女を横目で眺めながら、結局最後は選択を彼女に放り投げる。
慰めはしない。気遣いもしない。
最後に決めるのは、少女自身なのだから。

小桜 白 >  
「『願い』を、手放したら」


息を吸って。
吐いた。

視線が、少し危うく。
周囲を見渡す。
そして再び、神代理央に。


「そうだね………楽になるんだろうなあ」


疲弊した笑い。
いっそ、海に投げ込んでしまうこともできるだろう。
後ろ手に団扇を持って、一歩、そして二歩。

からり、ころり。

港の間際に近づいていく。


「もう忘れちゃおうかって」

「考えるんだけど、それもだめでね」


くるり。

身体ごとふりむいた。
遠くに散る花火を背に。
微笑みのままで。

小桜 白 >  
 
 
「きみに、ころされた」
 
 
 

小桜 白 >  
「あの子が………」


微笑みのままで。

溜息のように。


「ほんとうに………どこにもいなくなっちゃう気がして」

神代理央 >  
時が、止まった様な気がした。
今、この少女は己に何と告げたのか。
殺した、と。己が殺したと。微笑んで。微笑んで、告げる。

「な、にを。私が一体、お前の、何を……」

超然としていた余裕も。態度も。
見る間に崩れ去り、茫然と少女を眺めるばかり。

「……いや、違う。そうか。殺したのだろうな。
お前は、不法入島者として保護された。落第街で、保護、された。
であれば、ああ殺したのだろうさ。名も知らぬ、お前の誰かを」

花火の煌きと、漆黒の海を背景に己に微笑む少女。
まるで、海から現れた亡霊の様に、今の己には映る。

「……それで、どうするのかね。
私を殺すか?詰るか?責め立てるか?」

「お前の『願い』とやらが私に関わる事は知らぬが――私が敵だと言うのなら、言いたい事くらいは聞いてやっても良い」

「それとも、それすらも疲れたと投げ出すか?私は、何方でも構わない」

大地と空と海の境界に立つ様な少女を、静かに見つめながら。
その真意を尋ねるかの様に、問い掛けた。

小桜 白 >  
「――――――――、」


あの日。


「――――――――。」


あの場所で。


「『人々の幸せ』の為に………」

「なんだっけ………」


そう。


「落第街の住民は学園の認知していない存在だから」

「そもそも書類上は其処に存在しない」

「登録されていない連中は」


覚えている。

覚えていた。

ああ、そうなんだ。って。


「生きようと死のうと島の人口統計に変化は無い………から」


微笑みは崩れなかった。


「神代くんは」

「憎まれたほうが、楽?」